タイトルそのまんまです。ネタばれはしてませんが、シン・エヴァンゲリオン劇場版:||を見た後に読むのを推奨します。

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映画を見た後の情熱そのままに書きました。




転生者:真希波マリ

 私の名前は真希波マリ。転生者だ。

 そして、転生した世界は新世紀エヴァンゲリオンの世界のようだった。それはなぜかって?

 

 前世では、エヴァオタクの一般男性であった私ではあったが、幼い頃は、その事実に気づかなかった。それよりも、自分の性別が女性に変化してしまったことに慣れるまで時間がかかった。

 成長していくに連れ、世界の状況が分かるようになっていくと、私が経験していた現代日本との差異に気づくようになった。

 

 確証を得たのは1998年、私が16歳の頃。

 飛び級で京都の大学に進学し、そこで、彼女と出会ってしまったのだ。

 

 碇ユイ。後に、新世紀エヴァンゲリオンの主人公である碇シンジの母親となる女性。物語の重要人物の一人である彼女を当然、私は知っていた。

 

 前世で大好きだったアニメのキャラクターとの遭遇、それは、私にこの世界が新世紀エヴァンゲリオンの世界だと確信をもたらせるのに十分であり、同時に興奮した。

 

 自分が物語の中で生きている。ましてや、ほとんどアニメの中で描写の無かった、碇ユイの学生時代という過去に、自分が関われることに喜んだのだ。

 

 え?絶望しなかったのかって?

 確かに、エヴァンゲリオンの世界は残酷だ。使徒と呼ばれる化け物に襲撃されるという命の危険性、それらを全て倒した後に訪れる人類補完計画という、どうにもならない終わりが待っている。原作改変の可能性は………どうだろう、私という転生者がいることを抜きにしても、ありえるとは思っている。色々、派生作品があるしね。

 

 まぁ、結局は単純な考え。

 私はこの状況を楽しもうと思った。未来に怯えるよりも、前世を後悔するよりも、今を精一杯生きよう。厳しい世界がこれから訪れるだろう。でも、

 

「生きていこうと思えば、どこだって天国になる」

「いい言葉ね、誰の言葉なの?」

 

 あなたの言葉ですよ、碇ユイさん。

 とは、流石に言えないか。

 

 大学の構内を三人の男女が歩いている。一人は私、真希波マリ。二人目は彼女、碇ユイ。そして、私達を先導するように歩く年配の男性。

 

「聖書の引用かね?」

「んー、ある意味、あたしにとっては聖書かもしれないです(オタク的な意味で)」

 

 冬月コウゾウ。ここ京都大学で形而上生物学を研究している教授だ。今、私達が向かっているのは彼の研究室。ユイさんと私は、この度、冬月教授の研究室に所属することになった。物語的には、碇ユイは予定調和。私は当然、物語のキャラクターの一人である冬月先生と交流したくてここに入りたかった。

 

「しかし、これから合う彼だったか?何かと黒い噂が絶えないと聞くが…」

「偏見は良くないですよ、冬月教授。優秀な人を教えてほしいって言ってたじゃないですか」

 

 あれ?なんか冬月先生のセリフにデジャブ感があるけど、んー?そもそも冬月先生と彼ってこの時期に出会ってたっけ…まぁいいか!エヴァの原作、細かい所で覚えてないし。

 

「そうなんですよ冬月先生。彼女、私にも教えてくれなくて」

「ふっふー♪ユイさんはお楽しみに」

 

 研究室に着き、私は冬月先生を押しのけて、扉を開けて中へと入る。

 部屋の中にいたのは一人の男性。私達が来るまで、イヤホンをして寝ていたようだ。寝起きの目を開けながら、のっそりと起き上がった。いや、冬月先生の研究室に呼ばれて、寝てるってこの頃から凄いなこの人。

 そりゃあ、彼女には内緒だよ。この瞬間をどれだけ楽しみにしていたのか。なんたって彼女が合うのは、

 

「あれ?あなた学食の」

「………B定の女?」

 

 短髪に眼鏡、学生にしては老けて見える彼。

 というか。え?二人とも既に知り合いなの。

 ………ふーん、学食でユイさんが食べたかったB定食が彼の番で終わったから、態々、取り替えてくれたと。でも、一緒に食べようとしたら断られたと。

 

「うわぁ不器用な人」

「初対面だが、私は君が嫌いだ」

「彼女が失礼なことを言ってごめんなさい!」

 

 実際にあったのはこれが初めてだったが、名前は当然知っている。なぜなら、彼も、この世界における重要なキャラクター。

 

「いや、君が謝る必要はないだろう…」

「えーと、私が意地になって、あなたを食堂で誘ったのがそもそも悪いし」

 

 二人が話しているのをニヤニヤしながら見ている私。アニメ本編では見たことがない場面だ。なんていうか初々しい。

 

「自己紹介まだしてませんでしたよね。私は碇ユイといいます。あなたは?」

「………六分儀ゲンドウだ」

 

 物語の始まりだ。彼の名前は六分儀ゲンドウ。だが、エヴァンゲリオンを知っているものならば、もう一つの名前のほうが有名だろう。

 

 碇ゲンドウ。後に、碇ユイと六分儀ゲンドウは結婚し、彼の姓が変わる。

 主人公の父親にして、妻である碇ユイを亡くしたことで、人類全てを利用して彼女にもう一度会おうとした男。そう、今、目の前にいるただの学生の二人には残酷な運命が待ち受けていた。

 

 

 

 

           ◆

 

 

 

 

 それから、暫く月日は流れる。

 私とユイさんは、冬月研究室の先輩と後輩として交流を深めていった。ゲンドウくんは結局、同じ研究室にはならなかったが、冬月先生は初めの印象から、割と彼のことを気にいっているらしい。謎だ。そして、物語の筋書き通りか、ユイさんとゲンドウくんは付き合い始めた。

 

「いろいろ話しかけてたら、やっと笑ってくれて、そしたら、可愛かったのすごく」

 

 二人の馴れ初めを聞いたときの彼女の返答がこれである。惚気話。とても幸せそうに話すユイさんに対して、私には苦痛だった。

 

「幻滅。あたし、ユイ先輩の口からそんなこと聞きたくなかったっす」

 

 ―――自分の気持ちを我慢できなくなっていた。

 

 今、私には、イギリスのセントフォード大学へ特別研修生として留学する話が持ち上がっていた。ただ、この話、正直かなり悩んでいる。おそらくだが、既にゼーレによる人類補完計画の準備は進んでいて、この特別研修生…エヴァの開発絡みじゃないかと睨んでいる、特にパイロット候補としての。

 だが、理屈ではなく感情として、私はユイさんから離れることに抵抗感があったのだ。

 

 そして、隠しきれない時は直ぐにやってきた。

 

「なにやってんすか、ユイさん」

「棚の上の資料を取ろうとして……」

 

 ある日、冬月研究室内を彼女が逃してしまった実験用のラットが逃げ回っていた。ちょっと抜けた表情をして座り込む彼女。

 私は悪態を付きながら、ユイさんの逃したラットを協力して捕まえようとした。ちょ、顔にラットがいるからって捕まえようとするのはあああ………全て捕まえ終わる頃には、私のコンタクトはずれ、長い髪の毛は大変なことになっていた。

 

「ごめんね、髪の毛滅茶苦茶」

 

 彼女の手が私の髪へと伸びる。直そうとしてくれたのだろう。だが、私はそれを避けようとして、机においてあった自分の鞄を落としてしまった。地面に落ちた私物の中に混じり、あったものは、

 

「あれ、これ私の眼鏡…なくして困ってたのよ。どうして、あなたのカバンに?」

「………」

 

 私のカバンから見つかったのはユイさんの眼鏡。

 彼女が研究室で居眠りしていた時に思わず盗んでしまった物。

 

 ―――自分の気持ちをあなたに伝えたかった。

 

 前世の男性としての意識が影響したのかもしれない。アニメのキャラクターという非日常性に惹かれたのかもしれない。

 そして、何より、実際に感じた碇ユイは、綺麗で、可愛い所があり、頭脳明晰で、優しすぎる所もあり、すべてが、

 

「憎らしい。あたしの気持ちに気づいても、そうやって態度が変わんない所も」

 

 強すぎる愛情は、憎しみへと変わる。自分の気持ちに気づいたのは、ユイさんとゲンドウくんが付き合い始めてからだろう。二人が付き合うことは知っていた。知っていたにも関わらず、幸せそうな二人を眺め続けた私は、

 

「分かっちゃったんでしょ?あなたを好きってこと」

 

 ―――自分が気持ち悪い。

 

 碇ユイに自分の感情を隠せなかった自分が嫌になる。これはただの自己満足だ。傍から見れば、女性同士。付き合っている男性もいる。論理的にもアウト。

 自分の感情でグチャグチャになりそうな私を、ユイさんは、ただ、静かに見つめていた。やはり驚きは無い。きっと、私の気持ちに以前から気づいて知らないふりをしていたのだろう。彼女は本当に聡い人だ。だから、その提案は意外だった。

 

「座って、髪の毛直してあげる」

「え?」

 

 碇ユイが乱れた真希波マリの髪の毛を、手櫛で整えていく。不思議な気持ちだった。互いに何の言葉もないのに、心も整っていく。

 暫く、髪をすく音だけが部屋を包む。後ろに立つユイさんの表情は分からない。ただ、私の言葉を待っているように思えた。

 

 子供のように自分の気持ちを抑えられなかったことを自覚する。あぁ、私もユイさんのように、誰かと好き合い、想いを通じ合えれば、彼女のように―――大人になれるのだろうか。

 

「ごめんなさい、憎らしいなんて言って。あたし留学するんです、来月からイギリスに」

「そう………」

 

 謝罪する。そして、留学をすることを決めた。

 これは、私の人生だ。ここがエヴァンゲリオンの世界だとか関係ない。私は、今、自分の意志でこの世界を生きていくことを決めたのだから。

 

「メガネ、欲しいのならあげるわよ」

 

 好きな人のものを欲しくなる。ただ、そんな幼い気持ちで盗んだ眼鏡を、ユイさんは私にくれた。これはきっと餞別。嬉しかった、ユイさんに嫌われなくてよかった。大事にしよう。

 ユイさんに眼鏡をかけられ、かわいいと口にする彼女と、照れる私。手鏡に映る私はいつもと違い、眼鏡と左右に別れた髪が印象的だった。けれども、自分で言うのもなんだが………とてもこの姿が似合っている気がした。

 

「ゲンドウくんとの幸せを願ってますよ。遠い空の向こうから」

 

 失恋は人を大人にする。

 だから、彼女を大事にしろよ。ゲンドウくん?

 

「うん…ありがとう。真希波マリさん」

 

 私の名前は真希波マリ。転生者だ。

 真希波マリというキャラクターが存在しないことを転生者である私は知っている。これから、進んでいく物語。私はどんな影響を与え、どんな結末を迎えるのかは分からない。だからこそ―――面白そうじゃん♪

 私の人生は始まったばかりだ。





 色々シン・エヴァンゲリオン劇場版:||の解説動画とか見たけど、真希波マリの正体がはっきり分からないから、自分で考えてみた結果。エヴァオタクの男が転生、というとんでもない独自解釈が生まれました。

 前世エヴァオタクの一般男性。新劇場版の情報が皆無です。知らないから序、破、Q、シンみたいな展開になっていくんだろうなぁと思いました。(多分どんどん女になるぞ)

 続き書きたいけど、本気でマリの設定が分からん。イギリス留学の直後にエヴァの呪いで、年をとらなくなったとしか思えない。何かいい考察あったら教えて下さい。


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