呪術廻戦 and U   作:来宵

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7.高専一年生 meets 夜蛾+学生生活

 大変遺憾な一日遅れの入学。

 余計な寄り道をしてしまったが、寮母に案内してもらってなんとか寮の自室に荷物を置くことができた。

 

(なんで朝からこんなに労力使うんだろう……)

 

 多分、いや確実に。五条の言動は諦めて流せば良いのかもしれない。

 

(でも泣き寝入りは嫌だ。つーか単純に五条がムカつく)

 

 私が大人げないだけか? と、悶々と考えながら来た道を逆戻りする。

 

「安藤何してたんだ、おせーぞ」

「いや、待ってなくても良かったんだけど」

 

 外に出たらなぜか五条と夏油が待っていた。逆に同級生の二人がいない。どうせなら教室まで連れて行って欲しかったんだけど。

 

「七海くんと灰原くんは私達が先に行くように言っておいたからね」

「……なんで?」

「そりゃお前が昨日できなかった手続きと俺たちの担任と面談するからに決まってんじゃん」

「手続きは分かるけど……面談って?」

 

 歩き出した二人に付いて行く。

 

「優ちゃんが入学するのに関わったのは何も私たちだけじゃない。私たちの担任の先生の助力があったんだよ」

「学長はスルーして良いのか?」

「今の学長は名家出身でもない無名の下々(しもじも)には興味ないんだ。いくら貴重な戦力でも、わざわざ面談をしようとも考えていないよ」

「あいつも保守派(くさったみかん)だからな、今俺たちが知っている中で正直に安藤の能力を言える大人は先生しかいねえんだ。お前の能力を一緒に誤魔化すのに協力してくれている」

「あの……今更だけど、私の能力誤魔化しているっていうけど具体的にはどうしているの? 任せろっていうから本当に丸投げしちゃったけど」

 

 流石に戦闘の要であるアストラルをこの先ずっと使わないなんてしたくない。

 

「優ちゃんの術式、変転術式はそのまま伝えているよ。ただ、その変換後のアストラルを未知の新エネルギーではなく、あくまでも天与呪縛があっても扱える優ちゃんの特殊な呪力と報告しているんだ」

「そんなんで良いの?」

「爆弾は包むって言っただろ。埋めちゃあ、いつ踏み抜かれるか分かんねえからな」

 

 五条曰く、本来術式ってのは術師の数だけあると言われるほど多種多様らしい。体系が確立されているのは御三家を主とした相伝の術式くらい。

 その点、変転術式は相伝でもなく、一人の術師に一パターンしか変転できない扱いにくさもあって未知が多い術式だから、ある程度誤魔化しやすいらしい。

 

「そうなんだぁ……」

 

 フォトンと同じように扱えるエネルギーをアストラルって私が勝手に名付けているだけで、呪術師が受け入れやすいように『特殊な呪力』って呼んでもらっても何ら構わんけど。

 逆にたったそれで上層部は納得するんだなぁ……。

 

「お前なぁ、拍子抜けってツラしてるが六眼にも察知されない『呪力ゼロでも扱える汎用性と隠密性のある何か』を上の連中が聞き付けてみろ、確実にひと悶着あんぞ」

 

 それは散々聞かされてきたから理解できるが。

 

「悟は呪力を押しのけて存在するアストラルを、呪力を見る事で間接的に把握しているから、君の抑止力となる事ができる。その立場が盤石であると示すためにも『六眼でも見れません』なんて伝えていない」

「単純に私が強い呪術師、っていうのはダメなのかなあ」

「それで納得させるには圧倒的に優ちゃんの信用性が足りないね」

「おっしゃる通りです……」

 

 私は自身の戦闘能力を見誤ったりしない。元守護騎士(ガーディアン)として、過不足なく客観的に己を判断できるように務めている。

 呪術界では強者に分類される五条と夏油から一目置かれていることも、ここ数ヶ月のやり取りで自覚した。

 そんな力を持つぽっと出の人間を、五条曰く保身と権力維持が生きがいの上層部が見逃すはずがない。

 

 とは言っても今やっていることも問題の先送りではあるのだけれど。

 呪術師として活動していくならそのうち私の能力の異質さも露呈してしまうだろうし。武器を使用してのフォトンアーツはまだ良いとして、テクニックの使用は致命的だ。

 初めてテクニックを見せた時、五条と夏油が珍しく全力で驚いていたのは記憶に新しい。

 術式は一人一つなのに、術式とは別に魔法じみた属性攻撃が沢山使えるっていうのは、呪術師から見てもおかしいのだろう。

 今後、事情を知る者以外の人目があるところでのテクニック使用は控えたほうが良いかもしれない。使用するとしても限定的な開示に限ったほうが良い。それで——

 

 ——パン、と拍子を打つ音が耳のそばで響く。

 ハッとして顔を上げれば、夏油がすぐ近くで手を叩いたようだった。

 

「思考の深みに嵌ってたよ、話を進めていい?」

「う、うん……ごめん」

 

 そう、どうせ今考えてもしようがないことだ。

 

「取り敢えずアストラルの件はそれで一旦終わり。それはあくまでも潜在的な爆弾だ。今、表面的な問題になっているのは実は君ではなく、君の持つ呪霊、晦冥になる」

「晦冥が?」

「うん。呪霊を完全に支配下に置く術式を持つ私とは違って、君の場合は縛りで擬似的な主従関係にあるだけだからね。君たちの縛りは形式に則って細部まで詰めた契約でもない。晦冥が掃いて捨てるような雑魚なら問題なかったけど、君の呪霊は呪術師から見たらかなり強い分類にあたるからね」

「……この子の純粋な戦闘力ではなく、その能力が問題ということか」

「あとは単純に内包する呪力量が余裕で特級相当ってとこかな」

 

 左拳を握り込む。

 晦冥は弱い。体は脆いし、純粋な戦闘能力だけならきっと三級から抜けたくらい。

 だが晦冥は呪霊らしからぬ知性を備えているし、その能力を搦手として運用するなら準一級程度なら屠れる。

 

「晦冥をどうするつもりだ……?」

 

 思わず睨みつけてしまうが、夏油は気にしない様子でにっこりと笑った。

 

「別に何もとって食おうってわけじゃないよ。私をはじめとして呪霊を従える存在は珍しいくはない」

「?」

「ただ、それを許容するには相応の手順ってのがあってね。今からする手続きにはそれも含まれるんだよ」

「ああ……そういえば元々手続きが目的って言っていたね」

 

 無意識に力んでいたのを自覚して脱力する。

 ちょっと安心した。

 けど、夏油の話の進め方って無駄に不安を煽っているのは気のせいかなぁ……。

 

 

 ◆

 

 

 夜蛾は高専に複数ある道場の一つで待機していた。

 待ち時間を利用して手に持つニードルで羊毛フェルトをチクチクしている。しばらく地道に作業に勤しんでいたが、扉越しにでも外から聞こえる話し声に顔を上げた。

 

「来たか……」

 

 担当している悪童二人に連れられて来た少女に夜蛾は鋭い視線を向ける。

 五条たちからの報告によれば、この少女がかつて夜蛾が任務中に遭遇した不可思議な現象を引き起こした張本人なのだという。

 その目的も既に聞き及んでおり、悪質ではないことと本人も危険性を自覚し反省していること、長年の該当区域での呪霊被害抑止の功績を考慮してお咎めなしとなった。

 

「あの人が私たちの担任、夜蛾正道先生だよ」

 

 夏油に示され、少女の瞳孔の白い眼が夜蛾に向けられた。本人にはその気がなくても、威圧感がある。

 

(悟もこいつも最近の若者は無駄に眼力だけはあるな……俺もサングラスでもかけるべきか?)

 

「初めまして、安藤優です。この度は入学に伴うお力添え、ありがとうございます」

 

 両手を重ねて自然となされたお辞儀は美しいが、夜蛾はどこか機械的な印象を受けた。

 

「何をしにここに来た」

 

 前触れもなく振られた質問に、安藤は少し考えてから答える。

 

「呪術師になるために」

「君はここに来る前から独自に呪霊の祓除を行っていたそうだな。ここに来たのはその延長線上か」

「元々施設を出たら各地を放浪しながら呪霊を祓う予定でした。中学を卒業する前にそれを生業とする職業があることを知ったので、就職先にと考えたまでです」

「就職、か」

 

 それが悪いとは言わない。だが、それでは平凡すぎる。

 

「呪術師は遊びではない。組織に所属するからには義務と責任が発生する。これまで君は君自身の裁量で呪霊を祓ってきた。しかし今後、呪術師として活動するのなら上の指示に従わなければならない」

「………………」

「戦闘で仲間の死を目の当たりにすることも珍しくない。敵は呪霊だけではなく悪質な術師、人間を相手にすることもある。不快な仕事だ。意にそぐわない命令もあるだろう。己の命が最優先事項ではないこともザラだろう。それでも君は——」

 

「仰りたいことはそれだけですか」

 

「……なに?」

 

 ブワリ、と何かが溢れた気配がした。

 

「元より私はここに遊びに来たのではない。この世において、私に呪霊を殺せる力があるのなら、私は喜んでそれを殺そう。この肉が削がれ、骨が砕けようと幾度でも立ち上がって見せよう」

 

 いつの間にか少女の瞳が輝いている。まるで暗闇で光に反射した猫の瞳が発光しているかのように。

 

「義務? 責任? 仲間の死?」

 

 少女は不敵に笑う。

 

「——上等だ。(エネミー)の殲滅、原生種の保存こそがアークス(わたし)の目的。そこには原生住民(にんげん)も含まれている。戦いの過程で仲間の死は避けられない。それを悼みこそすれ、自身が立ち止まる障害にするのは仲間への侮辱行為だ。私が折れる要因にはなりえない。

 

 敵がそこにいるなら殲滅する。

 

 これまでも、そしてこれからも。私が戦う理由など、それで十分だ。それは呪術師になっても変わらない」

 

 少女が口を閉ざすと痛いほどの沈黙が流れた。

 緊迫した空気が場に漂う。

 

(立場が変わろうと、己の意志は変わらんということか。これ以上俺がどうこう言うのも無粋か)

 

 覚悟は示された、ならば問うた夜蛾が否定するはずもない。

 

「——合格だ。改めてようこそ、呪術高専へ」

 

 半端な答えが返ってきたなら力尽くでも本音を聞き出すため、待ち合わせ場所を道場にしたが……意味はなかったらしい。自身がリスクを負ってまでその能力の隠匿を許した生徒だ。威勢の良い言葉が聞けてむしろ喜ばしい。

 

(……しかし途中よく分からん単語が出ていたが何かの設定か……? まぁ、安藤の意図は伝わって来たから良いか)

 

 軽率に突っ込んだら(安藤が)可哀想なことになると察した夜蛾だった。

 

 

 ◆

 

 

「——合格だ。改めてようこそ、呪術高専へ」

「ありがとうございます。先ほどの無礼な振る舞い、失礼しました」

 

 夜蛾に認められたことに私は余裕のある笑みを浮かべた。

 

(あっぶなかったー! 啖呵切ったは良いもののつい勢いで原生種とか原生住民とか言っちゃった。アークスが何か突っ込まれなくて助かった……!)

 

 裏では盛大に焦っていたが。

 唸れ私のポーカーフェイス!

 

 夜蛾に告げたことに嘘はない。私はもうアークスではないけれど、長年染み付いた目的も貫いてきた意志も健在だ。

 人間が蚊を叩くように、アークスがダーカーを殲滅するように。敵がいるなら殺す、私が呪霊を殺す動機などわざわざ探す必要などない。

 

 もちろん、高専に来たのは殺伐とした理由だけではなく、単純に一緒にワイワイする仲間が欲しいのもあるけど。ソロって気楽だけど寂しいからねー……。

 前世戦闘職、今世も戦闘職への就職を決めたとは言え私は戦闘狂ではないのだからな!

 

「さて、俺からの面談は終わりだ。次にここの警備(セキュリティ)などの説明を行う」

 

 そうして本来であれば昨日聞くはずだった諸々の説明を受けた。

 

 最後に晦冥の一部を提出。高専のセキュリティを問題なく作動させるため、晦冥の呪力を登録することで敷地内で晦冥が能力を使用しても警報(アラート)がならないようにするのだ。

 本来なら生徒である私もするべきなのだが、呪力がないので見送りになった。

 夏油が言っていた呪霊への手続きってこれか。説明されていないけど、警報機能だけでなく使用した履歴も残るのだろうか。敷地内なら正確な場所も感知されたり……。

 

「ねえ、晦冥を無限に分離させたらセキュリティバグるかな……?」

 

 何やら書類を精査し始めた夜蛾を待つ間、私はこっそりと五条と夏油に囁いた。

 

「何その発想ウケる。その呪力GPSみたいなの、本当にあるんなら傑の呪霊も全開放したら面白いんじゃね?」

「姉妹交流会の仕組みを考えるにGPSはないとは思うけど……全く同じタイミングで呪力が大量発生したらシステム管制は狂うかもね。大分キャパも大きいだろうからやるとしたら結構な重労働になると思うよ?」

「ふむ、それじゃあ今の晦冥の呪力では心許ないな……もっと呪力を蓄えないと」

 

 ただの思いつきが思いのほか話題が弾んで話し込んでしまう。

 

「おい、そこ、固まってなにか悪巧みか?」

 

 鋭い夜蛾に指摘されて、秒で突き合わせていた頭を離した。

 夜蛾に体を向けて綺麗に横に並ぶ。チラと横を見やれば二人共神妙な顔をしていた。私も同じ顔している自信がある。

 いやいや冗談だし。流石に本当にやったりしないよ意味ないし、ホントホント。

 夜蛾は大分訝しんだようだが、「整列しているならちょうど良いか」と流してくれた。

 

「最後に。安藤優、君を二級呪術師として任命する」

「……はい。謹んで拝命いたします」

 

 んん? 事前に何も聞かされていないけど今等級をもらったんだよな。

 呪術規定とか任命書とか重要事項が記載された書類を入学関係の書類と一緒にどさっと渡される。

 

「あの……二等級って入学したらすぐに貰えるものなんですか?」

「そんなわけねーだろ」

 

 夜蛾に投げかけた質問のつもりだったが、五条が解説してくれた。

 

「前からちょくちょく俺達の任務に連れて行ったり、補助監督ありで代わりに呪霊を祓ったりしただろ。その実績でお前は二級になったんだよ」

「そういえば、担任の先生に相談して私の実力をはかるって……」

 

 言ってたねー、穴熊呪霊を倒す日に。結構記憶ほじくり返したわ。んで、その担任の先生ってのが目の前にいる夜蛾先生ってことね。

 

「ハァ……お前ら、事前に教えてやらなかったのか」

「別に前から知っていようが、今知らされようが安藤のやることは変わんないだろ」

「ほら、優ちゃんにプレッシャーかけちゃいけないと思って」

 

 どこまでが本音なのやら。

 

「んじゃ、こっからはまだ誰も知らねーこと教えてやるよ」

 

 五条が人差し指をピンと立てて歯を見せた。後ろで夜蛾が「俺にも相談していないことってなんだ」って怖い顔している。

 

「安心してください、別に悪い話じゃあないですよ。——私、夏油傑と、」

「五条悟の名の下に、安藤優を一級術師に推薦する」

 

「………………」

 

 夜蛾が頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。

 

「~~このバカどもがっ!!」

 

 うん、正直もう話についていけない。

 

 

 ◆

 

 

 結局、私の一級術師への昇級はしばらく見送られることになった。

 流石に二級になって間もないのに任務もこなさずに推薦は受理しかねるのと、代々呪術師を排出してきた名家出身でもない、実力も書類上の評価しかないスカウト呪術師に対して目に余る特別待遇だからだ。

 そもそも申請先間違えているし。するなら現学長だし。

 正直、呪術界における一級呪術師の立ち位置がどれほどのものなのか、私にはまだ実感もわかないけど。

 

 

 なお、話がまとまる前の一幕。

 

「俺が学長になるまで安藤を無駄な注目から避けたいって言った奴誰だ、名乗り出ろ」

 

 五条と夏油が互いを指差した。

 

 その後の展開はお察しである。

 

 

 ◆

 

 

 そうして始まった高専での生活。

 

 呪術師を育てる機関ではあるが、通常の学校で習うような座学も教育課程に含まれている。効率化のためか補助監督志望の子達と合同の場合が多かった。

 

 実技は主に体術を中心にやり、各自の術式の研究は先生の助言をもらいながら自ら研鑽することになる。校内に生徒自体が少ないので、学年関係せず合同で訓練することも多い。

 クラスメイトの七海と灰原はスカウトされただけあって運動神経もよく、ある程度の体術は身についているようだった。私はどちらかというと上級生に混じって彼らをサポートする方に回ったが、時にアークス時代では見たことのなかった武術を逆に習ったりした。

 いやー、書物では知っていたけど、改めて地球の武術流派って無数にあるなあ。

 それぞれの特色も違うし面白い。これまで研鑽してきた技術と相性の良い動きを組み込んでいくのは新発見も多く、日々新鮮な気持ちで取り組める。

 やはり誰かと共同訓練することがモチベーションを保つのに大切なのを実感した。

 

 基本的には校内での学習になるが、時には引率されて直接呪霊を祓除に向かうこともある。皆で祓うときは主に三級の雑魚を相手に実地訓練だ。現場の空気に慣れさせる目的もあるのだろう。

 同級生の補助監督見習いがたどたどしくも下ろした帳を見届けて、現場に直行するのは呪術師見習いの私たちだ。とはいえ、二級術師の立場の私は見習い扱いではないので、彼らの成長のためにも基本は後方からのサポートに徹するが。

 

 これまでは誰からも避けられてきた私が、同年代のクラスメイトと切磋琢磨をしている……。

 誰かとお喋りして一緒に学業に励む、ただそれだけなのに……。

 これ以上ない幸せを感じて密かに噛み締めた。あー、涙がこぼれそ……。

 

(そうか、これがリア充か……!)

 

「なんで安藤さん急に拳握って天を仰いでるんだろう」

「灰原くん、今は放ってあげたほうが良い」

「え? 誰か私のこと呼んだ?」

「呼んではないかな!!」

 

 

 

 

 入学から瞬く間に二週間が過ぎ、今日は学校は休日だが一年生で自主的に集まって朝から自主訓練をしていた。

 

「灰原くんは戦法で悩んでいるんだっけ? 七海くんも?」

「うん、今はとりあえず習っている体術で戦っているけど、何か僕に合うような武器ないかなって探してるんだ」

「私はもう適当な武器を選んだので、動き回る相手でも急所に正確に打ち込む練習でもしようかと」

 

 灰原は武器探しで七海は精度の鍛錬か。それで昨日の放課後に武器とか自立駆動する案山子を借りる申請してたのね。

 一人納得していると逆に灰原に「安藤さんは?」と聞かれる。

 

「私は自己回復とか耐久度を上げる練習かな」

 

 基本的に避けて当てる戦法だが、どうしたって負傷するときは負傷する。その際の回復手段としてレスタがあるが……。以前五条を相手に試した時に改善しなければいけない問題点が出てきたのだ。

 耐久度上げは単純にユニットという防具がない状態でも打たれ強くなりたいという思いからだ。必中攻撃を前提とした訓練は後回しにしていたし。

 

「自己回復って反転術式の練習? もうそこに手を出しているのですか?」

「ううん、同じ効果だけどあくまでもアストラルの応用技で、呪力を使用する反転術式じゃないよ」

 

 七海の勘違いを訂正する。二人には既に、私が呪力がなくとも生得術式の効果でアストラルという呪力と似たような力を扱えると教えている。

 

「まぁ私のはすごく急ぎってわけじゃないし。それより灰原くんの武器選びちょっと見てみたいかな」

 

 訓練場の端に綺麗に並べられた訓練用の模造武器を順番に眺めていく。

 木刀やマチェットなどの刀剣、棍棒や槍のような長物、多節棍のような連結武器、メイスやトンファーなどの打撃武器など、一通りの近接武器が集まっている。

 

「因みにこの中だったらどれが一番よさげ?」

「んー……これかな」

 

 灰原が武器を眺め回して最終的に選んだのはナックルだった。

 

「結局格闘じゃん。あれ、そういえば遠距離の武器はないの?」

「倉庫に弓矢くらいしか見つからなくてさ。そういうの余計に扱えそうにないし」

「んー……形にとらわれずに試してみても良いんじゃない?」

 

 アークスの第三世代だった私はすべてのクラスに適性があったから、最終的に全クラスをマスターした。得意不得意は多少あるけど扱える武器の種類にはそれなりに自信がある。見た目で最初は苦手意識を持っていた武器が、実際に使ってみれば意外と馴染んだなんてことも珍しくはなかった。

 

「そうだ……! フフフ、灰原くん。高専にもなかなかない武器をお試しさせてあげよう」

 

 そう言って晦冥にイメージを送って作らせた武器を手早く灰原に握らせた。

 

「ええ!? これって!」

「アサルトライフルだよ」

「この日本でまた物騒なものを持ち出しますね、あなたは」

 

 そう、渡したのはグリムアサシンのアサルトライフル形態だ。灰原とのやり取りを横で見ていた七海に呆れ顔で溜息つかれた。

 

「安藤さんの晦冥って銃火器も作れんの!?」

「ちゃんと構造もイメージすれば作ってくれるよ。んで、これ銃だけど火器じゃないから。弾薬の代わりに呪力を込めて打ち出してみてよ」

 

 簡単なライフルの使い方を教える。構えはレンジャークラスだ。流石に初心者にファントムクラスみたいに片手て打たせようとは思わん。

 壁に描かれた目標に向けて、銃身から連続で放たれた呪力の弾丸は中心から少し逸れて銃痕を残した。それからも何度か繰り返していくと、だんだん狙い通りの場所に着弾するようになる。

 

「灰原くん筋良いじゃん。短時間でもう狙い定まってる」

「いやー……まさかこんなに当たるなんて。自分でも驚いているよ」

「普通に暮らしていたのでは絶対に判明しなかった才能ですね」

 

 意外な結果に三人で感心する。ちなみに七海には合わなかった。

 

「んじゃ、次はこれとこれも試してみてよ」

 

 そう言ってツインマシンガンとランチャーも試してもらった。

 ツインマシンガンはアークスの身体能力をいかして片手で打つため、二丁でワンセットの拳銃だ。ある程度反動に耐える必要があるが、呪力で身体強化すれば問題ないだろう。

 ランチャーは少々連発性に問題があるけど、一撃一撃の威力が高い上、本体を強化して耐久性を上げれば鈍器にしてもよい。

 

「アハハ、なにこれ楽しいね!!」

 

 ランチャーを脇に抱えて次々と呪力を発射する灰原。

 

「ヤバ、トリガーハッピーが出来上がってしまった……」

「どうするんですか、君のせいで灰原くんが汚染されましたよ」

「七海くん、それどういう意味?」

 

 満足するまで銃器を試した灰原。銃弾の餌食となった壁は壊される前提に作られているが、それでも耐久性が低い使い捨てではない。それが今となってはいくつも抉れた跡が出来上がり、罅が広範囲に広がっている。

 

「いやー、ありがとう安藤さん。貴重な体験をさせてもらったよ!」

「いい感じに扱えているし、高専に申請して銃でも支給してもらったら?」

「うーん、アサルトライフルが結構気に入ったけど、これ背負ってるの街中でバレたら補導されるじゃん」

 

 呪具を持ち歩く術師だってザラにいるのに今更か。

 万が一警察に補導されて連行されたとしても、最終的には組織が手を回してくれるので銃刀法所持違反とかにはならんが……確かにその手間が発生するのは面倒だな。

 

「見た目が問題ならこれとかどう?」

 

 晦冥にとある武器のイメージを送る。

 そうして顕現したのは、神聖な長杖(メイス)を連想させる銀色のアサルトライフル、レゾナントオルコス。

 

「それ銃?」

「うん、こう見えて呪力を発射する機構を備えたアサルトライフルだよ」

 

 細長い形状の本体に美麗な浮き彫りが施され、蒼穹の飾り帯をつけられたそれがしっかりとトリガーがついている銃だとは誰も思わないだろう。

 原本はフォトンを発射するので銃口さえない。代わりに宝石のように取り付けられた結晶がキラキラと青く輝いている。元を忠実に再現したこれを所持して咎められたとしても、宗教系の儀礼杖と言い訳できるのではないか。

 

 細長いそれを自然な動作で構え、壁に向かって連射する。ボロボロの壁に超ダメ押し。

 よし、問題なく撃てるね。

 

「それ仕込み銃みたいでかっこいいね!」

「そうだね、現代の技術ならその気になればいくらでも再現できるんじゃないか?」

 

 銃を仕込んだ杖とか口紅があるんだから。

 それを聞いた七海が「しかし」と口を開いた。

 

「私も閲覧できる範囲で術師の資料を読みましたが、弾薬に呪力を纏わせる術師はいても、呪力そのものを銃を媒体に発射する術師は知りませんね」

「その発想がなかっただけとか?」

「そもそも銃火器を使用する、というのは少数派のようです」

「確かにあんまりそんなイメージないかも」

 

 高専にある模造武器や校内見学で案内された武器庫は昔ながらの近接武器ばかりだった。

 遠距離攻撃が出来る人はそもそも自身の術式でそれを成しているので、あまり現代武器に頼ることがないのだろう。

 

「ま、でもこれで灰原くんは遠距離の武器も意外とイケるって分かっただろう? 体術で戦うのを主にするとしても、近付けない相手への対策として遠距離攻撃の手段を用意しておくのも悪くないよ」

「うん、今回は良い参考になったよ。もう少し考えてみる。ありがと! 安藤さん」

 

 素直(灰原)で常識人(七海)な同級生って居心地いいなー!

 

 

 ◆

 

 

『ろーど かいめいを

 にどと ほかのひと つかわせないで』

 

 ——ああ、私のためにその身を犠牲にした、

 他でもないお前の望みなら——私は、それを許そう。

 

 

 




原作に初登場した際、灰原くんが武器なしの素手だったのがとても気になる。
術式捏造しようと無駄に能力考えましたが、そもそも生得術式のない呪力で戦うタイプだったのかなー、に落ち着きました。

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【本編に入れたらテンポ悪いので割愛したアストラルの設定】を活動報告に上げています。
あとがきに載せようと思ったのですが、ちょっと長いので。
本編の補正にもなるので、興味がある方は是非覗いていだだけたら嬉しいです。

そのうち人物設定や能力設定を一話使ってまとめてみたいですね。

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