流星のロックマン Arrange The Original 3 作:悲傷
それでも戻ってくるつもりなので、その時はお付き合いください。
その後、ジャックたちはスバルたちと合流して、場所を変えた。ジャックたちに、電波人間3組に月男、元ジャミンガー軍団10人と、人数が大渋滞しているのが理由だ。目的地のホテル前に着いたら、アイの父親である滑田イサムまで出てきたのだから、さらに人口密度が増した。
「つまり、二つも事件が起こっていたということだね」
「うん、そうなるね。またロックマンに救って貰っちゃったね。ありがとう、スバルくん」
「いや、別にそんなつもりじゃ……」
滑田親子の目の前で、星河スバルは顔を赤くして俯いていた。ドリル女たちと行動を共にしていたこともあり、どうやら正体を誤魔化せなくなったらしい。
「なに俯いてんのよ。胸を張りなさいよ、胸を!」
「ルナちゃんの言う通りですよ。スバルくんはルナちゃんたちを守ったんですから!」
ドリル女の隣で、モードがピョンピョンと飛び跳ねている。
「いや、さっきも言ったけれど。僕たちが着いた時には終わってたよ」
「俺っちたちでもないチョキ」
「ないプク」
ガキと蟹が勝手に「うんうん」と頷ている。
「じゃあ、誰が私たちを助けたっていうのよ」
「オックスと……ゴン太と言ったかの? そこの2人ではないか?」
「そうじゃな。燃え跡のようなものが合ったしの」
クラウンというウィザードと、クローヌとかいう幽霊の予想は、当然のものと言えるだろう。あの場で炎を扱える者など、オックスぐらいしかいないのだから。そう、彼らが知らない一人を除いては。
「う~ん、俺たち電波変換はしたことねえぞ」
「ブロロ、あの窮地の中で、覚醒でもしたのか?」
「じゃあゴン太くんたちで決まりだね。ありがとう!」
「お、おう。アイちゃんを守れて、男として誇らしいぜ!」
ゴン太とオックスの頭の悪さに救われた。これで話は流れてくれるだろう。
「後はこの人たちの処遇ね」
ドリル女の言葉で、多数の視線が一か所に集まった。金田たちがビクリと背筋を伸ばした。
「た、頼む。見逃してくれ。もう響ミソラを襲ったりなんてしねえから……」
「当たり前のことだろ!」
スバルが明らかに苛立ちを見せていた。
「そもそも、アイと、アイの友達を傷つけたあなた達を許すわけないだろ。もうサテラポリスには通報してある」
「そ、そんな……」
それはジャックにとっても同じだった。さっさとこの場から立ち去る必要性が出てきた。どうしようかと考えていると、この場を乱すやつがしゃしゃり出てきた。
「YOYOYO! お前、敏腕マネージャーなんだってな!」
「ヒッ!」
皆をかき分けて、ムーン・ディザスターが前に出てきた。そして、とんでもないことを口にした。
「お前、俺のマネージャーになれYO!」
「……は?」
これは金田のみならず、この場にいた全員の言葉だった。
「さっき、あいつらから響ミソラの曲を紹介してもらったYO! すっごく良い曲だったYO! なので決めたYO! 俺様、響ミソラを超えるスターになるYO!」
多分、全員の頭の中が真っ白になったと思う。少なくとも、ジャックはそうだった。
「ってことで、お前は俺のマネージャーだYO! そしてお前ら、音楽について詳しいだろうYO!」
と、金田に組した者たちを指さした。
「え、はい」
「曲作ったことはあるけど……」
「ドラムなら自信ある……」
「私はギター……」
彼らがたどたどしく答えると、ムーン・ディザスターは一人で勝手にテンションを上げていった。
「いえい、決まり! ここにチーム、ムーン・ディザスターの誕生だYO! 一緒に、響ミソラを超えてやろうYO! そういう勝負なら、俺たち仲間だYO!」
響ミソラを超える。この一言で、彼らに熱が入ったらしい。
「そうか、そういう形で復讐できるのか!」
「私たちで、響ミソラに勝つ!」
「ギャフンと言わせてやりたいぜ!」
「俺やるよ!」
一人、おどおどしているのは金田だけだ。
「いや、お前ら。勝手に決め……」
「チーム、ムーン・ディザスター!」
ムーン・ディザスターが叫ぶと、歓声が上がった。金田の意思など、もう誰も聞いていなかった。
もちろん、ジャックたちは置いてけぼりだ。
「ドリル女、良いのかよ、これ?」
「私に訊かれても、困るわよ……」
その後、チーム、ムーン・ディザスターが響ミソラを超えることはなかったものの、一部界隈でカルト的人気を誇ることになるのだが、それはまた別の話である。
◇
「あ~……しんどい」
「お疲れ様、ジャック」
現在、ジャックはドリル女と共にウェーブライナーに乗っていた。スバルはキザマロから「体育館のピアノから多数の電波ウイルスが見つかった」と報告を受けて、そっちに向かった。ゴン太は滑田親子のところに泊まっていくらしい。ムーン・ディザスターは、クラウン・サンダー、キャンサー・バブルと共にどこかへと出かけて行った。響ミソラについて、色々と教わると言っていたが、どうでも良い。
幸いなことと言えば、サテラポリスが来る前に帰宅できたことくらいだろう。
「お疲れ様じゃねえよ。よくも散々突き合わせてくれたな」
「まあ良いじゃない。アイちゃんたちを助けることができたんだし。色々と丸く収まったじゃない」
「いや、何も良いことなんて……」
ここで今回の事を振り返ってみる。アイの本来の依頼だった問題は解決したし、ムーン・ディザスターたちは争うどころか友人になった。もう一つの事件があった物の、そいつらは無事に逮捕できた。
「……いや、良く収まったのか?」
「そうよ、これもルナルナ団の奮闘の成果よ」
いや、ドリル女は何もしてないだろ。という言葉を飲み込んだ。
「まあ、良かったな。これでお前の票が増えるんだろ?」
「ああ、今回は生徒会長選挙とは関係ないわよ。純粋に、アイちゃんの手助けをしに行っただけよ」
「え、そうなのか?」
てっきり、学校の生徒の誰かからの依頼なのかと思っていた。だが違ったらしい。
「じゃあお前……何も得してなくねえか?」
「え、なぜ?」
心底不思議そうな顔だった。
「アイちゃんたちを助けられた。ブラザーにだってなってくれたのよ。ジャックもブラザーバンドを結んで貰えば良かったじゃない」
ドリル女とスバルは、アイとブラザーになっていたが、当然ジャックは断った。
「いらねえよ、ブラザーなんて……」
「どうして? アイちゃんは凄くいい子よ」
確かに、良い奴だとは思う。男の趣味は最悪ではあるが……。だがそういう意味ではないのだ。
「ねえジャック。嬉しくない? 自分が何かをして、誰かが幸せになってくれたら」
「分からねえよ……それ」
「え……?」
気づくと、自分の気持ちを吐露していた。
「なんで、他人のためにそこまでするんだよ。結局、得をするのは他人で、お前じゃねえだろ。今回、お前は怪我しそうになったんだぞ。ジャミンガーに襲われて、怖い思いまでして……なのになんで……」
そう、割に合わない。必死に頑張って、得をするのは他人。自分に利益がない行動をとる理由が、ジャックにはさっぱり分からないのだ。それなのに、ドリル女はとんでもない言葉を口にした。
「う~ん……確かに怖かったけれど……それは仕方のないことじゃないかしら?」
「は?」
仕方がない。今、この女はそう言った。
「だって、襲われたことは予想できなかったことじゃない。道を歩いていたら、怖い目に合う確率なんて常にあるわ。今回はたまたま運が悪かっただけの話よ」
「たまたまって……」
そんなことで済まされるような話ではない。
「じゃあなんだ、お前……他人が助かるなら、自分が死んでもいいっていうのかよ!」
「いえ、それは無理よ」
「……だ、だよな」
流石にそんな聖人、いるわけがない。
「でもね、自分が危険な目に合うかもしれない。そんな理由で他人や……ましてや友達を助けない。そんな冷たい人に、私はなりたくないわ。少なくとも、そんな人には誰も……ゴン太もキザマロも……スバルくんも……ついて来てはくれないと思うわ。それこそ、生徒会長なんて夢のまた夢よ」
スバルの名前を呼ぶ時だけ、なんか声色が違った気がする。
「だから、私は人助けを続けるし、止めるつもりもないわ。そして私に憧れて、同じようなことをしてくれる人が増えたのなら……それって、素敵な事じゃないかしら?」
馬鹿げてる。それがジャックの感想だった。
「分からねえ、俺には分からねえよ……」
「ジャックだって、クインティア先生が困っていたら、助けるでしょ」
「当たり前だろ、姉弟だぞ」
「その気持ちを少しだけ。ほんの少しだけ他人にも使ってあげるの。簡単な事よ」
「無理だろ、そんなの……」
姉と他人を、どうやったら同列に扱えるのだろうか。できるわけがない。
「でも、今日のあなたは私を助けてくれたじゃない」
「お前が無理矢理突き合せたんだろ」
「違うわよ。手、引っ張ってくれたでしょ」
「え? あ……」
逃げる時に、ドリル女の手を掴んだことを思い出した。
「ありがとう。頼もしかったわよ」
「……おう」
なぜだろう、目を逸らしてしまった。
「ね、お礼を言われると嬉しいでしょ。他人を助けるって、素敵だと思わないかしら?」
「……そう、か?」
「もう、素直じゃないわね」
そんな会話をしているうちにコダマタウンに着いた。辺りはもう暗くなっていた。
「さあ、降りましょ」
「ああ……」
ドリル女に続いて、ようやくコダマタウンの地面に降りた。これでやっと帰れる。解放される。という気持ちは、簡単に裏切られた。
「あ、委員長、ジャック!」
声をかけられたのだ。ウェーブライナーの乗り場近くに、二人の人影があった。
「……スバル?」
一人は星河スバルだった。隣にいたのはカードショップの南国。隣にはサーフもいる。
「あら、珍しい組み合わせね」
「学校での用事が終わって帰ろうとしてたら、ちょうど南国さんに会ったんだ」
どうやら、体育館のピアノに巣くっていたウイルスたちは、無事に退治したらしい。
「スバルくんから、良いカード的なものの相談を受けていてね」
南国が説明している間に、スバルはジャックにカード差し出した。
「はい、あげるよ」
「え……?」
「南国さんから聞いたよ。接近戦用のバトルカードが欲しいんだって」
「え、お前……本当に覚えていたのかよ!」
南国に尋ねると、奇麗なサムズアップを返された。
「もちろん的な。特に今日初めて来てくれた、お客さんだからね」
「どんな客も、俺たちの波に乗せる。それがBIGWAVEだぜ!」
サーフが隣で同じくサムズアップをしていた。この乗りはどうにも苦手だ。
「というか、ジャック。早く受け取ったら?」
「え、あ、ああ、ありがとう」
思わずお礼を言ってしまった。カードには大きな鎌を持った、黒いウイルスが描かれていた。
「デスサイズ。鎌で斬りかかるのも良いけれど、自分と相手との間で鎌を回転させることで、盾代わりに使うこともできるんだ」
「そんな効果もあるのか……」
「俺はシンプルに使いやすい、エレキスラッシュとかで良いんじゃねえかって言ったんだがな……」
スバルの隣にウォーロックが出てきた。だがスバルは首を横に振った。
「あれは接近戦に自信がある人向けだよ。苦手な人は、敵に近づかれないような立ち回りをした方が良いと思ったんだ」
「さっすがスバルくん。センスの塊的な!」
「ほんと、俺たちもウカウカしてられねえぜ」
バトルカード専門ショップで営んでいる南国とサーフが褒めるということは、やはりスバルのセンスは本物らしい。
「どう、使えそう?」
「……ああ、使ってみる。いや、使いこなしてやるよ」
「その意気だよ。じゃあ、僕はそろそろ帰るね」
「私も、お父様とお母様を心配させるわけにはいかないしね」
「じゃあ、気をつけて的な」
「……ああ」
先ほどまでの井戸端会議が嘘かのように、あっさりと全員別れた。ドリル女はマンションの方へ、スバルと南国は並んで公園の方へと歩いて行った。それを見送って、ジャックも帰路についた。
「……ほんと、今日は色々あったな」
面倒な店員と関わってしまい、ドリル女に連行され、見知らぬ人への助力に突き合わされ、リゾート地で事件に巻き込まれ……。
「いや、ロクな事起きてねえじゃん。楽しいこと一つもねえじゃん!」
『そうだぜ、ジャック』
ハンターVGの中から、コーヴァスが話しかけてきた。
『こちとら、何の利益にもならねえことに付き合わされて、はたはた迷惑だったぜ』
「ああ、そうだな。良いことなんて何もない日だったな」
『本当にそう思ってんのか?』
「え?」
するとコーヴァスはハンターVGの中か出てきて、こう告げた。
「お前、悪い一日ではなかったって、顔してるぜ」
「……え?」
言葉を失った。自分は今、そんな腑抜けた顔をしていたのか。
そんなわけはない。だって今日は、嫌な事しかなかった日ではないか。
「あのドリル女たちを置いて逃げるどころか、助けてるしよ」
「いや、あれは……」
そう、見捨てれば良かったのだ。しょせん、友達でも何でもないのだから。
「なあジャック……」
コーヴァスはグイッと、その鋭い嘴と目を近づけてきた。
「お前、忘れてねえよな。俺たちの本当の目的を……」
するとどうだろう。すっとジャックの顔から、動揺が消えた。
「ああ、分かってるよ、コーヴァス」
そう、あの日誓ったのだ、姉と。
「忘れてねえよ……忘れられねえよ、絶対に……」
そのために行動しているのだ。そのためだけに、自分たちはあるのだ。
「安心してくれ、コーヴァス」
だから少年は手に持ったカードを……スバルがくれたバトルカードを地面に叩きつけた。
「俺はお前を裏切ったりなんてしない。力を貸してくれ」
「おう、それを聞いて安心したぜ」
変わらない。少年の目的は変わらない。
「ジャック。俺たちはあいつらとは違うだろ。他人のため? バカのすることだよ」
「その通りだ。俺は、俺のやりたいことをする」
空を見上げる。そこにある赤い星は、ただ瞬いていた。禍々しく、まるでジャックに語り掛けるかのように。
「俺が……俺の成し遂げたいことは……」
空に向かって少年は手を伸ばした。もうすぐ叶うのだ。自分は姉と共にある。
それが自分の……。
〇ジャミンガー
電波ウイルスと電波変換した人間の、成れの果て。
ウィザードと電波変換した電波人間と比べると、戦闘能力は大きく劣る。しかし、電波ウイルスよりかは強く、また知性もあるため、侮れない戦闘能力を持つ。ウイルスを使役したりできることも大きな特徴である。
電波ウイルスの攻撃性が人格に大きく反映されるため、主に犯罪者へと転落することが多い。また電波人間と比べて、人命を危険に晒す可能性が高いため、遊撃隊としては採用できない。
参照.ヨイリーレポートより抜粋