『はい、クソゲー』
そう言ってルシフェルはコントローラーを置いた。『何が真の仲間だ』と、ぶつくさ文句を言う。しかし、テレビの液晶にはキチンとスタッフロールが流れ、ちゃっかりトロフィーまで獲得している。
彼がゲームをしている姿を一歩離れたところで見守っていた戦士さんは知っている──彼曰くクソゲーという評価を下したこのゲーム、初期装備アイテム使用不可最上級難易度という縛りプレイを課していたことを。
『ルシフェル、たまにはアナログのゲームでもしないか?』
『懐かし、子供の頃やっとったわ』
勤務中だというのに、パーフェクトエースさんがキッチンからゲームソフト片手に出てきた。彼の手に握られたそれを見て、戦士さんは子どもの頃を回顧する。
『むっ……いいだろう。貴様の持ってきたゲームとやらをやってやらんこともない』
と、随分乗り気な様子でゲーム機をテレビと接続する。パーフェクトエースさんはカセットの差し込み口に軽く息を吹きかけてセットする。
初動はいい感じ。バグることなく起動する。BGMからも不吉なピーガガガ音はしない。一番の難所は乗り越えた。
セーブデータを選ぶ──その時だった。
おきのどくですが
ぼうけんのしょは
きえてしまいました。
『『はい、クソゲー!』』
みんなのトラウマことぼうけんのきろくが無くなってしまった悲劇に、二人は落ち込みつつも何処か諦めたような様子で肩を落とす。
『まあまあ。気を取り直して、星の●ービィでもやろや』
三番手、戦士さんがゲームソフトを構える。
一回目の挑戦──起動しない。どうやら不発。
二回目の挑戦──起動したが、画面が途中で止まる。
三回目の挑戦──動いた! 無事、オープニングが流れる。これはいい調子だ。あとはセーブデータを選択するだけ。
0%0%0%
/ドン☆\
『『『はい、クソゲー!』』』
セーブデータ全消しという現実に、三人揃って中指立てた。レトロゲームあるあるだ。見守っていた公子は、やれやれと呆れつつもざまぁと愉快な気分になる。勤務中、堂々とサボりを始める彼らへの天誅だ。
「全く……暇だからってすぐサボるんだから」
『でも、気持ち分かります……私もお茶挽いてばかりの日もありますし』
と、苦笑いしながら答えたのはローズマリーだ。なんだかんだ言って水商売。売上が日によってムラがあるのも仕方ないこと。
『それこそ、気晴らしについゲームしちゃったり』
「アイツらみたいな?」
レトロゲームは諦めてスマ●ラを始める三人組を指差せば、彼女は『いえいえ』と、肩を竦めつつ否定する。
『そんな、あんな激しいのは……』
見た目も口調も癒し系な彼女だ。やはり嗜むソフトも牧場●語とかどう●つの森とかのスローライフか。と、ゲームに没頭するローズマリーを勝手に想像してみる──
『専ら、AP●Xとかフォー●ナイトとか』
「アナタ、自分の発言が矛盾してることに早く気付いた方がいいわよ」
ゆるふわとスローライフを楽しむ姿から、コントローラー握り締め暴言吐き銃をぶっぱなす姿へと想像が移り変わる。激しいどころか、殺しあってるのですがいかに──
「それでどう? 最近、困り事はない?」
それとなしに話題を逸らす。ローズマリーは珈琲を飲むことで一拍置き、ゆっくりと口を開いた。
『経営の方は特に……ただ、閉店後にこの商店街って不便だなって感じます』
「閉店後に?」
『はい。実は──』
悩みに耳を傾けてみれば、曰く店を閉めた後のプライベートでの行動が億劫なんだとか。
閉店は深夜過ぎることが当たり前なお水業界。メンズエステサロン『あろ♡ま〜じ』も例に漏れず昼夜逆転の営業スタイル。閉店後に夕飯を作ろうにも億劫で──かといって外食しようにも店も無く。商店街を出てコンビニに行こうにも夜更けに出歩くのは怖い。
『で、結局行き着くのはインスタントだったりレトルトだったり……』
業務用スーパーで大量買いしてきた即席食品の数々。だが、たまには手の込んだものが食べたいと思うことも。
「仕事後にご飯作ってとなると確かに面倒よね……」
同じく経営者の公子とてその悩みは共感できるものであった。
仕事帰りの草臥れた所に家事をやってるような余裕など残っているものか。外食に甘えてしまうのもこの世の摂理。だが現実問題、この商店街ではそれさえも厳しい。
『お客様もね、周辺に小腹を満たすところがないから不便だって言ってて』
クレーム程ではないが、お客様の意見となれば尚更無視できない問題である。
店舗が増えたとはいえ、売上が増えないことには徹との契約が満たせない。これはメンズエステサロン『あろ♡ま〜じ』だけでなく、商店街全て(二店舗)を巻き込んだ重大な問題だ。
「このままだと、集客どころか客足が減ってしまうわね……」
一匹いれば三十匹は存在するゴキブリに例えてしまうのもあれだが、一人訴える人がいるなら三十人は同じことを思っているだろう。
「夜に営業する飲食店……最悪、コンビニでもいいから引っ張って来ないと」
と、真剣に悩んだところでネックは立地。商売である以上売上が出ないところに誰も店は出さない。閑古鳥の鳴き止む日はいつになるやら。
ローズマリー達が転がり込んできた時みたいにご都合展開にはならないだろうか。と、流石に無理のあることを心中願う。
と、その須臾──
『なんやなんや』
『鎮まれ! 鎮まりたまえ!』
突然の地震に、ビビった戦士さんがゲーム機を持って真っ先にテーブルの下へ避難。それに続いて公子達もカウンターやら椅子の下へと隠れる。一人、ルシフェルだけがアシタカの真似をしているが、誰も助けやしない。
TA-Lizの床に、青白い炎で何やら描かれる。地縛神の地上絵か? とも疑ってみるが、どうやら違う。魔法陣のようだ。そして、光が炸裂──
『くっ……なんやこの光は! いつものご都合展開か!?』
『最近流行りの異世界転生ってやつか!』
「馬鹿みたいなこと言わないでよ!」
このサイトは某小説サイトと関係ないんだ。そんなテンプレ展開通じるわけがない。
ようやく光が収まり、煙が晴れ──青年が一人。背中に大剣を背負った剣士だ。戦士さんがいつの間にかジョブチェンジしたのかと疑うくらい、ちょっとキャラ被ってる。
沈黙──この場にいる全員が、誰か何か言えよ。と、視線を送り合う。気まずい空気を断ち切ったのは、魔法陣から現れた青年の一言。
『またオレ何かやっちゃいました?』
──元の世界へお帰りください
────
「これ飲んでさっさと帰りなさい。じゃないと、牛尾さん呼ぶから」
公子が文句言いつつも珈琲をテーブルに置いた。一応客人という扱いの剣士は、躊躇いもせずカップを煽る。
『この世界の珈琲も、まあまあ美味』
それは褒めてるのか貶してるのか──
怒りを抱く気力も無い。なんたって最近、とんでも展開が続き過ぎている。公子は何処か疲弊した様子で嘆息を洩らす。
「それと、壊した備品は弁償していきなさいよ」
『スキル、鑑定を発動! ……女子力たったの5か。ゴミめ』
「殴られたいの!!」
弁償の話題を避けるためか勝手に公子のステータスを剣士は見る。一人の女性としてのレベルの低さをバラされて公子は激昂するも、公子が女性として既に枯れかけている域まで到達していることは、この場にいる全員が気付いているため特に誰も気にしない。
『まあまあ、とりま落ち着こやハム子。いきなり帰れもアレやし、話くらいは聞いてやろや』
『話が分かるではないか。固有スキル童貞よ』
『金玉千切ったろか』
話し合いだなんて物騒な、ここは穏便に暴力で。と、戦士さんが抜刀する。羽交い締めにパーフェクトエースさんが引き止め、謎の剣士は戦士さんの怒りを買ったことに詫びるでもなく、身の上を語り始める。
『オレのことが知りたいなら教えてやる。少々長くなるが──』
『あれは確か、オレがまだ異世界転生する前のこと──』と、意味の分からない導入から始まるが、誰も突っ込まないためそのまま話は続く。
『バスブレ、お前はこのパーティのお荷物だ。お前にはパーティから抜けてもらう』
それは、パーティリーダーであるモリンフェンからの突然の戦力外通告だった。
『ど、どういうことだ? オレを追放だなんて……正気か!?』
オレの名はバスター・ブレイダー。泣く子も黙る竜殺しとはオレのこと。Sランクパーティ『環境デッキ』の主力の一人である。
『お前はデッキの中で何の役にも立っていない! 青眼余裕とか言っておきながらすぐに事故ってデッキの調和を乱してる!』
モリンフェンが更に強く、オレに告げた。
『ドラゴン族以外が相手だと、もはやバニラ同然だしな』
このパーティで唯一まともな効果を持ったモンスター、六武衆ヤリザが鼻で嗤う。
いや、確かにオレは効果モンスターの癖にドラゴン族以外が相手だと効果を発揮できないことは認めるが、ヤリザ、お前に言われたくないぞ。『俺は直接攻撃でライフの4分の1削れるから』なんて今の地位で胡座をかいてるが、このパーティに六武衆はお前だけだ。実質お前、攻撃力1000しかないバニラ同然だから。
『それにバスブレって……DNA改造手術のサポート無しじゃ役に立たないものね』
次いで厳しい言葉を寄せたのは、パーティの赤一点であるラーバモスだ。
認めよう。確かにオレはドラゴン族以外だと無力だし、DNA改造手術あって初めて強気で出れるような手間のかかるモンスターだ。だがしかし、進化の繭というサポートカード無しに召喚さえもできないお前には言われたくない。
『とにかく、お前はもう俺たち環境デッキパーティには不要なんだよ! とっとと失せろ』
オレなりにこのパーティでは頑張ってきたつもりだが、メンバーからはよく思われていなかったらしい。誰一人としてオレを引き止める奴はいなかった。
『パーティを追放されたオレは、失業保険を申請した後、幼馴染で同級生のカラテマンと遊園地に遊びに行って黒ずくめの男の暗黒界の取引現場を目撃した。暗黒界の取引を見るのに夢中になっていたオレは、背後から近づいてくるトラックに気付かなかった。トラックと衝突し、目が覚めたら……異世界に転生していた』
「ちょっと待って。情報過多で分かんない」
『この鑑定スキルは、謎空間で神様から貰った。ステータスからレベルまで様々な情報が得られる優れものだ』
「待てって言ってんでしょ」
懇切丁寧な説明をありがとう。残念だが、説明されて理解できるような内容でもなかった。とりあえず、ルシフェルみたいなのがまた1人増えたくらいの認識でいいだろう。と、強引に締め括る。
「とりあえず、アンタに常識が通用しないことは分かったわ」
飲んだならさっさと帰れ、その珈琲はサービスだ。と言わんばかりに、彼女はコイントレーを下げて野良犬を追っ払うみたく手を振る。
『世話になったな。また会おう』
青年もといバスブレも、商店街に居座る理由が無い為残念とも思わぬ様子で席を立つ。特に行き場も無ければ目的も無いだろうが、神様とやらから授かったチートスキルが彼にはある。拾ってやる温情は無い。
『ま、待ってください!』
だが、意外なことにバスブレを引き止める存在がいた。唯一真面目に話を聞いていた、ローズマリーがさらに言葉を続ける。
『私と……私達とパーティを組んでもらえませんか!』
彼女の叫ぶような主張に、言われたバスブレも、そしてやり取りを見守っていたこの場の全員が驚きに目を見張る。
「なに、テンプレヒロインみたいなこと言ってんのよ」
頭を抱えながら公子が声に呆れを乗せて言う。『だって……』言い訳のように、ローズマリーが訥々と言葉を続ける。
『私も、害悪とか遅延デッキとか散々に言われて追放されたことがあるからこそ、他人事に思えないんです。ですから公子さん……なんとか、なりませんか?』
「そうは言われてもねぇ……」
縋る眼差しから逃げるようにバスブレを見遣る。
この自称異世界転生野郎を商店街パーティに加入させたところで、メリットは果たしてあるのか。経営者たる公子は真っ先に利益について熟考する。なんたって公子の店には、存在自体がもはや赤字なクソニートのルシフェルが既にいるのだ。これ以上、役立たずを増やすわけにはいかない。
「残念だけど、今求めてるのは剣士じゃなくて飲食店を経営できる人材なの」
彼を雇うべき人件かと言うと、答えは否。情を切り捨て経営者としての冷酷な判断を下した。
あからさまにローズマリーは肩を落とした。彼女には悪いが、商いを営む者は誰しも非情とも言えよう決断でコストカットをしなければならない。経営者としての経験が浅い彼女には、今はまだ分からぬであろうが。
『飲食店……そういえば、謎空間でもう一つスキルを貰ったな。確か、料理スキルだったはずだ』
後出しのようにポツリと出した呟きを、聞き逃す公子ではない。考えることコンマ一秒。含みある満面の笑みを貼り付けた。
「もう、冗談に決まってるでしょ。ようこそ、商店街パーティへ。歓迎するわ」
恐ろしく早い手のひら返し。誰もがそう思い、呆れるやら感心するやら。利益と分かればプライドかなぐり捨ててまで真っ先に飛び込む商売人魂は、ある意味彼女らしい持ち味だ。
商店街のボスこと公子がOKを出したのだ。戦士さん含め下っ端も歓迎する。
ただ一人、ルシフェルを除いて──
『ふん……ぽっと出の何処の馬の骨かも分からん奴をパーティに加えるなど、私は反対だ』
『ニートのキミが言う?』
すかさずパーフェクトエースさんの痛烈な一言が向けられるも、厚顔なルシフェルには蚊に刺された程度のダメージ。
『我がルシフェル軍パーティに加えるに相応しい力量か、試させてもらうぞ! ──公子が!!』
「アンタがやりなさいよ」
『なぜニートの私自ら動かねばならん』
さも当然のように公子に押し付け、自分は観戦するつもりらしい。ポテチとコーラを抱え、日当たりのいい席を陣取った。
『そうだな……無条件に加入して、また前のパーティみたく痛い目を見るのは嫌だ。どうしてもオレをパーティに加入させたいと言うなら、リーダー自らお相手願おうか!』
名指しで決闘の申し込みとあらば、公子も逃げるわけにはいかない。仕方ないとは思いつつもも、手を抜く気は一切ない。デュエルディスクを構えた。
「『デュエル!!』」
バスブレ VS 公子
『先攻はチャレンジャー、バスブレから!』
手の空いたパーフェクトエースさんが審判の役を買って出る。ハンドサインと共に吹かれたホイッスルが、戦いの火蓋を切る合図。
『転生者のデュエルは二歩先をゆく。オレは竜破壊の証により、デッキより我が魂バスター・ブレイダーをサーチ!』
自信満々意気揚々と、デュエルが始まってすぐにエースモンスターを引っ張って来る。短期決戦の伏線か──そうなると、展開に滅法弱いサブテラーでは中々不利な状況が待っている。ただでさえ後攻を苦手としているのだ。どこまで長期戦に持ち込めるか──顔に出さずとも、公子は既に不安や焦りといった感情を抱いていた。
『さらに、破壊剣士の伴竜を召喚』
破壊剣士の伴竜
チューナー・効果モンスター
星1/光属性/ドラゴン族/攻 400
『伴竜の効果で、デッキより破壊剣士の揺籃をサーチ』
先行きに不安を覚える公子の気など知らず、更なる展開に備えて着手する。
『さらに伴竜は自身をリリースすることで、バスター・ブレイダーを特殊召喚できる!』
バスター・ブレイダー
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600
鍛え上げられた屈強な四肢に、激戦の歴史を語る鎧の傷跡。相棒である小竜の鳴き声に駆け付けた。
『さらに、手札の破壊剣ドラゴンバスターブレードは、装備カードとしてバスター・ブレイダーに装備ができ、装備を解除して特殊召喚も可能だ!』
破壊剣ドラゴンバスターブレード
チューナー・効果モンスター
星1/闇属性/ドラゴン族/攻 400
迂回ルートを確保し、召喚権を踏み倒しての展開──サブテラーには無い即効性の高い展開力。薄々とは感じていたが、相手としてはやはり相性が悪いと無意識に舌打ちを。
『バスター・ブレイダーにドラゴンバスターブレードをチューニング!』
破戒蛮竜バスター・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/守2800
戒律を破る狂気の叫びを聞いた──
天井を突き破り、着地するは禍々しい成長を遂げた伴竜だ。
『バスター・ドラゴンの効果! フィールドにバスター・ブレイダーモンスターが存在しないことで、墓地よりバスター・ブレイダーを特殊召喚できる!』
バスター・ブレイダー
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600
雛が親鳥の愛を求めるように、蛮竜も忌々しくも弱々しい声を上げて育ての親を呼んだ。死という概念さえも覆し、墓地より引き摺り出す醜い囀りだ。
『カードを2枚伏せ、ターンエンド』
バスブレ LP 4000 手札 2
モンスター
・バスター・ブレイダー
・破戒蛮竜バスター・ドラゴン
魔法・罠
・セット 2
墓地 2
除外 0
「……私のターンよ」
少なくとも、このターンでケリを付けるなんて芸当、公子のデッキにできるはずがない。次のターン、押し寄せてくるであろう猛攻をいかに受け流すか──眉間に皺を深く刻みながら、山札からカードを引く。
『この瞬間、バスター・ドラゴンの効果。バスター・ブレイダーに、墓地の破壊剣ドラゴンバスターブレードを装備。そして、このカードが装備されている時、相手はエクストラデッキよりモンスターを特殊召喚できない』
かつての相棒の遺骨から作られた大剣を、バスター・ブレイダーが鞘から抜く。
展開と同時に制圧を掛け、次のターン攻め入る為の磐石な布陣を既に敷いていたとは、恐れ入る。ここまで用意周到となれば、身動きできない。
──尤もそれは、エクストラデッキを使うのであればの話だが。
「私は、強欲で金満な壺を発動するわ」
それは他ならぬ、エクストラデッキを捨てたとも言えよう発動宣言であった。
否、捨てたというよりは元より使いもしない。コスト以外に使い道などない、都合のいい飾り程度の存在。それが、公子にとってのエクストラデッキ。
「重ねて
光さえも脱出することのできない、時間という概念さえも歪ませる底知れぬ空間。星さえも呑み込む程の引力に逆らうことなどできはしない。あまりに呆気なく、超大型とも言えた脅威のモンスター達は塵も残さず消えてしまう。
「そして、戦士さんを召喚!」
『えっ、今ええとこやったのに』
サブテラーの戦士
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1800
渋々とゲームのコントローラーを置いて戦士さんが立ち上がる。コントローラーを握っていたのは彼だけでない。早々にデュエル観戦には飽きたらしく、ルシフェルとパーフェクトエースさんもゲームの画面と向かい合っている。
「バトルフェイズ! 戦士さん、このデュエルでダメージ通せたら賃金アップよ!」
『よっしゃ、やる気でてきたで』
『
『悪いがその攻撃は通じない。
威嚇の咆哮が響く──
破戒蛮竜バスター・ドラゴン
シンクロ・効果モンスター
星8/闇属性/ドラゴン族/守2800
ブラック・ホールに為す術なく破壊されたはずの蛮竜がいた。主を守るように立ち塞がり、唸り声を上げる。これには戦士さんも顔を青くする。立ち塞がる巨龍に忽ち気概やら何やら諸々をへし折られ、情けない顔でとぼとぼ帰ってくるのは早かった。
『破壊剣士の揺籃は、デッキよりバスター・ブレイダーと破壊剣カードを墓地へ送ることでバスター・ドラゴンを特殊召喚できる。尤も、次のオレのターンで破壊されるがな』
だとしても、オマケ程度のデメリットに過ぎないではないか──蛮竜を睨んだ後、しょぼん顔の戦士さんとを見比べる。なんて使い物にならないアルバイトだと、深々と嘆息を吐いた。
「たく、使えないんだから……カード3枚伏せてターンエンド」
公子 LP4000 手札 2
モンスター
・サブテラーの戦士
魔法・罠
・セット3
墓地 6
除外 0
気概がごっそり削がれてげっそりな戦士さんとは真逆に、同じ剣士であるバスブレは悠然と構えている。高らかにドローの宣言をした後、手札の1枚に指を掛けた。
『熟練の白魔道士を召喚だ』
熟練の白魔道士
効果モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻1700
勇者パーティのお供でお馴染み、いやしの花形たる白魔道士が躍り出る。
『強欲で貪欲な壺でデッキから10枚を除外して2枚ドロー。さらに魔法カードの発動に伴い、熟練の白魔道士は魔力カウンターを置くことができる』
熟練の白魔道士
魔力カウンター1
『バスター・ドラゴンの効果で、バスター・ブレイダーを蘇生する』
バスター・ブレイダー
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600
大した活躍があったわけでもないが、どこか草臥れた様子のバスター・ブレイダーが、フィールドに戻ってくる。
『墓地の破壊剣士融合の効果。手札の破壊剣士の宿命を墓地へ送り、手札に回収する』
熟練の白魔道士
魔力カウンター2
『さて──』
一苦労終えたといった様子でバスブレは息を吐いた。闘志を隠しきれぬ眼差しは、公子のフィールド──正しくは、戦士さんへと向けられ──
『お前もドラゴン族にしてやろうか』
と、告げたその直後──
『ら、らめぇぇぇぇぇぇぇっ!!』
戦士さんがエロ漫画のヒロインみたいな声を上げた。嫌々ながらも悦を感じさせる悲鳴に、TA-Lizにいる全員がギョッと目を見張る。彼の筋肉が盛り上がったかと思うと、突然服が弾け飛んだ。
サブテラーの戦士
戦士族→ドラゴン族
恥じらう乙女のように内股でモジモジと裸体を晒す戦士さん。いっそダビデ像のように恥じらいを捨てて堂々とした方がまだ目に優しいのでは? という本音を呑み込み公子は一つ咳払い。今考えるのはそこじゃない。戦士さんの裸体なんてぶっちゃけどうでもよくて、今着目すべきは、彼の背中に翼が生え、皮膚が鱗のように硬くなり、ズァークみたいな見た目になっているということ。
『バスター・ドラゴンが存在することで、サブテラーの戦士はオレ好みの体に──そう、ドラゴン族に変えることができる!』
「てことは……バスター・ブレイダーの攻撃力が上がるってことか」
『もうお嫁に行けない』と、しくしくめそめそな戦士さんほっといて、公子は冷静に今の戦況を見直す。
『それだけじゃない。オレは手札より、破壊剣士融合を発動!』
「融合……?」
融合──それは、手札および自分フィールドのモンスターを素材にエクストラデッキより上級モンスターを呼び出す、歴史ある召喚法のこと。
『この効果により、バスター・ブレイダーを素材とする融合モンスターを呼び出す!』
相手の場にあるバスター・ブレイダー以外のモンスターは、破壊蛮竜バスター・ドラゴン。そして、他に素材となり得るのは手札くらいか。
と、油断したその時であった──
『だが、このカードにより超融合するのは、オレのモンスターではない。お前とオレの魂だ』
『えっ?』
『今こそひとつに!』と、バスブレが叫んだ直後のこと。召喚エフェクトの大渦に、バスター・ブレイダーと戦士さんが揃って呑み込まれていく。
この場にいる全員が、超展開に目を点にして立ち尽くす。唯一、腐の匂いを嗅ぎ取ったマジョラムが『全て壊すんだ!』と、TA-Lizの窓をぶち破ってダイナミック入店を果たしたのは見なかったことにしよう。
竜破壊の剣士バスター・ブレイダー
融合・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻2800
渦が収まったかと思うと、立て続けに小爆発を伴う閃光が弾けた。
光が引き、そして立っていたのは、パラディンが如く白銀の鎧を纏うバスター・ブレイダー。
『驚くのは、まだ、早い!』
バスブレが指を鳴らす。すると、白魔道士が膝を折り、自分自身を犠牲にふっかつのじゅもんを唱える。
バスター・ブレイダー
効果モンスター
星7/地属性/戦士族/攻2600
今回の過労死枠ことバスター・ブレイダーだが、これで何度目の蘇生なことか──いや、今はそんな事どうでもいい。首を横に振り、余計な考えを振り払う。今考えるべきは、大型モンスターを前に壁になるモンスターが1体もいない薄っぺらな守りで、どう耐えるかだ。
『さらに、永続
竜破壊の剣士バスター・ブレイダー
攻 2800→3800
バスター・ブレイダー
攻 2600→3100
フィールドならず墓地までも自在かと、舌打ちを一つ。
『バスター・ドラゴンを攻撃表示に変更し、バトルフェイズに以降! バスター・ブレイダーで攻撃!』
一撃目──
「させないわ!
されど公子とて、「はいどうぞ」と貴重なライフを差し出すようなお人好しでもない。それは純粋にデュエリストとしての矜恃が、敗北という辛酸を嘗める行いを許しはしないから。無防備に見えた守りを、知略を巡らせ固める。
「さらに私が引いたのはサブテラーの射手! これを攻撃表示で通常召喚よ!」
サブテラーの射手
効果モンスター
星3/地属性/天使族→ドラゴン族/攻1600
あまつさえ援軍を呼ぶという狡猾さ。不利な相手と駆け出しでありながら、それでも食らいついてみせるは、彼女の確固たる実力によるもの。
『だが、バスター・ドラゴンが存在する限り、お前のフィールドのモンスターはドラゴン族に。そして、竜破壊の剣士バスター・ブレイダーの効果でドラゴン族は全て守備表示となる』
サブテラーの射手
攻1600→守1400
竜破壊の剣士バスター・ブレイダー
攻 3800→4800
バスター・ブレイダー
攻 3100→3600
それでもなお、思い通りに事は運ばせてはくれぬか──不可抗力とはいえ待ち構えていた罠を踏み、眉間に険しい皺が寄る。
『そして、竜破壊の剣士バスター・ブレイダーは、直接攻撃はできないものの貫通効果を持つ! サブテラーの射手を攻撃!』
公子
LP 4000→600
壁となるモンスターがいながら、ここまでの火力を出すことができるとは。たった一発の攻撃で、傷一つ無かったライフが風前の灯にまで奪われた。
だが──
「ライフが0にならない限り、負けじゃないわ! 射手さんの効果を発──」
討ち取られる間際に放った、救援要請の
予想外とも言えよう妨害に、公子は一瞬何が起こったのかと瞠目する。
『竜破壊の剣士バスター・ブレイダーが存在する限り、ドラゴン族の効果は発動できない』
フィールドだけでなく、墓地のモンスターさえもその種族は自在。
後には退けぬと、決死の覚悟で発動したはずの効果さえも無効にされ、万事休すか──
『バスター・ドラゴンよ!』
緩慢と長い首を擡げ、引導を渡さんと蛮竜が公子を見据えた──
「残念だけど、諦めの悪さだけは負けない自信しかないの!」
万事休す──? なわけないと、公子とてしつこいぐらいに勝利に固執する。
カウンター・ゲート──先も使ったのだ。効果の説明など不要であろう。
『……仕方ない。カードを1枚伏せてターンエンド。この瞬間、破壊剣士の揺籃で蘇生したバスター・ドラゴンは破壊される』
バスブレ LP 4000 手札 0
モンスター
・バスター・ブレイダー
・竜破壊の剣士バスター・ブレイダー
魔法・罠
・輪廻独断
・セット 1
墓地 10
除外 10
蛮竜が消えたことで、フィールドにおいてのドラゴン族になる制約は無くなった。多少は動きやすくなったであろうと窮地を少しでも前向きに捉え、カードを引く。
「リバースカード、無謀な欲張りを発動よ」
どんな手段であろうと、後には退けぬこの状況でできることは、精一杯の足掻きか。堅実なプレイングとは程遠い、その名の通り無謀とも言えよう一手を、何の躊躇いもなく投擲する。
だが、まだ足りぬ──逆転には程遠いと、一つ舌打ちを重ねる。
「地中界シャンバラを発動よ」
閑古鳥がたいそう煩そうございます珈琲館から陽光を知らぬ地下帝国へ──
「地中界シャンバラの効果で、発動時にアクエドリアさんを手札に加えるわ。さらにシャッフル・リボーンの効果で、戦士さんを特殊召喚!!」
サブテラーの戦士
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1800
「そしてリリース!」
シャッフル・リボーンのコストを踏み倒すためとはいえ、容赦の無い超速リリース。
フィールドに出たのは──未明。アドバンス召喚でありながら、上級モンスターの詳細を一切公開しないのは公子ならではの型破りな戦略。
「さらに私は永続魔法サブテラーの激闘を発動。そして墓地のシャッフル・リボーンを除外して、これをデッキに戻し、1枚ドロー」
本来の目的とは違う用途で永続魔法を発動し、忽ちデッキへ送り返す。
「ヨシ! これなら……地中界シャンバラの効果で、セットモンスターをリバースよ!」
『ここで
だが、運が悪いと言えようタイミングでのリバースカード。その効果は──知らぬはずもない。なんたって、デュエルモンスターズ界の古株とも言えようカードだ。
「させないわよ! 手札から
公子
LP 600→300
なけなしのライフを削り、手札からの手痛いカウンターが飛ぶ。予想外とも言えよう場所からの奇襲に相手は鼻白むも、すぐにデッキから場に出す
「セットされていたのは、アクエドリアさん! アクエドリアさんはリバースした時、サブテラーマリスの数だけ伏せカードを破壊できるわ!」
サブテラーマリス・アクエドリア
効果モンスター
星5/地属性/海竜族/攻1400
『オレは破壊剣の追憶をセットしたが……どうする?』
選択は、伏せられた2枚のうちどちらかのみ──
1枚は、竜破壊の剣士バスター・ブレイダーとのコンボを生み出し、強烈なロックを仕掛けるDNA改造手術。
もう1枚は、効果こそ不明であるもののわざわざリクルートしてまで引っ張ってくるカードだ。何かしら、強力なカードであることは間違いない。
「私は──」
ゆっくりと、公子の腕が持ち上げられる。真っ直ぐと人差し指が捉えたのは──
「破壊剣の追憶を破壊よ」
効果が未知数な、新たに場に出現したカードであった。
「アクエドリアさんは自身の効果で裏側表示に戻れるわ。そして、カードを3枚セットしてターンエンド」
公子 LP300 手札 0
モンスター
・セット1
魔法・罠
・セット3
フィールド魔法
・地中界シャンバラ
墓地 8
除外 1
シャッフル・リボーンによる手札を除外しなければならない制約も、エンドフェイズ時に除外できるものが何も無いのなら仕方ない。しれっと効果を踏み倒し、ターンを渡す。
尤も、公子のデュエルタクティクスのレベルが高いとはいえども、追い詰められていることには変わりない。それこそ、無謀な欲張りによってドローを前借りしたのだ。公子は次のターンもその次のターンもドローする権利が無い時点で、逆転の手は無いにも等しい。
『悪足掻きも、どうやらここまでのようだな』
退っ引きならない状況まで追い詰めたことあってか、勝利を確信した様子でバスブレはドローする。
『DNA改造手術を発動』
選択するは──ドラゴン族一択。
竜破壊の剣士バスター・ブレイダーがフィールドに出ている限り、公子のモンスターは効果を発動できない。公子にのみ、スキルドレインが課せられているも同義のフィールドだ。
だが、公子に焦りはない──否、そう言ってしまえば誤謬がある。焦っているが、負けを確信しているわけではない──と、言うべきか。
(DNA改造手術も輪廻独断も、破壊する術は私には無い。けど、突破口がないわけじゃない)
少なくとも、公子の場にはモンスター以外に3枚の伏せカードがある。
『バトルだ!』
竜殺しの異名を持つ勇者達が剣を抜く。狙うは、地中界に潜む魔獣。大地の海に身を潜ませる怪物の息遣いに、耳を澄ませ──
『そこだ!』
竜破壊の剣士バスター・ブレイダーが剣を持ち直す。引導を渡すに最も相応しいモンスターと言えようか。隙を見せた怪魚を仕留めんとすべく、剣を大地に突き立てた。
「──
──剣が貫いた先、大地が割れる。
割れ目から現れるは怪魚──否、怪魚と思わしき気配の正体は、まるで生きているかのように撓む触手。否、鎖。それは屈強な剣士の体を容易く捉え、身動きを封じてしまうではないか。
「デモンズ・チェーン。効果は、知らないはずないわよね」
効果を無効にされる現状を変えるに、どうすればいいか──簡単な話。効果を無効化するモンスターがいるなら、その効果ごと捻り潰してしまえばいいだけのこと。単純かつ明快な答えだ。
『1度で倒しきれないなら、2度目で仕留める!』
息つく暇もないほどに早い連携。入れ代わり立ち代わりの連撃に翻弄され──
「地中界シャンバラの効果で、アクエドリアさんをリバースして攻撃を無効に。さらに墓地の戦士さんを特殊召喚」
サブテラーの戦士
効果モンスター
星4/地属性/戦士族→ドラゴン族/攻1800
翻弄されるような公子ではない。むしろ、翻弄する側なのが彼女。網の中での抵抗に過ぎないと油断して掛かったところ、忽ち罠に引っ掛けて落とすのが彼女の得意とするプレイング。
『ほう……』
窮地を一変、アドバンテージに変換する程の手腕に、対戦相手のバスブレも思わず感嘆の吐息を洩らす。
『ならば、カードを1枚伏せてターンエンド』
「この瞬間、戦士さんの効果を発動よ!」
エンド宣言した直後、戦士さんがやれやれといった様子で己の手首と繋ぐようにアクエドリアさんの胸鰭に手錠を掛ける。アクエドリアさんの2桁にも及ぶバックレ歴に呆れ、ようやく出した答えがこれである。そのままバックヤードもとい墓地へと連れて行かれる。
「アクエドリアさんと共にリリースし、バックヤードからリグリアードさんを裏側表示で特殊召喚!」
瞬く間に2体のモンスターはセットされた最上級モンスターに。しかしそれもつかの間、地鳴りと共にその表示形式が変えられる。
『むっ……』
と、驚き息を呑んだ刹那のこと。鎖の伸びる大地の割れ目のさらに奥から、虎視眈々と見つめる肉食獣が如き眼光を捉えた。
サブテラーマリス・リグリアード
リバース・効果モンスター
星7/地属性/爬虫類族→ドラゴン族/攻2000
天変地異か──地震に片膝を着いたその油断を逃がさぬ捕食者ではない。標的の隙を突いた巨体が地中から大口を開けて迫り、鎖ごと食らいついた。
「サブテラーの決戦でリグリアードさんをリバースしたの。そこからさらに、リグリアードさんの効果で竜破壊の剣士バスター・ブレイダーを除外よ」
油断大敵とはまさにこのこと。次のターンなどないかと思いきや、まさか逆転のチャンスをドローに賭けるまでもなく、前のターンで仕込みをしていたとは驚きである。
あまりに型破りな──それでいて、公子にとっては当たり前な予測。
目先の利益に盲目になるでなく、一歩先ならぬ二歩先まで見通す彼女の慧眼は、経営者としてのみに留まらずデュエルにおいても発揮されていると断言してもいいだろう。
バスブレ LP 4000 手札 0
モンスター
・バスター・ブレイダー
魔法・罠
・輪廻独断
・DNA改造手術
・セット1
墓地 11
除外 11
「私のターン!」
ドローを捨てるというデュエリストにあるまじき奇行を晒しておきながらも、勝利を確信した力強い声が張り上げられる。
「リバースカードオープン! 森のざわめき!」
日の当たらぬ地下帝国に木々が生い茂るという矛盾。『ざわ……ざわ……』と、何やら外野が煩い。何かが起こることを予期させる不穏なざわめきだ。
「相手フィールドのモンスターを裏側表示に変更し、その後フィールド魔法を持ち主の手札に戻す」
そんなの、月の書で十分じゃないか。と、好き勝手言う外野を一瞥。これだから素人は。と、公子はやれやれといった様子でフィールド魔法に指を掛ける。
「地中界シャンバラを手札に加え、そしてもう一度発動よ」
亡国と化した地下帝国であったが、瞬く間に瓦礫が組み上がり、元通りへ。
『もしかして、公子さんの狙いは……!』
頭上にはてなマークを浮かべるルシフェルとパーフェクトエースさんとは逆に、ローズマリーは早くも公子の思惑に気付いたらしく、驚嘆の声を上げる。
「地中界シャンバラの発動処理で、妖魔さんを手札に加えるわ」
ドローはできなくとも、サーチはできる。
無謀な欲張りを発動したターンで、既にドローの代替となる手段を確保していた。森のざわめきという月の書に劣るカードでありながら、そこから考えられる戦略というものが既に彼女の頭の中にあった。
「リグリアードさんを効果でセット。そしてリバース! さらに戦士さんを墓地より特殊召喚!」
サブテラーマリス・リグリアード
リバース・効果モンスター
星7/地属性/爬虫類族→ドラゴン族/攻2000
サブテラーの戦士
効果モンスター
星4/地属性/戦士族→ドラゴン族/攻1800
再度、地中で大蜥蜴──否、竜が暴れ回り、草臥れ様子でバックヤードから過労死枠こと戦士さんが顔を出す。
「そしてリグリアードさんの効果で、バスター・ブレイダーを除外よ!」
地中を縦横無尽に駆け回る衝撃に耐えきれず、地盤が崩れた。地盤沈下に巻き込まれ隙を見せたバスター・ブレイダーを大蜥蜴の面影を残した竜が苦もなく攫い、巣穴へと戻っていく。
これにて、バスブレのフィールドはガラ空き。先のターン、公子が追い詰められたのと同じように、彼もまた同様の切迫した状況が敷かれた。
「バトルよ! リグリアードさんで、ダイレクトアタック!」
直前のターン、勝利への確信に胡座をかき油断していなければ、結末として変わっていただろうに。竜殺しの異名を持つ戦士の最後を飾るのは、皮肉にも竜殺しによってその姿を竜へと変えられた大蜥蜴。地底に住む魔獣の逆鱗に触れ、無事でいられるなど──
『この勝負、オレの勝ちだな』
バスブレが得意げに見せたのは、1枚の
「それはどうかしら?」
と、公子が不敵な笑みを浮かべて問い掛ける。
刹那、手に強烈な張り手を受けてカードをはらりと落とす。何が? と、疑問に思うも目の前の小悪魔を見つけ、理解する。
「妖魔さんの効果。手札のこのカードを墓地へ送り、戦士さんを裏側表示に変更することで、相手の効果を無効にするわ」
フィールド魔法を手札に戻したのには訳がある。少なくとも、何も考えていなかったわけでないことは、痛烈なカウンターの1枚が証明している。
無差別に引くドローの1枚よりも、サーチで引っ張ってくる1枚の方が価値があることなど、デュエリストの中ではあまりに常識。
「さらに、サブテラーの決戦の効果! リグリアードさんの攻撃力に守備力を上乗せする!」
サブテラーマリス・リグリアード
攻 2000→4700
まさに一大戦争の決戦舞台に相応しき、決死の一撃。
『……見事だ』
勝利は得られずとも、意味のある敗北であった。
悔しいという感情は無い。負けはしたが、公子程のデュエリストを追い詰めたという達成感が残り、誇らしくもあった──
───
「ごめんください」
暖簾を潜れば、食欲を擽るような匂いが出迎えた。
元は古い居酒屋であったはずが、リノベーションしたのか新築同様のような綺麗さがある店内を見渡す。空いた席を確認し、公子はカウンター席の一番端に腰を下ろした。
「お店はどう?」
と、一言。キッチンに立つ店主ことバスブレは振り返り、はにかみながら言う。
『正直、大変だな。営業前も後も忙しい』
言葉とは裏腹に、 彼なりに仕事にやりがいを見つけて楽しんでいるように公子の目には映った。経営者としての経験が無いことを不安に思わなかったわけではないが、杞憂で済んだらしい。この調子ならやっていけそうだろうと安心し、お冷を取った。
『どーも、お邪魔するで』
戦士さんの溌剌とした声を合図に、ぞろぞろと商店街パーティの面子が入店してくる。それぞれ開業祝いの鉢植えを持ってだ。
あのデュエルの後、約束通りバスブレは商店街パーティの一員となり、料理スキルを活かして飲食店経営に携わることとなった。剣士としての経歴はこれから捨てることとなるが、剣ではなく包丁を握る業界で生きていくのも、案外悪くないのかもしれない。
『公子さん、来ていたんですね』
各々が祝いの言葉をバスブレに掛ける中、ローズマリーが既に入店していた公子に気付き、隣の席に座る。
「どう? あれから」
挨拶も省き、いきなり本題へ。傍から見ると何のことかと思うかもしれないが、ローズマリーは何について訊かれているのかすぐに分かった。
『このお店ができてから、閉店後の手間が無くなって驚く程楽になりました。お客様からも評判良いんですよ』
と、携帯画面を見せてくる。ページは食べログサイト。ここ、『異世界お食事堂』に早速星が付けられている。
「オープニングから評判は好調。メンエスの方も集客が望めるし、結果としてはいい方向に転がったわね」
加えて、商店街の売上が上がれば地券を渡せと煩い徹を黙らせることもできる。一石二鳥ならぬそれ以上の功績だ。
『なあ、ハム子。今度サブテラーマリスも含め、ここで打ち上げせぇへん?』
戦士さんが個室の座敷席から顔を出し、公子に呼びかけた。「そうね……」と、考える素振りを見せたちょうどその時、注文した刺身が公子のテーブルに置かれる。
「サブテラーマリスの"七人"も呼んではっちゃけるのもいいわね」
『……七人?』
はて? TA-Lizで働くサブテラーマリスは、全員で八人ではなかっただろうか。と、戦士さんは首を傾げる。
その時、戦士さんの目に刺身が映った。公子が箸で摘むそれは、新鮮な赤身魚の光沢がある。
そう言えば従業員の一人を最近見かけていない。
『ハム子、異世界お食事堂が開店したのはいつやっけ?』
「ええと……二週間前ね」
『魚の仕入れ先を確保したのは?』
「…………二週間前ね」
『もう一つ質問ええやろか。アクエドリアはん、どこ行った?』
ローズマリーが。ジャスミンが。パーフェクトエースさんが。ルシフェルが──客として足を運んだ面子のそれぞれが息を呑む。
「アンタのような、勘のいいアルバイトは嫌いよ」
はっきりと質問には答えない。だが、理解するに十分な返答でもあった。
『ハム子ぉぉおおおお!!』
激昂し、剣を抜いて戦士さんが襲いかかって来るが、公子の顔に焦りはない。「やれ」その一言で、バスブレがエプロンを脱ぎ捨て対抗する。
※以下、面倒なので戦闘シーンをキンキンキンキンでお送りします
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
『むっ、さすがは《剣技・中級》スキルだ。固有スキルが《童貞》とはいえ侮れんな』
『転生者だかよー知らんけど、負ける気ないけんな!』
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
とりあえず描写は簡潔に済ませているが、激戦であると思っていてほしい。
二人の繰り広げる剣戟を肴に、他の面子はのんびり談笑を楽しんでいた。結局、他所の店の事情なんてわりとみんなどうでもよくて、TA-Lizから従業員が一人消えようが被害が無いならほっとけば済む話。
「やっぱり、暗黒界産のジェノサイドキングサーモンは最高ね」
彼女が食べている刺身だが、アクエドリアさんとは全く関係無い。この事実を戦士さんが知るのは、もうちょっと後のお話。
次回予告
やめて! 作者のモチベーションが下がったら、この作品が続かなくなっちゃう!
お願い、死なないで유리가!
あんたが今ここでエタったら、読者との約束はどうなっちゃうの?
ライフはまだ残ってる。次の話を書けば、更新できるんだから!
次回「유리가死す」デュエルスタンバイ!
デッキは、中途半端にハイランダー構築にしてます