【小説版バンドリ布教会01】という企画に参加させて頂きました。小説版バンドリをすこれ。

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咲いた花がずっと有るように

「……ん? もうこんな時間?」

 

 夜も深まり、秋を越えてまだ残る鈴虫の音が微かに聞こえてくる冬の金曜日の夜。先程まで鳴っていた時計の針が鐘の音を鳴らした音で、今が二十三時になっていた事を把握する。

 その時計を見て、少しと一息入れようと今までしていた作業の成果を見やる。

 

「……うん! なかなか綺麗になったわね」

 

 それは、私達のバンド「Poppin`Party」の練習場所である私の家の蔵の掃除。別に掃除自体は普段からしてはいるのだが、特に今日はしたくなった訳がある。

 

 ──ライブをやろう。

 

 それを最初に誰が言ったのだったか。それは多分、私だった気もする。

 私達「Poppin`Party」 ──通称ポピパの全員揃って初めてのライブであった学園祭ライブを終えた後、かすみんの次なるステージとして言ったと思う。

 それについてはみんな肯定的で、それについてのすんなりと話は進んだ記憶がある。

 

 そこからの出るライブの選定や練習なんかは特に問題もなく進み、もう一時間もしたらライブ当日になるくらいには順調に進んできた。

 そんなライブ直前だからだろうか。不意にどうしてか、いつも練習に使っていた此処を改めて掃除したくなって、気づけばこんな時間までやってしまっていた。

 

「ふぅ……。それにしても寒いわね。もうすぐ12月とはいえまだ11月でしょ?」

 

 もうちょっと掃除をやっていたい気持ちもあったけれど、時間も時間だからと掃除を切り上げる。そして家に戻ろうと扉を開けた私を迎えたのは吸い込めば胸を刺すような痛みで、それが寒さだというのに一瞬気づかなかった。

 

「あー……本当寒い……。これ明日雪とか降ったりしないでしょ……うね……」

 

 そしてその寒さに一人愚痴りつつ、明日雪が降らないかとふと空を見上げた私は、その星空に軽く息を呑んだ。

 

「わぁ、綺麗……」

 

 そうして見上げた夜空はそれはとてもとても綺麗な星空だった。空に煌めく星達が、まるで息をしているような煌めき。見ている私の鼓動に合わせてより光を強めるような、そんな星空だった。

 

 寒さで空気が澄んでいるからか、都会の光があっても星の煌めきがとても輝いていて。その光景はこれ以上言葉で表すのは出来ないくらい本当に綺麗だった。

 

 もしかしたら引っ込み思案だけどやる時はやる子(かすみん)の昔見たという星空もこのようなものかもしれない。

 そんなことを思いながらふと、どうして掃除をしようと思ったかちょっとした心当たりみたいなのを思い出した。

 

 それは、私が見ている星の光のように遠い遠い過去の思い出。亡き父との思い出の一部、幼い私が七歳くらいになる誕生日の前日の話。

 


 

「ねぇ、お父さん。今日はなんでそんなにお掃除してるの?」

 

「ん?」

 

 何歳かの誕生日の前日の昼。やけに熱心に掃除をしていた父に私は問いかけた。

 今思えば多分、これより前の誕生日の前にもしていたのだろうけれど、明確に父の行動に疑問を覚えたのがこの時だった。

 そんな私の問いかけに対し、父は嬉しそうに朗らかな笑みを浮かべ、とても優しい声でこう言った。

 

「有咲、明日はなんの日か知ってるか?」

 

「え? ……私の誕生日?」

 

 正解、とゴツゴツした手で私の頭を撫で、嬉しそうに笑う父。その撫で方は幼い私にはちょっとだけ痛かったけど、それでも何故か心地良かったのを良く覚えている。

 

「でも、なんで私の誕生日の前の日だから掃除してるの?」

 

「それはな。明日が有咲の誕生日っていう特別な日だからだよ」

 

 私の問いかけに父はそう返すと、今度は雑巾掛けを始め、その後の床を指差しながら私にこう言った。

 

「ほら、こうやって掃除するとなんとなくだけど気分が良いなるだろ? だから大切な日や特別な日の前にはこうやって掃除をしてるんだよ」

 

「へー……」

 

「あ、さては有咲、あまり分かってないなー?」

 

「え!? も、もちろんわかるよ!」

 

 正直な話、その時はあまり父の言っていることがよく分かってはいなかった。だけど私の誕生日が特別な日と言ってくれたのが嬉しくて、気づけば私も一緒に掃除をしようと雑巾を手に取っていた。

 

「…………ふふっ。よーし有咲! どっちが早くこの廊下掃除出来るか競争するか!」

 

「うん!」

 

 そんな私を、父は少し涙ぐみながら、それでも笑って再び掃除を私と二人で始めたのだった。

 

 

 

 

「……なぁ有咲」

 

「なーに、お父さん」

 

 その翌日、私の誕生日のお祝いも終わった夜。私は父と一緒に縁側に座っていた。

 その日は今日みたいな星の綺麗な夜で、暫く二人で静かに星を見ていると不意に父が真剣な声で問いかけてきた。

 

「有咲の名前の由来って言ったことってあったか?」

 

「え。……ううん、聞いたことない」

 

 いつもと違い真剣な父のその問いに答えると、一つ息を吐きながら父はそうか……と小さく呟き、少し恥ずかしそうに話し始めた。

 

「実はな、有咲って名前は俺が考えたんだ」

 

「えっ……」

 

「アイツ……母さんにはちょっと反対されたけどな、読み辛いって。それでもこの名前にしたいって無理矢理頼み込んだんだ」

 

 そうやって既に亡くなっていた母との思い出を笑いながら語る父の顔は少し寂しそうで。その顔が見てるのが嫌で、早く続きを言うように急かしてしまった。

 

「悪い悪い……。それで由来だけどな。まぁ別に面白い由来って訳じゃないさ。『咲いた花がずっとそこに有りますように』っていうお願いを込めたんだ」

 

「咲いたお花がずっとそこに有るように……?」

 

「あぁ。たとえどんなことがあっても有咲が強く生きてほしい。そんなお願いを込めた名前だよ」

 

「……うーん。よくわからない」

 

「ハハハ、……そりゃそうだよな。俺だって有咲の歳でそんなこと言われたって分かんねぇや」

 

 そう言って父は笑い、そうした後あの撫で方でまた私の頭を撫でると私の目をしっかりと見つめながら、静かに語る。

 

「でもな、有咲。これからの人生、良いことばかりじゃないかもしれない。どうしようもなく悲しいこともあるかもしれない」

 

「うん……」

 

 ──思えばその時、父は自分が長くない事を理解していたのかもしれない。だからそんな話をしたのだろう。

 

 それを分からないなりにも、きっと良くないことが起こるというのは幼い私にもなんとなく感じて、ちょっと俯いてしまった。

 そんな私の状態を多分だけど分かっていたのだろう。父は微笑み、傍にずっと置かれていたギターを横目で見ながら続けて話す。

 

「有咲、音楽は好きか?」

 

「え、うん。好きだよ。お父さんのギターかっこいいもん」

 

「……ありがとうな。それなら、大丈夫だ。きっと有咲が悲しいと思った時にきっと《音楽》が助けてくれる」

 

「ほんと?」

 

「あぁ! なにせくだらない世界を壊すのはいつだって《音楽》なんだぜ!」

 

「くだらない世界を世界を壊すのはいつだって音楽……?」

 

「あぁ。……あ! でも音楽より先にお父さんを呼んでくれよな! 有咲の為なら何処からだって駆けつけるぞ!」

 

 そうやって父はいつものような明るい笑顔を見せて、もう一回演奏するか! とギターを取り出して、庭に降り立つ。

 

「──有咲! もう一度言うぞ。どうしようもなく悲しくなったら、いつでも《音楽》を呼べ!」

 

 その言葉と共に奏でられる父の持つランダムスターの音色。それが星空と混ざり合い、きっとかすみん風に言うならあんなのをキラキラドキドキといえる光景だった。

 

 そしてその誕生日から何度目かの年を迎えたある日。父は静かに息を引き取り。そして、私の閉じ切ったくだらない世界が始まった。

 


 

「…………寒い」

 

 星空を眺めて暫く。柄にもなく昔の思い出に浸り過ぎたのかもしれない。長く外に居たから酷く身体が冷えてしまった。……もしかしたら、別の理由もあるかもしれないけれど、でも、きっとそれは気のせいだ。(頬の涙をこっそり拭う。)

 

「……ねぇ、お父さん」

 

 ふと先程の思い出を思い出し、小さく父を呼ぶ。けれどその声の答えはなく。……それも当たり前か。だって父は、もう居ないのだから。

 

「────」

 

 今度は小さく歌を口ずさむ。それは、父が遺した《夢》を撃ち抜く為の《音楽》。

 

「ねぇ、お父さん」

 

 そしてもう一度、父に呼びかける。それは、父を呼ぶ為ではなく、私の決意を告げる為。

 

「私は、悲しくなんてないわよ。だって、くだらない世界を壊せる《音楽》に出会ったもの」

 

 そう、悲しくなんてない。そうとある少女の顔を思い浮かべて思う。それに、今の私にはその少女の他にも大切な仲間が、そして貴方が遺してくれた閉じ切った世界を撃ち抜いてくれた《夢》があるのだから。

 

「だから大丈夫。……だって」

 

 ──咲いた花は挫けずにずっとそこに有るんでしょう?

 

 そう微笑み、私は家へと歩き始める。その頭上の星空、その中の一つが一際輝いた気がして、明日のライブを頑張ろうと決意をしなおした。

 

 そして迎えたその翌日。ライブの結果は、きっと言うまでもない。私達の《音楽》はそこにあった。それでこのお話はおしまい。他にも誰かの時点での話はあるかもだけど、そこは私のお話ではないから。

 

 でも、それでもなお一言言うのなら、きっとそれは一つだけ。

 

『またどこかで会いましょう』


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