雪風が可愛すぎて恋しちゃった提督を、雪風ちゃんが「しれぇ」って呼ぶようになるまでのお話。

pixivにて別名義で投稿した作品です。初めての二次創作です。

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雪風と残念なしれぇ

 陽炎型駆逐艦八番艦、雪風。第二次世界大戦時、終戦までほぼ無傷で生き残った、幸運艦の代表格ともいえる軍艦である。

 その日、私は彼女に恋をした。

 

「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風です。どうぞ、よろしくお願いしますっ!」

 

 肩あたりで切りそろえられた茶髪、少しかがんでしまえば下着が丸見えになってしまいそうなほどに短いセーラーワンピース。小柄な彼女の背中には大きめの魚雷と肩掛けの三連装砲、そして手には使い古された双眼鏡。その少女は、まるで子犬のように人懐こそうな微笑みを浮かべ、提督である私に挨拶したのである。

 その瞬間、私の心は確かに撃ち抜かれたのである。

「ああ、可愛い……」

 

 この世界の青い海に、深海棲艦という……なんというか化け物的な存在、というか公式的には生物型の艦船というわけのわからない存在が現れてから、もう十年以上が過ぎた。

 なんかそいつらは人類への復讐とか言って海に浮く船を壊して回ったとか。

 こうして人類共通の敵となったその化け物と同時期に現れたのが。

「雪風たち、艦娘というわけですね!」

「そうそう。というか、その時現れたのは『妖精さん』とかいう小人のようななにかなんだけれども」

 というかそういう基本的な情報を何一つ知らずにここに配属されたのか。かわいいなぁ。

「その妖精さんが、女の子に戦う力をくれた……っていう感じですかね、司令官」

「うん。そんな認識でいい。……で、その艦娘たちの指揮にあたるのが」

「司令官!」

「大正解」

 そう言って私が頭を撫でると、雪風はにへへ、と微笑んだ。ああ、かわいい。

 ついでに言ってしまうと、鎮守府とか泊地とか呼ばれるいま私たちのいるこの施設が、艦娘たちの住居であり、深海棲艦撃破の前線基地となっている。

「わかんないことがあったら、私に聞いてくれ。……とはいっても、私はまだここに着任して一週間もたたない新米なのだが」

「えっ」

 雪風は驚いた顔、しかし、次の瞬間には胸を張って宣言した。

「大丈夫です。雪風は絶対に沈みませんから」

 

 それから、大レベリング大会、兼海域攻略が開かれることとなった。

「……なんで雪風が旗艦なんですかね?」

「好きだから」

「戦艦級もいるのに駆逐艦を先頭にするなんて、なかなか変わってますね。司令官って」

 実際、早く改造してやりたくてこの配置なのだ。艦隊の先頭を率いる艦娘は練度が上がりやすいからな。

「でも、ちょっと疲れました……。いくら不沈艦でもこれは……」

「……すまん、あと一回。あと少しで、ボスが倒せるんだ」

「えー、いやですよ……。ちょっとあたまがぼーっとしますし……それに……」

 そのとき、雪風の横顔に一瞬、愁いが見え――しかし、彼女は首を振って。

「いいえ、なんでもありませんっ! 補給いってきます!」

 そのまま走っていったのであった。

 

 それから、そのしばらくあとのことである。

 私は慟哭していた。

 ……それは、ただただ手が滑っただけ。あと少しでボスが倒せたから。私のせいではない。

 否、いくら言い訳しても無駄だ。彼女を喪ったのは、ひとえに己の愚かな決断のせいであり、すべての責任は私にあるのである。

 

 結果、敗北D。被害、中破一隻、大破三隻、轟沈一隻。そして、雪風のみが無傷。

 

 その晩、海の底へと沈んでいった彼女、我が鎮守府初の軽空母だった鳳翔の追悼式を、小規模ながら執り行うこととなった。

 短いながらも、一緒に戦った仲間。それを悼む艦娘は多く……また、私への不信感、怨嗟もまた耳に入る。そして、その中で雪風は一人、俯いていた。

「司令官、どうしたんですか?」

 それは、あまりにも甘く優しい声色。

「……怒ってないのか」

 私がぽつりと一言だけで尋ねると。

「いいえ、雪風が怒るわけないじゃないですか」

 言いながら、彼女はうつむいた。

「だって、これは雪風のせいなんですから」

「ちがっ……」

「雪風のこと、司令官は知ってますか?」

 

 幸運艦。不沈艦。第二次世界大戦の終戦まで生き残り、その後は台湾に渡って活躍をつづけた。そんな名誉ある船。

「でもね、司令官。雪風は本当はダメな船なんですよ」

 幸運の代償。さまざまな艦船の最期を看取った。激戦のさなか、彼女は――

「見守ることしかできない、駄目な船だった。わたしといっしょに戦った船は、みんなみんな……」

 海の底に、沈んでいきました。

 彼女は目に涙を浮かべて、微笑んだ。

「だから、悪いのは司令官じゃなくて、鳳翔さんを助けられずに……ただ見てることしかできなかった、雪風。そう、雪風が一緒に行かなきゃ、助かったかもしれないんですよ」

 

 一説では死神とさえ揶揄されたともいわれるその艦船の記憶を宿した少女。目の前で泣いている彼女。その頭に、私はそっと手を置いた。

「たとえ雪風を旗艦にしていなかったって、きっとこの悲劇は起こっていた」

 私は慢心していたのだ。たった一週間で武勲を上げ様々な海域を攻略してきた、己の指揮能力を過信しすぎていた。

「その結果があの様だ。きっといつかはこうなっていた。これは、そう。ある一種の報いというわけだな」

「……そんな言い方、ないじゃないですか」

「ああ。そうだ……私の正体は、沈んだ船に……亡くなった部下に対してこんな言葉しかかけられないような、正真正銘の屑提督なのだよ」

 旗艦の運など関係ないのだ。あくまで、これは私の判断ミスである。

 言いながら、私は雪風の頭を撫でた。

「よく頑張ってくれた。……お前は、何も悪くないんだよ。雪風」

 薄っぺらい慰めの言葉でしかないけれども、しかし雪風は鼻をすするような声を出して、確かに涙を流したのである。

「……しれぇ……わたし、悪くないのですか?」

「ああ、何も悪くなんてないんだ。すべては、私の責任だ。その上で……トラウマを抉り出すようなことをして……仲間を殺してしまって、本当にすまなかった」

 私は雪風に向き直り、頭を下げた。

 果たして、雪風は。

「ふふ、やさしいしれぇで、よかったです。こんなわたしを、ゆるしてくれて……ありがとう、ございます!」

 

 それから、程なくして。

「……鳳翔さんの仇を討ちませんか」

 臨時集会を開いた私は、開口一番に言い放った。

 ……集まった艦娘の人数が減っている。恐らく、離反したのだろう。海軍上層部へと報告に行ったのかもしれない。私はもうすぐ解雇されるかもしれない。だが、その前に。

「私は、彼女の死を無駄にはしたくないと思っています。もっとも、殺した張本人が言うのもなんだけれども……」

 艦娘たちの視線が突き刺さる。だが、私は言い切った。

「このままでは、鳳翔さんが浮かばれない。そう思った。だから、彼女を沈めた深海棲艦に一矢報いたい。そのために誰か、手伝ってくれ」

 会場は無言に包まれた。

 虫のいい話だとは分かっていた。こうなれば、私一人で行くしか――

「雪風は、いきますよ」

 響き渡った一つの声。

「雪風が、今度こそみんなを絶対に沈ませないことを、お約束します。だって、わたしは、不沈艦ですから。幸運艦ですから。……いざというときは、わたしが身代わりになってでも、みんなを助けますから……」

 ざわめきだす艦娘たち。

 いくつか、不満の声も聞こえる。私に対して呪うような言葉も、だ。しかし。

「あたし、行こうかしら」

「ちょ、五十鈴本気!?」

「本気よ。……司令官の命令に従うのが、あたしたちの使命なんだもの」

 そんな声や。

「……僕も行こう。彼がこのまま消えるのはもったいない」

「時雨が言うんなら、間違いないっぽい。……ここでやらなきゃ最後まで戦い抜いたあの人に、申し訳が立たないっぽい!」

 こんな声。

 数名の艦娘が、雪風についてきて。

「しれぇ。……わたしたちは――少なくとも、雪風は、しれぇのこと信じてます。信じたいです。だから、しれぇもわたしたちを信じてください」

 

 **********

 

 数か月後。赤い衣装をまとった少女――雪風が異国の地に渡った姿である丹陽は、異動先の小さな鎮守府の波止場に腰掛けて、息を吐いた。

「ふふ、あの時のしれぇ、かっこよかったなぁ」

 配属からすぐに雪風と出会い、沈んだ船を悼んだ。そんな男のことを思い返し。

「確か、五十鈴さんと時雨と、あと、夕立。秋雲と……陽炎。それで、雪風が旗艦の水雷戦隊を組んで特攻したんだっけ。それで、何回も挑んで……」

「僕たちは、勝ったんだ。一人も喪わずに、ね」

 いつのまにか、丹陽のそばには時雨がいた。改二になってからいつの間にか生えていた癖毛を潮風に揺らしながら、二人は遠い水平線を見つめる。

「でも、あの提督はダメだった。あれから、何度も失敗して……大本営に目をつけられて……」

「処刑されたんですよね。いい人でしたよ、あのしれぇは……」

 目の前の水面が風に揺れた――

 

「おいおい、勝手に殺さないでくれよ。雪風」

 

 二人がその声に振り向くと、処刑されたはずの提督がいた。

「どうもこんにちは。僕らの提督」

「し、しれぇ!? というかいまの雪風は丹陽ですよ!!」

「すまんな、まだ慣れなくて」

 そう言ってその提督こと私は笑う。さっきからずっと二人の会話を盗み聞きしていたことは内緒だ。

 というか、あれから失敗をしてるわけでもないし、むしろ一隻も沈めてなどいない。ただ、別のところに鎮守府を移設したというだけだ。実際は異動でもなんでもない。

「……うちに来てからだいぶ大きくなったな」

 そう言って、改装しても変わらない栗色の髪を撫でると、彼女は私に抱き着き。

 

「し・れ・ぇ! 雪風は、ずっとずっと……あの日から変わらず、しれぇのこと、だいすきですよっ」

 

 上目づかいで言った。

 顔が熱い。心臓が強く脈を打つ。

 ……なんか、後ろからひゅーひゅーとかきゃーとか黄色い声援が聞こえてくるような。どうやら、だいたい駆逐艦くらいの年代の女子は色恋沙汰に敏感らしい。

 私は話を逸らすように、言い放つ。

「そういえば、そろそろ昼食の時間だからな。間宮さんとこにでも行かないか? 丹陽、時雨」

「いいですね! 行きましょう!」

「……僕はいいよ。二人で行ってくればいい。お幸せに」

「時雨、ちょっと怒ってますか?」

「お、怒ってない!」

 そんな感じに、二人の駆逐艦が笑いあい、ついでに私も笑う。

 過去を乗り越え――享受するつかの間の平和。

 

 そんな彼女の笑顔を裏切らないために。この平和が、世界中に広がるように。

 私は今日も、艦隊の指示に努める。

 


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