呪術廻戦 and U 作:来宵
夏油は五条と共に任務に派遣されていた。
東京郊外にある区域に呪霊が発生されていることが発覚したからだ。確認できた呪霊はせいぜい三級程度で夏油と五条を投入するには過剰戦力だったが、懸念事項があるらしく二人の担任である夜蛾が直々に指名をしてきたのだ。
補助監督は先に二人を現場近くの商店通りに下ろすと、車を停車できる場所を探すと言ってどこかに消えてしまった。二人は補助監督が戻ってくるまで適当に近くをぶらつく事にしたのだが。
「ん?」
ふと、夏油は一人の少女に目を止めた。
派手な頭髪は今時の東京では珍しくもないし、何より隣の存在で見慣れているが、それでも黒が多い中でそれは目立っていた。
五条とはまた系統が違う象牙色の銀髪に
「どした傑。ナンパしてえのか?」
「そんな訳無いだろ、悟じゃないんだから」
「ア゛?」
「ほら、あの子」
夏油は少し離れた場所を歩く少女を示した。
「なんだか違和感を感じてね」
「んー、ん~~? おお、本当だ。あいつ術式持ってる」
「ということは術師か? でもそれなら事前に情報共有があるはず。未登録の野良か、呪詛師か」
「いや、全然呪力感じられねえから術師じゃないだろ」
「天与呪縛?」
「さあな、術式を持っただけの
少女は何かを探しているようだった。敏い夏油がよく観察してやっとわかるくらいなので、随分と隠すのに手馴れている。だからこそ逆に目に付いたのかもしれない。
少女はついに目的のものを見つけたのか、通りの一角に寄っていく。その先を目で追うが特に何もない——一般的視点からすれば、だが。
「一般人は一般人でも、ただの一般人ではないかもしれないよ。少なくとも、彼女見えているみたいだし」
「お?」
夏油が指さす先を五条が追う。そこには一匹の蠅頭が物陰に潜んでいた。少女はまるでゴミでも拾うかのようにさり気ない仕草で、躊躇いなくそれを手で掴んだ。
「うわ、あいつまじで掴んだよ」
少女にも聞こえる声量で言い放つと、五条は彼女を指さしてこれみよがしに笑いだした。何でだよと突っ込みたい夏油であったが、得意のポーカーフェイスで微笑みを浮かべて適当に合わせる。
「傑の言うとおり見えてんな」
「呪力が感じられないから半信半疑だったけどね。それと悟、人を指でさして笑わない」
五条と共に近付いてみるが、どうやら逃げる気はないらしい。
嘲笑とも取れる行為を初対面に向けられたからが、目が隠れていても読み取れるほど少女はげんなりとしていた。
「おいガキ。お前何? 呪力がねえし術師じゃないよな」
「は……じゅ、つし?」
これ以上五条に任せても煽るだけだと判断して、夏油が引き継ぐことにした。
「ごめんねお嬢さん、コイツ失礼が歩いているようなものだから気にしないで」
「傑なんでさっきから俺に冷たいの」
「お嬢さんが持っているそれ、私たちは蠅頭って呼んでいるんだけど、呪霊の一種でね。人を襲うそれを退治する人を呪術師って呼んでいるんだ」
「え、あなたもこの羽虫が見えるんですか!?」
夏油は少女に握られている蠅頭を見やる。握っている左手の人差し指にある洋紅色の指輪が、陽に反射してキラキラと光っているのがやけに目についた。
「うん。詳しく知りたい? 道端で長話もなんだし、ちょっとそこ寄ってかない?」
一時的ではなく常に見えているなら放っておくわけにも行かない。少女の様子が演技なのかまだ判断はつかないが、それを見極めるためにも一度話をしたほうが良いだろう。
夏油の後ろでは五条が「やっぱナンパじゃん、オッエ゛ー」と吐く真似までしている。
少女は見知らぬ男二人に付いて行くことに抵抗が有る様子ではあったが、好奇心の方が優ったのか最終的に頷いた。
「決まりだね。でもその前に——」
夏油は少女に手を差し出す。
「取り敢えずその蠅頭、渡してくれる?」
◆
遭遇した。
ついに遭遇してしまいましたよ! 化物狩り!
彼ら曰く、化物は呪霊っていう存在で、それを狩る者たちは呪術師と呼ばれる職業(?)の人たちらしい。
取り敢えず何も知らない、変なのが見えるだけの
果たして『呪術師』ってのが今後私が身を寄せるに相応しいのか、見極めなければならないからね。
初エンカウントから場所を移してすぐ近くの喫茶店。
そこそこ人が入っている場所をあえて選んだのだろう、夏油と名乗る人はなかなか気遣い出来る人らしい。それと比べて五条、お前はダメだ、無駄に態度がでかい。んで脚長い(褒め言葉)。
第一印象から胡散臭い二人組だったが、話を聞いてても普通に胡散臭い。私が化物見えているのでなければなんの宗教勧誘かって思うよね。
主に夏油が話すのをソフトドリンクを飲みながら聞く。なかなか説明上手で、こっちの質問にもさらりと分かりやすく答えてくれる。
実は先ほど、促されるまま夏油に虫を渡したら速やかに握り潰され、跡形もなく消えた。
私がやる時と違って即座に肉片が散って消える。
ていうか、この人潰す瞬間に自分の中から泥水出さなかった?
気にならないはずがないので、さりげなく呪霊という存在の祓い方を聞いてみる。
まず、呪霊は呪力でしか祓えない。毒を以て毒を制す、その言葉通りに呪力で出来た呪霊は呪力を纏った攻撃でしか殺せないらしい。
呪力とは誰もが持つ負の感情が呪力として漏出したもの。私がずっと泥水と呼んでいた正体である。一般人と違ってこの呪力をほぼ漏出させずに身の内に循環させ、操れる才能を持った人間が呪霊を退治する。それを生業とする者を呪術師と呼ぶのだとか。
「えっと……話を要約すると、呪術師の二人がここに来たのは、この街に強い呪霊が発生したからそれを退治するために来た……ということでよろしいですか?」
「うん、それであっているよ」
「なぁ、話は終わった? そろそろ行こーぜ」
夏油の隣で椅子に背どころか全身を盛大に預けていた五条。最初から会話に興味がないようにストローの袋を弄っているだけだったが、ついに飽きたようで立ち上がる。
待てよ、せっかく見つけたのに逃すはずないだろ。
「あの! 呪霊を祓うって言うの、私もできますか?」
私も立ち上がって身を乗り出して精一杯引きとめようとする。
真っ先に反応を示したのは五条だった。
「やめとけ、ガキ。呪術師ってのは言うほど簡単じゃねえし、一歩踏み込めば地獄だ。生半可な覚悟でやるもんじゃねえ。お家に帰ってママが作った飯でも食っておねんねしてろよ」
む、禁句を言いおったなこやつ。ならばそれを利用するまで。
「私、施設育ちだから親なんていません!」
五条を睨みつける。
「中学校を卒業したら施設を出て暮らさなければならないんです。それまでに私にも出来ることを探して働かなきゃいけないの、だから……」
五条も流石に少し気まずいのか一瞬目を逸らしたが、彼も譲る気はないようだ。
「……そもそもお前、呪霊祓う力ないぞ」
「……え?」
いや、私呪霊殺せるが? 殺せないならこれまで殺したと思ってた奴ら、実は死んでなかったのか……ってそんなわけあるか!
「何でですか!? 私見えるし、触れもするんですよ?」
「触れるってだけじゃダメだよ。触るだけなら実は誰にでもできる」
今度は夏油が指摘してきた。
「呪霊が人間に触れるから呪霊の被害者が生まれるんだ。もっとも、知覚できないなら触れていることにも気付かないだろうけどね」
思い当たっていたとはいえ実際に本業の人から肯定されると呪霊の理不尽感凄まじいな。
「とにかくさっき傑が説明しただろ。呪いは呪いでしか祓えない。見たところお前には呪力がない。呪力を持たないお前は見ることが出来るだけで、殺せはしないんだよ」
「そんな……」
いや、フリじゃなくて
「そんなに言うのなら、蠅頭なんて羽虫じゃなくてもっと大きいのを祓うところ見せてくださいよ! 私には無理って分かったら諦めますから!」
「ハァ? 何言ってんだお前」
「もともと二人がここに来た目的ってそれですよね? 私、ずっとここに住んでいるから大きい呪霊が集まる場所知ってますよ」
「「!!」」
言った瞬間、驚きとともにとんでもないバカを見たような顔をされた。夏油までそんな呆れるなんて、何故だ。
「お前、マジで命知らずだな。いいぜ、連れてってやるよ」
「悟! それは」
「いいだろ傑。コイツには一回地獄を見せてやらねえと、本当の意味じゃ理解できないだろ」
五条は私に指を突きつけると言い放った。
「お前に呪術師の仕事を見せてやるよ」
◆
喫茶店を出ると、五条はさっと周辺を見渡したあと、コソコソと夏油に耳打ちした。
「傑、説明メンドクセーから補助監督まこうぜ」
「……褒められた行為ではないが、今回は賛成だ」
親友の賛同を得られた五条は、少女に静かにするように言い含めると、彼女を脇に荷物のように担いで高速で走り去る。その後ろには夏油も続いていった。
誘拐の
◆
『実際のところ彼女の術式はどうなんだい?』
夏油は携帯を弄るフリをしてすぐ隣を歩く五条にメールを送信した。
『少し変わり種ではあるが、正直微妙な能力。俺も昔書庫でチラ見した程度だけど……変転術式って知ってる?』
『聞いたことがないな』
『要は、物質Aを物質Bに変化させる感じの呪術なんだけど。
変える前と変えた後のモノの性質が近いほど効率が良い。全く違う性質を持つモノに変えようと思っても呪力さえ大量消費すれば変転は成功する。
そこらへんに転がっている石を黄金に変えることも、無機物を有機物に変えることもできる』
『普通に強いじゃないか。何が微妙なんだ?』
夏油は少し離れた先を歩く少女を見やる。彼女が知る呪霊がいる建物に案内してもらうために先導してくれている。補助監督に詳細な目的地を聞いていなかった不手際もあり、夏油たちは呪霊の出る場所をだいたいしか知らなかった。
移動中を利用して夏油は気になっていた事を五条に聞いていた。少女が天与呪縛によって身体能力や五感が強化されている可能性も考え、言葉ではなくメールという手段でやり取りをしている。
『まずこの呪術は欠陥がある。この術式を扱う術師は一生に一つのパターンしか変転させることができない。そしてこのパターンってのは、術式を初めて発動した時に変転させたモノに固定されるんだ』
『ああ、なるほど。術式を自覚するのが四~六歳。その年頃の子供が初めて使う変転の対象が、必ずしも呪術師として大成する組み合わせとは限らないということか』
『そ。しかも珍しい術式だし、片手にも満たない数しか認知していないから研究も進んでいない。誰も知らない能力もあるのかもしれない。でも判明している中で、一つだけ可能性を感じる例があったんだ。知りたいか?』
『勿体ぶるなよ』
『変転術式ってのはな、変換の力なんだ。さっきは分かりやすく物質って例えたけど、別に形に縛られないし対象は無形でもなんでも良い。
それを踏まえたうえで、おそらくこの術式の限りなく正しい使い方ってのは、物質Aに呪力を指定したパターンだ』
『それは他と何が違うんだい?』
『呪力をAとした場合、術者は自らの呪力を消費しなくともただ変転を念じるだけで術式は発動する。周辺にある呪力を使用し、勝手に物資Bに変えるんだ』
その文面を見た瞬間、夏油はポーカーフェイスを崩して勢いよく五条に顔を向けた。五条はまるで悪戯が成功した子供のように笑っている。
『それって一種の浄化ってことじゃないか!』
『ま、本当にそうなればよかったんだがな。
当時の奴らもそう考えていろいろ試してみたんだけどよ、残念ながら実戦じゃ使い物にならないってのが分かっただけだった。
それの使い手は変換先を全然系統の違う『花』を指定してな。負の感情から可愛らしい花に変換するから効率は最悪。蠅頭を形成する程度の呪力を変換するにも半日はかかるし、呪力は節約できても本人の消耗が凄まじいし、結局普通に祓った方が手っ取り早かったんだとさ』
現代の若者らしく、カコカコと高速で長文を作成して送信する五条。
夏油少し考えたあと、返信をする。
『彼女が何の変転をするのか分からないか? もし天与呪縛だったら体力的な消耗は克服できるだろ。浄化ができるならそれだけでも利用価値はある』
例え時間がかかっても呪力を別の無害な何かに変えられるならそれは貴重な力だ。危険すぎて迂闊に処分もできない呪物も、時間さえかければただのガラクタにしてしまえるのだから。
だが、五条から返ってきたのは『分からない』だった。
『実際に術式を行使しているのを見てねーからそこまでは分からない。でも呪力変転ができるなら本人もある程度自覚はあるだろ。さっきの様子じゃそれはないし』
『それは彼女が演技していない場合の話だ』
『今さらかよ、疑い深いな。剣道部のエースだから戦う才能はあるはずだーって豪語してたし、天与呪縛を隠しているわけでもないんじゃない』
夢中で携帯を操る二人に、ふと少女が足を止めて振り返る。
「お二人共ほんっとーに現代っ子ですね。歩きながら携帯を弄るのは危ないからやめたほうが良いですよ」
ご尤もな注意だが少女のそれは純粋な正義心より、拗ねているゆえだろう。
少女にとって呪霊が祓えるかどうかは一大事にも関わらず、二人が呑気にしているように感じるのだ。
「ごめんね。把握しておかなきゃいけないことを知っている人に聞かなきゃいけなくてね。お詫びに何か冷たい飲み物を奢るよ」
夏油は微笑みながらさり気なく事実で誤魔化すと、ちょうど置いてある自動販売機に寄った。
「え! マジ!? ごちそーさん!!」
「悟は自分で買えよ」
「ケチー!」
分かりやすく駄々をこねる五条を無視して、夏油は少女に「何が飲みたい?」と聞いた。
「……サイダー」
「お、いいね! じゃあ俺コーラ!」
「だから自分で買いなさいって」
結局五条は情報提供のささやかな対価として夏油に奢らせた。
『もしこいつが術式を使えるとしても』
コーラを飲みながら、五条はご機嫌にメールを打つ。
『せいぜい泥水を
後に、少女がこのやり取りを聞いて大爆笑した迷言だった。
◆
「こ、ここです」
少女が案内したのは如何にも幽霊がいますよ、と言わんばかりの廃墟ビルだった。
「これはいるねえ。しかも結構な数」
夏油はビルの入口を見て嘯く。
「ちょうど良いじゃねえか、こいつが納得するまで獲物に事欠かないってことだろ」
五条は少女の隣に立つと、建物から必死に目を逸らしているその頭に手を乗せる。
「よく見てろ、ガキんちょ。お前が普段直視しないようにしている奴らを、俺たちがどうやって殺すのかをな」
置かれた五条の手に促された少女は震えながらも視線をビルの入口に向けた。
ビルの入口、かろうじて建物の中に収まっているが、じっと外を見つめる異形。二本足で立ってはいるものの決して人間にあらず。
じっと観察すれば、見られていると気付いたそれは、あっさりと入口をすり抜けてこちらに走り出した。ギョロギョロと体中にある無数の目を見開き、子供など一呑みできそうな巨大な口から涎を撒き散らかしている。聞くに耐えない謎の叫声に、少女が身を竦める。
巨口が後僅かでその身に届く、その直前、まるで見えない壁にぶつかった様に呪霊は停まった。
「分かったか? こいつらは見られていると感じたら襲いかかってくる。例外もあるがほとんどそんな習性だ。なーんも知らない見えるだけのお前が今まで無事だったのは奇跡、ただの強運に過ぎねぇんだよ」
スッ、と五条が手を向けると、呪霊はギュッと圧縮され、跡形もなく消える。
少女が呆然と見ている。前髪に隠されているが、その下にある眼はこれでもかというほど見開かれているのは想像に難くない。
五条はニヤリと口角を上げた。
「これでもまだ自分がこいつらをどうにか出来ると思ってんの?」
少女は身を震わせながら俯く。
「確かに、さっきみたいなのを私は祓えません。五条さんと同じような芸当が出来るとも思わない。……でも」
しかし、
「……まだまだ」
彼女は不屈だった。
「ここにはまだ沢山呪霊がいますよね! あなたたちの戦い方をもっと見せてください。諦めるのはそれからです!」
そもそも呪力がないのだから諦める以前の話だが、この年頃の子に理屈を説いても無駄か、と夏油は考える。
それに彼女がどうしてもと言うのなら方法がないこともない。呪具を持たせれば良いだけだ。天与呪縛があれば尚の事、十分戦力にはなるだろう。
だが五条が頑なに少女を拒絶する気持ちもわかる。
御三家の五条家に生まれ、六眼と無下限呪術を持つ五条は、地獄を見慣れた呪術師以上にこの業界の闇を身を持って知っている。関わらないで済むなら、関わらないまま生きていく方向に誘導したいのかもしれない。
正直なところ、夏油にとって少女は守るべき弱者の一人であるが、弱者から強者に這い上がりたいならそれも構わないと考えている。その素質もある。
ただ親友の五条がそれを望まないのならば。
(悪いが、お嬢さんの望みはここで潰えてもらうしかないな)
◆
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
帳を下ろした二人は少女を連れてビルに足を踏み入れた。質問されるままに夏油が一通り帳の効果を説明してやったあと、五条は釘を刺す。
「おい、俺から離れるなよ。呪霊の中には人質を取ろうとする奴らもいる。お前が人質になっても無視するからな」
「わ、分かりました……!」
本音では見捨てる気などないだろうに素直じゃないなあ、と夏油は一人クスリと笑う。
そこからは早かった。呪霊を見つけるなり五条と夏油がさっさと祓うからだ。
予想外だったのはそれだけでは終わらなかったことだ。問題なのはその数だった。
「あーもう! またかよ!」
術式で沸いた三級の雑魚呪霊を五条が圧縮する。断末魔をあげることも許されず速やかに祓除された。
「悟、気持ちは分かるけど少しは落ち着きなよ」
「はぁ!? これで何体目だと思ってんだよ。祓っても祓ってもキリがねえ」
「確かに。
夏油は支配下の呪霊を操り、新たに接敵した呪霊を飲ませた。本来ならこの程度の雑魚でも使いようはあるので後で取り込むのだが、短時間で大漁過ぎて捕獲する気にもならない。後で味わうゲロ不味の数を想像して密かにテンションが下がった。
そうしている内にも、別の場所で呪霊が
「夜蛾先生が言っていた懸念事項そのまんまだね」
倒した傍から新たな呪霊が建物の何処かにランダムに発生する。祓った数だけ新たな呪霊が発生し、一定以上強い個体は出ない。ここまでドンピシャなら、夜蛾の言う通り
「呪霊を統率する存在ってやつかよ。ったく、だったら隠れてコソコソしてねーで姿見せろってんだ」
「逆にその存在がいるからこそ近年のこの地域の呪霊被害者は零といってもいい。行方不明者も死者もいないし、あるとすればちょっと肩が重いくらいだろうね」
おかげでこんな建物に祓うべき強さの呪霊が発生していることへの感知も遅れてしまったが。
夜蛾から聞いた話によると、このような事態は初めてではないらしい。と言うのも、夜蛾自身が六年程前にこの地域で同じような状況に遭遇したからだ。
その際には呪霊を統率する上位存在がいる可能性を考慮して、暫くは窓による近辺の監視をしていたが、結局四級呪霊以下の弱い呪霊しか滅多に発生しなくなったため、定期的な巡回に切り替えて人材を他所に回していたのだ。そんな人材不足のツケが回ってきた。
推測によれば少なくとも二年前から発生しているらしいのだから。
「つーか建物ごと祓ったらダメなのかよ」
「ダメだよ。いくら近辺が閑散としていても周囲に住宅地が多い。帳を下ろしても建物が崩れる衝撃までは抑えられないんだから」
それに呪霊が確認されている地点は一つではない。ここが済んで少女を帰した後、夏油と五条は別の場所も回るつもりだ。そこも壊したら同じ日に同じ地区でいくつも建物が崩壊することになって不自然きまわりない。
「あの……さっき『先生』って聞こえたんですけど、お二人って学生なんですか?」
次の呪霊と遭遇するまでの道中、遠慮がちに少女が問う。
「あれ、言ってなかったかな? 私と悟は呪術高専っていう呪術師を養成する学校に通う学生なんだよ」
「傑、それは言うなよ。通えば自分も呪霊殺せるかもしれないってこいつが勘違いしたらどうすんだ。おいガキ、高専に来たところで呪力がねーのはどうしようもないからな!」
「……ちなみに何年生ですか?」
「一年生」
「…………」
夏油の暴露を聞いて少女は無言で五条を見上げる。夏油にはこの瞬間の彼女の考えが手に取るように分かった。
すなわち「テメェもガキだろ」と。
変化があったのは、圧縮にも飽きた五条が無駄に技巧を凝らして一体の呪霊を爆散させた時だった。
本来ならそのまま崩れて消える肉片の一部が残ったかと思うと、ひとりでに動き出したのだ。黒い靄のようなものに変化したそれは空中に文字を模る。
「ああ? なんだこれ」
少し形が崩れて読みにくいそれを五条が警戒しながら読み上げる。
『ろーど いぶつが まじった』
「ロード? 異物? 何の話だ」
結局それは五条によってすぐに霧散させられる。
夏油が痕跡を調べても特に何も変わった要素はない。強いて言えばこれまでの呪霊と
そしてハッとした様子で気が付いた。隣では五条も同様に。
「なあ、傑。こいつら……」
「悟も気が付いたか。巧妙に隠されていたにしても見落としていた自分が情けない」
「いや、こればかりは六眼を持っていようと関係ねえ。簡単すぎる初級者向けの間違い探しだ。違いすぎて逆に共通点に気が付かなかった。」
「ああ、これまで私たちが倒してきた呪霊……残穢が全て同じ呪霊のものだ」
——この廃墟ビルは、淀んでいる。
渦巻くように呪いが集まり、際限なく同じ等級の呪霊が生まれる。
そう、ここは呪霊の領域。
彼らが一歩踏み込んだその瞬間から、
そこは既に呪霊の胎の中だったのだ。
五条と夏油の二人の口調は何度原作を確認してもわからん。一人称以外は若者っぽくすれば良いんか?
独自の術式の設定が出ましたが、細かいことは考えるな、感じろ!
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※消したのは、術式が扱えない三級呪霊から残穢が出るのはおかしいという部分です。今後は呪術の残り香だけではなく、呪力の放出や強さに関わらず長期間呪霊が一箇所に留まっていた場合なども残穢が残るとします。宿儺の指とかの呪物の残穢もそのようなものらしいので。
正直、解釈難しい。