魔界神様への転生   作:ツィール

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新作です!
では、どうぞ。


CHAPTER:1 東方怪綺談~魔界で過ごす憧憬の日々
Prologue:魔界神とメイド


「ハァ、ハァ……くそっ!」

 

男は利口だった。狡猾な手を使い続けることにより、生き延びてきた。

 

それに加えて、男は幸運でもあった。かつて弱者だった筈の男が今生きていられている理由は、持ち前の運が占めているところが大きかっただろう。

 

 

「クッソがぁ!なんで、なんでここが……よりにもよって『アイツ』の世界なんだよォ!」

 

 

だが、それも今までの話だ。

『彼女』の統治する世界に手を出した。その瞬間、男の命運は尽きたも同然だったのだ。

 

(いや、まだだ、ここで一旦逃げ切ることができればまだチャンスは……ッ!?)

 

振り向いた男の視線の先に、『彼女』はいた。

整いすぎている芸術品のような顔。

銀色の艶めかしい髪を靡かせ、燃え盛るように赤い服を着ている少女の美しさは、とてもこの世の存在とは思えなかった。

男は『彼女』とは初対面だ。しかし、『彼女』に関しては、伝説、或いは逸話という形で嫌という程知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──曰く、宇宙にも等しい広大な世界、通称【魔界】を1人で創造した。

 

 

──曰く、今現在沢山の世界に存在する【魔法】という概念を創りあげた。

 

 

──曰く、目をつけられたもので、生き延びた者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挙げればキリがない。恐るべくは、これらが全て純然たる事実ということだろうか。

男はかつてこの話を聞いた時、盛りすぎだと失笑した。だが、『彼女』の無機質な瞳で睨みつけられている今ならば分かる。理解出来てしまう。

──これ程の存在なら、決して出来てしまっても何らおかしくないと。

 

 

(チッ、もう見つかった……逃げることは、……出来ねぇな。やるしかねぇ)

 

男は覚悟を決めた。勝率が絶望的な、無量大数すら生ぬるい程の力の差がある相手に向かって。

強く拳を握り締める。

 

「ウウゥゥオオオオオオオオオオォォォォォォラァァァ!!」

 

だが。

その決意すらも、『彼女』の前では塵芥と同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ァ────?)

 

 

パチン、と。

『彼女』が指を鳴らした。ただそれだけで。

男の意識と存在は、この世から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

いやー、最近は侵入者が多くて困っちゃうわ。

あ、どうも。何故か神様の身体の中に憑依?しちゃった元一般人です。なんちゃって。

だっていきなりだぞ? いつものように東方Projectの原作をやってたら、いつの間にか寝落ちしちゃったんだ。そして目が覚めたら荒地のど真ん中?

流石にビビるわ。しかも性別変わってるし、見た目完全に東方Projectのキャラの1人である神綺様だったし、俺の推し神綺様だったし。

なんでそうなったか考えてみた時もあったけど、今はもう考えてない。

別に考えても分かる気がしないからな。

それに元の世界に居たって楽しいことなんて数える程しかない上に、家族も皆あの世に逝っちまった。

元の世界に未練などあるはずがなかったのさ。

それに、望んだことがある人も、もしかしたらいるんじゃないのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──推しに、憑依転生することを。

かく言う俺もその1人だった。だからこの身体に転生したと理解した瞬間は、それはもう狂喜乱舞したものだ。

さらにこの身体はスーパーハイスペックだった。振るった拳は岩をも砕き、ジャンプすればその高さは15mを越える。後は、羽根を生やして空を飛ぶことすらできる。

挙句の果てには、なんでも創造できるとかいうチートの極みみてーな能力よ。

こんな能力貰ってもすぐには使いこなせねーわ。具体的なイメージが必要とか、日常生活でいちいち具体的なイメージしないから、な?

……まぁ、流石に何十億年もこの身体で生きてたらな。能力使いこなせるようになったし、圧倒的美少女(自画自賛)の身体にも慣れた。

え?この身体で何をするかって?……そりゃもちろん原作介入一択でしょ。

原作キャラに憑依して原作介入……ヲタクなら1度は憧れるシチュエーションだね!

ただ、神綺様を汚したくはないんだよなぁ。

自分のせいで旧作キャラのなかでも人気トップクラスの神綺様の魅力が損なわれることは、決してあってはならないよなって。

……とりあえず、怪綺談までは原作の流れをなぞっていって、そこから先は、展開次第で自分の立ち振る舞いを決めようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つまりこれは、何十億年と生きたガワだけ美少女()が、原作キャラとなんやかんや仲良くなって、なんやかんやする話ということ。

なんてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンコン。

 

「失礼します」

 

お、来たね。

入っていいよ~。

今、俺の部屋に入ってきた彼女は夢子ちゃん。

金糸のようなサラサラな髪とつり目がチャームポイントの美少女やね。

そして原作である東方怪綺談の5面ボスでもある。

さらには俺のことを慕ってくれているらしい。まぁそうじゃないと原作をなぞるなんて夢のまた夢だもんね。

────ん、あれ?

……ジーー。

 

「神綺様。間もなく会議が始まりますので、ご用意を…………も、申し訳ありません。何か、粗相をしてしまったでしょうか?」

 

いや、そうじゃなくて……。

目に隈が出来てる……大丈夫、疲れてない?ちゃんと休息は取らないとダメだよ?

 

「…………ご心配、ありがとうございます。大丈夫です、しっかり取っておりますので。──では、失礼しました」

 

そう言うと、彼女はそそくさと部屋を出ていってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あれ? 今返答までに間があったんだけど。

やばい、ほんとに慕われてるか分からなくなってきた……。

これで原作ブレイクとか勘弁だよ?

ね、慕ってくれてるんだよね?ね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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魔界のメイド、夢子にとって。

神綺とは憧れであり、尊敬であった。

いや、或いはそんな陳腐な言葉では表せないほどか。

それほど大きい感情を持っていたのだ。

夢子が生まれたのは、数億年も前。

まだかつていた場所(後に地球と呼ばれることとなる)に知的生命体がほとんどいなかった頃だった。

そう、夢子は神綺によって、1番最初に創られたのだ。

神綺は、夢子を、他の魔界人たちを創造した理由を語らない。

しかし、ある程度予想はついている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつて、気が遠くなるほど昔に、夢子はこう聞いた。

 

『神綺様、なぜ私たちを創ったのですか?』

 

神綺は最強であった。

どんなに強大な相手でも、危なげなく屠る力があった。

神綺は万能であった。

1つの世界を、そこに住む民を、たった1人で創造できる程度には何でもできた。

故に、夢子は当時自分の存在意義が見いだせなかったのだ。

何をしても主以下である自分など、いらないのではないかと。

ずっとネガティブ思考に悩まされてきた。

だから夢子は聞いた。

すると、神綺はこう言ったのだ。

 

『夢子、まだお前には早い話かもしれないが、な』

 

多分分かんねぇだろうな……。

と前置きして、

 

『生き物っていうものは、退屈する生き物なんだ。確かに私は強い。それは間違いない。油断さえしなければまず負けないだろう。だけどな、そんな私でも、退屈には殺されちまうんだ』

 

薄く笑みを浮かべ、続ける。

 

『おかしな話だろ?でもな、そう言うもんなんだ、神生って言うのは』

 

夢子は、言葉が出なかった。

退屈というものを理解出来なかったからだ。

当時数十年程しか生きていなかった夢子に取って、神綺が生きた歳月の長さはとても計り知れるものではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

(だけど、今なら理解できる……何億、何十億という長い年月をたった1人で過ごすなんて、気が狂ってもおかしくない)

 

どれほど辛いだろう、永い時を生きるのは。

どれほど苦しいだろう、1人で生き続けるのは。

 

 

 

だから、仲間が、一緒に居てくれる人がいて欲しくて、自分たちは創られたのだと夢子は考えている。

傲慢で、それでいて不敬な考え方かもしれないが。

 

 

 

 

 

 

(だとしたら、私たちはとても幸運なんだろう)

 

あの偉大なる神に創ってもらい、外敵から守ってもらい、更には孤独を感じることすら殆どない。

 

(ほんとに恵まれすぎ……って!!)

 

 

「やばい、神綺様を呼びに行かないと」

 

 

時刻は既に会議開始30分前を切っている。

足を速めて、神綺の部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先ず、ノックを鳴らす。

 

コン、コンと、小さく2回。

 

「お、夢子か?いいぞ入ってきて」

 

「失礼します」

 

 

 

中に入って最初に目に入るのは神綺の顔。いつもと変わらない、不敵な笑みを浮かべている。

──とりあえず今日の会議の時間が迫っていることを伝えないと。

 

「神綺様、間もなく会議が始まりますのでご用意を……?」

 

夢子は、困惑した。

いつも余裕綽々な神綺が、険しい顔をして己をずっと見つめていたからだ。

 

(え……私何かやっちゃった?と、とりあえず謝らないと……)

 

「も、申し訳ありません……何か粗相をしてしまったでしょうか?」

 

「いや……」

 

私の勘違いならいいんだけどな、と小さく呟き、続ける。

 

「夢子、お前ちゃんと寝てるか?休息はしっかり取らないと身体に悪いぞ。それに敬語も、堅苦しいなら全然外して構わないんだぞ?」

 

 

 

 

「────ッ」

 

 

 

 

──夢子は、後悔した。己の主である神綺に対して、そのような気遣いをさせてしまったことを。

思わず羞恥で顔が赤くなる。

 

「ほら、ちょっと見せてみろ」

 

しかし神綺は意に介さずに、夢子の顔を覗き見る。

 

「あーほら、やっぱり目に隈が出来てるじゃないか。寝られないのか?なら私が寝かせてやるが」

 

にやりと笑みを浮かべる神綺にとっては、少し戯れてやろうという心持ちだろうが、夢子にとってはそれどころではなかった。

 

(あ……ち、近すぎ……い、いい匂いが──じゃなくて!)

 

ただでさえ熱かった顔が、まるで茹でダコのように熱を帯びるのを、夢子は感じていた。

──このままじゃ羞恥心が限界を超えて動けなくなる。

 

「…………ご心配、ありがとうございます。大丈夫です、しっかり取っておりますので。──では、失礼しました」

 

そう告げると、逃げるように立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他人に見つからないよう自分の部屋に駆け込み、ため息1つ。

 

「はぁ……」

 

(神綺様に心配させてしまった……それでいてあの不敬な態度……穴があったら入りたい)

 

彼女にとって、先程の自身の態度はとても許容できるようなものではなかった。

ドアにもたれ掛かるようにして崩れ落ちてしまう。

──私が居なくなったら、神綺様は寂しいのかもしれない。それでも……。

 

「本当に……私が生きている意味ってあるのかな」

 

 

夢子たち魔界人にとって、神綺の役に立つことは至上の喜び。

しかし、彼女はかつての喪失感をまた感じてしまっている。

なにせ夢子は神綺のただ1人のメイド。

神綺の役に立つことが出来ないならば、生きる意味を見失ってしまっても仕方がないのかもしれない。

ふと、自分の部屋を見やる。

白を基調としたシックなつくりの己の部屋は、赤が基本色となっており、煌びやかな部屋である神綺のそれとは全くと言っていいほど異なる。

 

(はぁ……あれ?)

 

部屋を見回したところ、机の上に見慣れない何かがあるのを発見した。

気になって近づいてみる。

 

(これは……なんだろう?)

 

ピンクのリボンと白い袋でラッピングされたものが、そこにはあった。

ラッピングを丁寧にはがすと、1枚の手紙と剣が……。

 

(手紙?それに剣も……一体誰が)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『夢子へ 神綺より』

 

「ふえぇっ!!??」

 

驚きで思わず大声を出してしまった。

魔界神のメイドにあるまじき失態だと、無理やり心を抑え込む。

 

(それにしても一体何故……剣? まさか……これで自害しろ、とか?)

 

嫌な想像が脳裏に浮かんでしまい、冷や汗をかく。

 

(いやいや、流石にそんなことは……しない、よね?でもさっきの失態を考えると……)

 

どれだけ消そうとしても、悪い考えが頭から消えない。

とりあえず中身を見てみようと、手紙の封を開く。

 

(怖いけど……ええい、ままよ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────あー、なんて言うかだ。手紙でも恥ずかしいなこれ……。

とりあえず、いやお前にとっちゃ唐突かもしれんが、いつもありがとな。

お前、よく自分のことを卑下するだろ?もしかしたらこの手紙を渡した時も、落ち込んでたりするのかもな。

だけどな。間違いなく私にとってお前は大事だ。いや、お前だけじゃない。全ての魔界人が、大事なんだ。

なんでかって?お前らは私の子供のようなものだ。逆に、私が我が子たちをいらないもの扱いするように見えるか?見えてたならすまないが……。

とにかくだ。お前たちを本当に大切に思ってると伝わってくれればいい。

ところで夢子、どうせ何も気づいてないんだろ?なんで私が突然こんな手紙を送ったのか。

それはな。お前が10億歳にちょうど今日でなったから、その祝いに……ま、まぁ、祝っていい事なのかはわからないが、とりあえずそういうことだ。

一応誕生日?プレゼントとしてその剣を送っておく。どう使うかは自由だが、出来れば大事に使って貰えると嬉しい。

こんな不甲斐ない主である私にいつも仕えてくれてありがとな。

そして、これからもよろしくな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……えっ、ひぐ……」

 

涙が止まらなかった。目が滲んで、前を見ることすら叶わない。

 

(こんなにも、神綺様は────)

 

嬉しかった。こんな己でも求めてくれる主に恵まれたことを。

誇りに思った。このような主の元に仕えられたことを。

そして何よりも。

 

(私たちを自分の子供だと、そう言ってくれた)

 

その事が、喜ばしくて。

目から雫が、零れ落ちて止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い出すは、気が遠くなるほど昔の記憶。

あの時のことは、何故か覚えてる。

 

『あーもう、またイタズラしやがって』

 

『えへへ』

 

『悪い子にはこうだ!』

 

『あはははははは!!やめてよお母さん、くすぐったいぃあひゃひゃひゃ!』

 

(お母さん、か……無礼なのは分かってる。それでも、もう1度だけ)

 

「ありがとう、お母さん。大好きだよ」

 

その呟きは、誰にも聞こえることなく。

溶けるように消えていった。

 

 

「さて、涙を拭いて、と……もう行かないと、時間がない」

 

そう言いながら部屋を飛び出した彼女の笑顔は。

過去に類を見ないほどに綺麗だったという。

夢子はもう、悲しき人形(Doll of Misery)なんかじゃない。

意志を持って進む、1人の立派な従者であった。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

☆旧作を知らない人用解説

神綺……東方怪綺談6面ボス。銀色のロングヘアーに加え、アホ毛がぴょこんと立っている美少女。ゲームシステム的に夢子より弱いと言われることが多いが、決してそのようなことはない。
彼女は、魔界の全てを創った神。その設定は、この作品でも再現してある。


怪綺談……東方Projectシリーズ第5弾、東方怪綺談のこと。旧作最後の作品と言うだけあって、素晴らしい作品だと思う。特に曲が良い(個人的)。

夢子……東方怪綺談5面ボス。最強クラスの魔界人。5面ボスの割にめちゃくちゃ強い。長めの金髪に、赤と白のメイド服を着ている。また、彼女の得物は剣である。

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