呪術廻戦 and U   作:来宵

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4.with 五条&夏油

 五条はいつの間にか背後に匿っていた少女が近くにいないことに気が付いた。見渡せば少し離れた場所で壁に向かって立っている。

 

「おい! ガキ! 俺から離れるなって言っただろ!」

 

 特に壁際は危険だ。弱い呪霊は壁を抜ける能力を持っているのだから。

 少女の腕を掴んだ五条は、なんとなく彼女が見つめていた壁を見た。一見ただの壁のようだがくっきり残穢が残っており、五条の六眼ははっきりとそれを読んだ。

 

 

『つよいの きた

 ちかく いる』

 

 

「!!」

 

 意図を持った不気味なメッセージに五条の手が緩んだ時だ。

 

「離して」

 

 抵抗が感じられたと思えば、するりと少女の腕が抜けていった。

 

「おい……っ!」

 

 少女の雰囲気が一変していた。それまでの怯えているような様子は鳴りを潜め、むしろここが自分の家で自分はその主だとでもいうような貫禄さえ漂わせている。

 いつの間にか下ろされた髪を整えている彼女が手馴れた仕草で髪をかき上げた。

 

 顕になったその両眼は、暗闇の中不気味に洋紅色を放って発光していた。

 

「お前……」

 

 瞳孔が白く反転している異形の眼に、呪霊かと一瞬頭をよぎったが即座にその考えを捨て去る。相変わらず少女から呪力を感じられないし、呪われている様子もない。

 つまり、目の前の少女はどこまでも人間なのだ。

 

「悟、彼女に異常があったのか」

「いや、見た目だけなら何も変わらねえ」

 

 サングラスを外した五条が隣に並んだ夏油に告げる。夏油は五条を信頼している。ならばそれに間違いはないだろう。夏油も少女から呪力は感じられない。

 

 だが、なんだ。この威圧感(プレッシャー)は。

 先ほどとは存在感が違う。

 

「お嬢さん、どうやら只者じゃなかったようだね」

 

 少女は二人に目を向ける。まるで別人のように無感情に、無表情に告げる。

 

「見極めは終わりだ。この場に異物が混じった。私の縄張りに許可なく侵入する不届き者がいる。直々に誅する必要がある」

「どういう事か、説明してくれるかな」

 

 夏油の口調は疑問形だが、そこには有無を言わせない色があった。

 

「少しは猶予はあるかな……うん、いいよ」

 

 少女は左手を上げた。その動作に身構えた夏油だが、特に何も起こらなかった。

 

「まず、この建物に集う呪霊は私がこの子に命じて作った偽物だ。本物を真似た幻影に過ぎない。晦冥、もう良いよ。お前の(のろい)が満ちて異物を感知できない」

 

 少女が手を振ると、人差し指に嵌められた指輪が瞬いた。

 

 

 ゾゾゾゾゾゾ——

 

 

 闇が這う音がした。身の毛もよだつような響き。

 建物中に渦巻き、散っていた呪いが意志を持ったように集まる。一級呪霊が発生してもおかしくない量の呪いは、全て指輪に吸い込まれ、そして完全にその気配を絶った。

 同時にこの場はただの廃墟ビルに戻る。

 

「呪力が消えた……!」

「いや、あの指輪の中に入ってる。俺が眼を凝らしてやっと分かるレベルの隠匿だ」

 

 五条も今の今まで指輪に意識を向けていなかったから気付かなかったが、注意をすれば指輪から漏れ出る僅かな呪力ある。通常の視界に例えるなら、薄い霧が漂って見える程度には。

 少女が首を傾げて指輪を眺めた。

 

「なるほど、君たちは呪力の探知を指針にしているから、間に異物を挟むと感知できないのか。我ながら良い方法を思いついたものだ。ということは、君たち、アストラルを感知できないのか?」

「ガキ、アストラルってなんだ」

「五条……君は出会い頭からガキガキってうるさいな、一つしか違わないくせに」

「年下はガキだろ」

 

 洋紅色と碧色が火花を散らしてぶつかる。

 先に逸らされたのは洋紅だった。

 

「……もう良い。今は君と言い合っている暇はないし、私の力を説明する時間もない」

 

 少女は芝居がかった仕草で両腕を広げた。

 

「呪術師の君たちも感じるだろう? ここに向かってくる呪霊(けはい)を」

 

 そして身を翻して無防備に夏油たちに背を向ける。

 

「詳細を説明するのはやはり後にしよう」

 

 パラリ、と天井の欠片が落ちた。

 続いて、崩落。

 瓦礫が少女の目と鼻の先に山となって積まれていく。続いて降り立ったのは巨大な異形。

 虫に人間の腕がいくつも生えたような歪なイキモノ。

 見たところ準一級相当だろうか。一級術師である五条と夏油が揃っていれば手こずりもしないだろう。だがただの人間から見れば戦車を持ち出してもなお足りない。そもそも呪力がなければ意味がない。

 

「今、私がすべきなのは」

 

 少女の身をはるかに上回る大きさの化物に、しかし、呪力を持たない少女は一歩たりとも怯まなかった。

 

「この不躾な侵入者に、己の愚かさを思い知らせてやることだ」

 

 

 ◆

 

 

 共に廃墟ビルを探索するうちに夏油とムカつく五条の実力は分かった。

 夏油は支配下に置いた強力な呪霊を操って雑魚をバクバク食わせるし、五条は呪霊をおもちゃみたいに圧縮したり捻ったり爆散させてた。「俺たち最強だから」とか嘯いていたのも伊達ではない、ということか。

 暫く様子を観察してみたが、一部人間性に問題はあるけど(五条)、善性には問題はないと判断した。

 どうも、私が見えるだけの一般人ってことで私を呪術師の業界に近付けさせたくないようだが、逆に見えるからこそ放置もできない。だから私が廃墟ビルに同行することを許したし、私程度を守れる自信もあるのだろう。

 呪術師が生きる世界がどんな伏魔殿かは知らないが、五条や夏油のような人間がいるなら、飛び込んでみても悪くないかな。呪術師を育てる高専ってのも気になるし。

 

 見極めるという目的も果たせたし、この場もそろそろ潮時だろうかと考えていると、晦冥が二人にバレるのも構わずに連絡してきた(ロード(lord)ってのは私のことだ。別に教え込んだのではなく晦冥が勝手に呼び出した)。

 どうやら本物の呪霊(・・・・・)が建物に侵入してきたらしい。

 

 実のところ、今まで散々『最強の二人』に蹂躙されてきたこのビルの呪霊は全て偽物。

 晦冥が取り込んで支配下に置いた呪力(どろみず)を吐き出し、これまで食らってきた呪霊を真似て作り出した幻影だ。要はガワだけのハリボテで、どれだけ精巧に真似たところで雑魚どもが使う壁抜けの能力などこれっぽっちも使えない。

 ただ込められている呪力の量は本物なので、感知するだけなら区別はつかない。それ以外でもすぐに偽物とバレないように、どうしても変えられない基盤部分は残してある程度呪力に指向性を持たせているので、全てが晦冥という同じ呪霊の一部とは見分けられないようにはしているが……意味はなかったな。

 彼らは私がネタばらしする前に自身たちで答えを見つけてしまった。

 

 化物狩り——呪術師をおびき寄せるに当たり、幼い頃に作った修行場を再現しようとしたが、私も無駄なリスクは負いたくない。

 今考えれば、人間を襲う呪霊を目的のためとは言え”飼う”なんて行為、危険過ぎた。何の拍子に私の手にも負えない個体が生まれるかも分からないのに。

 だから二度目は再現はせども、同じようにはしなかった。

 そこで目をつけたのが晦冥の変幻自在の能力だ。これまで私が見た呪霊のイメージ、そして晦冥が取り込んだ呪霊。データは十分にあった。

 呪霊は信用しないが、晦冥は信用も信頼もしている。

 この子は裏切らない、そう約束したから。

 

『つよいの きた

 ちかく いる』

 

 さて、そうやって私が丁寧に整えた舞台に五条たち(やくしゃ)が揃ったと思えば、こんどは本物が紛れたと来た。しかも何年も発生しなかった強い個体。この近辺の呪力はほとんど回収しているから、他所から来た客かな。

 この二年半の沈黙が長すぎる前フリと勘違いしそうになるイベント日だな、今日は!

 

 私が傍にいないのに気付いた五条が追いかけてきた。コイツ意外と面倒見良いよな。

 既に騙す意味もないので、か弱い少女の振りはやめだ。ムダに疲れた。もしかして役者の才能有り? とか考えたがもう無理。

 すぐに異常を察知した夏油もやってきた。

 

「お嬢さん、どうやら只者じゃなかったようだね」

 

 いやいや、「私だって呪霊殺せる(ようになりたい)もん!!」って必死にアピールしてただろうが。

 

「見極めは終わりだ。この場に異物が混じった。私の縄張りに許可なく侵入する不届き者がいる。直々に誅する必要がある」

 

 随分と二人に祓われてしまったが、晦冥に残った呪力を回収させる。おかげで晦冥の気配に紛れて補足できていなかったモノホンを見つけることができた。

 警戒をしている二人に敵対しないことを示すため、ちょっとは私の目的を明かそうと思ったが……どうやら時間切れのようだ。

 

「詳細を説明するのはやはり後にしよう。今、私がすべきなのは——この不躾な侵入者に、己の愚かさを思い知らせてやることだ」

 

 我が物顔で現れた呪霊。かなりでかいし呪力も濃い。経験則からして壁抜け以外の強力な能力を備えている可能性が高い。これまで遭遇してきた呪霊の中でも過去最大の強さだろう。

 試しにアストラルを纏った拳で殴ってみる。

 この体は元々身体能力が高い。成長に合わせて年々人間離れした動きができるようになっている。そこに追加でアストラルで強化すれば、身体能力だけならアークス時代と遜色ない。

 ダーカー・ブリュー・リンガーダ(中ボス)をダウンさせるつもりで拳を当てれば巨体が吹き飛んだ。通路の突き当たりにぶつかってやっとその勢いは止まる。アホみたいに吹き飛んだけどあんまりダメージはないみたいだ。

 

「晦冥、お前もあれくらい頑丈になりなよ」

『むりぃ』

 

 晦冥にイメージを送り込む。指輪から呪力の一部が出てくるとイメージ通りに形成され、私の手に渡った(その残滓で作った文字で返答もされた)。

 手に取るのはカタナ。カテゴリだけでなく、アークスの間でもまんま『カタナ』と呼ばれている武器だ。

 長物にカテゴリされる武器だが建物内でもある程度取り回しが良く、素早い攻撃に向いている。

 単純な裏事情として、木刀を使えば万が一見られても誤魔化しがきくので訓練で一番つぎ込んだ時間が長いってのもある。

 

「さて、今後の為にデモンストレーションでもしようか! 五条と夏油さん、そこでよく見てろ!」

 

 手にとったカタナにアストラルを流し込む。そのままでは耐久性が低すぎて使い物にならないからだ。一部に闇色(かいめい)を残し、刃渡りがカーマイン色に発光する。

 地を蹴り、高速で接敵。

 抜刀後の斬り払い、からの斬り返し二閃。

 型としてはサクラエンド零式そのものだ。神速の斬撃とそこそこの威力を出せる優秀な技だが……。

 

「チッ、浅いか」

 

 反撃で飛んできた鉤爪を弾き飛ばし、後ろに飛んで仕切り直し。

 カタナは既に納刀している。抜刀術こそがこの武器の真髄だから。

 呪霊から生えている複数の人間の手。その中のひと組の掌を向き合わせたかと思うと、その間に呪力が集まって呪力の砲弾が形成されていく。

 

「……おや」

 

 見るからに放出系の攻撃だ。これがこの呪霊が持つ能力だろうか。

 多分呪霊としては十分速いのだろうが欠伸が出そうな速度の溜めの後に、ついにそれは発射、膨張しながら突き進む。

 込められた呪力はまずまず。膨張させたのは通路という地形を利用して逃げ道を塞ぐためか。密度が薄くなった分威力は下がっているだろうが、防具もない身に当たればアストラルで強化した私とて痛い目に遭う。

 ま、当たればだけど。

 砲弾との距離がまだまだある時点で、私はカタナにアストラルを流し込む。

 タイミングを見計らって下から繰り出したのは衝撃波を伴う斬撃。地面を滑りながら進むごとに威力が増すそれは砲弾と衝突し、その鋭さを持って敵の攻撃を左右に両断した。分たれた呪力が勢いのまま両側の壁を削っていく。

 

「ハトウリンドウ……少々扱いにくいが今みたいな中距離にはちょうど良い技だ」

 

 誰に聴かせるわけでもなく解説してみる。

 渾身の溜め技が簡単に対処されたからか、怒りに任せて呪霊が突っ込んでくる。

 いやいや、確かに中距離にはって言ったけどそれで接近戦に持ち込もうなんて馬鹿なのか?

 

 今のところ確認した奴の攻撃手段は虫の鉤爪一対による物理攻撃と、背中に生えた三対の人間の手から生み出される呪力放出の計二つ。呪力放出が意味がないと知るやすぐさま接近を選択したということは、遠距離攻撃手段はもう残っていない可能性が高い。

 直線的な鉤爪の薙ぎ払いを大きく飛び上がることで回避。そのまま天井に着地、落ちる前に自ら蹴り出し、運動エネルギーを乗せた斬撃で背中に生えるすべての腕を切り落とす。

 何やら至近距離で砲弾を放とうとしていたようだが、遅すぎるので予備動作ごと潰した。

 そのまま呪霊の背後に着地して、振り向きざまに虫の脚を切り払う。奴の理解が追い付いていないうちに六本ある節足を素早く丁寧に切断する。

 これで移動手段を失った。あとは鉤爪を処理すれば取り敢えず目に見える脅威はなくなる。

 

「なんだ、砲弾を放つ以外は多少頑丈なだけか。ご大層な呪力を蓄えている割には弱いな」

 

 油断はしないが、正直拍子抜けである。

 

「だが頑丈ってのは良いことだ。死ににくいなら、それだけ貴様に無断侵入したことへの後悔を長く味あわせる事が出来る。丁度アストラルを消費したし、補給もさせてくれよ、なあ?」

 

 ああ~楽しいなあ。

 

 正直、ここ数年大物がすっかりいなくなったから闘争から随分と遠い場所に居た。張り合う相手もいなく、来る日も来る日も自己鍛錬なんて流石に飽き飽きしていたところだ。普段はいない五条と夏油(ギャラリー)もいるからテンアゲ。

 でも窮鼠猫を噛むってことわざもあるし、最後まで気を抜かずに行こうか。

 せっかく切り落とした脚を回復されても困るから、手早く丁寧にそして的確に。

 

「削り取ってやろう。お前の肉、お前の力を、お前の存在ごと」

 

 片方の鉤爪を切り飛ばし、もう片方に手を当てて呪力ごと削る。

 ほう、腐っても強力な呪霊なのか。たった鉤爪一本分で上限の少ない私のアストラル保有量をほぼ回復させた。後は晦冥に呪力としてストックしても良いかも。

 

「晦冥、これ食べて良いよ」

『りょーかい』

 

 生きたまま解体(バラ)した。

 

 

 ◆

 

 

 少女が目にも止まらぬ速さで移動している。傷つけられた呪霊は聞くに耐えない奇声を上げた。

 呪霊が呪力を収束して打ち出す。あれが呪霊の呪術なのだろう、決して複雑な術式ではない。収束・充填・発散を目的とした放出系術式。ただ呪力を当てるよりは威力も効率も良いが言い換えればただそれだけの術式だ。

 ——故に単純明快で強い。

 それを、少女は一太刀のもとに両断した。

 

「ただの刀では呪力は切れない。あの刀はあの子が飼っている呪霊が作ったようだが……あの洋紅色の輝きはなんなのか」

 

 その後の戦いで見せた少女の身のこなし、一瞬にして呪霊を無力化させた技術。そして鉤爪を消失させた力。

 

「強いな。これは天与呪縛は確実、術式も使っているんじゃないか?」

 

 少女の戦いを観戦している夏油は同意を求めるように呟いた。

 

「……悟?」

 

 返答がないことを訝しんだ夏油が隣に目を向けると、そこには予想以上に険しい表情の五条がいた。サングラスを外して顕になった六眼で少女を睨んでいる。

 

「あのガキ、呪力じゃない何か別の力を消費して戦ってる。俺にも見えないナニカ」

「六眼を以てしても感知できない謎の力か……」

 

 脅威だ。本人の目的はまだ判明していないが、呪術師には察知できない強力な力を持つだけで、上層部は彼女を危険人物と見なす可能性がある。下手したら秘匿処刑なんて言い出すかも知れない。

 

「あー、でも慣れてきた」

 

 五条が不敵な笑みを浮かべる。

 

「慣れてきた?」

「そ、感知できないなら別の視点から感知できるようにすれば良い。ガキが使っているナニカは確かに存在する。ならば周囲の呪力を押しのけているナニカを知覚するまでだ」

「悟……君ってやつは……」

「すんげぇ~疲れるけどな! あー、ヤメだヤメ!」

 

 五条は外していたサングラスを付けた。言葉通り六眼で探るのはやめたのだろう。

 

(悟ならそのうちその負荷(つかれ)も克服出来るようになるんだろうね)

 

 戦闘が一段落したようで、少女は呪霊相手に遊び始めた。

『不躾な侵入者に己の愚かさを思い知らせている』最中なのだろう。

 呪霊が切り落とされた部分を回復させる素振りをすればすぐさまその部分を切り落とし、そうでなくとも端から削り落としていく。

 落ちた肉片(パーツ)を少女の指輪から漏れ出た不定形の靄が包み込んで消化して食らっていく。

 生きたまま解体されていく呪霊。少女は笑みを浮かべてはいるものの、戦闘時ほど楽しんでいるようには見えない。

 少女の作業は大して時間はかからなかった。

 五条も珍しく茶々を入れることもなく、ジッと少女を観察している。

 

「そんなに見つめられたら照れるよ、五条」

 

 残った呪霊の核となる頭部をカタナで縦に薙ぎ払うと、少女はやっと夏油たちを振り返った。

「闇落ち少女コエー笑」

「さて、只者じゃないお嬢さん、さっきの続きを聞かせてもらおうか」

 

 ニヤニヤと悪戯小僧のように笑う五条とは正反対に夏油は真面目な表情だ。

 少女は静かな笑みを浮かべて近くの部屋に入る。夏油も部屋の中の様子を見れる位置に移動して伺えば、少女はどうやら外を見ているようだった。

 いつの間にか陽は沈み、空の端が辛うじて紫色に染まっている。

 

「門限が近い。そろそろ帰らなければ」

「おいおい、闇落ち少女がそんなん気にすんのかよ」

「さっきから何だよ、闇落ち少女って……。私は施設育ちだって言っただろう。うちの職員は厳しくてあまりルールは破りたくないんだ」

 

 五条の言いように少女は呆れたように返す。ここに至ってよもや施設育ちが真実だったとは。

 

「君たちさえ良ければ一緒に施設まで来るかい? あまり良い顔はされないけど客人を呼ぶ程度は許可が下りるし」

 

 少女の誘いに夏油と五条は顔を見合わせた。五条は面白そうとすぐに賛成し、夏油も断る理由はない。少女に敵対の意思は感じられないし、積もる話も廃墟よりは施設の方がゆっくり出来そうだ。

 ただ、一つ懸念があるとすれば。

 

「ここ以外にもいくつか呪霊が出るポイントが確認されていて、私たちはそこの呪霊も祓除する予定だったんだけど」

「それなら問題ない。もう気付いているかもしれないけど、あれも君たちを誘うためのブラフだから。晦冥に言って回収させている」

 

 クスクス、と少女は笑った。

 

「私の目的が知りたいだろう? 心配しなくても全部説明するよ。でもその前に——」

 

 少女は手を差し出した。

 

「改めて自己紹介しようか?」

 

 既視感。

 

安藤優(あんどうゆう)だ。いい加減、私のことはきちんと名前で呼びなさい。よろしくね、五条悟、夏油傑さん」

 

 

 

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