花で奏でる。   作:斉藤努

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お久しぶりです。今回は短めの閑話です。


第10話

「どうしたら俺の事視てくれるかなぁ」

 

 放課後の屋上で夕暮れの下に啓人は黄昏ていた。普段なら居るはずのない存在には気付かずに。

 

「私ならずーっと啓人の事見てるよ?」

 

 そう、啓人の想い人であるたえがいる。啓人が気付かぬ間に後ろに接近していた。

 

「た、たえ!?あの、今のはなんでもないから!そっ、そういえばたえはなんでここにいるの?」

 

「今日バンドの練習もないから啓人と帰ろっかな〜って。教室にもいなかったし昼休みとかよくここにいるから来てみたらなんかゴニョニョ言ってるから声掛けたの」

 

「そうなのね。じゃ、一緒に帰る?それと、さっきのは忘れてください」

 

「なんで敬語?変なの。ま、いいや。じゃあ早く帰ろ」

 そうたえに急かされ立ち上がる啓人。顔を真っ赤にしながらたえと帰ることを決めたのであった。

 

 

 いつの日のかのように植木が等間隔で並べてある遊歩道を歩む2人。啓人はたえに特別な眼差しを向けている。

 

「あ、のさ、たえ?今日ってなんで俺と帰ろうと思ったの?練習はなくても一緒に帰ることできたんじゃ……たえ?」

 

「はっ、ごめん。ちょっと考え込んでた。今日は啓人と帰りたくなったんだ。ポピパの皆もそのこと言ったら笑顔で承諾してくれたし。けどちょっとなんか皆ニヤケてた?」

 

 それを聞いた啓人は顔を真っ赤にたえから視線を逸らす。しかしそれも束の間、真剣な眼の啓人が突如足を止めたえを呼び止める。

 

「あのさ、たえ。なんで俺なの?たえって俺以外にも仲良い人いっぱいいる訳じゃん。なんでこういう時俺に声かけてくれるの?」

 

「一緒にアルバイトして憧れたからかな。一生懸命動いて汗かいてる啓人がカッコよく見えた。じゃ、ダメかな?」

 

「そ、そうなんだ。急に変な事聞いちゃってごめん。勘違いしちゃダメだよ、俺

 

 そよ風のような、かすかに聞こえる程度の声で啓人はそう言った。

 

 

 

 

 

 

 ダブルブッキングの事件以降、啓人はたえに対して控えめになっていた。ヘタレな為元々控えめではあったのだが。

 

 だから今、たえの手を握ったりはしないし横顔を眺めることもない。

 

 啓人の中でたえという存在が“恋愛対象”と“友人”の間で揺れ動いているのだ。時には熱のこもった視線を向け、またある時には友のように笑い合い目標へと向かっていく。たえからすると同じでも啓人自身は違うと感じる事。

 

 すれ違う想い、揺れ動く気持ち。啓人が我慢するのはもう限界に近かった。家のベッドで何度も泣き啜りながら自分の恋心を信じきれない啓人。しかしながらその男は自分のことを思いながら嘔吐いている人がいるということを知るよしもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、啓人は時間通りに一寸の狂いなく目を覚ました。目には涙の痕がくっきりと残っている。

 

 目を擦り立ち上がると洗面台で顔を洗い着替えると啓人は家のドアを開けた。

 

 啓人が行き着く先は江戸川楽器店。修理に出していたベースを取りに来たのだ。

 

 啓人が店に入ると前に来た時に見た少し太めの体型の男に声をかける。

 

「あの……ベースを取りに来ました」

 

「ああ、神崎さんね。出してくるからちょいと待っててくれるかい?」

 

 そう言った後男は店の奥に進み、しばらくすると楽器のケースを持って顕れた。

 

「これだよな。弦は君が使ってたヤツがもう製造されてないみたいだからそれだけ此処で買ってもらえると嬉しいな」

 

「え、あの修理代とか大丈夫なんですか?結構埃被ってたベースでしたし」

 

「逆にそれ以外は傷付いたりしてなかったし、大切に保管してたんだろ?それでなんか事情があって修理しに来た。此処に来る奴なんて皆そんもんだよ。ま、ひとつ言うならこれからも贔屓にしてくれ」

 

「ありがとうございます。じゃあ弦、買わせてもらいます」

 

『ありがとな』とそう言って男は店の奥に帰っていく。啓人も弦を買った後踵を返すのだった。

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