時間ができたら、取材にいってみようと思う。
高校時代の友人、Kくんから聞いた話だ。
北への出張のおり、会社から割り当てられたマンションが、よくない部屋だったらしい。
一見すると、どこにでもあるウィークリーマンションだが、きれいなはずの部屋の空気がよどんでいる。
家具も壁紙も新品なのに、昭和の団地を思わせる、セピア色のような古めかしさがあったそうだ。
これは、なにかあるな。
Kくんはそう感じながらも、早朝からの長旅と、なれない土地での仕事に疲れてしまって、部屋を変えることはしなかった。
どうせ一週間の滞在なのだからがまんすればいいと腹をくくったのだそうだ。
話とは関係のない私感をはさむが、彼もずいぶんとなれてしまったものである。
さて、異変はその日のうちに訪れた。
まずは金縛りだ。定番すぎるけれどねと、Kくんは笑っていた。
これは別に、恐れるほどのことでもなかった。
仕事がいそがしいだとか、なれない土地での初日だとか、心も体も参ってしまう理由がたくさんある。
だから、Kくんは金縛りをそういうものとすぐに結びつけることはしなかった。
まずは目を開いて、小指の先だけを動かすことに意識を集中する。金縛りを解くために最適な、Kくんのきめごとらしい。
問題は、まぶたを開いたとたんに、顔を覗きこんでいる誰かと目が合ってしまったことだった。
鼻先から一センチもないところに、誰かの顔がある。そこで初めて、Kくんはこの金縛りを、そういうものと結びつけた。
そんなに近づかれてはピントが合わないものだと私は思ったが、Kくんの話を聞くには、どうもその限りではないようだ。
そういうものは距離感が普通と違うから、近すぎても遠すぎても、ピントが即座に合ってよく見えるのだそうだ。
閑話休題。
とにかく、Kくんは目を合わせたままで動けなかったらしい。
一度でもまたたきをしたらその瞬間に襲われそうで、気が気でなかったそうだ。
どれだけの時間、なにかと見つめ合っていたのかはわからない。ただ、終わりは唐突にやってきた。
枕元の携帯電話が古い歌謡曲のサウンドを大音量で響かせたのだ。
そのときには目の前のなにかは消え失せて、体も動かせるようになっていたらしい。
時刻を見ると、深夜の二時。着信相手は、世話になっている職場の先輩からだった。
常識的ではない時間に電話をかけてきたと思えば、ひと言ふた言で通話は終わってしまった。
先輩がなにかを感じ取って助けてくれたのだろうと、Kくんは言っていた。
そのあとはどうなったかというと、夜が明けると同時に部屋を引き払い、Kくんは自腹で一週間、ラブホテルに泊まりこんだらしい。
「だって、上下に七人分、びっしりですよ。二度は見たくないですから」
そう言って笑うと、Kくんはタバコに火をつけた。
N県M市に、このウィークリーマンションはまだあるのかもしれない。