結婚を前提に付き合ってください!!   作:粗茶Returnees

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 前回から1年経っていることに私自身驚いています。
 体感的には半年前だったんです。


かぞくのかたち

 

 若き防衛組織ボーダー。それを束ねる男が城戸正宗だ。鉄面皮という言葉を体現するほどその表情が揺らぐことはなく、常に冷静且つ堅実な手段を取っていく。時に強硬な手を取ることもあるが、それも理と見込みがあってこそ。無謀なことは徹底して行わない。

 現ボーダーを立ち上げた人物であり、上層部の人間も数人は城戸が自らスカウトした人物だ。それぞれ部門のトップに所属し、他の上層部も含めて会議も行う。

 現在は先日の大規模侵攻の後始末も終わり、市民の目はボーダーの近界への遠征へと移っていた。

 

「──では遠征に関する議題はこの辺りで。都度調整は必要だと思いますが、どの規模まで拡げられるか。鬼怒田さん、判明次第共有を」

 

「わかっておる」

 

「優先度は低いため後回しにしてきましたが、()についても触れておかねばなりませんね」

 

 大方の議題が片付いたことで、メディア対策を担っている根付がその事に触れた。立場上無視するわけにもいかないからだ。

 

「玉狛支部の隠し玉とも言える湊航。……林藤支部長には事前に明かしておいてほしかったことですがね」

 

「いやー、こればっかりは事情が混み合ってるので。ねぇ城戸さん?」

 

「……」

 

 のらりくらりとかわせる内容ではない。空閑の黒トリガーに由来するA級上位陣との交戦。さらには先日の大規模侵攻。どちらにも湊は関わり、大立ち回りをしていた。

 前者はまだいい。極秘下での交戦だったから互いに沈黙すれば済む話。しかし後者はそうもいかない。C級隊員にすらその姿を目撃されている。箝口令を引いてはC級隊員たちからの注目を余計に集め、かと言って放置してもその存在が語り広げられる可能性が十分にある。

 そのため優先度は低くとも触れておかねばならない議題だ。そしてその説明を根付は林藤に求め、林藤は城戸を巻き込んだ。

 

「旧ボーダーに属していた1人。我々はそれ以上のことは聞かされていなかったわけですが」

 

 唐沢も興味がないわけじゃなかった。個人的に気に入っている三雲の口からも軽く聞いたが、踏み込んだ話は一切なかった。勝手に話していい内容ではないという判断であり、唐沢もその判断を理解できる。それ故に知らない。

 意識してか知らずか、最も伏せられていた人間のことを。

 

「……湊航をどう扱うか意見があるのなら聞こう」

 

「現時点ではなんとも。情報が足りませんからね。司令たちにお考えはあるのでしょうが、情報は共有させていただきたい。根付さんの立場なら殊更でしょう」

 

「え、えぇ。……玉狛支部の所属隊員。ただそれだけの情報を流して存在を雲のようにすることも可能ですがね。むしろこれが妥当ではありますし、この方針にするつもりでもあります。しかし知らない存在の情報を操るのには限度がある。説明は欲しいというのが本音です」

 

 不幸中の幸いとでも言えるのは、使用する武器の見た目がボーダーのものに似ていることか。しかも玉狛支部の上位陣はワンオフトリガー持ちだ。トリガーのことも玉狛支部だからと言い張れる。

 しかしそれはそれ。人一倍情報と外部からの印象を気にする立場にいる根付にとって、厄ダネの可能性があるものは把握しておきたかった。

 そして形は違えどそれは鬼怒田も同じだ。玉狛支部が抱えるエンジニアのクローニン。湊のトリガーは、そのクローニンと林藤によるトリガー改造とは話が違う。可能なら湊のトリガーを解析したい。

 

「……諸君の意見は尤もだ」

 

 表情は変えず、城戸はゲンドウポーズを取った。

 

「最初に言っておこう。湊航は私の息子だ」

 

「「!?」」

 

 その言葉と同時に、湊航に関する資料がそれぞれの端末に送られた。彼の大まかな経歴と、判明しているトリガー構成。必要かは怪しいが、好みや趣味などのプロフィールも。

 

「肉親ではないのでしょう?」

 

 唐沢の確認を城戸は肯定した。湊航は城戸正宗の養子であり、彼の両親は学生時代の城戸の後輩にあたる。引き取った要因はいくつも絡まっているが、その1つがそれだ。

 

「彼は私の養子にあたる。そして、誰よりも旧ボーダーのことを愛していた人間だ。……いや、今も愛しているという方が正しいか」

 

 湊は以前、城戸に話している。光を失えど、その瞳は今も大切な存在を映し続けていると。

 

「あの男の行動原理は明確だ。()()()()()()()()()()()()()()。それが絶対的な基準であり、2つの件はそれを満たしていた」

 

「……つまり、司令は彼が出てくることを踏まえた上で遠征組を送り出したと?」

 

「……そうだ」

 

「勝算もあった上で、ですよね?」

 

「実際勝算はあったはずだ。湊航1人の参戦で左右されるほど、A級は甘くない。そもそも、その参戦の確率は低くもあった」

 

「ははは、たしかに。あの時点だと遊真と航に面識はなかったし、航が参戦したのも()()()()()でしたからね」

 

「小南くんが参戦を促したと?」

 

「いやいや。小南も、レイジや京介だって気づいてはなかったんですよ。航はなんとなくで察して、小南は航の様子から察して背中を押しただけ。小南が理由っていうのは、小南の楽しみを減らさせないためって意味ですよ。航は小南にぞっこんなんで」

 

「……そこまでのプライベートを語っていいのかね……」

 

「ここにいる皆さんお口固いでしょ?」

 

「林藤支部長を除いてね」

 

「はは、手厳しいですね唐沢さん」

 

「……過ぎた話はこの辺りでいいだろう。湊航は、現ボーダーに所属する気はない。それは明白だ」

 

「では、本部には来ない玉狛隊員という位置付けで、落ち着かせるしかないですねぇ」

 

「本人が本部に来ない以上、噂もいずれ薄れますからね。なにせこれからランク戦が始まるわけですし?」

 

「ふん。皮肉な話ですが、その点だけは時期に感謝といったところですな」

 

「忍田本部長は、何かありますか?」

 

 話も大まかに纏まったところで、根付は忍田に話を振った。ボーダーの顔という点では、細かな役割こそ違えど根付と忍田の立場は同じだ。入隊式での挨拶や緊急時の隊員への指示は忍田の役割。

 つまり、根付は一般人向けへのボーダーの顔であり、忍田は()()()()への顔というわけである。嵐山隊はその両方である。

 

「……いえ。それで問題ないでしょう。個人的には会って話をしたいところですけど」

 

 林藤へと視線を向けると「話しておくよ」と頷きが返ってくる。

 湊はボーダーに所属する人間を嫌っているわけではない。むしろ好感を持っている。組織の方針を受け入れられないだけだ。

 

「トリガーの借用は可能なのかね? 我々の知らない技術が搭載されておることは確認できている。解析したいところなのだが」

 

「そこも確認しておきますよ。ま、可能性は低そうですけどね。なにせアレ、私もクローニンも解析させてもらえてないので」

 

「期待しないでおくか」

 

 湊航への対応は、結局現状維持という形で落ち着いたのだった。

 

 

 

 

 ボーダー本部でそんな話が行われているとは露知らず、湊航は玉狛支部にある自分の部屋で眠りこけていた。

 それもそのはず。昨日天日干ししたばかりの布団は大変寝心地がいいのだ。問答無用で例外なく万民を眠りに誘うその魔力を、湊航は抵抗することなく受け入れていた。

 冬の真っ只中ではなかなか天日干しができないものだが、奇跡的に昨日はよく晴れていた。天気予報でそれを知ったときから、必ず布団を干すぞと楽しみにしていたらしい。その浮かれぶりに感化されたのか、湊と同じように玉狛支部を家にしている空閑も真似たほどだ。

 湊が普段起きてくる時間になっても、その眠りを邪魔するのも悪い気がすると言って誰も起こそうとはしなかった。

 

「いい加減起きなさいよ」

 

 小南桐絵というたった1人を除いて。

 

「いやだ」

 

「子どもか。もう11時過ぎてるわよ。修と千佳も来てるし、朝ご飯どうするんだってレイジさんも困ってたんだから」

 

「でも布団がふかふかなんだ」

 

「気持ちは分からなくもないけど……。いいから起きなさい!」

 

「ぎゃぁぁ! 布団が!」

 

 掛け布団を引っペがされ、優しいぬくもりを奪われた湊はベッドの上で丸まった。そのまま「寒いよ寒いよ」と文句を言いながら右へ左へ転がる。

 

「高校生なんだからしっかりしなさいよね」

 

「高校生はまだ子どもなんだぞ。未成年だぞ」

 

「屁理屈言わないの。シャキッとして着替えてリビングに来なさい」

 

「ちょっと待った小南」

 

「二度寝は認めないわよ」

 

「いやもう三度寝はした。そうじゃなくて」

 

 ちょいちょいと手招きすると、怪訝そうにしながらも小南が湊の側へと戻る。それは彼女の優しさなのか甘さなのか。どちらにせよ小南はベッドの近くまで行き、腕を引っ張られてベッドの上へと引きずり込まれた。

 抱き枕または湯たんぽ。湊は「小南は温かいなぁ」と言いながら、小南を抱きしめた。

 

「……もう。いったい何なのよ」

 

「うん?」

 

「いつもより精神年齢下がってるでしょ。後輩たちが来てるのにまだ()()だし」

 

「あー、うん。なんていうかな、小南がいるなぁって」

 

「は? …………あぁそういうこと」

 

「そういうこと」

 

「ちゃんといるわよ。今も、これからも」

 

 湊の腕の力が強まったことを感じつつ、小南は彼の頭をゆっくり撫でた。幼子を安心させるような優しさだ。

 湊の言いたいことはすぐに気づけた。誰よりも識っているつもりだから、()()()()()()()()()()()()()()()理解している。

 理由は難しいことでもない。不安と喜び。その2つだけだ。

 アリステラの件で第二の家族をほとんど失い、近界生活でできた親しき師も失った。それらを経験してからの先日の大規模侵攻である。被害を最小限に抑えられたと頭で分かっていても、支部のメンバーが無事だと知っていても、それでもそれが夢なんじゃないかと不安に襲われる。

 過去には実際にそれを味わった。暖かな夢を見てから冷たい現実を見る。何度も繰り返し、打ちのめされてきた。

 それが今も湊にのしかかる。ふとした瞬間に怖くなる。

 

「航はあたしのことを幸せにしてくれるんでしょ? あたしだって航を幸せにしたい。離れるわけないじゃない」

 

「……うん」

 

 柔らかく細い手がそっと湊の頬に添えられる。それを拒むことなく、慈しむように受け入れて目を閉じた。

 

「こらっ。また寝ないの」

「いてっ」

 

 反射的に言葉が出ただけで、実際には痛みなんてない。開けられた瞳と視線が合い、小南は湊と同じタイミングで小さく笑う。それから小南は左手で、湊の右目周りを軽く撫でた。

 右目も左目も同じはずなのに、その目に篭もる光は異なっている。それは湊が、その右目で旧ボーダー(過去)を見ているから。忘れられず、残り続けている。

 それを小南は悪いことだとは思わない。間違いなく誰よりも当時のことが好きだったのは、目の前の少年──湊航なのだから。

 そしてそれを抱えたまま、湊は"今"を歩けている。

 

「くすぐったい」

 

 そう言って湊は右目を閉じ、小南はそれを数秒眺めた。複雑な気持ちだ。普段湊は眼帯を外さない。それこそ風呂に入る時と寝る時以外ずっと着けている。

 その下に隠されている湊の()を見られるのは、彼女たる小南桐絵以外いない。その特別は少しばかり嬉しいが、よく知るからこそ誇る気持ちには絶対にならない。

 そして、湊が小南だけを想っていても、小南だけを見るということはないことに、胸中を渦巻かされる。

 

「ごめん……小南」

 

「っ!」

 

「おれはこういう人間だから……」

 

「知ってる。あたしは、航のそういうとこも好きよ」

 

 みんなのことを好きでいて、その上で小南桐絵というたった1人を選んだ。恥ずかしくて口にすることはできないが、小南の心を掴んだ要因の1つはそれである。

 湊相手に隠し事なんて通用しない。そのサイドエフェクトによって、相手の小さな変化からその胸中を察してしまうからだ。つまり、「湊相手に隠し事が通用している」という状況は、「湊が何も聞かずに放置している」ということになる。それを小南も重々承知している。

 だから小南はその事にしこりを作らず、風が吹き抜けるようにさらりと流す。

 

「航の好きなところを挙げていったらキリなんてないわ。直してほしいとこも何個も言えるけど」

 

「うん……」

 

「でもね」

 

 ひょいと体を起こした小南が、くすりと微笑みながら航の髪をあやすように撫でる。

 

「理由があるから航を好きになったんじゃないのよ。()()()()()()()()()()()

 

「……っ!!」

 

「真面目な話をしちゃうと、ずっと一緒にいてずっと幸せを感じるっていうのは難しいわ。怒ることもあるし、不安になることもあるし。そういうのを全部引っくるめて、あたしは航のことを愛おしいって……ぉ、思ってるから」

 

「小南……」

 

 「好き」は言えてもその上は気恥ずかしさが強い。ほぼ言い切ってから頬を赤くして小南は顔を逸らし、そんな彼女の姿に湊もまた愛おしさを感じる。それと同時に確かな安心感と充実感も。

 小南とともに湊はベッドから降りる。彼がもう安定していることは、その顔つきでわかった。自分のことではないにしても、小南はそれで嬉しそうに頬を緩めた。

 

「ありがとう小南。下に行こっか」

 

「どういたしまして。これぐらいいくらでもするわよ」

 

「そう何度も()()()()()()にはなりたくないけどな」

 

「気持ちの話よ。あたしだって、航のこと支えたいんだから」

 

「うん。……なぁ小南」

 

「どうしたの?」

 

 階段を先に下りていた湊が、真剣な声を出しながら振り返った。急にどうしたのだろうと小南は小首を傾げる。

 

「今度デートしよう」

 

「いいわよ。……へ? え? いきなりほんとにどうしたの?」

 

「今まであんまりカップルっぽいことしてなかったなって」

 

「それもそうね。ならエスコート、期待してるわよ?」

 

「がんばります」

 

 そう言って湊は左手を差し伸べ、意図を察した小南がその手に自分の右手を重ねる。

 

「今じゃないわよ。それにキザっぽいし」

 

「ははっ、予行演習ってことで」

 

 これが嫌というわけではない。その証拠に小南の方から手に力を加え、湊もそれに続く。

 

「いつもおあついですな。おふたりさん」

 

「トイレにでも行ってたのか陽太郎」

 

「うむ。わたるのひるごはんは、きょうのあさごはんだってレイジがいってた」

 

「この時間だしな」

 

 リビングへのドアを開け、陽太郎と雷神丸を先に行かせてから湊と小南が中に入った。そこには、会議で本部に行っている林藤を除いた玉狛支部のメンバーが全員揃っており、湊と小南の手に気づいた者からそれぞれの反応を示す。

 

「航くん今日も寝坊だねー」

 

「学校がある日とない日の差が激しいですよね」

 

「もっと言ってやれ京介。航、飯は自分で温めて食べろ」

 

「らじゃ」

 

「湊先輩あとでお時間もらってもいいですか?」

 

「いいぞ。これから始まるランク戦のことだろ」

 

「はい。あとは烏丸先輩も交えて個人的な相談も」

 

「わかった」 

 

「ねぇ航先輩、今度勝負してよ」

 

「小南が認めたらいいぞ」

 

「あたしから半分取れるまではダメ」

 

「ちぇー」

 

「小南先輩に聞きたいことが」

 

「千佳が? 珍しいわね」

 

 繋いでいた手を離し、小南は雨取と並ぶようにソファへ。湊は置いてあった自分の分の料理をレンジへと入れた。朝ご飯とも昼ご飯とも言い難い時間。ブランチである。

 

「いろいろと吹っ切れたみたいだな。決めたこともあるようだし?」

 

「未来が視えるのも困りものだな迅」

 

「いやー、基本的には有り難いことばっかだけどね〜。悪い未来も視えてない」

 

「そりゃ何よりだ。……迅」

 

「わかってる。航のも、小南のも、未来()の話はしない。おれのポリシーにも反するしな」

 

「それもあったけどそれだけじゃない」

 

「ん?」

 

「いろいろとお疲れさん。最近ようやく迅も落ち着いたからな」

 

「…………はは、ありがとう」

 

 迅を含め、この場にいる全員を視界に収めて航は目を細めた。

 この場にいない者もいるが、ともあれ今の家族の大半は今ここにいる。この場にいて、全員が楽しそうにしている。

 これこそ、湊航が大切にしている光景。

 これこそ、湊航がもう喪いたくないもの。

 湊航の宝。

 

(幸せ者だ。……今ならちゃんと言える。おれは幸せだよ、真都さん)

  

 今のかぞくのかたちである。

 

 





城戸司令……息子の情報を会議的には必要ない範囲まで資料にした。息子をアピールしたいお年頃。
湊航……脳内メーカーをすると「小南桐絵」の4文字しか出てこない。
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