エヴァの呪縛について描かれていない抜け道を探しました。

時系列はエヴァQ直前です。
シンエヴァのネタバレを含みます。
独自解釈、捏造を含みます。


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触れ合い

コツコツと固い艦内の床を鳴らしながら歩く。

艦の外へと向かうこの通路は薄暗くいつも通り人影が無い。

だが、アタシにとってはエントリープラグへの道の次に通り慣れた場所だ。

 

「だ~れだ?」

 

こんなへんぴな場所で、いきなり後ろから目隠ししながら耳元でささやかれる。

こんなことをしてくる奴はAAAヴンダー(この艦)に一人しかいない。

 

「――コネメガネ」

 

「ピンポーンご名答!」

 

後ろを振り返るとやはりコネメガネだった。

タイトなプラグスーツでも解るほど豊満なソレを大きく揺らしながら楽しそうに笑顔を浮かべている。その様子はニマニマという言葉が1番しっくりくるだろうか、そんな彼女のおでこを軽くはじいた。

 

「いったあ~!?」

 

「はっ、ちょっかいかけてきたアンタが悪いのよ。じゃ、アタシは用があるから」

 

オーバーリアクションをとるアイツを無視してさっさと歩きだす。

あのコネメガネにいちいち構っていたら時間がいくらあっても足りないのは、長年の経験からも承知している。

 

「あーあ、せっかく忘れ物を届けに来たっていうのにつれないにゃ~」

 

「――忘れ物…?」

 

後ろから聞こえた言葉に思わず振り返ると、その手には銀色のオイルライターが乗せられていた。

そういや、とプラグスーツの上に羽織ったジャンパーのポケットを探るが、出てきたのは煙草だけ。

コネメガネの言う通り、どうやら本当に忘れ物を届けに来ただけのようだ。

けど、コイツに対して素直に感謝するのは何だか癪で、思わず心にもないことが口から出る。

 

「アンタ、さっきの時に取ったってんなら容赦しないわよ?」

 

「酷いにゃ~まったく。わたしが姫にそんなことすると思う?」

 

「思うし、したことあるから言ってんのよ。」

 

後ろから枝垂れかかるように抱きついてくるのを引きはがしながら答えると、あちゃ~一本取られちったと自分の頭を小突いた。

コイツ、リアクションとか変に古臭いのよね、と考えながら手の中のライターを奪い取る。

踵を返し、今度こそと歩き出した矢先に腕を掴まれた。

 

「何?今日のアンタちょっと…」

 

――しつこいわよ、と言おうとした。

しかし、そこにあったのは真面目な表情を浮かべたコネメガネ。

NERVとの戦いの最中でも鼻歌交じりに笑っている彼女の真面目な表情は、アタシの口をつぐませるのには十分で。

そして大事な話がある、というアタシ達の合図でもあった。

 

「――姫、最近煙草吸いに行く回数増えたよね?」

 

「…そんなこと、ないわ」

 

「なら何で目を逸らすのかにゃ?」

 

まるで、噓なんてお見通しだといわんばかりに、顔をずいと近づけてくる。

アタシは目を背けることしかできなかった。

コイツは、真希波・マリ・イラストリアスという人物はふざけているようで人をよく見ている。

日常生活でも戦いの中でも、コイツに助けられたことは多いし、感謝もしている。

()()()()()今はそのことに気づいてほしくなかった。

 

「…確かに少し多いかも知れない。けど、アンタには関係ないでしょ?まさかサクラみたいに健康が、とか言うんじゃないでしょうね?」

 

もうほぼ答え合わせのようなこの状況で、そんなことを口走ってしまう自分にも反吐が出る。

 

「――今更姫に健康がどうとか講釈垂れるわけじゃにゃいけどさ」

 

「じゃあ何だっていうの「3週間前」っ!」

 

”3週間前”、コネメガネのその言葉に思わず身体が反応してしまう。

 

「…その様子だと、わたしの予想は当たりみたいだにゃ」

 

悲しむような、憂うような声色の言葉にアタシはただ、黙ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――3週間前の今頃、アタシ達は艦長室に呼ばれていた。

 

「ねえ姫~、葛城艦長の大事な話って何だろうにゃ?」

 

「まず艦長室に呼ばれたのが初めてなのよ?検討もつかないわ」

 

「そおだけどさあ?ちょっとは予想しあうとかしよーよ」

 

「時間の無駄、興味ない」

 

つれないにゃあ、と言いながら腕を絡ませてくるコイツを無視しながら歩く。

話の内容自体に興味が無いわけじゃないが、ことミサト…葛城艦長の考えていることを予測するというのは無駄というものだろう。

とは言え、それはいつもならばのことであって、今回は初めて艦長室に呼ばれているのだ。

 

少し嫌な予感と、オンナのカンは当たるという、いつか聞いたような安っぽいフレーズが脳内でリフレインする。

そんなうざったいマイナス思考をかき消すように歩を早める。

 

「ほらチンタラしてるとおいてくわよ」

 

「あっ、待ってよ姫~!」

 

 

 

 

「――単刀直入に言うわ。()()()()()()()()()()が立ったわ」

 

「「!!!」」

 

開口一番、葛城艦長から爆弾発言が飛び出した。

ふと、隣を見るとさしものコイツも表情が強張っている。

 

「…アンタ、中々面白い顔してるわよ?」

 

「そういう姫こそ可愛い顔が台無しだにゃん」

 

確かにコイツの言う通りだろう。

恐らくアタシの顔は酷い表情を浮かべているに違いない。

だってそうだろう。なにせ――14年もの間この時を待ち続けたのだから。

 

「…勿論2人から質問はあると思う。だけどまず大筋を説明させてちょうだい。リツコ、よろしく」

 

ミサトの隣に立っていたリツコに合図すると、タブレット端末を操作しモニターに資料を映し出した。

おおよそ10分そこらの説明を聞き終え、最初に口を開いたのはコネメガネだった。

 

「つまりわたし達のどちらかが直接強襲、もう片方が射撃でアシスト、ってことで良いんだにゃ?」

 

「飲み込みが早くて助かるわ、マリ。…それでその役割をどうするかなんだけど」

 

「アタシが強襲を担当するわ」

 

ミサトの言葉に被せるように答える。

コネメガネが何か言いたそうだったがそれを手で制止し、葛城艦長の方を向いた。

 

「葛城艦長、それでいいわよね?」

 

「――ええ、問題ないわ」

 

そう言って葛城艦長は椅子から立ち上がる。

 

「初号機及び初号機パイロット強奪作戦、通称US作戦の編成は強襲担当をアスカ、射撃担当をマリとし、作戦決行は今から一月後とする。パイロット両名、何か質問は?」

 

「ないわ」

 

「…ない、にゃ」

 

「ではご苦労、詳細は追ってこちらから連絡します。」

 

 

 

 

アスカ、マリの居なくなった艦長室でリツコはミサトと向き合っていた。

 

「副長として聞きます。葛城艦長、本当にアスカを初号機強襲担当にさせて良かったの?」

 

「アスカのバランス能力と根性、マリの射撃力と安定性を加味するとこれが最適だと判断しました」

 

「そう…。なら()()として聞くわ。アスカを初号機パイロット――いえ、シンジくん強奪を平常心で行えると思っているの?1発勝負、失敗は許されないのよ?」

 

大きな溜息をもらしながらミサトは背もたれに体重を預けた。

 

「…相変わらず、痛いとこ突いてくるわね」

 

「それが私の役目ですもの」

 

いつも冷静沈着な友人に感謝しつつも、今回ばかりはそれを言葉にすることができない。

ミサトは先ほどの資料に視線を落として、小さく言葉をこぼす。

 

「あの子を止める資格なんて私達には無い…そうでしょ?」

 

「…ええ、そうね」

 

――2人、いや元NERV職員ならば全員忘れることのないあの惨劇。

14年ぶりに訪れた精算をする機会を奪う合理的判断は、ミサトには出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「ひーめ!姫ってば!聞いてる?」

 

耳をつんざくコネメガネの声。

恐らくだが、少し思考の海にトリップしてたのだろう。

 

「うるさい、聞いてるっての。――ちょっと考え事してただけ」

 

「人は考え事してても返事ぐらいできると思うんだけどにゃ?」

 

「――人って、アタシ達はもうリリンじゃ…ごめん。今のはアタシが悪かった」

 

話しきる前に自分の過ちに気づく。

アタシ達の間に交わされたった1つの約束事、自分をリリンとして扱うこと。

まるで猫のように気ままに生きる彼女が唯一重視することだった。

 

さっきからなんだアタシは…。

醜態を晒してばかりじゃないか、…これじゃまるでガキみた―「ひーめ」。

 

声を聴いて顔を上げると、その優し気な声と同じくらい優しい笑みを浮かべていた。

そして人差し指と中指を口の前に持っていって―。

 

「ちょっと一服いっとく?」

 

「―やっぱアンタ年寄り臭いわよ?」

 

その能天気な振る舞いは、今はありがたかった。

 

 

 

「ぅげぇ!やっぱタバコって苦手だにゃ~」

 

「ははは、やっぱりアンタお子ちゃまかもね」

 

体全体で煙草への拒絶反応を示すコネメガネを尻目に煙草に火をつけ、大きく吸い込んだ。

いつもより多く舞い込んだそれは喉を刺激して、舌に()()()()()()

 

「しっかしよく発見したねえ。食べ物は胃が拒絶しても、肺を使う煙草ならって。確か、ケンケンだっけ?」

 

コネメガネの問いかけに口から紫煙を燻らせながら頷いた。

エヴァに乗り続けた影響によって体内が人ならざるものへと変化した。

過程であらゆるものが奪われた。

 

体の成長、生理、睡眠、食事、人の営みというものをすべて奪われたアタシは壊れかけた――いや実際壊れていたのだと思う。

それでも人の適応力は凄まじく、恐らく半年もしないうちに慣れてしまった。

 

そして今から何年か前、ケンケンのお父さんが亡くなった時、身辺整理を手伝っていた時に発覚したのだった。

 

『ちょっと試してみようか』

『初めから諦めるのは式波らしくないぞ』

『良かったじゃないか!え、いや泣いてなんかないぞ!こ、これは…』

『貰ってやってくれ。その方が親父もきっと喜ぶさ』

 

その時の情景は今でもしっかり脳に刻み込まれている。

その時のケンケンは自分より喜んでいたわね。

 

「あーなんかニヤニヤしてる!姫さっきまでわんこ君のことで悩んでたのに、別のオトコのこと考えてるでしょ?悪いオンナだにゃ~?」

 

「う、うるさいわね!何考えてようがアタシの勝手でしょ!それに14年間引きこもりのあのバカと今も生存者の役に立ってるケンケンは月とスッポンよ!」

 

そう言うとコネメガネはまたニヤニヤと笑みを浮かべる。

まるでそれは14年前の学校でよく見かけた――。

 

「おあいにく様、ケンケンに恋愛感情は一切ないわよ」

 

「わたしはまだ何も言ってにゃいんだけど~?」

 

「顔が言ってんのよ顔が」

 

その顔に煙を吹きかけるとまるで水をかけた猫のようにフニャー!と飛びのいた。

ふん、勝手に人の思考を読もうとする悪猫にはいい気味だわ。

 

ふと煙草をみるとフィルターの際まで燃焼している。

まだストックがあるとはいえ、大事な物資だ。

無論最後まで吸いきる。

 

「痛てて~メガネが無かったら即死だったにゃ。」

 

「あらコネメガネ、死んだかと思ったわ」

 

「ひどいにゃ~まったく。ま、そこが姫のいいところなんだけどね!」

 

「良く分かってんじゃない。さ、そろそろ仕事に戻るわよ」

 

「あいあいさー!…で、最後にこれだけ質問なんだけどさ。わんこ君には恋愛感情あんの?」

 

煙攻撃を警戒してか、さっきより距離をとりながら聞いてくるのを、愚問だと鼻で笑う。

そしてアイツがいるであろう空を見上げて叫んだ。

 

「それを確かめに行くのよ。待ってなさいよバカシンジ!」

 

 

 




お久しぶりです。

エタっていたのですが、シンエヴァを見て居ても立っても居られないって感じで書き始めました。急いで書いたので誤字脱字あるかもです…すいません。

相も変わらずエヴァ+煙草の世界観を押し通してますが、気に入ってくださる方が1人でもいて下さったら幸いです。


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