呪霊操術の使い方   作:シーボーギウム

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感想評価ありがとうございます。


5.少女の狂気、その完成。

 その日、凛堂唯は自室でのんびりと本を読んでいた。読んでいるのはカフカの『変身』。カッコつけて読んでいるだけで内容はまるで理解していなかった。

 

(?????)

 

 時刻は午後9時。理解が出来ない難解な小説、早い話が完全に睡眠導入剤代わりだ。いい具合に船を漕ぎ始めた唯。しかし、そんな彼女の眠気は一瞬で吹き飛ばされた。

 

(っ!?白夢坊が死んだ…………!?)

 

 準一級呪霊『白夢坊』

 唯が使役する、優に護衛として付けた呪霊だ。白夢坊が死ぬ、それは即ち優へ危険が迫っているということ。

 

(焦るな、冷静になれ。優なら大丈夫。自分が敵わない相手だと分かればすぐに逃げ出す筈だ)

 

 気を鎮め、唯は身支度を整え、使用人へ出掛けることを伝えて二体の呪霊を出す。一級呪霊『天虫魚』。空中を高速で飛び回るとされた未確認生物「スカイフィッシュ」それの呪霊だ。空気抵抗と、衝突時の自身への反作用を消滅させる術式でもって高速で移動し、人体を貫く怪物だ。長さ30cmほどの半透明の棒の様なものの集合体である天虫魚は唯の命令で板のような形状となった。

 そして特級呪霊『透獣』。その名の通り透明になる術式を持つ呪霊だ。その正体は「透明人間」の呪霊。古くからのホラー映画の怪物だ。見えぬまま、呪力感知すら六眼無しには不可能なままに忍び寄り致命傷を与えてくる呪霊だ。それを自身へしがみつかせ、術式を使わせる。姿の消えた唯は天虫魚へ乗り、高速で名古屋へ向かう。

 10分経たずに名古屋へ辿り着いた唯は帳を突っ切って中へ侵入し────

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

 思考が停止する。しかしそれを上回る本能が唯の身体を動かした。

 完全な無意識、脊髄反射で行使された術式が彼女の持ちうる限り最強の呪霊、蟒蛇を現世に喚び出した。異質にして異常。そのあまりの存在感に、優を貫いていた呪霊は硬直した。

 

「呑呪蝕霊」

 

 僅かに取り戻した思考で術式を行使。蟒蛇は一撃でその呪霊を呑み殺した。

 

「優!!」

「ね、さま………」

 

 唯は優を出来る限り地面へ触れなさせないようにしつつ処置をしていく。

 

(止血………無理だ、傷が大きすぎてどうしようもない。病院………間に合わない。最寄りがどこかも知らない…………どうする、どうするどうするどうするどうする!!?)

「ねぇ、さま…………」

「もう喋るな!無理しないで!私が助ける!!」

「ねぇさま…………」

「黙って!!大丈夫、大丈夫だから!!必ず助け「もう、むりです」無理じゃない!!!!」

 

 悲痛な叫びが響く。ボロボロと涙が流れ落ちる。理解していた。どうしようもなく理解していた。もう助からないと、今の唯に優を助ける術は存在しないと。だがそれを認めたくなくて、唯はどうにか優を助けられないかと必死に考えを巡らせる。

 

 そんな唯の頬に、優の手が当てられた。

 

「姉様」

「優…………?」

「大好きです」

 

 その言葉を最後に、優の意識が落ちる。唯の腕の中で、小さな少女の命が急速に喪われていく。

 

「だめ、だめだめだめだめ!!やだ!やだよ!!優!!やだ、やだぁ!!助けて!!誰か!お願い!お願いだから…………っ!!」

 

 少女が叫ぶ。縋る様な叫びがその場に響き、そして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 血を流すことすら無くなった妹を()()()()()()()()()()()抱えて、未だ上がらない帳の中で唯は呆然としていた。

 そんな彼女に近づいて行く者がいた。

 

「あら、死んでしまったんですね」

 

 愉悦の込められた言葉に、唯はチラと視線のみを向けた。そこに居たのは他の分家の人間だった。その女を見て、唯は合点する。

 

「お前か」

「………何がですか?」

「私のことを馬鹿にしてんのか?極わずかだったが優の身体にはあの呪霊とは別の残穢がこびりついていた。()()()()()()()

 

 確信を持っての言葉に分家の女は黙り込んだ。それは、単なる事実確認に過ぎなかった。

 

「そして、私はその残穢の残り方を知っている。私の使役していた白夢坊が術式を行使した時の残り方だ」

「白夢坊の術式は術式の対象が致命傷を受けた時、全呪力を消費してその致命傷を受けるまでの戦いを()()()()()()()()()()()()()()()というもの。要するに優は別の要因で一度致命傷を負い、次にあの呪霊によって死を迎えたわけだ」

「でも不思議だな?いくら優を、私を疎んでいても同じ呪術師を殺すのはリスクが高過ぎる」

「でもお前は優を一度殺した。何故だ?簡単、お前は白夢坊を知っていた。術式自体は上層部に報告していた」

「でもまた不思議だ。優につけていることを知っているのは私と優自身位。可能性があるとしてもそれは凛堂家の人間」

 

「お前、どうやって白夢坊のこと知った?」

 

 分家の女は、「知らない」そう答えようと口を開き、()()()()()()()()()()

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!?!?!!?あ、え?」

 

 しかし、何故か次の瞬間には五体満足の、傷一つ無い己の身体に困惑する。そして唯に目を向けた女は凄まじい悪寒に襲われた。その、唯の背後に浮かぶ一匹の呪霊を見て、

 

「特級仮想怨霊『夢幻入道』」

「元は二級の雑魚だった。私が育て、術式を獲得した。術式は夢幻操術。五感に干渉し、悪夢を見せる」

「今、のは…………!」

「注文はあるか?話したくなるまで好きなだけ、死なないように死の体験を叩き込んでやる」

「っ!話す!話すわ!だか「なら憂さ晴らしに付き合ってくれ」え?」

 

 断末魔。苦痛に悶える悲鳴は、数時間に渡ってその場に響き続けた。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

「物事を整理しろ」

「最適解を探せ」

「大まかな道筋は決めた」

「後は必要な布石を打つだけ」

「重要なのはタイミングだ」

「どの順序で、どの行動をするか」

「どの選択肢を取るべきか」

「考えろ」

「思考しろ」

「私は冷静だ」

「冷静でなければいけない」

「失敗は許されない」

 

「死は、救済じゃない」

 

「認識を間違えるな」

「殺すだけなら難しくない」

「でもそれじゃ足りない」

「地獄には程遠い」

「殺さない」

「死なせない」

「装え」

「騙せ」

「成し遂げろ」

「成し遂げろ」

「成し遂げろ」

「成し遂げ「前に当たった時に比べて随分イカれてんな」あ?」

 

 ブツブツと呟き続けていた唯に、そんな言葉が投げかけられた。その言葉の主は、真っ白な髪と蒼い瞳を持つ少年だった。少年はつまらな気な表情のまま言葉を続ける。

 

「右腕は?」

「呪霊に持っていかれた」

「優は?」

()()()()()()()()()()()()

()()は?」

「呪霊にやられた他の分家の女だ」

 

 乱雑に投げ捨てられた女は、声すら出さずに涙を流し、震えながらごめんなさいと連呼している。そのさまを一瞥だけくれた少年は再び唯へ視線を向けなおす。

 

「流石に嘘だろ」

()()()、やられた。一言も嘘は言ってない」

「…………あっそ。で、俺はお前を連れ帰るように言われたわけだ。抵抗するならボコすけど」

「………いいよ、面倒だ。素直について行く」

「…………」

 

 少年、五条悟の内に飛来した無数の違和感。しかし彼はそれを敢えて無視した。踏み込めばろくな事では無いのは容易に想像できた。だが最後に一言だけ、

 

「呪詛師にはなるなよ。面倒くせぇ」

 

 その言葉に返答は無かった。

 

 





一級呪霊『天虫魚』
 都市伝説「スカイフィッシュ」から着想を得た呪霊。とにかく高速移動に重点を置いた移動手段用呪霊。

特級呪霊『透獣』
 古くからのホラー作品の怪物「透明人間」が元の呪霊。呪力感知すら欺く為並の術師では気付くまもなく殺される。強い。唯は初撃を防いだ後で透明であることを察して適当に蟒蛇を暴れさせた所、帳の端で瀕死で転がってるのを見つけた。なお、対五条悟の場合瞬殺される。六眼は無理よ…………

一級呪霊『白夢坊』
 術式で一人指定し、先に指定した存在が致命傷を受けた際に全呪力を消費して術式を起動、対象が大小関わらず受けた傷、呪力消費全てを白昼夢の中での出来事として処理して無効化する。
 大分ヤバい術式だが融通が効かない。他者を対象にした場合、自分の呪力消費が無かったことにならないせいで術式を起動した瞬間死ぬ。要するにゲームの残基扱い。
 更には一撃で致命傷を受けないと術式が起動しない。軽傷を重ねられて結果致命傷、とか毒の影響で結果死にかけるとかだと術式が起動しない。
 本体自体は一級にしてはかなり脆い為術式は起動させやすい。
 なお、対五条悟(幼少期〜未覚醒期)の場合ちょっとした攻撃全てが致命傷になるせいでスーパー千日手状態に陥る。負けないが勝てない地獄。実際に五条が任務を投げたので唯に回ってきた。

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