呪術廻戦 and U   作:来宵

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11.高専一年生 青春不可侵条約

 大変失礼な(ナメた)態度を取ってくれやがった男、名を伏黒甚爾と言うらしい。複雑な立場のため、この騒ぎの鎮圧を手伝わせるのも目を離すのもできないので、一旦お眠りいただいた。邪魔だし(本音)。

 うう~ん、ちょっと硬いものが凹んだ気がするので治しておこう。

 晦冥に適当な呪霊を模した個体を生み出させ、それに伏黒を呑み込ませて連れて行く。

 辛うじて瀕死状態から脱している黒井も回収し、救護班に預ける。運ばれる怪我人を反転術式で治療する家入の姿も確認できた。

 

(蠅頭ばかりとは言えここには一年生もいるからなあ……)

 

 単体ならともかくこれだけ群れとなっていれば怪我くらいは負うか。

 この時期は忙しいので出払っている術師が多く、まだまだ蠅頭は残っている。見晴らしのよいところでツインマシンガンなどの銃器を装備し、片っ端から殲滅していく。

 

 日が暮れたあと、しばらくして五条と夏油が地上に上がってきた。

 天内同化のギリギリまで付き添っていたようだが、何かあったのだろうか。五条は明らかに不機嫌だし、夏油も珍しくイライラしているのが見て取れる。

 任務成功とは言え内心が複雑なのは想像がつくが、それとはまた別の要因のような気がした。

 

「どうした、クズども。珍しく機嫌が悪いな」

「「…………」」

 

 家入が激務後の一服をしながら遠慮なく切り込む。ここ一応教育機関なのですが?

 

「……別に」

 

 家入の問いにも答えず黙ったままだった二人だが、やっと口を開いたと思ったらこれだ。

 ふむ……これが消沈の裏返しなら慰めるのが普通なのだろうが、生憎と私にそれは向いていない。

 

「元々この任務の終着点は見えていただろう? 何かあったのか、言ってみろ」

 

 まさか護衛対象に同情をしすぎて落ち込んでいます、ってところなのか? いくら仲良くしていたとは言え、この二人がそこまで割り切りできないとは思えないが……。

 

「ちょっと予想以上に後味が悪くてね……私が未熟なだけさ」

 

 苦笑する夏油。五条はもう何かを口にする気もないようなので、夏油からことの次第を聞く。

 

 実は薨星宮(こうせいぐう)本殿で伏黒に襲撃される前、天内は同化を拒否していたらしい。もっと皆と一緒にいたい、と。

 だが、結局は保護をしてもらうため大樹まで行ってしまった。駆けつけた五条と合流したあと、天元と敵対するのも覚悟の上で天内を連れ戻そうとしたところ、これがあっさりと許可が下りてしまったらしい。

 どうも天内の他にも星漿体は存在しているらしく、既にその場に届けられていた。年端もいかない赤子だ。

 そんな存在を目の当たりにして天内が引き下がるはずがなかった。

 選ぶ権利がある自分と違い、判断もできない子を身代わりにはできない、と。そう言って、天内は結局同化の道を選ぶことにした。

 

「そっか……二人共、お疲れ」

 

 話を聞き終えると、家入はそれだけ言って支給された飲み物を二人に渡す。

 私は途中から相槌を打つこともできず、ただ飲料水を流し込んでいた。

 

「……じゃ、私はいろいろあって疲れたから少し休む。色々報告もあるし、また後で」

 

 空になった紙コップを捨てて、一足先に部屋に戻る。

 傍らに付いてくる晦冥の呪霊模倣体を見て、ああ、この中に入っている奴のことも報告しないとなぁ、なんて。

 

 気が付けば壁に拳を打ち付けていた。

 なんだ、割り切れていないのは私の方だったのか。

 

「何が……自己犠牲と違う、だ」

 

 天内が同化を拒否した時点で。

 天内が半ば囮にされていた時点で。

 天内が他の星漿体を庇って同化に臨んだ時点で。

 

 ——それはもう、ただの、自己犠牲だ。

 

 

 ◆

 

 

「指導!!」

「いだいっ!!」

 

 骨同士がぶつかる鈍い音が響いた。

 遠慮なく頭部に落とされたのは夜蛾の拳骨。頭に手を当てる私の目の前で、夜蛾の方が余程痛そうに拳をさすっている。

 

「ったく、よりによって今回の騒動の主犯格を生かすとはな!」

「も、申し訳ない……ですけど!」

「あ゛あ゛!?」

「ですけど! 流石に事前に相談をするような時間はなかったっていうか、コイツ今でこそ五体満足ですけど、さっきまでほんっとうに死にかけていたんですって!!」

 

 ビシ、と床にあぐらで堂々と座り込む伏黒を指差す。当事者のくせに我関せず、と床の木目を数え出している始末。それ面白いと思ってやってんのか、おお?

 

「それに関しては俺も証言できるぜ。なんせ、瀕死に追い込んだのは俺だし」

 

 五条がフォローしてくれた。だが非常に嫌そうに伏黒をみやり、不満げに私に目を移すと説明を求めてきた。

 

「流石にあの状態から完全復帰するとは思わなかったけど。どうやった、安藤?」

 

 今、私たちがいるのは高専に数ある道場の一つ。夜蛾と面談をしたのと同じ場所だ。

 自室で気分転換した後、重要な相談があるとして夜蛾を呼び出し、伏黒と面識のある五条と夏油にも同席をしてもらった。

 夜蛾も私の雰囲気から大事になると予見していたのか、人の寄り付かない道場を貸し切って人払いも済ませてくれた。私も念の為に晦冥に周囲を捜索させて人がいないのを確認してから、呪霊模倣体に呑み込ませていた伏黒を吐き出させた。

 呪霊から人体がデロン、とまろび出たのはとてもシュールだった。

 寝ていた伏黒を文字通り叩き起してやった後、彼はさっさと状況把握を済ませると、何を考えているのか、大人しく一言も発さずに待機している。

 

「簡単だよ、レスタを使ったんだ」

「レスタ、って悟の指を溶かした……?」

 

 去年のことを思い返したのか、確認を取る夏油に頷く。

 

「そう。あれは五条が持つ呪力に私のアストラルが反発した結果だからね。本来レスタは人体を修復する効果がある」

 

 反発するものがなければ問題ない。ならば、私と同じ体質の伏黒も本来の効果が見込める。

 軽く説明をしてやると、全員神妙な表情になった。

 

「話に聞いていたが、反転術式と同じものだと思っていた。だが条件さえ合えは四肢さえも復元できるとはとんでもないな。反転術式でもここまで完全には修復できない」

 

 夜蛾がしみじみとあごひげ摩りながら感想を口にするが、その条件ってのがとんでもなく達成しにくいんだよ。

 レスタの恩恵は私が身を持って知っている。出来れば誰にでも使用できるようにしたいが、この世界の人間は一般人に至るまで呪力を持つのが普通だ。

 打開の構想はある程度あるが、家入にお借りした実験用ラットを既に何匹かただの肉に変えてしまっているので実用にはまだ遠い。

 

「ったく、ヤローどもにジロジロ見られる趣味はねえよ」

 

 今まで沈黙を貫いていた伏黒が耐えかねたのか文句を言った。まぁ、修復されたのを見るためとは言え、それだけ観察されればね。特に五条の六眼を向けられている時が一番居心地悪そう。

 

「それで夜蛾先生、本題なのですが」

 

 伏黒が使える状態に復帰した理由を説明するのは良いが、それよりも進めておくべき事項がある。

 即ち、今後の伏黒の扱いだ。私の希望としては当初の予定通り、私の下に付かせて任務を任せたい。そしてその特殊な体質を私と比較し、様々な検証を行いたいことを伝える。

 

「それにどうもこの男、子持ちらしく。自分が死ぬのを良いことに子供を好きにしろと言ってきたので、どうせなら本人に養育費でも稼がせようかと考えています」

「子持ち……まぁ、お前の考えは大体わかった。だが事はそう簡単には運ばないだろう。こいつが悪名高い『術師殺し』であるのもそうだが、離縁したとは言え、禅院家出身だ。御三家も関わってくるとなりゃあ、な」

「……禅院?」

 

 夜蛾の苦言は最もだ。それは予想していたことだが……禅院出身とは。この粗暴な男が呪術界の名家(エリート)出身だと?

 

「ハッ、その名で呼ぶんじゃねえよ。とっくの昔に婿に入ってるっつの」

 

 笑いながら悪態を吐いている様子を見るにあながち冗談でもないらしい。

 

「あーー! 思い出した! すんげえ前にちらっと見かけた変なオッサンじゃん! なんも呪力がねーからレアキャラとか思ってたんだった!」

「——チッ」

 

 また五条が何か言いだしたな。伏黒も伏黒で舌打ちしているし、こいつらも初対面じゃないのか。世間せま。

 

「ま、術師殺しだかなんだか知んねーが、今は縛りで安藤に絶対服従なんだろ? いいんじゃね、強いし便利に使ってやれば。俺も上に納得させるのに手ェ貸してやるよ」

「五条……確かに君が手伝ってくれるのなら御三家の一つを味方にしたも同然だが……どういう風の吹き回しだ?」

 

 星漿体を巡る一連の任務で一番命の危機に貧していたのは五条だ。死に際に反転術式を習得できなければ今この場に立つことも叶わなかった。そんな人間の前にノコノコと伏黒を連れてきたの、私だって少し抵抗感があったのに。

 

「別に何も企んじゃいねーよ。コイツと()った俺だからその強さは分かっている。敵対していたとしても今はそうじゃない。便利な手駒が出来たと考えれば良いだろ。それに……単純にお前の言いなりってのが面白そう」

 

 ……それ、最後の理由が大半だろ。

 

「優ちゃん、私は反対だ」

「夏油先輩?」

 

 今まで成り行きを見ていた夏油が進み出た。

 

「その男が強いのは認めよう。だが、その男がどこまで君の命令に忠実なのかはまだ定かではない。縛りを交わしたというが、どこに穴があるかはわからない。今は大人しいのは従順なふりをしているだけで、虎視眈々と反逆を狙っているのかもしれない」

 

 ふむ、夏油の指摘はあってしかるべきだ。

 だが、問題ない。それは私も対策を考えている。

 

「夏油先輩の憂慮はごもっとも。それに対する措置もあるので今から実践するよ」

 

 他人同士の利害による縛りを破った際の罰は計り知れない。

 今回の縛りの対価で伏黒に与えたのは命そのものと評しても過言ではない。

 ならば、縛りを破った罰もそれに則したものであると考えて良いだろう。私と伏黒の間に取り交わされた誓約が果たして正常に機能するかどうか、それが危惧されるのなら不安要素を『確実』に変えれば良い。

 

 伏黒に目線を合わせるために片膝をつく。

 

「少しじっとしててね」

 

 その首に手を当て、指先から放出したアストラルを操作して結晶化していく。

 やがてその首にカーマイン色のリングが嵌められた。チョーカーにも首輪にも見える。素材としては晦冥の指輪を覆っているのと同じものだ。

 

「これで私の任意でその首が飛ぶ」

「っ!?」

 

 反射的なのだろう、伏黒は首元に手を当てると恨めしげに睨んできた。

 いやいや、別にこれは私の趣味でもなんでもなくて、君のためなんだよ。

 

「それは決して壊れない。壊そうとすれば君の命もなくなると思え。あるいは万が一壊れたとしても、それは君に対する攻撃を開始する。伏黒甚爾、君は私と縛りを交わしたが危険因子には変わりない。であれば、首輪(それ)があるからこそ生きていられると思え」

 

 私の任意のタイミング、あるいはリングが破壊されたとき、リングを創造するのに使用されたアストラルのエネルギー分、テクニックによる攻撃が発生する。

 結晶化するほどのアストラルをあの大きさで仕立て上げたんだ、いくら天与呪縛の強靭な肉体をもってしても、首と胴体が泣き分かれるのは確実。周囲への被害を避けるために攻撃の指向性を整えているけど……それでも接近していると巻き込みは免れないかも。

 全く、必要な措置とはいえ、我ながら人権もなにもあったもんじゃないね。

 

 因みに強度は安心安全の宇宙(アークス)規格、流石に隕石を落とせば壊れるけど、逃れるために壊すとしたら本末転倒だね。

 作成するのにどれほど晦冥の呪力を消費したことか……これまで地道に溜め込んだ努力を考えると頭が痛くなる。

 

「さて、これでどう? 夏油先輩。夜蛾先生も気になっていたでしょう?」

 

 目に見えない縛りより、目に見える戒めを。

 流石にここまでされれば十分のようだ。夏油はそれで引き下がった。

 

「悟も傑も納得したようだな。さて、最後に俺からだ」

 

 まだ……ありますか……。

 

「禅院甚爾——いや、今は伏黒甚爾か。その危険性は今ここで話に上がったと通り。伏黒を伴うなら……優、これまで俺たちが逸らしてきた君への注目が集まるのは確実だろう。いくら俺たちが屁理屈で誤魔化そうが、伏黒を任せる若い術師の調査を上が抜かるとは思えない。伏黒を従えるに至る経緯、今後制御できる根拠を説明するにはその力の一端を明かさねばならない。悟が後ろ盾として上層部への口添えをするとしても、もう隠せないのは……覚悟できているな?」

 

 思わず苦笑する。

 

「ええ、もちろん。伏黒(かれ)を生かすと決めた時から、そうなると思っていましたよ」

 

 きっと今回も無理をすれば何とか隠し通せるのかもしれない。だが、これから先も露見する機会はいくらでもある。だからこそ、夜蛾も私が目立たないように匿うのは自身が学長に就任するまで、と期限を儲けた。恐らくそれが限界だから。

 そうして彼らが幾重にも施してくれた目隠しを、私は盛大に破いてしまった訳だ。

 

「どうせこうなるのなら、最初から下手な言い訳はしなかったほうがよかったかもしれませんね。……皆が時間をかけて根回しをしてくれていたのに……このような形で台無しにして申し訳ない」

 

 そう、これは自業自得。

 ならば、そのツケを払うのも私であるべきだ。

 

 これまで直接関わるのを避けてきた呪術会の上層部、私の力を知ったところで何処まで排除にかかってくるかは不明だが……秘匿死刑とやらをされる以上に私の有用性を示してやれば良い。

 上層部に危険視される可能性があるということは、裏を返せば役立つということだ。

 

「あなた達は優しいからまた私の為に動いてくれるのでしょう。でも、それには及びません。私が上層部を説得し、私の、そしてこの伏黒の命も守る」

 

 それでも尚、何者かが私の死を望むのなら。

 その時は、私の死をもってして秘匿死刑を敢行する以上の爆弾(デメリット)を落としてやる。

 

 全てを語らずとも、私の『覚悟』を感じ取ったのだろう。その場に痛いほどの沈黙が流れる。

 自然と伏せられた視線の先、伏黒は何か考え込んでいるようだ。

 切り替えが早そうに見えて、やはり自身の命ともなると色々複雑な心境なのだろうか。

 

 その時、空気の揺らぎを感じたと思ったら、ふ、と視界が影で暗くなる。

 ポンと肩に手を置かれ、すぐに遠慮なくバシバシと背を叩かれた。

 

「辛気くせー、水くせー、めんどくせー」

「……は?」

 

 あまりの言いよう。見上げた先にはサングラスを指でずらし、六眼を覗かせた五条がいた。片目を閉じて実にいい笑顔を浮かべている。

 

「お前はお前で腐ったミカンどもに啖呵切って、俺も俺でお前の側につく、それで良いだろ!」

「五条……」

「ひどい言いようだね、悟。私だっているだろ」

 

 続いて進み出た夏油。ずっと固くしていた表情を微笑みに変えていた。

 

「……優ちゃん、確かに今回のことは私もまだ飲み込め切れていない。でもね、そこの男は気に入らなくても、私は優ちゃんの味方であることには変わりないよ。内政のゴタゴタじゃあ悟ほど役に立たないが、私も一級術師として助力はできる」

「夏油、先輩……」

 

 顔を見合わせた二人は揃って笑った。

 

「そゆこと。感謝しろよー安藤。俺たち最強コンビがお前のために一肌脱いでやろうつってんだぜ?」

「悟のわがままは今に始まった事じゃないし、優ちゃんのこともゴリ押しで解決するかもね」

 

 ……なんだか……こそばゆいな。

 

「おい、お前ら勝手に話進めんな。もっと教師も頼れ!」

 

 ああ、これは一体どこの青春ドラマだ? こんなこと……そういえばアークス時代も呆れるほどあったなあ。

 

「フフ、それなら遠慮なく頼りにさせてもらうよ、先輩方、夜蛾先生」

 

 本当、皆、お人好しだ。

 

「ハッ、お前、やっぱり恵まれてんな」

 

 伏黒がニヤリ、と唇を釣り上げている。

 

 うん、そうだね。私はずっと人に恵まれているよ。

 前世も、——今世も。

 

 

 ◆

 

 

 ところで、伏黒ってカーマイン色マジで似合わねーな。

 

 

 ◆

 

 

 その数日後、開かれた上層部の会合に私と伏黒は参加した。

 五条は五条家としての参加だが、障子の向こうではなく私たちと同じ立ち位置だった。

 

 ほとんど尋問と同様のような時間だったが、五条の煽り口調と上層部のやりとりはまさに地獄絵図としか言い様がない。

 私も舐められないようにある程度毅然と対応したが、ご老人たちとの価値観が違いすぎて、こいつらまともに日本語喋って欲しいと思った。

 女卑を隠そうともしない言動、軟禁措置、能力継承の胎盤にしてはどうか云々……。聞くに耐えない下卑た奴ら。

 秘匿していた私の力の特異性も、伏黒の現状を説明するため、揚げ足を取られない程度に開示したが、当然火に油。

 五条の煽りスキルも大概だが、ずっと話が堂々巡りして進まないので結局夏油の予見通り、ゴリ押しになってしまった。

 

 黙ってたら貢献してやるが余計な手出ししてきたらお前らをメチャクチャにしてやる(意訳)、という実に乱暴な意思表示を叩きつけてやった。

 

 伏黒も相変わらず面倒くさそうに立っていたが、

 

「今の俺はこの女に絶対服従だ。お前らがこいつに手を出したら俺も敵に回る。知ってるだろ? お前らが俺を術師殺しって呼んでんだ、自分の身が惜しけりゃちったあ物分り良くなれや」

 

 と、援護してくれたのはかっこよかったぞ、パパ!

 

 術式反転を習得し、名実ともに呪術界最強へ覚醒した五条。そして悪名高い(らしい)術師殺しの伏黒。今後の呪術界に多大な影響を与える者が二人も私側についている。上層部も頭ごなしに却下する訳にもいかないだろう。

 

 会合も終盤、先方の一人が代表して渋々認めてもらうことになった。

 ただし、伏黒に叛意があると認められた場合、即刻処刑すること。

 そして私が私の力を悪用するのなら、拘束の後、裁判にかけられ処遇を決めるそうな。

 これまで敵対していた伏黒とは違って、私は呪術師として任務に忠実に従事していたこともあっての采配だ。

 

 そしてこれは幸か不幸か、私の一級昇格がその場で決まった。

 私の力を正当に評価した結果とかそれっぽく捲し立てていたが、危険な任務に駆り出してあわよくば死んでほしいという本音がスケスケだった。

 思い通りにならないなら排除、ってか?

 

 ——帰り。

 

「五条……君が奴らのことを腐ったミカンだと称する気持ちが身に染みて分かったよ」

「だろだろー? 臆病なご老人どもはさっさとご退場願いたいよねー」

「うん……」

 

 同じ古参でも、呪術界の古参はマリアやレギアス、アルマ達とは大違いだ。

 

若人(おれたち)から青春を取り上げようなんて許されるはずがないんだよ、何人たりともな!」

 

 五条が嘯く。

 お前は何歳のつもりだよ。

 

 

 ◆

 

 

 ——あいつら きらい

   ろーど の じゃましたら のろってやる

 

 

 ◆

 

 

 そんな二度と参加したくない会合から更に数日後。早々に一級案件が回ってきた。

 どうもとある学校に呪霊避けとして設置されいる強力な呪物の封印が緩んでくる頃だから回収してこい、とのこと。

 それだけなら二級や三級の術師でも事足りそうだが、緩んでいることで漏れた呪力が逆に強力な呪霊を引き寄せる餌と化しているらしく、ついでにその呪霊も祓ってこい、とのこと。

 

「回収するのはこれだ」

 

 夜蛾から渡された資料に目を通せば、片隅に屍蝋の指の写真があった。

 

「特級呪物、両面宿儺の指……」

 

 上層部、いきなり爆弾ぶっこんできやがるじゃん。早速あわよくば死ね案件が来ましたね。

 両面宿儺の特級呪物って言ったら私だって聞いたことがある。五条の術式をもってしても破壊できない代物で、「機会があったら優ちゃんの術式で少しずつでも浄化できないか試してみたいね~」なんて夏油がのほほんと笑っていた。本気か冗談かはさておき。

 

「先生……確かコレって呪霊が力をつけるために特級呪霊さえも狙う曰くつきの代物ではなかったでしょうか?」

「……君なら問題ないと上が判断して割り振られた依頼だ。念の為に伏黒も連れて行け。確か今朝方帰ってきたばかりだろう」

「一昨日に金稼いで来いってたんまり任務押し付けて追い出したので、今頃ぐーすか寝てんじゃないですかね」

 

 今回の采配に夜蛾も思う所があるらしいが立場的に拒否もできないのだろう。あながち私がお手上げになる案件でもない分、意見もしづらいと。彼も上と下の板挟みで大変そうだ。

 だからこそ、せめて単独ではなく伏黒を同行させるように助言をしたのだろうが。

 

「では、この任務謹んで拝命いたします」

 

 

 

 任務の遂行時間としては学生が下校する夜間が望ましい。任務場所は県外。一時間後に車で移動開始すれば丁度夜になるくらいの距離。

 早速準備して行こう。といっても部屋に用意してある任務セットを取りに行くだけなのだが。

 

 自室まで近付くにつれて顔が引き攣るのを自覚する。

 ついに扉の前に立つが、誰もいないはずの部屋の中から音がする。スピーカー越しの機械音声、テレビだ。

 

「あれれ~おっかしいなあ、今朝確かに切ったはずなんだけどなあ」

 

 ガチャリ、と開ければ。

 ソファに寝転がる伏黒(おっさん)。呑気に見ているのは競馬実況。

 

「おい」

「あー、ったく何やってんだよ、そこだ、差せ!」

「おい」

「あ゛?」

「ア゛? は、こっちだよ。人の部屋で何寛いでんだテメェ……」

 

 ツマミもテーブル広げて随分と楽しんでいるね???

 

「見てわかんだろ、競馬だ」

「ぬぁんで私の部屋でって聞いてんだろ!?」

「俺の部屋にはテレビがねーからだよ」

「だからって勝手に私の部屋にお邪魔してんじゃねぇよっ!!」

「いいだろ、ペットの世話もテメェの仕事だ」

 

 こいつは恥もプライドもないのか!? ——なさそう!

 おかしいな、確かに仕事を与えているはずなのに、このやりとりだとただのヒモ野郎にしか見えねえ。

 

「ハァ……まぁいい。良くはないけど。暇なお前に朗報だ、仕事だぞ」

「ああ? 養育費はもう十分稼いだだろうが」

「いやいやお前の労働力を養育費だけのために使う訳無いだろ。ほら、一時間後には出るからさっさと用意しろ」

「チッ……」

 

 ………………。

 

 うう~ん……。自分で選んだとはいえ、なんで一回りも年上のおっさんの面倒を見てんだろうなぁ。

 

 

 

 




今更ですが、安藤の口調や二人称は場の雰囲気と、相手に与えたい印象によってコロコロ変わります。

パラパラ漫画見返してはおりますが、キャラの口調がおかしいかも(細かいことは気にすんな!)。
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