と言うより毎晩見ている、と言うのが正しい。
紅い海の上、綾波がいる。
だが、瞬きをする間に消える。
「…あんたのこと…あたし大っ嫌い……」
アスカが倒れたまま苦しそうに言う。
「大っ嫌いだけど…ずっと…側に居なさいよ…」
アスカが死んだのはその翌朝だった。
「アスカ…」
死んだアスカを砂浜に埋める。
唯一紅くなっていない、白い砂浜。
シンジの心はその日一時的に破壊された。
見兼ねたリリスはシンジが立ち直れるように、トラウマを”そんな事があった”程度に変えようと、励ましの言葉をかけた。その甲斐あって、少しばかりトラウマは軽減された。
だが、シンジの目は死んだままだった。
特務機関NERV、そのカフェテリア。
「紹介するわ。惣流・アスカ・ラングレィさん。今日から弐号機で参戦してくれます。」
「よろしく!」
「よろしく…」
綾波は何も返さず黙っている。
「第六使徒との戦いぶり、録画でみせてもらったわ。流石噂に聞くセカンドチルドレンね。」
前史とは違い、ミサトさんもシンジも太平洋艦隊にアスカの迎えには行っていない。歴史が変わったのだろうか?
「そんなァ、それほどでもないですぅ。あたしなんかまだまだ勉強しなきゃいけない事ばっかりで…」
そういえば前史は猫を被ってたりして無かったから違和感しかないな。
「やっ、なっ誰よ!やめて!」
ビールを飲むミサトさんを背後から抱き寄せる無精髭の男。てか勤務中にビールって大丈夫なのか?
「加持さん❤︎」
アスカが頬を赤らめて無精髭の男の名を呼ぶ。
「え…⁉︎」
「あいかわらず朝っぱらからビールか…腹、出っ張るぜ。」
加持 リョウジ。ミサトさんの元カレ。三重スパイの末、前史ではゼーレに消された男。
「なななんであんたがここにいんのよ⁉︎」
「アスカの随伴でね。ドイツから出張さ。」
アスカが「どこに行ってたんですかぁ?」と加持さんに抱き付く。少しイラッとした。
「そりゃご苦労様だったわね。用が済んだならさっさと帰んなさいよ。」
「残念でした!当分帰る予定はないよ。」
加持さんが僕の方を見る。
「碇シンジ君て君かい?」
「え?ええ。」
「君は葛城と同居してるんだって?」
「はい…」
「こいつ寝相悪いだろ?」
ミサトさんとアスカに衝撃が走る。
確かにミサトさんは寝相が悪い。今日の朝なんてブリッジのポーズをしていた。
「何言ってるんです?ミサトさん寝相は普通ですよ?」
ミサトさんの保身のため言っておく。
加持さんが居なくなった後、ミサトさんが「ありがとう」と言ってくれた。
まあアスカにも綾波にもバレバレだと思うが。
…
警報が鳴る。
『警戒中の巡洋艦「はるな」より入電。紀伊半島沖にて巨大な潜航物体を発見。データを送る。』
「パターン青!使徒です!」
「総員、第1種戦闘配置だ!」
第3新東京市はラミエル戦で大破した為、上陸直前の使徒を零号機と初号機、弐号機で迎え撃ち、水際で叩く、というのが今回の作戦だ。
『アンビリカルケーブル送電開始!』
水面下から使徒が迫る。
「あたしが先に行くわ!ちゃんと援護するのよ!」
弐号機が使徒に突入する。零号機と初号機はパレットライフルで後方から援護。
「どォりゃあああああ!!」
ソニック・グレイヴが使徒を捉え、一撃で使徒を真っ二つにする。
「ナイスよアスカ!」
「どって事ない敵でしたわね。」
オホホホ、と高笑いするアスカ。
確かにサキエルならばこの方法でも倒せただろう。
「まだ動いてるわ、弐号機の人!」
「え…⁉︎」
使徒が二体に分かれる。
「嘘〜〜!なによこれ!こんなのインチキ!」
『気をつけて!来るわ!』
3対2で前史よりは有利なので、綾波と片方の使徒に集中する。
しかし、いくら攻撃しても敵はニ身一体のため修復されてしまう。そこで、零号機に使徒を押さえてもらい、コアにプログナイフを突き立てる。
「アスカ!コアに攻撃して!」
こうする事でユニゾンなしでコアに同時攻撃をする事を可能にする。
だが、そんな簡単にはいかなかった。
「きゃあ⁉︎」
使徒が零号機に対してゼロ距離でビームを放ち、零号機の左腕が飛ぶ。
「綾波⁉︎…うわっ」
解放された使徒に掴まれ、投げ飛ばされる。
「だめ!全然効かない!…って七光り⁉︎…あっ!やだ、離してよォ!」
弐号機も使徒に捕まって投げ飛ばされる。
そして空中で初号機と衝突した。
…
『本日午後3時58分52秒第七使徒甲と乙の攻撃によりエヴァ零号機と初号機弐号機共に活動停止。』
「…ブザマだな。」
「申し訳ありません…」
冬月に謝罪するミサト。
『午前4時05分、新型NN爆雷により目標攻撃。』
NN爆雷か…嫌な響きだ。
前史でジオフロントの天井に大穴を開けた兵器だ。そして大穴の向こうからやって来た量産機に、アスカは心を殺された。
思い返すだけで絶望はもうしないが…
陰鬱で嫌な気分になる。
「パイロット3名!君たちの仕事は何か分かるか?」
前史では冬月が言った言葉をゲンドウが言う。
「エヴァの操j」
「使徒を倒すためです。」
アスカの回答を遮って綾波が答える。
「そうだ、こんな醜態を晒すために我々NERVは存在しているワケではない。」
…
アスカがシンジの足を踏む。
「いっ!」
「なんであたしまで司令にあんな事言われなきゃなんないのよ!あんたたちのせいでせっかくの日本でのデビュー戦がめちゃくちゃじゃない!」
「なんで私達のせいなの?」
「だってそうじゃない!あんた達がグズだからあんなとこで使徒に捕まっちゃってさ!」
「それはあなたも同じでしょ。」
綾波が不機嫌そうに反論する。
「あたしは違うもん!七光りがやられたから集中が切れただけだもん!」
「!…私は良いけど碇君のせいにしないで…ッ」
綾波の顔が怒りに満ちている。
「いや、良いんだ綾波。僕のせいだから。」
どう考えても自分があんな事を綾波に指示したからこんな事になったのだ。
両方に責任があった前史とは違う。
確かに今のアスカの態度はイヤな感じだけど。
「おいおい、こんなとこで喧嘩かい?」
「加持さん❤︎ 違いますよォ喧嘩だなんて碇君達が一方的に絡んで来ただけですぅ」
変わり身早っ!
「メシでも食うか?3人とも晩飯まだだろう?」
「やった やった!加持さんとごはん ごはん〜〜❤︎」
…
再びNERV本部カフェテリア。
「加持さんは分かってくれますよね、あれはあたしのホントの実力じゃないって…綾波さんはどうだか知らないですけど。」
「…」
「まぁ3人ともそう気を落とすなよ。勝負はまだこれからさ。」
「でもォ エヴァは壊れて修理中なんですよ?これからっていつなんですか?」
ぴーんぽーんぱーんぽーん
『エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロットの両名は至急第二作戦会議室に集合してください。』
「ほーら早速お呼びだよ頑張っておいで。」
シンジとアスカは第二作戦会議室に向かい、綾波だけが残される。
(…弐号機の人と碇君が一緒…なんだか胸が苦しい感じ…)
…
「シンジ君、アスカ!こっちよ。」
「どこ行くんですかぁ?ミサトさん。」
アスカがどこかダルそうに聞く。
「次の作戦の準備よ。」
「…次の作戦?」
「MAGIによるコンピュータシュミレーションの結果、二つに分離した第七使徒はお互いがお互いを補っていることがわかったわ。
つまりエヴァ二体によるタイミングを完璧に合わせた攻撃よ。
そのためにはあなた達の協調、完璧なユニゾンが必要だわ。」
ミサトさんについて行くと、ツインのベッドルームに辿り着く。
「なあに?ここ…?」
「あなた達にはエヴァが修理し終わるまでの五日間、ここで一緒に暮らして貰います。」
「…えええ〜〜⁉︎」
アスカの絶叫。
とゆーか前史はミサトさんの家だったのに⁉︎という意味のシンジの驚きの声も混じる。
「時間がないのよ、命令拒否は認めませんからね。」
「困ります!五日間も2人で暮らせだなんて!私達女子と男子なんですよォ!」
「これはね、次の作戦には必要不可欠なことなのよ。2人の息をぴったり合わせるにはお互いを知ることは勿論、
体内時計も合わせといた方がいいの。
明日の起床は6時半よ。
何かあったら内線で連絡すればいいわ。
じゃっおやすみ!」
そう早口で畳み掛けてミサトさんは居なくなってしまう。
「悪夢のような現実…いくら使徒に勝つためとはいえ…ああ〜これが七光りじゃなくて加持さんだったらな〜」
「あっあのッアスカ!先にシャワー浴びて貰っていいかな?」
緊張して上手く話せない。ミサトさんがいるかいないかでこんなに緊張度合いが変わるとは。
「なんであんたにそんな事指図されなきゃいけないのよ!」
「そっ、その本当は僕が先にシャワー浴びたいんだけどレディーファーストかなと思って。」
「ふーん、そうなの。七光りにしては気がきいてるわね。」
「う、うん。」
「覗かないでよ!いいわね!」
「わっ、分かってるよ。」
アスカがシャワーを浴びている間、
テレビをつける。
『ニガテンカードマーンッ!!』
アスカ、アスカか…
”あんたが私のコトオカズにしてんの分かってんだからね!"
"キス、しようか”
”あんたが 全部あたしのモノになんないならあたし何も要らない”
”もう、無理しちゃって”
”あんたあたしの事分かってるつもりなの⁉︎それこそ傲慢よ!”
「七光り。」
回想をしているとアスカがバスタオル一枚でバスルームから出てくる。
「お・ま・た・せ、上がったわよん❤︎」
「わーーーーーーーっ⁉︎」
「うふ❤︎」
「んなんだよそのカッコは!」
「どお?あたしのボディ❤︎」
「さっき覗くなとか言ってたくせに!」
「興味ないみたいな事言われるとプライド傷つくのy」「良いからなんか着てよ!僕、見ないからッ!」
「ふっ…ふふふっ。」
「…な、なんだよ…」
「…なんちゃって!」
アスカがバスタオルを取ると、中にちゃんと服を着ていた。
「…からかうのもいいけどさ…多分監視カメラかなんかでミサトさん、僕たちの事見てるよ。」
「えっ!うそっどこにあんのよカメラなんて!」
シンジの読みは当たっていた。だが、肝心のミサトはモニタの前でグッスリである。
…
深夜、隣のアスカのベッドから泣き声が聞こえた。
「…ママ…」
(寝言…?)
「ママ…如何して死んじゃったの…」
アスカのことが急に愛おしくなったので、起き上がって頭を優しく撫でてみる。
「…ママ…あのね…あたし…頑張ってるよ…だから…ぎゅーして…おねがい…」
そうだ。アスカは普通の女の子なんだ。か弱さを隠しているだけで…
思えば、アスカは常に誰かに認めてもらいたがっている。
それは、前史から変わっていない…アスカらしいところだ。
結局、心の奥底にあるモノは、いくら猫を被っても隠せないんだなぁと、そんな事を考えながらシンジはベッドの上で眠りについた。
つづく
やっとLASらしい事できた気がする。
次回、瞬間、心合わせて
3月17日 0時公開。