ありふれたもうひとつの物語   作:平無門

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第一章
プロローグ


 

 

___夢を見ているのかと思った。

 

 

 水の中にでもいるような、遠くから誰かが話しているような感覚。不鮮明で聞き取りにくい周囲の音。

 目の前は靄がかかったようにぼやけていて、はっきりと認識することが出来ない。

 

 まるでまどろみの中にいるようなふわふわとした心地だった。

 

 かろうじて自分が立っている、ということは理解できる。でもそれ以上のことはぼんやりして頭が働かずわからない。

 

(なんだろ…周りがすこし、騒がしいような…?)

 

 そうしてぼうっとすること数秒、ふと感じ取った違和感に首を傾げた直後のことだった。

 突如はっきりした音が、どこか懐かしさを感じさせる緊張と焦りを帯びた声が聞こえた。

 

 

「――お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 

 電のごとく轟いたその号令に、ビクッと身体が反応し一気に意識が覚醒する。

 

 そうして、霞が晴れてクリアになった視界に最初に映り込んできたのは、百を超える骨格だけの体に剣を携えた魔物"トラウムソルジャー"の大群だった。

 

 

 

「……は?」

 

 

 ごしごしと目を擦ってもう一度確認してみる。

 

 残念ながら見間違いじゃなかった。

 なんならさっきより骸骨戦士の数が明らかに増えている。うん、無限増殖するんだよね知ってる。

 

 周囲をざっと見渡せば、自分がいるのが巨大な石造りの橋上の中間あたりであり、近くにはクラスメイトやハイリヒ王国騎士の姿があるのが分かる。

 

 次に、骸骨戦士がいる側の橋の袂とは逆サイドの方向に視線を向ける。

 巨大な魔物の姿がいやでも目に入った。

 

 

 鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている巨大な魔物。

 ()()()自分を含めた多くのクラスメイトにトラウマを植え付けてくれた、ある意味懐かしい存在、“ベヒモス“が堂々たる姿で立ち塞がっていた。

 

 

 

……うん。オーケー落ち着け俺。いったん落ち着こう。こういう時こそ慌てず冷静に――

 

「――って、なれるかぁ!!どうなってんだよこれ!?」

 

 

 そう思わず突っ込みの叫びをあげた少年の名は、遠藤浩介。

 

 自動ドアが三回に一回しか反応せず、皆勤賞なのに教師が気付かないせいで欠席扱いされたあげく出席日数が足りないと呼び出されるほど存在感皆無な、影の薄さなら世界一ぃ!と言われるほどの影薄であること以外はごくごく普通の少年である。

 たとえ家族にすらちょくちょく存在を忘れられようとっ!魔物にすら気付いてもらえなかろうとっ!さっきの叫びも普通にスルーされてようと!たぶん、きっと、おそらく、普通の人間……のはずなのだ!

 

「ごふっ…!?な、なんか急にグサっときたような…いや、今はそんなこと気にしてる場合じゃないよな」

 

 わずかに痛む頭を振り、思考を切り替える。

 

 そんなことよりも、だ。何故“彼ら”の姿がここにある?

 だって、あり得ないだろう。たしかに死んだ筈なのに。

 

 どうして生きてるんだ。

 

 

 中村恵里らトータスで死亡したクラスメイト。

 自分のせいで死んだ騎士団員たち。

 そして、先程の号令を発したメルド団長。

 

 

「ハハ…これじゃまるで、過去に戻ったみたいじゃねぇか」

 

 いや、“みたい“ではない。

 戻ったのだ。あの日、あの場所に。

 

 この状況は、かつて経験した()()()()()()そのもの。

 死んだ筈の顔触れに、幼い印象を受けるクラスメイトの姿。

 場所も、状況も、全てが全てが記憶にある通り、そっくり同じ。まさに過去の“再現“。

 

 

 ありえない、あり得るはずがない。

 

 でも、そうとしか考えられない。

 たしかに自分は過去に戻ったのだと、嫌な確信をなぜか持ってしまった浩介はヒクリと頬を引き攣らせ、乾いた笑いを零す。

 

 

 …あぁ、いっそ夢ならいいのに。

 悪趣味にも程があるけど、夢ならばいくぶんましな気分になれるだろうに。

 

「………まじかぁ…」

 

 夢じゃないとうすうす理解していながらも、ありえない現実に浩介は「頼むから夢なら今すぐ覚めてくれ」と願わずにはいられなかった。

 

 

 

 




 突然の〜?ベヒモスさん!(+無限増殖する骸骨兵)さあどうする遠藤!?

 みたいな感じで始まる、大人気アビスゲート卿の逆行(かもしれない)お話です。
 どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
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