白と黒の世界は夢を見る   作:haru970

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大変長らくお待たせいたしました、次話です。

なるべく視点の切り替えを抑えてみました。

いつもお読み頂きありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。

追伸:
全くの余談ですが今回書きながら聞いていたイメソンはBLEACHのサントラでした。
『Never Meant to Belong』、『Number One』、『Emergence of the Haunted』などなど。


第172話 Not Meant to Belong Here, On the Edge of (In)Sanity

 ___________

 

 三月・『渡辺』・プレラーリ 視点

 ___________

 

 ズズゥゥゥン……

 

 半壊し、水没しかけた空座町からひっきりなしに破壊音が響いては激化していく戦闘を語らせる。

 

 その間、様々な者たちの現状が見えた。

 

 カリンは両腕を失くし、頭部の包帯をほつれさせて横たわっていた。

 リカは身体の至る所をビルのさらけ出された鉄筋が突き刺さっていた。

 アネットは肩で息をしながらツキミと共に『三号』の隙を伺うことに徹し、身を潜めていた。

 山本元柳斎はユーハバッハの『滅却聖矢』に斬られ、深い傷を負いながら膝を地面につけていた。

 京楽と浮竹は良い様に『眼帯京楽』にあしわれ、他の隊長や副隊長たちも()()()()()()()に苦戦していた。

 

『例外』を除いて。

 

 例えば狛村の相手は斬魄刀を口に咥えた狼や、吉良に似た相手は明らかに普通の死神ならば死んでいてもおかしくない風穴を横腹に開けているまま応戦するなどといった、奇妙な光景が広がっていた。

 

 奇妙と言えば必ずしも相手が()()()()()()ではないという事も。

 

 例えばだが東仙要と志波一心の相手をしていたのは『志波一心言似た誰か』、など。

 

「(あー、逃避はここまでにしようかな?)」

 

 その中でも痛めつけられるような攻撃をさっきまでは受け流していたのも今では受け身になっていた肩で息をする三月の傷具合から見ても酷かった。

 

 特に意図して狙われていたのか、どうやって立っているのかが不思議なほどに左半身の足と腕はボロボロだった。

 

「(『痛覚遮断』と前に眼鏡(雨竜)オレンジ卿(竜弦)の言っていた『乱装天傀(らんそうてんがい)』の応用で何とか立っているけど……)」

 

 対する『三号』は流血しているものの、ほぼ擦り傷程度の軽傷だった。

 

「(やっぱり端末(インターフェイス)としての性能差があり過ぎ……あっちは元々私の持っていた『聖杯』に、記憶を観る限り藍染の卍解で顕現している。 対して私には()()()()も有限……時間を稼いで、自己修復をしないと────)」

「────本当、よく頑張るわね?」

 

「(しめた、チャンス!) 当たり前よ。 ()()()()()()()が私にはないわ。」

 

『三号』のからかうような、見下すような視線にキッとにらみを返す三月が反論のようなものを口から出す。

 

「分からない。 ()らないわ。 なぜそこまで『貴方』は頑張れるの?」

 

「『なぜ』って? 見てわからないのなら、貴方も寄り添えば良かったのよ。」

 

『寄り添う』という語を聞いた『三号』の眉毛が一瞬ピクリと反応し、三月のトゲ付いた言葉の意趣返し気味に歪んだ笑みを深める。

 

「それさえすれば、貴方だって(三月)の行動原理が解かるはずよ?」

 

「何を言うかと思えば……強欲さから平気で世界(環境)を蝕み、好き勝手に増殖を繰り返しては自分たちが生きる為ならば同じ種でも殺め、自己中心的な(ヒト)の何から見直せと? 彼らはやはり()()()なのよ。」

 

「確かにそうよね、()()は。 でも、それが『人間(人類)』全てではないわ。 それに、すでに部外者である私たちがどうこう言う権利はない()()()!」

 

「『部外者』、ですって? それならば、貴方(三月)だって名前と共に人格さえも借りて、仮初の生を生きているに過ぎない部外者。 それも質の悪いことに────

 

 

 

 

 

 ────()()()()()も。」

 

 ドッ。

 

 そういわれた瞬間、三月の耳朶に心拍音が直接届いたかのような音とお腹の底に重石がズドンと落とされたような感覚に陥った。

 

「ぁ……ぇ……」

 

 いつもならここでさらに相手を煽る、または自己問答をさせるような言葉(時間稼ぎ)を続けていた。

 

「貴方から得た『聖杯』の記録を暇つぶしに観たわ。」

 

 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。 ドッ。

 

 だが三月の喉はカラカラになっていき、呼吸をする度にヒリヒリ感が増していく。

 

「貴方、『世界創造(運命の剣)』を不完全のまま行使したでしょう? ()()()()()()()世界で?*1

 

 耳朶を襲う心拍音によって『三号』の言っている言葉はかすかにだが聞き取れ、その度に三月の体中から噴き出す汗の量が増えていく。

 

『聞きたくない』。

()()()()()()()』。

 

 その様な気持ちが彼女の中で膨れ上がるが、『三号』は言を続ける。

 

「その時に『衛宮三月』という人格は()()()にも関わらず、残った残留思念さえも漏れていく『壊れかけの容器』に『正義の味方』なんていう思想を動力に、()()()()()()前の『自分』が撒き散らしたり面白がって静観した『不幸』を変えて『罪悪感』を紛らわし、人格が消費していく度に新しいのを騙し騙しで浮上させている貴方が何よりの『部外者』ではなくて?

 ねぇ? 『端末(インターフェイス)』に戻り、周りを『作り物の物語(ストーリー)』の背景と、『役割(ロール)を持った登場人物(キャラクター)』としか()えていない『私』?」

 

「…………………………」

 

 三月は口を開けては閉めることを、何度か繰り返す。

 

『“衛宮三月”は()()()()()()()。』

『周りを“作品とその一部”としか観えていない。』

 

 そのこと等に対しての反論を言おうとしたところで『三号』は更に追い打ちをかけた。

 

「何か勘違いをしているようだけれど……前回(Fate/Zero)も、前々回(Fate stay/night)でも上手くいったのは()()()()()が合わさっただけに過ぎないわよ? それと────

 

 

 

 ────前々回(Fate stay/night)イリヤスフィール(義妹)前回(Fate/Zero)遠坂凛(幼)(ポジティブシンキング)投影(トレース)してそのまま『彼女(遠坂凛)』をメインの人格とし、この世界(BLEACH)へと引き継いだ。 『彼女(遠坂凛)』の猫かぶり(演技力)優等生(あらゆることをこなせる)を基準に。」

 

 ここで『三号』の笑みは寒気を感じさせるようなモノへと変わる。

 例を挙げれば、獲物をいたぶる猫のようなモノ。

 

「ㇶュ、ㇶュ、ㇶュ、ㇶュ。」

 

 それもあってか三月は『パンチドランク』と似た症状になっていた。

 いつの間にか過呼吸に陥っており、拍動から体は手足と共に小刻みに震え、胸は圧迫感からの痛み、視界はユラユラと揺れていた。

 

「でも、それと同時に貴方が引き継いだのは『詰めが甘く、肝心なところでミスを犯す』という欠点────」

 

 ────フッ。

 

「(ッ?! 消、消え────左?!)」

 

 ────ゴッ!

 ゴキ!

 

「グ、アアァァァァァ?!」

 

『三号』を見失ったことに三月が目の前へと意識を戻すと同時に左目の端から来た、僅かな違和感に痛む左腕を上げると鈍い音と襲う衝撃に鈍痛が増した。

 

 見る視点を変えると最初に三月が『三号』を攻撃した時のように今度は『三号』が瓦礫の中から鉄筋入りコンクリートをこん棒のように振るっていたことが見えた。

 

「(ク! 左腕をやられた! 左足(機動力)を最優先で回復!)」

 

 三月は戦いが始まって以来、平行思考の数と加速を続けていた。

 常人ならば脳が焼き切れ、廃人になってもおかしくない行為を()()()()()()彼女はしていた。

 

 全ては、目の前の『自分』を止める為。

 

「さぁ、さぁ、《/xbig》さぁ《/xbig》、さぁぁぁ! 

 次は私に何を見せてくれるのかしら?! 

 新しい機転(イベント)?! 

 新しい借り物(人格)の導入?!

 それとも、今度こそ『自分(三月)』を完全に犠牲にして何かするのかしら?!

 なにで()()()()()()()()()()のかしら?!」

 

 ブッツン。

 

「(………………………………『楽しむ』、ですって?)」

 

 三月は何かが切れたような音が聞こえたと思えば、今度は吹っ切られたような冷たい声が内心を支配する。

 

 目の前の『三号』の動作はスローモーションに変わり、今までの悩みや平行思考で行っていたシミュレーションなどがバカバカしく思えるほどに考えがクリアになっていく。

 

 「ッ! ウアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 さっきまでの状態が嘘だったように三月は叫びのような雄たけびを吐き出して右手でボロボロの左腕を掴み、これを見た『三号』がまたも即席のこん棒を両手で振るい始める。

 

「でも安心して! 貴方を殺した後、貴方の記憶(精神)と肉体と魂魄()は有効活用してあげ────なに?!」

 

 メリッ! ブチブチブチブチブチブチブチ!

 

「(『再構築』! 炭素をダイヤの構造に変換!)」

 

 ドシッ!

 

「グェ?!」

 

 生々しい音と共に、三月は右手で硬化した()()()()()()()『三号』の頭を殴る。

 

 「私は! 貴方とは違う!

 

 ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ!

 

 殴る。 殴る。 殴る。 殴る。

 

 ただひたすらに殴る。

 

 「『()』は! 『この子(衛宮三月)』の()()()()()()!」

 

 ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ! ドシッ!

 

 ただただ殴る。

 

 「叶えて! 『この子(衛宮三月)』を帰すんだぁぁぁぁぁ!」

 

 三月の猛攻に戸惑っていた『三号』が横からクロスカウンターのように即席こん棒を振るい、自分から無理やり距離を取らせる。

 

 リカァァァァァァ!!!」

 

 フォン。

 

「ッ。」

 

 三月が名前を叫ぶと『三号』の足元に魔法陣のようなものが浮かび、無数の鎖が彼女を拘束していく。

 

「ガフッ!」

 

『三号』がリカの方を見ると、鉄筋が身体を貫いて身動きが自由に取れないリカは片手だけ(ファッ〇ユーサイン)を吐血しながらも辛うじて向けていた。

 

「この、程度────!」

 「────『この一撃、手向けとして受け取るがいい────』!」

 

 次に動いたのはカリンで、彼女は何とか踏ん張ってから立ち上がり、フラフラのまま地面に落ちていた紅い槍を蹴り上げてから身体を回転させる。

 

 「『──── “突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)”』!!!」

 

 ドウ!!!

 

 カリンの回転のついた蹴りは紅い槍の石突(刃とは逆の先端部分)を見事捉え、紅い槍は『蹴られただけ』の範疇を圧倒的に凌駕した速度とまがまがしい紅い光を纏いながらで『三号』へと飛来する。

 

 ボッ。

 

 無論このような技を餓死寸前の状態で繰り出したカリンが無事なわけがなく、彼女の右足は反動から破裂したように飛び散り、今度こそ彼女は文字通り沈黙化した。

 

 ヒュン!

 

「だとしても!」

 

 だがその代償に『三号』は珍しく焦るような声を出しながら、動ける上半身で結界を何重にも張って自分を標的にした『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』を止めようとする。

 

 バキ! バリバリバリバリバリバリ!

 

 何重にも張った結界がガラスのようにヒビが入っては砕かれていく度に紅い槍の纏う光が弱まっていく。

 

 だが『三号』はそれに気付いた様子はなく、彼女は上空へと飛び上がった人物を見ていた。

 

「ポイちゃん!」

「ピィィィィィィィィィ!」

 

「宝具展開!」

 

 飛び上がったアネットはポイニクスの名を呼びながら、光の因子が両手に集まりやがて黄金色の手綱へと形が整う。

 

 それをアネットは自分の下まで飛んできたポイニクスに装着すると、せいぜいが全長1.5、翼開長が3メートルで大きかったポイニクスは依然見せた大きな火の鳥の姿へと変えていき、その背中にアネットは手綱を掴みながら降り立つ。

 

 以前の彼女が『天馬を操る天女』と瀞霊廷に呼ばれていたのなら、今はまさに復活した燬鷇王を操る姿はどう映るのだろうか?

 

「頼みます、ポイちゃん。」

 「キュアァァァァァァァァ!!!」

 

 アネットが燬鷇王(ポイちゃん)の首を撫でるとけたたましくも力強い鳴き声が返ってくる。

 

 「……『真名解放! “騎英の手綱(ベルレフォーン)”』!!!」

 

 アネットの言葉と連動するかのように、彼女と燬鷇王(ポイちゃん)は上空から流星のが放つ光を纏いながら『三号』へと突貫する。

 

 その速度は音速を優に超え、光速に追いつくかのような勢いのまま未だに結界の先を進んで『三号』を貫こうとしていたカリンの紅い槍の石突を後押しするかのように衝突し、蜘蛛の巣のようなヒビが『三号』が張った最後の結界と紅い槍に現れる。

 

 ドォォォン!!!

 

 音速を超えた騒動と衝突の音が混ざったような衝撃波(ソニックブーム)が生じ、あたりの水面が泡立てて瓦礫などが大気と共に震える。

 

 《vib:1》バリィン《/ vib》!!!

 

 耐え切れなかったのか、結界と紅い槍は共に砕け散り、ついに『三号』の両手がさっきの槍と同じように貫こうとする燬鷇王(ポイちゃん)の嘴を掴んで前進を阻止する。

 

「上姉様たちの覚悟! 無駄にはさせません!」

 

「こんな! 紛い物の分際! でぇぇぇぇぇ!」

 

 今までの中で苦しむような『三号』は現在、アネットの『騎英の手綱』で全盛期以上の力を発揮している『燬鷇王(双極)』と疑似的にだが『拘束』という意味で対なる『磔架』の役割をリカの展開した『圧迫(アトラス)』によって『双殛の丘での断罪』に必要な条件をクリアしていた。

 

 そのことを踏まえての叫びだったのかははっきりしないが、目に見えてわかるのは『三号』の両腕同様に燬鷇王にも限界がきていることだった。

 

「「────────────────────!!!」」

 

 声にならない叫びを双方が上げ、一護と言えばこのことを気にもせずただ呼びかけることを続けていた。

 

「皆、命がけで戦っているんだ。 戻ってきてくれ、ティネ。」

 

 これに反応するかのようにチエの瞼の裏では目が動き始めた頃に、ついに燬鷇王は以前瀞霊廷で見たように破裂して火の粉が辺りへ爆散し、アネットは爆発の余波でかろうじて立っていた建物の一部に叩きつけられて気を失う。

 

 

 


 

 

 

 ___________

 

 ティネ 視点

 ___________

 

『皆、命がけで戦っているんだ。 戻ってきてくれ、ティネ。』

 

「………………………………」

 

 ティネはどこからともなく聞こえてくる声に周りを見渡したいるところに□□が声をかける。

 

「どうした、ティネ? ボーっとして? さっき親父さんに言われたことを気にしているのか?」

 

『さっき言われたこと』と言えば、彼女が昔の母親同様に『嫌な予感』を話したことだった。

 

「あ、いや。 そうでは────」

「────ここまで来たんだ、どうせならイチネと一緒に天文台に上がって星を見ようぜ。 それにまだ『予感』ってンならまだいいだろ? イチネを怖がらせる事はないと思う。

 

「あ、ああ……そう、だな。」

 

 ティネは?マークを出しながら頭をかしげるイチネ()を見て□□に同意すると、□□が彼女の肩に手を添う。

 

「『昨日(過去)』のことに固執することはねぇよ。 『明日(未来)』を目指そうぜ?」

 

 ニカっと笑う□□を見てはティネも釣られて口角を上げ始める。

 

「そうね……その通りよ。 じゃあ天文台に行こうかしら、イチネ?」

 

「うん!♪」

 

 ティネが腰を曲げて小柄なイチネを抱き上げる。

 

「二人は先に行っててくれ、ちょっと用事を済ませてから追いつく。」

 

「ッ。」

 

 ティネは急にぼやけた□□の声にビックリして、彼の背中姿を目で追う。

 

「お母さん、どうしたの?」

 

「なん……でも、ない?」

 

 ティネは疑問形で娘の問いに答え、屋上へと続くエレベーターに乗る。

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

「うわー! すご~い!」

 

「…………………………」

 

 キャッキャッとはしゃぐイチネを見ていたテイネは複雑な笑みになっていた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 またも地震のようにビルは揺れてティネはよろけながらも、近くの手すりを掴んで上半身を俯かせる。

 

「お母さん?」

「ティネ?」

 

 これに気付いたイチネと□□は心配する表情になりながらティネの近くまで来ると、彼女は二人に振り向いた。

 

「ど、どうしたの?」

「その顔……何か、あったのか?」

 

 二人が見たのは今にも泣きそうな、はにかみながらも悲痛な顔を浮かべたティネは□□の肩を掴んでまっすぐと彼の戸惑う目を見る。

 

「…………………………□□。 お前と子供のころに出会い、ともに育った時間はかけがえのないモノだ。 

 お前が初めて甘口ではないカレーを口にして泣きそうなのを『目にゴミが入った』と誤魔化す姿は気丈に振る舞いたい心が見え見えで、微笑ましい場面が数えきれないほどあるように、お前が他人思いで気さくで太陽のような性格だったのは大いに助かった。 お前に『付き合ってくれ』と言われた時も、不思議と心の中では納得して頷いた後に過ごした時間は今でも鮮明に思い出せる。」

 

 ティネの脳内に浮かんでくるのは様々な、『ありきたりな毎日』だった。

 仕事で怪我をしてはリハビリに付き合う姿。

 朝起きてボーっとした顔のまま並んで歯磨きをする姿。

 夜のテレビをザッピングでチャンネルを変え、ただ時間を共に過ごしたり自転車を二人で乗って遠乗りをしたりなどの『普通』。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 

 ティネがイチネと目を合わせるために膝を地面につくとさっきから続く揺れと地鳴りは次第に大きくなってくる。

 

「イチネ。 お前を宿したことを知った日は今までの人生の中で一番嬉しい知らせと言っても過言ではないが、生まれたときも同じ気持ちだった。

 初めてスヤスヤと寝ているお前の愛しい寝顔……

 お前の小さな手が私の指をギュッとした時、思わず何が何でもずっと抱いてしまいたい気分になった。」

 

「お母……さん?」

 

 ティネが両手をイチネの頬にそっと添える。

 

「お父さんと一緒にお前をずっと見守っていた。

 始めて喃語(なんご)で声を出した時。

 明らかに私とお父さんを他人から区別できたとき。

 初めての寝返り。

 初めて四つ這いで動き出し、ついには掴み立ちからヨチヨチと危なそうにも歩き出した一歩一歩……

 それらの記憶を思い出せば今でも私の心は満たされる。

 でも…………………………………………」

 

 ここでティネの視界がボヤケるが、彼女は深呼吸をして何とか次の言葉を声に出そうとし、震える声のまま放つ。

 

「でも……でもね? 私………………

 

 私……………………

 

 ああ、()()……………………

 

 

 グスッ……………………

 

 

 貴方も、

 

 

 お父さんも、

 

 

 この世界も、

 

 

 

 ()()()()()()()()()。」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 バキバキバキバキバキバキバキバキ!!!

 

 地鳴りはついに音量を増し、周りの建物のガラス窓や壁や()()などにヒビが入っていく。

 

「そ、そんなこと言わないでお母さん。 怖いよ。」

「ティネ……」

 

 イチネは涙目になりながら力一杯にティネの腰に両手を回してギュッとする。

 

「ち、違う。 違うのだ、イチネ。 怖がらせようとしているのではないのだ。

 

 

 お前は…………

 

 

 お前たちは…………

 

 

 この世界は…………

 

 

 私が何時か夢にまで見た、『普通の人生』そのものだ。」

 

 ガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!

 

 さっきから続く揺れからか、何か別の要素からか、とうとう周りから何かが崩れていく音が聞こえてくる。

 

「お、ヒグッ、お母さん……」

 

 ティネは泣き出すイチネの顔を見る。

 

「でも…………私にはやり残したこと(義務)がある。」

 

 ティネは同じように泣きそうな顔の□□を見上げる。

 

「だから………………行かなくてはならない。」

 

 ティネがイチネを抱いていた腕のうち一つを□□へ向けると、□□は何も言わずにティネとイチネを抱きしめる。

 

 

 

 ガラガラと音を出しながら崩れていくのは建物だけでなく、地形も底なしのような虚無を感じさせる底の中へと崩れていった。

 

 

 

 

オ、オォォォォォオオオオオオオ

 

 黒い底の中なら何かのひしめく()と共にぶよぶよした黒い液体のような物がにじみ出る。

 

 チュ。

 

「ティネ……」

 

 ティネが□□の(ほお)に口づけをする。

 彼の眼は明らかに何か言いたいが、何を言ったら分からないと訴えていた。

 

 チュ。

 

「お、お母さん……」

 

 ティネが涙ぐんだイチネの(ひたい)に口づけをする。

 少女の目が訴えていたのは『なんで?』という疑問ではなく『怖い』といった純粋な恐怖。

 

 「私は………………私は二人のことを忘れたくない!

 忘れない! 絶対だ! 約束だ!」

 

 この二人に対してティネは湧き上がってくる衝動のまま二人に告げ、顔を合わせたくないのか彼女も力の限り二人を抱きしめる。

 

 やがて残った『世界』は彼女たちのいるビルを残して半径数十メートルだけ。

 

 他の住民の姿は既に見当たらない。

 

 残ったそれさえも、みるみると崩れ去っていく。

 

 「今度こそ……今度こそだ! 絶対に離すもんか!

 私は……私は────!」

 

 

 

 

 

 

 

 ────ガクンッ。

 

 

 

 

 

 

 

 ティネは前のめりに倒れる身体を突き出した両手で止める。

 

 

 

 

 

 

「ぁ……あ………………あ、ああああ……」

 

 

 

 

 

 

 ティネは震える手を目の前まで上げる。

 

 微かな温もりと匂い。

 

 

 

「ああああ………………い…………………………………………やだ……」

 

 

 

 それらが消えていく。

 

 

 

 

「あ、あああ……ああああああ!」

 

 

 

 

 

 ティ■は消えていく〇憶を物理的に止めようと両手で頭を力の限り抑える。

 

 

 「あああああああ!」

 

 

 痛みが生じても抑え込み■■は□□と◆◆との○憶が抜け落ちていくのが、だんだんと大きくなっていく喪失感が訴える。

 

 

 

 

 

 あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛あ゛アあア゛!!!」

 

 ■■の頬を伝う雫は、彼女が掻きむしりだして、引き抜いた髪の毛と共に地面へと落ちていく。

 

「────────────────────────────!!!」

 

 声にならない叫びをしながら彼女は額を地面にこすりつけるように……

 

 否、頭を割るような勢いで地面に何度も叩きつけながら、頭皮が裂けて血がにじみ出るまで両手で頭をぐしゃぐしゃにかき出した。

 

「────────────────────────────!!!」

 

 それでも彼女は叫び続けた。

 

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオ

 

 

 やがて、世界は彼女だけになるまで。

 

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオオ

 

 彼女も消えるまで、その咆哮は続いた。

 

 やがて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は目を覚ます。

 

*1
他作品“「その天の刃、待たれよ」と『運命』は言った。”より




『痛覚遮断』:
文字通り人体の痛覚信号反応が発しない状態を疑似的に発生させる術。
主にホムンクルスなどの人工知生物が性能が落ちるのを防ぐために使用する。

『運命の剣』:
『世界創造』の亜種。 星の記憶を記録として読み取り、世界を初期化し記録を白紙化した星に再び備え付ける行為。 その際に矛盾が生じなければ星は新しく時間を辿る。

『突き穿つ死翔の槍』:
ケルト神話の英雄、クー・フーリンの神話を基にした大技/宝具。 『心臓を穿った結果を先に生んでから攻撃が生じる』のが『刺し穿つ死棘の槍』ならば、こちらは『破壊力と追尾を重視した投擲』。
躱し続ける度に再度標的を襲う、呪いの宝具。
防ぐのは同等、あるいはそれ以上の神秘を持った宝具でなければ防ぐのは至難の業。

『騎英の手綱』:
第五次聖杯戦争において召喚されたライダーのサーヴァントが使用する宝具。
騎乗できるものなら幻想種をも御し、更にその能力を向上させる黄金の鞭と手綱。
本来は『ペルセウスがメデューサの首を落としたとき、彼女の首から滴った血から天馬とクリューサーオールが産まれた』という神話の部分から天馬に使用するものだが『騎乗できるもの』に大きな火の鳥は含まれているらしい。

『圧迫(アトラス)』:
ギリシャ神話の女神ヘカテより神秘を教授された魔術師の術の一つ。 設置した魔法陣に踏み込んできた相手を長時間拘束する。



ピコピコピコピコーン♪ ←フラグ回収音

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