ドラゴンクエストⅪ異伝「過ぎ去りし時と赤髪の射手」   作:いろはにぼうし

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シルビアの豆知識

旅芸人としての航海中に、一人の人間を救助する。
酷く困った様子のその人物を、彼は放っておけなかったようだ。



第一話『騎士の国の出会い』

「あーあ、こんなことになるとはなぁ…」

 

 

 

 サマディー王国、ウマレース会場。

 その観覧席にて、盗賊カミュはため息をついた。

 探し求めた『大樹の枝』―――正確には虹色の枝というらしい———それがこの国に国宝として存在したのはラッキーだったが、この国の王子、ファーリスにそれを逆手に取られ、虹色の枝が欲しければウマに乗れない自分の代わりにレースに参加しろ、と半ば強引に持ち掛けられた。

 

 

 

 

 そんな脅迫まがいの要求を、我らが勇者様は二つ返事で引き受け、今や王子の影武者となって民たちの声援にこたえている。

 

 

 

 

 といっても、もちろん彼は王子ではないし、そのような場での立ち振る舞いなど知るわけもないので、ウマの上から半端に手を挙げては、すぐにウィン、と手綱に戻すという出来損ないのキラーマシンのような動きをしていた。

 それでいてなんだか楽しそうな雰囲気が伝わってくるので始末が悪い。

 

 

 

 

 

「‥‥イレブンったら、なんだか楽しそう。あのへっぽこ王子の影武者なんてやらされてるのに」

「イレブン様はもともと馬に乗るのがお好きなようでしたから、無理もありませんわ。お姉さま」

 

 

 

 

 

 隣で同じく勇者を見やる仲間の魔法使いベロニカと双子の妹セーニャもあきれたように笑っている。もっとも、セーニャに関して言えば純粋にイレブンが楽しんでいるのがうれしいようだが。

 

 

 

 付き合いの短い二人にさえ察せられるとは、自分の相棒は案外わかりやすいやつなのかもしれない。そう思ったとき、ある騎手がイレブンの横についた。

 

 

(・・・あいつは)

 あの派手な格好。見覚えがある。昨日の夜、ファーリス王子が密談の場に提供したサーカスで、派手なパフォーマンスで大喝采を受けていた旅芸人だ。名前は確か、シルビア、と言っただろうか。

 ここからだと何を言っているかわからない。が、イレブンになにやら耳打ちしているように見える。

 

 

 

 

(おいおい。俺たちがお尋ね者だって勘づいてんじゃないだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、イレブンとカミュは大国デルカダールから追われる身だ。本来ならこんな目立つレースに出場するべきではない。世界を旅する旅芸人なら、デルカダールと何かしらのパイプを持っている可能性だってある。

 

 

 

 

 

(くそ、ここからだと何をいってるかわからねぇ!)

 

 

 

 

 

 

 カミュは念のため、もう少し前の席に移動しようと決めた。

 隣にいるベロニカに声をかける。

 

 

 

 

「おい、もうちょっと前の席に移動するぞ。あいつらがなに話してるか確認しねぇとな」

「なによあんた。イレブンの保護者のつもり? そういう兄っ風急に吹かすと嫌われるわよ?」

「ちげぇよバカ! 今の俺たちの状況を考えろ!」

「ここでも十分レースなら見られるじゃない。欲張りねぇ」

「カミュ様。ほかの方々も見ていらっしゃるんですから、横入りなんかしてはだめですよ。ここで一緒にイレブン様を応援しましょう?」

「暢気すぎんだろお前ら!?」

 

 

 

 あまりに話の通じない仲間たちにカミュが頭を抱えていると。

 

 

 

 

 

 

「あ…あの。よ、よかったら、ぼ、ぼくと変わります?」

 

 

 

 

 

 おずおずと、手前の席に座る、フードで顔を隠した小柄な人物から声をかけられた。

 カミュたちの席とそこまで変わらないが、それでも少しだけ前に詰めることができる。

 けれど、あまりに弱弱しい声に、カミュは気勢をそがれた。

 

 

 

 

「お、おう。悪かったな騒いじまって。気使わなくていい。俺たちはここから見物するから」

「で、でもお困りみたいですし…」

「いいのよ、お嬢ちゃん。こんなわがままなひよっこに気を使わなくて。ね!」

 

 

 

 

 隣からベロニカが茶々を入れる。小柄な人物は自分より明らかに年下に見えるベロニカに『お嬢ちゃん』呼ばわりされて戸惑っているようだった。

 

 

 

 

「お、お嬢ちゃん‥?あの、僕‥」

「あー気にすんな。このぐらいのガキんちょは背伸びしたがるもんなんだよ」

「そ、そっか‥。あ、ありがとう。き、君、ドラキーキャンデー食べる? ぼ、僕が作ったドラキーの形の飴なんだけど‥」

 

 

 

 

 小柄な人物はおずおずとふところから小さな棒つきキャンデーを差し出した。

 とてもよくできている、とカミュは感心したが子ども扱いされたベロニカは顔をびっくりサタンと同じ色にしながら怒鳴った。

 

 

 

 

「いらないわよ! 子ども扱いしないで頂戴!!特にあんた!」

 

 

 

 

 最後はビシっとカミュを指さした。

 カミュはそれ受け、軽くいなそうとする。

 

と、そこにひゅう、と突風が吹いた。

 

「きゃ」

 とっさにスカートを抑えるセーニャ。幸いにも風はすぐにやみ、モノが飛んできたりはしなかった、が、カミュの背後からファサ、と音がした。

 

 

「っ、う、あ…」

 

 

 と、ベロニカの表情が一変した。口をパクパクとさせカミュの後ろを凝視している。

 次いでセーニャ。「まぁ…」と感嘆の息を漏らして、同じくカミュの背後を見つめている。

「あん? なんだよいったい‥」

 そういってカミュは振り返る。

 

 

 

 そして、驚愕に目を見開いた。

 

 

 

 

 

 風でフードがはずれ、先ほどベロニカに飴を与えようとしていた人物の顔があらわになっていた。

 

 ぐす、と嗚咽を漏らしながら目に涙をためるその顔。

 

 軽くウェーブがかった美しい赤い髪。長いまつげに隠れた緑色の瞳からはぽろぽろとしずくが零れ落ちる。

 

 

 10人が10人、彼女の姿を見れば美しいと言うだろう。

 カミュは、ここにいるセーニャも美しい部類にはいると思うが、目の前の彼女からはそれとは違う、儚さのような美しさを感じていた。

 

 

 

 あまりの美しさに衝撃を受けた三人が固まっていると

 

 

 

 

「ご、ごめんなさい‥いやだったよね? ぼ、僕みたいなリップス似の蛆虫みたいなやつからもらったお菓子なんて‥食べたくないよね‥?」

 

 

 

 リップス要素がどこにあるのか。

 リップスが1,000回転生してもこうはならない。

 

 

 

 見かねたカミュが傍らのベロニカの頭を軽く小突く。

 

 

 

 

「お、おい、もらってやれって」

「な、なによ! 私が悪いっていうの!?」

「悪いだろこの場合は。はたから見たら俺たち完全にいじめっ子じゃねぇか」

「で、でも私別に甘いものなんて…せ、セーニャ! あんた甘いもの好きでしょ!? もらってあげなさいよ!」

「えっ? いいんですのお姉さま。せっかくこの方がお姉さまにと…」

「い、いいから! もらってあげなさい!」

 

 

 

 

 

 どこの世界も、妹は姉には勝てない。

 セーニャはおずおずと赤髪の少女に声をかけた。

 

 

 

 

 

「では、えっと。お名前はなんとおっしゃるのでしょう?」

「ぐすっ‥僕ですか? 僕は…『ロゼ』。今は『ロゼ』です」

「ロゼ様ですね? ではロゼ様。そのドラちゃんキャンデー、いただいてもよろしいでしょうか?」

「ど、ドラキーキャンデーですけど‥ど、どうぞ」

 そういって差し出される、包み紙に包まれたドラキー型の飴。

 セーニャは、それを受け取った。

「ありがとうございます。後でいただきますわ」

「は、はい。お口に合えば、幸い、です‥」

 そういってロゼは深々とフードをかぶり、小声で「すみません、すみません」とつぶやきながら視線をレース場へと向けた。

 

(なんだこいつ。顔と性格のバランスがめちゃくちゃだぜ)

 カミュは髪をぐしぐしとかきながらため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウマレース、ファーリス杯がファーリス王子1着、シルビア2着という結果に終わってから数時間後。

 

 ロゼは自らの恩人が客演しているサーカスの座長が用意してくれた宿屋の一室で目の前の人物の話をベッドに腰掛けながら聞いていた。

 

「それでね、聞いてよロゼちゃん。せっかく楽しい勝負ができたから王子様にあいさつに行こうと思って控室に飛び込んだら、王子さまったらウマが得意な別の男の子と入れ替わって『ずる』してたのよぉ。ひどいと思わない?せっかくアタシが正々堂々戦ったっていうのに」

 

「そ、そうですね。ぼ、僕もずるはよくないと思います」

 

「でしょう!? やっぱりロゼちゃんはいい子ねぇ。あのお坊ちゃんにも見習ってほしいくらいだわ!」

「あ、あはは」

 

 ロゼは乾いた笑いを浮かべた。

 

 

 

「あ、でもねでもね、ロゼちゃん。その代走してた男の子、すっごくまっすぐな目をしてたのよ。髪の毛もサラサラだったし、とってもかわいいの! ロゼちゃんにも合わせてあげたかったわぁ。きっとあなたも気に入るわよ」

「ぼ、僕はそんな。シルビアさんみたいな人に助けてもらえたのだって奇跡なのに。これ以上いい人に出会えるわけ」

「何言ってるの! 人の数だけ出会いはあるし、ロゼちゃんみたいにいい子ならいい男が放っておかないわ!」

 

 

 シルビアが力説をはじめ、ロゼがまた、あはは、とぎこちなく笑った。

 と、その時宿の外から声が聞こえた。

 

 

 

「伝令! 伝令!!」

 

 

 

 どうやら王宮の騎士たちが声高に叫んでいるようだ。

「砂漠に現れた魔蟲、砂漠の殺し屋『デスコピオン』をファーリス王子が生け捕りにされることが決まった! 皆、ファーリス王子の勇気と、揺らぐことない騎士の心をたたえ、お見送りするように!」

 

 

 その内容を聞いた民衆たちが、わっ、と歓声をあげファーリス王子万歳、万歳と声をあげた。

 

 思わず駆け寄って窓の外を見たロゼはぽつりと声を出した。

 

 

「ず、ずるした王子様。すごい人気ですね」

「そうねぇ。きっと今までうまいことごまかしてきたんでしょうね。でも馬にも乗れないお坊ちゃんが、砂漠の殺し屋を生け捕りなんて‥」

「さ、砂漠の殺し屋…。ど、どんな魔物なんですか?」

「バクラバ砂丘にある魔蟲の住処って場所に現れるとってもおっきなサソリちゃんなんですって。毎年毎年現れては悪さをする困ったちゃんらしいわ。すっごく手ごわいって噂よ」

「そ、そんな怖い魔物のところに行くなんて、ずるはしてもすごく勇気ある王子様なんですね」

「どうかしらねぇ…大方また…。‥‥そうだわ! いいこと思いついちゃった!! ロゼちゃん! ちょっとついてきて! 座長に話をつけにいきましょう!」

 

 シルビアはロゼの手をつかみ、ともに部屋を飛び出した。

 ロゼのほうは、「え?え?え?」と状況を呑み込めないまま部屋から連れ出されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しの時が流れ、サマディー王国正門前。

強力な助っ人を得たことで全身スライムがごとく真っ青になっていたファーリス王子はその調子のよさを取り戻し、兵士たちを先導して意気揚々と砂漠へと踏み出していった。

 

 その背を見ながら、カミュは忌々し気につぶやく。

 

「ったく。調子づきやがって。イレブン、あんなヘボ王子の八百長なんて、断ってもよかったんじゃねぇか」

 

 それに対して、サラサラのストレートヘアを揺らしながら、勇者イレブンは

 

「でも、デスコピオンにみんな困ってるのはほんとみたいだし。生け捕りを手伝えば虹色の枝も譲ってもらえるみたいだよ」

 

 いいことづくめじゃない、などとのんきに笑うイレブンにカミュははぁ、とため息をついた。

 

「まぁ、オレはお前の相棒だからな。お前がやるっていうなら付き合うけどよ」

「うん、ありがとうカミュ。カミュがいてくれると心強いよ」

「おま、そんなまっすぐ恥ずかしげもないことを」

「え?だってホントのことだよ。カミュだけじゃない、ベロニカとセーニャも僕のわがままに付き合ってくれてありがとう」

 

 邪気なく仲間に感謝を述べ続けるイレブンに、一緒にいたベロニカはふん、と鼻を鳴らし

 

「まぁ。あんなダメ王子でも死なれたら寝覚めが悪いしね。この天才魔法使いベロニカ様に任せときなさい!」

 

 と胸を張って答えた。セーニャもまた、

 

「勇者様をお守りするのが私たちの務め。どこであろうとご一緒ですわ」

 と言ってほほ笑んだ。

 

 その言葉にありがとう、と返しながらイレブンが王子一行に追いつこうと歩を踏み出したとき。

 

「ねぇー!! サソリちゃんを捕まえにいくんでしょう!? アタシたちも、まーぜーて!」

 

 突然 どこからか声がした。

 声の主を探してあたりを見回していると

 

「こっちよ、こっちこっち!」

 

 と再び声をかけられた。振り向くと、正門横のアヌビスの像の頭上に、見たことのある顔が見えた。

「あ、あの時の」

 イレブンがぽつり、とつぶやいた。

 

「とう!」

 声の主、シルビアは持ち前の身のこなしでアヌビスの上からイレブンたちの前に着地した。

 

 物音ひとつなく静かに着地した彼は、余裕綽々とばかりにウインクを飛ばす。

 

 最初に彼の主張に反発したのは、カミュだった。

 

「サソリちゃん、なんて楽しいもんじゃないぜ。大体、サーカスのほうはどうすんだよ」

「サーカスよりもあのお坊ちゃんのことが気になってねぇ。それにアタシたちも砂漠には用があるの。ねぇ、いっしょに行っていいでしょ?」

 

 

「うん。いいよ」

 

 

「「イレブン!?」」

 

 迷うことなく二つ返事で了承する勇者。カミュとベロニカが同時に声を荒げた。

「バカ! 何でもかんでも「はい」「はい」言うんじゃねぇよ!」

「でもこの人きっと強いよ。力になってくれそう」

「だとしてもいきなり現れて魔物退治についていく、なんて怪しすぎるじゃない!!」

「そうかな?悪いことをしてるわけじゃないんだし、いいと思うけど」

 

 がくがくと二人がかりで首をゆすられても、お人好しのイレブンの意見は変わらない。

 それを見てシルビアはクスクスと笑いながら言った。

 

「あなたならそう言ってくれると思ったわ。じゃあ、『あの子』のことも紹介しておくわね」

「あの子?」

「言ったでしょ? アタシ『たち』って」

 

 そういってシルビアが後ろに視線を送る。

 イレブンたちが振り返ると、そこにはフードにすっぽり顔を隠した赤髪の人物がたっていた。

 

「まぁ、ロゼ様!先ほどぶりですね。飴、とってもおいしかったです!」

「あ、あ…、そ、そうですか。え、えへへ」

 

 セーニャがふわりと笑ってお礼をいうと、ロゼは照れたようにはにかんだ。

 

「ロ、ロゼ!? お前…この旅芸人の仲間だったのか!?」

「そうよ。ロゼちゃんはアタシの大事なナ・カ・マ」

 

 カミュの驚愕にシルビアがおどけた様子で返した。

 

「ってちょっと! まさかロゼも一緒に連れて行く気!?」

 ベロニカの叫びにシルビアは

「そうよ。 あら?いけなかったかしら?」

 と不思議そうに答えた。慌てたようにベロニカが続ける。

 

「駄目よ! 危ないじゃない! こんな女の子連れていけないわ!」

「お前が言うなよ、ちびっこ。でもそうだぜおっさん。仲間ってんならなおさら」

 

「? やぁねぇ、もう。なに勘違いしてるのよ。ロゼちゃんはとっても可愛いしちょっと人より怖がりだけど、ちゃんと戦えるわ。アタシが保証してあげる。それに…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その子、男の子よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「…え?」」」」

 

 イレブン、カミュ、ベロニカ、セーニャの声が重なった。

 

 ロゼはそれを見て「あ、あの紛らわしくてすみません…」と言って、困ったように目を伏せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ロゼの豆知識


 絶世の美少女のような外見を持つが、れっきとした男性。
 自分の容姿はリップス、もしくはブルーイーターレベルだと思っている。

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