白と黒の世界は夢を見る   作:haru970

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次話です。

オリジナル展開や独自解釈、独自都合などをうまく表現出来ているかどうか不安の上に長くなりましたが、楽しんでいただければ幸いです。

10/27/21 8:00
誤字修正しました!


第97話 The Cat and Snake

 ___________

 

 真・空座町組 視点

 ___________

 

 浅野と竜貴はさっきから一人も住人が見当たらない空座町の中を、未だに意識の戻らない千鶴とみちるを背負いながら歩き続けた。

 

「そういや浅野は小島(水色)の事はいいの? 電話とかさ? って、圏外だっけ。」

 

 竜貴が聞いていたのは一護が虚圏へ行った日からひっそりと誰とも極力関わらずに、学校と自分のアパートを行き来し始めた水色の事だった。

 

「あー……昔に何あったか知らねぇけど、あいつは人見知りと言うか『壁』を作るんだよ。 『距離感』っての? アイツがあれほど自分から懐いたのって一護()()が初めてなんだよなぁ~。」

 

「………………(そっか、浅野はアイツ(水色)の家庭事情を知らないのか。)」

 

 浅野は知る余地もなかったが、水色の家は現在彼と母親のみが住んでいる。

 

()()()()()』だが。

 

 父親は他の男たちと不倫ばかりをする母親に嫌気がさし、母親が『他人の赤子(水色)で妊娠した』と聞いた直後からはほぼ絶縁状態となり、激しい口論(ケンカ)後に『離婚』する事に収まった。

 

 水色がわずか3歳の時である。

 

 深い事情や状況を呑み込むには幼かったが、『己の所為だ』と理解するには十分すぎる年代だった。

 

 そんな水色に関心をほとんど持たず、父親が出て更に色々な男を作って遊ぶ母と水色の仲は『良好ではない』どころか、もう顔もほとんど合わせないことを竜貴は一護たち経由で知った。

 

 彼が高校に入るまで、他人と深く接することは無かったがある日、関係を持った女性の元彼氏が自分に背後から襲い掛かり、一護とチエが半ば無理やりに横槍を入れた。

 

 特に『なぜ見知らぬ自分を助けた?』という問いに一護の『別に? 後ろから殴り掛かれて(チエが)イライラしていただけだ』と言う返答の何が面白かったのか、水色はあまりのお人好しに笑い、同じ学校の生徒と知ってからは徐々に懐いていった。

 

 中学から付き合いのある浅野でさえも、水色からは今でもかなり雑な扱いを受けていた。

 

 ちなみに竜貴がこの事(家庭事情)を一護から知ったことに、水色はただ『ま、一護が“話しても良い”って判断したんなら良いんじゃない?』と、どれだけ水色が一護に気を許しているのかが分かるだろうか?

 

 そこから竜貴は水色本人から自分の手癖………………というか何十人との女性と『関係』を持っているかの、(ただ)れたノロケ話を何時間と聞かされることとなり、竜貴の(おそらく)『人生初の本気(マジ)ドン引き』をしたのは全くの余談である。

 

 ある意味水色の『年上(女性)キラー』や、ハリウッドスター並みの(女性との)交流の深さは母親譲りなのかもしれない。

 

「うん……あいつ(水色)も、色々と大変なんだよ。」

 

「そうかぁ? 俺からすりゃ、アイツがどことなく雰囲気が軽くなったのって高校入ってからだけど……思いつくのって一護だけなんだよなぁ~……」

 

「でもなんか分かるよ、そういうの。」

 

 竜貴の脳内を過ぎるのは幼少から何かと赤の他人でもズケズケと無理やり馴染むことが得意なオレンジ色の少年。

 博識で変わり種に小柄ないたずら好きな子(金髪少女)

 そして裏表もなくズバズバと言いにくいモノをありのままでいう()()()な黒髪少女の三人たちに毎日を引っ掻き回される日々だった。

 

「なんか意外だ。 有沢がそういう、『女の子っぽい顔』をすんの────」

 

 「────殴るよ、浅野?

 

 ズッ。

 

 その時、巨大な重しが急に乗りかかるような感覚に二人の股が笑い始める。

 

「な、んだよ……これ?!」

 

「この感覚……あの褐色の、時と?!」

 

 竜貴は息が詰まるような感じの中、少し前に会ったヤミーとウルキオラたちを思い出す。*1

 

「ウルキオラの情報にあった、黒崎一護の友人たちか。」

 

 横からくる声に、浅野と竜貴が歩いてくる藍染と市丸を見る。

 

「へぇー、藍染隊長の霊圧を感じても体が壊れるどころか、気ぃ失わへんとはすごいなぁ。」

 

「ぁ……」

 

 浅野は思わず力が抜けたのか、股がとうとう崩れた。

 

「く……浅野! 立て!」

 

 竜貴は気力でよろけながらも後ろへと下がっていったことに、藍染が感心するような声を出す。

 

「そこまで動き回れるとは……たいしたものだ。 悪いが、私の為に────」

 

 藍染が手に持っていた刀の切っ先を上げながら竜貴たちのいる場所へと歩いたその瞬間、頭上から少女の声が響いた。

 

 「『────炎殺黒龍波(えんさつこくりゅうは)』ぁぁぁぁぁ!」

 

 ゴォアァァァァァァァァァァァァ!!!

 

「ギン!」

「ッ!」

 

 巨大な暗黒の靄で出来たような竜らしきものが藍染を押しつぶすかのように頭上から襲い、横から乱菊が現れて動きが一瞬止まったギンを掴んで無理やりその場から移動させていた。

 

ヌグォォォォォ………………二発目は、さすがにキッツイわぁぁぁぁ。」

 

 竜貴たちの前に荒れ狂う黒い渦と、上から着地してきたツキミが苦しむ声を出しながら火傷を負ったように皮膚が変質した右腕を包帯巻きにされた左手で掴んだ。

 

「す、スッゲェ……」

 

 竜貴の口から、純粋にこの光景への感想が漏れ出していた。

 

「う、ウサギ柄……」

 

 浅野の鼻から、血が流れ出ていた。

 

「ッ! ギャアァァァァァ?! こ、このドアホ! なに人のパンツに注目してんねん?!」

 

 浅野の言葉を聞き、一気に耳までツキミは赤くなりながら頭を抱えそうになってから彼に罵倒を浴びせた。

 

「というかさっさと走れ、このアホ! 観音寺(かんおんじ)()よぉ出て来て手伝わんかい?!」

 

 ドン・観音寺がまるでその言葉を待っていたかのように颯爽と横道から出てくる。

 そして勢い余ったのか、自分の衣装に足を引っかけそうになる。

 

「どわっととと! だから私の事は『グレートスーパー除霊師のドン・観音寺』と呼びたまえ、ガール! または────!」

 

 「────じゃかましいわ『観音寺美幸雄(みさお)』!」

 

 人の本名を大通りで叫ぶばないでくれたまえ?!」

 

 ツキミは左手で竜貴の手を掴んで無理やりその場から走り、『GT〇』ならず、『GTDK』を自称するドン・観音寺(美幸雄(みさお))が浅野を無理やり立たせて、ツキミの後を追うように逃げだす。

 

「だが凄いなガール! 今の竜は呪術か何かの類かね?!」

 

「思ったよりやかましい桑原(くわばら)声やわ! お前の『観音寺弾(キャノンボール)』と()()()()や!」

 

「なんと! やはりガールはボーイ(一護)と同じく、私の弟子であったか!」

 

 プッツン

 

 ケツの穴に腕をツッコんで内臓全部引きずり出したあと通りかかる町中の人から『うわぁ、凄くリアルかつブサイクなドン・観音寺にそっくりなクチパク人形ですねぇ』って言わせるで?

 

 「スミマセンデシタ。」

 

 ツキミの全く感情のこもっていない、ハイライトの消えた目と無表情の顔を向けられて脅されたドン・観音寺は彼にしては珍しくシュンと弱気になりながら謝る場面に、浅野がポカンとした。

 

「うわぁ。 八重歯以外三月と外見そっくりだけど、口調と性格が似てねぇ~。 と言うか半端無くおっかねぇ~。」

 

「あー、三月も似ているかもだよ浅野? 今だから言うけどあの子、猫かぶりがアイドルとか俳優顔負けぐらい徹底しているから。」

 

マジですか?!

 

「学校とかでは『内気で目立ちたくない子』を演じているけど、実は────」

 

「────聞こえてるでそこぉ! 口を開けるより走らんかい?! あ、ちなみにボクは『ツキミ・プレラーリ』や、二人ともよろしゅうな?」

 

「「(ボクっ子関西三月。)」」

 

 竜貴と浅野はこの切羽詰まった状況でも、『本匠(千鶴)が起きていれば荒い息を出しているかもなぁ~』と同時に思ったそうな。

 

 ………

 ……

 …

 

 別の場所では、フラフラで息のあがっていた乱菊がビルの屋上でニヤニヤと笑っていたギンと相対していた。

 

 「気持ち悪いわ…」

 

「ええ~? 久しぶりやのに第一の声がそれぇ~?」

 

()()気持ち悪いわ。」

 

「フラフラなのに無茶しよるからそんなに汗かいてんやろ? おおかた、『“穿界門(せんかいもん)”を無理やり開けてさっきの子と僕ら(藍染たち)の先回りをした』いうところやろうけど…………………()()()僕だけをここに離れさせたん?」

 

「……………そんなの、アンタの所為に決まっているじゃない。」

 

「ん?」

 

「あの時、ネガシオンが出てくる直前になんで『ごめん』なんて言ったの?」*2

 

 ここで市丸のいつもの笑みが消え、彼は『スン』と表情が消える。

 

 あの時、市丸をほぼ密着状態で拘束した乱菊でさえも『聞き間違えかな?』と一瞬疑問に思うような、小いさな声で市丸は謝っていた。

 

「あれは……あの言葉にはどういう意味があったなの?」

 

 それを疑問に思っていた彼女は何に対して謝っていたのかを訊いていた。

 

『松本乱菊』と『市丸ギン』はいわゆる『幼馴染』。

 かつて霊力を持っていたことを知らずに流魂街の道端で『魂魄状態なのに空腹』という状況に苦しんで、倒れていた乱菊に食べ物をあげたのが他でもない市丸だった。

 

 そこから二人は奇妙な『友人以上(?)恋人未満(?)』的な曖昧な関係となり、それは二人が死神になっても長らく続いていた。

 

 藍染の謀反直後までは。

 

「ねぇ、どうして信じていた皆を……()()裏切ったの?!」

 

 それが何よりも乱菊には理解できなかった。

 

 ある意味、『藍染に裏切られた雛森』の状況と似ていたかも知れない。

 

「乱菊。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()。」

 

 ドッ。

 

「ウ゛?! ギ……ン……?」

 

 市丸がお腹にきつい一撃を乱菊に食らわせ、彼女はそのまま気を失う。

 

「(もうすぐや。 もうすぐ()()()なんよ、乱菊。)」

 

 そう思いながら市丸はその場を後にした。

 

 乱菊の周りに結界を張ってから。

 

 ………

 ……

 …

 

「あ。 お~い! 渡辺さんに有沢に観音寺さんとついでに浅野~!」

 

 別の場所では水色がいつも通りの調子で走っていたツキミ達にビルの陰から手を振っていた。

 

 拳銃(リボルバー)をもう片方の手にしながら。

 

「あー、ボクは()()()()で名前は『ツキミ・プレラーリ』いうねん。」

 

「ふぅん、そっかー。 あ、コンビニから()ってきた食料とかあるから。」

 

「めっちゃ助かるわ! モグモグモグモグモグモグモグモグ。」

 

 ツキミは水色の手に握られていた拳銃を無視していたかのように手当たり次第におにぎりなどを頬張ってからグビグビとスポーツドリンクをグビグビとラッパ飲みする間、彼が竜貴たちへと振り向く。

 

「これってやっぱりあの『浦原』っていう人の言っていた事なのかな?」

 

「「………………………………………」」

 

 浅野と竜貴は未だに平然としていた水色の握っていた拳銃をガン見していた。

 

「う、う~ん……」

「あれ……私……寝ていた?」

 

 背中の千鶴とみちるもさすがに今の騒動で起き始め、ドン・観音寺が場の空気を軽くさせようとした。

 

「う~ん、私が言うのもなんだが……ボーイとガールの知り合いたちは個性的だね?」

 

「アッハッハッハ。 観音寺さんにだけは僕、言われたくないなぁー。 あ、もしかしてこれ(拳銃)のこと? いいでしょ?」

 

「いや……お前………よく物騒なものを見つけたな?」

 

「起きなかった警官たちが悪いよ。」

 

「「「本物を盗んだのかよ/かい?!」」」

 

 浅野、竜貴、ドン・観音寺が驚愕する。

 

「ハムハムハムハムハムハム。」

 

 ツキミは幸せそうに大福餅を頬張り始めた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 気が付いた千鶴とみちるに竜貴たちが説明し終わる間、ツキミは次から次へとすぐに食べられる食物をできるだけ口に入れては即食べ終わらせるという、暴食家(ぼうしょくか)顔負けの速度であらゆる食べ物や飲み物を完食していった。

 

「フゥー、ごちそうさん。」

 

「し、信じられない。」

「ね、ねぇ?」

 

「ま、あの子が大食いなら家族も大食いなのは不思議じゃないでしょ?」

 

 呆れる竜貴にみちると千鶴はボーっと放心していた。

 

「ん? どうした二人とも?」

 

「い、いや多分私と同じでみちるは放心しているっていうか……なんでアンタたちはそんなに今の状況に順応しているワケ?!」

 

 竜貴、浅野、水色が互いを見る。

 

「いや、だって……命の危機だから?」

「そうそう。 命が狙われているっぽいし。」

「だから一周まわって浅野でも冷静なんだね?」

「水色……ここでも俺に対しては辛辣なんだな?」

「「え?」」

「いやいやいやいや! 小島(水色)はともかく、なんで有沢(竜貴)まで『え? コイツなに言ってんの?』というようなリアクションなの?!」

 

「「訳が分からないよ!?」」

 

 竜貴、浅野、水色のコントに千鶴とみちるがツッコむ。

 

「要するに、『お前たちの命が狙われている』っちゅうことや。」

 

「「だから誰に────?!」」

 

 ズッ。

 

 またも重しのような圧力がその場にいた皆を襲い、藍染が刀を手にしながら現れた。

 

 それはさながらスリラー映画……いや、ホラー映画で登場する『異界のバケモノとご対面今後ともヨロシク♪』的な場面だった。

 

「「き、来たぁぁぁぁぁ!」」

 

 浅野と竜貴はそれ相応の反応をした。

 

「逃げるで!」

 

 パパパパパーン!!!

 

 そしてツキミの言葉に答えるかのように、水色が躊躇なくニューナンブM60(拳銃)を連射する。

 

 だが実弾の弾が藍染に届くわけなく、それらは彼の圧倒的霊圧の膜に触れる瞬間、灰へと化す。

 

「うわ、個人バリア持ちなんて。 本当にどチート野郎だ。」

 

しゃあないけどゴニョゴニョ王炎殺黒龍波(おうえんさつこくりゅうは)』ぁぁぁぁ!」

 

 ツキミが両手を合わせ、本日何度目かの黒い竜が藍染を襲う。

 

「グ……ク……(やっぱり『痛覚遮断』は効けへんか。)」

 

 ツキミの顔はまたも苦しみに歪みながらプルプルと震える、黒く皮膚が変質した両手に一瞬目線を送ってから走り出す。

 

 そこには唖然とし、腰が抜けたらしい千鶴を引きずってでも逃げようと苦戦する浅野と、みちるを無理やり担いでから浅野に手を貸す竜貴を見た。

 

「だから逃げろや?!」

 

 ガァァァァァァ!!!

 

 走るツキミたちの背後で、断末魔のような音がして黒い竜が消えていく。

 

「やれやれ。 ()()()()も飽きてきた────」

 

「────ただいま、藍染隊長。 ()()()()()()()()。」

 

 そこに市丸が現れて藍染が歩みを止める。

 

「……確かに、彼女(乱菊)の霊圧が消えている。 流石は『蛇』を自称することはある。」

 

 それは百年前、市丸が五番隊に入隊したある夜の彼が藍染の『君は自分をどう見ている?』という問いに返した言葉。

 

『蛇の肌は冷たい。 ()はなく、舌先で獲物を探し気に入ったモノを丸呑みにする。』

 

 ある意味、ルキア関連騒動の時に彼女の搬送をしていた者たちが見たような幻覚は彼の自己認識と合っていた。*3

 

「あの子らを殺した後はどないするんですか?」

 

「見晴らしのいい場所に死体を吊るそうか、あるいは亡き骸をどうにかしようと決めかねている。」

 

 ここで市丸は藍染の上がっていた刀を、撫でるかのようにそっとおろす。

 

「せやったら、僕があの子らやりますわ────」

 

 ズッ!

 

 市丸の上げた腕の袖の向こう側から何かが藍染の胸を貫いていた。

 それは、いつか日番谷とのやり取りで見せたような動作だった。*4

 

「────なぁんちゃって♪。」

 

「……ギン────」

 

「────『“鏡花水月”の能力から逃れる()すべは“初解”を見ない事と、完全催眠の発動前に刀に触れておくこと』。 その言葉を聞くために80年近くかかった。」

 

「知っていたさ。 だからわざと『鏡花水月』の弱点を君に言って、それを君がどう使うのかに興味があった。」

 

 藍染は自分の胸に刺さっていた市丸の刀を無視するかのように、涼しい顔で話していた。

 

「昔、僕の卍解能力を説明した思いますけど……すんません、アレ嘘です。

 

 言うたほど長く伸びません。

 

 言うたほど(はや)く伸びません。

 

 伸びるときは一瞬だけチリ()になります。

 

 そして刃の中に細胞を溶かす猛毒があります。」

 

 市丸の刀がいつの間にか脇差へと変化していて、藍染の胸にあった傷の上に市丸が手を置いてから『神殺鎗(かみしにのやり)』の『二段階目の解号』をする。

 

(ころ)せ、『神殺鎗(かみしにのやり)』。」

 

 ボンッ。

 

 小さな破裂音がその場で響き、血らしき赤い液体がボタボタと空座町の黒いアスファルトへと滴る。

 

 ソウル・ソサエティを照らす太陽の中、人影がよろける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 市丸が両目を開けながら、自分の抉られた脇から零れ落ちる血を止めようと、手を置きながら自分の後ろにいた藍染を見る。

 

「…………………何時から、ですか?」

 

()()? まさか君もそう言うとは純粋に驚いたよ。」

 

 市丸の汗ばむ顔にはいつもの笑みは無く、彼は痛みを伴う浅い息と、()()が失敗した今出来るだけの()()()()をしていた。

 

()()()()使()()()()()()と思った?」

 

 だがそれも藍染の振るった刀であっけなく終わるだろう。

 

 そんなことを思いながら、市丸は小さく息を吐きながら小声で愚痴を零した。

 

はぁ~。 ()()()()()()

 

 そこで市丸の意識は途切れ、とある思い出たちが目の前を過ぎった。

 

 いわゆる走馬灯(そうまとう)と市丸は判断し、身をそれに委ねた。

 

 

 ___________

 

 市丸ギン 視点

 ___________

 

 場所はとある流魂街の林。

 百年前よりさらに前らしき時代の中、子供の容体である市丸ギンらしき者はその夜を過ごす焚火の為の枝などを拾い、(あさ)っていた。

 

「(もう夜も遅いわぁ。 こりゃあ乱菊、カンカンに怒っとるわなぁ。)」

 

 この時の市丸は、自分と同じく『お腹が減る』乱菊と一緒に住んでいた。

 

 彼らが付いた流魂街の地区は担当の死神たちの関心がない、無法地帯に近く、身寄りもほかの子供もすでにカモにされて見当たらない様な場所だった。

 

 だからかも知れない。

 

「(ん? あれは……死神?)」

 

 ()()()()()()()()

 

 幼い市丸は身を隠し、『こんな場所で見ることはない』と思った死神たちを観察することにした。

 

 これがもし他の『やる気のある死神』や『流魂街の住人と仲が良い死神』の地区であってのならば、市丸は警戒心を立てることなく死神たちの前に出てしまい、彼の物語はここで終わっていただろう。

 

「(珍しいなぁ、こんなところでコソコソと……何してるんやろ?)」

 

 そこで彼らの後を追って目撃したのは死神たちが、近くの集落に入っては次から次へと流魂街の住人を眠らせて、魂魄を無理やり引きずり出してそれを集める場面。

 

 市丸は走った。

 

 ただ夢中になって集めていた枝などを落としていき、自分の着ていたお粗末な服が引っかかった枝などを走る勢いで引き離し、ただ可能な限りの速度で走った。

 

 彼の脳内にはたった一つだけ────否、()()()()()()()だった。

 

 彼が目的地である集落へと着くと、すぐに集落の外れにある小屋へと一目散に向かった。

 通りかかる皆は衰弱していたからか、()()()汗を掻きながら寝ていた。

 

 それは、小屋の外で彼が抱き上げた少女も同じ状態だった。

 

 「…………………………乱菊。」

 

 その次の日、少女(乱菊)に前日の夜の事を市丸が問いただしても彼女は記憶がなく、『ただダルイから今日はもう少し寝るからよろしく』と言った。

 

 このことに疑問を感じた市丸は幼いながらも聡明かつ行動力があり、すぐに『流魂街の魂魄を集めていた死神たちに賄賂を渡す藍染』という場面を発見した。

 

 そこで彼は子供とはいえ、ある決意を心にした。

 

「(あいつ(藍染)は絶対にボクが殺す。 乱菊の盗られたモンを取り返す。 絶対にや。)」

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

「な、なんで────ガッ?!」

 

 グサッ!

 

 命を乞う死神に、市丸は尖った木の棒で止めを震える手で荒い息をしながら刺した。

 

「……アカン。 全然あかんわ。」

 

 市丸は初めて(死神)を手にかけた自分へ上記の『自己評価』を、明らかに動揺していた自分に向けて『失望』の言葉を放った。

 

 目の前には藍染の為に魂魄を集めていた死神の一人が相応分以上の飲酒をし、フラフラに酔っ払って流魂街の娼婦と()()()()()のところを、市丸が奇襲をかけて殺めた亡き骸。

 

 覚悟はあの時に決め、何度も脳内で数々のシミュレーションもし、藍染に魂魄をささげていた死神たちの行動なども理解し、これ以上はないチャンスが巡りあって、彼は行動に出た。

 

 だというのに市丸の心臓は今にも飛び出そうなほどうるさく鼓動し、体は未だに震えていて足もガクガクとなり、フラフラになって内側のものを吐き出したい頭で気合を入れなければ今にでも倒れそうな状態だった。

 

「(アカン。 ()()()を殺すにはまず、()()()()()()()()()わ。)」

 

 そう考えた市丸はかつて無いほど、あらゆる方面で()()をした。

 

 無い才能や知識を、血反吐を吐くような思いと努力で乗り越えながら彼は『自分個人』を殺し続けた。

 

 …………………

 ………………

 ……………

 …………

 ………

 ……

 …

 

 そして、その日はついにやってきた。

 

「ま、参っ────!」

 

 ザクッ。

 

「────それでも『戦士』やろ? 『戦士』が『負ける』言うたら『死ぬ』ことやで?」

 

 夜空の下の五番隊舎で、市丸は殺した隊士の返り血の中で薄い笑みを糸目と共に浮かべていた。

 

「素晴らしい。 『市丸ギン』、と言ったね? うちの五番隊の三席はどうだった?」

 

「あかんわ、話にならへん過ぎて欠伸が思わず出そうやったわ。」

 

 そう言いながら市丸は別思考で己の状態を確認していた。

 

 なんてことはない、自分を『無の表』と『裏の自分』とわければ造作もないこと。

 

「(声も、手も、体も震えていない。 心臓の心拍数も変わっていない。 それに()()()()()()()()()。)」

 

 そうやって市丸は時には暴走しそうな『裏の自分』を『無の表』が殺して生きてきた。

 

 だが一人だけを前に、己の制御が上手くいかないモノが未だに居た。

 

 全ては────

 

「(────乱菊を泣かせへんように、行動してたんけど…………………最後はボクの為に泣くんやろか? …………………多分するやろうなぁ、ぎょうさん泣いて。)」

 

 かすんでボヤける意識の中、亡くなった自分の上でワァワァと泣く乱菊を市丸は容易に想像できた。

 

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………謝っといて、()かったわ。

 

 でも最後に、顔をはたかれても伝えたかったなぁ………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ポタ。 ポタポタポタ。

 

 ……あれ?

 

 ポタポタポタポタ。

 

 なんや、ソウル・ソサエティで雨かいな。

 

 ロマンチストやったら……『ボクの内心を()()が表している』、てか?

 

 …………………………なんか、『死』って思ってたよりだいぶんちゃうなぁ。

 目ぇ開けたらさっきの妄想が見えたりして。

 

 ほぉら、目ぇ開けたらぎょうさん泣いている乱菊がボクの上で────

 

 「────ギン! 意識が戻ったのね!」

 

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?

 

 なんで泣いている乱菊が、目ぇ開いたボクを見て嬉しがってんの?

 夢にしたら────

 

「────ゴホォ?!」

 

「ギン! まだ喋らないで!」

 

「そうだよぉ~? 脇腹をぼっこり取られていたからねぇ~?」

 

 このジンジンとする脇と喉の痛み。

 それに乱菊の安心する声。

 

 ……ああ、そっか。

 

 なんや。 

 

 ボク、生きてんのか。

 

 

 実に百年ぶりに市丸の頬を一粒の涙が伝い、彼は自分の胸が温かくなるのを感じた。

*1
55話より

*2
31話より

*3
30話より

*4
29話より




ツキミ:……ええ話がな。 ズビィィィィィ……

作者:ほい、ティッシュ。 なお次話あたりでアンケートを出す予定です。 ではまた次話で会いましょう。

一護にとって、チエは────

  • 世話の焼ける妹だ
  • ぶっきらぼうで無口な姉だ
  • す…す…す…すきやきぃ~(気になる奴?)
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