白と黒の世界は夢を見る   作:haru970

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お待たせいたしました、少々長めですがキリが良かったところまでの次話です。

いつもお読み頂きありがとうございます。
まだまだカオスですが、楽しんでいただければ幸いです。


第169話 iF and Is

 ___________

 

 京楽春水 視点

 ___________

 

「これは……一体どういうことだ?」

 

 横にいる、昔からの同期である浮竹が困惑する声を上げる。

 

 その気持ちは僕にもわかるけどね。

 

「う~ん、どうしようか?」

 

 そうのほほんといった口調は僕の口から発してモノではない。

 

 相手の言ったことには僕自身、同感だけどね。

 

「困ったねぇ」

 

 僕の目の前の男はそう言いながらボリボリと頭を手に持った双剣の片割れの塚で掻く。

 

 隊長の羽織の上に派手な着物を羽織り、無精髭を生やし、長い髪を一つに束ねて簪で留めていたナイスミドル。

 

 それが僕の前に立ちはだかった男の()()

 

 ……うん、逃避するのはここまでにしようか。

 ぶっちゃけると右目を覆う眼帯と()()()()()()()()以外、僕そっくりの男が目の前にいる。

 

「なぜ……いや、これも『鏡花水月』なのか?」

 

「そうだったらどれだけ気安いことか……」

 

 ん?

 一瞬だけだが相手の、浮竹へ向けた目が泳いだ。

 どういうことだ?

 まぁ、いいか。

 ダメもとで訊いてみよう。

 

「そこ────」

「────したいのは山々なんだけどねぇ?」

 

 僕の『そこをどいてくれないかい?』という質問が終わる前に答えた、ということは……

 

「ああ、ちなみに『お花』にえぐられたわけじゃないからね? コレ。」

 

「ッ」

 

「『お花』まで知っている……だと? まさか……」

 

 眼帯を指で刺しながら放った言葉に一瞬だけ、僕そっくりの相手の言った動揺が顔に出そうになったのを浮竹の声に集中しながらグッと抑え込む。

 

『お花』ってのは僕と浮竹、あとはリサちゃんと山じいぐらいしか知らない筈。

 僕の斬魄刀に宿る魂の名前で、表に出てくるのは卍解時ぐらい。

 しかもその卍解ってのも使ったのは、あのリジェとか言う滅却師相手*1で、その時に『お花』は出てこなかった……

 

 つまり、目の前の男は────

「────ま、大方()()()()()()ってわけさ。 君は僕……ああ。 この場合、『僕は君』ってことになるのかな? それが嫌なら『君の記憶を持ったナイスミドルのそっくりさん』でもいいよぉ?」

 

 ………………………………いやはや、嫌だねぇ。

『考えていることが分かってしまう相手』ってのは?

 

 そう内心では思いながら相手────もうこの際だから『眼帯京楽』と名付けて────を見ながら次の一手を考える。

 

 雰囲気で隣の浮竹が同じようなことをしているのが分かる。

 

 やっぱり頼れる奴が近くにいるのは良いねぇ~。

 

「う~ん、こんな状況じゃなければ『静観しない?』って誘っているんだけどねぇ~」

「んで、懐に忍ばせた酒を飲みかわすのも一興だねぇ~」

「「いいねぇ~」」

 

「その時は、俺が大福を出そう!」

 

「「「はっはっは!」」」

 

 笑いと雑談を口にしただけなのはまるでお互いが分かりきっていたかのように、『花天狂骨』同士がぶつかり合い、火花を飛ばす。

 

 ガァァァン!

 

 今度は『眼帯京楽』の背後に回った筈の浮竹は『影鬼』を使って更に浮竹の背後に回った『眼帯京楽』の攻撃を『双魚理』で防ぐ。

 

「クッ! 『影鬼』まで?!」

 

「残念無念、またおいで♪」

 

 眼帯京楽の言葉を頭の片隅に置いて、浮竹とアイコンタクトをとる。

 

『まずいね、こりゃ。』

『ああ。 “お前と同じ”と仮定して動いた俺たちの攻撃がこうも簡単に読まれたということは────』

『────うん。 敵さんは僕たちより一枚、二枚上手(うわて)だってことだね』

『それにお前の記憶を持っていることを踏まえると、俺たちの動きも能力も知っている……厄介だな。』

『本当にねぇ~』

 

 それにしても、さっきから浮竹を見るのを避けているのは僕の気のせいかな?

 

ううん。 きのせいじゃないよ?

 

 だよねぇ~。

 

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 綾瀬川弓親 視点

 ___________

 

 ガァン!

 

 激しく、けたたましい音が『藤孔雀(ふじくじゃく)』と『藤孔雀(ふじくじゃく)』に似た相手の武器から発する。

 

 こちらでも、京楽の様に二人の弓親ーズが怒りの表情を露わにしながら対峙していた。

 

 「「ボクが一番美しいんだ!」」

 

 失敬、『怒り』ではなく『イラつき』だった。

 

「断じて認めないぞぉ! 目の周りのシワが目立つボクなんてぇぇぇぇ!」

「肌が潤い過ぎるほどにスキンケアをしているお前がボクなもんかぁぁぁぁ!」

 

 しかも『同族嫌悪』の類である。

 

 ギィンギィンギィンギィンギィンギィン!

 

 「「折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろ折れろぉぉぉぉ!!!」」

 

 完全にクールホーン対峙時より明らかな同族嫌悪丸出しの、戦術も戦略もへったくれもないただのどつきあい斬りあいである。

 

 一応己のプライドをかけた戦いだが見ていてげっそりするような内容を二人の弓親は叫びあっていた。

 

「真に美しいのはボクだけだ、この偽物が!」

「この年増ぁぁぁぁぁ!」

 

にたものどおし。

 

 「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?!」」

 

 

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 班目一角 視点

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 「「おらぁぁぁぁ!」」

 

 バキッ!

 

 弓親ーズの近くでは、一角ーズが拳で互いを殴り合っていた。

 

 近くにはボロボロになり、ガラスにヒビが入ったような『龍紋鬼灯丸』が二つ。

 

「「プッ!」」

 

 互いが口の中が歯と擦ったことで出来た傷の血を吐き出す。

 

「やるじゃねぇか! 流石はオレだ!」

「テメェこそな!」

「褒め言葉と取っておくぜ!」

「良いぜ! 褒めてんだから、よ!」

 

 ドッ!

 

 二人の拳が互いの拳を相殺した今、今度は蹴りがぶつかり合う。

 

「(しっかしどうしたもんか。 こいつが『オレ』と仮定して、このままじゃ埒が明かねぇ。 斬魄刀も早々に封じたがオレのも今は使い物にならねぇ。 それに、気のせいかこいつの方がオレより少しだけ戦い慣れているような気がする。)」

 

そのとおり。 けいけんがちがう。

 

 一角が感じたように、同じビー玉頭『相手の一角』は攻撃を受ける際に体の重心を上手く使って打撃を急所からずらしていた。

 

 その所為か、この二人の喧嘩はさながら『ケンカ屋VS元ケンカ屋カウンター特化したボクサー』の様だった。

 

 

 

 ___________

 

 更木剣八 視点

 ___________

 

 「「ハァーハッハッハッハッハッハッハ!!!」」

 

 ギィン! ギィンギィン

 

 クリークとゲンドウ更木たちの狂ったような、愉快な心の奥底からくる笑いと彼らの斬魄刀が激しくぶts(以下略

 

「(チィ! 『オレ』だけあって強ぇのは期待通りだが────!)」

「────どうしたぁぁ?! そんなもんかよぉぉぉ────?!」

「(────こいつ、霊圧が半端じゃねぇ!)」

 

 …………………………………………………………いや、よく見ると一角の状況に似ていた。

 

『髪を更に伸ばした更木』が更木を僅かにだが押していた。

 

「(だが、()()()面白れぇ! つまりは()()()()()()()()()()()()()ということだ!)」

 

うん。 そう。 ぜんりょく。

 

 更木の笑みは更に深くなり、彼の攻撃は一層激しさを増したことで『髪を更に伸ばした更木』の笑みも深まっていった。

 

 それはまるで、互いの全力をぶつかり合うことができる子供の無邪気なようなものに似ていた。

 

 

 ___________

 

 雛森桃 視点

 ___________

 

「「『飛梅』!」」

 

 シュボォン!!!

 バシュン!!!

 

 極大の火の玉が互いにぶつかり合い、その余波の音が鳴る間に鬼道が反鬼相殺(はんきそうさい)する音が響く。

 

「そこをどいてください!」

「ダメです! ここは、貴方が退くべきです!」

 

 本来(原作)の雛森ならば戦闘中とはいえ、『何故』と訪ねていたかもしれない。

 

 特に自分と容姿が髪型以外瓜二つの相手ならば、そのことも含めて聞いていたかもしれない。

 

「『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』!」

 

「ッ!」

 

そのまま。 とまどっている。

 

「(行ける! 相手が誰であろうと、邪魔をするのなら倒す!)」

 

 だが雛森は間髪入れずに、次の鬼道を詠唱破棄で行使したのは『雛森(?)』にとっては予想外だったらしく、鬼道を躱したところで次の行動に移っていた。

 

 

 ___________

 

 ??? 視点

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 チエと一護、そして山本元柳斎は走り、突然現れた者たちが背後で上記の争う衝突が起きる前に進んでいたことで、背後から衝突音が聞こえていた。

 

「後ろに控えてもよいのじゃぞ?」

 

「冗談。」

 

「この兄弟子に────」

「────チエ、これを」

「────聞けやコラ。

 

 ちょっと(?)イラつく山本元柳斎を横に、一護はチエに注射器のようなものを渡そうとしていた。

 

「マユリの野郎が治療薬だって────」

「────お前が持っておけ。」

「そっか。」

 「儂の方が長く知っておるのに……」

「ほい、爺さん。」

 

 ポイ。

 

「ぬわっとととと?! こンのバッカモンが! 急に投げるでないわ!」

 

 チエのバッサリと切って捨てるような物言いに一護は嫌悪感を覚えることなく、それを山本元柳斎に今度は渡す(投げる)

 

「二人は仲がいいのか?」

 

「「どこが。」」

 

 ドォン! ズドォン!

 

 三人が走るのは何も廃墟と化した空座町の上だけではなく、先ほどから『三号』が重力か何かを操って半分水没した瓦礫などが飛来し、彼らはそれを逆に足場にして追いつこうとしていた。

 

「陛下。」

 

「「ロバのおっさん。」」

 

「ングフ!」

 

 彼らの背後から近づいてようやく追いついたロバートの呼び方を聞いた山本元柳斎は口を手で塞ぎ、ロバートは彼らを正すような素振りを見せなかった。

 

 笑いを堪えようとする山本元柳斎を気にもしないような様子から諦めたのだろう。

 

「そういや聞けなかったんだけどよ、アンタ達────」

「────おしゃべりはそこまでせよ」

 

「な?!」

 

 山本元柳斎の両目が開かれて見た先には一人の男が前方にいて、彼を見たロバート達の誰かが上記の驚愕に満ちた声を出していた。

 

「重国。」

 

「なんでしょう、師匠?」

 

「任せる。」

 

「うむ、任された。」

 

「行くぞ、一護。」

 

 そう言うチエはそのまま走ることを辞めずに進み、一護は横目でモジャモジャのモミアゲをした男をどこかで見たような違和感から思わず通り過ぎるまで見入った。

 

 

 

 

「(なんか、『斬月のおっさん』に似ているな?)」

 

 一護はそう考えながら再度前を向いて知恵の後を走る。

 

 ___________

 

 山本元柳斎 視点

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 上記の様に戦っていた者たちとは少し距離の空いた場所に、背中部分に『一』と書かれた隊長羽織が遠くの戦いや衝突の爆風に沿って宙を舞う。

 

 山本元柳斎は一護たちと別れ様に隊長羽織を脱ぎ捨て、鞘から抜いた『流刃若火(りゅうじんじゃっか)』を手にしながら眼前の者を開いた両眼で見ていた。

 

「千年ぶり、と言ったところじゃのぉ?」

 

「老いたな、山本重國(やまもとしげくに)。 だがその闘気は若き日にも重なって見える。」

 

「ぬかせ、()()()()()()。」

 

 山本元柳斎の前に立っていた『凄いモミアゲの男』(三月命名*2)────ユーハバッハが立っていた。

 

「な………………ぜ…………」

 

 この景色を見たロバートを含めた元星十字騎士団たちにとって、これは『驚愕』を通り越して『戦意喪失』へと直結させ彼らの進む動きを止めるに至った。

 

 何せ自分たちが『居なくなった』と思われた頭領が目の前に現れたのだから。

 

 現にスピードが売りだったハズのロバートは足の力が抜けたのか、股を地面に着けていた。

 

「(……ふむ?)」

 

 だがかつての宿敵を前にした山本元柳斎はただ冷静にユーハバッハを観察していたところで、小さな違和感に気が付く。

 

 それは────

「(────部下を軽んじる悪辣な態度から……ではないな。)」

 

 山本元柳斎は背後で様々で複雑な感情で立ち尽くした滅却師たちを見る。

 

「(こやつにはまるで()()()()()()()()()。)」

 

 このことは横を一護たちが素通りしたところから違和感を生んでいた。

 

 最初こそ『眼中にない』といった気持からの行為と山本元柳斎は思っていたが、それでも強者であればあるほど、無関心でも一瞬の警戒ぐらいは無意識にする筈。

 

 それが新手の観察や力量を図るためとはいえ。 

 そしてそれが目の前の男からは全然感じ取れなかったのだ。

 

 ユーハバッハは剣の形をした霊子兵装を手にすると、山本元柳斎は刀を両手で構えた。

 

「(じゃが関係ない。 さっさと終わらせ、藍染たちの全てを今度こそ終わらせるだけじゃ。) 卍解、『残火(ざんか)太刀(たち)』。」

 

 そう彼が言うとさっきまで蒸し暑くなっていた大気がスンと乾いていき、刀身を覆っていた炎が消えて代わりに黒く焼け焦げながら煙を出す刀身になっていた。

 

「『残火の太刀』は炎の全てを一刀に封じ込めた卍解。 一度振るったが最後、斬るもの全てを爆炎で焼き尽くす豪火(ごうか)の剣。」

 

いっきにおわらせる。

 

「何故ここにお主が出てきたのかは知らんが、一振りで終わらせるぞユーハバッハ。 現世から穿界門を通って来たここは恐らく尸魂界のどこか。 故に尸魂界も儂も燃え尽きる前に終わらせる……『残火の太刀“北” ────』」

 

 ここで山本元柳斎はハッとする。

 

「(なんじゃ、これは? 儂は……()()()()()?)」

 

 彼を襲ったのはデジャヴにも似た、本能が叫ぶ感覚。

 

 それは熟練の戦士であれば『直感』、あるいは『虫の知らせ』の類での『何かを見落としている』という警報。

 

 それを山本元柳斎は気付いたからには一度体勢を立て直す為に動こうとしてまたも違和感を持つ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()のだ。

 どれだけ力を入れようにも、腕も足もがまるで脳からの信号を拒絶するように彼は動いていた。

 

「────『天地灰尽(てんちかいじん)』。」

 

いっきに、おわった。

 

 

 

 

 ___________

 

 黒崎一護 視点

 ___________

 

「ようやく、私の前に立ったか。」

 

 マイさんに見た目だけ似ている『三号』とやらが冷たい声で、そう俺と横にいるチエに話しかける。

 

「それで私を斬りつける気?」

 

 彼女の目線は俺の両手に構えられた天鎖斬月に向けられる。

 

 いつもの俺なら『そうだ』とか『当たり前だ』とか啖呵を切っているが、今の状況だけにただ無言でいた。

 

「終わりだ。 お前が『三号』でも、『三月』だとしてももう関係ない。 お前を、殺す。」

 

「ふぅん? ……それ、殺せないフラグを立たせているわよ? 知っている?」

 

 俺の脳裏を過ぎったのは旗……を掲げる巨大メカを操る無口な少年。

 ………………あまりのドタバタ連鎖で精神的に疲れているのか?

 それでも俺は喋っている奴から目を離さないが。

 

 

「ま、それは良いわ。 ()()()()()()()()()

 

『三号』とやらの言ったことに無意識に体に緊張が走る。

 

『やってしまえ』。

 つまり、近くに奴の味方をする奴が動くはずということ。

 あるいはブラフで注意を散漫にさせるのが目的。

 

「カッ」

 

 横のチエから珍しく何かを吐き捨てるような声が聞こえ、何事かと横目を思わずやってしまったその時だった。

 

「ぇ」

 

 吐息を吐き出す流れにそんな気の抜けた声が喉を出る。

 

 耳朶を襲う心拍音が横目で見た光景で音量を増していく。

 

『嘘だ』と言いたいが為に視線を、意識を恐る恐ると横へと向けながらも理性が『見るな!』と叫ぶ。

 

 周りの音は心臓の鼓動だけに埋め尽くされたその時、俺はもろに横を見た。

 

 パクパクと何かを言っているはずのチエ。

 

 彼女の胸に突き刺さった黒い刀。

 

『天鎖斬月』だ。

 

 そして────

 

 ────それを掴んでいた、何か青い色をした血管のような模様が浮き出た()()()()

 

 全てがシンと静まり返る。

 少なくとも、俺の耳から脳に音は伝わっていなかった。

 

 ただただ馴染みの胴体を横からさして自分の体を信じられずに見ていた。

 体感では何分にも感じたそれは、おそらく何秒間にも至っていなかっただろう。

 

「なん、だ」

 

 周りの音と時間が再開したのはようやくカラカラになった喉から俺自身が意識して出した言葉が聞こえた頃だった。

 

 何故なら丁度その時に、俺の腕が独りでに『天鎖斬月』を横へと突き刺さったまま動かした。

 

「どうなっている?! どうしてだ?!」

 

「グッ……」

 

「どうして俺は斬った?! どうして俺の腕は言うことを聞かねぇんだ?!」

 

 俺は自分の左手で『天鎖斬月』を握っていた右手を掴んだ。

 

 もうすでにチエを斬った後だというのに、これ以上勝手に動かないように。

 

「ッ」

 

 ドッ!

 

「ぐぇ────」

 

 自分の言うことを聞かない右腕を見ている間、誰かが蹴りを入れてお腹が圧迫されたことでまたも気の抜けた声が出る。

 

 その『誰か』ってのも、見慣れたブーツを見ればすぐに正体は分かった。

 

 俺は自分を蹴った馴染みへと見上げると俺の方へとを向いていたチエの近くに『三号』って奴が一気に距離を詰めていて、馴染みの横顔に手をかざしていた。

 

 見た目はマイさんに似ているとしても、あの人が決して見せないような妖艶で、邪悪で、勝ち誇ったような、歪んだ笑顔をしながら。

 

「────勝った。」

 

『三号』の奴がボソリと、ほくそ笑みながらそう言うと俺の腕は既に『天鎖斬月』を振ってチエから距離を取らせる。

 

 ガクッ。

 

「お、おい!」

 

 地面を見ると、まるで眠っているかのように瞼を閉じながら項垂れるチエに声をかけるが聞こえた反応はなく、目の前の女性に視線を戻して睨む。

 

「テメェ……何をした?!」

 

「生きているわよ、ちゃんと。 ええ、『生きている』わ。」

 

「どういうことだ?」

 

「ああ、内容については私も知らないわ。 一応は数ある多次元でも『念願成就の世界線』だもの。」

 

「(『生きている』って……まさかそのままの意味か? けど体がここにあるってことは……)」

 

「今頃彼女はどんな記憶をたどっているのかしら? 貴方たち人類の味方をするふりを維持しながら誘導しているのかしら?」

 

「(ふり……だと?)」

 

「あ! それとも復讐に世界の全てを殴殺しているところかしら! 今まで見せていた、偽善なんかよりもよっぽど自然的ね! そう貴方たちも思わない?!」

 

『三号』が俺の背後へと視線を移すと同時に、数人の気配が感じ取れた。

 

「まさかこんな形でオレ達が活用されるとは……」

「まぁ、カリンの気が重くなるのは同感です。 面倒臭いです。」

「でも……それが役目ですから……」

「「クルミの代わりに?」」

「クルミ姉様の代わりに。」

 

 知人たちの声が聞こえてわずかに頭を回してみると予想通りにカリン、リカ、そして現世で井上(織姫)と一緒にいたはずのアネットがいた。

 

「分からないわね。 貴方たちでは()()()()()()。 これは通りよ?」

 

「ええ。 貴方の言う通り『勝てない』でしょうね。 ですが────」

 

 リカが珍しく袖の中から手を出して眼鏡をかけ直す。

 

「────『相打ち』ぐらいには持っていけるでしょう?」

 

 空気がピリピリとしていく中、『三号』は笑みを浮かばせながらも自分の頭皮を髪の毛ごと掻きむしる。

 

「分からない。 理解できないわ。 なんでそこまで肩入れできるの? どうせ皆死ぬのなら同じでしょ?」

 

「そうですね。 皆、いつかは死にますけどタイミングぐらい自分で決めさせたらどうですか?」

 

「無駄よ、無駄なのよ! 無駄無駄無駄無駄無────!」

 

 フッ!

 

 どこか錯乱する狂人のような声を出し始める『三号』の頭上にいつの間にかツキミが殴るように腕を振りかぶっていた。

 

「『気配遮断(A+)』と『敏捷A』なめんなや────!」

 

 ガシッ!

 

「────って、うっそやろ?!」

 

 ゴッ!

 

 ツキミが驚愕するのは無理もない。

 人型であるが故の、完全に死角となる頭上から『三号』を襲ったはずのツキミを、『三号』の体は完全に人間の可動域を無視したように頭を上げて目を合わせ、ツキミの突き出した手刀を片手で掴んで引き込み、もう片方の手でツキミの顔を殴っていた。

 

 それが合図だったかのように、カリンたちが一気に様々な角度などから襲う。

 

アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!

 

「一護。」

 

「っと……三月、か?」

 

 背後にチョコンとチエの顔覗き込むようにいたのは俺の知る三月────より若干若かったような気がする。

 

「お前、縮んだか?」

 

「うっさい。 出力不足なんだから勘弁してよ。」

 

 三月はペシペシと知恵の頬っぺたを叩く。

 

「ほら、チーちゃん起きて。 でないと私たち全員が危ないわ。」

 

「…………………………やっぱそうなのか?」

 

 俺もそれとなく三月の隣でしゃがむと彼女は頷く。

 

「うん。 リカの言ったように『相打ち』なら出来る……と思う。 けど被害がどれだけ出るかわからないからチーちゃんが必要になる。」

 

 先ほどから視線をずっと話さない彼女につられて、俺も寝息をするチエを見る。

 

「(一体、どんな夢を見ているんだろう?)」

 

 場違いにも、そう思っていたのは果たして俺だけだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 チュン、チュチュン。

 

「……あさ?」

 

 小鳥の囀る音を聞き、小学生ほどの幼い()()()()()()()の髪の毛をした少女が瞼を開けるとその()()()の目をパチパチと瞬きをしながら腕を上げてストレッチをする。

 

「う~~~~~~ん!」

 

 そのまま少女は布団の中から出て窓を開けると温かい日差しを入り、農村地域を思わせるような景色が広がっていた。

 

 農村と言っても現代の様に道は整備されたもので、ところどころには何か現代よりも高度な技術を使った電柱や建物などがチラホラ見えていた。

 

 そのまるで一昔前の技術と未来のモノが入り混じった景色は本来、アンバランスさを感じさせるがこの光景はどちらかというと『一体感』を感じさせていた。

 

 それはまるで文明が発展したにも関わらず自然が蔑ろにされず、そのまま歴史が進んだハーモニーのある世界。

 

「はぁ~……ん? あ!」

 

 少女は憂鬱な溜息を出したが、何かに気付いたかの声を出して笑顔になる。

 

 寝間着姿のまま少女は部屋を出て玄関を飛び出すと、丁度四枚の翼がついた絨毯のようなモノがバサバサと音を出しながら着地してはその背中から男女二人が飛び降りて、絨毯はそのまま宙へとまた戻っていく。

 

「お帰り、お父さん! お母さん! 早かったね!」

 

「ただいま、■■。」

 

 男性が名前を言ったとたん、ノイズがかかったような音が聞こえる。

 

「思ったよりも旅路がスムーズだったの。 だからこれからはずっと一緒に居れるわ、■■。」

 

 女性の声も、少女の名前らしき言葉を言うとノイズがかかる。

 

 だが少女はパァっと、一輪の花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 

「ほんとう?! わぁ~い!」

 

 笑顔はそのまま太陽の様に、ニコニコとご機嫌なモノへと変わる。

 

 胸の温かさを感じながら。

*1
136話

*2
42話より




余談でどうでもいいかもしれませんが、最後の方の文章のイメージソングは『アルニ村 ホーム』を聞きながら書きました。

タイトルを今更変えるのは不愉快ですか?

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