次はもっと早く投稿できるように頑張ります!
魔界会議。
数百万年前から始まったそれは、不定期開催だが今もなお続く魔界特有の行事の1つだ。
かと言って、会議を開く目的までそのまま、という訳ではないんだよね、これが。
かつては、会議という名に恥じない──魔界の防衛や治安維持、その他問題の解決方法──について話し合う場のはずだったというのに、今では雑談するだけの、宴会みたいになっちゃったしな。流石に飲食するやつは居ないけど。
さて、そろそろ会議室に着くかね?創造の能力使えば簡単にどこでも行けるけど、やっぱり自分の足で行かないと見えるものも見えないからな。
「あ、神綺様、こんにちは。相変わらずお早いですね」
お、やっほーサラ。久しぶりだな、元気か?
「もちろん。元気いっぱいですよ。私のような者まで覚えていて下さるとは──」
うーん、この魔界人特有のネガティブ思考。
はぁ──お前たちいっつもそうだよなぁ……自己評価が低すぎるんだよ。
そもそも俺が創った奴らのことを忘れるように見えるのか?──見えちゃうんだろうな。
そうだな、俺ももっと信用されるように頑張らないと。
ところで聞きたいんだが、今日の会議もまた雑談なのか?まぁ十中八九そうだろうが……。
「今日の会議ですか?それが驚くことに、なんと議題があるらしいんですよ!しかもまともな。ルイズ様に聞いたんですけど……」
え???いや、マジかよ。
まともな議題がある会議なんて何万年ぶりだ?
「確か……あの地獄の女神の時が最後だから……大体8万年くらい前じゃないですかね、最後にまともな会議したの」
あー、あの時からやってないのか……まぁ確かにあの時は大変だったからな。
「フフ、そうですね。……あ、着きましたね」
たわいない話に花を咲かせながら移動していたら、いつの間にか到着していたようだ。
「私は身分的にここから先は入れないので、これで失礼しますね」
そうか、まぁサラは一応一般市民扱いになっちゃってるからな。
俺の住む城までは入れるほどの信頼を獲得していても、一部の貴族と俺しか入れない会議室までは入れないよな。
仕方ないか……話し相手になってくれてありがとな。
「いえいえ!頑張ってくださいね」
ああ。頑張ってくるぞ!
さて、行くか。
扉を開いて、たのも~!
おや、もう結構集まってるな……。夢子ちゃん居ないけど。珍しいね、夢子ちゃんが遅いの。
会議室の中は、うーん、なんて言えばいいのか……魔王の側近である四天王がよく会議とかする場所とかあるやん?色々な作品で。あれをそのまんま持ってきたみたいな禍々しい感じかな。
魔界の会議室って言われたらそれしか思い浮かばんもん……創造は俺のイメージに左右されちゃうのが難点。けど便利だからね、仕方ないね。
1番奥にある玉座みてーな椅子に座ってと……ちょっと?皆、俺が来たからって静かにならなくていいのにな。リラックスしてくれよ、俺大勢の前で話せないコミュ障だからリラックスしてとか言えないけど。
そもそも、俺ってそんなにっていうか全然偉い立場好きじゃないんだよなぁ。もっとこう、他の東方二次創作SSとかでよくある家族みたいな感じ。そういう関係でいたいんだよ、魔界人の皆とは。
でも現実はこう。難しいよね、理想をそのまま叶えるっていうのは。どれだけ強い力を持っていてもそれだけは簡単にならないんだな。
ままならないものだねぇ。
「……どうやら私が最後のようですね。神綺様、遅れてしまい申し訳ございません」
お、夢子ちゃんも来たね、これで全員揃った……え?あれ?
いつも仏頂面の彼女が、なんであんな満面の笑みを浮かべてるんだろな?
うーん、思い当たる節は無いな……ああ、ひょっとしてあれを見たのかな?もしそうだとしたら──喜んでもらえたのか、嬉しいな。
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魔界神のメイド、夢子は非常に上機嫌だった。
その理由は明白で、神綺からサプライズプレゼントを貰えたことにあるのだが、ここに居る面々が知る由もなく────
一同、普段笑顔を見せることが少ない彼女の満面の笑みに驚愕、畏怖していた。
ただ1人、魔界人の統率を担当している貴族、ルイズを除いて。
「遅いですよ、夢子さん」
「ごめんね、色々事情があって」
「もう、気をつけてくださいね。いつもならまだしも、今回の会議は緊急なんですから」
そう言ったルイズは、ふと神綺が怪訝そうな顔をしていることに気づく。
「あれ?神綺様、ひょっとして……夢子さんから、今日の会議について聞いていないんですか」
「……あぁ。私は何も聞いていないが、今回は何について話すんだ?」
あぁ、やっぱり伝わってなかったのか、とルイズは天を仰ぐ。
「……今回の会議は、魔界に攻め込んで来た2人組についてですよ。……ところで、夢子さん?」
ゾッとさせるような笑顔と声で夢子に話しかける。
夢子は逃げるように顔を逸らすが、当然逃れられるはずもない。
「私、言ったはずですよね?神綺様に伝えてって」
「……はい」
「それじゃあ一体なんで伝わってないんですか?全く……仕方ないですね。夢子さんがいつも頑張ってるのは分かってますし、ここはひとまず流します」
だけど、と繋げ、
「代わりに、他の者の復習も兼ねて、ここでしっかりと丁寧に説明してくださいね?」
「……はい」
夢子はルイズの背中に般若を幻視した。
ここは逆らわないようにするのが吉だろう、と神綺に向けて口を開く。
「神綺様、大変申し訳ございませんでした。これから説明させていただきます」
「あぁ、頼む」
「外界と魔界の門番からの報告によると、幻想郷と言われている余り有名でない世界から、2人の侵入者が現れたようです、名は確か……」
────靈夢、そして魔理沙と名乗っていたようですね。
「靈夢の方は紫髪の巫女、魔理沙は金髪の魔法使いであるという情報も。更にはどちらも生粋の人間であると。現在は、グリモワール・オブ・アリスを用いてアリスが交戦しているようです」
「靈夢、魔理沙……」
「そうか……ついにか……ッハ、ハハハハハハハハハハ!」
狂ったように笑う神綺。魔界人たちはその異様な光景にまたもや驚かされる。もちろん神綺以外の者は何故神綺がここまで笑っているのか理解が出来ない。しかしそれも当然の事であろう。
──神綺の思考は理解できるはずもない。『原作』という知識を、こことは違う世界で作られたゲームの知識を完全に信じ込み、その知識に存在するストーリーに参加することを目標にしてきた者の思考など、誰も分からない。当たり前の話だ。
俗に言えば、狂人の思考をまともな者が読むことは出来ないということである。
「し、神綺様……神綺様は、その2人を知っていらっしゃるのですか?」
そう聞く夢子の声は、多量の動揺を含んでいた。
彼女の瞳が震える様は、2人の事、いや幻想郷という世界のことすら全く聞いたことがないということを何よりも雄弁に物語っている。
「知っていると聞かれれば知ってはいる。だが、会ったことはない。個人的に知っているだけだ。──ちなみに、この後はどう対応するんだ?」
「既に戦ったものから聞いた話では、確かに強い。アリスでは恐らく勝てないが、私には劣ると。ですので、私が始末しようと、私個人としては思っています。もちろん、この会議で出た結論次第ではありますが……」
「そうか、」
説明を聞き、思考を巡らせているかの如く目を瞑る。
しばしの沈黙を破り、神綺が言った。
「今回の対応は、私に任せてくれないか」
「……?もちろん問題ないですが」
「あぁ、ありがとう。……」
一瞬間を置き、告げる。その瞬間、
「今回の侵入者の対応は、私1人で行う」
空気が、凍った。
「……は?」
誰かが漏らした理解不能という意を含んだ1文字。
それを気にとめていないのか、それともあえて気づかないフリをしているのか、言葉を続ける。
「更に、私は侵入者を殺さない。いや、わざと負けるといった方が正しいか」
その言葉が皮切りとなり、会議室はにわかに騒がしくなった。
「なぜですか!」
「負ける必要はないのでは!?」
「1人で行うのは一体どういう理由で!?我々のこともお頼りください!」
口々に魔界人たちが告げる。
その言葉には純粋な心配、或いは不安という想いが含まれている。
──パン!
「ハイ、そこまで。皆さんが神綺様を心配して話しているとはいえ、少々無礼が過ぎますよ?何よりここは【魔界会議】ですからね?」
「あ、あぁ……」
「む……申し訳ない」
ルイズが手を叩き、一喝する。
たったそれだけで静かになる魔界人たち。この光景は、彼女と彼らの力関係を強く表していた。
「ルイズ、ありがとう。……でも、納得出来ないやつもいるだろうから、説明はしておくか」
「まず、私が1人で対応するというのは、そのままの意味だ。お前たちは一切手出し無用」
「そして、負けるというのもそのまま。手加減して奴らに負けるということだな」
「なぜ、負けるのですか?殺される危険性などは、無いのですか」
夢子が問う。その声は、震えているように思える。
果たしてそれは恐怖からか。
「なぜか?それは、向こうの神がうるさいからだ。向こうの、幻想郷の神は龍神ってやつなんだが、あいつがうるさくてかなわん。すげー短気だから、向こうが侵攻してきた癖して、多分殺したらキレられる。しかも無駄に強い、最悪地獄の女神クラスの力持つから目を付けられたらめんどくさい」
あいつホントめんどくさい性格してんだよな──と嘆息する。
「かと言って、殺さずに気絶させて……とかはそれこそめんどくさい。また来られても困るしな。だからあえて負けて、遺恨が残らないようにするんだ。とまぁ、長々と説明して来たが、要するに──めんどくさいから、負けたことにして早めに終わらせたいっていう私の我儘だな」
魔界人たちは、無意識のうちに自分勝手な考えを口にしていたことを知った。
彼らは恥じた。身勝手な考えで、己の主に負担をかけようとしていたことを。
彼らは戒めた。二度とこのような事が起こらないように。
しかし、夢子には疑問がまだ残っていた。
「……あの、神綺様。無礼を承知で、発言をお許しいただきたいです」
「ん、なんだ?」
「そのやり方では、相手の目的次第では通用しないのではないでしょうか?それに、逆に神綺様が殺されてしまったら──神綺様ならありえないとは思いますが、それでも傷つけられる可能性はあると思います。どうするのですか?」
「前者においては恐らく大丈夫だ。……実は、龍神から昨日『お前らの世界からなんか人が勝手にこっち来てんだけど、何とかして?』みたいな感じで苦情が来たんだ。だから多分だけどそれ絡みだし、私を負かしたら満足するだろ。後者も、前者の通りの目的なら殺すまではされないはずだし、それに……」
少し言い淀む。
「
「────」
──そうじゃない。私は、貴女に死んでほしくない。痛そうにしている姿をもう見たくない。ただそれだけなのに。
視界が滲む。悟られないように慌てて目線を下げる。
「えぇ、知っています……そうですね」
魔界人たちが訝しむ。なぜなら理由を知らないから。神綺が、自分の事を死んでも大丈夫だと言った訳が分からないから。
「あぁ。だから私は問題ない。それに、今回は
虚剣。あの忌々しい剣。神綺の切り札にして、最恐の武器。
それを使わないという神綺の言は、夢子の心をほんのちょっとだけ安堵させた。
「よし、これで今回の会議は終わりでいいか?」
「……はい、いいよね、ルイズ」
「そうですね。私も特に問題はないです」
「分かった。──みんな、今日も集まってくれてありがとう。これで会議は終わりになる。お疲れ様」
そう言い残すと、神綺は素早く立ち上がり、足早に会議室を去っていく。
神綺が先程まで座っていた椅子を、夢子はじっと見つめていた。
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ルイズは、夢子の部屋に来ていた。
先程の会議で出てきた気になるワードについて聞くためだ。
「入りますね」
「どうぞー」
扉越しに軽いやり取りを交わし、部屋に入る。
「いらっしゃい。はい、紅茶よ」
「ありがとうございます」
夢子は紅茶を差し出す。
ルイズはカップを口につけ、1口飲む。
「流石夢子さん、やはり美味しいですね」
「あら、ありがとう」
ほんの少しの間、ほんわかとした空気に包まれる。
しかし、その空気は直ぐに霧散した。
「ところで、本題に入りたいんですが」
「聞きたいことよね、何?」
「『死んでも大丈夫』という神綺様の発言と、『虚剣』とやらについてです」
そう、ルイズにとっての謎はその2つだった。
「この2つについて教えて欲しいのですが」
「言っておくけど私もあんまり知らないよ」
「もちろん、知っていることだけで大丈夫です」
ルイズの疑問は尤もだった。
だからこそ、夢子は話さなくてはならない。
「分かった。まず、神綺様は死んでも蘇ることができる」
「……急に来ましたね」
ルイズはそれを聞いて少し驚いたが、こちらについては予想自体はしていた。
死んでも大丈夫など、蘇る以外に何が想像できるだろうか。
「ただ、それ以上の詳細は私も教えられていない。秘密だって」
まぁそりゃそうですか、と納得する。
自らの死に関する情報など、容易く教えられる訳がないだろう。
「それはまぁ、何となく予想してました。しかし、問題は『虚剣』とやらです。夢子さん、その剣の話を神綺様がした時、凄い顔してましたよね。それは一体なんなんですか?」
「『虚剣』は一振りの剣だけど、それについても、詳しいことは伝えられていないんだ。ただ、その剣を神綺様が創ったとき……私は死にかけ、神綺様は死んだ」
「……は?」
創るだけでそのような大惨事になるなど、どんな剣なんだと、ルイズは顔を引き攣らせる。
「それを振ったら、どうなるんでしょうか」
「そうね、神綺様によると……」
ここからの話は、到底。
「その剣をたった1回振るだけで、魔界、地獄、天界等の世界達が全て滅びてしまうと」
ルイズにとって、信じられないものであった。
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アリスは負けず嫌いな、魔法を扱う者という意味においての魔法使いだ。決して種族が魔法使いという訳ではない。
そして、負けず嫌いという性質は、魔界人や神綺の中の誰よりも強いと言える。
だから、貪欲に力を欲してきた。
魔界人たちに、夢子に、そして神綺にすら。
勝つ気で必死に特訓してきた。その甲斐あってか、もはや本気を出せば夢子と神綺以外には勝つことができるようになった。
神綺は分からないが、夢子ならば時間をかけて鍛えれば勝利を収めることができる可能性がある。
故に、アリスは自分の強さに自信を持っていた。己の強さは誇りであった。
あの2人以外なら負けることは無いと、そう信じていた。
ならば、この状況はなんだ?
目の前には外界の人間2人。陰陽玉を浮かばせ、自身も亀に乗っている紫髪の巫女。もう1人、己と同じく魔法で空に浮かんでいる、金髪の魔法使い。いかな巫女と魔法使いが相手だとしても、外界の人間ごときに負ける道理などない……はずだ。
しかし、現実として今自分は追い詰められている。
理解が出来なかった。
「なんで、当たらっ、ないの!」
炎が、水が、様々な属性の魔法が放たれる。グリモワール・オブ・アリスと呼ばれる究極の魔導書。それを使っている己の魔法は滅茶苦茶なレベルの威力にまで昇華されている。矮小な人間など一撃当たれば消し飛ぶであろうそれが、次々に避けられている。
──なんで?なんで?なんで?
彼女の頭の中は疑問で埋まってしまった。思考を停止するという、戦闘において最も行ってはいけないことをやってしまったのだ。
そのツケは、致命的な隙という形で払わされることになる。
注意力が散漫になった一瞬。それを見逃さなかった巫女らしき人間は、素早く陰陽玉を投擲する。
(……!しまった!)
慌てて防御魔法で防ぐ。ギリギリ間に合った。が、
「魔理沙!」
(魔理沙……まさか!?)
巫女が発した言葉を聞き、嫌な予感が頭に思い浮かぶ。慌てて振り向くが、しかしそれはあまりにも遅すぎた。
(な、近……!)
いつの間にか魔法が迫ってきていた。当然、魔理沙と呼ばれた魔法使いのものだろう。
──防御は間に合わない、ならば己の身体で受けるしかない。
魔法が己に届くまでの僅かな時間でそう判断し、左腕を前に差し出す。
最悪腕が飛んでも、防げればいいと。
(ッッ!……あれ?)
だが、その覚悟に反して、左腕は吹き飛ばなかった。
それどころか、あまり大した痛みを感じなかったのだ。
訳が分からない。しかし、五体満足で切り抜けられたなら僥倖だと、魔法を放とうとしたが。
──腕が、動かない……!?
否、腕だけではない。全身が石のように固まっている。
まさか、さっきの魔法は、攻撃系統ではなく──
「ま 、ひまほ、う」
口が震える。言葉を上手く発することが出来ない。
麻痺魔法。ただ痺れさせるだけだと言うのに、その反動で放った本人がしばらく魔法が使えなくなる初級の魔法。
熟練の魔法使いならば1対1でまず使わないそれは、この場においてこれ以上ないくらい有効だった。
なぜなら2人で戦っているから。1人で戦っているアリスとは違い、魔法使いは巫女と一緒だから。しかし当然、もしアリスが麻痺魔法を防ぐことが出来たなら、巫女との1対1になってアリスが有利になる。
だが、結果としてあの魔法使いは命中させた。上手く巫女と連携することによって。
──悔しい、悔しい、悔しい!
己はもうすぐ死ぬだろう。動けない獲物を見て、狩らない獅子は居ないだろうから。
例えそうだとしても、この敗北感は、屈辱は、如何ともし難い。
この期に及んで、アリスはようやく自分が知らぬ内に傲慢になっていたことに気がついた。
未知の世界から来た人間を、
最初からグリモワール・オブ・アリスを使わなかった。
魔法に関してもそうだ。麻痺魔法を、
巫女が陰陽玉を放つ。魔法使いたる己の肉体は貧弱であり、恐らく一撃で吹き飛ぶだろう。
時間の流れが緩やかになる。走馬灯というやつだろうか。
こんな形で生涯を終えることになるとは夢にも思わなかった。
目の前に陰陽玉が迫る。
──あぁ、
強い衝撃を最後に、意識が遠のいていった。
次に意識を取り戻した場所は、ベッドの上だった。
とても柔らかく包み込んでくれる布団。染み付いた匂いが仄かに香り、ホッとさせてくれる。
しかしだ。
(私は死んだはず──)
あの人間達に完膚無きまでに叩き潰された後だと言うのに、生きている。
その理由が知りたかった。
身体を起こし、周りを見渡す。
そこは、間違いなく神綺の部屋であった。
「おっ。アリス、目が覚めたのか?」
声をかけられた。とても聞き覚えのある声だ。
「ぁ──マ、マ」
不安そうにアリスを覗く神綺がそこにはいた。
会いたかった。死ぬ前に会って礼を言いたかった。その相手が目の前に居る。果たしてこれは夢?それとも──
「現実、なの?──ママ、私生きてるの?」
神綺はアリスを安心させるように薄く微笑む。
「あぁ、生きてるよ。大丈夫だ、もう安心だからな」
「──そう、か。良かった……けど、なんで生きてるんだろう。私は負けたはず……」
あの2人が、自らを見逃したのだろうか?
そのような甘い性格には見えなかったが。
「それについてだが……すまん、アリス」
そう言いながら神綺は頭を下げる。
「ちょ、どうしたの!?ママ!」
酷く狼狽する。この母が他人に頭を下げるところなど、初めて見た。
もしやなにかあったのだろうか、と尋ねる。
「いや、もしもあの2人が、アリスを殺していたらと思うとだな……申し訳ないことをしたと」
「私が自分から挑んだんだから私が悪いよ、ここはそういうところでしょ」
そう、魔界とはそういう場所なのだ。
侵入者が居たとして。そいつに自分から攻撃したら、例え死亡したとしても自己責任となってしまう。
このような暗黙の了解がまかり通ってしまうのが、魔界なのだ。
「それでもだ。お前はまだ子供だろう。本当にすまなかった」
子供だからといってあのルールが適用されない訳では無いのに。
例え齢11程のアリスであっても、決して例外とはならないのに。
それでも律儀に謝ってくる。
「あーもう!分かった!分かったから!大丈夫だから、ね?」
なぜ自分は目覚めて早々こんなことをしているのだろう。
とアリスは遠い目をしながら考えていた。
「あぁ……ありがとう。そうだ!アリス、腹減ってるだろ?今お粥作ってるから待っててくれ」
創造で造ると味の質が悪くなるからな、と頭を掻きながら笑う。
確かに、そう言われてみたら腹が減っている気もする。
「私って、どのくらい寝ていたの?」
「あー、そうだな。2日間くらいか?」
「え?」
そんなに寝ていたとは。それは確かに腹が減る訳だ。
「あっ、そうだ!あの2人ってどうなったの?」
「ふむ……よし、この前の事件の顛末について話すから、お粥を食べながら聞いてくれ」
こうして神綺は語る。あの日の事について。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
今回は設定暴露会でしたね!(ほんの少しだけ)
☆ちょびっと解説:貴族(拙作オリジナル設定)
貴族とは、魔界人の中でも神綺の手によって直接創られた魔界人である。貴族は20歳付近まで神綺に育てられ(今はアリスが育てられている)、その後神綺の手を離れ生活することになる。
貴族とはいっても、普段は他の者より権力が大きい、なんてことはない。貴族としての肩書きが役に立つのは魔界会議を含む魔界のイベントの時である。
貴族の中でも上位貴族と下位貴族があり、それぞれ神綺によって任命される。(決め方などはまたの機会に)
そしてその上に魔界人を統率するルイズと、魔界神の従者である夢子が入る。
夢子とルイズは、魔界会議に神綺と会話することが許される等、別格の権限を持つ。
要するにイベントにいっぱい参加できる!すごーい!みたいな権利だと思えばいいってこと。
☆旧作を知らない人用解説②
ルイズ……東方怪綺談2面ボス。原作ではただの観光客でしか無かった彼女は、何故か本作で大出世。魔界の重鎮の一人になってしまった。
ちなみに東方怪綺談の4面中ボスは、ルイズと非常に酷似している。
アリス……東方怪綺談3面&EXTRAボス。原作に再登場している数少ない旧作キャラの一人である。原作アリスと比べて立ち絵がロリっぽく、話し方も原作アリスほど大人びていないため、ロリスという愛称で親しまれている。
サラ……東方怪綺談1面ボス。幻想郷と魔界を繋ぐ門の門番である。それ以外に殆ど特筆すべきところは無い。