特定の行動を条件に、決して起こり得ない奇跡を実現する能力を持つ女子大生、吉田千代。
エビフライを食してSSR推しキャラを10連10枚抜きしたいだけの彼女に、強力な異能力者が立ちはだかる………!

みたいな感じの百合。
だと思う。

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異能バトルの使い所

奇跡。常識では起こらないようなコト。

それってどんなコトだろう?

空からお金が降ってくるコト?生身で空を自由に飛べるコト?

私にとってそれはもっと身近だ。

あなたにとっても多分身近。

 

そう、ガチャだ。

 

ガチャを引いたことのある日本人全員を対象とした調査では、なんとガチャを引いたことがある日本人は100%。つまり日本人は今やガチャに生きガチャに死ぬガチャ民族なのである。

なるほど、推しキャラを単発で引いた時に生に感謝するのも、日々ログボやデイリーで溜めた石が既存キャラやアイテムに化けて死を想うのも、そのためなのである。

 

では、日本人にとって、そして私にとっての奇跡とは何か?起こりえぬコトとは?

無論、こうだ。

 

初手10連で限定推しキャラ10枚抜き。

 

ガチャに頭の養分まで捧げた同胞でもわかるだろう。これこそ奇跡であると。

 

ところで私には奇跡を実現させる異能力がある。

名前はそのまま「奇跡実現」、そう私は呼んでいる。

カッコいいカタカナネームを考えたこともあったが、生粋の日本人なのでやはり漢字を使うべきだと思った。

別に外国語能力が絶望的とかそんなんではない。ない。無。

 

ただ、この異能力は気まぐれで面倒臭い。

発動できる日できない日が完全にランダムだし、できる日でも発動条件を満たさなければならない。

条件はなんとなく頭に文章として浮かんでくるので毎回紙に書き留めている。

 

2週間前の前回は「誰にも見られずに家の周りを10周走ること」だったが、「家の周り」の定義が「隣の家の外壁に沿った自分の体とほぼ同じ幅の道」だと気づくまで60周走ったし、普通に隣の家の庭や玄関を走ることになったので「誰にも見られず」も難しかった。

 

2週間と三日前の前々回は「胃袋にパンパンに食べ物を詰めて全て吐き出すこと」だったが、普通にもったいないし引きたいガチャもなかったのでスルーした。そういったおぞましい条件も時折ある。

 

しかし今回はスルーできない。最愛の推しキャラ、コジロウきゅんの浴衣グラが期間限定で登場する。

 

期限は本日、23:59。

 

祈り続けて1週間、今日という日に「奇跡実現」の能力が使用可能になったのが既に奇跡みたいなところあるなと思うけれど、それで喜んでもいられない。

 

発動の条件は「晩御飯にエビフライを食べること」、「晩御飯」と指定されているので早くとも日が沈んだ19時からのチャレンジ。

時間は長くない。

 

 

 

しかし、こんな時にもヤツらは現れた!

 

私のかけがえのない親友、横田茜と、太田美佳だ!

 

 

2号館をこっそりと出ようとする私を、二人の女が呼び止める。

 

「千代〜、今日も帰りなんか一緒に食べてくよなぁ〜?」

「昨日は和食だったからー、今日は洋食がいいねー?」

 

二人は大学でできた友人だ。

最初はたまたま授業が被っていたのでつるむ程度の仲だったが、美佳、通称ボスの誘いで色んなところに飲みに行ったり観光に行ったり冒険に行ったりしているうちに魂の友となった。

 

そう、冒険だ。

 

ボスはある日を境に私と茜を毎日のように外食や物見遊山に連れ出すようになったのだが、それが時折、物凄い不運に見舞われて冒険となる。

 

一昨日は電車で降りる駅を寝過ごして、目が覚めたら見たこともない文字しかない駅に着いたし、先週の日曜は著作権に強いネズミがやってる夢の国に行くはずが、兎の着ぐるみが100体くらい入り口に密集してるのが見える廃園に着いた。

 

多分最初はボスが一人でそういうヤバいとこ巡りをしてて、ある日とんでもない呪いかなんかをかけられてヤバいことに巻き込まれるようになったから、死にたくないがために私たちを助手みたいなものとして誘ってるんだと思う。

 

私も茜も毎回辟易しているが、断った翌日からボスが学校に来なくなったらって考えるのがなんとなく怖くて参加している。

 

…まあ、なんだかんだ三人で得体の知れないモノを相手に叫んだり殴ったり走って逃げたりするのが楽しいのもあるけど。

 

けど。だ け れ ど。

今日だけは付き合えない。私は帰りに大量のエビフライを買って帰る。直帰する。寄り道のウの字もしない。許せ親友、また今度だ。

 

「来ないならアタシは金輪際お前に金を貸さない」

 

私はボスに逆らえない。弱みを握られている。

 

 

私たちはとあるしゃぶしゃぶとかすき焼きが美味しい食べ放題付きの外食チェーン店に来ていた。

現在時刻は19:23、日は既に地平線が呑み込んでいる。

 

ここはエビフライが注文できる店で大学から三番目に近い距離にある店だ。

一番と二番はボスがイヤイヤしたのでダメだった。この女は親が金持ちで自分も金持ちだからって自己中心的で人を振り回すところが本当に面倒臭いといつも思う。

 

「今日はアタシが奢るよ。また株で勝ったから。千代はガチャも来てるしね〜、んね?」

 

でもこういう才智溢れる慈愛の女神がいるからこそ私の人生は喜びの色をしてるところあるしな。

ここは仕方なく奢られてやろう。

ボスはキメ顔で指パッチンした。

食前のこれはボスのいつもの癖だ。

私と茜は座ったまま額を地面と平行にして両手を掲げるようにして崇めた。

 

「じゃプレミアムコースでドリンクバーも付けるねー。っほい。おけ。千代ちゃんから注文していいよー」

 

私はタッチパネルを受け取るや否やエビフライを探し、エビフライを見つけ、エビフライを注文した。そのタイム、6.57。ボルトより速い。

 

「注文決まってた割には遅いだろ。どれどれ…」

 

パネルを次に受け取ったボスは履歴から私の注文を見た。

 

「へ〜、エビフライ。いいねぇ〜。」

「えっ?」

 

え?  茜が驚いたような声を上げたので、私も驚いて視線を向けた。茜は何故か眉を顰めている。

 

「エビフライ…あるんだ。しゃぶしゃぶの店なのに」

「食べ放題だからね〜。それくらい入ってるレパートリーじゃないと。何も肉だけ食べにくるわけじゃないしね」

「そっか…。そうだよね………」

 

茜は俯いている。何故辛そうなんだろうか。

…いや、思い返してみると、茜の目の前でエビフライを注文したことはなかったかもしれない。

 

こいつとの付き合いは1年と2ヶ月ちょいになるか、これまで沢山の食べ物屋さんを訪れては色々と食べてきたし、多くの店はメニューにエビフライを備えていた。

これまで奇跡的に彼女の前でエビフライを注文することがなかっただけで、彼女にとってエビフライとは、過去に何らかの因縁がある料理だったのだ。

 

ぱっつん前髪に隠れた表情は、きっとそう物語っているだろうと私の親友センサーが言っている。

まあエビフライは食べるけど。注文しちゃったし。異能の発動条件だし。

 

「ほ〜い。アタシの注文終わったよ〜。茜、ダイジョブ?」

「うん。ダイジョブ。注文する。」

 

顔を上げた茜は意外にもいつも通り、いや、いつもより朗らかな感じの笑顔だった。

 

親友センサーとか適当なこと言うのやめようかな。

 

 

15分後、エビフライはまだ来ない。

茜や美佳の料理は全て運ばれてきたのに、ただ私のエビフライだけが一向に来ない。

 

「さすがにおかしいねえ〜。もっかい注文しといたら?頼んだ後に来ても二つくらいなら食べられるっしょ」

「そだねー」

 

それもそうだ。

普通こういうときは店員に聞いておくのがいいのだろうけど、私は人に話しかけるのが得意じゃないのでタッチパネルで2本目を注文した。

 

時刻は19:47。急げエビフライくん。

 

20分後、エビフライはまだ来ない。

おかしい。

 

「おかし〜ね〜」

「ねー」

 

二人はガツガツと肉やら寿司やらポテトやら唐揚げやらを食らっている。

 

私は早く条件を達成してガチャを引きたいので、店員がすぐに対応してくれるようにとエビフライ一つのみを注文しているのに、それさえ出てこない。

この店は私という存在を認識していないのか…?

空腹はアドレナリンを過剰分泌し、私の心を奮わせる。怒りが、湧き上がってきた。

そこへ、

 

「失礼します。エビフライをご注文のお客様…」

「はい!!!」

 

私は卒業式の小学生もビックリの大声で返事した。

そこに私はいたし、店員は私を見つけていた。

ならばあとは、ここにエビフライがあれば全てのことが良いのである。

 

「大変申し訳ないのですが、エビフライがただいま、ちょっとその、提供できない事態に陥っておりまして…」

 

ここは地獄だ。雷を落とすのは私だ。修羅を見せてやる。

 

「なんでですか!?エビフライですよ!?!?」

 

空腹で全然頭が回ってなかった。

 

「あっははははは!あ〜スミマセン連れが声デカくて。エビフライを提供できない事態ってどういうことですか?」

 

ボス尋ねる。店員答える。

 

「私どももよくわかってなくて、本当に信じられないことだとは理解しているのですが、その…」

 

 

ーエビフライの衣が、消えちゃうんです

 

 

 

20:22。私はうどんを食べていた。

 

美佳が少しくらい食べておかないとまた恥かくよと言って譲ってくれたので、せやなと言って食べることにした。

ツルンとした太い麺を噛みちぎって咀嚼するたびに店員の残した言葉を反芻する。

 

「エビフライを厨房から持ち出したあたりで、なぜかこう、一瞬でですね?、パッと衣が消えちゃって…消えてしまうんです」

 

「こんなものをお出しするわけにはいきませんので…申し訳ありませんが、今日のエビフライのご注文は終了させていただくことになりました。大変申し訳ありません…」

 

こんなことを言われた私はどうすればよかったのだろう。美佳は大笑いして、茜はただ首を傾げていた。

意味がわからない。なんでエビフライの衣が消えるんだ。消えてるのはお前の正気じゃないのか。店長を出せ。

うどんとうま塩キュウリと肉と水菜がくれた栄養分で、私の脳はようやく吐き出すべきだった言葉を整理した。

しかし、時すでにお寿司。

私の怒りは腹が満たされ時が流れたことにより随分と縮こまってしまった。

バターはコーンに溶けたのだ。

今更店長を呼び出しても、何が言えると言うのだろう。

 

「あれ?というか私こんな頼んでないんだけど」

「うん。アタシと茜の頼んだヤツだよ。千代が泣きそうな顔で無心に料理かき込むのが面白いからよこしてたんだよ〜」

「ミニステーキもあるよー?」

「ヤメテ!これ以上私の胃袋を満たさないで!!!」

「静かにしろよ他のお客さんに迷惑だろ」

「アッハイ。ゴメンボス」

 

店員の話聞いて大笑いしてたくせにこの女!

 

再び怒りが湧いてきた。

というところで、私は自分の体温が上がっていることに気づいた。

まあいっぱい怒ったしな。

そういえばドリンクバーを付けているのに何も飲んでいない。

 

「私ドリンクバー行ってくる。茜とボスの分もいれてこよっか?」

「お〜、じゃアタシホワイトソーダね〜」

「わたしはメロンソーダと…お水ももらえる?」

 

オッケーと言って席を立つ。

 

私は違和感を覚えた。

 

なぜ水も?

 

メロンソーダの水割り…?味薄そう。

そんな奇行をするタイプじゃないよね茜は。

 

ジュースを注ぎ、違和感を膨らませて帰ってきた私は気づいた。

 

茜も汗をかいている。

しかも私よりたくさん。

 

なぜ?

 

私は美佳に壮健ビ茶を、茜にホワイトソーダと水を渡して席に着いた。

私はこの時、ここが戦場であることを理解し始めていたのかもしれない。

 

「逆だよ逆!壮健ビ茶アンタのでしょ。ホワイトソーダはアタシ、メロンソーダは茜!」

 

ジュースを配り間違えたのも、本能的に敵を欺こうとしたからかもしれない。

 

 

「エビフライをもう一度…ですか?」

「はい。あいや、何回も頼むことになるかもしれないんですけど、とりあえずもう一度だけお願いします。お願いです」

「必死だね〜」

 

私は店員を呼び出し、再度エビフライを注文することにした。

 

「でも、また衣が消えてしまうと…」

「じゃあ私が厨房の前に行きます。消える前に食べます」

「いやー、必死すぎない…?」

「そう…ですか。ですね。そうですね、かしこまりました。ではお手数おかけして申し訳ございませんが、厨房前で少々お待ちいただけますでしょうか」

「是非に」

 

店員としては、私にエビフライの衣が消える瞬間を目撃していただき、注文を諦めてもらいたいのだろう。

自分の目で見ない限り「衣だけ消える」なんて馬鹿らしいことが起こっていると信じてもらえないと考えているのだろう。

なんだ正気じゃないか。

 

しかし私はエビフライの衣が消えること自体は事実だと思っている。

茜や美佳との冒険で、そういう不思議現象にはわりと慣れっこだし、私自身が異能力者なのだから、エビフライの衣が消える程度のことは信じられる。

 

そしてエビフライの衣が消えることと同じくらい、エビフライの衣が消えない可能性も信じている。

 

エビフライの衣が消えない可能性ってなんだよ。

 

だめだ私。いつまで常識に囚われるつもりだ。

とにかく私はエビフライの衣だけが何者か、あるいは何かしらの現象によって消失させられてしまう前にそれを食べることができると信じている。

あるいは、これがいつもの不思議存在の謀略であるならば、いつものようにそれを打ち砕くことができると信じているのだ。

私は戦う。

浴衣コジロウきゅんを10枚抜きして無駄に法具カンストを2体作るために。

 

そんな私の目に店員の小走りして来る姿が入ってくる。

手にはそう、まるで100年もそれを待ち続けたかのように輝いて見える黄金の衣を纏し甲殻類の揚げ物、エビフライがあった。

 

店員が厨房と店内を区切る敷居を超えた瞬間、ふわりと風が吹いてそれが消えた。

 

否。

 

エビフライは消えたが、そこには丸裸にされた余りに哀れな風貌のエビが代わりに居座っていた。

エビが横たわる下には油で湿った紙が皿との接触を妨げるように敷かれている。

 

しかし虚しいかな、その紙がそれ以上油を吸うことはない。フライは、虚空へテイクオフしてしまったのだから。

 

「そんな…」

「ダメか…」

 

メーデー、メーデー。

現在時刻、20:41。もう店出ようかな。

 

 

「別にそこまでエビフライにこだわることなくな〜い?ほらこれ、エビドリア〜。美味しいよ〜?」

 

エビフライはダメなのにエビドリアはあるのかよ。衣がダメなんか?あ?

私は半ギレだった。

 

とりあえず店員には、時間を置いてからまた注文してみますと言っておいたが、露骨に嫌そうな顔をされたし、店としてもこれ以上廃棄するエビを増やしては不利益になるだろうから、チャンスは次の一度きりになるかもしれない。

 

勿論諦めない。

 

これに失敗すれば、すぐにでも親友二人を置き去りにしてコンビニなりスーパーなりに行ってエビフライを探すつもりだ。

だが、なぜ衣だけ消えてしまうのかを解決できなければ、たとえ運良くコンビニやスーパーでエビフライと出会えても、また瞬く間に衣が消失してしまうかもしれない。

 

奇跡の条件は「エビフライ」を食べることだ。

衣の無いエビフライなど「エビフライ」ではない。

 

故に次の一手は重大なものとなる。

私は焦っているが、冷静で慎重な判断を下さなければならない。

そのために私にできることはなにか。

いつもはどうしているか。

これまで不思議存在と対峙することになったとき私はまずどうしていたか。

 

……………、観察だ。

未知の文字駅の時刻表、兎廃園の換金所。

私はいつも観察していた。

この状況も、まずは観察することから始めるのだ。

 

目の前には所狭しと並べられた豪勢な料理の数々。

机の真ん中には鍋、周りに生肉の乗った皿、種々の料理の皿。

そこに揚げ物の姿はない。

 

厨房の入り口は?

ここから見える限りはなんの異常もない。

天井は白く床は木の板模様。

若干油でベタついている。

覗ける厨房には入ったことがないので何が通常で何が異常かわからない。

明らかにおかしい化け物とかはいなさそうだ。

 

そういえばさっきフライが消えた時風が吹いた気がしたが、この店は窓ではなく天井に埋め込まれたエアコンで換気や空調をするタイプだと思う。そこになにか潜んでいるのではないか?

じっと目を細めて睨んでみる。

黒い網目がある?

別に普通か。

 

普通。

 

普通だった。どこを見渡したり見つめたりしても、特に異常は見つけられない。いつもならすぐ見つけられるのに…。

 

私はぼうっと対面に座る茜を見た。

美味しそうに寿司を補給している。

汗をかいていたからか肌はしっとりとしていて、唇もテカテカと………

 

テカテカと?

 

もう一度机に目を戻す。

茜が注文したのはおろしそば、マグロ寿司、サーモン寿司、かぼちゃサラダ、うま塩きゅうり、ちらし寿司。

思えば唐揚げやポテトといった油を使った料理は私によこしていたな。

茜の手元には何度か使用してくしゃっとなった使い捨てウェットティッシュが二つあった。

 

二つ目はいつ持ってきたんだ?

 

私は、次の一手を決めた。

 

 

「あとケチャマヨポテト。この10品が全て机に運ばれたらエビフライを作って持ってきてください」

 

私は店員を呼び出して直接注文をした。

 

「かしこまりました。ですが、本当にこちらの都合で申し訳ないのですが、これ以上廃棄の品を出すと私どもとしましても…」

「わかってます。これでダメだったら諦めます」

「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」

 

店員の顔色も芳しくなかった。厨房のメンバーや店長にも話して、心苦しい思いをしていることだろう。そういえばなんで店長が注文取りに来ないんだろう、こんな事態なのに。

いやそんなことはどうでもいい。

今重要なのは、茜だ。

私は席を立ち、茜の隣に座った。

 

「お〜?どしたの千代ちゃん。アタシの隣が嫌になった?」

「いや?思い返せば私、いつもボスの隣に座ってたから。こうして茜の隣に座ったらなにか変わって見える気がしてさー?」

「何も変わらないと思うけどなー。というかわたし結構汗かいちゃったし、できれば離れてて欲しいんだけど…」

 

それも、おかしいよなあ。

 

「そいえばどしたの?汗かきすぎじゃない?店内けっこー涼しいのに」

「えぇ!?あー、ほら、わたしって汗っかきなんだあ。って女の子になに言わすのよーもー」

「まあ確かに汗っかきなとこあると思う。でも私は嫌いじゃないよ〜、汗の匂いとか?」

 

そういって少しずつ茜との距離を詰める。

茜はジリジリと窓辺に避けていく。

机には続々と注文した料理が運ばれてきている。

私はそのどれにも手をつけない。

 

「くんかくんか。くんかくんか!」

「やめてやめてやめて!困る困る困る!余計汗かいちゃう!!」

「あんま騒ぐなよ〜」

 

ついに最後のケチャマヨポテトが運ばれて、机は料理で埋め尽くされた。

 

「例のもの、お願いします」

「あの、机いっぱいですが…あっすいませ、コップ片付けま」

「いいから!ただエビフライを持ってきてください」

「うわ〜、マジモードの千代だねこりゃ」

「か、かしこまりました」

 

店員が厨房へ入っていく。

 

「ごめ、千代ちゃんどいて?わたしお手洗い行ってくる」

 

茜が席を立とうとする。

 

させるものかよ。

 

私は茜の肩から左腕を回し、右腕を脇から滑り込ませ、両手でしっかり両の肘を握って茜をロックした。

 

「おぉーーーん!?ピンチか!?膀胱ピンチかぁ!?ピンチじゃないならもうちょっと待て!私がエビフライを食すその瞬間を見届けろぉ!」

「やめてやめて近い近い!ち!か!い!熱い!熱い!熱くなっちゃう!!!」

「アタシタバコ吸ってくるから。今だけ他人だからアタシ」

 

茜ェ!お前が怪しいんだよォ!お前さえこうして抑えていればァ!案外エビフライは無事に到着したりするんじゃねェのかァン!?おォん!?

 

酔っ払いもドン引きして醒めるほどのベッタリとした絡みで茜を捕らえる。

左は壁、目の前は料理でいっぱいの机、右には私、後ろは背もたれ。

それにこのロックだ身動きはとれまい!

 

横目に周囲を確認すると案の定店中の客や店員から白い目で見られていたし、この後出禁になる展開も見えていたが構わない。

私が今見たいのはそう!それはついに視界に入った。

こちらに小走りで向かう店員。

その口元は今日一番の笑顔。

厨房の入り口を抜けて、通路をやり過ごしついに!私の座る机の目の前に到達した!

 

「大変お待たせいたしました!こちら、エビフライでございます!!」

 

後ろで厨房から覗いていた店員たちまでもが歓声をあげる。

万感の思いが籠ったその報告は、訳も知らない他の客をも呆気にとらせていた。

 

私も感動している。頬を伝うのは汗か涙か。

茜から手を離し、エビフライの降臨した皿へと伸ばした。

 

次の瞬間、私の頬をつーっと液体が流れる。ふわりと汗の匂いがして、目の前からエビフライが消えていた。

そこにはフライどころかエビさえない。

あるのは無惨に食いちぎられた残骸の尻尾だけである。

 

「どうして………」

 

私が言ったかと思ったが、目の前の店員の言葉だった。

 

「なんでだよおおぉぉぉぉぉお!!!」

 

彼も必死だったのだ。

必死に足掻いて、この意味不明な困難が終息したことに歓喜していたのだ。

それなのにエビフライは消えてしまった。

私の口に運ばれることなく。

 

しかし、どこに消えたのか?

 

私はそれを知っている。

 

「………茜。口元、衣のカスが付いてるよ?」

「!?」

 

隣の茜は慌てて口をウェットティッシュで拭う。

茜の口元など確認していないが、その態度と動作でもう十分にわかった。

 

「茜。あなただったのね。エビフライの衣だけを食べていたのは」

 

 

茜は涙ながらに語った。およそ普通の人間には理解できないことを。

彼女が、「時間停止」の異能力者であることを。

 

彼女がこの力に目覚めたのは大学の入学式。

バスに乗り遅れそうになったとき、「時間止まってマジで」と思ったら本当に時間が止まっていた。それからは強く念じるだけで自在に時を止められるようになったという。

 

しかしこの異能には代償があった。

時を止めている間はどんどん体温が上昇していくというものらしい。

私がドリンクバーに行く時ジュースだけでなく水を頼んだ理由、そして大量の汗をかいていた理由がそれだ。

時を止めている間にも何度も給水しトイレで汗を拭っていたそうだが、時を止めているほど体温が上がるのだから、汗を隠し切れるわけもない。

 

周りの人々は、目の前の店員を除いて「理解できない」といった顔だったが、私はそれを信じた。私も異能あるしな。

 

「じゃあ時を止めてエビフライの衣だけを切り取って食べてたってこと?なんで?」

「それは………、それはぁっ!」

 

曰く、彼女の両親は仲が良くなかったが、離婚の決定的なきっかけとなった喧嘩の原因が、エビフライの衣だったそうだ。

 

「衣がぁっ、うぐっひぐっ、細目が良いとか、荒目がいいとかああっっ!うっうぅ、そんなことぉ!!」

 

両親の不和というのは、それがどんな些細なことでも、子供の心に負担を及ぼすのだと私は大いに理解した。

エビフライの衣は彼女にとってトラウマで、私という親友にそんなものを目の前で食べて欲しくなかった。

 

ぐしゃぐしゃに泣きながら茜は語ってくれた。

 

私にとっては奇跡のきっかけになるものでも、彼女にとってはかけがえのない大切なものを失うきっかけになるものだったのだ。

 

「ごめん。私、エビフライ食べたさに親友のこと何も考えてなかった。親友失格だよね…。本当に、本当にごめん」

「うっ…ひっぐ、いいの………わたじ、も、ちゃんとい″わながったじ……」

 

つーっと頬を伝うものがある。

 

今度は涙だ。

 

私は涙していた。

親友の悲しい過去に。自分の愚かさに。そして、それでも許してくれる、茜との間に築けた絆のありがたさに。

 

私が茜に抱きつくと、茜も私の背中に手を回した。

いい歳した女が二人してファミレスの一角で抱き合って泣く光景に、気づけば他の客や店員も涙し拍手していた。

言いようのない暖かさが満ちて、汗と涙で私達はびしゃびしゃになったけど、不思議と少しも不快じゃなかった。

 

 

「え〜〜〜、うん?何があったのん?」

 

謎の拍手が聞こえて戻ってきた美佳に改めて全てを説明する。

 

「あ〜。へぇ〜。茜が時間停止の異能を持つ異能力者ですか。はぇ〜。マンガみたい」

「事実だよ。ほら」

 

茜の手元にはまばたきの前には無かったソフトクリームがあった。

 

「時を止めてても触ってる機械とかは動くの。離すと止まっちゃうけど。あ」

 

気づくと茜の手元のソフトクリームがチョコソースやキャラメルソース、クッキーで彩られていた。

 

「トッピング忘れてた」

「トッピングが入ってる瓶の中身も茜に合わせて動くんだね〜」

「ほんとだ。便利い」

 

この能力あったら食べ放題どころか銀行襲い放題でお金使い放題なんじゃないだろうか。

いや、むしろそれでお金に頓着しなくなってこうしてボスに奢られに来てるのか?実は自分でお金を使うより他人にお金を使わせるほうが楽しくなっちゃって…みたいな?

やばいな。

親友を悪の道から救うためにまず私にお金貢いできて貰おうかな銀行襲って。

 

「あれてか千代さあ、エビフライは結局どうすんの?」

「あっ」

「あー…」

 

忘れてた!コジロウきゅんの限定浴衣グラが!!

 

「今何時!?」

「そうねだいたいね〜」

「ボス今そういうのいいから!」

「じゃあ何時何分かと聞きなさい。…あ〜、今はね〜。なんてな、もう聞いても意味ないでしょ」

 

は?何を言ってるんだこの女。とっちめるぞ。

女は視線をタッチパネルに移す。私も釣られてそちらを見る。

パネルにはでかでかとこう書いてあった。

 

〈ラストオーダーは終了しました。ご来店ありがとうございました〉

 

「そ……んな………」

「千代ちゃん………」

「まあ〜そんなドラマやってりゃね。時は止められても、巻き戻せないわけだし、諦めるしかないねこりゃ」

「いえ!まだ諦めないでください!」

 

誰だお前は!

 

ぐりんと全力で声の方に顔を向けると、私にエビフライを持ってきてくれた店員が立っていた。

 

周りの客はいつの間にか各々の食事を再開し、店員もそれに接客しているが、この店員だけは見逃されていたようだ。

 

「私から特別に奢らせてください!エビフライ!あっ、もちろん、そちらの方が許されるのでしたらですが…」

 

ちらりと茜を見る。

茜はその視線に少し動揺したが、泣き腫らした目を擦って、笑顔で言った。

 

「わたしからもお願いします。千代ちゃんにエビフライを作ってあげてください。わたし、エビフライを両親の離婚のきっかけじゃなくて、親友との仲直りのきっかけにしたいです!」

「茜ぇぇぇぇ!」

 

泣かせるじゃないのこの子は!

茜の決意を聞き届けた店員はただ微笑み、くるりとターンして突き出した右手をサムズアップにしながら厨房に入っていった。

あいつ雰囲気に呑まれておかしくなってるな。

 

「特別に奢る、ねぇ〜〜〜」

「やったね千代ちゃん!エビフライ食べれるよ!」

「わーい!」

「良かったわね、初手10連でコジロウ君を10枚抜きする奇跡を実現できて」

「やったあ!」

 

あれ?

 

…何か引っかかる。

 

「私の奇跡、美佳に話したっけ」

 

奇跡実現の異能、私は誰にも話してない。

話したら無くなってしまうのでは、なんて根拠のない恐れ。

あるいは言っても信じてもらえないという信頼の水底か。

私は二人にこの能力を明かしていない。

 

「なーに?それ」

「アンタは言ってないわよ。アンタはね。特別だもの。アンタは特別な吉田千代だから、アンタの口から奇跡実現の異能を聞いたことはないわ」

 

呼び方まで、完璧に…

 

「はあ〜〜〜〜〜。疲れた。まあでも、アンタ達のドラマを見に行くために、もう一回くらい頑張ってもいいかもね〜」

 

美佳はゆっくりと席を立つ。

心臓が早鐘を打つ。

なにか、致命的なものを、私の観察眼は見逃していた。

 

「お手洗い、行ってくるわね?」

 

美佳はトイレに向かう。カバンを持って。

 

酷く嫌な予感がする。

 

今までの冒険のどんな時にも体験しなかった恐怖の予兆を見ている気がする。

 

この背中を、私は、私たちは追わなくてはならない。

親友センサーが間違いなくそう告げていた。

 

 

茜と連れ立って急いで美佳の後を追う。

トイレの扉を乱暴に開けると、「痛っ」と美佳の声が聞こえて、同時に床を何かが転がる音が聞こえた。

 

「ちょっと…、あ〜、千代か。邪魔しないでくれない?」

「なに、それ」

 

美佳の足元に転がっていたのは折りたたみのナイフ。

美佳の首元には小さく赤い切り傷。

まさか。

 

「自殺…?なんで?なんでなんで?わけわかんない!」

「でしょうね。言ってないもの。アンタには。」

「どういうこと?わたしたち、なにか、知らないうちに美佳ちゃんのこと傷つけてたの…?」

 

私も茜もショックだった。いつ、どこで、どうして、………いつから?どこまで?どれだけ?

目の前にゆらりと立つ美佳は、私たちの慕うボスとはまるで別人だった。

 

「なんか誤解してるみたいだけど、自殺じゃないよ?これ」

「えっ…?」

「でもその傷…」

「アンタたち二人が異能力者な時点で、ちょっとはその可能性も考えない?ねぇ、特別な千代」

 

美佳はナイフを拾い上げて続ける。

なんてことないような顔で。

 

「アタシも異能力者なの。特別な千代、当ててみてよ。アタシの異能力。疲れたから…80点以上の答えだったら自殺やめてあげる。ヒントはたくさんあげたんだから、足りないようで足りてるアンタの頭ならわかるはずよ?」

「なにそれ。死に戻りとか?」

 

そんなことしか思いつかない。

 

美佳に抱いていた違和感だけでは絞りきれない。変なタイミングで指パッチンをする癖、異様に物知りな所、私のガチャ事情を具に把握してる事、さりげなく私に食べ物をよこして邪魔していた事。

 

そしてさっきの豹変。「特別な私からは聞いていない」「私達のドラマを見に行く」そして突拍子のない自殺行為。

 

これは希望的な想像でしかない。

 

知らぬ間に親友を、気にも留められないくらい些細なことで自殺させてしまうほど追い込んでいたと思いたくないだけ。

 

美佳が自分の死をトリガーに時間を巻き戻せる異能力者であると、そう思いたい私の主観がかなり入っている。

 

だから驚いた。

 

「びっくり。100点。さすが、特別な千代だね」

 

彼女の異能は、「死に戻り」だった。

 

 

「一人だけ重くね?って話よね〜」

 

とりあえず邪魔になるので席に戻って話を再開した。

美佳は自分の死をトリガーとして過去のある時点まで世界を逆行させられるというとんでもない能力の持ち主らしい。

 

「今日はこれが6周目。他の店だとあんまり時間引き伸ばせずに千代がエビフライ食べちゃうのよね。あっ、指パッチンはセーブ。1日に3回まで。キリがいいから毎回ご飯の前にやってたけど、そっか、確かに変な癖だよね〜」

 

能力が目覚めたのは大学に入って少しした頃。

私達を食事や旅行に誘うようになった5月のあの日だったという。

 

「アンタたちみたいな代償は無いから気楽に使えるけどね」

「気楽じゃねーだろ」

「二度と使わないでよ」

 

間髪入れず私たちは否定した。

 

「死に戻り」の異能。その代償なんて誰でもわかる。

使用者の死、それに伴う痛み、それを知る周囲の苦悩だ。

 

「別に死ぬのを代償と思ったことはないよ〜?…うん。アタシの命で助かるなら安い〜とかそんな献身的なアレでもないし。ただアタシ、元々死にたがりなとこあったんだよね〜」

「聞くよ」

「知りたい」

「おうおう持つべきものは親友だね〜。………」

 

美佳の両親は仕事が忙しく、彼女と接していられるのは平日の朝と夜の十数分と、休日の夕方から夜の数時間。

小学校の頃にはすでにそうなっていた両親は、愛するのが本当に下手で、彼女に物を買い与えることしか知らなかった。

 

「小学校を卒業する時に、卒業式を見にくる体験をプレゼントしてもらえないか頼んでみたの。疲れた顔のお父さんはそれが冗談に聞こえたらしくて、お父さんそれだけは叶わないな〜なんて言ったの。それだけが叶えば良かったんだから、もっと頑張ってくれてもよかったのにね」

 

学校でもいつも孤独だった。金持ちの家の子だからとグループから外されたり、おこぼれ欲しさに利用されたり。

 

「太田〜一緒に遊ぼ〜って言ってきた4人の男の子たちがいたの。アタシの家でゲームがしたかったらしいんだけど、コントローラーは4つしかない。アタシは眺めてるだけで、ついぞ彼らと遊ぶことはなかった」

 

孤独は死に至る病であると、言っていたのは賢い狼だったか。

 

彼女の心は冷たくひび割れて、自傷行為や自殺未遂に誘われるようになった。

 

「親のプレッシャーがあるから大学には入ったけど、あいつらみたいに働きたくなんてないから、ほんとは卒業したら死ぬつもりだったの。…あ〜いや、ちょっと違った。大学の卒業式に来てくれなかったら自殺してやるって思ってた。入学式の時にはね」

 

それがあの日、大きく変わった。

 

「5月のあの日。覚えてる?アタシがアンタたちを初めて誘って、海を見に行って、地元の祭りで遊んで、帰りの電車で肩を寄せ合って眠ったの。まアタシは起きてたけど」

「忘れるわけないよ。私も起きてたけど」

「わたしたち三人の始まりの日だよね。わたしも起きてたけど」

「あの日をアタシは214回繰り返した。おかしくなりそうだった。でも必死に足掻いた。千代、アンタを助けるために」

 

私…?

 

「アンタ、奇跡実現の異能に代償は無い、あるとしたらそれは発動条件に費やされる労力だって思ってるみたいだけど〜、あるんだなこれが。最悪のデメリット」

 

曰く、私の異能は使用した翌日、ランダムで軽度から即死級の不運が降りかかるという。

 

「あの日のアンタはヤバかった。最初目の前で空から降ってきた鉄骨にぶっ潰された瞬間は今でもたまに夢に出るよ。…アタシはその時、ああ〜別に卒業式とか待たなくたって人は死ねるんだな〜って思って、その足で思い切って投身自殺した。結果は吉田千代惨死展覧会へのご入場だったけどね」

 

別の道を通れば通り魔に刺された。

さらに別の道を通ればガス爆発に巻き込まれた。

家にいるよう説得したら帰り道でトラックに轢かれた。

警察署に連れて行こうとしたら道路が陥没して呑み込まれた。

ただ抱きしめてその場に留めおいたら美佳ごと鉄骨に潰された。

 

「新しい死因が出るたびに、は?こいつ呪われてんじゃないの?って思いながら、死因を回避するためにあれこれ考えて行動したのよ。最終的には、呪いが降りかかるタイミングのズレを利用して安全なルートを構築して電車に乗って、電車が脱線しない世界線であることを祈りながら、できる限り遠くに逃げた。海に着いたときは津波なんか来たらどうしよ〜なんて思ってたっけな。でも、なんとなく来ない気がしてた」

「なんで?」

「アンタだよ。千代。その周は確実に、アンタが違った」

「もしかして、特別な千代っていうのは」

「茜も賢いね〜。そう、その周の千代は特別だった。アンタにもわかるように言えばSSRだった」

 

SSR吉田千代。

 

「それまでの千代は特に取り柄のないバカっぽい女の子で、好きなものはって聞いたらオシャレとか読書とかゲームとかって大して好きそうでもないつまんないことを答えてた。でもアンタは違った。なんて言ってたか覚えてる?」

「ガチャ。私は推しキャラが大好きで、そのキャラを手に入れるために運命と殴り合いの勝負ができる合法的な賭け事である所のガチャがもっと大好き」

「何度聞いてもドン引きするねー…」

「でもアタシは救われた気がした。このイカれた女ならガス爆発に巻き込まれても爆炎の中から歩きスマホしながら出てきそうだなって思って、楽になれた。実際にはそんな目に遭うことはなかったけど、アタシはそれが、千代がガチャ狂いのSSR千代だからこそだと思ってる」

 

つまり…整理するとこういうことだろうか。

 

美佳は初めて死に戻りの能力に目覚めた時、惨死する私を救うために何周も世界をやり直した。最終的には彼女自身の努力と、私ガチャでSSR吉田千代を引けたから、惨死を免れ周回を終了できたと。

 

マジかよ。

 

推しのSSRを求めてひたすら奇跡を実現しようとする私自身が、美佳が掴み取った奇跡のSSR吉田千代だったなんて。

 

「でも、どうして?5月のあの日だったら、わたしたちまだ授業が同じだけの、薄味のクラスメイトみたいな感じだよね。どうしてそんな千代のためにそこまで頑張れたの?」

 

おう茜、それを聞くかね。

話ぶりを聞いていれば私でもわかる。

こいつはめちゃくちゃ私のことが好きなのだ。

百合というやつだろう。

一目惚れかな?私もガチャ引く者としてよくわかる。

一度惚れてしまったら何度世界を繰り返してでも手に入れたいものだ。

 

「コンコルド効果って知ってる?千代にもわかるように言うと、天井のないガチャで推しを引くために5万円も使っちゃったけど、出ないまま諦めれば5万をドブに捨てたことになるから、結局出るまで引いちゃうっていう心理現象のことなんだけど」

「後に退けなくなっただけじゃねーか」

「美佳ちゃんも千代ちゃんガチャに沼ってたんだねー」

 

私が死ぬほど好きなんじゃねーのかよ、と思いつつ、手を出したガチャを簡単に諦められない気持ちは痛いほどわかってしまう。私も奇跡が使えない時は有り金を全て叩き親友に借金してでもガチャを引く。

 

「でもま、後に退けなくなるだけの投資をしちゃったのは…、あれかな、単純にこんな死に方するのが可哀想だからとかだったかな。仮にも友達なんだから、自然と、助けたくなっちゃった〜みたいな。だったと思う」

 

少しだけ頬を染めて美佳は言う。

 

茜も私も、またぽかぽかとした暖かさが胸の内から湧き上がるのを感じて、席から立って対面に移動し美佳に抱きついた。

 

「ちょっ、お前らっ汗臭い!熱い!やめろよアタシはそういうドラマチックなのに免疫ないの!!」

「うるせぇ知るかバカ!バカ美佳!なんでそんなでっかい出来事ずっと隠してたんだよ親友なのによぉ!!うぉぉぉん!」

「美佳ちゃんっ、これからはわたし達を絶対頼ってね!そんな恐くて哀しいこともう絶対一人で抱え込まないでねっ!親友だからね!ね!!」

 

美佳の目は潤んでいたと思うが、私の目から枯れることを知らない大粒の涙がぼろぼろと溢れていたのでもうよくわからなかった。

 

ただ私達三人は、お互いに抱き合い、一つの団子になって感情を分かち合った。

 

それが彼女の抱えてきた大きな苦悩を少しでも切り分けられるものだと信じて。

 

私が大声で泣いていたので確信はないが、美佳もこう言ってたと思う。

 

「バカな子たち。ほんと、アンタ達といると、退屈っ、しないわよね〜っ」

 

そうして私たちは、この世で一番の親友となった。

 

 

「あのー、そろそろいいですかね」

 

その言葉で現実世界に引き戻された私達。時刻は23時になろうかというところ。

 

周りの客はいつのまにか全員退店していて、机も片付けられ、店員達が総出で私達のあれこれが終わるのを待っている状況だった。

そこには雰囲気に呑まれてカッコつけてたあの店員もいる。

なんだお前空気読めるじゃん。雰囲気に呑まれてるとか言って悪かったな。

 

「エビフライは冷めちゃいましたが…」

 

その手には皿に乗ったエビフライ。

下に敷かれた紙がしっとりと油を吸って濡れている。

きっと何も知らない人が食べても美味しくないのだろう。

 

「すみません、それだけ食べます。お待たせしました」

 

そう言って私は箸を取る。

 

茜に目を遣る。乱暴に拭った泣き顔で、ただ優しく微笑んでいる。

美佳に目を遣る。涙やら鼻水やらを拭って真っ赤な顔は、その瞬間を見届けてやると言わんばかりだ。

 

「それじゃあ、いただきます」

 

思えば、これを巡って醜く争ったものだ。

一人は時間を止めて衣だけ食らい、一人は死んでやり直して店を選び直したり料理を勧めて満腹にさせようとしたりと妨害をしてきた。

 

しかし、雨が降り地は固まった。

私たちは、エビフライ、お前のおかげで以前よりずっと強く結ばれることができた。

お前はただのきっかけに過ぎないとわかっているけれど、言わせておくれ。

 

シャクッという音がして、舌先に、人生で一番のエビフライの味が染み渡った。

味わって飲み込む。私はエビフライを食べた。

 

「ありがとう。ごちそうさま」

 

異能発動。私の奇跡が整って、店は今日の営業を終了した。

 

 

「歩きスマホは危ないし駅に着いてからにしな〜い?」

「もうそんな時間ないんだって!店出た時23:12だったよ!?」

「まだ48分もあるじゃなーい。20分も歩けば駅着くよー?」

「ぶっちゃけ今すぐコジロウきゅんが引きたいの!!この日この瞬間を私は1週間祈り待ちわび焦がれてきたの!」

「あっははははは!やっぱ千代はそうでなくちゃね〜」

 

私たちは店を出て駅へ向かって歩いている。

道路には車もそれなりに通って街はまだまだ明るいが、0時を迎える前にガチャを引けなければ私の能力があらぬ方向に向いてこの街を科学の光ではなく怒りの炎で照らすことになりかねないのだから、歩きスマホくらいは許されて然るべきだろう。

 

だがしかし、歩きながらカバンをガサゴソと探っているのだが、一向にスマホが見つからない。

 

「そこの公園のベンチ座って、一つずつ出して確認してみたら?」

やはり頼りになるボスの提案に従って、私たちは公園へと移動する。

ベンチにカバンの中身を置いていく。携帯バッテリー、筆箱、教科書、資料、USBメモリ、学生証、財布、のど飴、ペットボトル、使用済み魔法のカード、魔法のカード、魔法のカード…」

「捨てろよ」

「なんでとってあるの…」

「いやなんか捨てるのもったいなくて…」

 

空になったカバンをひっくり返すが、出てくるのは何かの切れ端っぽい小さな布とかチリとかだけ。横のポケットにもポケットティッシュが入っているだけだ。

 

「もしかして〜、さっきの店に忘れてきた?」

「嘘だッ!!」

「千代ちゃんうるさい」

 

私がこの期に及んでそんなミスをするわけがない!ありえない!

 

しかし店に入ってエビフライを待つ間はスマホを触っていたし、店員の妄言にしか聞こえない報告を聞いてからはエビフライを食べるための策に必死だったから、スマホをどこにやったか思い出せない。

 

いつもの私ならカバンに入れるのが習慣のはずだ。

だが今日はどう考えてもいつも通りの一日じゃない。

あれだけのことがあったのだ。

 

もしかしたら私が…、この私が……。

 

「スマホを、忘れてきたというの…?」

「ま普通に考えてそうでしょ」

「あれだけのことがあったわけだしねー」

 

え?じゃあどうする?店に戻る?まだ終業作業で店員さんは居そうだけど…

 

「え、アタシ戻るの絶対ヤダ。死ぬほど恥ずかしい。従業員の皆さんをあれだけ待たせて残業させた挙句にスマホ忘れたので店開けてくださいなんて絶対言いに行きたくない」

「わたしもー」

 

嘘だろこいつら!?あれだけのことがあったのに私を見捨てる気しかないのか!?

 

やっぱりビンビンに反応してた私の親友センサーはゴミだったようだ。こいつらは互いが異能力者とかいうとびきりの秘密を共有しても少しも馴れ合い協力してやろうとしない薄情者だったのだ。

 

「あっ!というか茜に時間停止して取りに行ってもらえばいーじゃん!私天才!」

「やだ」

「ダメでしょ」

 

なんで!!

 

「親友を犯罪者にする気〜?」

「不法侵入はダメだよー」

 

おのれ!異能力者のくせに遵法精神なんか持ちやがって!

 

「かくなる上は美佳、いやボス。あなたに頼るしかない」

「それがアタシに死に戻りしてただ一言スマホ忘れるなよって言ってこいって意味だったらアタシはお前と絶交するからな」

「千代ちゃん最低」

 

流石に私もそれはダメだろと反省した。

 

しかしじゃあどうする。

 

残り時間はあとわずか。

恥を忍んで一人店にダッシュしたとして間に合うのか?そもそも私は店にスマホを忘れたのか?最後にスマホを見たのはいつのどこだ!?

どんどんと頭がこんがらがる。整理しなくてはならない。マジモードの私がどこか冷静に囁く。店に入ってからの全ての行動を見返す、見直す、思い返す……………。

 

待てよ?

 

「美佳、アンタ途中でタバコ吸いに席立ったよね」

「立ったよ。アンタらが大騒ぎして、周りに関係者だと思われたくなかったから」

「じゃあタバコは吸わなかったんだ?」

「…いや?吸ったけど。ポケットに突っ込んで店の外に出てたよ」

「嘘だよ。外で吸ったとしてもタバコの煙の匂いは10分くらいじゃ消えないくらい残るもんだし、あれだけ抱きついたのにそんな匂いは少しもしなかった。アンタはタバコを吸ってない。ましてや私たちと関係ないフリがしたかったんでもない」

「えっ?えっ?」

「…何が言いたいの?」

 

私の記憶が都合よく歪んでいなければ、あの時の美佳のポケット、あの膨らみは、タバコの箱にしては大きく薄すぎる。

 

 

「私のスマホ、どこにやった…!」

 

 

「…アンタみたいな勘のいい千代は嫌いだよ」

 

 

美佳は諦めていなかった。私のガチャを阻止するという目的を。

 

 

「でも遅かったね〜千代ぉ?もうあと21分で0時になる。今から走って店に戻っても、スマホを拾い上げるには間に合わない」

「なんだと?」

「アンタの推理通り、スマホを隠したのはアタシ。でもそれがわかったからってアンタにできることは何もない。私は0時を迎えるまで、どんなことがあろうと口を割ることはない。そうすれば茜ぇ、アンタが時間を止めて取りに行っても見つけられないだろ?アタシは千代のスマホを誰だか知らない奴の車に貼り付けちまったかもしれないんだからさぁ〜〜〜」

「っ!そうだね…。美佳が今スマホを持ってないのは確かみたいだし」

 

気づくとベンチに広げられた荷物が増えている。

私のだけでなく、美佳の物も並んでいる。茜が時を止めて調べてくれたのか。

 

「アタシの勝ち。残念だったね〜千代ちゃ〜ん」

 

団子になって涙して、大きな感情を共にした親友に向けるものとは到底思えない邪悪な顔だった。

 

美佳の美人顔がここまで歪むなんて。

 

固く結んだ絆がこんな風に踏み躙られるなんて。

 

「私が…何をしたってのよ……。私が何をしたらぁっっ!!そんなに恨まれることになるのよおぉぉっっ!!!」

 

美佳は高笑いする。

腹の底から、心の底から、おかしくて仕方がないと言う風に下劣な笑い声を響かせる。

 

近所迷惑だろ………!

 

「あ〜ははははは〜、は〜〜〜〜〜。………なんてことないよ。一周目の世界でアンタにめちゃくちゃ煽られただけ」

 

は?

 

「アンタ、実際久しぶりでしょ。奇跡実現の異能で最愛の推しキャラを引くのは。アンタの力は気まぐれだもんね〜。だからめちゃくちゃはしゃぐのよアンタは。アタシはソシャゲとかよくわかんないけどさ〜、その様が死ぬほどムカついたんだよねぇ〜〜〜ッ!」

 

そんなバカな。

 

確かに、コジロウきゅんほど愛しているキャラを奇跡実現で引けるのは実に半年ぶりだけど、そんなにはしゃいで親友を煽るなんて…。

煽るなんて………。

 

あー…。

 

「するわけないじゃないそんなこと!」

「今の間はなんだよそれじゃあよぉッ!!」

「万が一煽ったとして、たかがそれだけのことじゃない!なんで親友の私が推しを引けて喜んでるんだなって事で済ませてくれないの!?それをそうまでして阻止するほどのことなの!?ねえ!!??」

「そうだよ!!!!!」

 

ガチギレだった。

 

歴史の教科書で見た不動明王だったかが、こういう顔をしていたっけ。

紛れもない憤怒の顔だった。

 

「アタシはねぇ〜?アンタのこと、かなり大事にしてるわけよ。なんせ頭が何度もおかしくなるくらい頑張って手に入れた千代なんだから。でもさ、いや、だからこそよ。そんなアンタがなんにも知らないでこのアタシを小学生みたいに煽ってくるのがもうどうにもどうにも堪えられないのよ!なにが彼氏だ何がテストだ何がお前も沼に落ちろだ!ふざけんじゃねぇこのマヌケ女!!!………アンタにだってわかるはずよ。コンコルド効果の果て、例えば50万掛けて手に入れた最愛の推しキャラが、解釈違いのバカみたいなセリフ吐いてきたらどう思うよ!えぇ!どう思う!!」

 

それは……。

 

確かにコジロウきゅんがいつも私に向けてくれる、少年らしからぬ爽やかな凛々しさを感じさせる芯のあるキャラをぶち壊しにするようなセリフを吐いてきたら……、嫌だ。本当に堪えられないかもしれない。

 

「どんな小さなことでもさ………アタシにとっては、長い時間を繰り返した後に待ってることなんだよ。とてもとても長くて苦しい時間。アンタたちがそんなの知る由もないことはわかってる。私の押し付けだってことはわかってる。でもしょうがないじゃん!!アタシはその苦しみを乗り越えて今を生きてるんだから!!アンタにとってはそんなことでも、アタシはそうだと割り切れないのよ!だってっ、アタシっ………、アタシぃ〜〜〜っ!」

 

泣き崩れる美佳は、私が思っていたよりもずっと、重い女だった。

 

彼女がアタシに向ける感情は、愛着は、執念は、彼女から漏れ出す程度の軽い言葉では少しも計れないほどに重いものだったのだ。

 

214周。

 

彼女が私を手に入れるためにかけた周回の数。

そんなふうにしか見れなかった私は本当にバカで嫌になる。

 

美佳は私が213回死ぬのを見ているのだ。

 

どうして私のことを、コンコルド効果で後に退けなくなっただけの、手に入れたはいいが思い入れのない普通の人間だと思うことがあろうか。

彼女は私のことを、凄まじく愛している。

執着も愛と呼べるなら、だけれど。

 

「ごめん!二人とも!」

 

呆然とする私と美佳を、茜が抱き寄せた。

 

「わたし、一人で抱え込まないでなんて言って。理解が足りなかった。そんなこと言ったって抱え込んじゃうよね。過ごしてきた時間の差は埋められないし、体験してきた記憶は共有できないし、それで…、やっぱり分かち合うことさえ難しくて…」

 

茜もまだ涙が枯れていなかったか、ぽろぽろと泣きながらまとまらない言葉をまとめようとしている。

 

「それでも………でもでもでも!!わたし、二人と親友でいたい!冗談言って笑い合って、同じものを見て違うこと言って、たまにはこうして喧嘩したりして…、二人とずっと一緒にいたい!わたしにとっては、二人がっ、二人が私の推しキャラだからぁっ!!!」

 

茜…。

 

まったくこの子は。

泣かせてくれるじゃないの。

 

「そういうのは推しカプって言うんじゃないの。茜がどう思ってるかはわかんないけど」

「わかんない?えっ、どうしよっ、どうしたらわかってくれる?」

「いーのいーの。わかんないでもいい。そう思う。人間、言葉を使ってコミュニケーションしてる以上、究極的にはわかりあえないもんなんだよ」

 

茜も美佳も黙って私を見つめている。

そうだ聞いてくれ。私の親友よ。

 

親友なのだから。

 

「わかりあえないでも、一緒にいたいって思いが先に来るんだから、一緒にいればいい。そんでもっと正直であればなおよろしい。わかってほしい気分の時は言葉の限界を越えるまで一緒にいて、そうでもないときは冗談で笑い飛ばせばいい」

 

私は賢くないから、伝わるかわからないけれど。

 

「とにかく。私たち三人、親友でいたい。それは変わらない。それが一番。だからさ、わかりあえなくても、一緒にいたい思いだけは守っていこう。そう誓って、また歩き出そうよ」

 

美佳を見る。

 

口を一文字に引き結んで涙が溢れるのを堪えている。

 

伝わっただろうか。

わかってもらえただろうか。

わかってもらえなくても、一緒にいることでそれでいいという関係でいたい。

そこだけは伝わっただろうか。

 

やったか!?

 

「…よくわかんない」

 

ダメか…

 

「でもいい。ぐすっ。なんかスッキリした。」

 

そっか。じゃあいっか。

 

やはり言葉を尽くしても意味はないのかもしれない。

ただ一緒にいて、ぶつかったり抱き合ったりできれば、それでオールオッケーなのが私たちなのかも。

 

今度は三人、くすくすと笑い合った。

 

 

永遠にも思える長い時間だと思って見回したら、実際に時が止まっていた。

 

「わたしが時を止めたの。やっぱりわたし以外の人でも、触ってれば止まってる時の中を動けるようにできるみたい」

 

代わりに茜は滝のような汗をかいている。もうこれ以上時間は止めていられなそうだ。

 

「今23:56。スマホはあの店の屋根に置いてあるんだけど、茜はもう限界そうだね…」

「ご、ごめんんんーーー」

「いや、まだチャンスはある。茜、もういいよ。休んで」

 

ぷしゅーっという音が聞こえそうな倒れ方で茜が横になる。

美佳は茜の背中をキャッチして、そのままベンチへと運んだ。

 

私はただ、祈るだけ。

 

「どうするの?千代」

「来た」

 

私が祈りを捧げ、天を仰ぎ見るとそれはやってきた。

 

カラスだ。と思う。無駄に白くて神々しいアルビノのカラスが、その足に私のスマホを持ってやってきた。

カラスはそれをちょうど私の掌の上に落とすと、夜空の星の一つのように輝きながらどこかに飛んでいってしまった。

 

「すっご。アンタの奇跡実現って本来こういう神々しい感じに使う奴なんじゃないの」

「さあ。私の能力は私の好きに使うもん」

 

でもこれで、奇跡実現の力は使ってしまった。

 

大急ぎでスマホを起動してアプリを立ち上げる。ロード時間が焦ったくて仕方ない。

 

「あと何分?」

「ん〜2分ちょい」

 

神よ。祈り奉る。どうか私たちの永遠の友情に報いてください。

目にも留まらぬ速さでガチャ画面に行き、引く。

残り1分と少し、演出をスキップしてもできて10回か。

 

「すごいよ千代。ボルトより速い」

 

世界最速のタップを見せる。

 

浴衣コジロウきゅんはまだ来ない。

 

「あと15秒!」

 

浴衣コジロウきゅんはまだ来ない。

 

「5秒!」

 

最後のタップ。

 

眩い虹の流転が私の脳をぐるぐると回す。

 

この演出は見届ける。

 

始まったのは見たこともないアニメーション。

浴衣にはしゃぐコジロウきゅんの、初めての少年らしい笑顔。

 

私はスマホを天高く突き上げ、ただ涙して微笑んだ。

 

「我が生涯に一片の悔いなし………!」

 

長きに渡る異能バトルのその先で、私は幸福の山の頂に立った。

 

 

 

異能バトルの使い所 完

 


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