呪術廻戦 and U   作:来宵

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2.小学三年生~中学三年生(4/23改訂)

 正体不明の何者かに修行場を潰されてから、私は泥水を調整したり管理しなくなった。

 泥水は基本見かけたら(もや)に吸わせて回収し、化物が自然発生しないようにしている。それでも気付かぬ内に生まれた奴らは遠慮なく殺した。

 

 成り行きで拾ってしまったが、靄は中々話が分かるやつだった。私の話にふわふわした体全体を使ってリアクションをとってくれるのだ。

 別に私は化物相手に一方的に話す異常者じゃないし、これはこの靄の育成の一環だし。

 

 泥水が何かしら特殊なエネルギーであるのは間違いない。そこから生まれた化物は強力になると時に不思議な能力を行使するのを私は確認している。

 靄は化物の中でも本当に生まれたてで、その存在の指向性も、何の化物になるのかも決まっていない素体のようなものなのだと思う。

 ならば、積極的に育成して良い能力が発現するか試してみるのも一興だろう?

 

 私が靄によく話しかけるようになった切っ掛けは、見かけた泥水を飲ませ続けて暫く、ちょっと大きくなったこいつがだんだん意思疎通を仕掛けてくるようになってからだ。

 無形の靄が身をよじりながら必死に何かを伝えようとするのが少し面白いと思ってしまった。

 

「何言ってるのか分からん。これ使えるか?」

 

 靄の肉体言語を理解できるようなコミュ力変態ではないので、五十音が書かれた紙を用意してやった。

 

『やくにたつ すてないで』

 

 戯れに渡しただけなのに、本当に意味のある単語を紡いだのは驚いだけど。

 

「殺さないでじゃなく、捨てないでなんてお前も変わった化物だな」

 

 後から判明した事だが、この靄は意志も知性もないくせに、本能だけであの日私に縋り付いてきたらしい。

 その本能には、私に殺されると判断する危機感はなかったのだろうか。

 

 靄が何に成長するかは不明だが、とりあえず今まで通り泥水を与え続けることにした。

 ちょっと前からクソガキどもの間で育成ゲームなるものが流行っているらしく、ことあるごとに私のような貧乏学生にポケットサイズの機器を自慢してくるのだ。

 ……なんて名前のゲームだったか……たまごっこ、いや、たちまっち……?

 忘れた。

 ふふふ、ゲームなどなんだ。私は実際に存在する生き物? を育成してやる。

 

「いいか、今からお前が私のマグになるんだ」

 

 伝わっているかもわからんが、靄にマグの仕組みや役割を教え、それに付随して前世の知識やアークスという組織、それらが任務中にしてくれた支援を語ってみた。

 今はもう会えないサポートパートナー(マイエンジェル)や相棒のマトイ、同期兼同僚兼友人のアフィン、そして行く先々で出会った仲間の話もした。

 いやあ、前世をこんなに披露できる相手っていなかったから話が弾む弾む。

 

『まぐ も おらくる いきたい』

「うーん、私だって帰れるなら帰りたいが……今の私はこの地球の人間の一人でしかないからねえ、向こうから私を感知して迎えに来ることもないだろうね」

 

 唯一の話し相手がよく分からん泥人形でも何でも良い、多少なりとも知性を持っているなら、私は一向に構わん!

 

 

 ◆

 

 

『1998年~1999年 靄(仮称)の育成日記』

 

 △月 ■日

 

 今日から靄の育成日記を付けることにした。

 毎日ではないが、数日おきに経過観察として記録を残す。

 

 いつまでも靄って呼ぶのも味気ないが、今はどんな形で安定するのか予想もつかないので、名前はもう少し成長してから考えてみようと思う。

 軽く冗談で言っただけなのに、これはすっかりマグになるつもりらしく、一人称が『マグ』になってしまった。細かいことはもう知らん。

 

 とりあえず、澱んだ空気を放つ建物や、人の少ない場所で見つけた泥水を餌として飲ませていこうと思う。

 

 △月 ▼日

 

 ここ数日泥水を飲ませ続けたことで靄から濃霧くらいに密度が上がったように見える。

 相変わらず吹けば飛びそうな粒子の集まりに見えるが、体の一部が欠ける様子はない。

 感じられる泥水の濃度はかなり濃くなっているはずなのに、羽の生えた虫にもならない。

 コイツはいつになったら形が安定するのだろう。

 

 ●月 ◎日

 

 いつの間にか発生していた虫を数匹捕まえた。

 原型が残るように絞めた虫を、試しに靄に近付けたら体全体で包み込んでそのまま食ってしまった。虫を形成していた泥水をそのまま取り込んだのだろうか。

 その割には全然体積が増えないな。どうなってんだこれ。

 

 ●月 △日

 

 私なりに少し考えた。この靄、核がないからいつまでもずっと靄なんじゃないか、と。

 悩んでいる素振りの私を見かねたのか、靄から物にとり憑くことができると自己申告してきた。お前な、そういうことは早く言え?

 

 どうせなら持ち歩きやすいものに憑かせたい。

 靄を連れて雑貨屋に行き、適当に装飾品を見せてやったら指輪が気に入ったようだ。

 部屋に帰って、靄の目の前に指輪を置いてあげると、するすると小さな指輪に入り込んでいった。まるっきりダーカーが侵食する時と同じに見えるんだが。

 銀色の指輪は黒く染まってしまった。

 小さめのサイズを選んだが、今の私の指ではどれもスカスカなので余っていた糸でネックレスにする。チェーン? 貧乏小学生にんなものまで買えないわ。

 

 しかし、この指輪……一個千円もしない安物とは言え子供の懐には痛い出費だ。

 仕方がない、しばらくはおやつが食べたくなったらガキ共のプロレスごっこ(あそび)相手でもしてやって、報酬としてせしめよう。

 

 □月 ☆日

 

 久しぶりに日記をつける。

 指輪に憑いてから靄にあまり変化がなかったからだ。

 際限なく泥水を飲み、虫を食い、偶発的に発生した大型も引きちぎってやれば多少大きくても呑めるようだった。

 成長しているはずなのに、指輪がなければ手のひらサイズに収まる程度の大きさしかない。

 なら、他の化物と戦えるか試すために、何度か化物の前に放り投げたけど、生きている虫にさえ苛められる始末。

 弱い。よわよわだな、本当に。

 とはいえ、必要があれば溜め込んだ靄の泥水を中和して炭酸水エネルギー(仮)にしているので全く役に立たないわけじゃないけど。

 本当にただの倉庫状態。これだけ泥水を取り込んでても弱いなら歯向かわれても余裕で殺せるから楽だけど。

 弱いのは生まれた時の宿命(さだめ)なんだろうか。

 

 □月 ★日

 

 流石に泥水を溜めすぎたのかそこらの化物よりも異常に気配が強い。何も知らない人間も指輪から不気味な気配を感じるらしいのか、大人がしきりに私が変なものを持っていないか聞いてくる。まるで呪いのアイテムみたいだな。

 仕様がないので、私の炭酸水エネルギー(仮)を固めて指輪の外側からコーディングしてみたら、気配は漏れなくなった。

 武器にフォトンを纏わせて刃を形成するイメージだったけど、意外となんとかなるものだ。やっぱり炭酸水エネルギー(仮)は優秀。

 おかげで指輪は見た目だけはカーマイン色の結晶で出来ているように見えてオシャレになった。

 

 ……いちいち『炭酸水エネルギー(仮)』って書くのが面倒だな。

 

 ◆

 

 

 今日は学校が休みなのに強めの雨が降って外にも出る気分にならない。暇なので、靄で遊んでみた。日記のネタになるかもしれないし。

 靄はここ最近、密度が濃くなりすぎてもはや靄というより粘土みたいになってる。指輪から出てもらってコネコネと捏ねてみたが私に造形の才能はなかった。

 

 だが、この暇つぶしも無駄ではなかったようだ。

 靄の能力? が判明した。触れながら脳裏にイメージを思い浮かべると、靄はそれを読み取れるようなのだ。

 試しにマグの外見を思い浮かべれば、靄は体を変化させてその通りに形を作ってみせた

 

「おお! 次はこれ、どう?」

 

 マグの進化形態をいくつか伝えれば、見事にカリーナや少し複雑な模様のライブラを再現した。流石に色は靄が持つ黒しかないが、炭酸水エネルギー(仮)を流したら、カリーナの目とかライブラのギザギザ模様などの発光パーツがちゃんと光った。

 マグは進化デバイスを使えば外見を変えられる、ある種のファッション性がある。何かさせてみたらよさげなデザインはないか……ううむ、そうだ!

 魔が差してラッピーのイメージを送った。真っ黒いからマグサイズのダークラッピーになった。

 可愛い。

 炭酸水エネルギー(仮)を流したらつり上がった眼とか頭にある羽がカーマイン色に光った。すんごいダークラッピーっぽい。

 可愛い。

 

「お前、次から指輪から出るときはダークラッピーの姿な」

 

 ていうかこんだけ変幻自在なら喉とか形成できないの? 試しにラッピーみたいに鳴いてみろよ。キュ~って。

 

 

『……ぁ、ラ、ァ゛……ラ゛ァ゛ッビイイイィイイ゛ィ゛』

 

 

 あ、やっぱいいわ。

 

 

 ◆

 

 

 ▽月 ◇日

 

 いい加減、靄の名前を決めようと思う。

 

 その名も『晦冥(かいめい)

 

 これからどんな変化が起きようと、これだけは変わらないだろう、と思う要素から取った。

 いくら泥水を飲んでも、数多の泥人形を食らっても、物に憑いても、私が力を流し込もうとしても、こいつの闇色だけは変わらなかったから。

 ……ぱっと思いついた割にしっくりくるから、これでいいでしょう。

 

 というわけで、これからも私のために鋭意精進するように。

 そうすれば、弱い弱いお前を他の何者からも守ってやろう。

 

 改めてよろしく、晦冥。

 

 □月 ※日

 

 せっかくだし、晦冥の変幻自在になる能力を応用できないだろうか。パッと思いつくのはアークスの武器を模倣してもらうことだけど……早速試してみたら圧倒的に強度が足りなかった。

 晦冥は耐久度が低すぎる。もう少し成長させたら少しは使い物になるだろうか。

 

 ◎月 ●日

 

 飽きた。

 

 

 

 

 日記はここで終わっている。

 

 

 ◆

 

 

 小学六年生になった。

 この数年間は晦冥に泥水を蓄積したり、晦冥の能力研究に勤しんだりするのを主に、私の体の成長に合わせて無理にならない程度に修行を続けている。

 さすがにアークスの全クラスの同時進行は効率が悪いし、替えがきく動作も多いので後継クラスを主にして、便利そうな基本クラスの技術を再現できるように訓練している。

 サモナー? 無理無理。一緒に闘ってくれるペットがいないし、晦冥はよわよわのよわだし。化物なんて使役できないし、可愛くないし。

 

 あと訓練が停滞しているのは放出系の技術。

 私が使っている力は泥水そのものではないけど、下手したら化物を狩る者たちに感知される可能性があるので、テクニックの練習は三年生の時から全くできていない。

 そんな事情もあり、今の自分の強さを表すなら……全盛期の四割も行かないくらい、かな?

 修行環境が制限されている中で十二歳にしては頑張ってる方だよね。

 って言っても、アークス専用の武器がないので、武器を装備していない状態での四割だから……ちょっと強い化物が出たらキツいかも……。

 でも武器面については前世ほど強力とはいかなくとも、解決の目処は付いている。あとは形にするだけだ。

 

 そういえば、名前が長くていろいろ面倒になったので、ついに炭酸水エネルギー(仮)の名前を定義した。

 

『アストラル』

 

 英語の意味は『星の』とか『星の世界の』って言う意味がある。宇宙を旅していた私が扱う新エネルギーへの命名としてはなかなか良いのではないだろうか。

 

 

 さて、小学六年生といえば初等教育修了の年である。

 あと半年もせず卒業という秋のこの季節に、私が通う学校では修学旅行というイベントがある。修学旅行といえば……鉄板の京都!! いぇ~い!!

 いやー、この私も柄にもなく楽しみにしているんですね、京都。

 

 京都といえば神社仏閣が有名で、創作の世界でもよく陰陽師とか妖怪とかが出る舞台とされている。

 そんな場所なら絶対に泥水とか化物とか、わんさか居そうじゃないか! 地元は化物被害をなくすために狩りすぎてもう虫以下しかいないんだよ。

 あと木刀欲しい、木刀。荷物が嵩張っても良いから、ここ数年で貯めたなけなしの金で木刀買って振り回したい。拾った鉄パイプでカタナの訓練するモチベーション上がらない。

 

 ——うん、楽しみにしてたんだけどなあ。

 

 京都についた。期待してたほど泥水で澱んでなかったし、化物も大していなかった。

 神社とか仏閣とか信仰集まる以上に、清廉な場所という立ち位置を勝ち取っているから、化物がうようよしている地獄絵図なんて何もなかった。

 それでも人口が多いのだから多少なりともいるはずだけど、多分これ、化物を殺す人間とかの組織の拠点があるくさい。

 はい、今最も触りたくない謎集団ナンバーワンです、もう良いです、危うすぎてせっかく作った『泥水集めのしおり~晦冥の懐石餌巡りの旅~』とか出る幕もないです。

 

 解散ッ!!

 

 

 ◆

 

 

 何事もなく一番施設から近い中学校に入学した。

 公立だから近場の同年代が集まっているので、これといった新顔はない。私立に進学して消えた顔はいくつかいるけど。

 親の転勤でやってきた謎の転校生とかいない。

 青春は始まらないッ!!

 

 そんな中学校は全生徒入部制で、私が選んだのは剣道部。

 合法的に自分以外の人間と竹刀で打ち合えるチャンス、逃すはずがない!

 まあ素人の集まりも同然だから経験を積むのは期待できないけど、一番の目的は私の精神衛生の維持だから。

 無問題(モーマンタイ)

 だってずっと一人で修行漬けの数年間って結構辛い、寂しい。

 っていうか今世友達いない歴=年齢。アークス時代あれだけ賑やかだったのもあるから余計に反動。

 私は仮面(ペルソナ)になった記憶はないからぼっち耐性があまりないんだよ。

 相変わらず周囲からは異端扱いだけど、部活仲間(チームメイト)は出来た。

 ……え、ちょっと待ってそれはもう友達ではないか? あ、違う、そうですか。

 

 そんなこんなで侘しい青春への精神安定をはかりながら、ずっと構想していた計画を少しずつ始動しようと思う。

 別に新しいことを始めるのではなく、過去にしていたことを再現するだけだ。

 

 そう、泥水渦巻き、化物が闊歩する修行場を。

 

 これが実は地味に大変で、前回と同じようにやろうとすれば、一定以上の水準で化物を保有しながら人間に被害が出ないように調整する必要がある。

 過去の修行場は四拠点を数年かけて構築していった気がする。

 

(それがたったの三日で綺麗さっぱりなくなったのは本当に笑うしかないけど)

 

 修行場を作るということは、化物狩りに見つかるリスクがかなり高くなるということ。そして化物を制御できなければ人間への被害も出てくる危険性がある。

 いろんな事情で今まで避けてきた行為をどうしてこのタイミングで再びやろうとしているしているのか。

 それは必要に迫られているからです。

 

 義務教育が終わってしまうから!!

 

 ここ数年、私はできる限り潜伏し、修行も人目のつかない林や隠れた空き地にしていたけど、もうそんな呑気に時間を消費していられない。

 義務教育が終われば、私は今いる施設を出て自立しなければならない。施設を出たあと、どのように生きるのかを決めなければならないのだ。

 通常、施設を出た子供が取れる選択肢は、バイトしながら奨学金で高等学校に通うか、就職かの二択である(少なくとも私の所属する施設は)。

 未成年には違いないので、成人するまで受け入れてくれる施設はまた別にあるにはあるが、私はもっと別の選択を開拓したい。

 

 社会的立場として私は保護されている身なので施設から遠く離れられないが、きっと日本全国、もしかしたら海外にも泥水や化物がうようよいるだろう。

 京都は限られた場所しか見られなかったが、そこにも確実に存在していたし、修学旅行の道中も同様に居た。私はそれらをどうにかしたいと考えている。

 

 そして実際にその化物をどうにかしている組織があるのなら、是非とも接触してみたい。目的が一致するなら、あわよくば私も所属したい。

 

 だから、これまでとは真逆に、今度は積極的に彼らをおびき寄せよる行動にシフトするつもりだ。

 いざ、行かん!

 

 

 ◆

 

 

「ずっと前からお前のことが好きだったんだ! 俺と付き合ってくれ!」

 

 ……は?

 

 目の前で見知った顔を赤らめて、半ば叫ぶように告げられた言葉を、私の脳は受け入れるのに数秒は要した。

 

(あ……これ、俗に言う体育館裏での告白というやつだ)

 

 ぼんやりとそんなことを思いながら、俯いて黙ってしまった男の子を見る。

 こいつは昔から事あるごとに私に突っかかってくる同級生で、真っ白お化けと呼ばれる度に遊び(プロレス)相手をしてやっていた。

 取り敢えずなぜ自分がこんな青春な状況に陥っているのか考察するのは後にして、告白の返事でもしよう。

 

「ごめん、付き合えない」

「そっか……そうだよ、な……。俺のことなんか、好きじゃないよな。昔からちょっかいかけてたし……むしろ嫌いだよな……」

 

 急にネガティブになるなよ、君のこと嫌いとか一言も言っていないよ。

 

「違うよ。私は君を嫌ってなんかいないし、君だから断ったわけでもない。他の誰から告白されても、今の私は恋愛をする余裕がないんだよ」

「……確かにお前、いつも忙しそうだけど、最近は以前にもまして大変そうだもんな。そんな時に悪かったな」

 

 中学三年生最後の夏が目前まで迫っている。

 この時期は誰もが受験勉強で忙しく、余裕があるのはスポーツ推薦をもらっている子くらいだ。告白してきたこいつもその口で、私も剣道部のエースなんて地位を獲得しているから同じだと考えているのだろうな。

 確かに推薦で高等学校に行けば学費はかからないし、私のような身寄りがない者には安泰だろう。

 けれど、私の第一目標はそれではない。

 それよりもいつまでも化物狩りと接触できないまま、三年間経過しそうな方に焦っている……!

 

 その後、彼とは一言二言話して別れた。

 

「真っ白お化けより、君に似合う可愛い女の子と出会えるさ!」

 

 別れる前にいつものノリで肩を叩いて元気づけてやったら逆に泣かれた。なんでだ。

 

「ま、変な泥は消えたかな……」

 

 立ち去る背中を見てつぶやく。

 私だって無意味にスキンシップが好きなのではない。

 

 人間はその身の内に泥を飼っている。特に落ち込んでいたり、怒っていたり、不穏なことを考えている時にその人間から感じられる泥は濃くなる。

 溜まりに溜まった泥が、やがて泥水となって溢れ、泥人形の材料になる。

 彼は昔からその泥が溜まりやすい性質で、特に集団に加わって私をからかう時にその傾向が顕著だった。最近は随分とマシになったけど、昔から放っておけなくてその度にプロレスごっこと称して泥を中和していた。

 生きているモノからそれが完全になくなったことはないけれど。

 私に振られたことでまた少しだけ泥を作っていたが、軽く肩を叩く程度で消えた。長く落ち込むことはないだろう。

 

「未来へ向かって走れよ、少年。君の青春は高校にあるはずだ……!」

 

 適当に嘯いて私も学校から出ることにした。

 

 

 ◆

 

 

「ん~~! まだまだ明るいな!」

 

 校門を出たところで背伸びをする。

 今日も放課後を部活に費やしたが、日の入が遅くなっている六月なのもあり太陽はまだまだ沈んでいない。

 汗ばんでくる季節に少しでも涼しく過ごすため、伸ばした髪を後ろで一つに纏めてポニーテールにしている。

 カーマイン色の瞳は小学生からずっと長く伸ばした厚くて重たい前髪で隠している。私の素顔を見たことがあるのは施設の職員くらい。何年も隠し通した私の前髪、マジ鉄壁。

 

 修行場に直行する前に、日課の巡回をする。曜日ごとに細かく分けたルートを回っており、今日は広めの商店通りに行く予定だ。噂話が好きな主婦たちが吐く言葉によるものか、あそこは意外と泥が溜まるのが早い。

 あ、虫みっけ。捕獲、っと。

 

「うわ、あいつまじで掴んだよ」

 

 虫を捕まえた瞬間、背後からそんな声が聞こえた。偶然だろうか。普通の人間は私が何か持っているなんて見えないはずなんだけど。

 気になって後ろを振り返る。

 

「傑の言うとおり見えてんな」

「呪力が感じられないから半信半疑だったけどね。それと悟、人を指でさして笑わない」

 

 そこには、片や丸サングラスをかけてゲラゲラ笑っている銀髪不良(ヤンキー)と、片や髪の毛を後ろで結んで前髪だけちょろりと残した胡散臭い顔の、全身真っ黒二人組がこちらを見ていた。

 つか、両方とも背が高い(でけえ)な。

 

 

 




主人公の生い立ちを上手く省略できず書きたい場面まで辿り着くにも長い……。
次回! 悟と傑と主人公の楽しい楽しい呪霊狩り
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