初投稿です。よろしくお願いします。
クオーラは雷の音で目を覚ました。窓の外を見ると、空が白黒に点滅している。こんな経験は生まれて初めてだった。彼女は記憶を失っているので正確には初めてではないかも知れないが。外の光景が恐ろしく、掛け布団とマットレスの間に深く潜り込み直したものの、
(お外はどうなちゃってるんだろう…。もしかしてロドス、
壊れちゃったりして…)
という想像を巡らせて怖くなってしまった彼女は、我慢できず、ベッドの外へと抜け出した。誰かに会えないかと思いながら部屋を慌てて出ていくと、ドアの前を通りがかった人にぶつかり、尻餅をついてしまった。
「いてて…」
「大丈夫か?おや、クオーラじゃないか。こんばんは。こんな時間にどうしてここに?」
その声が聞こえた方に顔を上げると、強い光が頬を掠める。光の方を見ると、そこにはドクターが左手に懐中電灯を持ちながら、こちらに右手を差し伸べていた。クオーラは一番頼っている大人に会えて安心し、彼の手を掴みながら立ち上がる。
「こんばんは、ドクター…。外が怖くて起きちゃったの…。ボク、眠れなくて…どうしよう… 」
「そうだったのか。私の執務室に来るかい?ずっと電気は付いてる、私もいるよ。もし、寝れるならソファーで寝てもいいし 」
「いいの!?わーい!ボク、執務室のソファー大好き! 」
ドクターの手をクオーラはぎゅっと握り直して真っ暗な道を歩き出した。
執務室はいつも昼に見る時とは違う雰囲気に包まれていた。クオーラがキョロキョロと周りを見渡すと、いつも付いているパソコンのモニターは消えていて、照明はいつもより暗くなっていた。代わりに何かの資料がそこかしこに散らばっていた。それをドクターは拾い集める。
「雷で電気が消えてしまうも知れないからな。極力電気の消費を抑えているんだ」
不思議そうにしているクオーラにドクターは答えたが、彼女はよく分からなかったので、
「ふーん」
とだけ返事をしておいた。それより彼女は部屋の様子が気になって仕方がなかった。
「ちょっと待っててね」
そう言うと、冷蔵庫から何かを取り出して、ドクターは奥へと引っ込んでしまった。1人になったクオーラは早速ソファーに座る。執務室のソファーは特別だった。ふわふわしていて、普段はオペレーターの中で取り合いが起きるほどであったので座れることは珍しかった。クオーラは優越感に浸りながら、本棚からお気に入りの絵本を取り出した。亀とうさぎが競走をして亀が勝つ話だ。いつもクオーラはお話の中で亀がのろまだと言われている事に納得がいかなかった。亀と同じ種族であるペートラムの自分はのろまではないからだ。いつも通り亀が勝ち、満足気に最後のページをめくり終わると、ドクターが奥から戻ってきた。
「お待たせ。温かい飲み物を飲むと眠りやすくなるんだって」
そう言い、ドクターはマグカップを差し出しながら、クオーラに毛布を掛けて、彼女の隣に座った。
「ありがとう、ドクター!」
マグカップを両手で受け取ったクオーラが中を覗き込むと、真っ白なミルクがなみなみと入っていた。湯気が顔に伝ってきて熱さをひしひしと感じる。早速飲もうとすると、口をやけどしそうになってしまった。ふーふーと息を吹きかけて冷ます。ドクターはその光景を微笑ましそうに見つめながら、彼女と同じ飲み物を飲んでいた。
しかし、2人で居たところで雷の脅威は止まる事を知らない。クオーラは毛布に包まりながら、チカチカと点滅を続ける空に怯えていると、突然ドクターが口を開いた。
「雷で怖い時には好きな物を言っていくのがいいんだって。そうすると気持ちが落ち着くそうだ。アンブリエルと見た映画で言っていた。」
「好きなもの?」
「うん。例えば自分だったら、そうだな、ムースの『ねこちゃん』とか、コーヒーとか」
「なるほど!ボクはね〜、うーんと…野球で遊ぶことと、お絵描きすることと、あとあと、こないだレイズさんにごちそうしてもらったスープ!」
「彼女の部屋に迷い込んだんだって?聞いたよ。彼女と仲がいいんだな。私なんて彼女に怒られてばかりだしな…」
「レイズさん、すっごくいい人だよ!ボクに優しくしてくれたし…」
お互いに好きなものを言いあっているうちに夜は更けてゆく。雷が2人のお喋りのBGMになった頃、クオーラが船を漕ぎ始めていた。
「クオーラ、眠いんだったら寝ても大丈夫だよ。」
「うーん…。まだ…起きてる…」
首をこっくりこっくり動かしながら曖昧な返事を返す。
「隣にいるから大丈夫、安心して眠って」
ドクターはクオーラの肩をぽんぽんと優しく叩いて言った。
「うん…。おやすみ…なさい…」
「うん、おやすみ」
眠りに落ちた後、クオーラは沢山の好きな物に囲まれている夢を見た。きっと、目が覚めても怖いことは何もないだろう。夢の中でホームランを打ちながらクオーラはそんなことを考えていた。