ありふれたもうひとつの物語   作:平無門

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目覚めた後の語らい

 

 

 

 【急募】突然豹変したクラスメイトとの適切な接し方。

 

 

 

 遠い目をして、思わず脳内で救援を求めながら現実逃避に走っている少年、もとい遠藤浩介。

 彼の目の前にはともに奈落に落ちてしまった南雲ハジメ__但し、名前の前か後ろに「※豹変後」と注釈がつく_がいた。

 

(どうしてこうなった…!?)

 

 奈落に落ちて、南雲を見つけて、体力気力ともに限界でぶっ倒れたところまではきっちり覚えている浩介少年。

 だがしかし、それを見たハジメがSAN値チェック失敗したあと、必ずどんなことをしても元の世界()に帰ると覚悟ガンギマリ状態に進化したうえ、浩介に対して劇重感情とやべぇ執着まで芽生えさせてるなんてこと、気絶中だった浩介が当然知る由もなく。

 寝て起きたら、一人称「僕」から「俺」に変わって口調も粗雑になり、ギラギラしつつもどこかどろりと危ない色の混じった瞳とニヒルな笑みを浮かべる、殺意MAXな危ない雰囲気を纏った少年に仰天メタモルフォーゼを遂げたハジメにおっかなびっくりしてしまうのも当然のことなのである。

 

 だがしかし、無自覚にやらかしてる浩介のせいな部分もそこそこ結構あるので、自業自得といえなくもないのだが…………

 もちろん状況や運が悪かったというのもあるが、他にフォローできる人もなし。浩介少年は1人で頑張るしかないのである。現実はいつだって無慈悲なものなのだ。

 

 閑話休題。

 

 

 

 ほんの少しだけ時を戻そう。

 

 

 心身ともにとっくに限界を超え気力のみで動いていた浩介は、ハジメを見つけたことでようやく気が緩み見事にぶっ倒れたのち、約半日ほど眠りについていた。(傷と体力はハジメのおかげで回復していたので精神疲労が主な原因である。)

 そうして、ぐっすり眠ってリフレッシュした浩介が目覚めて最初に視界にとらえたのは、ひたすら錬成を繰り返し発動するハジメの後ろ姿だった。

 

 初めは何故そんなことをしてるのだろう、と寝起きでぼーっとしていた浩介は横になったまま、暫しぼんやりとハジメの背中と変形する壁面を眺めていた。

 すると、視線に気付いたのか不意に振り返ったハジメとバッチリ目が合う。

 

「…」

「…」

 

 何となく視線を逸らすのは違う気がして、互いに黙ったままちょっと気まずい空気が流れる。

 沈黙に耐えきれなかったのか、痺れを切らして先に口火を切ったのはハジメだった。

 

「…………お前、起きたなら声かけろよ。驚いただろ」

 

(…?なんか南雲の様子が…?)

 

「あー、悪い、寝起きで頭回ってなくて。つい何となく眺めちまってた」

「___ハァ…ま、ちゃんと起きてくれて良かったけどよ。身体は平気か?腹の傷は治したけど、まだ痛みが残ってたり違和感感じるならコレ飲んどけ。つか何もなくても一応飲んどけ、お前一回死にかけてんだから」

「おおぅ…なんか圧強いな?お前そんなだったっけ…?」

 

 錬成で作ったのだろう、ズズイと差し出された神水で満ちた器を受け取り、視線に促されるままに空いてる片手でパタパタと身体を検分する。

 ちなみにこの時点での浩介は何となく南雲変だなーと首を傾げつつも、寝起きのポヤポヤが抜けきってなかったので深くは考えなかった。

 

 身体のどこにも違和感はない。

 あれ程に心身を苛んでいた痛みは綺麗に消え去り、鉛のように重く指先を動かすのすら億劫だった体も嘘のように軽かった。

 頭痛に耳鳴り、悪寒や熱っぽさといった諸々の不調もすっかり回復している。

 服を捲ってみれば、腹を貫通してた傷は塞がり、その上に自ら付けた火傷跡すらも治っていた。

 

「ん、大丈夫そうだ。あでもここ、ちょっと皮膚が突っ張ってる。焼いたせいかぁ?」

 

 皮膚に這わせた指に僅かに伝わる感触の違い。そこは丁度、出血を止めるため特にしっかりこんがり焼き塞いだ部分だ。

 神水はあらゆる怪我や病を治すといわれる程の力があるが、流石に欠損部位を再生することはできない。

 浩介の傷口は入念に焼いてあったうえ、負傷からそこそこ日数が経過していたために、皮膚とその付近の壊死した細胞の名残が、僅かな引き攣れとして残ってしまったのである。

 

 まぁでもこの程度で済んで良かった、と緩んだ表情のまま顔を上げた浩介だったのだが、ジトーッとした湿度と重みの中に責め立てるようなチクチクとした棘を含んだ視線と目が合ったことで、思わず表情をこわばらせる。

 

「な、南雲…さん…?どうかしました…?」

「どうかしたか、じゃねえよ。お前が急にぶっ倒れて俺がどんな心地だったか………酷い高熱で、今にも死にそうだったんだぞ。まさか傷口焼いた挙句ずっと動き回ってたなんて普通思わねーよ」

「う…悪かったよ、心配かけて。でも他に方法なかったし。死ぬよりマシだろ?」

「そりゃそうだけど、もっと他に…!………いや、悪い、八つ当たりだなコレは」

 

 ハジメも理解はしていた。

 浩介が選び取った手段は、限られた選択肢の中で、生き延びるという目的を達する為には最善だったのだろうと。

 それでも、倒れた瞬間の心臓が凍り付くような錯覚も、死にかけているという事実に目の前が真っ暗になる絶望感も、あの酷い火傷を目にした時の怖気が走る感覚も、二度も味わいたいものでは無い。

 それに、自らの手であんな酷い傷をつけられるという事実が、ハジメにとって恐ろしい可能性を示唆していて、だからこそ冷静さを保つことが難しかった。

 

(___浩介(こいつ)は自分の命を軽くみてる)

 

 ハジメの気付きは大正解である。

 

 生来の影の薄さで、あまり周囲から高い評価を受けない浩介は基本的に自己評価が低い。何か成果を出しても評価されないから、それが凄いことだという認識にならないのである。

 通常、評価とは他人の目や比較対象があってなされるもの。だがしかし悲しいかな。遠藤浩介という少年は、母親に幼稚園のお迎えすら忘れられてしまうことがあったほどの、存在感の無さが生まれつきのデフォルト装備。

 故に、正当な評価を受け、それに基づく一定の自己評価/自尊心を成長の過程で培うことが出来なかったというのも当然の帰結だった。

 

 死にかけていたのだと告げられたのに、一切動じることなくあっけらかんとした態度でその言葉を受け流してしまえるのも、自分の価値を低く捉えてしまってるが所以。

 己より他を優先する。譲れぬものの為、大切なものの為なら簡単に命を賭けてしまえる。優しさと自己評価の低さから成る自己犠牲精神が浩介の本質には根付いてしまっている。

 

 そんな浩介の危うい部分に気がついてしまって、でもすぐに改善するのが難しいことも同時に理解できてしまったハジメは、ならばと思考を切り替える。

 気質というのは簡単に変えられるものでは無い。

 ならどうするか。

 浩介自身が己の優先順位を低く見積もってしまうのなら、その分ハジメや周囲が彼を優先し、大事にしてやればいい。そして、彼が自分を犠牲にしなければならないような状況を、そもそも作らなければいいだけの話。

 

(その為にもやっぱり強くならなきゃな)

 

 大切なものを害する存在を排除できる力、守り通せるだけの力が必要だと、改めてハジメは決意を固めるのだった。

 

 

「___ふぅ、よし。過ぎたことをぐちぐち言ってもしょうがないし、結果的にこうして何とかなったわけだし、うん。

 でも、無茶するな…とはこの状況じゃ言ってやれねぇが、程々にしてくれ。お前の身に何かあったらと考えるだけで、正直冷静じゃいられなくなるんだ俺は」

「そんないうほど無茶__しましたね、はい。ゴメンナサイキヲツケマス」

「………頼むぞホントに」

 

 いまいち自覚が足りない恩人に、つい胡乱げな視線を向けてしまう。

 いやでも仕方ないだろ、これ。思った以上に危なっかしい予感しかしないぞコイツ。

 

 ___俺がしっかりしないと。

 

 

 そんなことをハジメが考えてるとも露知らず、一方浩介はといえば。

 

 

(やっぱり南雲変だよな!?てか明らかに魔王様モードに進化してるよな!?

 え、こんな急激に変わるものなの?性格って徐々に変質してくもんじゃないの??

 何がスイッチだったわけ?俺が倒れただけでこうはならないだろうし…やっぱ腕食われたせいかな…“前”の時どうだったかちゃんと聞いとけばよかった…

 どう反応すべきなんだコレ、ツッコミ入れる?『お前急に変わりすぎだろ〜』って。それとも適度に茶化す…のは違うよな。完全に気にしてませんよーって感じで、何事もなかったように流した方がいいか?うーん、わからん!頼む誰か正解を教えてくれ___!)

 

 漸くハジメの豹変に確信を持ったことで大混乱に陥っていた。

 

 なお、自分が豹変の原因、とまではいかずとも、キッカケのひとつである可能性にすら思い至れていないのが浩介クオリティ。安定の自己評価の低さである。

 ちなみに、もし混乱の叫びを声に出していた場合、ハジメの危機感をより刺激することになっていたので、脳内に留めたのはファインプレーだったりする。

 

 

 兎にも角にも。

 そんなこんなで漸く冒頭の脳内救援に繋がる、というわけであった。

 

 

 

***

 

 

 

 結局あの後、我慢しきれなかった浩介は「気のせいだったら悪いんだけど…なんか雰囲気変わった、よな?何かあった?」と、まるで彼女の機嫌を伺う彼氏の如く、極力刺激しないようやんわりと指摘をしてみた。

 

 帰ってきた返答は至ってシンプル、「少し心境の変化があっただけだ」とのこと。

 

「そ、うか、心境の変化。ふーん………いや、まぁ話したくないなら無理に詳しくは聞かないけど………ごめん嘘、やっぱ超気になります。口調とか目つきとか雰囲気とか諸々変わり過ぎじゃん」

「別に隠すほどのことじゃねぇぞ?」

 

 曰く。ちょっと状況とぐちゃぐちゃだった頭の中整理して、目的と為すべきことハッキリさせただけ、とのこと。

 

「口調とかが変わったのは…あー覚悟とかそういう感じの表れ、的な?ほんと大したことないから気にすんな」

「いやいやいや、気にするから、気になるから」

 

 とはいえ、本人がああ主張してる以上、さらにこの話題を深掘りするのは時間の無駄であり野暮ってものなのかもしれない。

 と、浩介はやや強引に自分を納得させる。でないと話が進まないので。

 

「ちなみに俺の“目的”は“浩介(お前)と一緒に生きて家に帰ること”だ。その為にまず生きる術を磨く、そして元の世界に帰る方法を探す。

 

 

__これを阻むもの、害なすものは全て“敵”として容赦なく殺す」

「っ…!」

 

 ふと表情を引き締め、真剣さを帯びた声色でハジメはそう告げる。

 

「お前も同じようにしろ、と強制する気はない。ただ、一緒に行動する上で今の俺の基本方針は知っておいてもらわないとお互い困ると思ってな」

 

 やや間を置いて、「引いたか?」と浩介の様子を伺う言葉には即座に「いや」と否定の意を返す。

 胸中には、そうなるのも仕方ないという納得と、それでこそ南雲ハジメだという妙な感心があった。“前”に再会したばかりの際、救援を最初はバッサリ切り捨てた、所謂尖りまくってた時代の姿を思えば、寧ろ目の前のハジメはあれより若干マイルドにすら感じる。

 

「ただ少し確認させてくれ。俺と一緒に…って、クラスメイト達は勘定に入れないのか?あ、責めたいわけじゃないぞ。あくまで確認な」

「あぁ入れない。メリットが有れば一時的に手を組む程度なら考えなくもないが、こちらから何かしてやることも、わざわざ気にかけてやるつもりも一切ない。

 お前も当に理解してんだろ、俺達が何故こんな状況に陥ってるのか、その原因を」

「………あの中に、裏切り者がいる」

「そうだ、俺達は裏切られた。

 ただな、俺は正直、もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生きて帰ることに全力を注がねぇと。

 あ、でもお前が復讐を望むなら付き合う気はあるぞ」

「しねぇよ復讐なんて。そりゃ驚きはしたけど……うん、今思い返してみても、何故か恨みとか怒りとか全く湧いてこないんだよな。凄く凪いでる感じで、自分でも不思議なほど冷静というか……

 とりあえず方針については了解、異論はねぇよ」

「へぇ……?」

 

 浩介が復讐を望まないことは想定の範疇。ハジメの変化については、多少取り乱しても最終的には受け入れてくれるだろうとも思っていた。

 だが、実質クラスメイトを切り捨てる宣言に意を唱えるどころか、一切動じず全面的に受け入れるのはハジメも予想外。

 親友として仲が良かった筈の永山重吾や野村健太郎の存在すら気にする素振りがない。どうやらクラスメイトそのものに対して関心が薄れてるようだ。

 

(好きの反対は無関心って言うが……俺にとっちゃ好都合だけどよ)

 

 分かりやすく豹変したハジメの方が目立つだけで、浩介も無自覚ではあるが、裏切りや奈落に落ちたメンタルへの影響が全くないわけではなかった、ということだろう。 

 隠すように当てた手の下で、口角が吊り上がるのを抑えられずハジメはうっそりと笑った。

 

 

 

***

 

 

 

「___じゃあ、何回も錬成を発動させてたのは技能向上を図るためか」

「おう。今のまま外に出ても浩介の足引っ張ってあっさり死ぬかのがオチだからな」

 

 方針の擦り合わせが済めば、次なる話題はこれからの具体的な動きについて。

 

 ハジメは少しでも武器を磨かねばならないと考えた。その武器は当然、錬成だ。

 

 より早く、より正確に、より広範囲を。

 飢餓感も幻肢痛もねじ伏せて、神水を飲みながら魔力が尽きないのをいいことに、浩介が寝てる間も錬成の鍛錬をひたすら繰り返していたのだ。

 

「悪いがもう少しだけ時間が欲しい。確実に性能は上がってるがまだ満足できるレベルじゃない」

「構わねえよ。俺は周囲の探索でもしてるから南雲は好きなだけ__」

「ハジメ」

 

 スン、と急にハジメの表情が消える。

 なんなら目からもハイライトが消えている。ギラついた瞳もやや怖いけれど、のっぺりした目と無表情でじっと見つめられる方がもっと恐ろしく、有無を言わせぬ迫力を伴っている。

 

「“ハジメ”でいいって言ってるだろ。俺も“浩介”って呼ぶから」

「あ〜うん、すまん慣れなくてつい。えっと、ハジメ、が鍛錬してる間俺は探索をしようと思うんだが」

「ダメだ。何があるか分からねえんだから単独行動は控えるべきだ」

 

 名前を呼んだ途端に圧力じみた雰囲気は即座に消えたが、探索すると言う浩介の提案はバッサリ切り捨てられる。

 碌な連絡手段もないこの状況で別行動などしては、万一浩介の身に何かあっても、この部屋に篭ってるハジメには助けるどころか危機を知る術すら無いからだ。

 

「何もしないのが気まずいってんなら、この部屋広げるから投擲練習でもしたらいい。武器も的も俺が作ってやれるし、傷のせいで暫くマトモに体動かせてなかったならリハビリに丁度いいだろ?」

 

 ぐうの音も出ない正論である。

 

 せめてこの部屋の周囲だけでも、と食い下がってみたがハジメはにべもなく却下し、言いくるめ、最終的には浩介が折れて全面的に「2人とも安全なこの部屋で鍛錬をする」という提案を受け入れる結果となった。

 

 

 

 かくして、ハジメと浩介の生きて帰る為の戦いが本格的に幕を開けたのである。

 

 




 影薄のせいで自己評価が低い無自覚ハイスペ男は公式設定なの最高ですよね!!(原作ベルセルク編参照)

 浩介視点のつもりが書いてるうちにまたもやハジメの主張が強くなってるうえ予定になかった庇護欲的なものまで目覚めて着実に執着を強めてるので驚きです。おかしいな、気付いたらこうなってたのこわ…。流石原作主人公、自我が強い。
 断じて自己評価低くて危なっかしいキャラの周囲が過保護になるのも良いななんて、そんな癖が出たわけでは…うんこの話やめよう。

 クラスメイトに対して浩介の反応が薄かったのは、ハジメの推測通り無自覚に裏切りやら怒涛の展開で地味にメンタルきてたせい。割といっぱいいっぱいなので、目の前のこと(現状:ハジメと自分)以外に興味関心が持ちづらくなってる状態。
 ただ、他にも“とある影響”が関係してる、かも。書けるか分からないので後書きで匂わせる程度にとどめるけど、ちゃんと今後の展開で出せるといいな〜

 ちなみに作者は原作web小説の深淵卿第三章あたりまではちゃんと追えてたんですが、それ以降は割と忙しくてながら見/飛ばし読みしたりであんまり… アニメはちゃんと視聴してるんですが。首狩りウサギの活躍凄かった!あとラナさんが喋って動くたび地味にテンション上がりました。これが将来ああなるんだなぁって。
 










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