結婚を前提に付き合ってください!!   作:粗茶Returnees

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 連載はしんどいので書きたい部分だけ文字に起こします。


将来を夢見て約束して!

 

 湊と小南の交際開始は、大人たちからすれば子供らしく可愛らしいものだろう。10代後半のメンバーからしてもそう映ることだろう。

 しかし2人は本気だ。湊の気持ちは揺るぐこともなく、いつだって真剣そのもの。小南からのキスで沸騰した頭も今は冷え、どうやって稼いで生活を安泰にさせるか考えている。少年の頭の中は、彼女の笑顔でいっぱいである。

 小南はというと、湊とは別のことを考えていた。彼から貰った誕生日プレゼント。プロポーズとしても使われた指輪。今の自分では指輪の方が大きく、指に嵌めることはできない。無くさないためにはどうすればいいか、自分が先程やったことを思い返して頬を赤くしつつ考えている。

 

「その様子だと、航はうまいこと渡せたようだな」

 

「ぁ、最上さん。これは……って知ってるの?」

 

「頼まれて買ってきたからな。今の航の年齢じゃ買えなかったかもしれないし」

 

 主に金額のせいである。航の貯金を全て使って買ったプレゼントだ。払えるだけのお金は貯まっていた。しかし高額な商品を、いくらプレゼントのためとはいえ子供に売るかどうか。賭けて外すくらいなら、大人に頼むほうが確実だと湊は判断したらしい。無論他言無用で、最上もそれを承知した。

 最上は小南の前でしゃがみ、大切そうに持つ箱を見やる。その中に入っているのが指輪。航が、"小南が大きくなれば合うサイズ"を予想して指定したサイズ。

 

「しばらくネックレスにするのはどうだ? チェーンを通して首から下げるんだ。身につけていられるし、無くす心配もほぼない」

 

「……そうする」

 

「決まりだな。明日にでも買ってこよう」

 

「ありがとう最上さん!」

 

「どういたしまして」

 

 お礼を受け取った最上が立ち上がってから数秒後、玄関のドアが開く。入ってくるのは外でクールダウンしていた湊だ。赤くなっていた顔も落ち着いている。

 

「航……」

 

 顔を見れば自然と小南の視線が湊の頬へ。自分が口づけした箇所に目が行き、ぽっと顔を熱くした。それを受けて湊も頬を赤くし、ぎこちない笑みを浮かべながら視線を泳がせる。

 

「ははは! 初々しいな。もうキスでもしたか?」

 

「し、してな……! ……くはないけどほっぺ!」

 

 言った直後に小南は俯いた。自滅である。

 

「航はしなかったのか?」

 

「何されたかわかんなかったし……、その……」

 

「そうか。自分たちのペースで歩きなさい。周りは気にしなくていいが、航と桐絵。互いのことはちゃんと見てな」

 

「うん。ありがとう最上さん」

 

 靴を脱いで上がった湊が小南の手を握る。ビクッと肩を震わせた小南だったが、屈託のない湊の笑みを見て力が抜けていった。なにか安心できたのだろう。それを受けて頷いた湊は、小南の手を握ったままリビングへと足を運んだ。

 そこにいるのは大人たち。湊の養父をする城戸だったり、林藤たちだったり。先程まで2階で遊んでいた風間たちも、どうやらリビングに移動していたようだ。

 彼らは2人が手を繋いでいるのをみて多様な反応を示した。祝ったり驚いたり揶揄ったり。実に多様な反応で、その中でも一番反応が大きかったのは、やはり養父の城戸だろう。驚きのあまり口を開けて固まり、テレビのリモコンを落としていた。

 

「みんな反応が早い! けど報告します! この度小南と結婚を前提に付き合うことにしました!」

 

「航お前小南に何を盛った……!」

 

「父さん酷くね?」

 

 素早く駆け寄った城戸が片膝をつきながら湊の両肩を掴み、勢い良くその肩を揺さぶっている。

 

「正直に気持ちを伝えただけだよ。おれは本気なんだ! 小南もそれを受け入れてくれた!」

 

「……本当なのか?」

 

「……うん

 

 確認を取ると小南が俯きながら小さく頷いた。誰にも少女の顔が見えないが、どうなっているのかは想像に固くない。

 

「そうか。…………そうか」

 

「まぁまぁ城戸さん。ここは素直に2人を祝福しましょうよ」

 

「めでたいことだし、若い組織とはいえボーダー内カップルは初じゃないか?」

 

 忍田と林藤の2人が口を挟み、話題を若干逸していく。林藤が言ったとおり、ボーダーという組織は若い。今では若い世代もいるが、組織内でのカップル成立はやはりこの2人が初めてのようだ。まだ子どもだが。

 

「ボーダー内カップルどころか、この組織の独身率は高いよな。有吾はちゃっかりいそうだが」

 

「有吾さんに相手がいなかったら、それは世の中の女性の見る目がないとしか言えませんね」

 

「忍田の中での有吾像がだいぶ脚色されてきたな」

 

「父さん。有吾さんって?」

 

「あぁそうか。航は当然として知らない者も多いか」

 

 この中では新参者の湊はもちろん、彼の隣にいる小南も有吾という人物に会ったことがない。それはつまり、小南より後に入った者も知らないことを意味している。言うなれば、若い世代たちが有吾を知らない者たちだ。

 

「有吾は私や最上の同輩だ。忍田や林藤にとっては先輩にあたる」

 

「最古参ってやつか」

 

「そうだな。あいつは()()()()に渡っていてな。その目と足で情報を集めている」

 

「ほぇー。すごい人だなそれ! 1人でやってんだろ?」

 

「そうだな」

 

「かっけー!」

 

 1人で行える行動力、胆力、そして実戦の実力。単独での行動を許されているのは、それだけの信頼があったから。当時のメンバーが少なかったから、という理由もあるかもしれないが、それを加味しても単独行動というのは男心が擽られる。

 目を輝かせる湊に、城戸はどこか嬉しそうに笑った。城戸も認めている男が、会ったことのない少年にも憧れを抱かせるのだ。仲間として誇らしさすらある。

 だが、それはそれとして

 

「なぁ父さん!」

「駄目だ」

「まだ何も言ってないけど!?」

 

 息子を危険な目に合わせたいとは思わない。

 

「あちら側に行きたいとでも言い出すつもりだったんだろ? 有吾は忍田よりも強い男だ。中遠距離戦闘の心得もある。集団戦もだ。サバイバル能力も高い。そんな男だから任せられたんだ」

 

 はっきりと言わないといけない。実力不足だと。

 言外に思いも込める。危険なことをするなと。

 

「航向こうに行きたいの?」

 

「ぁ……小南……」

 

 大人に囲まれた生活をしていて、普通の子よりは大人びているとしても、心はやはり少年だ。相応なものだ。カッコイイものには憧れる。惹かれる。真似たくなる。

 だから勢い余って見落としてしまう。できたばかりの彼女のことを。

 

「あたしは──」

 

「いつか行ってみたいなってだけ。すぐじゃないから!」

 

 眉を伏せた彼女を見て冷や汗をかいた。小南にそんな顔をしてほしいわけじゃないから。好きな子の何が一番好きか。悩む人も多いだろう。何個も挙げて一番を決められないと言う人も多いだろう。

 けれど湊航は即答する。断言できる。

 

 ──小南桐絵の笑顔が何よりも好きだ

 

 悲しませたいわけじゃない。

 

「自分の気持ちも織り込むのは、航らしいな」

 

「そういう子だから桐絵ちゃんも惹かれるのかな」

 

「……も?」

 

「ショタじゃないから」

 

 揶揄う風間を九條は小突いた。この場に迅がいればさらにややこしくなったことだろう。

 

「ね、父さん。どうやったらおれが向こうに行くの許可してくれる?」

 

「……はぁ。そうだな、まずは忍田が認める強さになれば、かな」

 

「忍田さん!」

 

「はっはっ、この流れで認めるとでも?」

 

「ガーン!」

 

「航ばかね。あんたなんてまだまだよ」

 

「おれに勝てない子がなんか言ってるな」

 

「なっ! ち、ちがうから! ほんとはあたしの方が強いの!」

 

「えー? 見栄っ張りだな~」

 

「ちーがーうー!」

 

 ぽかぽかと殴る小南を笑いながら受け止めようとして、ぱんちが鼻に当たった湊は涙目になっていた。鼻は熊も弱点なのだから人間も弱い。金は別格だ。

 そんな2人のやり取りを聞いていた青少年組は顔を見合わせていた。実際問題、この2人だとどっちの方が強かっただろうかと。手合わせ自体それほどしないから、余計に判断が難しい。

 

「結構飲み込み早いというか、急成長してるからな航。若者組だと既に上位だし」

 

「航くんは忍田さん見て動き真似るからね」

 

「たしかに。それより小南って戦績振るわないのか?」

 

「あれ? みんな気づいてなかった? 桐絵ちゃん航くん相手だと動き悪いよ」

 

「そうなんですかゆりさん?」

 

 知られてるものだと思っていたゆりは、木崎たち3人の話に驚きながら割り込んでいた。その内容は3人とも知らなかったようで、目を丸めてゆりに視線を集めている。

 

「うん。というか、直視できないって言ったらいいのかな。桐絵ちゃんね、航くんの真剣な顔が好きみたいなの。普段の時でも、長くは目を合わせないんだよ?」

 

「そう言われてみれば……そのような……?」

 

「うーんいまいちそのシーンを思い出せない」

 

「今でもほら」

 

 促されるままに2人を見ると、湊が真っ直ぐに小南を見ていて、小南は落ち着かない様子になっていた。どうやら本当にそうらしい。活発な少女のしおらしい一面に、九條は乙女だなぁと感じている。手鏡を用意した風間は九條に足を踏まれていた。

 

「そうだ2人とも。結婚を前提にってことは、結婚式のことも考えてるのかな?」

 

「けっ……!?」

 

「そ、それはいくらなんでも飛び過ぎじゃないかゆりくん」

 

「でも城戸さん。子どもの成長は早いって言いますし」

 

「君もまだ大人ではないはずだが!?」

 

「結婚できる年になったら結婚しよ。式もあげよう。な、小南!」

 

「わ、航がそう言うなら……」

 

 結婚できる年となると、湊の年齢を考えれば早くてもあと6年。それは当人たちにとって長い期間。大人たちにとっては、そう遠くない未来か。

 

「一番最初にウェディングドレス着るのは桐絵ちゃんになるのかな?」

 

「あたしが!?」

 

「順番はなんにしても、小南なら絶対似合うよ。任せて、おれが世界一幸せにするから!」

 

「そ、そういうのは今言わなくていいから!」

 

「でも年的にはゆりさんとか真都さんの方が先ですよね~」

 

「あははー。相手がいればね~」

 

「そうですね~」

 

 ニヤニヤと笑う湊の視線はそのまま木崎と九條の方へ。2人とも頬を引きつらせており、目が完全に笑っていなかった。

 

「2人がどうかしたの?」

 

「いや別に」

 

「何かあるんだね? 真都ちゃんは知ってるからいいとして、レイジくん気になる人いるの?」

 

「え゛……それは……その……」

 

「あ、今は言いにくいか。今度相談に乗るね! 女の子目線の意見もあったら助けになるだろうし」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「うんうん。これはいいパス出せたな」

 

「いやこれトドメだろ」

 

 こればっかりは風間も同情しているようだ。誰も触れていないが、この男は彼女いるだろうなぁとみんな内心で結論づけている。

 

「そうだ進さん」

 

「ん? どうした?」

 

「結婚式って司会の人いるじゃん? なかうどって言うの? 式あげたらあれやってよ!」

 

「!?」

 

「父さんは父さんだから司会無理でしょ」

 

「そ、そうだな」

 

 頼られなかったことに軽くショックを受けていた城戸は、湊が自分でフォローしたことで持ち直していた。頭の回る息子である。さすが城戸の息子である。

 

「俺でいいのか? 最上さんとか忍田さんとかもいるだろ。桐山さんとか健悟あたりは話聞いたらむしろ立候補するだろうぜ?」

 

「そうなんだけどさー。まぁ、おれにとってはここの人たちみんな家族だからさ」

 

 血縁者はいない。けれど、家族というのは血縁が全てじゃない。そもそも両親だって、血で言えば赤の他人というわけなのだから。

 

「その中でも進さんは家族であり友達でもあるっていうか。なんか違うんだよね」

 

「喜べばいいのか悲しめばいいのか」

 

「お願い! その時が来たらやってほしい!」

 

「断る理由もないけどさ。小南はいいのか?」

 

「知らない人よりは知ってる人のほうがいい」

 

「やれやれ。ひょっとしたら、自分の結婚式より先に結婚式を体験するかもしれないな」

 

「「「いやいやいやいや」」」

 

「彼女がいるなんて言ったことなくね!?」

 

 いなかったとしても、どうせこれからできる。最上のその言葉に全員が頷き、誰からともなく吹き出した。

 ()()()()()()。その橋渡しをする組織『ボーダー』。本日もまた賑やかな1日に包まれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜空に輝く無数の星々。広がり続ける宇宙に散らばる輝きたち。

 その在り方に見立てて、ボーダー最古参の1人空閑有吾は近界(ネイバーフッド)の国々を『惑星国家』と呼称する。

 

 それに(なぞら)えて言うのなら、その日のことを()()()()()()と呼べるのだろう。

 

 

「航……お前はっ、生きろ……!」

 

 

 湊航にとっても、星々(家族)の落ちた日だ。

 

 

 

 

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