白と黒の世界は夢を見る   作:haru970

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お待たせ致しました、長いカオスになってしまいましたが次話です。

いつもお読み頂き誠にありがとうございます、楽しんでいただければ幸いです。


第177話 迫害されるのは英雄の運命である

 ___________

 

 ??? 視点

 ___________

 

 ジリジリと互いを警戒する二人の人影。

 

「「(ゴクリ。)」」

 

 それを尋常ではない緊張感に浸りながらゴクリと喉を一護が鳴らす。

 と思いきや、彼以外に山本元柳斎も喉を鳴らしていた。

 

 と言うのも、目の前には彼が見知った者同士の高度で壮絶な肉弾戦が行われていた。

 

 確かに死神たちには『白打』という戦法が存在するが、死神が戦いにそれらを使うことは(少数の例外(夜一や砕蜂など)を除いて)ほとんどなく、主に『漸術』か『鬼道』によるものが多い。

 

『漸術』ならば己の半身とも呼べる斬魄刀で多少の技量の差は埋まる。

『鬼道』ならば相手を直接手にかけることは避けられる。

 

 なので上記の『例外』以外で『白打』を見る機会は滅多になく、特に死神同士の対立ならばせいぜいが『護身術』か『手合わせ』レベル。

 

 そもそも刀や鬼道などと言った戦術があるのに()()()肉弾戦をするメリットがあまりない時代に、藍染惣右介とチエのぶつかり合いは異質な光景だった。

 

 だから強いて言うのなら、誰もが魅入ってしまった理由は上記の『異質』故だったかもしれなかった。

 

 バキッ!

 

 だがここで明らかに流れが更に変わる。

 

「フッ!」

 

 ガッ! ガッ!

 

 二人の拳がぶつかり、即座に互いが出した蹴りが互いの蹴りを相殺し────

 

 ドガッ!

 

「「ガァ?!」」

 

 ────拳がまたもクロスカウンター気味に、互いの顔へとメリ込む。

 

 チエはの視界はボヤける程に目の焦点がフラフラになり、藍染惣右介のオールバックに纏めていた髪の毛は離反前の前髪は鼻の下、サイドから襟足は肩につくくらいのウェーブが付いたモノに。

 

 そしてこのぶつかり合いから先に回復したらしき惣右介が追撃のジャブを繰り出すと、チエは流れるようにそれを受け流しながら彼を地面へと投げようとする。

 

 すると今度は惣右介がそれを予測していたかのように彼女の手首を掴み、自分が投げられる勢いを逆手に取ってチエを一本背負い気味に投げようとする。

 

 だが今度は彼女がそれを利用し、惣右介と距離を取って()()()()()()()()()

 

「ッ。」

 

 否。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何であのどチート野郎が知ってるんだ?!」

 

 つい最近まで竜貴(たつき)が知らなかった構え。

 

「(あれは……チエ独自の……)」

 

 それは白打ではなく、一護からすれば長年見知った型。

 主に自分をコテンパンにしていたモノで、どれだけ追いつこうとしても水のように形がその時その時の状況によって臨機応変に変わるものだった。

 

「(奴め、まさか……いや、見た目だけ真似ても────!)」

 

 ────ヒュッ────!

 

「────せい!」

 

 まるでチエ自身、鏡合わせのような構えを取る惣右介への戸惑いを吹っ切れようとした小手先先のジャブを、惣右介は掴んで彼女のバランスを崩しながら地面へと投げ、チエの胸目掛けて拳を一連の動作で振り下ろす。

 

 ミシッ!

 

 チエは横へと転がってそれを避けて何時もの表情を浮かべるが、内心では冷や冷やし始めていた。

 

「(見よう見た目ではない……私と対峙して学習し、この僅かなやり取りで『理解』したというのか?)」

 

「考えごとかい? それとも次は何を新たに見せるのかい?」

 

「……………………」

 

 チエは答えずにただ黙り込み、にやけそうになるの顔の筋肉を必死に抑え込む。

 

 今までよりさらに慎重に互いの隙を伺うように、筋肉の動きを一つも見落とさないような視線を互いへと向けながら、フェイントの入った一撃一撃が交差し、一護たちの目の前で繰り広げられる芸術のように洗礼された動きは夢でも滅多に拝めなられないようなモノへと変わった。

 

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 


 

 とある少年は薄笑いを浮かべながら一人寂しく、街を歩いていた。

 

 周りからは様々な畏怖などの負がこもった視線。

 

 彼の気配を肌で感じ、明らかに避けるために横道へと避けた者たちの目とヒソヒソ話。

 

『やぁねぇ。 何であんな子が野放しにされるのかしら?』

『優秀で貴族とはいえ、養子だろ?』

『それにあの笑い方、子供なのに気味が悪い。』

『普通なら泣くか起こるか何か変化があるのに……』

『やっぱり噂通り、昔からの人殺しが板についているのか?』

 

 明らかに居心地の悪い筈だが、少年にとっては日常茶飯事だった故に気にする気力などとうの昔に捨てた。

 

 気にするだけ時間の無駄だから。

 

 同じ時間を浪費するのなら、同レベルの────

 

 


 

「────ブハァ?!」

「グハァ?!」

 

 あれから数時間後とも双方にとっては感じ取られる時間が過ぎ、二人の回転蹴りが同時に決められて意識が飛びそうになるのを本能的に青年は引き締めた。

 

「グハァ……ハァ……ハァ……」

「ハァ……ブハァ……ハァ……ハァ……」

 

 互いが自分の脇腹を手で抑え、深呼吸を繰り返す二人は見ただけで痛々しい満身創痍の状態。

 

 まだ立っているのが奇跡的なほど、全身は痛んでいた様子だった。

 

 「ま……だだ。 まだ、終わっていない! ()()()()()んだ!」

 

 ヨロヨロとした動きで惣右介はぎりっと奥歯をかみしめるように食いしばって、大振りでスイングのついた右ストレートを出す。

 

 ドガッ!

 

「グハァ?!」

 

 予備動作が丸見えだったそれは、見事チエの顔面に当たる。

 

 ドガッ!

 

「ブフ?!」

 

 惣右介同様、もしくはそれ以上によろけそうになるチエは踏ん張り、彼女も大きく振りかぶった拳が惣右介の顔を捉え、口から声と共に血が噴き出す。

 

 ドガッ!

 ガゴッ!

 

 つい先ほどまでの高度な技術を使っていた様子は微塵も感じ取られず、ただ『自分が倒れる前に相手を倒す』と言った頑固な意思を持った殴り合いだった。

 

 ドッ!

 

 皮膚は裂け、肉と骨が響く。

 

 ゴッ!

 

「ガァァァァ?!」

 

 先に大きな声を出したのは惣右介。

 

 ガクガクとする足から力が抜けるのを、気合いのみで膝が地面につく寸前でもう一度立ち上がる。

 

 ガッ!

 

「プブフぅオァァァ!」

 

 今度はチエが口の中で出来た傷から流血したチエが痛む声と共に、無理やり吐き出す。

 

 ガシッ!

 

 四肢と共に身体が鉛のように重くなった二人はとうとう互いの胸倉を掴んでバランスを取りながらただひたすらに殴っていく。

 

 やがてそれさえもままならないのか、二人の手から力が抜けていき、腕がだらりとする。

 

「「ッ。」」 

 

 ガッ!

 

 「「ぬあぁぁぁぁぁ!」」

 

 ゴギンッ!

 

『最後に一発』を代表するかのように、二人は背中を使った頭突きを同時に繰り出し、鈍く何かが割れるような音が周りの者たちの耳に届く程大きく鳴る。

 

「「────」」

 

 このインパクトから惣右介とチエの双方が白目を剥きながら後ろへとよろけ、今にも倒れそうになる。

 

 


 

 少女は見たことのないモノを見る。

 

 眼前に見える少女以外、四方は白い何の変哲もない冷たい壁。

 

 すると目の前の者もキョトンとするような眼で見返す。

 

 頭をなんとなく横へ倒すと目の前の少女も同じく頭を横へと掲げた。

 

『おお!』

『流石は奴らの子供!』

『耐えたぞ!』

『よし、捕獲した神器たちを放せ!』

 

「────」

 

 何か風が吹いたような感じがすると少女は口を開けて、久しく使う肺から息を吐き出す。

 久しく使ったことのない涙腺と声帯ゆえに、涙も声は出なかった。

 

 頭を覆い、秩序なく見覚えのないはずの景色や女や男や異形や伴侶が懐かしく思ってしまう自分()自分()自分()自分()自分()自分()

 

 激しい痛みに気を失いそうに何度も────

 

 


 

 ────ガッ!

 

 足を踏ん張り、弱々しくも構えを一人が取る。

 

「ぁ………………カか────」

 

 ────ドサッ!

 

 もう一人が構えを取ろうとし、腕を前へと出す反動で身体が仰向けに倒れていく。

 

「……………………グッ。」

 

 やがて相手が倒れたことを目視(意識)すると、構えを取っていた者は糸の切れたマリオネットのように膝が地面につき、きつく編み縛っていた()()もパサリと地面に広がった。

 

「………………………………………………あいつ。 勝ちよったで?」

「………………………………………………せやな。」

 

 ひよ里のあんぐりとした顔のままそうポツリと口にすると平子が思わず素直に答える。

 

 ついさっきまで彼女や彼でさえも思わず魅入るほどの戦いが終わった。

 

「何故、だ。 何故……終わる?」

 

 いや、『()()()()()()()()』。

 

 そう残念がるような声で、チエは独り言のように口を開ける。

 

「なに、単純な……話さ……『()()()()()()()()()()()()()()()()』……という事だ。」

 

 これを小声で言い、自分たちにしか聞こえないようなソウスケの言葉に、チエはピクリと反応し、それを見た彼は言葉を続けた。

 

「そうさ……自然(世界)(ことわり)から外れた存在、『限界突破者』。 ()は黒崎君や、君のような『変異種』という設定を加えられた役割(ロール)を持った、『創られた(そうであるべき)存在』さ……だけど、今の僕はただの『ソウスケ』だ。」

 

「……人工的な『超越種(ちょうえつしゅ)』か。」

 

超越種(ちょうえつしゅ)……そう君は限界突破者のか。 そもそも種全体がそうなるのか?」

 

「…………………………………………」

 

「この世界の『死神』が本来の調停者(バランサー)模造品(コピー)であるように、僕も()()()()を『母上』が再現して混ぜた模造品(コピー)さ。 恐らく、彼女なりに考えた結果だろう。」

 

 チエが頷いたまま、首を動かそうとして反応しない首の代わりに横目で一護を見る。

 

「彼は違う。 黒崎君は、偶然が偶然に重なった自然の突然変異種の()()()()()そのままさ……………………僕は、何度もこの箱庭を経験していることは記録として次の(藍染惣右介)に残していたと話したね?」

 

「………………ああ。」

 

「『今度の僕』はそれを知った時、身の周りで起きていたことが腑に落ちた。 

 生まれたときから僕は『孤独』だったことを。

 昔から僕の周りは亡くなって(死んで)いったことを。

 能力を買われ、養子として引き取られた家族も徐々に居なくなったことを。

『力の持った貴族』だからと入った真央霊術院でも、優秀だからと周りから遠縁にされていた。

 優秀だから、次々と死んでいく同期や同じ隊の者たちにいずれ忌まれるようになった。

 それを改善しようと死神と流魂街を変えようとすれば今度は憧れる的となった。

 世界の仕組みを理解し、皆を定められた役割(最後)から解放しようとしても僕の企みは最終的に失敗に終わる。

 僕は……やがて『絶望』を振り撒く存在でありながら、『絶望(孤独)』の中にいた。

 それでも『大局』の為に『個』を捨て、後悔は無い。」

 

「…………………………」

 

「僕はどの世界でも、なり立ちでも……ずっと孤独のまま僕なりに()ってきたけれど……これでようやく、『神に決められた役割(ロール)』ではなく、『過去の(藍染惣右介)』たちが練り上げた計画内の、自ら希望した最後の(ピース)として役割(ロール)を終えられる。」

 

「…………………………?」

 

 不思議そうな目を送るチエをソウスケが見る。

 

 ソウスケは、辛うじて動く手で古ぼけた書物を懐から出す。

 チエとのやり取りでボロボロになっていたが何とか原形を留めていたそれは血で表紙が滲んでいた。

 

「これを……後で君が読み終えてから雛森君に渡してくれないか? 仕方がなかったとはいえ、僕は彼女に酷いことをしてきた。 今の彼女なら……託せるだろう……」

 

 書物はパサリと震えるソウスケの指から地面に零れ落ちる。

 

「さて……話すべきことは大方話した……」

 

 ソウスケはチエの目を見る。

 

「僕の役割(ロール)は『黒幕』。 現代風に言うと『ラストボス(全ての元凶)』の『藍染惣右介』だ。 僕を殺せば、晴れて君は『英雄』になる。」

 

 ソウスケが視線を一護たちへと一瞬だけ向けてからチエへとそれを戻す。

 

「そうすれば君は彼らから『危険視』はされたままかも知れないが、少なくとも『耳を貸せる存在』としてまた受け入れられる筈だ。  『大悪を打ち取った正義』として……

『今の僕』では覚えていないが、『魂』が覚えているのか……今までの反逆で一番疲れた気分だよ……」

 

 チエは惣右介の顔をじっと見る。

 

「それが、僕が僕自身に与えた役割(ロール)だ。 

 自由意志がなければ、『反逆(闘争)』と『服従(闘争)』に違いは無いと知った、僕が考えた僕自身の闘争の結末(エンディング)だ。」

 

「……………………………………………………………………」

 

 チエは瞼を閉じ、安心するかのような、観念するかのような笑みを上げるソウスケを見下ろしてから、人差し指や中指に裂傷が走っていた自分の手を見る。

 

「僕を……(自由)にさせてくれないか?」

 

 彼女がよく見ると、ソウスケの顔も気のせいか数年ほど老けた上にやつれたかのように見えていた。

 

 そんな彼女は手を、目を閉じるソウスケへと伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシッ。

 

「フン────!」

「────え?」

 

 そんな気の抜けた声が腋の下から首を差し入れた後、肩の上に自分を担ぎ上げるソウスケの口から出る。

 

 いわゆるファイヤーマンズキャリーだった。

 

「楽にはさせん。」

 

 「な、なぜだ?! 君にとっては簡単な選択で、その上()()()()()だ! 僕はもう、役割(ロール)を終えた存在だ! ぼ、僕を殺せ!」

 

 慌てふためきながら身をできるだけよじるソウスケを、チエは横目見ながら口を開ける。

 

「冗談はよせ。 ()()()()()()()()()、だ────」

 

 チエは座ったまま身体を前のめりにしてから立ち上がる。

 

「────ウッ?!」

 

 立ち上がろうとしたが、さっきまでの過労が無くなったわけがなく、チエはそのまま倒れていく。

 

 ガッ。

 

「よっと。」

「う~~~~ん! お、重い~~~~!」

「チエだけならともかく何でどチート野郎も?!」

 

「……一護? それに、井上と竜貴?」

 

「何しれっとウチを無視しとんねん、ワレェ?!」

 

「それとひよ里()()────」

 「────そのネタとっくの昔に賞味期限が切れとるがな?! やめい!

 

 倒れそうになったチエを支えたのは彼女の見知った知人たち。

 

 左右には一護と織姫に竜貴、そして後ろは意外にもひよ里。

 

 「…………………………ありがとう。」

 

「「「「ふぇ?」」」」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

 

 これを呆然として見ていたチエは小さく感謝の言葉をポツリと一言零すと、小さかった地鳴りのような音が次第に大きくなっていく。

 

「な、なんだ?!」

「これは……大気中の霊圧濃度が変質していっている?」

「興味深い現象ダ。 器具を持ってこなかったのは失態だネ。」

「「あ、あれはなん(です)?!」」

 

 七緒、そしてリサの声と彼女たちが注目していたのは遥か頭上に浮き出た景色。

 

「バカな……」

 

 チエが見ていた上空先には、尸魂界の景色が蜃気楼のようにそれをバックドロップに浮き出ていた。

 

「これは……()()()()?!」

 

 一護の言葉は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っていたことから発言していた。

 

エラー発生。 初期化の拒否を確認。

 エラーの解析を行います。

 

 その時、機械的な声がその場にいた皆の脳に直接響いき、誰もが戸惑いを隠せずに周りや互いを見る。

 

解析結果、覚醒したエラーによる妨害を感知しました。

 これより、()()します。

 

「これは……なんだ?!」

「『選定』?」

「どういうことだ?!」

 

 ビィィィィィィィィィィィィィ

 

 突然ブザーのような音が響き渡り、機械的な声がまた聞こえ(響い)てくる。

 

物質残量が規定から変化。 突然変異の覚醒、不穏分子の確認多数。

 

「あ、あれ────」

「────月が……」

 

 誰かが言い始め、空に浮かぶ月に注目すると中央にできた小さな黒い穴のようなものがみるみると大きくなっていく。

 

「これは?」

 

「なるほど、そういう事か。」

 

 まるで納得するような言葉を発するソウスケの声が地鳴りの続く中で一護の耳に届いた。

 

「どういうことだ、藍染?」

 

「だから『母上』は世界を繰り返していたのか……」

 

総意融合し、エラーの除去後に再構築へと移行。

 

 空には尸魂界のほかに、見知った虚圏ともう一つの空座町も浮き出始めていた。

 

「いや、『繰り返していた』というよりは『虚無の景色()を見せ続けていた』と言ったところか?」

 

「だからどういうことだよ?!」

 

「僕の『鏡花水月』は『完全催眠』。 そして『月の変化』。 恐らく、知生物の全てに響き渡るこの声の主が『月』だ。」

 

「らしいな。」

 

 チエはソウスケを肩から降ろした後に懐から出してパラパラとページをめくっていた本を懐へと戻す。

 

「あれは封印された神の一部を見張る監視システムだ。」

 

「神の一部……」

「監視システム……あの、穴が?」

 

 織姫はチエの言葉を復唱し、竜貴は自分自身の復唱を疑問形に変える。

 

「違う。 ()()()が一種の監視システム、『()()()()()()』だ。」

 

 まるでチエの言葉を裏付けるように、月に現れた巨大な穴が広がっていくと地鳴りと共に今度は大地一護他のいた場所、現世、虚圏、尸魂界の全てが一斉に揺れ始め、半透明な『輪』のようなモノが月から発される。

 

 バキ! バキバキバキバキ!

 

 この『輪』が衝突した場所から圧力がかかったように、様々なモノが破壊音と共にヒビ、あるいは壊れていく。

 

「どう、どうなっておる?!」

 

「うわわわわわ?!」

 

 急に重力の法律が滅茶苦茶になったように、突然な浮遊感に一護たちは襲われ、地面の揺れで瓦礫や破片等が彼らのように宙に浮き始める。

 

 明らかに異質で急変する事態に殆どの者が驚愕を示す。

 

「世界が……()()()()が、終わる。」

 

 ソウスケ、そして一護がチエを見る。

 

 

 ……

 …

 

 

 視点が大きく変わる。

 世界全体を────否。 『三界』より遥かに大きく移る。

 

 尸魂界、虚圏、現世の『三界』、そして一護たちが今いる『もう一つの現世』の『外』となる断界。

 

 その中でポツンと月だけが別のモノとして在った。

 

 尸魂界、虚圏、現世、もう一つの現世からその月へとチリのようなモノが断界の中をレールに乗った列車のように流れて()()()()()()()()

 

 そしてよく見ると、その『流れ』とは様々な物質だった。

 

 虚圏の砂や虚に固形物。

 尸魂界の大地や山や人工物。

 それらがごっそりと、まるで砂場で子供がスコップを使って砂を抉るように上へと流れていった。

 

 二つの現世からの流れは尸魂界と虚圏に比べて圧倒的に少なかったが、それでも小さな民家や災害に弱い建物などが地面からもぎ取られ、吸い込まれていく。

 

「うわぁぁぁぁ?!」

「な、なんなんだよ?!」

 

 何も吸い込まれていくのは無機物だけではない。

 

 人間なども含まれていた。

 

 彼らは徐々に崩壊していく街のあちこちで辛うじて地面が抉られていない物に入ったり、しがみついたりして空へと誘う浮遊感(吸引力)に抵抗の意思を表していた。

 

「お母さん!」

「絶対に手を放すなぁぁぁぁぁ!」

「きゃああああああ?!」

 

 地震のような大災害の前に、誰もが等しく互いを助け合おうとした。

 

 

 ぽっかりと瀞霊廷が抜かれた流魂街の民家は切り取られたケーキのように一つ一つの地区が徐々に大地ごと浮かんでいく。

 

 

 虚圏の砂、大地、虚、破面たち、そして転移された半壊した瀞霊廷の建物が空へと浮いていく。

 

 

 空座町の東にある鏡野市の虚や整も必死にこの吸引力に抗っていた。

 

 

 空座一校の体育館の一部が崩れ、本校の窓ガラスの何枚かが割れるかヒビが入っていく。

 

 災害などを想定して造られた空座総合病院は無事だったが、ビルの中にいた者たちは駐車場にあった車に避難した者たちが車ごと空へと浮いていくのを歯がゆい気持ちと無力さと共に見ていた。

 

 鳴木市の高層ビルのガラスが一心だけ揺れてから豪快に割れていく。

 

 

 小さなオフィスビルの着替え室や事務室の壁が崩れ、地盤が緩い場所から上空に吸い込まれるように浮かんでいく。

 

 

 ……

 …

 

 

「「「「「……………………………………………………」」」」」

 

 上記の光景を一護たちは見えていた。

 

 と言うのも、何の理由か上空がまるで無数のパネルスクリーンのような半透明の画面になり、これらを音声と共に見せていた。

 

「あれが、拘流(こうりゅう)拘突(こうとつ)の正体……」

 

 その物資の流れを見た浦原は思わずそのようなことを口にする。

 

 次第に『月』という叫谷(きょうごく)に様々な()()が吸い込まれていく度に、『月』は禍々しい黒い渦のようなオーラを発すると虚圏と尸魂界が吸収されていく速度が飛躍的に跳ね上がる。

 

「いずれ、『ここ』もああなる。」

 

 そういったチエを、周りの者たちが目を向ける。

 

「今は流れの仕方を見て、恐らく三月が頑張って崩壊を止めようとしているのだろう。

 だが、あれ()は元々奴を万が一の場合の、殺す(止める)ために存在する。 崩壊を遅くするのが関の山だろう。」

 

「そんな……」

 

 織姫は具合が悪いのか顔色を悪くし、口を両手で覆う。

 

「どうにか、ならねぇのかよ?! アイツら達なら、なんとかさぁ?!」

 

 竜貴が恐怖を怒りで塗りつぶし、死神や破面たち、そして滅却師たちに指さしながらそうチエに問う。

 

「あいつらでは無理だな。」

 

 チエは首を回し、竜貴の目を真正面から見る。

 

()()()()()はもう始まってしまっている。」

 

 竜貴は力が抜けたように、あるいは放心からか尻餅をつく。

 

「浮竹。 もしかすると、あちらさんのボク(眼帯京楽)が言っていたことって────?」

「────多分な、京楽……だが時間がない。 それに、祠はオレの実家に置いたままだ。」

 

 二人が口にしなかったのは『神掛』。

 それは『原作(BLEACH)』では『浮竹十四郎が命を落とす』場面。

『千年血戦篇』、ユーハバッハが霊王を殺害した際、自身を犠牲にして霊王の身代わりとなって世界の崩壊を一時的に防いだ術のことである。

 

「そっか……まいったね、こりゃあ。」

 

 チエは近くまで来た山本元柳斎たちを見る。

 

「残された時間を、思うがまま過ごせば良い。 じきにここも崩壊していく。」

 

 それだけを言い、彼女はスタスタと歩き出していく。




少し休憩しに『ペル・アスペラ』遊んできます。

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