振られるなんてことは目に見えていても告白をして。
周りには面白い優等生と言った雰囲気で通っている葉加瀬はその返しに......。
葉加瀬冬雪とオリ主との青春ストーリー!
とある高校のとある春の季節。
とある二学年のとある日付に。
「それじゃあ日直の二人は……今は君しかいないのか」
「……え? あー、多分葉加瀬さんはトイレとかに行ってるんじゃないですか?」
「そっか。それじゃあ葉加瀬が帰ってきてからでいいからさ、この後いつでもいいからさ、職員室で私のところまで来てよ。少し運んでほしいものがあるからさ」
「あー、わかりました」
「うんっ、よろしくね~」
三時間目の教科担任の女性がそれだけ言うと手を振って教室を後にしていく。
……僕だけなのなら気楽でいいのだけど。
別に葉加瀬さんのことが嫌い、なんてことはなく、むしろ好きだ。
一年生の頃から同じクラスで、好意を持ってしまい、そして二学年になっても同じクラスで。
何かと縁があるということでそこそこ仲良くしてもらっている葉加瀬さんのことを、好きになっていたのだ。
いつから好きになったのかと言われれば明確な答えは出せないけど、それでも好きだって胸を張って言えるくらいには、この思いは確かだ。
「葉加瀬さん、帰ってこないなぁ……」
もう先にご飯でも食べてようかな。
この高校では午前中の授業は三時間で、そのあとに昼休みで昼食時間があるのだ。
周りを見てみてもすでにお昼を取り始めている人もちらほらと。
だから僕も、なんて鞄に手を伸ばしたところで。
「あれ? 今私のこと呼んだ?」
「あっ、葉加瀬さん」
「ん? うん。実験大好き葉加瀬だよ?」
何言ってるの? と言いたくなるような返しを何言ってんの? と言いたげな視線で言い放つ葉加瀬さんに早くも諦めを着けながらも席を立った。
「さっき授業の先生に呼ばれててね。一緒に来てほしいんだけど、お昼まだ平気?」
「まだ大丈夫だよー。それにさっきの授業でお菓子も食べてたしっ」
「えっ、よく見つかんなかったね……って言おうと思ったけど前に先生もって渡して呆れられてたの思い出して納得だよ」
「あれ? なんか急に饒舌だね、どうしたの?」
「やめてぇ、そこ言葉、今の僕には特攻が入るから」
なんて話していればいつの間にか少しの時間だっており、周りはすでに昼食モード。
これ以上時間をかけるのも、これ以上この教室にいるのも少し迷惑になるだろう。
「それじゃ、ちょっとついてきて」
「オッケーっ」
そういうと律儀に僕の後ろで歩いてついてくる葉加瀬さんを尻目に収めながら教室を後にした。
向かう先は、階段。
窓が多い場所というだけあり、お昼ご飯を食べ終わったものや、まだ食べない者、はたまたお昼ご飯を摂らないという者、それぞれが集まりそこそこの人だかりができている。
その中には葉加瀬さんに話しかけようと声をかける者も少数存在しており。
「ごめん、ちょっと後にしてもらってもいい?」
「お? おう、わかった」
強気な言葉で押しのけていた。
きっと、こうなるのは僕の独占欲紛いな汚い感情なのだろう。
ついてきてくれる葉加瀬さんを誰にも取られたくない、なんていう奸智に長けた僕の悪い考えだ。
後ろを気まぐれのように見てみれば、何も考えていなさそうな明るい笑顔を向けてきてくる。
「どしたの? トイレ?」
「ううん。ちょっと後ろが気になっっちゃって」
「へー」
こんな気の抜けたような何気ない会話すらも、僕にはとても眩しすぎて。
――風が吹いた。
そんな感じがしたんだ。
気づくと階段前で僕の足は立ち止まっており。そしてまた気づけば横から覗くような顔が一つ。
「ほんとにトイレだったら私待ってるから行ってきなよ」
「いや、大丈夫。本当に大丈夫だから」
それじゃあ行こっか。
なんて言おうとしたとき。
また風が吹いたのだ。
確かに風通しが良く、強い風もたまに起きるこの階段前で。
僕にはそれがどうにも偶然なんかと思えなくて。
……思いたくもなくて。
僕は、下り階段から吹き上げる風に従うように。
登り階段へと足を掛けた。
「あれ? 職員室とかじゃないの?」
上の階に行こうとする僕を不審に思ってか、声が掛かる。
その声はどこか気の抜けて、どこかあっけのないような。
「うん。ちょっと上に用事があって……何も聞かずについてきてもらってもいい?」
「うん? うん、オッケーっ!」
唇を結びながらはにかんで笑って見せる葉加瀬さんに、こっちと手招きするように階段を登り始めた。
三階、屋上と登っていけば、自然と心臓の鼓動が増していく。
疲れてきた、なんて虚弱なことを言いだすつもりじゃなく。
本能に従ったまま登った階段であったが、ここまでくれば自分でも嫌に自覚してしまう。
僕は、葉加瀬さんに告白をしたいんだ
と。
「鍵は、開いてるみたいだね」
ドアノブを捻ってみれば抵抗の一つもなく開いた扉に驚きながらも開き放った。
と、途端に少し勢いついた風が風が入り込み、服を靡かせる。
「……うわぁ! っ私何気にここ、初めて来たかも!」
僕が足を踏み入れる一瞬前に、先に葉加瀬さんが飛び出すように屋上を走り出す。
「すっごい広いねここっ!」
「でしょ? っていうのもなんか変だけど。多分三年生が使ったあとなんだろうね。ここ、滅多に開いてないし」
「へー、そーなんだぁ」
聞いてきた言葉に返してみれば、帰ってきたのはまるで無関心のような言葉。
いつの間にか走るのを止めて手すりに肘を掛けて休んでいた葉加瀬さん。
突然と振り返るようにこちらを窺えば、笑って見せた。
「うーん! 風が気持ちいねっ!」
「だね。桜が舞うくらいの程よい気温で……気を抜くと欠伸が出そうだよ」
「それめっちゃわかる! 今日も授業中私がどれだけ寝落ち耐久していたことか!」
「あー、それはちょっと違う気もするけど……ねぇ葉加瀬さん」
「ん? ……どうしたの?」
一息違う。
そんな僕の改まった声を聞いてか、まるで態度を変えるように体ごとこちらに向き直し。
前髪を簡単に直せば真っすぐな紅い瞳が僕を見つめた。
「僕がここに呼んだ理由、分かる?」
「うーん。てっきりずっと職員室とばかり思ってたからなぁ。多分日直とかそこら辺の絡みでもないんでしょ?」
「うん、違う。きっと、みんなにとって眩しくて明るい、そんな葉加瀬さんには迷惑にしかならないだろうって思って言ってこなかったことがあるんです」
「あれ? 私改まって言われるようなことしたっけ? というかなんか褒められてるの?」
「……今から大事なこという雰囲気だったじゃん? ちょっとハイペース隠してほしいというところなんですけど」
「あーごめん。ちょっとお口の鳴りを潜めておきますねー」
口の前でチャックを閉める動作を笑顔でこなせば、すぐさま自分の心臓がうるさくなる。
校舎内から溢れるように流れてくる声も、鳥の囀りさえも。
まるで僕の心臓を加速させる材料の一つのようで。
まるで、背中を押すきっかけのピースのようで――。
「僕は葉加瀬冬雪さん、貴女が、好きです……ッ」
音が消えた。
そんなことが茫然と考えられるほどの、時間だった。
葉加瀬さんの反応を窺ってみれば、まるでどう反応すればいいのかわからないといったような――。
「……あれ? もしかして私、今告白されちゃってる?」
うん。そりゃどう反応すればいいのかわからないわけだよなぁ。
「てっきりこんなところまで連れ出したんだから、それくらいのことは予想ついてると思ったんだけど……もしかして僕に告白されるかもって頭の片隅にも候補が浮かばないほど眼中にないってこと?」
「いいい、いやっ!? 違うよ!? そもそも私自身に付き合うこととかに全く興味がなくってですね……えーっと」
困ったような顔で「あ、あははー」と引き攣るような笑みを浮かばせて。
……わかってたよ。
だから言えなかったんだ。
いつも眩しい君を困ったような顔にさせてしまうことが。
「無理してまで僕を慰めなくてもいいですよ?」
「む、無理はしてないっ。これは、本当だよ」
気遣うように言っては見たが、いらない気遣いだったようで。
きっとこういう一面があるから、みんなに好かれるのだろう。
「その、ごめんね?」
「別に謝らなくても……ここまで気まずそうな顔をさせてなお、葉加瀬さんとワンチャンなんて思わない。こっちこそ、ほんとに迷惑かけました」
なけなしの男気を掛けて、流れそうな涙を抑え込んでの早口での言葉。
まるで驚いたかのような、驚愕したような……いや、どれもちがうんだろうね。
きっと、考えてすらいなかったのだろう。
「めっ、迷惑なんかじゃ絶対ない! 私がこんなこというのは変かも知れないけど、迷惑じゃ全然なかったし、気持ちもとっても嬉しかった、から」
何かを縋ってくるような目線に、こういうところなんだよなぁ、と内心、気持ちが落ち着いていく。
振った相手のことすらも気にしてしまうような、葉加瀬さんの優しいところ。
何事にも真っすぐで、ちょいちょいネタに走るようなこともあるけど、それでも淑女でしっかりと最後まで相手を見る、そんな葉加瀬さんのやさしさに、僕は勘違いをしていたんだろう。
いや、勘違い、だなんて言葉は失礼だろう。
葉加瀬さんの真っすぐ、何も含みも裏表もない会話に、僕が勝手に好きになっただけの。
等身大な葉加瀬さんに恋をしたんだから。
それを勘違いですますのは、きっと葉加瀬さんの人間性を揺るがす、なんて気がして。
「私には今やらなきゃいけないこと……ううん、やりたいことがあって、それに夢中になっちゃってて。今日だってそれの用事があってね。だから今の私に彼氏が欲しいなんて思いはないです。だからごめんなさい、貴方と付き合うことは、できません……」
あぁ、これだ。
葉加瀬さんの真っすぐな言葉。
振られているというのに何も嫌な感じがなくて。
まるで清々しいような。
何も恥ずかしいようなことじゃないような感じで。
「うん、ありがとう。僕を振ってくれて、ありがとう」
「ぁ……お礼を言われるようなことじゃないっていうのは、私でも分かるから。だから別に無理なんてしなくても」
「無理なんかしてないよ。うん、無理はしてない。たださ、今日は風が気持ちいなって」
何を言ってるんだろう。
先ほど葉加瀬さんが言っていた言葉が突然と流れてきて。
いつの間にか僕の顔は空を仰いでいた。
「ほんと風が気持ちいね。これなら濡れた瞳も乾きそうだよ」
「ふふっ、普通に泣いてるっていえばいいのに」
「言えないよ。だって女性の前で泣くのは恥なんだから」
「そうなの?」
軽く聞いてくる葉加瀬さんに、気づかずにため息がこぼれる。
君さ、さっきまで僕に告白されてたんだよ?
「そうなの。それに葉加瀬さんの前だもん……って僕が言うと気が退ける?」
「え? ううん。君がそういうつもりで言ってないことは分かるもん。それで私だけ過剰に反応するのもってなるでしょ?」
「なんか、冬雪さんらしいね」
「……ふふっ、でしょ!」
「……あの、なんかツッコんでくれないすんごい恥ずかしいんだけど」
「別に私のこと名前で呼ぶくらい、勝手にすればいいのに」
「それでもだよ。男が女の子を下の名前でだよ? まるでアニメじゃあるまいし」
「そーゆーものなの?」
「そーなんです」
あー! と無性に叫びたくなる気持ちを押し込め、制服の裾で目元を拭った。
赤くなるかもよーなんて小さく聞こえる冬雪さんの声に耳は貸さず、しっかりと醒めた目で、冬雪さんを見た。
「いつもキラキラで眩しくて、何があっても揺るがないような、とても強い冬雪さんの前では、絶対に泣かない。って僕はキメ顔で言った」
「何それ」
「なんだろうね」
「もう。それに私だって――」
そんなんじゃないよ。なんて言おうとした口を、吹いた風が邪魔をして閉ざした。
「ねぇ」
「どうしたの?」
不意にかかる声に、まるでドキリと心臓が跳ねた。
何もないって、わかっているのに。
きっと、冬雪さんの声が、気持ちいいから。
「私と友達になろうよ」
「いいの? 僕と」
「そりゃ私から聞いてるんだもん。それに君、思ってた以上に面白いんだもんっ」
「そっか、面白そう、ね」
「あれ? なんか嫌だった?」
どこか気遣うような視線に目が合えば、僕は笑って見せた。
きっと、考えても何も変わらないんだし。
きっと、探しても見つからないんだから。
焦っても。
くじけても。
失敗しても。
きっとこの気持ちの終着点はその時が決めるんだから。
だから今は――
「面白そうって、なんかちょっと嬉しいなって」
「うわぁ、なんか変態みたいなこと言ってるぅ―」
「変態ちゃうわぁ!」
「あー、似非関西弁だぁ」
「……なんか僕今罰ゲーム受けてる?」
なんてことない会話をすることにした。
「あーっとさ。さっき言ってたやりたいことって、男絡みなの?」
「うーん。男、男、かぁ……男、なのかなぁ? まぁパパだし、ロリだけど……多分男になる、んじゃない?」
「うん、そこまで答えを出すのに戸惑ってるっていうのを聞いたら全然そういう対象じゃないってわかったからいいや」
「そう?」
「うん。それじゃ職員室、行こっか」
「え!? 日直の用事ってほんとにあったの?」
「うん、あるよ?」
「そっかぁ。なんか面倒くさいなぁ」
「まぁまぁ。ほら、行こ?」
手招きをするように先に歩き出せば。
僕の後ろをついてきて。
クラスメイトとして潜った屋上を。
――友達として後にした。
そして彼は未だ知らない。
葉加瀬冬雪がバーチャルライバーであることを。
そして、黒子になるということも――。
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