呪術廻戦 and U 作:来宵
早速誤字。抹殺と抹消間違えた。修正しました。
あと、パパ黒とのやり取りが作者の意図しない誤解が出そうだったのでちょっと修正しました。
刀の一撃を回避し、ラスターステップガードで反撃する。
始まったのは超高速の戦い。
男の速度は目を見張るものがあるが、アストラルで強化した私も引けを取ってはいない。
加えて速度の出やすいのラスタークラスで戦っていること、そしてバーランスタイル特有の斬撃に伴う光波の射出も相手の攻撃のタイミングを潰していった。
離脱しようとすれば射撃で追撃し、手間取っているうちに私の間合いに詰める。
多彩な攻撃手段を間髪を容れず連続で繰り出し、回避さえもステップスライドアドバンスとして攻撃に繋げる。
この戦い方は男と相性が良いのか、おかげで相手はほとんど防戦に徹して能動的に攻めることができない。
とはいえ、こちらも気を抜けない。
男が単純に強いのもあるが、特段気をつけているのは、奴が持つ短刀の反撃だ。
正確な効果は知らないが、先ほど夏油の呪霊の攻撃を打ち消していたことから、術式に対して特攻能力が付与されているかもしれない。
短刀の斬撃はガンスラッシュで受けず、アストラルで使い捨ての剣を形成して迎え撃った。やはり特殊な呪力が篭っているのか、反発を受けたアストラル剣がたったの一撃で形を保てなくなり、霧散する。
(攻撃の指向性を持たせたアストラルが簡単に撃ち負けるとは、随分と上等な呪具だ)
中距離まで離れた男を追いかけるようにムーブ・ホローポイントとエンハンスアタックを叩き込むが、弾丸が跳弾する前に全て叩き落とされ、さらに距離を離された。
「クッソ、マジでやりにくい相手だなっ!」
「張り合いがあって良かったね」
やりにくいのはお互い様でしょ。
男に追い詰められている様子はない。まだ笑って悪態を付く余裕があるのだ。
確かに、私は男に一方的に攻撃をしているが、タロンシュナイデルの反撃以来、一度も傷を負わせることが出来ていない。攻めているのに攻めきれない。
「理子ちゃんはもう結界の中だ。高専外部の結界をどうやってすり抜けたかは知らないが、お前の目的はもう果たせない。諦めたらどうだ?」
「まだ日も暮れてねーのに何言ってんだ? んなのは星漿体が同化してから言えよ」
この諦めの悪さからして、天元の結界を破る当てはあるということか。
「ふん、この先に行きたくば、私を倒してからにするんだな」
最も、殺られる気も通す気もないが。
銃口を向け、イベイトシュート。容易く避けられる。
だが想定内だ。出方を見て次の攻撃手段を選ぶ。
私の周囲をぐるぐると周りながら高速移動をしだしたので、無属性のエンハンスシュートで連射を続ける。
弾丸は全てアストラルで構成されているので燃費はかなり悪いが、消費しながら晦冥が溜め込んだ呪力を常に変換し続けるので弾切れは心配ない。
(全く何度も何度も。私の動体視力でも当たらないってどういうことだ)
当たっている弾丸もあるのだが、刀で切り伏せられているか、あの短刀でかき消されている。
埒が明かない。とはいえ、私の目的は同化が始まる日没までの時間稼ぎだ。状況は私に有利なのは変わらない。
その時、男の呪霊が大量の蠅頭を吐き出した。
「っ! 邪魔だ!」
迫る蠅頭を全方位への斬撃で切り落とすが、数が多すぎる。
範囲の広いステイ・スラッグスキャッターのエンハンスアタックで雑魚を一掃していると、蠅頭の群れの中から何かが高速で飛んできた。咄嗟にそれをガンスラッシュでガードする。
「これはっ!」
鎖に繋げられた短刀が深く銃身に突き刺さっていた。
次の瞬間、握っていたグリップの感覚がなくなり、武器が霧散して晦冥の霧に戻っていく。
武器の強化のために内部を循環させていたアストラルも行き場を失い、周囲に弾ける。余波で巻き込まれた周辺の蠅頭が溶け消えた。
短刀が回収されていく。鎖の先を辿って男を探せば、奴は既に天内を追って屋根を伝いながら大樹へ向かっていた。
「行かせるか!!」
手にファントムロッドを握り、ラ・フォイエを放つ。座標指定型の炎属性テクニックだ。
男のすぐ傍で爆発が起きる。だが、奴の五感が直前の空間の変異を捉えたのか、直前に上に飛び上がり、爆風で更に前進の後押しをしてしまった。
空中に投げ出された体を、男は鎖を建物に射出することで引き寄せ、再び屋根に降り立つと再度走り出す。
どんどんその姿が遠くなっていくが、
「私の視界に入っている限り
ラ・フォイエ、当たらない。
グランツ、当たらない。
サ・バータ、当たらない。
扱い慣れた座標指定型のテクニックを
男はテクニックをやり過ごすために避けたり、例の短刀で打ち消したりと、一進一退を繰り返しているが、確実に前に進んでいた。
こうしてテクニックを放っている間にも、
ラ・フォイエ、ラ・フォイエ、ラ・フォイエ、ラ・フォイエ。
「ラ・フォイエっ!! ——うぁッ」
視界がスパークする。
頭が真っ白に染まり、平衡感覚がなくなる。体が倒れてしまう前に、その場にしゃがみ込んだ。
明滅する視界で足元を見やれば、ポタポタと赤い雫が垂れている。鼻を触ると手にも赤色が付着した。どうやら鼻血が出ているようだ。
(クソ、無茶しすぎたか)
ファントムクラスとラスタークラスを同時に使用し、テクニックも同時展開・乱発したことで脳の処理が追いつかなくなったらしい。
「ぐぅ、レスタ!」
テクニックの使いすぎで生じた脳のダメージを、
僅かな間に男はもう大樹のすぐ近くに迫り、勢いのまま結界を壊すためか短刀を繋げた鎖を振り回していた。
あれが投擲される前に、止めなくては。
当たらないなら、追尾を。 射程も長いホーミングエミッションなら……!
晦冥に素早くアサルトライフルのイメージを送る。間に合うか?
いや、これは間に合わな——、
その時、男の体が空中に放り出された。
「……何?」
あの引き寄せる術式は。
入口を見る。
「五条!」
そこには、全身を血で染めながら立つ五条がいた。
男は持っている短刀で五条の術式を打ち消したのか、完全には引き寄せられず、私から少し離れた屋根に降りた。
「マジか……!」
奴も想定外の登場人物に随分と驚いているようだ。
確かに、五条の様相はパッと見るだけでもかなりの深手を負っていたのが分かる。今、生きているのが不思議なほどに。
「大マジ、このとーりピンピンだよ」
「反転術式!!」
五条が髪をかきあげて傷跡を見せる。男が思い至ったように声を上げた。
家入の治療が間に合ったのかと考えたが、五条が次々と生き延びた経緯を暴露するので、直ぐにそれが彼の自力だと判明する。
(つーか五条の眼がイってんだけど。リサみたいになってんだけど)
「お前の敗因は俺の首を切り落とさなかったこと、そしてその呪具を使わなかったことだ」
ハイになった五条が男を指差して嘲った。
「敗因? 勝負はこれからだろ」
「あ゛ー、そうか? そうだな、そうかもなァ!!」
そのやり取りが再戦のゴングとなったのか。男は五条に肉薄し、フェイントを交えて短刀の一撃を繰り出した。五条は術式を展開して宙に浮いてそれを避ける。
そして逆さまのまま、掌印を組んだ。
「術式反転・赫」
弾き出された無限が男を弾丸のように吹き飛ばした。
(えーー……、なにあれ、えー、五条ナニアレー。人間が鉄砲玉になってんじゃん、ええ……)
瀕死で死んだかも知れないと心配した先輩が、とんでもないレベルアップして帰ってきた。
もう、唖然とするしかないよね。
「全く、死にかけて覚醒とか主人公かよ」
私はその場で片膝を立てて座り込み、頬杖をついて観戦することにした。
いやあ、だって絶対私の存在忘れてるでしょ、奴ら。なんなら男も自分の目的忘れてるでしょ。五条もあんな調子じゃ、私の時間稼ぎも、もう終わりでしょ。
決着はすぐに着いた。五条が虚式・茈という見たことのない技を使用して。
それまで私のすべての攻撃を避けていた男も、流石に対処できなかったらしい。片腕と胴体の半分を失って倒れた。
「見えない攻撃か……初見で避けろっていうのが無茶ぶりだな」
原型を残しているだけでも大したものだ。
戦い終えた五条は男といくつかやり取りをする。男には言い残すことがないとのことで直ぐに終わったが。
そこでようやく私の存在を思い出したのか、五条が文字通り飛んできた、空中を。
「傑と天内は!?」
「両方とも無傷だよ。既に奥に行ってる」
親指で背後の大樹を指し示すと、五条はそのまま飛んで行った。
私には一言もなしかよ。まぁ、鼻血も止まっているし無傷だが。
「よっと……。上にはまだ蠅頭が沢山いそうだし、掃討の手伝いにでも行くか」
立ち上がって制服についた埃を払う。屋根を伝って最短距離で入口近くの石畳に降り立つ。
「…………んーー……。まだ生きている音がする……」
この耳にずっと届くのだ、鼓動が。
聞きたくなくても勝手に音が耳に入ってくるのはもう慣れた。
この死に際の荒い息遣いは無視をするのも忍びない。
男は地面に転がっていた。背後の壁がいくつも円形に抉れており、天与呪縛の肉体を持ってしても耐えられなかった虚式の凄まじさを物語っている。
「驚いたな。本当に生きているとは」
側に寄って覗き込む。
下半身が千切れ、両腕など既にない。心臓と肺が辛うじて残っているからまだ息をしているだけ。
「ああ……て、めぇ、か……」
意識もあるようだ。息も絶え絶えに男は私を視界に収めた。
「五条、に……やられはしたが、てめえも、なかなか手強かったぜ……」
「お世辞はどーも」
「世辞、じゃねえ。俺、と同じでも……でめえは術式を、持ってる……」
ハハ、と吐息で笑った。
「呪力、じゃねえ。別の力、使ってるだろ……」
「………………」
「良かったな、恵まれて……。こんなクソ、みたいな世界、で、精々、長生きすんだな……」
「……なんだそれ」
最後に吐くのは恨み言じゃないって、なんだそれ。
コイツ、変な奴だな。
「ああ、思い、出した……」
「あん?」
「言い残し、あったわ……」
「は? ちょっと、五条じゃなくて私に言うの!?」
「もうてめえしかいねーだろ……。伝言で、いい。
「分かったよ……じゃあ、生きてるうちにさっさと言え」
ちょっと様子を見るはずが、ここまでしっかりと見取り役をする羽目になるとは。
「二、三年すれば……俺の、ガキが、禅院家に売られる」
うん?
「——好きにしろ」
…………ハァ?
「なに、あんた子持ちだったの」
「………………」
男は空中を見つめたまま答えない。
「売られるって……母親は?」
「………………」
「売ろうとしてたのも大概だけど、殺そうとした相手に自分の子供を好きにさせようとはな」
「………………」
「おい、もうその命捨てるのか」
「………………」
「死んだふりすんな」
返答しない男の頭を小突く。何度も小突く。
「……んだよ、う、っとうしい。静かに、死なせろよ」
「自分の子供を売れるんだ。今は自分の命も捨てるんだろ」
「もう……死ぬ、しかねーヤツに、何言ってんだ」
「そうか。そうだね。じゃあ、死ぬつもりならその体、どうしようが私の勝手で良いよね」
「あぁ……解剖、でも、なんでも……」
「そ。解剖していいの。何してもいいってことは絶対服従ってことね」
「変なこと、言うな、ァ……お前……」
「いいから答えろ」
「………………」
「コラ、死んだふりすんな」
小突く。二回目のやり取りだぞ、これ。
「……まじウルセー。俺の死に際、こんなのかよ……」
「で、どうなの」
「もう、好きにしろ……」
「そ、じゃあ縛りの言質はもらったからな……」
「…………あ?」
私は男に向かって笑った。その瞳に、あくどい笑みを浮かべる少女が映っている。
「恵まれた体質に感謝しろ」
————レスタ。
◆
伏黒甚爾は呆然と己の体を見下ろしていた。
五体満足に修復された、その体を。
先程まで伏黒は確かに五条によって体は両断され、肺の半ばから上が辛うじて残っていた状態だった。そんな通常なら即死状態でも、伏黒の天与呪縛の恩恵は伏黒を生かし続け、死に際を引き伸ばし続けていた。
既に感覚が麻痺していたのか、痛みも感じなかった。それだけ死の淵に近いということだ。
あとは逝くのを待つだけだと思っていたら、先程まで戦っていた少女が覗き込んできた。
開けているだけの目でも、視界に入れば、頭も自然とその顔を認識する。
「驚いたな。本当に生きているとは」
「ああ……て、めぇ、か……」
その気もなかったのに、気が付いたら会話をしていた。
後から思えば、それが運の尽きだったのか。
伏黒も伏黒で、少女に思うところがあった。
伏黒の感覚では確かに少女には呪力はなく、伏黒にも迫るその身体能力は天与呪縛のフィジカルギフテッドだと認めさせるには十分だった。
夏油が星漿体を連れて撤退する時、少女は伏黒を止めてみせた。全力の伏黒を、だ。
内心称えると同時に、その一瞬で伏黒は少女では自分に及ばないことも見抜いていた。
男女の差なのか、年の差なのか、ただの才能の差か。
同じ体質の人間に会ったのも初めてなので、何がその差異を生んだのかは定かではないが、邪魔するならさっさと殺して星漿体を奪おうと考えていた。
それが、蓋を開けてみれば一撃を喰らい、一方的に攻撃されて始終防御と回避を強いられようとは。
見くびっていた身体能力も、どんな手を使ったのか逆に伏黒を上回っている。
やがて伏黒は少女に呪力とは別の力を感じ取った。いくら呪霊を使役した特殊な武器でも少女の戦闘方法は特殊すぎた。
謎の力は、彼の人並み外れている五感だけで導かれたのではなく、優れた第六感もその存在をヒシヒシと訴えていた。
確信したのは、少女が魔法じみた力を使ってきたからか。
少女との戦闘は足止めを食らうだけで意味がないと割り切って、保険で残しておいた蠅頭を嗾けて振り切ることにした。
フィジカルギフテッドは基本的に近距離戦闘だ。少女の場合、近距離に加え、遠距離に片足突っ込んだ中距離での戦闘だったが、流石にこれだけ離れれば為すすべもないだろうと。
果たしてその目論見は外れた。
想定外の力を持ってして。
星漿体を追うため、屋根伝いに駆け抜けていた時、ふとチリと空気が熱を持った気がした。直感に従って真上に飛べば、先程までいた空間が爆発する。
あの時は冷や汗がびっしょりと背中を流れたよなぁ、と後から何度も振り返って伏黒は思う。
幸い、爆発を利用して更に距離を稼げたが、そこから更に爆発爆発爆発、爆発の嵐。
地雷でも踏んでるのか、それとも戦闘機の絨毯爆撃か、と思うような爆炎が伏黒を襲う。
それこそ、これまで経験したことがないほど必死に避けた。途中からは瓦礫の被害は無視した。
時には白く輝く矢の群れや、尖った氷の柱の群れが襲いかかってきた。建物の陰に隠れても建物ごと爆破してくる。
ここにいるのは己と少女のみ。ならばこの攻撃は少女が仕掛けているに違いなかった。
少女が背後で宣言した通り、奴の視界に入っている限りこの攻撃は続くのだ。
冗談じゃねえ、と伏黒は思った。
自分と同じ呪術も使えねえ猿だと思った人間が、そこらの術師以上に呪術を使えてんじゃねえか。
あんな奴、やっぱ相手してらんねー。
五条のように事前に情報を集めて対策したわけでもない、夏油のように近接戦闘で仕留めることも出来ない。ぽっと出の危険人物は無視に限る。
星漿体まであと少し、という所で復活した五条がやってきてしまったが。
覚醒した五条が登場した時点で、伏黒は今回の任務を諦めた。
ただでさえ危険視していた男と、謎の力を使役する女。こんな二人を相手に何とか振り切って、苦労して星漿体を攫ったところで退路が見いだせるはずがない。
任務失敗で多少信用は落ちるだろうが、命には変えられない。
五条の挑発に乗ったフリをして逃走をするつもりだった。結果は惨敗。
五条との戦闘は正直あまり覚えていない。一瞬にして終わったからだ。
だから伏黒としては五条よりも、逃げ回る伏黒に脅威を叩き付け続けた少女に対しての方が忌避感が強かった。
逆説的に言えば、自分と同じはずの少女が、同じじゃないなら、自分が見れなかったものを見れるのかもしれないとも思った。
こいつなら、俺が捨てた
だから死に際、こんなことを言ってしまっていた。
「良かったな、恵まれて……。こんなクソ、みたいな世界、で、精々、長生きすんだな……」
そして、
「言い残し、あったわ……」
「二、三年すれば……俺の、ガキが、禅院家に売られる」
「——好きにしろ」
これが一番の失言だったのだろう。
そっからクソメンドくせえやり取りを、少女に強いられるまま伏黒は付き合い……。
「レスタ」
その結果が、この五体満足な体、というわけだ。
「おい、俺は夢でも見てんのか?」
「本当に夢に沈めてやろうか?」
信じられない気持ちで投げかけた質問を少女はバッサリと切り捨てた。
「いや、反転術式でもここまで完全に修復できねえだろ」
事実、五条の額には傷跡が残っていた。だが己のこの体には傷跡一つなく、両断されていた胸元を探っても繋ぎ目もなければ、抉られて消失した肉も不自然に盛り上がっていない。
「私もここまで上手くいくとは思っていなかったよ。初めて自分以外の同じ体質の人間にレスタを使ったけど、意外となんとかなるんだな。最も、あんたの元の体なんか知らないから、原型のあった下半身を繋ぎ直して足りない部分の補強に留めたけど。しばらくは他人の体みたいで気持ち悪いかもね」
言われて確かめれば、確かに戦闘で消失した腕や腹の辺りに少し違和感を感じる。感覚が鈍いわけではないが、どうにも慣れない。だが、それも少し
「んで、俺にこんなことをして、アンタどういうつもりだ」
「どういうつもり、って……死にかけていたから覚えていないのか? お前は私に絶対服従することになるんだ、私のために奉仕をしなさい」
「覚えてるっつーの。俺を使って何したいんだよ。テメェも俺をヒモにしてぇのか」
「は? ヒモ? 何言ってんだ、キモ」
「あ゛あ゛?」
ここ数年、伏黒の女との付き合い方と言えばそれしかない。しかもいつも女の方から寄ってきた。
その弊害か高校生相手にヒモ発言、伏黒の常識も随分と狂っていた。
最もこの業界に常識を求めるものなど、安藤くらいだが。
「勘違いするな、お前を助けたのはお前のためでも、ましてや曖昧な正義のためでもない。単にお前に利用価値を見出したのと……ミジンコにも満たない理由だが、最終的に天内も五条も殺せなかったからだ」
「殺せなかったからだと?」
伏黒も少女が伏黒に同情して命を与えたなどとは露ほども考えていない。いないが、最後の理由は癪に障る。
「敵だったのは変わりない。結果的に殺せなかったから許すなんてつもりもない。だからその命を繋ぐために精々役に立つと証明するが良い」
実に遺憾だが、ここまでくれば少女との付き合いは長くなりそうなのは想像に難くない。
(こいつとは合わねえな……)
「お前の使い道は沢山ある。特殊な体質に高い戦闘能力。モルモットにしても良いし、任務のお供にしても、金ヅルにしても良い。なんたって好きにしろといったのはお前自身だからな」
「……マジかよ」
「マジマジ、大マジ」
「………………マジかよ……」
まさかあの言葉がこんなことになるとは。天与呪縛だからには伏黒も縛りは適用される。伏黒自身も情報開示による能力の底上げは手軽さもあり頻繁に使用してきた。
だから、この少女との間に取り交わされた縛りが間違いなく存在し、破ればただでは済まないことも理解している。
どうせ死ぬからと、少女の煩わしさに結んでしまった完全服従の縛り。適当に返事したとしても同意したのは伏黒本人だ。そして代わりに与えられたのは、命。縛りの対価としては十分。
「ハァ…………」
伏黒は盛大に溜息を吐いた。本当に勘弁願いたい内容だが、感情が嫌がっても、頭はこの縛りの正当性を認めてしまった。
「さて、やっとちゃんと現状を理解できたね?」
「……おう」
「そっかそっか、じゃあ早速今後の方針だけど、とりま養育費でも稼いできなよ」
「……あ?」
さらりと出された命令に眉を寄せる。
「子供を置いて死ぬなんてダメでしょー。売るほど困窮しているなら自慢のその体で働きなさい」
「よりによって俺にそれを求めるのかよ……」
(この女、やけに俺の
伏黒が少女の本音を推測する。面倒だが彼女の目的を探ればやりようはあるかもしれない。切り替えが早いのか伏黒は早速これからの生活改善の算段を付けようとしていた。
「私もこれからお前をどうやって高専に認めさせるか考えるからさ。頑張ってね、パーパ♪」
「…………オェ……」
パパ呼ばわりされてガチめに吐きそうになった伏黒は、ガチめの拳骨を落とされて暫く生死の堺を彷徨った。
陥没したと思われた頭蓋骨は、起きた頃には跡形もなく治っていた。
伏黒はやはりそれを夢だと思うことにした。
◆
2006年 春某日 日没後 星漿体同化完了
星漿体護衛及び抹消任務
【完遂】
パパ黒生存です。