白と黒の世界は夢を見る   作:haru970

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お待たせいたしました、次話です。

楽しんで頂ければ幸いです。


第154話 World's At End

『自己認識』が戻った『母上』の一部は生まれたての無垢な、新しい生と同然だった。

 

 周りの全てが新しく、新鮮で興味を持つには十分過ぎた。

 

 だがやはり『大きなモノ』の一部だっただけに、『普通』では無かった。

 

 


 

 

 

 

 

 

 ___________

 

 瀞霊廷内 残存兵組 視点

 ___________

 

「気味が悪いな」

 

「そうだね」

 

 瀞霊壁と虚圏の砂を応用した壁の上で一角の独り言に弓親が相槌を打つ。

 

 彼らは他の十一番隊の者たちと同じく壁沿いの接近戦用遊撃隊に組み込まれていた。

 やはり『護廷十三隊最強』と自称することだけはあり血気盛んで士気もかなり高い彼らは席官と隊士を含め、大半が全ての遊撃部隊に配置されていた。

 

 一角が『気味が悪い』といった景色は泥砂へと化した地盤の上で半壊し、急遽堀となって燃える流魂街を『白』が徐々に覆いつくす景色とそれに伴って大きくなっていく『音』だった。

 

「まるで濁りすぎた酒じゃのぉ」

 

 ギィィィィィィ! ギギギギギギギィィィィィィ!

 

「音はせせろーし(うるさ)いだけじゃし最悪の気分じゃ」

 

 一角たちと共にこの光景を見ていた鉄左衛門の言った『音』とは耳をつんざく、細い鉄パイプなどに空気を力尽くで通す様なモノで、まるで由緒ある協会などで良く見るオルガンが壊れても無理やり演奏を続けたときに聞くような音だった。

 

「(酒に例えるのはどうかと思うが……というか俺も言えねぇか)」

 

「ほほほほほら仙太郎! 威張るチャンス到来だぞ?! なななな名にビビってんだ?!」

 

「おおおおおお前こそ足ががくがく言っているではないか清音?!」

 

「ばばばばバカ言え! これは武者震いだ!」

 

「(こっちはこっちでガチガチに緊張しすぎるし)」

 

 鉄左衛門たちの近くにいた海燕は後ろの明らかに震えている清音と仙太郎を肩越しに見る。

 

「(けどそうも言っていられないな……)」

 

 なお海燕は巻いていた包帯などは極力見えないように工夫して何とか前線に立つことを四番隊の反対を無視していた。

 

 壁沿いには様々なライフル型霊子兵装を構えた魂魄と漸術より鬼道に長けていた死神たちが緊張を殺すために無表情なまま燃える流魂街を見下ろす。

 

 壁の真ん中辺りでは、吉良が自分の部隊から少し離れていた。

 

「雛森君、本当に大丈夫かい?」

 

 彼と同様に隊を任された雛森へ確認をしていた。

 彼女がいたのは激戦区と予定されていた場所故に、一番戦力が集結されていた。

 

「うん……私だって、護廷だもの。 私の出来ることをやるだけだよ」

 

「そうかい。 そう言うのなら、もう僕からは何も言わないけど……」

 

 この二人のやり取りを、後ろで見ていたとある三人組がひそひそ話をする。

 

「うわぁ~……吉良副隊長って、雛森さんと日番谷隊長がなんか良い雰囲気になっていること知らないのかな?」

 

「ん? どういうこと田沼君?」

 

「おま?! マジかよ、櫃宮(ひつみや)?」

 

 五番隊の席官三人衆である。

 

「まぁ……櫃宮だからね」

 

「そうだな」

 

「え?! どういうこと? 確かに二人ってかなり会う頻度が上がっているけど────?」

「「────そういうことだぞ櫃宮」」

 

 だもんで(だから)どういうこと?!」

 

 さらにこれを見ていた市丸は、ニヤニヤしながら口を開けていた。

 

「なんや、吉良ってば相変わらず運が無いなぁ」

 

「元隊長だったお前に言われちゃ終わりだな」

 

「まぁまぁ、そう言わんといてぇな」

 

 ジト目のカリンに、糸目の市丸がいつもの調子を出す。

 

「しかしまさか護廷十三隊がこれほど強化されていたのは意外だったな……特に五番隊が」

 

 東仙がぼやいていたのは『蛆虫の巣』から出た後、瀞霊廷の異変に臆することなくせっせと動いていた副隊長と席官たちに五番隊の隊士たち。

 

「隊長────」

「────私はもう、隊長ではないよ檜佐木くん……」

 

「そう言っても、こうやって肩を並べている間だけでも呼ばせて頂きます。 癖なもんで」

 

「……好きにしろ」

 

 吉良が戻っていった先には恋次、ルキア、そして乱菊たちがいた。

 ちょうど海燕たちから雛森を挟んで反対の場所で彼らは無言でただ目の前の燃える流魂街を見ていた。

 

「……………………燃えているな、ルキア」

 

「ああ、そうだな」

 

「………………(あまりいい思い出はないけど、高目の前で破壊されちゃあちょっとアンニュイになるわね)」

 

 前線から少し後方へと移ると七緒とリサが待機している予備隊の指揮をとっていた。

 

「……………………」

 

 そして七緒は震えそうになる手で、ギュッと分厚い本を腕で抱きしめていた。

 

「怖いか、七緒?」

 

「……」

 

 七緒は答えず、ただ眼鏡を震える手でかけ直しながらそっぽを向く。

 

「安心しぃ。 ウチも怖いわ」

 

「え?」

 

 リサの意外と素直なカミングアウトに七緒は目を丸くさせながら彼女を見る。

 

「今にでも叫びたい気分やけど……真子のアホがな? 昔言うとってん、『下の(モン)は上の奴の態度見て出せる力が比例する』ってな。 せやから怖くても、目の前の事に目ぇ離したら他の奴らも外す。 敵の前でそないなことしたら『ジ・エンド』やわ」

 

「……え? そこは『ザ・エンド』じゃないんですか?」

 

「真剣な話してんのに、どこかの生意気な金髪マセガキみたいに言わんとき」

 

「……………………本の続き、一緒に読みましょうね?」

 

「アホ。 言われなくとも続きが気になるから当たり前のことや」

 

 さらに後方では壁全体を見渡せる瀞霊廷でも高所なビルに雀部が全体の指揮と、救護班の指揮をするために勇音が無線機を持っていた。

 

「……………………………………」

 

「(凄い。 伊達に長い間一番隊の副隊長はやっていない。 こんな状況なのに汗一つ書いていない)」

 

 勇音はこの状況下でも表情を崩さず、平然とする雀部の横顔をチラチラと盗み見る。

 

「どうした、虎徹副隊長?」

 

「ヒェ?! い、いえ! ただその……ええと……『涅副隊長はどこかな~』って」

 

「彼女ならば戦力外とみなされた技術開発局総員で別件に取り掛かっている」

 

「そ、そうですか」

 

「「………………………………………………………………………………」」

 

 気まずい沈黙を、勇音がまたもや破る。

 

「そ、それで卯ノ花隊長は?」

 

「………………今は目の前のことに集中することを推薦する」

 

「は、はい!」

 

「(とはいえ、未だに音沙汰なしとは少々……いや、かなり不安だ。 そろそろ犠牲を承知の上でこちらから接触をするか?)」

 

ギギギギギギギィィィィィィ

 

「……始まるか」

 

 人工破面たちが出す、けたたましい音がさっきより大きくなったところで流魂街の魂魄たちや多数の死神たちが目に見えて動揺し始めたところで雀部が無線を通して初めての指令を出す。

 

『壁の鬼道発砲隊、総員準備! 初撃は命令あるまで待ち、その後は魂魄たちの一発に隊士たちは二発撃ちを開始!』

 

 ここで彼が言った撃ち方とは単純に『不慣れな魂魄の遅れを死神たちが補う』と言ったもので、出来るだけ攻撃にリズムをつけて一定の時間に安定した攻撃回数を行うためのモノだった。

 

『副隊長たちへ、笛の使用は任せる。 遊撃隊は近くの笛が鳴れば速やかに向かって対処をせよ』

 

 

 

 やがて燃える流魂街を数にものを言わせるかのように、人型の人工破面たちは焼けて死んでいった斥候型たちの遺体の上を前進しながら近付いていった。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 『ギギギギギギギギギギ!』

 

 瀞霊廷内部、四十六室の議事堂近くにある貴族街の中では微かに聞こえてくる音に下級貴族の私兵や死神たちの何人かはゴクリと喉を鳴らす。

 

 最初は『瀞霊壁を突破した少数の敵の相手だけをする』と思っていた彼らだが吉良の説得の話を聞いた後では尋常ではない数が攻めてくることを知り、それが楽観視した考えと痛感していた。*1

 

 だが既にその時から逃げ出そうと思っても四十六室たちのように身軽ではない彼らはさらに瀞霊廷内での籠城に励んだ。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

「(クソ!)」

 

 その中に、かつてないほどイラつきながら油煎餅を頬張る大前田の姿があった。

 

 忘れがちだが彼は二番隊の副隊長であると同時に隠密機動、そして家柄は金持ちのボンボンで彼自身も『大前田宝石貴金属工場』の社長を兼任している。

 つまり彼も一応は『上流階級(貴族)』と部類され、彼と彼の家族は周りの者たちに悲願されて貴族街の守護を頼まれた。

 

 最初大前田は『ふざけんな! 俺は家族を連れて逃げる!』と思っていたが、意外なことに父親である希ノ進(まれのしん)がほかの者たちの頼みを聞き、了承していた。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

「(しかも『希千代()が指揮をとる』ってどういうこった?! 親父(おやじ)は何を考えてんだ?!)」

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!

 

 大前田は隠し切れないストレスを、油煎餅をかみ砕くことで発散しようとしていた。

 

「チッ!」

 

 だが袋が空になったことで、彼はその袋を地面へと叩きつける。

 

「おー、おー。 荒れてるねぇ~?」

 

「お、親父?!」

 

 大前田の背後から声をかけたのは同じ体系と顔、そしてパーマのかかった髪の毛の『大前田希ノ進(まれのしん)』。

 

 見た目はどこぞの悪趣味なチンピラと○ヤをミックスしたようなもので、ついさっきまで大前田が愚痴っていた父親本人である。

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

 あれからずっと喋っていた。

 

『2013年』で会った、『黒崎織姫』や『黒崎一勇』にコンたちから聞いた話などを。

 山本のじいさんの代わりに、京楽さんが総隊長になっていたこと。

 浮竹さんが死んだこと。

 

 

 1991年の6月17日に、死んだおふくろ(黒崎真咲)のことを。

 

 等々。

 

 多分、聞いて欲しかったとかじゃなくて……

 自分自身の気持ちを落ちつかせたかったんだ……

 と思う。

 

 時々チエが『そうか』という相槌をしてきているが、本当に話を聞いているのかわからない。

 

 それほど没頭していた。

 

 やがて喉は乾き、

 

 

 疲れたのか、

 

 

 

 

 目の前が真っ暗になっていき、気付けば体に力が入らなかった。

 

「……?」

 

 

 ガクッ。

 

 

 「……一護?」

 

 

 

 ___________

 

 『渡辺』チエ 視点

 ___________

 

「……一護?」

 

 名前を呼ぶも、一護は目をつぶったまま首をだらりと垂らしていた。

 

 彼女が彼の近くに寄ると首が汗だくで頬がやつれていたことにやっと気付く。

 

「……………………マズイ」

 

 チエは思わず言葉を口にしながら彼を横に寝かせる。

 

「(しまった、()()()()())」

 

 前に彼女が言ったように、彼らがいる現在地は『死んだ世界』。

 

 さて、ここで『死んだ世界』が何たるかの説明を簡略化すると『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』となる。

 

 現在の地球ではすべての生物は何らかの形で生きるため、世界に依存している。

 

 それが『酸素』や『大気』であれ、『紫外線なしの陽光』や『菌の含めた大地』であれ。

 

 

 

 

 霊体を保つ『霊力』であれ。

 

 

 

 それらが無い環境で生きていこうとすると、体は自然と持ち前のモノを代わりに取って生命活動を続けようとする。

 

 そして一護は文字通り、『生きる為に命を削っていた』。

 

「(どうすれば良いのか分からなかったのならば、今するべきことは────)」

 

 ザシュ!

 

 チエは自分の刀を鞘から出し、左手を深く斬った。

 

「(────一護をもとの世界に帰す)」

 

 その傷口から垂れだす血を横になった半開きになり、ヒューヒューと弱っていた一護の口へと持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………………………………………………死ぬな、一護」

*1
150話より




ピコーン♪ ←過去アンケートからのフラグ音


余談の追伸:
年度末の会計を今の今までサボって別部署の人にそれらを手伝わせようとする人たちなどはリアルでお断りしたいです。
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