気づけば私は、小さな村にいた。
私だけではない、ここにいる全員がそうだった。
しかし誰も驚かない。「ここ」は、そういう世界なのだ。
我々はたった今、この村とともに生まれた。発生した、という方が正しいだろうか。
ここはMinecraft。私は、名前もない村人としてこのキューブの世界に生まれ落ちた。
――
突然に生まれた我々は、戸惑うことなく生活を開始する。
昼は与えられた仕事を全うするか散歩し、夜はモンスターから身を守り眠る。
ときには流浪の旅人と取引を行う事だろう。
それだけでよかった。それが村人としての我々の存在意義だった。
おそらく近くに旅人がいるのだろう。
だからこそ我々は生まれたのだ。もしかしたら近いうちにこの村を訪れてくるかもしれない。
そんな小さな予感は的中し、私は後に目の当たりにすることとなる。災害とも呼べるほどの悪魔の所業を。
――
旅人は変わった風貌をしていた。
日焼けのない白い肌、薄ピンク色の髪、そしてエメラルドのような澄んだ碧い瞳。
全身を鎧で固めた、気のよさそうな青年だった。
少年ははしゃいでいた。村中を走り回る姿はまるで幼子のようで可愛らしかったのを覚えている。
しかしそんな景色は一瞬で豹変した。
突然襲撃者が現れた。
本当に突然だった。我々はなすすべもなく蹂躙された。旅人が応戦しなんとか退けてくれたが、当初6~7人いた村人達は私を含めたったの二人だけになってしまった。
私は絶望の底に打ち落とされた。短い間ではあったが、苦楽を共にしてきた仲だったのだ。
そんな心中の折、旅人は我々を移動させる。
モンスターから身を守れるようシェルターを作ってくれたらしい。
促されるまま我々2人はシェルターに入ることとなった。
そこは地下であった。地面をくり抜いただけの簡素な作りではあったが、ベッドはたくさんある。天井がガラス張りなのは少々気になったが、そういうセンスなのだろう。村人2人が住むのには十分すぎる広さであるし、何より我々のためにここまでしてくれたのかと思うと嬉しくなった。
だが違和感が残る。急遽作ったにしては広すぎる。5~6人は余裕ではいるスペースだ。それにベッドも多い。まるで何かほかに用途があるかのようだ。いやな予感がした。
――
いやな予感は的中した。我々はそのまま軟禁された。
旅人が何か言っている。私は戦慄した。
ここは「5人以上にならないと出られない部屋」。いわゆるハッ・場であった。
――
我々村人は男しかいない。女はいない。ついでにいえば神もいないのだろう、いたらこんな状況にはなっていない。いたら恨むぞ。神よ。
だが条件が整うと男同士の間にでも子供が生まれる。妊娠というプロセスはない。コウノトリがキャベツ畑から運んでくるわけでもなく、2人が望めばその場に瞬間的に発生するのだ。不思議だがそういうものらしい。
我々は子供を産んだ。何人も産んだ。子供が成長したらその子らとも子供を産む事もあった。国が国なら犯罪者だ。警察沙汰だ。無論この世界に警察はいない。神もいない。
ともかく村人は6人になった。これで解放される。そう思った。
しかし解放されたのはたった1人だった。
――え?
戸惑いを隠せない。5人以上になれば全員が解放される。そう信じていた。
しかし現実は非情だった。解放されたのは1人だけ。しかも出られるのもランダムなようだ。
ここは常に5人前後が軟禁され、それを超えると解放される。
村人の数を増やすためなのだろう。しかし、しかしだ。
――出られない――
その考えが脳裏を支配した。
絶対に出られない訳ではない。だが確率が低い。1人や2人産んでもまた自分以外が出される可能性の方が高い。そして、そう考えたのは自分だけではなかった。周りの者達もまた、そう考えていた。
ここで生まれた者達もそうだ。この環境しか知らずとも、生まれた以上、いずれ生まれる役割を全うしたいと考えるはずだ。ここで子供を産み続ける事が役割など、あっていいはずがない。
そこからは早かった。次々と新たな子供達がうまれていった。そこには愛など無かった。いや、それははじめから無かったか。少なくとも私はホモではない。ホモサピエンスかどうかさえ怪しいレベルだ。
旅人は次々と子供達を解放していった。私とここに入ったもう1人は少し前に解放された。
外は外で悲惨らしいと教えてくれた。拳を強く握り、ゆるせへん...と怒りをあらわにしていた。
だがここよりは幾分はマシだろう。
私は今日も子作りに励む。それは更なる地獄に身を投じる事になるとは、夢にも思わない。