結婚を前提に付き合ってください!!   作:粗茶Returnees

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 なる早の予定が遅くなりました。そして長くなりました。(大規模侵攻をお題にしたらね……。端折ったりはしたんですけどね)
 分けたほうがいいかなと思いはしたけど、分けなくていいってハムスターが言ってたからこのまま投げます!


隣りに立つということ

 

 喧嘩はよくした。何十回もして、同じ数だけ仲直りした。だからお互いの線引きが、子供ながらにうまくできるようになってたと思う。どれぐらいならセーフで、どこからがアウトなのか。

 酷い喧嘩をした時は、「いなくなっちゃえばいいのに」なんて思ったこともある。城戸さんがどこからか引き取ってきた子。

 細かいことをあたしは聞かされなかった。どういう事情で、城戸さんと親子になったのか。聞いても当たり障りのないことだけ。事情を知っている人から気にかけられたりしてて、たぶんそれに変に嫉妬してた。

 特別扱いされてるように見えてたから。

 

 あたしは航のことを知らなかった。

 ボーダーに来る前のことも、こっちに帰ってくるまでのことも。

 

 知らなくても大丈夫な気がしてたから。

 航が隣りにいるという事実。あたしと付き合っていて、結婚の約束もしてるという事実。あたしが航のことを好きで、航もあたしを好きでいてくれている事実。

 

 事実で固めて、これから(明るい未来)を期待して。

 

 

『それって本当に彼氏のこと好きなの?』

 

 好きよ。誰よりも好き。

 

『好きな人のことって、普通は何でも知りたくなるでしょ?』

 

 だって航が辛そうにするから……!!

 本人が話したくないことを聞き出すなんて。……航が相手だとなおさら……。

 

『もう一回聞くよ? 小南ちゃんは本当にその子のこと好きなの?』

 

 あたしは……──。

 

 

 

 

 

「小南さん」

 

 声をかけられたことで、小南は思考の沼から浮き上がる。声をかけたのは、ボーダーのB級部隊の1つを率いる那須怜。2人は同じ学校に通い、今年はクラスまで一緒である。

 小南は学校では一応猫を被っており、本当はボーダー最上位に位置する攻撃手(アタッカー)であるところを、オペレーターと言って誤魔化している。那須もそれに口裏を合わせているし、普段はあまり話すこともない。

 

 そんな彼女が声をかけてきたのは、つい先程から近界民(ネイバー)の大攻勢が始まったからだ。

 迅によりそれが起きる事は予知され、訓練生であるC級隊員にまで話が通っている。実際に戦うの正隊員であるB級以上の隊員。木崎から迎えに行くと連絡を受けた小南は、校門前でそれを待っている状態だ。

 

「どうしたの? B級は部隊員が揃わない限り待機って指示みたいだけど」

 

 遠回しに「ついて来るなよ」と釘を刺す。言葉にちょっと圧があるのは、那須と湊の関係が良好だからか。

 

「……ええ。けれど、それに当てはまらない人がいるでしょ?」

 

「っ! まさか──」

 

「──小南」

 

 口実にすらならないものを使うつもりなのか。そう言おうとした小南の声は、風に乗って聞こえてきた声に重ねられた。

 噂をすればなんとやら。当の本人の登場である。

 木崎が運転する車。その荷台に湊航がいる。

 

「あれ、那須もいんじゃん。久しぶり」

 

「久しぶりだね湊くん。また介入する気?」

 

 声をかけながら湊が荷台から降り、小南が入れ替わるように荷台に上がる。すぐにでも出発したい木崎は、助手席にいる烏丸に湊を置いていくか相談を始めた。

 

「この規模だし。首を突っ込んだ方が良さそうだから。……那須は待機だろ?」

 

 口実にしようとした相手からも制された。

 何か言い返そうとして、その言葉はぐっと胸のうちに仕舞い込む。

 

「私は……湊くんの力になれないかな……?」

 

 射手(シューター)としての実力は高い。細かな設定によって脅威度を増す変化弾(バイパー)を、リアルタイムで毎回設定するのは、A級1位に所属する出水と湊。そして彼女くらいだ。

 那須は射手でマスタークラスへの到達も果たしている。それは決して、他人の足手まといにはならないという証。たしかな実力の証なのだ。 

 

 それなのに、説得力の薄いものとはいえ、口実を使っての参戦はできないのか。彼の助けになることが、できないのか。

 彼を見る目が揺らぐ。握っている拳が冬なのに汗ばむ。

 その彼女に、湊は視線を外さず、言葉を選ぶように重く口を開いた。

 

「那須には……無理してほしくない」

 

「無理? トリオン体ならそんなの関係な──」

「ないなんて言えないだろ」

「っ!」

 

 言葉が詰まる。

 そうだ。彼は知っているのだ。たとえトリオン体であろうと、戦闘の内容次第では消耗が激しいことを。体の弱い那須が、ランク戦で激戦をこなした後に体調を崩したことがあることも。

 ボーダーに入る時に相談した。入ってからも何度も相談している。だから彼は那須怜のことをよく知っている。

 

「この規模の侵攻(戦争)だ。向こうは遠征艇で来るから補給がない。これだけトリオン兵を出してるなら長期戦にはならないけど、その分濃い戦いになる。完全撤退させるまで戦うことになるし、数自体はこちら側が劣ってる。1人1人の負担は当然デカイんだ」

 

「でもこっちには緊急脱出(ベイルアウト)がある」

 

「うまくできたらいいけど、なまじ強いと生き残るから。……結局那須の負担はデカイんだよ。……ここにいてくれ」

 

 実力は認めている。だからこそ、余計に彼女を連れて行くわけにはいかない。

 

「……っ。…………わかった」

 

「それじゃ──」

 

「せめて!」

 

「?」

 

「せめて、小夜ちゃんの援護は受けて……」

 

 小夜ちゃんとは、那須隊のオペレーターこと志岐小夜子のことである。極度なまでに男性が苦手で、先日の一件で湊のオペレーターをした彼女である。本人はもうやらないと決めていたようだが。

 

「……志岐が納得したら」

 

「うん。湊くん、気をつけてね」

 

「ありがとう、那須」

 

 少し話が長くなってしまったが、これで湊たちは戦場に迎える。湊が荷台に乗り込むのを確認すると、木崎が車を発進。

 緊急事態だ。他に車が走っているわけもなく、それをいいことに木崎は飛ばした。

 ちなみに那須から頼まれた志岐は、電話を切った後に熊谷に電話で泣きついたらしい。

 

 

 

 

「はぁ……。あのばか」

 

「いいんですかレイジさん? 航さん1人で先行しましたけど」

 

「言って止まる奴じゃない。それに、必要だからそうしたんだろ」

 

 車の中で、愚痴る小南に続くように烏丸と木崎が言葉を交わす。話題は単独先行した湊のことだ。

 湊は初めは小南と並んで荷台に座っていた。落ち着かない様子で立っていた小南に、「立ってたら風でスカート捲れるぞ」と言って座らせたのだ。それが今も効いていて、小南は脚を抱えるようにしてスカートを抑えている。

 

 湊が飛び出したのは、宇佐美から現状を聞いたからだ。トリオン兵の動き、新型の出現。ボーダーの対応。そして後輩たちの動き。

 それらを聞いた湊は立ち上がり、小南たちが止める間もなくトリオン体へと換装して車から飛び出したのだ。

 車は決して遅くない。木崎たちがトリオン体ではなく車で移動しているのも、いくらトリオン体であろうと車の速度には勝てないからだ。少なくとも、今もそれぐらいの速度で走らせている。

 だというのに、それは湊にとって遅い。

 彼が持つトリガーは、速度を高める機能もあるのだ。木崎たちも詳しくは知らない。()()()()()()()()()()()

 

「いつ、話してくれるのかしらね」

 

 遠く離れていく景色を見ながら溢した小南に、木崎たちは返す言葉を持っていない。

 静かにアクセルをさらに踏み込み、少し煩くなったエンジンが返事となった。

 

 

 

 

 

 

 C級隊員たちは、護身用としてトリガーの起動を許可されている。生身よりもトリオン体の方が身体能力も高くなることから、逃げ遅れた避難民の救助もしやすい。

 ボーダーを中心に、それぞれの方角でC級隊員たちが避難の援護をするのだが、例外もある。S級隊員の1人、天羽が受け持つ方角は誰も行かない。天羽の破壊力が高過ぎることから、巻き込まれかねないのである。

 もう1つの例外は、トリオン兵が向かわない方角。そちらは当然ながら被害が発生しない場所だ。従って、C級隊員たちは本部の東側、南側、南西側で避難の援護を行う。

 

 そのうちの一つ、南西側には玉狛支部に所属している雨取千佳がいた。ボーダーの扱いではまだC級である空閑遊真は、その戦闘能力の高さから例外として、トリオン兵との交戦を許可されている。事後承諾だが。

 

「出穂ちゃん手伝って」

 

「よしきた! せーのでいくよ。せーのっ!」

 

 トリオン体とはいえ、1人の限度だってある。雨取は1人では無茶せず、友人の夏目出穂に手を貸して貰い、壊れたドアの向こう側にいた少年を助け出した。

 

「おねーちゃんたちありがとう!」

 

「どういたしまして。お兄さんこの子をお願いします!」

 

「あ、ああ!」

 

 避難が遅れている人は少年だけではない。夏目は近くにいた大学生くらいの男性に、今助けた少年を預けた。他にもまだいるかもしれないから、付きっきりで避難場所まで誘導するのは難しいのだ。

 それぐらいの事情は察せられる男性も、少年の手を握って避難場所へと向かって行った。途中から肩車したのは、その方が早いと判断したのと、少年の不安を少しでも減らすためか。

 

「チカ子! こっちに女の子と犬!」

 

「猫の次は犬?」

 

「アタシは動物ホイホイじゃないわよ!?」

 

 頭に猫を乗せている状態で言われても説得力がない。雨取は少し頬を緩め、夏目の手伝いをしようとそちらに足を向けた。

 そのタイミングで、南西方向に進んでいたトリオン兵が姿を現す。現在、B級隊員たちは1カ所に集まり、合同でトリオン兵を潰している。その優先順位は避難の遅れた方角から。そしてそれは南側であり、比較的避難が進んでいた南西と東は後回しにされている。

 といっても、東側にはA級3位の風間隊がおり、南西側にも遅れて到着したA級5位の嵐山隊がいる。

 それぞれ奮戦しているものの、さすがに一部隊では捌き切れる数ではないことと、新型の相手もしていたことで一部のトリオン兵がこうして警戒区域を突破してきたのだ。

 

「うっそ!? もう来たの!?」

 

「逃げ遅れた方は急いで地下堂(シェルター)へ!!」

 

 女の子と犬を抱えて走りながら夏目が驚愕し、雨取も目を見開きつつ市民へと指示を飛ばした。存外肝が座っているらしい。

 

「酉の陣 輝く鳥(ヴィゾフニル)

 

 すぐに対応できたのは、雨取だけではなかった。C級の中でも有望株な3人組が、見事な連携で即座にトリオン兵を撃墜している。

 C級隊員は訓練生であり、彼らがボーダー内で行う訓練は個人スキルを磨くものだけ。本来連携はそれ以降、つまりB級に上がってチームを組んでから身につくものなのだ。

 しかし彼らはC級の身でありながらそれを行っている。C級隊員のトリガーは、訓練用として1つのものしかセットできない。攻撃手なら、孤月、スコーピオン、レイガスト。その中から1つだけ使える、といった具合だ。

 空閑に三馬鹿と称されている彼らだが、2人が射手として弾を打ち込み、その軌道に被らないように動きながら、1人が孤月で斬撃を入れ込んだのだ。決して悪くない動きである。

 

「C級隊員は戦闘禁止なんて言ってる場合じゃねーだろ」

 

 リーダー格の少年がカッコつけながら言う。無難にカッコよかったシーンでもあり、その判断も的確なものだ。しかしカッコつけている場合ではない。

 

──ガコッ

 

 3人が倒したトリオン兵の頭の部分から……開閉するから口かもしれないが……そこから新たなトリオン兵が現れた。

 

「「「……え?」」」

 

 3mほどの大きさ。二足歩行。ウサギのように長い耳も持つトリオン兵。新型トリオン兵である。

 

「何かやばい感じしね……?」

 

「……あ、ああ……。オレの歴戦の勘もそう告げ──」

 

 3人が固まっている間にも、新型のそれは砲撃の準備を進めている。開いた"口"には、トリオン兵の弱点である核があり、そこでエネルギーが溜められている。

 三馬鹿は避けるために射線から飛び退く。

 

 入れ替わるように、1つの影が射線上を通過して新型トリオン兵の核を穿いた。

 

「大丈夫か? 千佳」

 

 何が起きたのか。その場にいた全員の理解が追いつかなかった。

 新型が出てきて、砲撃されると思った次の瞬間には、この場にいなかった男がそれを破壊していたのだから。

 声をかけられた千佳がハッとなってその男を見る。正式入隊日に顔合わせをした支部先輩だ。

 

「航さん……!」

 

「無事みたいだな。よかった」

 

 雨取以外誰もその人を知らない。湊のトリオン体は、ボーダーのものでもないのだから余計に混乱を招く。それでもパニックにならないのは、雨取が湊のことを知っているからだ。

 

「チカ子の知り合い?」

 

「うん。玉狛支部の先輩で、湊航さん」

 

「ほぇー。あ、初めましてチカ子の友だちの夏目出穂っす」

 

「初めまして」

 

 誰だかうまく飲み込めないが、一瞬で新型を破壊できる先輩が来た。その事実がC級隊員たちに心の余裕を生ませた。

 

「あれ、湊先輩?」

 

「あ、修くん!」

 

「メガネ先輩!」

 

「修と木虎も来たか」

 

「……なんでここにいるんですか? ……やっぱいいです予想つきます」

 

 湊がこの場にいる理由は単純明快。ここに雨取がいて、ボーダーの戦闘員がここにいないから。それだけである。

 

「湊先輩がいるなら一安心ですね」

 

「そうでもないぞ」

 

「え?」

 

 三雲に諸々を話す前に、湊は雨取に避難の進み具合を聞いた。それ次第で対応を変えざるを得ないから。

 

「えと、避難はほぼ全員終わってると思います。少なくともこの周辺は大丈夫です」

 

「それはよかった。偉いぞ千佳」

 

「ありがとうございます!」

 

「……あなたの先輩身内に甘すぎない?」

 

「……千佳には、かな」

 

「あなたも大変ね」

 

 十分実力のある空閑を甘やかすことはないし、トリオン量も運動能力もギリギリな三雲も甘やかされたことはない。厳しくも優しい。そういう対応をされている。

 実は三雲も知らないだけで、狙撃の練習の時は雨取にも厳しかったりする。

 

「丁寧に説明する時間もないから簡潔に話すぞ」

 

 全員を見渡しながら湊が言う。それは誰も聞き逃すなと言外に込められており、誰もが湊に視線を向けた。

 

「C級隊員はこれから本部の方に向かって走れ。その方が味方の援護も受けやすい」

 

「市民の救助は?」

 

 そこに反応したのは、ボーダーの顔である嵐山隊の木虎だ。避難がほぼ完了しているとしても、他の場所がそうとは限らない。助けを求めている市民だっているだろう。

 それを見捨てるような発言を、木虎は許容できなかった。

 

「自分の命と他人の命、お前はどっちを優先する気だ?」

 

「……どういうことですか?」

 

「お前や三雲。戦闘員たちは緊急脱出がある。だがC級にはない。新型の話は聞いたな? トリガー使いを捕らえるためのトリオン兵だと」

 

「……っ! まさか……!」

 

 湊の言おうとしていることに三雲が気づき、冷や汗をかいた。

 

「敵の狙いはC級隊員だ。緊急脱出がないし実力も低い。敵からしたら狙いやすいだろ?」

 

 湊の話は信憑性が高かった。説得力が高かった。それを否定する材料がどこにもない。

 なにせ、ボーダーの入隊基準の1つにトリオン量がある。三雲は例外なだけで、普通は一定量以上ないと、ボーダーの戦闘員として入隊することはできない。オペレーターやエンジニアなど、裏方は別だが。

 要はC級隊員は、敵からすれば「確定でトリオン持ちの相手であり、苦労なく乱獲できる相手」である。

 それは明確な恐怖だった。自分の命が危ないのだと説明されたのだから。そしてC級隊員たちは若いものが多い。中学生あたりが多い。

 

 パニックに陥る前に、湊が上空へと1発弾を撃つ。一度起きた狂乱が、いかに鎮めにくいかよく知っているから。

 たとえ針の一刺しでそれになるのだとしても、張り詰めた空気を保たせる方が統率を取りやすい。

 

「木虎と三雲がC級隊員を援護。本部に連れてけ」

 

「勝手な指示を……!」

 

『いや木虎。彼の言う通りにしてくれ』

 

「なっ!? 本部長!?」

 

 通信越しに忍田が木虎を説得する。渋々湊のオペレーターをすることにした志岐が、彼の指示で自分の音声を本部に届けさせていたから。

 湊の仮説に、本部側もその可能性が高いと納得している。敵の意図を読めなかったのに、それしかないと思わせられたから。それの根拠が直感だと言うのだから、策を練る相手には笑えない相手だ。天敵とすら言える。

 

「……分かりました。C級隊員を連れて本部に向かいます」

 

「あ、そうだ。俺が来る前にトリオン兵潰した3人はどこだ?」

 

「オレらっす」

 

 リーダー格が甲田。ニット帽をしているのが丙。そばかす少年が早乙女である。長い自己紹介が始まりそうだったのを先んじてぶった斬り、湊は簡潔に名前だけ言わせた。

 

「面倒だ。トリオでいいだろ」

 

「自己紹介の意味!」

 

「お前らは殿やれ。この中で見込みあるのはお前らだからな。修も後ろやれよ。先導は木虎だ」

 

「湊先輩は?」

 

「おれは──」

 

 1拍空いたタイミングで、新たな門が開いてトリオン兵が現れる。敵が来ると分かっていて、そうしたのかもしれない。

 

「──こいつらの相手をする。早く行け!」

 

 現れたトリオン兵は、今回の大規模侵攻を仕掛けてきたアフトクラトルの新型トリオン兵ラービット。それが3体同時に現れ、湊は振り返りながら最も近かった1体を早速両断した。

 こうやるほうが、なんとなくカッコイイ気がして。

 

 

 

 

 

 近界民が他国や玄界に攻勢を仕掛ける時、必ず遠征艇を用いる。そうしなければ自国外に出ることができないからだ。そしてそれは、決まった戦力で攻勢を仕掛けるということ。情報がなければ無用に戦力を減らすだけになり、作戦が失敗に終わる。

 それ故に、敵は必ず情報収集から始め、集めた情報をもとに敵の戦力を仮定。その上で有効な手を考え、作戦を始める。

 近界民にとって、策の内容は何よりも重たいものだ。補給を待っての再挑戦などできない。だからこそ、指揮官には知略に長けた者が座ることになる。アフトクラトルの場合、家柄の関係もあって家長が指揮官になるが。

 

 その隊長ことハイレインは、遠征艇の中でミラの報告を受けて眉を顰めた。

 他のトリオン兵の中から起動したラービットも、雛鳥(C級隊員)を捕らえるために放ったラービットも、即座に破壊されているからだ。

 映像を送ってくるトリオン兵ことバドが映すのは、1分かからずに破壊された3体のラービットとその残骸に目もくれない戦闘員。隻眼の少年が、映像を送っているバドに目を向け、数秒後にはそれを撃ち抜いた。

 

「これは強敵が出てきたな」

 

「オレに行かせろハイレイン!」

 

 楽しそうにランバネインが言い、好戦的な意見をエネドラが言う。強敵との戦いはどちらも望むところ。他の兵士でもちらほらと腕の良い兵士はいたが、彼らが観測した中では隻眼の少年が一番楽しめそうな相手のようだ。

 ハイレインは一度目を伏せ、意見を求めるように歴戦の老兵たるヴィザを見た。

 

「ラービットを放つ前に雛鳥を避難させようとしていましたな。それはつまり、こちらの狙いが雛鳥にあると読まれていることになります」

 

「真っ先にそうしたのは隻眼のいたところです。その後他の雛鳥たちも動きに変化が見られます」

 

 避難誘導の必要がまだあるかどうか。それで対応が変わっているらしい。ミラの報告にヴィザは頷き、言葉を続ける。

 

「彼ほどの強者が現れた後に、他の兵士が到着しております。系統が違うのかもしれませんが、どちらにせよ彼は()()()()()()()()()()()

 

 アフトクラトルの面々は隻眼の少年の行動原理を知らない。だからこそ、起こった事実と持っている情報から逆算するしかない。

 そしてそれは、奇しくも正解を引き当てることになる。

 

「読んだ相手がそこに来たのは理由があったからと安直に考えましょう。彼の若さも考慮すればそれで構わない」

 

「つまり?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「っ!!」」

 

「そう思わせての釣りかもしれませんがね」

 

 キレ者ならそうすると締めたヴィザに、隊長であるハイレインは熟考する。誰よりも戦場を知り、誰よりも策を知る歴戦の猛者がヴィザだ。単独で城すら攻略する男だ。

 その経験は戦いの歴史。それに基づいた予測は予知に近い。

 指揮官ではないという理由で、従順に指示に従うヴィザだが、この規模の侵攻で指揮官を担ってもおかしくはないのだ。

 そんな猛者の言葉に、ハイレインは瞬時に再計算してから指示を出した。

 

「ランバネイン、エネドラ。お前たちは予定通り玄界の兵の相手をしろ」

 

「アァ? 隻眼の相手させろよ」

 

「それはヴィザとヒュースにやらせる」

 

「チッ」

 

 釣りであったとしても、それほど鋭い手を打てる上に実力の高い隻眼を放置するわけにもいかない。エネドラの使う泥の王(ボルボロス)なら相性もいいかもしれないが、相手の手の内はまだ見えていないのだ。盤石な手を打とうとするとヴィザ以外に的確な将がいない。

 

「ミラ。南西にいる雛鳥たちは常に監視しろ。他からバドを回しても構わない。隻眼と十分に距離を開けさせてからラービットを送り込む」

 

「了解」

 

 ランバネインとエネドラが先行してそれぞれ戦場に送り込まれる。ランバネインは南側のB級合同部隊の位置。エネドラは東側の風間隊に向けて。

 ヒュースとヴィザも南西へと向かうのだが、立ち上がったまま止まるヴィザにヒュースも足を止めた。

 

「ヴィザ?」

 

「ハイレイン殿。まだ確証はありませんが、隻眼の少年。彼はかつて()()()にいた『黒雷』かもしれません」

 

「……!」

 

 直接対峙したことはないが、その異名と戦果はアフトクラトルにまで届いていた。どんな戦況であろうと、戦場に姿を現せば瞬く間に勝利をもぎ取る男がいると。

 ぷつりとそれが途切れたことから、戦死したのだろうと言われていたのだが。

 

「……そうか。生きていたか」

 

 戦場ならどれほど高名だろうとあっさり命を落とすこともある。

 しかし、ひょっとするとまだ生きていたのかもしれない。ハイレインは深く考え込みながら、ヴィザを送り出した。

 

「そうなのであれば、やはりヴィザが相手をする他ないな」

 

 

 

 

 

 新たな敵が現れる。近くに潜んでいたラッドは全て破壊した。門を作らせなければ、敵はC級を最短最速で追うことができなくなるから。それなのに黒穴から2人現れた。アフトクラトルにその技術があるのか、あるいは黒トリガーか。

 湊は後者の可能性を考え、志岐に報告を頼む。

 

[志岐。忍田さんに報告して。敵はラッド以外でも門を作れる。黒トリガーの可能性有りって]

 

[黒トリガー……。分かりました]

 

 空中に作られた門から現れた2人は、重力に従って地面に着地する。一見その瞬間を狙えそうなものだが、それを誘っていると察して湊は着地を見送った。

 角付きの若い方がヒュース。老人の方がヴィザ。湊の知るところではないが、どちらも強敵だ。

 

「お初にお目にかかります。あなたには私の相手をしていただきますよ」

 

「悪いけど介護いらずの爺さんに付き合うほど、若者は多くなくてね」

 

「おや? 玄界は民が多いと思っていたのですが、戦争でもされているのですかな」

 

「仕掛けてきてるそちらが言うか……。いや、少子高齢化でね。この国の人口を年代別で分けると、老人が多過ぎるんだ」

 

「出産数の問題、といったところですか。ふむ、他にも問題は絡んでそうだ」

 

「ヴィザ翁」

 

「これは失敬。面白い話でしたもので」

 

 敵国の内情など知らなくとも、十分な戦力があれば目的を達成することはできる。それ故に知る必要もないことなのだが、玄界は他国と事情が違う。トリオン無しで生活できるなど、近界民の誰が知るだろうか。

 近界民が玄界に興味を持ちやすくなるのは、無理からぬことではあった。ヴィザほどの猛者なら、戦争中だろうと余裕を持っているからなおさらに。

 

「ヴィザ…………アフトクラトルの老兵か」

 

「はて、私も有名になったものですな」

 

「師が話していたからな」

 

 玄界がトリオン技術を急速に発展させたのはここ数年。近界の技術を少しずつ手に入れているとしても、一度に入手できる情報は決して多くない。

 それなのに、湊はヴィザのことを人伝いに知っている。それは、ヴィザが確信を得るのに十分だった。

 

「……なるほど。やはり貴殿は『黒雷』と称された戦士のようだ」

 

「なんかそう呼ばれてたようで」

 

 否定はしない。する理由もない。

 

「稲妻の如く戦場を駆け抜け、効果的に戦果を出し続けた少年。『白き雷槍』が唯一育て上げた戦士。死んだとばかり言われておりましたが、玄界におられましたか」

 

「元々こっちの人間だし、帰れる時に帰っただけだよ。……うちの師は元気か?」

 

「死にましたよ」

 

「!」

 

「私より老齢な方でしたし、驚くことでもありますまい」

 

 むしろ80近くで戦場を駆け回っていたほうがおかしな話だ。不滅とさえ言われ、実は人間じゃないとすら言われていた老婆。殺しても死なないと湊も思っていたが、やはり人間でぽっくり逝くものらしい。

 老婆は湊に全てを叩き込み、彼が最大限戦えるように、意志を貫けるように専用トリガーも製作した。

 1年にも満たない期間しか共に過ごさなかったが、あれほど濃厚な1年弱もないと湊は強烈に覚えている。

 彼が近界で黒雷と呼ばれるのも、白き雷槍と呼ばれた師匠と彼の髪色から来た呼び方だ。その老婆の存在は、今の湊を形成させたと言っても過言ではない。

 

「……国は?」

 

「そこまでは。我々が攻め落としたわけでも、ましてや殺したわけでもありませんので」

 

「そっか」

 

 心残りは、1つだけ。

 過ごした国はどうでもいいが、鍛えるだけ鍛えて、玄界に送り込んでくれた師匠に言えなかった感謝。

 それを言う機会はもう訪れない。

 

 湊の目的は2人をここで足止めすること。ヴィザたちの目的も、湊を他の戦場に向かわせないこと。欲を言えば、彼を倒すことも目的だ。

 互いの目的がそれで、膠着が続くのかと思われたその時。

 湊がおいて来た木崎たちが到着する。

 

「角付きね」

 

「黒じゃないってことは、黒トリガーではないですね」

 

「挟まれましたか。ヒュース殿」

 

「はい。蝶の楯(ランビリス)起動」

 

 ヒュースがトリガーを起動し、自身とヴィザを浮かせて湊の背後へと移動する。彼らはラービットに仕事をさせればいいのだ。自身たちの後方に雛鳥たちがいるという構図を作った方がこの場をコントロールしやすい。

 それをさせまいと全員がそれぞれ中距離用のトリガーを起動させるも、ヒュースのトリガーによって防がれる。さらには、小南のメテオラの爆破を利用し、移動を加速させた。

 

「案外頭が回る相手ね」

 

 湊と烏丸が変化弾でヒュースの楯を広げさせ、木崎の弾と合わせて威力の高いメテオラでそれを突破してダメージを入れる。そうするつもりだったのだが、楯と自身の距離を調整することで、爆破のダメージを最低限にされた。

 湊がヒュースたちから目を逸らし、木崎を見る。玉狛支部の部隊は、現在はまだ木崎たちだけだ。木崎と小南と烏丸。オペレーターの宇佐美。この4人の部隊しかなく、指揮する立場にいるのは木崎だ。それを理解した上で、指示を出そうと思って湊は木崎を見る。一応の断りを入れる。

 無言で頷き、許可する。湊のサイドエフェクトを知っているから。

 

「レイジさんは修たちの援護。切り札は使わずに、1秒でも長く戦場にいること」

 

「ああ」

 

「小南もそっちに行って」

 

「……」

 

 返事はしない。理解はしていても納得できないから。

 

「京介は嵐山隊が対応しきれてないトリオン兵の排除」

 

「トリオン兵っすか」

 

「方角。このまま行かせるわけにもいかんだろ」

 

「? ……、…………っ! そうっすね」

 

 もし防衛が後手にまわり続けたら。トリオン兵たちの向かう先が自身の家がある方向だ。避難はしていると思うが、年の離れた弟たちと過ごす家だ。守らなければならない。

 

「感謝します」

 

「サクッと片付けたら修たちの援護な」

 

「了解」

 

 烏丸が戦線を離脱しながら宇佐美にデータを貰う。嵐山隊の位置と南西部にいるトリオン兵の位置。それを貰うと、最も進行しているトリオン兵目掛けて走り出した。

 

「1人減るのはありがたい。彼もまた強者の1人のようでしたからな」

 

「あなたに勝つのが目的ではない。取れる手を取るだけだ」

 

「ほっほっ。これは手強い」

 

 ヴィザが後方の気配を探る。わかる範囲には雛鳥がいない。道を途中で変えはするだろう。逃げる時に敵の視界から外れるのは有効な手だ。

 もうしばらく時間を稼げば、ラービットが投入される手筈となっている。

 

「では我々も、取れる手を取らせていただきましょう」

 

 ヒュースが蝶の楯(ランビリス)を操作する。黒く小さな破片が無数に集まっているのがこのトリガーの特徴であり、組み合わせ次第で攻撃手段が変わる。それを操作するトリガー技術と応用をきかせる発想力が求められる代物。

 それをヒュースは自在に操る。それはつまり、彼がそれだけの力量を持っていることの証左だ。

 

「足を止めさせます」

 

「いいでしょう」

 

 湊が通信ではなく口頭で指示を出したのは、ヴィザたちを揺さぶるためだ。狙いをわざと明かせば、相手はそれを警戒しないといけない。

 

 第一の目標はここを突破させない(突破する)こと。

 互いの狙いを明確にさせ──

 

「戦闘開始だ」

 

 ──戦いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

 

 

 

 基地東部の戦況は、多数のトリオン兵を風間隊が一手で担う状況になっている。負担は大きいが、早めに現着できたことでまだトリオン兵は警戒区域を出ていない。市街地や市民への被害を防げている。

 それでいて新型のラービットもスムーズに倒していくのだから、彼らの実力の高さが窺える。

 そんな風間隊の前に姿を現したのが、黒トリガーを使用するエネドラだ。

 

「チッ、ガキばっかじゃねェか。……まぁいい。片付けてから隻眼の方に行きゃあ文句もねェだろ」

 

[隻眼って、湊先輩のことですかね]

 

[だろうな]

 

[この規模だと出てくるんだ。関係ないとか言ってそうなのに]

 

[湊は第一次侵攻でも参加している。当時の未成年の中では撃破数最多だ]

 

[……]

 

 湊のことを風間が擁護しているようにも聞こえるが、そうではないと菊地原も理解している。実像からズレたイメージを修正させているだけだ。

 それでも、少し湊のことを気にかけている気配があるが。

 

[下です]

 

 人の情報源は視覚が多くを占める。人間にとって、視覚情報こそ信憑性の高いものだ。百聞は一見に如かずという諺があるのも、そういうことだ。

 しかし菊地原はそれだけには頼らない。彼のサイドエフェクトは聴覚強化。一般人よりも耳がいいというだけの力だが、それは決して侮れるものではない。視覚外であろうとも、音さえ聞えればそれに対応できるからだ。

 

 現に今も、エネドラが仕掛けた視覚外の攻撃にも気づいた。床のひび割れから飛び出すブレードをあっさりと全員が躱す。

 

[こういう性格(タイプ)か]

 

[機能はまだあるかもしれません]

 

[三上?]

 

 相手の性格とトリガーの機能が見れた。それを前提に手を打とうと構える風間たちに、オペレーターの三上から制止の声が入る。

 菊地原のサイドエフェクトを頼りにエネドラの攻撃を躱し続ける風間たちは、珍しく進言してくる三上の話を聞いた。

 

[黒トリガーはワンオフのものですが、1面だけを見せることで相手をミスリードさせることもできる、そうです]

 

[……そうだな]

 

 風刃を使う迅がまさにそうだった。手の内を隠していた。

 口が悪く残虐な性格が滲み出ているこの敵だが、狡猾さもあることはすぐに分かった。それならば、この敵もまた手の内をまだ隠しているかもしれない。

 誰の入れ知恵かを考えるまでもない。三上は先日湊と会っている。長く、多くのことを話したのだろう。夜遅くに彼に送ってもらって帰宅したらしい。その話の中で、おそらくは湊が話した。知識は身を守ることに役立つから。

 

[やることはいつも通りだ。相手の手の内を引き出し、分析し、落とす]

 

[[了解]]

 

[三上、菊地原の聴覚をリンクさせろ]

 

[わかりました]

 

[はぁ。疲れるからイヤなんですけどね]

 

 ボーダーの戦闘部隊は、部隊単位での行動を前提とする。黒トリガーを使うS級や単独での行動を許される戦闘力を持つ例外を除いて。

 部隊には必ずオペレーターがおり、その存在は決して軽んじることはできない。情報の分析や戦闘員の援護などを一手に担う。縁の下の力持ちだ。

 例えば、風間隊は姿を消せるカメレオンを使っての戦闘を行う。それは視覚から消えるが、レーダーからは消えない。それを常に見ていられるオペレーターには相手の位置が分かる。逆に言えば、オペレーターがいなければ相手はなすすべ無く奇襲を受けて負けるわけだ。

 他にも暗視やら何やらあるのだが、この風間隊の特徴の1つが、この聴覚共有だ。聴覚強化のサイドエフェクトを持つ菊地原とリンクすることで、その恩恵を受けられる。

 

[敵の黒トリガーは液体をブレードに変えられるといったところですかね]

 

[見える範囲ではな]

 

 黒トリガーはワンオフであるからこそ、通常のトリガーではできないことを行える。液体からのブレードというだけで、その点をクリアしていると言えるが、それだけでは敵の余裕な態度と釣り合うと思えない。

 玩具をもらってはしゃぐお子様ならあり得るが、遠征で来ている相手だ。精鋭の1人と見る方が正しい。

 

[三上の懸念通り、他の機能がありそうだ]

 

[避けるだけじゃ分析の限界もありますよ]

 

[かと言って下手に近づくわけにもいかないだろ]

 

 疲れるから手早く済ませられたらなと本音を語る菊地原を、手堅く進めるべきだと歌川が諌める。彼もまた「聴覚共有は酔いそうになる」と言って好まないのだが。

 

[このまま続けるぞ。相手をイラつかせる]

 

(とか考えんだろうなこの猿共は)

 

 なかなか踏み込んでこない風間隊の狙いぐらい、エネドラも読み取れる。床を破壊し、建物内に相手を入れることで有利な状況は作った。床、壁、残っている天井。四方から敵を狙える状態だ。

 それにも拘わらず、風間隊に一切の攻撃が当たらない。

 

(音か振動か)

 

 目だけに頼っているわけではない。それで完全に避けられるほど、泥の王(ボルボロス)は甘くない。

 ならば答えはそのどちらかだ。察知する手段がそのどちらかしかないのだから。

 フェイントを混ぜることにした。

 液体をブレードに変えるとき、音も振動も発生する。これまでそれで察知していたというのなら、敵に当てる気もない箇所でも同じ音を発生させればいい。絞り込ませなければいいのだから。

 

[さすがに気づくか]

 

[原始人レベルですね]

 

 エネドラの誤算は、菊地原の能力の真価を見誤ったことだ。彼は幼少期から無意識の内にサイドエフェクトを使っていた。その力との付き合いの長さは、彼の過ごした日々の長さと言ってもいい。

 そしてそれは、音による分析すら可能とさせる。音の響き方から、ラービットの装甲の薄い箇所を炙り出したように。エネドラのフェイントも聞き分けて本命を見つけ出す。

 

[右上と左の上下。それ以外は無視してください]

 

 その指示通り、エネドラはその場所からブレードを伸ばした。彼らからすれば見えている攻撃。当たる通りもなく、それはエネドラのイラつきを加速させた。

 

「あ~~もうめんどくせぇ! 雑魚に付き合うのはここまでだ!!」

 

 エネドラ自身の狙いとしては、一番戦い甲斐のある人物と戦いたかった。それをハイレインによって阻まれたからこの場にいる。堅実に1手ずつ打っていくハイレインにとって、ラービットを素早く倒せる敵は極力摘んでいきたいからだ。

 隊長の命だ。それくらいはやる。

 ここを片付けて、狙いの戦場に向かいたい。

 

「フルパワーで八つ裂きにしてやるよ!!」

 

 遠慮などない。敵の四方からの大量のブレードを発生させる。

 天井、壁、床。無論前方からも。

 それは互いの視界を大いに阻むほどの数だった。彼らが戦闘していたフロアが耐えられず、残っていた天井や壁が崩壊。再度床が抜かれて風間隊が1つ下の階に落ちる。

 

「生意気にも凌いだか」

 

通常弾(アステロイド)

 

「あァ?」

 

 下の階にいる風間隊を確認した瞬間、歌川の放った複数の弾丸がエネドラの体を貫いた。通常なら大量にトリオンが漏れる一撃。

 しかしエネドラには一切のダメージがない。

 

「今のは……」

 

[下がるぞ。こいつのトリガーの性能は把握した。俺たちのトリガー構成では相性が悪い]

 

[1発どうにかかませないですかね]

 

 片腕落とされた分のお返しがしたいらしい。そう言う菊地原だったが、風間に従ってカメレオンを使っている。

 

[こいつを倒せばこの侵攻が止まるわけでもない]

 

[相手している間にトリオン兵に進まれましたしね]

 

[そういうことだ]

 

 カメレオンは敵の視界から姿を消せるステルストリガーだ。レーダーで見られていない限り、安全かつ確実に戦線を離脱できる。

 

「チッ。逃げやがったか。……まぁいい。これで隻眼のところに行けるな」

 

 エネドラから離れ、トリオン兵の方へと向かっていた風間たちだが、エネドラの動向は可能な限り見ている。

 彼がこれからどの方向に行くのかも、その目で捉えていた。

 

「西側……南西の方ですかね」

 

「狙いはわかっている。三上、()()を呼べ」

 

 

 

 

 

 ()()はまさに窮地に陥っていた。ハイレインの指示通りに運用されたバドが、本部に向かうC級隊員たちを常に監視していた。味方であるヴィザとヒュースの位置も把握していることから、湊からどれだけ離れているかも常に把握できる。

 近界で知られた湊の異名は、実力の高さはもちろんながら、特筆すべき彼の特徴をも伝えている。

 戦場において脅威とされたのが、その突破力と速度だ。並大抵の人間では追いつけない速さ。制御の難しさと使い勝手の問題もあるが、それは克服済みである。

 それ故に、それを持ってしてもすぐにはたどり着けない距離までC級隊員たちの撤退を待った。

 

 そして、頃合いと見てハイレインは7体のラービットを投入。それは残りのラービット全てであり、勝負どころとして仕掛けてきたということだ。

 

「みんな本部まで走って!」

 

 こうなってしまっては、先導も何もない。

 既存のトリオン兵なら、三雲や三馬鹿でも対応が可能だ。だからこの4人が最後尾に置かれ、比較的ボーダー周辺の地理を把握している木虎が先導を任された。

 しかしこれではそれもできない。先頭と最後尾を交代し、木虎が可能な限りラービットの気を引く。

 

(この数は抑えきれない……!)

 

 木虎は嵐山隊のエースだ。それに恥じぬように日々自身を鍛えている。戦術を学び、立ち回りを学び、訓練し、身につけてきた。

 努力を惜しまず、苦難を乗り越えて今の結果を出している。

 その木虎にある唯一の欠点が、トリオン量の少なさだ。悲しみの塊たる三雲ほどではないが、木虎もトリオン量は平均以下。

 高火力な攻撃はできず、技術でカバーすればラービットを倒せるものの、7体という数はキャパオーバーである。

 

(銃じゃ装甲に負ける。私のトリガーだとスコーピオンしか有効打がない。でもそれじゃ他のカバーがさらにできなくなる!)

 

 木虎はプライドが高い。それに見合うだけの努力をしているのだから、それを自信に変えているのも頷ける。

 だからこそ守るべきC級隊員のことを優先的に考え。

 だからこそ自分1人ではどうしようもないことに悔しさを滲ませた。

 

「やっとー。追いついたー!!」

 

「……!? 小南先輩!?」

 

 響く声と共に、爆発音が三雲の耳にまで届く。最後尾にいたラービットを、さらに後ろから来た小南がメテオラで足を止めさせた。

 後輩の窮地に派手な登場をしてくるのは、カップル揃って同じなようだ。

 

「あんたらは走り続けなさい! こいつらはあたしが引き受けるわ!」

 

 ラービットの硬さを理解しているようで、小南は最大火力を出せるように双月を斧形態に変えている。

 トリオン消費が激しいものの、その代わりに文句なしの威力を発揮できる形態。弱点である核でなくとも、装甲ごとばっさりと斬れる。

 ラービットの砲撃を横に躱し、追撃を避けるために弧を描くように走る。移動撃ちができないのか、中距離戦を仕掛けてきたラービットは足を止めていた。そこに狙いをつけ、小南は豪快なひと振りで1体目を破壊する。

 これでラービットは残り6体。

 

「仕事熱心なトリオン兵ね」

 

足止めにもならなかったが、1体が小南の相手。残りが引き続きC級を狙うという動きを、ラービットが見せていた。木虎も奮戦しているが、限界はある。

 

[小南。そっちに角付きが行く]

 

[レイジさんが抜かれたの?]

 

[空を飛ばれた。こっちも同行してるが、止めれそうにない]

 

[同行って……うわっ]

 

 後方を見ると、勢い良く飛んでくる角付き人型近界民。スパイダーで相手と繋がった木崎もぶら下がって飛んでくる。角付きwith筋肉ゴリラである。さすがの小南もその光景に声が出た。

 よく見ると、空中で撃ち合いをしているが。互いに決め手に欠けるらしい。

 状況は芳しくない。最悪C級が捕まろうと、新型が撤退する前に破壊すれば助け出せる。しかし湊が黒トリガーの存在を懸念していた。門を作れるラッドを破壊したのに、人型近界民が2人現れたのだから。

 

[こいつの狙いは俺と小南の足止めだが、この磁力が厄介だな]

 

 ヒュースの使うトリガー蝶の楯(ランビリス)は、無数の黒の欠片を磁力で操る。その欠片さえあれば磁力を発生させることができるため、敵の周囲に打ち込めば相手をその場に押さえ込むことも可能だ。

 応用力の高さが売りであり、敵の阻害も安易に行える。この状況下において、これほど厄介なトリガーもそうそう無いだろう。

 

[多少リスクを負ってももう一度止める。お前はその間に新型を片付けろ]

 

[了解]

 

 湊には長期戦を言い渡されている。それは木崎にとって得意分野でもある。冷静さを保ち、状況に応じて対応を変えられる完全万能手なのだから。

 決め手には欠けるが、ヒュース相手の立ち回りは距離を保って牽制すること。足止め目的なら誰が相手でもそうなるのだが、磁力を扱う相手だと特にそうなる。

 小南が他のラービットを倒しに移動。欠片を小南の足元に打ち込まれるも、それを木崎が即座に破壊した。

 

「くっ!」

 

「悪いがこっちの相手をしてもらうぞ」

 

 ヒュースにとって、アフトクラトルにとっての最大の誤算は、湊が単独でヴィザを抑え込めたことだ。油断なく、慢心なく事に挑むヴィザを、湊は全身全霊を持って食い止めた。長時間は無理だとしても、短時間でも抑え込めるだけで十分だ。

 これにより小南と木崎が、2人でヒュースと対立することになった。単独であっても、その経験と実力から十分な戦力だ。そうなればヒュースという壁を突破できる。

 ラービットの出現により、「ヒュースを倒してから」というのは諦めているが。

 

 ただ、お互いにタイムアタックの状態ではある。

 湊は、小南がラービットを全て破壊するまでの時間を稼げるかどうか。

 ヴィザは、いかに早急に湊を倒してこの場に駆けつけられるか。

 たとえラービットを全て倒されようとも、ヴィザがたどり着くだけで戦況は変わる。アフトクラトルの国宝を扱う戦士というのは、それだけの戦力なのだから。

 

(さっさと片付けて、航のとこに戻る!)

 

 C級を狙っていたラービットの内、2体が振り返って小南の迎撃に当たる。蝶の楯(ランビリス)の能力を持つ個体と、泥の王(ボルボロス)の能力を持つ個体だ。完全再現はできないようだが、簡素な攻撃は真似られるらしい。

 黒の欠片を避け、磁力による足止めを回避。回避先にあった地面のヒビから飛び出してきたブレードは、空中で体をひねって斧で両断。脅威を取り除いたら転がるように着地し、足を止めることなくそのまま移動。

 

「遅いのよ!」

 

 ブレードの方は奇襲性に優れている。この状況で厄介なのは、相手の足を強制的に止めさせられる磁力を持った個体だ。小南はそちらを優先的に破壊し、続けてもう一体を破壊しようとして後退。飛び退いた直後にそこを砲撃が走った。

 

「いっちょ前に連携なんてしてきちゃって」

 

 セオリー通り高所を取っている個体を睨みつける。兵器同士なのだからフレンドリーファイアが起きない。仕組まれたプログラム通りに連携するだろう。その点は、練習が必要な人間より優れた点だ。

 人ではなくトリオン兵を主体として戦争する近界にとって、それぐらいは当然のことなのだろう。玄界側のAI研究者が知れば飛びつくのも想像できる。

 

『強』印(ブースト)

 

 弾丸の如く飛来してきた影が、高所を取っていたラービットに飛び蹴りをかました。足場になっていた建物が崩壊するほどの威力。

 

「遊真!?」

 

 何が起きたのか。ほとんどの者が分からなかった中で、小南はその影の主をしっかりと見ていた。最近入隊した自分の後輩にして弟子。黒トリガーを持つ空閑遊真だ。

 

「あ、出ちゃ駄目なんだった」

 

「いいんじゃないか? この状況なら文句は言われないって」

 

「空閑!? 迅さんも!」

 

「やぁメガネくん。みんなまだ大丈夫そうだな」

 

 小南が駆けつけ、木虎が引きつけていたとはいえ、数人はラービットに()()()()()()()。しかしそれはラービットを倒せば助かるものだ。未来予知を持つ迅が「大丈夫」と言ったからには、少なくともこの場で捕らえられている隊員は助かるということになる。

 

「木虎、またC級を先導して本部を目指してくれ。そこにたどり着けるかどうか。それが大きな分岐点だ」

 

「……わかりました」

 

「メガネくんと千佳ちゃんたちもね」

 

「「はい!」」

 

「空閑は……」

 

「遊真には新型の相手をお願いするよ」

 

「任せろオサム。きっちりやる」

 

「ああ。すまないが頼む!」

 

「オサムもしっかりな!」

 

 新たに2人現れたことで、一番動揺したのはヒュースだ。今対峙している木崎を突破するのも一苦労だというのに、ラービットを瞬殺する小南がいる。それに加えて2人の登場だ。C級隊員たちの反応を見るだけでも、実力の高さを窺える。

 

「小南は航のとこに行け」

 

「……いいの?」

 

「こっちはなんとかなる。でも航の方は厳しい」

 

 やはり1人に任せるのは無茶らしい。

 

「なんせ航のトリガーは()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……ここは任せたわよ。迅」

 

「ああ。航を頼む」

 

「言われなくても!」

 

 迅と空閑の登場。小南の移動。

 この侵攻の戦況がさらに加速した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 その戦場は、瓦礫に覆われていた。

 天羽のように何もかも消し飛ばすのではなく、同じ黒トリガーであってもヴィザのものは瓦礫を積み上げる。

 

「ほっほ。まだお若いことを考えると、恐ろしいですな」

 

「その年で引退してない老人が何を言うんだか」

 

「あなたの師ほどではないですよ」

 

「たしかに」

 

 周囲一帯にあった住宅が全て切り刻まれて沈んでいる。その瓦礫の山々は、徐々に警戒区域の方へ、ボーダー基地の方へと広がっていく。

 ヴィザが押しているのだ。遠く離れてしまった弟子のヒュースは、1人で手練2人を相手している。本来ならその役目を自身が負うべきだったのだが、湊の奮戦により見事に分断された。

 戦い自体が目的ならこれもいいだろうと判断するが、今回の作戦はそうではない。雛鳥の捕獲が優先。ラービットに仕事をさせるのが目的。

 そしてあの群れに、金の雛鳥がいる可能性があると言ったのも自分だ。最大目標とも言える存在。あの群れこそ、最多で乱獲するべき群れだ。

 目の前の標的を即刻排除できないのなら、敵対しながら近づけばいい。

 

「敬服しますよ。星の杖(オルガノン)を初見でこうも凌ぎ続けるとは」

 

「そりゃどうも」

 

 ヴィザが使う黒トリガーは、アフトクラトルで国宝とされるトリガーの1つである。その力は国宝に恥ぬ性能をしている。

 使用者を中心にして広がる円。その軌道上を刃が通過するというトリガー。ここだけを聞けばおもしろトリガーなのだが、驚異的なのがその速度。生身よりも身体能力の上がっているトリオン体でさえ、通過するその刃を視認できない。知らなければ、何が起きたかも分からずに両断される。

 それを湊は、持ち前のサイドエフェクトで避け続けている。倒すことが目的ではないと明言している通り、その手には刀と銃。

 星の杖(オルガノン)の迎撃用と、ヴィザへの攻撃用だ。これほどの実力を持つ相手を、ただ防御するだけで足止めできるわけがないから。

 

「そのトリガーも。通常のトリガーにしては良い性能ですね」

 

「特注品だからな!」

 

 迫るブレードを刀で僅かに遅らせ、その間に刃の軌道上から体を逸らす。そのついでにヴィザへの発砲も忘れない。立て続けに攻撃させてはそのまま押し切られて負けるから。

 湊の動きを見ながらヴィザは小さく笑う。今のもそうだ。星の杖(オルガノン)は黒トリガー。その攻撃性能は黒トリガーの中でもトップクラスに位置する。それは軌道上を走る刃が、それだけ高い切れ味を持つということ。現に建物はヒビ1つなく斬られている。無駄な力もない最高の火力にして切れ味。

 それが星の杖(オルガノン)だ。

 

 にも拘わらず、湊のトリガーは僅かな時間を稼げている。それも砕けることなく。せめぎ合いを続ければ砕けはするだろうが、少なくとも瞬時には砕けない耐久性だ。

 特注品。その言葉にヴィザは笑うのだ。決して黒トリガーを使わず、通常トリガーで戦場を駆け抜け続けた伝説。『雷槍』と呼ばれたあの老婆なら、それも作ってしまえたのだろうと。

 

(あの方とはついぞ戦場で会いませんでしたが、弟子に相まみえることができた。何があるかわからないものですね)

 

「余裕こいてると足元掬われるぜ?」

 

「……!」

 

 左右の瓦礫の下に仕込まれていたキューブが起動する。分割されて転がっていたそれらが、待機していた弾丸たちが命令を受けてヴィザに飛びついた。

 

「角度をつけて曲がれるとは。いやはや玄界(ミデン)の進歩も…………今のは玄界のトリガーですかな?」

 

「玄界で合ってるよ! 全部斬られたけど!」

 

 足を狙って直進する弾。何度か曲がってから足に向かう弾。同じように胴も狙ったのだが、左右から襲い来る弾をヴィザは全て斬り伏せた。

 勢い良く叫ぶも、そうなることは予想済み。掠りでもしたら「衰えてるな」とでも言ってやろうと思ってたぐらいだ。全く衰えを見せないが。

 

「ほっほ。つまり貴殿のトリガーは、『雷槍』殿が手を加えた上で、さらに機能を積んだと。貪欲ですな」

 

「うちのエンジニアに頼んだらやってくれた。……使えると思ったものは全て使う。その上で戦う。それは戦場の鉄則で、トリガーのような事前準備も同じこと。万全な備えをしただけだ」

 

「万全ですか。いえ、やれることは全てやったという意味でしたらそうなのでしょう」

 

 ヴィザが「おかしなことを」とでも言いたげな表情で、顎に手を当てながら湊を見る。

 見透かしたように。湊を理解したかのように。

 その事に湊はゾッとし、攻撃を警戒しながらヴィザを見返す。

 

「何が言いたい」

 

「貴殿がそれほど鍛え、どの距離でも戦えるのは、それこそご自身で言ったように『万全な備え』というやつなのでしょう」

 

 そうしないと、守れないものがあるから。

 

「しかし貴殿がしていないことがあります。弱点と言ってもいい」

 

 欠点をなくそうと鍛え続け、完璧万能手にたどり着いたのが湊だ。

 その彼にある弱点。

 それは──

 

()()()()()()()()()()()()。戦場においてこれは致命的ですよ」

 

 生まれ育ったわけでもない近界の戦場でなら、1人で戦うのも納得はできよう。ヴィザは「自分でもそうはしない」と思うが、気持ちはわからなくもない。

 だがここは玄界だ。彼の生まれ育った世界だ。

 この世界には仲間がいるのに。彼らはボーダーでもトップクラスの実力を誇るのに。

 

「なぜ貴殿は1人で私の足止めを買って出たのですかな」

 

「そうすべきだと思ったからだ。実際あの2人を強引にでも向かわせていて正解だった。そっちの新型が続々投入されてたみたいだし」

 

「違いますな」

 

「違わない」

 

「いいえ。そちらの新たな手練が現れたとつい先程報告を受けました。早い対応ですね。先読みとすら感じます。それをできる人物がいるのか……どちらにせよ動ける手練がまだ残っていた。この事実自体は、()()()()()()()()()()()

 

 当然だが湊は迅のサイドエフェクトを知っている。迅と空閑がそこに現れたことも、志岐から聞いている。湊の直感通りだ。迅がわざわざそこに来たということは、雨取というトリオンモンスターが鍵を握るということ。

 それなら、ヴィザの言う通り『分かっていたこと』だ。

 木虎や三雲の負担が増し、危険に合うC級が増えるのだとしても、迅がどうにかできると当てにできたことだ。

 

「貴殿はそうしなかった。雛鳥たちを護るため。そう言えば聞こえはいいでしょう」

 

 カッコもつく。

 

「実際は違う。貴殿は彼らを遠ざけたかった。私という敵から遠ざけ、護ろうとした」

 

「……この場の状況だけを見るならそうなるな。……おれは、可能な限りどこのリスクも下げたいだけだ」

 

 家族がそこにいるから。雨取も三雲も。今では大切な家族(仲間)だから。2人のリスクを減らそうとした。

 

「だから、貴殿の弱点なのですよ。……1つ老人からの金言です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。向き合う覚悟もない貴殿の剣には重みがない。それでは私に届きませんよ」

 

 ヴィザが剣を抜く。その杖は操作装置ではなく、剣を納める鞘だ。

 かの男は、黒トリガーを使うから強いのではない。その剣術で戦場を生き抜き、同格が少ないほどに力をつけたから国宝を渡されたのだ。

 

 星の杖(オルガノン)の刃ほどではないにしても、その剣速は圧倒的だ。難なく湊に接近したヴィザが、音さえ斬るような速さで剣を振るう。

 その速さ自体に驚きはない。この老人なら、何をできたっておかしくないと信じているから。己の師に出会っていなければ、そうも思わなかっただろうが。

 ヴィザの速さに湊がくらいつく。直感ではなく自身の力で。

 瞬く間の連撃。

 止まることを知らないヴィザの苛烈な攻撃。

 1本の剣に対して、湊は2本の刀で対応していた。生身の時では右腕がろくに使えないから、左手で生活できるように練習した。それが戦闘にも生きている。二刀流で戦えている。

 

(化物め……!)

 

「言ったでしょう。貴殿の剣には重みがないと」

 

 手数では湊が勝っているのに。

 ヴィザは()()()()使()()()剣1本で戦っているというのに。

 軍配はヴィザの方に上がった。

 振り上げにより刀が上に弾かれる。そこで生じた隙、がら空きとなった腹にヴィザの脚がめり込む。

 

「ーーっ!」

 

 体の内側から空気が漏れる。

 言葉は出ず。脚を振り抜かれ、湊は大きく後方へと飛ばされた。

 

「……やれやれ。私も乗せられましたか」

 

 自分がやったことにヴィザは苦笑した。

 なぜ蹴り飛ばしたのか。

 なぜ星の杖(オルガノン)を使わなかったのか。

 

 理由は特にない。言い訳もできない。

 なんとなくだ。

 湊航という少年は、不思議な魅力を持っている。

 愉快な出会いに、今度は楽しげにヴィザは笑った。

 

 

◇ 

 

 

 加速度的に戦況が変わっていく中、少し時を戻してボーダー基地南東部。風間隊と交戦していたエネドラは、南西部に向かっている最中である。道中の基地南部では、ランバネインが交戦中だが、そこに首を突っ込む気はない。

 エネドラの目的は湊との戦闘なのだから。

 

「旋空孤月」

 

「あ?」

 

 移動中に首を斬られる。およそ15mほど離れた位置に、1人の男が立っていた。どうやら彼が斬ったらしい。

 

「鬱陶しいなァおい」

 

「報告通り、首を斬っても意味がないか」

 

 本来なら今のでエネドラの敗北だった。だが彼の黒トリガーは特殊性に尖っている。液体をブレードに変えられるだけでなく、体自体も液体に変えられる。能力はそれだけではないが、なんにせよ本来の弱点たる部位は、エネドラにとって弱点ではない。

 

「くくっ、面白いな。細切れにしてみるか」

 

「お前の趣味に付き合う気はないぞ太刀川」

 

「手早く済ませろって指示ですしね」

 

「わーかってるって」

 

 このまま戦いを楽しみだしそうな太刀川を、ボーダーきっての射手2人が制した。

 太刀川が率いるA級1位の部隊に所属する出水と、ボーダー屈指のトリオン量を武器に正面から相手を倒す二宮である。

 

「邪魔しに来やがって。テメェらは歯ごたえあるんだろうな?」

 

 定番の攻撃である下からの奇襲。3人の足元から伸びたブレードだったが、この3人も掠ることもなく躱す。それどころか、太刀川は孤月でブレードを切り裂き、反対の手で持つ孤月で旋空を使った。

 孤月専用オプション。起動時間に応じて射程が変わるトリガーだ。  

 攻撃手ランキングの頂点に立ち、個人総合でも頂点に立つ男だ。そのトリガー構成はシンプルで、斬ることしか頭にない。

 

「本当に風刃と同じ黒トリガーか? 遅すぎるぜ」

 

 ブレードの強度も決して高くはない。耐久性の低いスコーピオンには勝てるが、孤月には対抗される程度だ。

 左右ともに孤月を使う太刀川は、旋空の有効射程を保った上でエネドラを何度も切断する。右腕、左足、肩。どこをどう何回斬ってもエネドラには通用しない。トリオン漏れを狙えないのだから、供給器官か伝達脳を狙うしかない。

 

「効かねえんだよ!」

 

「ハハッ! スライム斬ってるみてぇだ!」

 

「こいつ……!」

 

 ただ斬るだけでは勝てない。今までにない経験に、太刀川は目を輝かせる。風間から得た情報通り、この敵に近接トリガーでは相性が悪い。どこにあるかわからない供給器官と伝達脳を破壊しないと倒せないのだから。

 そんな相手に、されど太刀川は口角を上げた。

 ライバルたる迅との切り合いほどではないにしても、黒トリガーとの戦闘も楽しいからだ。

 

[う~ん。これやっぱり体の中でずっと移動してるっぽいよ太刀川さん]

 

[それも風間さんの予想の範囲内だな]

 

 幾度となく迫りくるブレードを躱し、時に刻み、その刃をエネドラにまで届かしていた太刀川だが、無作為に斬っているだけではない。狙いは常に変えている。

 初めに首、次に右胸。次いで左腹部、左胸、右腕、右足……。それも、あくまで探っていることを気づかれないように、毎度僅かな隙間を的確に通しつつだ。

 

[千切りにすりゃ倒せるだろ]

 

[スライムの千切り……不味そう~]

 

 見るからに腹を壊しそうな色だ。

 

[太刀川さんそろそろ5分だよ~]

 

 雑談混じりの分析から一転。国近がタイムリミットを告げる。

 時間をかけ過ぎたかと太刀川は唸り、それを無視するように厚い弾幕がエネドラを強襲する。

 

追尾弾(ハウンド)

変化弾(バイパー)

 

 きっちり時間通り。2人の射手が、互いに片手分のキューブから弾を発射した。

 二宮の放った追尾弾(ハウンド)が、適度にバラけながら左右から挟み込むように飛来する。

 エネドラは動じずにそれを受け流す。

 そうするだろうと予想していた出水は、弾の飛び方を調整していた。二宮の弾が通らないエネドラの体を通るように。

 二宮が左右から弾を飛ばしたのは、僅かにでも長く弾丸がエネドラの体内にあるようにするため。そのために、弾の速度もいつもよりは遅く設定して放った。それに出水も合わせている。

 弾の軌道を変化させるタイミングを、エネドラの体の寸前に設定している。初見なら対応が遅れるから。

 

「チッ!」

 

「これで確定っすね」

 

「ああ。予定通りすり潰すぞ」

 

「特定した瞬間俺が斬るってのは?」

 

「くどい。時間はくれてやっただろ」

 

 がっくりと肩を落とす1位に、個人総合2位は冷ややかに鼻を鳴らした。この2人は相変わらずだなぁと苦笑するのは出水である。

 出水の放った弾丸は、適当に面制圧を狙った弾だ。「通過点に弱点があればラッキーだなぁ」程度の。そして展開はそのラッキーな転がり方をした。

 変化弾(バイパー)を知らないエネドラは、土壇場で対応するしかなかった。そして弱点を守る手段は決まっている。トリガーを使っての防御だ。それまで受け流していたのに、咄嗟に防御をするしかなかった。これで作戦が確定する。

 ()()()()()()()()()()()だと割り出せたのだから。

 

「面で攻撃すりゃ勝てるとでも思ってんのか? ナメてんじゃねぇぞ玄界(ミデン)のクソ猿が!」

 

「よく吠える」

 

 興味なさげに二宮は攻撃態勢に入った。スーツのポケットから両手でも出して。常にポケットインするこの男がそうするということは、両攻撃(フルアタック)を仕掛けるということだ。攻め時と判断して、早々と片付けるために。

 エネドラの得意距離は、近中距離だ。ブレードの速度が、トリオン体なら反応可能な速度なのだから、有効に活用しようと思ったらその距離になる。

 だが、二宮と出水の得意距離は中距離だ。エネドラより射程が長い。状況によっては、中遠距離すらこなす腕だ。

 その2人に仕掛けようと思うと、エネドラは少し前進しないといけない。

 それを太刀川が阻む。

 

「邪魔なんだよ猿が!」

 

「俺に勝てばいいだけの話だろ」

 

 孤月を両手に構えた太刀川が不敵に笑い、それを交差するように振るう。クロス状に伸ばされた斬撃。その形で喰らうと再生が面倒なのか、エネドラは横に避けて片手片足の被害で済ませる。

 

「あ~! 鬱陶しい!」

 

「安心しろ。お前の負けだ」

 

「は?」

 

 その声は()()()()()()()()()()()()()

 エネドラが気づいた時には、反対側の手足も切断されている。それ自体は問題ではない。有効打にはならないのだから。

 そしてそれは誰もが承知である。

 

「太刀川!」

 

 切断されれば、一旦手足は体から離れる。太刀川とタイミングを合わせたことで、エネドラは四肢を失っている状態だ。そしてその背を、カメレオンを解いて奇襲した風間が蹴り上げる。

 

「グラスホッパー」

 

 浮いた体を、太刀川のグラスホッパーでさらに上へ。

 いくら泥の王(ボルボロス)と言えど、空中で動き回れる機能は積んでいない。液体化だけでなく気体化も可能だが、この時点で無意味だ。

 組んでいた作戦。抵抗する時間を与えるほど、ボーダー最上位の猛者たちは甘くない。

 

徹甲弾(ギムレット)

 

 シンプルにして強力な通常弾(アステロイド)。それを2つ出現させ、合成させることで使える合成弾。通常弾同士を合わせたこの弾は、威力が飛躍的に向上しており、二宮が好む合成弾の1つである。

 

通常弾(アステロイド)+変化弾(バイパー)。コブラ」

 

 トリオン量にものをいわせ、広く弾幕を張った上で高威力な弾を二宮がエネドラに向けて放った。

 それに1秒の時間差で、出水は合成弾を作り出し、先程同様二宮の弾が通過しない部位を狙った。思いつきで合成弾を編み出した天才射手だからこそ、咄嗟の軌道設定が可能なのである。

 

「このっ、クソ猿共がァァ!!」

 

「やはり弾幕が有効打だったな」

 

 トリオン供給器官の破壊。それによって発生する煙を見届けながら風間が言う。

 1度目の交戦で判明したこと。それを元に風間は二宮と出水を呼びつけた。太刀川はおまけである。

 

「あの高さから生身で落ちて大丈夫なんですかね? 見るからに細そうな体でしたけど」

 

「……」

 

「風間さん?」

 

「……死にはしないだろ」

 

 「考えていなかったなこいつ」と、3人が同じことを思った。

 だが出水の懸念は不要だった。

 落下と同時に、エネドラは味方によってトドメを刺されたのだから。

 

「なっ!」

 

「湊が示唆していたワープ使い。やはりいたか」

 

「ワープ使いも読んでたとか、もう迅の予知並みだな」

 

 空中に空いている黒い穴。その中には黒い角を生やした女性がおり、その手にはつい先程までエネドラが使用していた黒トリガーがある。

 

通常弾(アステロイド)

 

 一切の躊躇もなく、二宮は攻撃を放った。しかしその攻撃はその女性には届かず、新たに作られた黒い穴に吸収される。

 

「ふん」

 

「あら。なかなか優秀ね」

 

 吸収された弾は、二宮の背後に作られた穴から飛び出していた。その弾を、二宮は見向きもせず、背中に張っていたシールドで全弾防ぐ。

 

「悪いけど、あなた達の相手はしていられないのよ。隻眼のいる方が厄介だもの」

 

「……隻眼?」

 

 ワープ使いの女性が消えると、この場で唯一湊を知らない二宮が訝しんだ。玉狛の隠し駒だと出水が説明するのを横目に、風間は死体と化したエネドラに近寄る。

 

「発信機はこれか」

 

「見つけるの早いですね風間さん。んで、この後はどうします?」

 

「お前は新型の相手を命じられているだろ」

 

[玉狛がいる南西側に新型結構出てるから、急いだほうがいいよ~太刀川さん。このままだと、新型撃破ランキングで負けちゃうかも]

 

[なに! それは不味いな。……このまま東部行くか]

 

[それが良いと思うな~。東部は今風間隊の2人しかいないし]

 

「おれは米屋たちと合流しますね。たぶん玉狛の方ですけど」

 

 各々が行動を始め、二宮もその場から西側へと向かった。この隣りの戦場は南側。彼の師でもある東春秋が指揮を取る、B級合同部隊のいる場所だ。二宮は今ではB級1位の隊。そこに合流するのが筋というものだろう。

 風間は唯一そこに残った。本部と連絡を取り、この遺体を収容すると聞いたから。その人員が来るまでは、この場にいるつもりだ。

 死体自体には用がないが、エネドラについている角はボーダーの知らない技術の塊。入手できるものは入手していたい。

 

[風間さんありがとうございます]

 

[? なぜ三上が礼を言う?]

 

[いえ。……航くんとは、幼い頃友だちでしたから]

 

[……]

 

 含みのある言い方だった。

 風間は瞳を伏せ、それには何を言わない。今頭に浮かぶのは、今は亡き兄にある日言われたことだ。

 

──蒼也。俺に何かあったら航のことを頼む。

 

 つい先日まで面識もなかったのだから、それを実行に移す機会はこれまでもなかった。それがようやく訪れ、直接的ではなかったがこの形でもいいだろうと結論付ける。

 

「……約束、か」

 

 閉じた目を開け、誰に言うのでもなく風間はそっと呟いた。

 

 

 

 

 

 それまでの当たり前も。大好きなものも。

 失う時はいつだって突然で。無慈悲で。当然のように過ぎ去っていく。

 それが嫌だから鍛えた。力をつけた。

 それなのに──

 

──お前の剣は軽いね

 

 体を動かせる程度に回復した時に、手合わせをして師匠に言われた。

 

──重みがない。想いが篭ってない

 

 想いなんて、勝敗を左右する程じゃないって言い切ったくせに。老師はそう言ってきた。

 

──当然だよ。それが無くたって強い奴は強い。アタシみたいにね

 

──けどそれは、お前には必要なものなんだよバカ弟子

 

──才能(センス)がある。ポテンシャルもある。貪欲なまでに強さを求める気概もある

 

 べた褒めされたけど、足りていないものがあるらしい。

 

──お前は()()()()()

 

──性格が戦いに向いてない。だからお前には想いが必要なのさ

 

 性格が戦いに向いている人は、理由がなくても戦闘になればそれに集中できるらしい。100%の集中。終わるまで一切気を散らさない。この老師もその1人で、たいていの猛者はそれに当たるのだとか。

 

──理由がないとお前は戦いに集中しきれない

 

──誰よりも強くなりたいのなら

 

──護りたいものがあるのなら、お前はそれを見つけなさい

 

 

 

 

「見つけてた……はずなんだけどな」

 

 敵将に指摘された点は、かつて恩師に言及されていたことだ。道路の上に倒れながら、そのことを思い出した。

 

[大丈夫ですか!?]

 

[うん。大丈夫。手心を加えられたみたいだ]

 

[? ……C級たちのところに迅さんが来たみたいです。もう少し、敵を抑えてください]

 

[正念場か。了解]

 

 迅本人が来たということは、それだけそこが重要だということ。この戦いのターニングポイント。

 湊に対しての予知を、迅はあまり当てにしていない。彼の持つサイドエフェクトが、迅の予知を破る力を持っているから。

 だから迅は下手に湊への干渉を行わない。信頼の証だ。

 

(向こうにいる時は、こっちに帰ることを支えにしてた)

 

 それを叶えるために、湊は厳しい戦場でも生還を繰り返した。戦闘に向かない性格を補うための理由(希望)

 それは、帰ってくれば当然無くなるものだ。叶った願いなのだから。

 今の湊に戦う理由がない。仲間(家族)を守るという理由はあるが、それだけでは足りない。近界にいた時ほどの集中を見せられない。

 

「航!」

 

「ん。小南?」

 

 立ち上がり、声のする方を見ると焦った様子の小南が飛んできた。相当急いだようだ。戦闘体なのにその手には双月がないのだから。

 

「よかった。まだ無事ね」

 

「まぁね」

 

「……何かあったの?」

 

「いや、なんでも……」

 

「…………そう」

 

 隠してしまった。

 言ったあとに湊は悔む。心配して聞いてくれたのに、いつものように仕舞い込んでしまったのだから。

 

「小南はどうしてここに?」

 

「あたしが来るのは迷惑だった?」

 

「っ!」

 

 言われて湊はハッと息を呑む。ヴィザに指摘された通りだ。彼女を少しでも危険から遠ざけようとしている。

 彼女の強さを知っているのに。彼女の思いも分かっているつもりなのに。

 

「航が苦戦するぐらい強い相手なんでしょ? 協力させなさいよ」

 

「……それは……」

 

 真っ直ぐな綺麗な目に湊は目を逸らした。合理的に考えれば、小南に協力してもらったほうがいい。そのことを頭では理解している。理解しているけれど、躊躇ってしまう。

 小南じゃなくて、ボーダーの部隊ならきっとあてにしただろう。勿論ヴィザにくらいつける実力が前提だが。

 その点だと小南は文句なしなのに。その一言を言えない。

 

 その理由は……分かっている。

 認めてしまおう。吐露してしまおう。

 きっと、今言えなかったらずっと言えないから。

 なんとなく、そう想った。

 

「……怖いんだ」

 

「ぁ……!」

 

「勝ち目の低い戦いに、家族を巻き込むのが。小南を、戦わせるのが、おれは怖い」

 

 今にも泣きそうな顔だった。子供のように怯えて、不安に目を揺らしている。

 言われてようやく理解した。

 小南は自分をぶん殴ってやりたかった。

 それぐらい、()()()()()()()()()()()()()()()()。少なくとも、隣にいると決めた自分は分かっていないといけなかった。

 

 旧ボーダーを誰よりも好きだったのは、間違いなく湊だ。家族だと言い切るくらい、あそこにいたメンバーたちを彼は慕っていた。

 それをあの一件で失ったのだ。アリステラについて行ってしまった湊は、目の前で兄貴分たちを喪った。彼を生かすために、彼らは命を賭して時間を稼いだ。

 トラウマにならない方がおかしい。

 その信号自体は、何度も発信されていた。それを見逃していた自分に、小南は怒りたかった。

 

「ばかね」

 

「え?」

 

「あたしも……、怖かったわ」

 

 生還こそしたけれど、1年ほど帰ってこなかった。迅が静かに首を横に振って、それを受け入れたくなかった。

 それに近いことを、小南もさっきまで感じていた。

 

「あたしたち、案外言葉が足りてないみたいね」

 

「そう……だね」

 

 聞きたい話。言いたいこと。このまま勢いで全て片付けたいけれど、そうはできないのが現実の悲しいところ。

 小南は湊の背に腕を回し、ギュッと力を込める。互いにトリオン体同士だけれど、胸の音が聞こえ合う気がして。

 

「あたしはここにいる。これからも、航の隣にいるわ」

 

「うん。おれも、これからも小南の隣にいたい」

 

 願いは同じ。

 それでも今まで少し噛み合っていなかったのは、お互いにその認識がずれていたから。

 それぞれの篭める意味を、お互いに分かっていなかった。

 

 湊にとって、小南の隣にいることは日常の象徴だった。戦う日々の中、それを夢見ていたのだ。小南が戦うというイメージが、自身の中でズレを生んでいた。

 小南にとって、湊の隣にいることは誓いに等しかった。どんな時でも彼の力になる。そのために必要なことは全て身につけようと考えていた。それこそ家事も戦闘も。

 

「ちゃんと話さないと、伝わらないものは伝わらないな」

 

「そうね。当たり前のことなのに」

 

 そのズレを理解した。相手の認識をそれぞれ把握する。

 その上で、けれども湊にはまだ葛藤がある。すぐに切り替えられるほど、彼は冷徹にはいられない。優しく、甘い人間だから。

 

「信じて航」

 

 だから小南は説得する。

 彼に一歩、()()から踏み出してもらうために。

 

「あたしも強くなったから。航の隣に立てるくらいになったから」

 

「……わかってる、つもりなんだけどな」

 

 現ボーダーで、ランク戦から外れるまでは小南が1位に君臨していた。実質的にボーダー最強の戦力だ。ランク戦から外れた今でも、まだ攻撃手3位に位置する。

 それを湊も見ていた。彼女がボーダーで駆け上がるのを。誰よりも評価している。それなのに、躊躇ってしまう。

 その原因に小南は見当をつけ、湊に発破をかける。

 

「らしくないわよ航」

 

 取り戻してほしいことが、実は1つあるから。

 

「強い相手だからって、縮こまるのは航らしくないわ」

 

 トラウマのせいだと理解しても、ここで超えてもらうしかない。

 

「あの頃だって、ずっと忍田さんに勝つつもりで挑んでたじゃない。周りにどれだけまだ早いって言われても、航は勝つ前提で挑み続けた。強くて、優しくて、前向きで。だから……そんな航だから、あたしも好きになったのよ」

 

──桐絵ちゃんは航くんの真剣な顔が好きだから

 

「相手の強さなんて関係ない。あたしの彼氏の航は、絶対誰よりも強いんだから! でしょ?」

 

「……ははっ、ははは!」

 

 大げさに聞こえても、彼女は本気でそう言っている。それが分かる湊だからこそ、目を丸くし、次第に声を上げて笑った。

 ひとしきり笑い、小南を強く抱き締めた。

 

「ありがとう小南」

 

「い、いいのよ。彼女なんだから」

 

 急に抱きしめられたことに小南は頬を赤く染めた。そして安心する。湊が少し前に進めたと感じ取れたのだ。

 ならばもう、後はヴィザ(最強)に挑むだけ。

 

「勝つわよ航」

 

 

 

 

 自分のサイドエフェクトが好きか嫌いか。

 これまでも、これからもずっと付き合っていく能力だ。好きとか嫌いとか。その次元のものは抱いてない。

 

 ──未来を見る

 

 聞けば誰もが羨ましがる力。どの世界でも、この力は有用なものだ。人生を最善に進められる。悲劇を避けられる。選択肢を、事前に知ることができる。

 暗躍を趣味にしてるおれにとっても、これほど便利なものはないなと客観的に評価してる。そして、最大限に利用してる。

 

 けれど、当然ながらメリットだけじゃない。デメリットだってある。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 枝分かれする未来で、どこをどうすればより良くなるのか。

 そうやって可能な限り最善に近づけていくけれど、何をどう足掻いても避けられない未来だってあるんだ。

 

『……おれは航が羨ましいよ』

 

 死ぬ未来を覆して帰ってきた航に、そう言ったことがあった。

 旧ボーダーがギクシャクしてて、小南から露骨に避けられて、近い年代の仲間は命を落としたり黒トリガーになったり。……九條がボーダーを離れる時も、少し後味の悪い別れ方をしてしまった。

 さすがに精神的に参ってた時期もあったから。

 

『そっか』

 

 未来を見れなくても、その直感だけで絶望を打ち破る一手を打てる航に、そう言ったことがあったんだ。

 航に殴られる未来もあったけど、航はそうしなかった。困ったようにそう溢してから、言葉を続けた。

 

『おれは迅がちょっと嫌いだ』

 

 ぶつけられたのは、複雑な気持ちを胸の内で混ぜながらも浮かべられた、ぎこちない笑顔だった。

 

「さてさて、今回航はどんな結果を見せてくれるのやら」

 

 予知は絶対じゃないと叩きつけてきた航に。予想外を期待してしまう自分がいる。

 自然と笑っちゃうのは、しょうがないよな。

 

 

 

 

 相手の顔がはっきりと見える距離で、ヴィザは剣を抜きながら相対する2人を見る。つい先程蹴り飛ばした隻眼の少年と、その前に一度姿を見た短髪の少女。2人が並んでいる光景が、なにやら映えて見える。

 

「いい顔をされるようになりましたな。そちらのお嬢さんのおかげですかな?」

 

「ご名答。激励されたおかげで冴えたよ」

 

 この短時間の間に指摘した問題点を解決してきた。それが叶ったのが、隣にいる少女のおかげだと言うのなら、それこそが彼が持っておかないといけなかった答えなのだろう。

 

「ヴィザ翁。あなたほどの達人に万全で挑んでいなかったことに謝罪と、そして感謝を。あなたのおかげで、おれは前に進める」

 

「ほっほ。構いません。若者の成長ほど見ていて楽しいものはありませんからな」

 

「今度こそ、あなたに全霊で挑ませてもらう」

 

「よいでしょう。こちらも全霊をもってあなたを討たせてもらいます」

 

「悪いけど、サシはやらせないからね」

 

「断りはいりませんよ。これは果し合いではなく、戦争なのですから」

 

「ええ。そうね」

 

 小南が双月を構える。斧モードではないのは、ヴィザのトリガーのことを考慮してだ。形態上どうしても大振りになる。威力は高いが、その分速度は落ちる。ここぞという時に使うという判断だ。

 

星の杖(オルガノン)

 

 ヴィザがトリガーを起動させた。挨拶代わりに放った一撃は、湊も小南も避ける。湊が避けることは予想通り。そして小南も避けたのは、期待通りだ。それができる相手を2人同時に。

 年甲斐もなく、戦士としての血が沸くのをヴィザは自覚した。

 

「貴方方の実力を、見させていただきますよ」

 

「ああ見せてやるよ。師から受け継いだ力を」

 

 湊のトリガーに緊急脱出がつけられていないのは、トリガーの機能を向上させるため。各形態の性能は勿論のこと、そもそも変形機能だって相応の枠を取る。

 だが、湊が二つ名をつけられた所以はそれじゃない。圧倒的な突破力を支えた機能。

 

雷鳴(トニトルス)起動」

 

 それは、彼の師が彼のために作った特注の機能。彼の実力、サイドエフェクトに限らず、性格までも考慮して作った機能だ。

 劣勢の状況で投入されるから、彼は国の上層部が好きじゃなかった。けれど実際に共に前線を駆ける兵士たちは別。可能な限り死なせたくはないと思うくらいには、友好的な関係でいられた。

 

 そこで活躍するのがこの機能。

 彼のサイドエフェクトは直感だ。精度の高過ぎるもので、戦闘中だとそれに沿って反射的な行動を取る。それは便利な反面、強者相手には読まれやすい。必要なのは、その時に選択ができること。直感を啓示としそこに思考の余地を作らせること。

 厳密には、脳の伝達を電気信号とし、神経を経路と見立てる。そこに微弱な電気を流して反応速度を跳ね上げさせる。そんな仕組みらしいが、湊は細かいことまでは理解できなかった。

 玉狛のエンジニアであるクローニンも、解析を試みてトリガーをぶん投げた。

 一応それを参考にしてみたのが、烏丸の切り札たるガイストだったりする。

 

「それだけではないようですな」

 

 背後にブレードを回すことで、湊の刀を防ぐ。今の彼にとって、星の杖(オルガノン)は見える攻撃のようだ。だから反応され、掻い潜られ、背後にまで回られた。

 そこまではいい。

 速度が上がることぐらいは、彼の高名から想像できる範囲だから。

 ヴィザにとって腑に落ちないのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ! 対応早すぎでしょ!」

 

 湊に合わせて近づこうとした小南にブレードを集中させる。上下の2次元だけでなく、前進や後退にも備えての3次元攻撃。それを小南はアクロバティックな動きを絡めながらスレスレで躱す。

 バク転のために手をついていた地面にはキューブが転がる。小南の後退に合わせてそれが発射され、ヴィザがブレードで斬って起爆させる。爆破系弾トリガーのメテオラだ。

 

「『黒雷』殿。あなたのその力はどうやら伝達するようですね」

 

「さすが。もう気づくのか」

 

「『雷槍』殿はその昔、軍を率いる人間として名を上げましたからな」

 

「やっぱそうなんだ。どうりで戦略にも詳しいわけだ」

 

 一度でも勝てば話してもいい。そう言っていた80歳お婆ちゃんに、湊はついぞ勝つことができなかった。だから師の過去も知らない。

 それはさておき、ヴィザの読み通り湊のトリガーは味方にもその恩恵を与える。さすがに使用者本人と同じ伸び方はしないが、味方の身体能力を跳ね上げることが可能だ。原理的には、菊地原の聴覚共有とほぼ同じだ。

 

「やはり伝聞は正確性に欠けますな」

 

 個人のことしか轟いてなかったことに、ヴィザはやれやれと肩を竦めた。小南のメテオラを迎撃したブレードを、そのまま湊に向けて動かす。ブレード同士が交差する際に一本の長い針になるように。

 それを湊は上に跳ぶことで回避。変化弾(バイパー)で弾幕を形成し、ヴィザの視界を一瞬奪ったところで狙撃。適正距離ではなくとも、単純に距離が近いほうが威力は高い。

 

「この星の杖(オルガノン)に弾幕で挑む方は珍しくない。その流れも、過去に経験したものです」

 

 それはあくまで複数人が行ったものであり、単独で再現してくることにはヴィザも賞賛したい気分だ。

 

「そしてその連携の仕方も」

 

 間髪入れずに小南が斧を振り下ろす。ボーダー内での通常トリガー最大火力。しかも湊のトリガーで身体能力が上げられている。

 

「むっ」

 

 これにはヴィザであっても片手間には防げない。剣を両手で支え、小南の斧を迎えた。

 ズンと地震がなる。ヴィザの足元の地盤が沈み、その足も地面に食い込んだ。

 

「小南!」

 

 絶好の仕掛け時。そこで小南は後退する。この手の敵相手に、こういう時は狩られ時でもあると知っているから。

 小南の後退は早かった。湊の呼びかけも早かった。その僅か上をヴィザがいった。

 

「ふむ、やはりその力は厄介ですね」

 

「よく言うわよ……!」

 

 小南の腹部からトリオンが漏れる。傷は浅いものの、展開としては劣勢である。

 周囲の地盤を切り裂いたヴィザが地面から出る。こちらは傷らしい傷がない。せいぜいが「見た目がちょっと汚れた」くらいか。

 

 ()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ!?」

 

「え?」

 

 見ていた小南でさえも、目の前で起きたそれを理解できなかった。

 攻撃を受けたヴィザも珍しく困惑する。

 唯一それを分かっていたのは、仕掛け人である湊だけだ。

 

「見積もりが足りなかったなヴィザ翁」

 

「いったいいつ?」

 

()()()()()()()()()

 

「なんと……それは気づけませんな」

 

 C級隊員を鎮まらせるために放った1発の弾丸。それがたった今、ヴィザの足に落ちてきた弾の正体。本来であればとっくに落ちているそれを、上空に留まらせていた。

 しかしヴィザ相手に奮戦していた湊に、それの制御は不可能である。

 

[すみません……頭部には命中しませんでした]

 

[いや十分なダメージだ。ありがとう志岐]

 

 代わりにやっていたのが、臨時オペレーターの志岐である。

 湊のトリガーは玉狛の中でも異質なもの。小南たちのトリガーでは行わないような試作だってつける。その1つが、今回行ったオペレーターによる弾丸の制御だ。

 本来なら多忙であるオペレーターにさせるのは現実的ではないが、今回はオプションとしてつけて正解だったらしい。

 

(機動力を削がれましたか。ですが、あちらの得意距離はどちらも近接戦。来る分には問題ない)

 

 中距離戦となると、黒トリガーを使うヴィザの方に軍配が上がる。湊と小南のどちらも近接戦闘を得意とするのだから、勝つためなら近づくしかない。

 

[片足やったけど、この後どうするの?]

 

[長期戦は不利だから、短期戦でやるしかない。雷鳴(トニトルス)自体長期稼働は向いてないから]

 

[そこはガイストとかと一緒ね。……なら、どっちかが囮やる?]

 

[それは意味ないだろうから、どっちも本命ね]

 

[了解]

 

 作戦らしい作戦はない。読み合いでは勝ち切れないから、シンプルな勝負に持ち込んだほうが勝算がまだある。

 今はヴィザを2人で左右から挟んでいる状態だ。ヴィザはどうしても意識を割かれてしまう。もっとも、環状にブレードを走らせられる星の杖(オルガノン)を使用するため、幾分かはマシなのだろうが。

 

 合図はなかった。

 2人同時に弾トリガーを生成し、それを待機させて自ら突っ込む。ヴィザの意識を少しでも多く割くためだ。

 

(お嬢さんの方は爆発。『黒雷』殿の方が軌道変化でしたな)

 

 どちらも厄介だ。しかもキューブは空中で停滞するのではなく、地面にバラけて転がっている。切り裂くのが少々手間だ。

 小南と湊が双方から走る。湊は両手とも刀に。小南は斧を解除して短剣を両手に。

 それを正直に待ち構える必要はない。右足を撃ち抜かれたとはいえ、移動は可能だ。少しでも挟み撃ちの効果を下げるため、ヴィザは後方へと下がる。その方が2人の動きを視界に捉えやすくなるからだ。

 そうはさせまいと動くのは湊だ。ヴィザの視界外に外れるように。なおかつ小南の対角にいるように回り込む。

 

(これも対応するのでしょうね)

 

 湊の進路上にブレードを回す。上下に2枚並んでいるのを、湊はスライディングして下から躱す。スライディングしたのは、その後すぐに立ち上がれるため。それに合わせて第二撃が襲いかかるも、それも曲芸のように避けた。

 

「手強かったですよ。『黒雷』殿」

 

「航!!」

 

 片足を撃ち抜いて、機動力を落としたというのに。それでもヴィザは、湊がブレードに意識を割かれている間に距離を詰めていた。

 小南が足に力を溜める。加速しなければ間に合わないという判断。

 

 敵に仲間同士の関係を知られるのは不利だ。そこは弱点になり得るもので、その点を突いた攻撃や謀略は、長い歴史の中で数多く登場しているくらいだ。

 当然ヴィザもそこをつく。2人の関係が深いものだと理解して。

 どちらかが窮地に陥れば、どちらかが焦ると読んで。

 真に狙われているのは、小南だ。

 

「まだ及ばないか」

 

「ぇ……? へぶっ!」

 

 決着は怒涛の流れだった。

 

「ガイスト起動(オン)射撃戦特化(ガンナーシフト)

 

 防ぐのは間に合わないと悟った湊が、小南を守るために雷鳴(トニトルス)を解除。急に大きく力が抜けたことで、小南が足に溜めていた力が空回り。石に躓いたように小南はその場でコケてブレードを回避。

 ヴィザはひとまずそのまま湊を落とすことにして両断。そのタイミングで、ガイストを使ってここに駆けつけた烏丸が銃弾を浴びせる。

 何発か被弾しながらもヴィザは横に回避し、烏丸と小南にブレードを回そうとして()()()()()()()()()()()によって斬られた。

 

「これは……!?」

 

 ヴィザのトリオン体が破壊されたのを見届け、強制緊急脱出が来る前に烏丸は湊に声をかける。湊は、近界民と同じで緊急脱出を持っていない。戦闘に負けたら、そのままその場で生身になるのだ。

 

「ふぅー。なんとかなりましたね先輩」

 

「来てくれて助かったよ京介。あの位置に動かさせてくれてありがとな」

 

「いえ。おかげさまで被害を防げましたから」

 

「全部片付いたのか?」

 

「加古さんが受け持ってくれたんで、宇佐美先輩の指示でこっち来ました」

 

「宇佐美か。ってことは、修たちの方はいいのか」

 

「なんか本部長が出てきたみたいなんで」

 

「な~る」

 

 通常トリガー最強の男と呼ばれる忍田までもが、その場に駆けつけたらしい。裏を返せばそれほど危ない状況だったようだが、彼が駆けつけたのなら問題ないだろう。

 

「そろそろなんで、お先に戻ってますね」

 

「ああ」

 

 烏丸が緊急脱出し、入れ替わるように小南が湊の下へ。……駆けつけたと思いきや飛びついた。彼女は未だトリオン体で、湊は生身である。受け止められるわけもなく、すっ飛んで地面に背中からダイブした。

 

「この馬鹿! なんでああいう事するの!」

 

「いたいです」

 

「答えなさい航!」

 

「いや、相手が上手だっただけで……直感超えられたし……」

 

「そうじゃなくて!」

 

 小南が言いたいのは、自分が優先的に守られたことだろう。湊自身の防御よりも、小南のことを優先したのだから。それがなければ、湊が落ちずに代わりに小南が落ちていた。

 

「緊急脱出があるとはいえ、小南がやられるとこなんて見たくないから」

 

「それはあたしだって同じなの! しかも航は緊急脱出ないんだから!」

 

 反論のスキはなさそうだ。

 

「二度とこんなことしないで!」

 

「……うん」

 

「またやりそうな顔してるわね……。はぁ……、あたしも航も。もっと強くならなきゃね」

 

「そうだな。あ、小南。宇佐美経由で志岐と三輪にお礼を伝えといてほしい。今度改めて直接言うけど」

 

「分かってる。宇佐美がもう伝えてるわ」

 

「仕事早え~」

 

「それぐらい、宇佐美も航のことを分かってきたってことよ」

 

 自分の事のように嬉しそうに話す小南を見て、湊は幸せ者だなと実感する。それだけ分かってくれる人たちがいて、その事を喜んでくれる彼女がいる。

 かけがえのない。もう失いたくないものだ。

 

「それはそうと、お疲れ様航。カッコよかったわよ」

 

「んっ……! ありがとう……小南」

 

 眩しいほどの笑みを浮かべる彼女に、湊は照れながらお礼を言い。

 深呼吸してから小南を見つめる。

 その真剣な目に小南は惹かれ、頬を赤く染めていきながら覗いた。

 

「改めて言っていいかな?」

 

「いいわよ」

 

 穏やかな声で聞かれて。

 蕩ける声で返した。

 

「幸せにするから。これからも結婚を前提に付き合ってくれますか?」

 

「もちろん。誰よりも長くあなたの隣にいるわ」

 

 

 

 

 




那須さん:出水と一緒にエネドラを蜂の巣にする予定もあったけど、風間さんが呼ばない気がして参戦しなかった

辻くん:太刀川じゃなくて辻くんが参戦して、ミラに「お可愛いこと」と言われる未来があった。太刀川が出番を横取りしたので回避

風間さん:全力でお兄ちゃんを遂行した

木崎さん:空飛ぶ筋肉。雨取の夢に出張したことで翌日避けられた

忍田さん:ハイレインを斬りに行ったヤンチャ小僧

三上ちゃん:侵攻後に湊の無事を直に確認するために玉狛まで行った。諸々の心の整理が付くまではアグレッシブ

三輪くん:指示通りのタイミングと座標で風刃使った。Mr.キルパク

志岐さん:ある意味一番の被害者

迅さん:湊くんとお互いの力を羨み合った仲

湊くん:真都さんに付けられた「超直感」というサイドエフェクトの呼び方を実は気に入っている。ミラがヴィザを回収するまでの間にヴィザに将棋を教えた

ヴィザ:将棋を教わって一式プレゼントしてもらった。アフトで流行らせたとか

ミラ:湊に「ミニスカタイツとかエロいっすね」と言われた。帰国後は丈を伸ばした
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