では、どうぞ。
靈夢は、第15代目博麗の巫女だ。
『博麗の巫女』とは、幻想郷と呼ばれる楽園の管理者の1人である。
博麗の巫女の役割としては、『博麗大結界』の管理や、幻想郷の秩序を維持することなど、多岐に渡る。
博麗の巫女は幻想郷における抑止力とならなければならない。幻想郷にて暴虐の限りを尽くす神、妖怪エトセトラ。
それらを退治し、大人しくさせる程の力がないといけない。
しかし、15人目の博麗という肩書きを背負った靈夢には、博麗の巫女としての才がある訳ではなかった。
博麗の巫女が持っていなければならない才は、空を飛ぶ才と、陰陽玉(博麗の巫女が代々受け継いでいる武器)を操る才の2つである。
靈夢は、陰陽玉を操る才はしっかりと持っていた。それこそこれ以上ないほどに。
ただ、空を飛ぶことは出来なかった。
幻想郷では、大抵の神や妖怪は空を飛ぶ。
だからこそ、そいつらを退治する必要がある博麗の巫女には、空を飛ぶ力がなければならないというのに。靈夢にはそれがなかったのだ。
靈夢は考えた。どうすればその才の無さを埋めることができるのかを。
考え、考え、考え────その果てに、一匹の妖怪亀と出会った。
玄爺──そう名乗った亀は、空を飛ぶことが出来た。その上、話すことも可能であった。
この亀が一緒ならば、自分も博麗の巫女としての責務を果たすことができる。そう知った靈夢は、歓喜した。本来退治するはずの妖怪を使ってもいいのか、とは思ったが、本人(本亀?)が温厚な性格で且つ協力的であったこともあり、結局背中に乗せて貰うことにした。
結果、激的に妖怪や神等の退治が楽になった。
宙を浮く人外共に接近しやすくなったことや、対等な高さで戦うことができるという恩恵の有難みは計り知れない。
それからというものの、様々な存在を退治した。
悪霊、未来人、悪魔……。一瞬たりとも気が抜けない程の強大な力を持った相手だった。それでも、勝利を収めてこられたのは、玄爺と、そして──。
「靈夢、どうしたの?」
かつて悪霊の弟子であった、この魔法使いのおかげだろう。
「いや、別に。少し昔のことを思ってただけよ」
「あら、そう?」
まぁしかし、本人には言わないが。彼女の性格的に、直ぐに調子に乗ってしまうだろうからと。
──しかし、それにしても。
「人が居ないわね。さっきの魔法使いを倒してから誰とも会ってないわ」
靈夢は疑問に思う。まさか先程の魔法使いがこの世界──【魔界】の主ではあるまいし。
確かに強かったが、アレには世界の創造主たる威厳がこれっぽっちも感じられなかった。
「なんだろう、まさか罠かしら」
「そうかもしれませぬ──注意してくだされ、御主人様」
玄爺が警戒する様に吠える。
靈夢もそれには同意だ。
「もちろん、分かってるわ」
警戒する理由として、『勘』が反応しているということが大きい。
博麗の巫女は、皆超常の力と呼べる程の精度を誇る『勘』を持っている。
それは最早未来予知に近い領域にあり、その勘が警戒しろと言っているのだ。
(……む?あそこに誰か居る?)
故に、一番最初に人影に気づいたのは靈夢だった。
「魔理沙、誰か居るわ。戦闘に入る準備をしておいて」
「うん。分かったわ」
場に緊張が走る。相手も気づいたのか、静かにこちらに近づいてくる。
「ほう、お前らが私の世界に侵入した不届き者か」
威厳に満ちた声が響く。靈夢の眼前の銀髪少女から発せられたものだ。
魂が揺さぶられる。今すぐ平伏し、許しを乞わなければならない。そういった思考すら出てきてしまうほど、その声と姿は神々しいものだった。
「私の世界って、あんたは何者なの?」
動揺を鎮めながら靈夢は尋ねる。
「あぁ。私の名前は神綺。この魔界の全てを創造した神だ。そういうお前らは何者だ?答えろ」
「私は靈夢。博麗神社の巫女よ」
「私は魔理沙。ただの魔法使いね」
神綺はニヤリと笑う。嗚呼、ついに来たかと言わんばかりに。
「なるほど……お前らが、か」
靈夢の頭に疑問符が浮かんだ。神綺のセリフが思わせぶりだったからだ。
「全く、訳が分からないわ。──それより、あんたがここの神なら、話がはやいわ。魔界の者に言っておいてよ」
「何をだ?」
「あんまり、
「ほう、分かった。後で言っておいてやろう」
「後じゃなくて、今すぐに!」
神綺は、困り顔だ。
「そうは言ってもだな。お前らもここで散々暴れてくれただろ?魔界で暴れた罪は大きい。許すはずもない」
「やるつもり?」
呆れたように魔理沙が言う。
「だから言ったでしょ。これだけ暴れたのに許されるはずがないって」
「そうですぞ、御主人様!……イタッ!」
とりあえず玄爺ははたいておいた。
「うるさいわね、言わないと分からないでしょ」
とは言ったものの、和解の道が消えたというのは非常に辛い。
これ程の敵と戦わないといけなくなってしまった己の不運に、思わずため息をついてしまう。
「まぁいいや、始めましょ」
もうどうにでもなれーと、靈夢は成り行きに任せることにした。
「ふん、傲慢だな。巫女など所詮神の犬だというのに。──まぁ良い。始めるとしよう」
「
天地を揺るがす程の力を持った詠唱が紡がれていく。
「
神綺の澄んだ白銀の瞳が、両方とも朱に染まっていく。
更に、瞳の中に幾何学模様の魔法陣が刻まれる。
「さぁ!お前らの可能性を見せてみろ!
魔法陣が輝き、その中から大量の弾幕が放たれる。
ここに、戦いの火蓋が切られた。
(……やっぱり、強いわね)
靈夢は、何度も迫り続ける弾幕に辟易としていた。
どれだけ避けても、終わりが見えない。
濃い密度の弾幕は、1度食らってしまうだけで大ダメージを受けることは間違いないだろう。
逆に、こちらが陰陽玉から出す弾幕は幾ら当ててもダメージが入らない。いや、入っていないということはないのだろう。それでも、このまま倒し切れるかと言われたら。
(まぁ、まず無理でしょうね)
そう、絶対的に火力が足りていないのだ。
どれだけ当てても敵を倒すことができないこの状況。
(……ふざけるな)
有り体に言って、靈夢はキレていた。
──なぜ自分たちは大量に弾を当てているというのに倒れないんだ。なんでこっちは一発食らうだけで危険なんだ。
理不尽なまでの身体の性能差は、靈夢を酷く苛立たせた。
しかし、このままだとジリ貧だ。ならば、賭けに出るしかない。
「魔理沙!」
「何よ、靈夢?」
答える魔理沙の額には、汗が滲んでいる。
靈夢は、自分の策を伝える。
「ふーん、確かにそれなら行けるかもしれないわね」
魔理沙は納得した。現状においてこれ以上ない策かもしれないと。
「話し合いは終わったか?」
「あら?律儀に待っててくれたのね?お優しいこと」
靈夢が軽く煽る。しかし神綺は意に介さず、
「ふん、話し合っている最中に攻撃する程、余裕が無いように見えるか?──別にどうでもいいが。失望させてくれるなよ」
(機会が来るまで待たないと……危なっ!)
チャンスが来るまで2人は耐えないといけないが、如何せん弾幕の数が多い。
少しでも気を抜けば被弾してしまう。そうなれば、待っているのは死だ。
両側から迫り来る大弾を避け、上に飛翔する。神綺を見れば、目の中にある魔法陣の光がほんの一瞬だけ消えているのが分かる。
(魔理沙!)
(分かってるわ!)
アイコンタクトで合図を送り、2人とも神綺に向かって近づく。
「今来るか!だが、全て被弾せずに私のところまで来るのは不可能だ!」
(そんなこと、分かってるわよ)
そう、自分の力は自分が一番理解しているに決まってるのだ。
避けながら進んでも神綺のところにたどり着くことが出来ないということも、遠くから攻撃してもダメージが入らないということも分かっている。
(だから、ここで切り札を切る……もう使えなくなるけど、仕方がない)
思い出す、
『この力は、3回しか使えないんだ。3回使ったらそれっきり。もう使えなくなっておしまいさ。だから、ここぞという時に使いなさい』
──その力の名は霊撃。1人につきたった3回だけ敵の全ての攻撃を打ち消す、博麗の切り札だよ。
(ここで使わなくていつ使うのよ。もう使えなくなる?そんなの関係ない。私は勝つ!だって私は、
そこまで考えて、ふと気がついた。
己が、博麗の巫女という称号を疎ましく思っていた自分が、いつの間にかそれを誇りに思っていたことに。
思わず自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。
「ハアアァァァ!」
霊撃を放つ。靈夢から白いオーラのようなものが吹き出て、周りの弾幕をかき消していく。
もう靈夢は過去に2回霊撃を使っている。つまりはこれが最後の霊撃だ。
もちろん躊躇いが無かったと言えば嘘になる。それでも、ここで使うべきと判断したのだ。
「ハハッ、それが霊撃とやらか!素晴らしい、素晴らしいじゃないか!」
(なんで知ってんのよ!しかもホントなら敵自体にもダメージ入るはずなのに、ほんとデタラメなやつ!)
相変わらずの神綺の無茶苦茶さに呆れる。しかし、神綺でも流石に霊撃を貫通する弾幕は出せないようだ。
2人は神綺に近づいていく。天から靈夢達を見下ろす神に向かって。
しかし、たどり着くことは出来ずに、霊撃の効力は切れてしまった。
(くぅ、やっぱり無理だった!)
「たどり着けると思ったか?残念だったな。──さぁ、フィナーレと行こうか。これを乗り越え、
「神魔法『魔神賛歌』」
魔神を賛美する歌を、お前らは超えることが出来るか?
そう問うかのように、神綺は不敵な笑みを浮かべた。
波打つ大量の鱗弾を、靈夢達の周りを取り囲むように展開する。逃がさないようにするためだろうか。
更に、紫色の大弾を出し、こちらにゆっくりと飛ばしてくる。
(狭い……)
鱗弾と大弾の間隔は非常に狭い。速度こそ遅いものの、くぐり抜けるのは至難の業だ。
「ほっ、ふっ──かはっ、ぐぅ」
少しかすった。ただそれだけで、強い痛みが全身を駆け巡り、進むのを止めてしまいそうになる。玄爺が動いている以上止まることはないのだが。
横の魔理沙を見てみれば、向こうも苦しそうだ。それでも、靈夢が提案した作戦を遂行する為に必死に食らいついている。
「私たちも負けてられないわね!玄爺!」
「了解ですぞ!」
玄爺を更に加速させる。上に、横に、下に。避け、避け、避け避け避け避け──
大弾の発生速度が上がる。それでも変わらず避け続ける。
弾幕にレーザーが追加される。それでも変わらず避け続ける。
(遂に来た!あと少し……)
彼我の距離は後2mもない。
これならあと少しで届く。
だが、弾幕が出て来なくなるという訳ではない。
目から弾幕を放出している以上、近づけば必ず被弾してしまうだろう。
かと言って、接近しないと恐らくあの神を降すことは不可能だろう。
だから。巫女は言った。
「魔理沙ッ!──お願い!」
『私が、霊撃を使って全力で近づく。でも到達することは出来ないだろうから。
──合図した時、全力で撃ってね。大丈夫、私は死なないから』
(靈夢──私には倒し切る術がない。だから頼んだわよ。死なずに、あの神を倒して!)
「マスター、スパァァァク!」
魔理沙の手から大量のエネルギーが放出される。一条の光が、靈夢と神綺を包み込む。
神綺はダメージを受けなかった。しかし、靈夢はダメージを受ける。
「ア゛ア゛ア゛!」
苦しい。呼吸が出来ない。気を抜いたらそれこそ一瞬で意識が飛びそうだ。
魔理沙の放ったそれは、以前食らった時より洗練されていた。
しかし、これは決して無駄な攻撃だという訳ではない。
神綺の瞳の中の魔法陣が、放たれていた弾幕が、掻き消される。
「──なッ!?」
神綺の目が見開かれる。まさかそのような方法を取ってくるかと驚愕した。
自らを犠牲にしてまで敵を斃そうとするとは──
「──見事だ」
目の前にお祓い棒を突きつけられながら、神綺は賞賛した。
ボロボロになった靈夢が神綺の眼前にお祓い棒を突き付ける様は、傍目から見たら勝者と敗者が逆に見えるものであったが。
「私の負け、か。……あぁ、楽しかったな」
神綺はそう言うと、フッと小さく笑った。
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「後は2人と色々話して──って感じかな。それでようやく一件落着って感じだ」
話を聞いたアリスの頭に、一つの疑問が浮かんだ。
「ねぇ、ママ」
「ん、なんだ?」
「ひょっとして、手加減した?」
笑顔のまま固まる神綺。
「なんで分かったんだ?」
「だって、私に苦戦していたやつら如きに、本気で戦って負ける訳がないもん」
それ程アリスと神綺の差は隔絶したものなのだ、とアリスの言。
神綺は否定しなかった。代わりにアリスに諭すように告げる。
「確かにそうだ。私は手加減した。もし勝ったら面倒くさいことになるのが分かってたからな。──でも、楽しかった。血肉沸き立つ楽しい戦だった。……私が戦いを楽しめることなど、殆ど無い」
それは強すぎるが故の孤独である。しかし、アリスにとっては理解出来ない考えでしかなかった。
「なんで……負けて悔しくないの?私は悔しい。もう、負けたくない。教えてよ、ママ。どうすればいいの?」
悲しみを帯びた声で必死に問う。
神綺はアリスの頭を優しく一撫でする。
「そうだな……負けて悔しいっていうよりかは、戦って楽しいっていう感情が先に来るんだよな、私は。でも、アリスは悔しいっていうのが先に来てしまうのか……じゃあ、良いやり方を教えようか」
「本気を出さなければいいんだ」
「……え?」
──何を言っているんだ。本気を出さなかったらそれこそ負け……
「本気を出さなければ、負けたとしても負けにならない。少なくとも己はそう思える。だって本気を出したら勝てたかもしれないからな。そしてその影で鍛えて、強くなり──ぶっ倒せばいい。な?最高だろ?」
「ァ……確かに……」
本当だ、そうすれば。
「だからさ。アリス、そこまで気を張るな。お前はいつも抱え込みすぎなんだよ」
嗚呼、本当にこの母は偉大な神だ。
「う、ん……うん!」
意図せず笑顔が零れた。
母の手が、アリスを包み込む。
(温かい……)
彼女の手の温もりを感じながら、アリスは言った。
「ねぇ、ママ。──魔法使いに、種族としての魔法使いになる方法を教えて?」
アリスはもう迷わない。生きる道は、既に決めたのだから。
魔理沙さんは勝手にマスタースパークとか使うし神綺様は厨二病だし……やだ、この小説ヤバすぎ……!?
いつも感想、評価、お気に入りありがとうございます!これらのお陰でモチベが保てますし、更新速度も上げられます。いやまじで。
次回は神綺様のステータス的ななにか()と、旧作キャラの解説でも出してから書きますかぁ、頑張らないと。
話は変わりますが、小説用のTwitterアカウント作りました!この小説に関する情報ツイートするので、是非フォローよろしくお願いします!
リンク→ https://twitter.com/Makaishintensei
☆旧作を知らない人用解説③
靈夢……旧作の主人公。旧作霊夢等と言われる場合もある。話し方が随分と乙女っぽい、紫髪の巫女。霊夢と違い、空を飛ぶことが出来ないため、亀(玄爺)の上に乗って飛ぶ。
旧作魔理沙……旧作の相棒枠。東方封魔録(東方Projectシリーズ第2弾)の誤字をとって、魔梨沙と呼ばれることもある。うふふだったりきゃははだったり言ってるので、よくそれをネタにされていじられる。ちなみに旧作ではマスタースパーク(らしきもの)は全く使いません。