今回の話は閑話的なほのぼのとした感じにできたかな、と思ってます。
それではどうぞ
自室の寝台に寝転がるレイは暗転しかけたスマートフォンを眺めていた。そこに映るのは想い人である啓人との会話。日時と場所だけを決めた質素なやりとりではあるが一字一字に想いを込めて打ち込んだことが見て取れる。レイはその文字を見つめながら暗闇に落ちていった。
pipipipipipipi
破裂しそうな甲高い音でレイは目を覚ました。早い時間に目覚まし時計をセットしていたことでまだ啓人とのデートまでには時間はある。顔を洗うとバンドメンバーの一人に教わっていたメイクを始めた。道具を置いた鏡の向こう側にはカッコイイ印象を持たせるライブ時とは違い、可愛らしい年相応の少女の姿がそこにあった。
そんなことも露知らず。集合時間15分前にハッと起き上がったのはオンナゴココロナンダソレこと啓人である。急いで鏡の前に身を移し寝癖を抑え込むと服に腕を通す。
冷蔵庫に入っていたパンを口に詰め込み、それを牛乳で流し込んだ。
「とりあえずレイちゃんに連絡してっ、と。急がないと待たせちゃう」
玄関の前の鏡で身だしなみの最終チェックを済ませると真夏の晴天の下へ足を踏み出していく。
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『遅れちゃった。待った?』『いいや、ぜんぜん。今来たところ』
昔か擦られまくったこの会話劇は普通で言ったならば前者が女で後者が男である。いや、俺は女性にやってもらうんだとか思ってるそこのお前。デートで遅刻する男とか、普通に恥ずかしいだけだ。しかもこの会話は男と女がどちらも集合時間前に既に来ていた時にしか成立しない。しかしそれは冷静な判断を下せる状況下にいる人間が辿り着く見解である。いまの啓人にその判断が下せるのだろうか。
汗だくで駅前に着いた啓人は息を整えつつ約束の人間を見つけていた。
「はあ、はあ。レイちゃん、待たせちゃってごめん」
「私、けいくんのことすっごく待ったよ。もしかしたら事故とか巻き込まれちゃったんじゃないかなって心配だったんだ」
「ご、ごめん? 昨日楽しみで寝れなくてさ。小学生みたいだよね、ははは」
だめだこりゃ。でもちょっとかわいいな、内心そう呟くレイだった。もう遅刻のことを責めるのは諦めたのかダメ元で今日の予定について聞いてみた。
「今日はねえdubに行こうと思ってるよ。レイちゃんに伝えたいことがあるんだ。楽しみにしててね」
ハッと驚いた様子のレイは面白半分で質問したことに罪悪感を感じつつ啓人の言っていた『伝えたいこと』について思いを巡らせていた。
「汗も落ち着いて来たしそろそろ行こっか」
レイの腕を優しく掴んだ啓人は手を引きながら進んでいった。
バンドのライブが開催されている休日のdubでは人がそれなりに集まっていた。受付にて働く美乃里にアイコンタクトをした啓人は奥の方へ足を進めていく。『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアの前まで行くと開きながら「入って入って」と手招きをした。
「ここってスタッフルーム? というか今日ライブあるんだったらお仕事しないとなんじゃ……」
「今日は美乃里さんに許可もらったから大丈夫。それでね、今日ライブするバンドの人たち最近よくdubでライブとか練習とかしてくれるんだ」
「そうなんだ? ここは機材も使いやすいし、優しい
「そんな事言われたら照れるなぁ。それでね、この人たちが頑張ってるのを見ると応援したくなったり感情移入したくなっちゃうんだ」
スロースペースの会話をしている最中に音が始まった。有名な恋愛ソングのコピー演奏から始まり徐々にボルテージを上げていく。彼女達の作る熱風はスタッフルームまでも届いていた。
「かっこいいよね。ああ、それでね、レイちゃんに伝えたかったことなんだけど、俺さRASの音楽もレイちゃんの演奏も歌声も好きだからさ。もっともっと、無理しないくらいに頑張って欲しいなって。ここでライブを見る度に思うんだ。だから今日は連れて来ちゃいました」
「けいくん、ありがとう。私もいつもけいくんや他のスタッフさん達に感謝してるんだ。けいくんのおかげで元気でたよ。うーんじゃあ今度は私が行きたいところに行ってもいい?」
「いいけど、どういうところ?」
「着いてからのお楽しみ。そんな時間はかからないから」
次の目的地に行くと言いながら一時間ほど笑いながら微睡んだ空気を作り出していた二人だった。
いかがだったでしょうか。
この時のレイの気持ちとは、そしてレイはどこに啓人を連れていくのか。想像を膨らませながらお待ちいただけたら嬉しいです。
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