呪術界最強は石世界でも最強です。 作:石化して土に埋まりたい人
前回のあらすじ♡
二十五年間“五条悟”として過ごしてきた俺は石化し約3700年の時を経て復活、主人公の千空と合流するのだった。
そして今。
「うぉおお!! 千空ぅうううう!!!」
「ほぼ全裸で近寄んな!! デカブツ!!」
大樹が起きた。俺が復活してから約三ヶ月。何をするまでもなく彼は自力で復活した。まぁ元々そういう展開だし驚きもしない。千空が復活するだろうと踏んでいたのもあるしな。いやぁ科学なんて享受するだけで理解なんてしない俺だから何故そんな結論に至ったかなんてわからないけど、まぁそこに友情がないかといえば否だろう。
「いやぁ〜イイね〜、約3700年だっけ? ぶりの感動の再会! 青春してるね!」
携帯があれば写真撮りまくってたんだけどなー、なんて零せば大樹が驚いたように此方を向いた。枝を取るために木に登っていた千空の下にいた俺は、彼に向かってヨッと手を上げる。
「えっ、なっ五条先生か!? 貴方も起きてたのか!!」
「まぁね〜」
いや千空もそうだけど、髪型違うのによくわかるね。何? 白髪ってことでしか認識されてなかったクチ? 先生泣いちゃうぞ??
降りてきた千空が、盛り上がった木の根で足を滑らせそうになったのを無下限で支えて、大樹を手招きする。素直に従って俺の下に来た彼は、ほぼ俺と同じ身長をしていた。うーんデカーイ。俺さ、アニメ見てたときは千空の事百六十ぐらいかなって思ってたんだけど、実際に会ったら結構あったんだよな。多分百七十はあるし、大樹は百九十近い。成長期来るの早すぎなんだよなぁ。
ともかく、と今さっき起きたばかりの大樹に千空が色々な事を説明していく。と言っても大樹にやってもらいたいことだけどね。
「大樹、テメーには五条先生と同じく体力担当だ。採取、狩猟とかな。まぁ色々教えてもらえ……つっても参考にならないこともあるだろうがな」
「わかった! 体力なら自信がある!」
「だろーな」
うぉおお! と両手を振り上げて吼える大樹だが、本当に危機感がないというか。ここはもう人が生活していた世界ではないのだから、そんな大声を出せば何の動物が寄ってくるかわからない。流石に3700年も経てば、人間がなんなのかも知らないだろうしな。変な形の石ぐらいにしか思ってないんじゃないか?
「えー、別に教えることないけどな。ただ動物を追いかけて仕留めたり、待ち伏せして仕留めたり。それだけだし」
「アホか、それができる人間なんてほんの一握りだ。体力馬鹿ではあるがな、デカブツは純粋な街っ子だ。テメー基準で考えんじゃねぇ」
「あぁ! 動物など狩った事がないな!」
まぁそりゃそうだよなぁ。俺だって能力ありきだし。それがなければ人より素早く動けないし、武器がなくても動物を仕留める事ができない。そんな状態なのが目の前の大樹。うーん、何か武器でもあれば。
「千空、弓矢とかはある? 流石に接近戦で獲物を仕留めるのは難易度高いし。あ、罠でも良いんだけど」
「ないな」
「わーキッパリ言うね」
槍とかナイフは彼が石を割って作っていたが、見た感じ大雑把なところが目立つ彼に渡しても無闇に特攻して獲物に逃げられそうだ。だから弓矢で遠くからやるか、罠を仕掛けられるようにしようと思ったけど、どうやらそれらは無いらしい。まぁそんな時間がないのは知ってるけど。
「それじゃぁ大樹は採取担当にしようか。僕は肉担当ね」
「ククッ、そりゃぁ良い案だ。今まで肉は持ってきても山菜は全く持ってきてなかったからな。俺が山菜を探す時間が省けるってもんだな」
「いやだって山菜とか見分けつかないし、面倒じゃない?」
「俺が見分けるって何回も言ったと思うんだが」
「……エヘ♡」
「気持ち悪い声出すな」
理不尽♡
「つーわけだ、大樹、テメーは採取担当だ。そこらに生えている山菜、ってもテメーは見分けられねぇだろうからな、食えそうだと思うもんを持ってこい」
「わかった! それなら俺にもできるな!」
「千空は研究、大樹は採取、僕は狩猟。イイネ、ちゃんと分担できてる」
「負担の度合いで言うと、五条先生が100億%楽だろうがな。まぁ妥当な配当だ」
まぁね。野生動物なんて呪霊と比べれば殺しやすいからな。まぁ呪霊と戦ったことなんてないが、それはそれ。覚醒済み“五条悟”の力を舐めないで頂きたい。
「(死の淵なんて経験したことないけど)」
所謂転生特典という奴で、俺は生まれつき“最強”と同等の力を手に入れていた。つまり“最強になる可能性”ではなく、“最初から最強”なのである。チートというなかれ、結局慣れなので使えるまでには苦労した。戦う相手がいないから、“五条悟”のように使えているかはわからないけれど。
うぉおお! やるぞぉお! なんて張り切っている大樹の背中を眺めながら、そんな大樹について行くのがやっとな千空の背中を押してあげる。体力ミジンコなのに遠くまで枝を拾いに来て、丁度良いのがあるからと慣れない木登りをするからである。まぁツリーハウスを一人で建てた経験があるからいけると思ったんだろうが。あ、わりと筋肉質。なんでこれで体力ないんだろうか、不思議だ。
「で、人手が足りた千空先生は何を研究するのかな?」
気になるなーなんてわざとらしく声をかければ、ジトリと赤い瞳をこちらに向けられた。しんどいのに話しかけてくんな、的な? それとも知ってるだろうに言う必要あるか、的な? おそらくどっちもだな、悲しいね。
「はぁ、石化解除の方法だ。俺ら三人、半年の間に復活している。偶然だと思うか?」
「いんや」
主人公とその親友が復活するのはまったくもって偶然じゃないね、必然だ。まぁそういうのを抜きして確率で考えれば、奇跡とも呼べる偶然だろうな。三人とも石化解除の作用がある水を生み出す洞窟付近に流されたのだから。
「クククッ、五条先生もそう思うか。偶然だとしても、こうも重なり合った偶然じゃ理由が必ずある。テメーならもう理解しているとは思うが」
「あの洞窟だね。垂れてた水が理由かな?」
「あ゛ぁ。硝酸っつー洞窟に住み着いた蝙蝠の排泄物からできた代物だ」
「なるほど、酸化」
「ククッ大正解、100億万点やるよ。正しくは酸化による腐食だがな」
「わーい」
ただ、あの程度の硝酸じゃ石を直ぐに酸化させて復活させることはできないらしい。あくまで湧水が石を削るように、何十時間も垂らし続けなければならない。それじゃぁ効率が悪い、ならどうするか。その時間を縮めるしかないだろう。
千空がしようとしている研究はそういうものだった。
「ま、僕にはよくわからないからさ、頑張ってね。食だけは保証するさ」
「そりゃおありがてぇ。最初ハナっからテメーに研究を手伝わせようとしてねぇよ。人には向き不向きがありやがる、テメーの場合それが狩猟であり研究であっただけだ」
「さっすが千空♪」
人のことよくわかってるー。
「なんて言ってたのが一年前かぁー」
遠くから千空達を眺める。復活液が完成し早速とばかりに、俺が夕飯の支度をしてる最中に杠を復活させに行くと出て行った二人の生徒は野生のライオンに追いかけられていた。サバンナの王である彼らはどうやら日本の四季に適応したらしい。狩担当の雌ライオン達が久し振りの獲物を仕留めようと、木々の合間を駆け抜ける。
助けてあげても良いが、これぐらいは乗り越えないとこの先やっていけないだろう。それにどうやら何か作戦があるらしく、急に走る速さを上げた。見えてきたのは一つの石像。
「(あー、テレビで見たことあるな。なんだっけ、この世界での吉田沙◯里だったか)」
彼がやっていた格闘技がレスリングだったかはさておき、いくら霊長類最強だとしてもライオン相手に勝てるはずが———。
「うん、こんなものかな?」
そう軽く呟く青年の前には死屍累々となったライオン達が。殺してはいないだろう、多分。けど瞬殺だったなーと思いつつ、その場を離脱した。遠くから見ていたから気がつかれてないと思いたいな。
木々の合間を縫って移動し、一年半お世話になったツリーハウスを見上げる。千空がだいぶ前に作ってくれた白い鞄の中にナイフやら食料やらを詰めていく。一人分の必要な分だけを確認して、廃材となっている木の板にナイフで削り文字を書いていく。
「“キャラ被りしてるから僕は旅に出まーす。さようなライオーン!”と」
これでヨシ。で、この廃材を千空しか触らない場所に置けば、きっと彼は見つけてくれるだろう。一見すればふざけた語尾だけど、先程の事を経験していれば一発で俺が状況を理解していると誰だってわかる。大樹はわかんないかもだけど。
立ちあがり、手提げ鞄を肩からかけた。呪力をソナー代わりに辺りに巡らせれば引っかかるのは三つの呪力。呪力感知なんて本家じゃ本当にしていたかわからないが、まぁこんな力を持ったらしてみたくなるのが少年心というもので。気配を探ることだってできるが、それよりも遠い距離を探れるこれは結構有効だ。まぁ相手が呪力を持っていることが条件だし、デメリットとしては相手に勘付かれる可能性があるということ。
「とか思ってたらデメリット発動したね」
三つあるうちの一つの移動速度が速くなる。無意識に気がつかれたな、と理解してツリーハウスの外に出る。そこから跳躍、彼らが来る方向と反対方向へ術式を使って移動する。距離にして二キロほどだが、まぁ充分だ。張り巡らせていた呪力を散らせて、ホッと息を吐きながら地面に降り立った。
「あいて!? 石踏んだ!」
気ィ抜きすぎだ! 俺の馬鹿!! 他国に比べれば断然平和な日本じゃ無下限は要らないだろうけど、今じゃ原始に還ってしまった世界。自然という名前の危険がうじゃうじゃあるのだから常に無限を張り巡らせておくべきだ。まぁその前に裸足だから地面歩くのが痛いってのもあるけどな!!!
少し尖った石から離れて、深く刺さったのか血を流している足の裏を反転術式で治していく。地面に落ちる前に皮膚は塞がり、止血された。はぁーともう一度息を吐いて、俺は歩き出す。
「素手でライオン倒す高校生is何???」
あの場で宇宙を背負う猫ちゃんにならずに撤退した事を褒めて欲しい。だっていくら霊長類最強だと称えられてたとしても、それは比喩だって思うじゃん。霊長類とは言ってるけど、人間の中で最強なだけでゴリラには勝てないとかそういうね。だからいくら強くとも、格闘技とは違うルールなんて守ってくれない野生のライオン相手に圧倒するなんて誰が思うよ。
そもそもライオンはその見た目からはわからないが、百kgは優に超える体重を持っている。そしてその重さを苦にせず、獲物には飛び掛かり鋭い爪でホールドしてきたりするのだ。百キロだぞ? 百キロ! そんなのが飛びかかって来てみろ、殴ろうとしても手首どころか腕が折れるわ。
「いやー流石漫画世界。ちょっと人間やめ過ぎじゃね?」
俺? そりゃぁ“五条悟”だからな。本気出せば山なんて吹っ飛ぶぐらいのを出せるから、人間なんて生まれた瞬間からやめてる。まぁ対人戦でってなるとあの子に勝てるかはわからないけどね。戦ったことなんて生まれてこの方一度もないもので、対人戦のエキスパートが相手じゃぁね。
「そんじゃぁまぁ、晴れて自由だし?やるでしょ」
東京観光ならぬ石世界観光! フーゥ!!
「あっ、夕飯持って来れば良かった!」
京都。
それは日本を代表する一つの都市。
昔からある建物や文化を色濃く残すその場所は、この世界に生まれた俺にとっての故郷だった。“五条”の名の通り、縁があるのかはわからないけど確かに五条悟は京都人として生まれ落ちた。
京都は平地だ。そりゃ山もあるが、世間に知られる京都市は坂や下り坂なんてない。だからうん、3700年も経てば地殻変動で変わってもおかしくないだろうけど。
「……」
そんな京都市の隅、数多ある旅館の一つ。俺の実家があった場所にはもう。
「……何もないねぇ」
自然が広がるだけ。
両親には多分迷惑かけたと思う。物心付く前はわからないけど、ついた時にはもう“五条悟”を認識してそりゃぁもうクソガキに成り下がってたから。本家本元とは違って、気の良い両親だった。一人息子の俺が教師を目指すと言っても反対することなく寧ろ応援してくれたし、仕送りも欠かさず送ってくれた。何を食べたらそんなに良い奴になるんだってぐらいのお人好しでもあった。それであり経営者だったのだから、人とはわからないものだ。
従業員の方達も良い人達だった、両親とはかけ離れた容姿を持つ俺を遠巻きにせずに寧ろ構ってくれたのだから。
『さと坊! 今日もサボりですかい?』
『悟様はえらいしっかりしてはるなぁ』
『悟坊ちゃん』
『悟さん』
『悟様』
「丈治、谷、美樹、小葉、鈴華」
従業員達の名前を呟いていく。石となり見つけられたのはこの五人だけで、他は見つけられなかった。土の中にでも埋まってるんだろう、変に掘り起こすのも駄目だろうから触らない。
一歩一歩、辺りを散策する様に歩く。そうして最後に見つけられたのが。
『悟』
『悟は賢いねぇ』
「……父さん、母さん」
まるで互いを守るように抱き合って固まっている男女。初老を終えようとしている彼らの表情は驚いたものではあれど、悲観には暮れてはいなかった。楽観的だなぁ、なんて笑う。
「…………ま、あと数十年の我慢さ。3700年に比べたら一瞬だろ?」
素数なんて数えてたら良いんじゃないかな? 途中で飽きて寝ちゃってるだろうけど。
「俺はそんな賢くないからな、なんとかするのは千空だ」
彼なら成し遂げられるはずだ。
千空と大樹で過ごした一年間の中で何度も彼は確かめるように言っていた。全人類を助けるのだと、途方もない目標を掲げて石化を解除する復活液を作っていた。彼は天才だ。記憶力だけなら彼に並び立つ人たちはいるだろう、しかしその知識を活かし、そして行動に移し、ましてや成し遂げられる人は何人いるのだろうか。そしてそれを苦に思わず、逃げ出さず、最終地点が見えない道を走り続けられる人は一体どれだけいるだろうか。
彼の凄さはそこにある。知識ではない、行動力と有言実行をする力が彼の真髄。
「そんな彼が言ったんだ、これ程信用できる言葉はないよねぇ」
数十年、きっと君らと歳が同じくらいにになってしまうだろうけど。
「待っててよね」
「その時になればちゃんと弔うからさ」
上半身だけの彼らに俺はそう呟いた。