コナンくんがめっちゃ見てくる   作:ラゼ

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ダンブルドア「また一年が経った」


十話

 

 いやあ美味しかった、閻魔大王ラーメン。閻魔とメンマをかけたダジャレのラーメンでありながら、評判通りの良いお味だった。チャーハンと餃子も平均以上の水準で、これなら常連がつくのも納得の店である。多少の死人が出たところで客足が落ちないのも納得だ……そこは落ちろよと思うけど。

 

 あとメアリーママ用に春巻きと焼売をお持ち帰りしている。大将いわく昨日は餃子と炒飯だったらしいので、被るのを避けた結果である。遠慮する世良ちゃんを気にせずお代を出しておいたが、少しでも印象が良くなれば幸いだ。

 

「二日連続だったけど、やっぱ飽きないなーこの店!」

「ほんとに美味しかったね。ここにして大正解だったよ」

「うんうん! …ボクとしても、面白いものが見れたしな」

「面白いもの?」

「君の探偵としての実力……それと、まるで諜報員みたいに嘘を見抜く能力とかさ」

 

 ニヤリと不敵に笑いながら、僕の正体を探るように瞳を光らせる世良ちゃん。ちらりと覗く八重歯がめちゃんこ可愛い。八重歯キャラのみならず、昨今ではギザ歯キャラも増えてきたが、たかが尖っているだけの歯ごときがなぜこうも魅力的に映るのだろうか。不思議で仕方ない。

 

「やだな、諜報員だなんて。僕ほど開けっ広げで自分を繕わない人間もいないでしょ」

「ふざけているようで他人との距離の詰め方が上手い──それでいて自身の過去はまるで掴ませない。怪しさ満載だよ」

「おっと、それだと『久住直哉のことを調べました』って自白してるようなもんだぜ」

「隠されると知りたくなるのが、探偵の性ってやつさ。人に頼み事をしようってんなら、少しくらいは教えてほしいところだね……君の秘密を」

「ちっちっち、良い女は秘密を着飾って美しくなるんだぜ」

「男だろ君は」

「いまどき主観で他人の性別を決めつけるのは、よろしくないね。心の性別は自分自身で決めるもんさ」

「へえ、じゃあ今からは女性扱いさせてもらおうかな」

「やだ、世良くんったら…!」

「ボクを男扱いしろとは言ってない!」

 

 ツッコミを入れながら抗議の声をあげる世良ちゃん。暴れ馬を宥めるように両肩をポンポンすると、呆れたようにため息をついた。そして軽く居住まいを正すと、少しばかり真剣さを滲ませて僕の顔を見つめた。

 

「それで、そろそろ聞かせてくれないか? 頼みごとってのをさ」

「あー、そうだね……世良ちゃん。まずは()()()()()()()()()()()()()()

「…っ!」

 

 何度も同じ話をするのも面倒くさいし……というより、用があるのは世良ちゃんではなくメアリーママのほうだ。察しの良い世良ちゃんなら、この発言で僕がメアリーさんを知っていることに気付いてくれることだろう。

 

 もちろんすぐに認めたりはしないだろうが、そもそもコナンくんに対して彼女の存在を仄めかすような真似をしてるのは世良ちゃんだ。

 

 僕がコナンくんの正体を知っていて、かつ仲良くもしていることは世良ちゃんも把握してるわけだから、こっちも情報を共有していると判断する筈。

 

 僕が工藤新一からのメッセンジャーであると勘違いなんかしてくれれば、スムーズにメアリーママへ会わせてくれるかもしれないし。

 

 むしろそれを期待しての『メアリーママに挨拶させて』発言である……ん? なんだ? 世良ちゃんがなにやら顔を赤くして慌てている。

 

「さ、さっきもさ! 大将とか婦警さんにボクが恋人だなんて冗談言ってたけど! ジョークとはいえあんまりそういうのはよくないんじゃないかな! お、親に挨拶したいだなんて、まだそんな親しい付き合いでもないのに…」

「はい?」

「へっ?」

「いや、SISの構成員であるメアリーさんに挨拶したいだけで、そんなボーイフレンドの紹介みたいな意味合いは含んでないんだけど」

「えっ…」

 

 僕の言葉に一瞬だけ固まったあと、勘違いかつ自意識過剰なセリフを思い返したのか、羞恥で顔を真っ赤にする世良ちゃん。誤魔化すように手をパタパタとさせる様子がとても可愛い。ついでにいうと、動揺しすぎてメアリーさんとSISの部分をスルーしてるのも面白い。

 

「ま、紛らわしいな! もう!」

「あはは、ごめんごめん。それで、会わせてもらえる?」

「まあそういうことなら……ん? ──……SISの構成員って、なんの話だい?」

「そのとぼけ方は無理あるって」

「うぐっ…! ふ、ふふ、そっか……『領域外の妹』の意味はもう解明済みってわけだ。ま、君とコナン君ならその程度の謎はすぐに解き明かすと思ってたよ」

 

 先ほどのポカを無かったことのように格好つける世良ちゃん。機嫌を損ねるのもなんだし、深くは追及すまい。ちなみに『領域外の妹』というのは、妹を意味する『sister』から領域を意味する『ter』を『外』すことによって、残るのは『SIS』であるという言葉遊びだ。

 

 これをわざわざコナンくんに伝えたのは、彼が協力者として有能かどうかを試した……とコナンくんは推察していたが実際のところは不明である。

 

 まあなんにしても、メアリーママは自分の正体を漏らしつつこちらに探りを入れている状態だったわけだ。垂らした釣り糸に食いついた僕という人間が、わざわざ接触を求めているのだから避けはすまい。

 

 世良ちゃんがメアリーママに電話で了解をとったあと、ホテルへと連れ立って歩く。できればアポ無しで行きたかったのだが、さすがにそれは無理か。あちらに準備をする時間を与えると、最悪の場合、拘束される可能性があるから怖いんだよな。

 

 映画『緋色の弾丸』の描写を見る限り、SISは小さくなったメアリーさんをちゃんと『メアリー世良』として扱っている。つまり彼女は一国の組織の構成員として、取れる手段が多いということだ。もちろん日本からすればスパイみたいなもんだから、大きく動くことはないだろうが。

 

「…ところでさ、久住君て公安か何かの諜報員なのか?」

「多少の伝手はあるけど、どこかの組織に属してたりはしないよ。でも……そう言っちゃうってことは、やっぱり僕のこと調べたんだね」

「どれだけ調べても、君の素性や経歴は一切出てこない。仮にどこかの諜報員だとしても、普通は表向きの身分くらい用意するもんだし……怪しすぎて怪しくないくらいに変だよ? 久住君って」

「説明はできないけど、色々とあってさ。普通じゃ考えられないような事態が、自分に降りかかることってあるんだよね……世良ちゃんのママだってそんな感じでしょ?」

「…っ!」

「心中察するよ。たとえ相手が絶世の美女とはいえ、母親がディープキスされるなんてね…」

「なんの話!?」

「え? あ、そこまでは話してないのか……ごめん、じゃあ僕から話すわけにはいかないや」

「めちゃくちゃ気になるんだけど!?」

 

 メアリーさんはベルモットに口移しで無理やり薬を飲まされたわけだが、ぶっちゃけかなり難易度高そうだよね。いきなり口内に異物を入れられたとして、そのまま飲み込んでしまうなんてこと、そうそうないだろう。

 

 だとすれば、漫画表現の都合上一コマで済まされたベロチューは、実のところ舌を舌で押し返しあう濃厚な数秒間だったのかもしれない。

 

 美熟女同士の舌戦(物理)を想像しながら妄想を捗らせていると、ようやく世良ちゃんが宿泊しているホテルへと到着した。フロントにゲストの了解をとってエレベーターに乗り、部屋へと向かう。

 

 というか宿泊客以外の人間を部屋まで招けるホテルって、大体は上級以上のホテルに限られるよね。常にホテル住まいだというのに、贅沢で羨ましい限りである。

 

「先に言っとくけど、ママにはあんまり冗談通じないからね。いつもの調子でいって怒らせたりしないでくれよ?」

「…」

「久住君?」

「ああいや、『ママ』呼びってなんか可愛いなって思って」

「それ、日本語で『母さん』呼びが恥ずかしいって言ってるようなもんじゃないか?」

 

 うむ、それもそうか。こんだけ他言語が入り混じった言語だと、同じ単語でも印象が変わってくるよね……なんて益体もない会話を続けていると、やっと部屋の前に到着した。

 

 そのまま促されて中へと入る──いきなり拘束とかされないかしらと内心ビクビクしながら進むと、ベッドの端に腰掛けながら尊大に足を組むメアリーママのお姿が目に入った。

 

 原作の描写では『中学生くらい』と評される彼女だが、身長的に小学生にしか見えないのはツッコミどころなのだろうか? …まあアニメとかだと、偶にコナンくんもコロポックルみたいな身長になってるけど。薬の効果で伸びたり縮んだりしているのかもしれない。

 

「夜分に失礼いたします。初めまして、メアリー世良さん……で合ってますよね?」

「ああ」

「どうも、久住直哉と申します。アポイントも取らずに申し訳ない……あ、お詫びと言ってはなんですが、晩御飯を買ってきたので良かったらどうぞ」

 

 先程のラーメン屋でテイクアウトした焼売と春巻きを差し出す。メアリーさんがチラリと世良ちゃんに視線をやり、世良ちゃんが軽く頷く。やだな、毒なんて入れてないってのに。まあ毒を飲んでこんな状況になってる以上、警戒するのは当然か。

 

「ありがたく頂こう──……さて、用件を聞こうか」

「はい、少佐」

「私は軍属ではない」

 

 おっと、凛々しいお声を聞いてつい言ってしまった。二人共『“少佐”…? なにか別の意味があるのか…?』などと思考を巡らせているようで申し訳ない。

 

 ジェームズ・ボンドが中佐だったから、どうもMI6って軍人のイメージあるんだよね。とりあえずおふざけ判定には引っ掛からなかったようなので、気にせず話を続ける。

 

「単刀直入にいいますね……先日、貴女が追っている組織の、その幹部を公安警察が捕らえました。コードネームは『キュラソー』。特殊な記憶術を持っており、その能力から多くの情報を抱えている重要人物です」

「…ほう。つまり正体不明だったお前は、公安所属ということか」

「いえ、少し伝手があるだけですね」

「少しばかりの伝手で、そのような情報を得ることができると?」

「過大評価ではありますが、公安の中に僕の能力を買ってくれている人がいるもので」

「ふむ……そういえば公安警察は、捜査官それぞれが民間から“協力者”を募ることがあったな」

「お詳しいですね──とはいえ、僕が“協力者”というのは違いますが」

 

 そういえば『ゼロの執行人』でそんな設定が出てきたっけ……あの映画は相棒シリーズを手掛けている脚本家さんが脚本を書いただけあって、警察、検察、公安のしがらみなどを面白く描写していた記憶がある。加えて、安室さんメイン回には必ずと言っていいほど出てくる“奴”が出演する映画でもある。

 

 そう──奴、『風見裕也』だ。出てくるたびに公安の株を下げる男と言っても過言ではない人物。話を動かすために仕方ないとはいえ、とにかくやらかすんだよな、彼って。まあ推理もので登場人物全てが有能だと話がすぐ終わっちゃうし、どうしてもポンコツ枠は必須なんだけどさ。

 

 とはいえ漫画ならともかく、今の僕にとってこの世界は限りなく現実だ。この状況でやらかされるのは勘弁してほしいが……しかし安室さんにそんなことを伝えられる筈もなく。きっと何かやらかすんだろうなあという嫌な確信がある。

 

 だからこそ安室さんには『FBI』と協力すべきではないかと提案したし、僕自身も不測の事態に備えてメアリーさんに協力を取り付けようとしてるわけだ。

 

「まあ僕の所属はともかく、今はそのキュラソーについてです。実は彼女、いま記憶喪失になってまして……記憶を取り戻させるために、外へ連れ出す可能性があります。当然、組織もそこを狙ってキュラソーを奪還──あるいは抹殺を目論見ますよね」

「ああ、そうだろうな」

「過去にもヘマした幹部を消すために、軍用ヘリまで持ち出してきた奴らです。なにしてくるか想像つかないんですよね……敵の敵は味方というわけではありませんが、いざという時に協力して頂ける人員は多い方がいいかなと思って、ここに来た次第です」

「ふむ……一つ聞くが、公安は我々のことを把握しているのか?」

「僕の知る限りではしていませんが──とはいえ、そもそも日本の体制で工作員の入国を防ぐのって難しいですから。各国の諜報員なんて居て当然と思ってるんじゃないですか? 公安は『スパイがいるかどうか』じゃなくて『スパイがいるからどう防諜するか』に重きを置いてますし」

 

 目を細めるメアリーママからは、『平和ボケした国を守るのも大変だな』という雰囲気が漂っている。あと僕にもそういう目を向けるのをやめてくれ、公安じゃないて言ってるでしょ。

 

「一応FBIには協力を取り付けてるので、MI6にも協力して頂ければより盤石になるかなと」

「…なに?」

「貴女に薬を飲ませた女──ベルモットも出張ってくる可能性は高い。叶うならご自身の手で決着を付けたいのでは? 夫である赤井務武さんに変装し、貴女を殺そうとした『千の顔を持つ魔女』と……ファッ!?」

 

 危なっ!? ちょっと揺さぶろうかと思って情報を漏らした瞬間、顎に向かってメアリーママの()み足が飛んできた。スリッパをわざわざ脱いでいるのは、なんの気遣いだ? そういうとこ哀ちゃんに似てるな。

 

 いや、ちょっ、危なっ! 速っ!? 失踪して生死不明の旦那さんの名前を出したのはマズかったか? それとも自分と敵以外に知る筈のない情報を出したせいか? なんにしても迂闊だったかもしれない。くそ、だからメアリーママに会うのちょっと怖かったんだよ……あわわっ!?

 

 いやでも、なんだかんだで避けられてる僕もすごいな。もはや自分でも忘れかけている設定*1だが、僕の速度は人間の範疇を逸脱しているのだ。それなのに余裕がないって、メアリーママの化け物っぷりが際立つ。

 

 さすが、映画で赤井さんと互角の格闘を繰り広げただけはある。元の姿に戻ったら、京極さんとすら渡り合えるんじゃないか? …いや、それは無理かな。あの人だけ『YAIBA』世界の住人みたいなとこあるし。まあ映画でも原作でも渡り合えてる人はちゃんといるんだけど、印象がね。やっぱりね、うん。

 

「狭い室内でママの攻撃を全部避けきるなんて…! 凄いよ久住君!」

「まず止めよ?」

「ふん……存外にやるじゃないか、坊や」

「いきなり襲い掛かってきた挙句に『少しは認めてやろう』みたいな雰囲気出すのやめてもらえます?」

「あまりに怪しさが過ぎるのでな。拘束して尋問しようかと思ったのだが……ふむ、真純と二人がかりでも少し厳しいか。その身のこなし、尋常ではないな」

 

 …うむ、コナン君や安室さんにしたような『情報の暴力』で畳み掛けるような真似は金輪際やめよう。今まで出会った人の中で、メアリーママがダントツで諜報員してるぜ、まったく。

 

 とりあえず襲ってくる気配は無くなったので良しとしよう。スカート姿で暴れまわってたから下着も拝めたし、トータルで言えばギリギリプラスと言えなくもない。少佐ボイスで見た目は子供、頭脳は熟女、哀ちゃん似の女の子とか性癖のバーゲンセールか? 好き。

 

「僕が情報通なのは、組織に潜入してる……あるいはしていた、公安とかFBIとかCIAと多少の伝手があるからです。ぜんぜん怪しいことはないんですよ」

「伝手ですべてを済ませるな阿呆が」

 

 とりあえずアレだな。変に策を弄するより、さっさと利害を提示して交渉を終わらせる方が良さそうだ。下手に時間をかけると、MI6のお仲間たちがやってくる可能性もある。いくら僕が速いとはいっても、部屋の入口を何人もで塞がれたらどうしようもないし。

 

「僕にできるのは、多少の情報提供と()()()()()姿()()()()()()()()()()()です。まだ未完成品ではありますが、丸一日程度なら大人の姿へ戻ることが可能です」

「…っ!」

「まあ被験者が少ないので、絶対とは言い切れませんけどね。どっちにしても僕が渡した薬をそのまま飲んだりなんかしないでしょうし、どっかへ解析に回すでしょう? 本物かどうかはそこである程度わかると思いますが」

「そちらの要望はなんだ?」

「さっき言った通り、有事の際の協力ですよ。あんまり言いたくはないんですが、きっと何かしらのポカはあると思いますので」

 

 僕の言葉に対し、ピクリと眉根を寄せるメアリーママ。おや、何か変なことを言っただろうか。今までの交渉相手と違って、背景や情報が少ないから色々と難しいな。

 

「…公安ではないというのは事実のようだな」

「あ、やっと信じてもらえました?」

「お前からは、自らが属する集団に対する帰属意識が欠片も感じられん。諜報員にとって、忠誠と愛国心はあって当然のものだが──」

 

 それも僕からは感じられない、と。まあこんなちゃらんぽらんな公安がいたら、逆に怖いしな。理解していただけてなによりである。あと僕自身もそうだが、クリエイターというのは帰属意識が薄い人間が多いように思う。それを見抜かれたのかもしれない。

 

「では、ご協力頂けるということで?」

「一方的にこちらのことだけが知られているというのは癪だがな……しかし明かす気はないんだろう?」

「どこにも所属してないと言っても、信じてくれないでしょう? 経歴不詳ってホント困るんですよね、こういうとき……いや、待てよ? 全方位から疑われてるんなら、いっそICPOの極秘捜査官とか名乗れば全方位と関係を持ってる説明が付くのでは…」

「ふっ、随分と自由な捜査官だ。それとも、かの大泥棒専任の特別捜査官のようなものか?」

 

 ん? …ああ、銭形のとっつぁんのことか。元の世界じゃICPOってそんな大規模な組織じゃなかった筈なんだけど、ルパン三世がいるからなのか知らんが、こっちじゃ結構な組織なんだよな。まあ『黒鉄の魚影』でもICPO主導で意味わからん規模の巨大施設が作られてたし、コナン世界でも元から巨大組織だった可能性はあるが。

 

 なんにしても、協力は取り付けられそうで良かった良かった。それに警戒心が緩んだわけじゃないけど、呆れ笑いとはいえ笑顔を出してくれたというのは進歩と言ってもいいだろう。皮肉気な笑みが哀ちゃんと似てて可愛い。

 

「では連絡先の交換を」

「何故そんなに嬉しそうにする」

「ボクのときは普通だったくせに…」

 

 属性のデパート、メアリーママの連絡先ともなれば嬉しくない筈もない。先程も言ったが、中身は美魔女で今はロリ、カッコよくて未亡人の色気も合わせ持つ最強の女性だ。まあ未亡人とはいっても、メタ的に考えるなら旦那さんは生きてるんだろうけど。コナン世界で『生死不明』は、それもう絶対生きてるって。

 

「じゃあ今後ともよろしくお願いいたします。メアリーさんも世良ちゃんも、実力の程は信頼していますので」

「ふん……身に覚えのない信頼を寄せられたところで、不信が増すだけだがな」

「まあそう言わずに。なるべく信用される行動を心がけますから」

 

 ホクホク顔でメアリーママの連絡先を登録していると、ポップなメロディと共に着信の表示が出た。相手は……非通知? あ、やな予感。やめてまだ早いわ、おのれ風見裕也*2。そして僕の『うげっ』とした表情で察したのか、メアリーママがニヤリと口角を上げる。

 

「信用される行動を心掛けるんだろう? ──この場で出るといい。協力者として状況を共有しておこう」

「…さすがにスピーカーにはしませんからね」

「結構」

 

 おそるおそる画面をフリックして通話状態にすると、予想通り安室さんの声が聞こえてきた。憂鬱すぎて、なんだか別人の声に聞こえてくるぜまったく。まるでアムロ・レイではなくドレル・ロナのような声だ。安室さんその歳で声変わりでもしたの?

 

『何度もすまない、久住君』

「いえ、用件は察しがついてますから」

『…っ!』

「キュラソーにはカツ丼を出すべきか、天丼を出すべきか……ですね?」

『悪いけどかなり急いでいてね──奴に逃げられてしまったんだ。昨日の件の後始末もあって、公安も人手が足りていない……警戒線を張るにも限度がある。できれば君の意見を聞きたい』

 

 仮にも世界に誇る公安の姿か? これが…

 

 という冗談はさておいて、結局こうなるのかぁ。一枚も二枚も上手なキュラソーを称賛すべきか、公安のガバを嘆くべきか。僕がRTA走者ならコントローラーぶん投げてるぞホント。

 

「今度はどういう状況だったんですか?」

『君の助言通り、奴が持っていた五色のカードを本人に見せたんだが……激しく混乱したあと、気絶してしまってね。確実に意識はなかった筈だが、部下に運ばせている途中で覚醒し、上手く逃げられてしまった』

 

 なるほど。一度気絶した人間は、そう簡単に覚醒しない。当然ながら安室さんもそう考えて、長時間の監視を終えて軽い休憩でも取ったんだろう。二十四時間付きっきりというわけにはいかない以上、部下に任せるタイミングもあるわけだし。

 

「逃走されたあとは?」

『民間人の車を奪って逃げた奴を追い、昨日と同じような追いかけっこさ』

「またですか…」

『ああ、まただ』

「そのあとは?」

『追い詰めはしたんだが、昨日と同じように爆発と共に海へと落ちていった』

「またですか…」

『ああ、まただ』

「ふむ…」

『…』

「一つだけ、わかったことがあります」

『…! ──それは?』

「キュラソーは天丼が好きみたいですね」

『すまないが、ふざけている場合じゃないんだ』

 

 これでまた記憶喪失になってて水族館に居たら笑っちゃうよね。まあ安室さんもその可能性くらいは考えて、そっちに人をやってはいるだろうが。しかし人手不足か……丁度いいというかなんというか、公安のポカを信じて動いたのは間違いじゃなかったようだ。とても悲しい。

 

「うーん……安楽椅子探偵みたいにパパっと推理できたらとは思うんですが、さすがにその情報だけじゃちょっと…」

『…そうか』

「代わりと言ってはなんですが、FBIとMI6の協力は取り付けられました。どうします?」

 

 一瞬言葉に詰まり、驚きに息を呑むような雰囲気が電話の向こうから感じられる。まあ安室さんの視点からすれば、マジで何者なんだってなるよね。どこにでもいる、平凡で普通の高校生*3なんだけどなぁ。

 

『…君は、本当に何者なんだい?』

「実はICPOの極秘捜査官──なんて言ったら信じてもらえます?」

『…! なるほど…』

「いや、冗談ですからね?」

 

 電話の向こうの沈黙から、ちょっと納得してそうな雰囲気を感じる。いや、それならそれでツッコミどころが多すぎるでしょ。本気で信じられそうになって慌てていると、静かに聞いていたメアリーママがくつくつと笑っていた。可愛い。

 

「ただまあ、キュラソーの身柄に関しては確約できませんね。公安が確保できれば問題ありませんけど、もし他が彼女を捕らえた場合……そうですね、FBIからはある程度の譲歩を引き出せると思います。最低でも、合同での尋問くらいは。ただMI6の方は──」

 

 ちらりとメアリーママの方を見る。そして当然のように首を横に振られた。まあそうだよね……そもそもFBIは『休暇で来ている』という(てい)で入国してる人も多いし、捜査への協力も『偶然巻き込まれたから』という言い訳を用意できる。そうである以上、日本側への配慮と譲歩は当然のことだ。

 

 逆にMI6の方は入国すら正式にしてるかどうかも怪しいからな。少なくとも、身分を偽ってるのは間違いないだろう。年齢が変わったメアリーママのパスポートなんか、偽造以外は有り得ないし……ん? いや、国が諜報員に発行してるんだから偽造ってわけじゃないのか? 知らんけど。

 

「──無理でしょうね。それでもいいですか?」

『…ふむ。しかしそれぞれが勝手に動いては、かえって混乱の元になる。だからといって指揮系統の一本化は難しいだろう?』

「それなんですが、全体の指揮をコナンくんにとってもらうってのはどうでしょう」

『…うん?』

 

 何言ってんだコイツ、みたいな気の抜けた返事が返ってきた。いや、気持ちはわかるんだけどね。こんな状況でただの小学生に指揮を取らせるなんてのは、正気の沙汰じゃないし。

 

「ジンやベルモットすら欺いた、例の偽装を計画したのは彼だと前に言いましたよね。そしてその計画を受け入れるくらいには、FBIもコナンくんを信頼しています」

『…MI6の方はどうなんだい?』

「そっちは僕の方でなんとかします」

『…』

 

 少しの沈黙。コナンくんの事というよりは、FBIとMI6を容認するかどうかの葛藤かなこれは。他国の捜査官の手など借りたくはないという自尊心と、キュラソーの重要度、彼女を取り逃がすことによって生じる被害を天秤にかけているのだろう。

 

『…背に腹は代えられないか。今回限りだが、手を借りるとしよう』

「了解です。では色々と調整してから、コナンくんに折り返すよう伝えますね」

『ああ、頼んだよ』

「あ、それと僕のことは適当にコードネームかなんかで呼んでもらえます? 組織に名前なんて絶対に知られたくないので」

『なんでもいいのかい?』

「ええ。よかったらそっちも新しいコードネームで呼びましょうか? もうバーボンじゃなくなったことですし」

『ふっ、好きにしてくれ』

「了解です、ナポリタン。ではピラフにもよろしく言っておいてください」

『誰と誰なんだそれは』

 

 ナポリタンのツッコミを聞き流して、通話を切る。呆れた目でこちらを見るメアリーママと、苦笑している世良ちゃん。しかしこうして並んでみると、しっかり血の繋がりを感じられるくらいには似てるよね、二人とも。世良ちゃんと哀ちゃんはあんまり似てる感じしないのに、ちょっと不思議。

 

「しかし手ぬるいな、日本の公安というのは。たとえ記憶喪失とはいえ、敵にとっての重要人物を完全拘束もせずにおき、挙句の果てに逃げられるとはな」

「結局のところ、尋問する場所は警視庁の本部庁舎とかですからね。あんまりドギツイことはできませんよ……それがたとえ凶悪犯罪者でも。日本の良いところでもあり、悪いところでもあります」

「ふん……それより勝手に決めていたようだが、我々MI6があの坊やの指揮下に入れと?」

「三つの組織が、最低限とはいえ連携をとるには司令官の役割も必要でしょう。どこが担当しても角が立ちますし、彼なら立場的にも能力的にも問題はないかと」

「能力的……か。私はまだ見極められていないんだがな。坊やにはこちらの存在を匂わせて接触を促してはいたが、期待に値しない輩であれば即座に繋がりを切る心積もりだった」

「うーん……世良ちゃん的にはどう?」

「ボクは大丈夫だと思うよ! ママにも前々から太鼓判押してたしね!」

「お前の評価は少々甘いところがあるからな。ふむ…」

 

 この時期だと、メアリーママのコナンくんへの評価は『少々頭は切れる』くらいだったかな? まあ実際に会ったこともない少年に指揮を預けるなんてのは、諜報組織の一員としてそう簡単に頷ける話ではないだろう。

 

 うーん……ここはそうだな、赤井さんには申し訳ないがカードを一つ切らせてもらおう。メタ的な視点にはなるが、既に『組織による赤井さんの生存確認エピソード』は終わっている。ここで家族にばらしたところで、デメリットは少ないと思われる。

 

「では彼が信用に足る能力を持っているか、判断材料を一つ──赤井秀一さんは、コナンくんが計画した作戦によって組織を欺き、死亡を偽装しました。それによって組織へ有能なスパイを送り込むことにも成功し、警戒されていた赤井さん自身をも切り札として温存することができています」

「…っ!」

「秀兄が生きてる!? 本当に!?」

「もう一人のお兄さんには知らせてるみたいだから、確認してみなよ。ちなみに世良ちゃんがベルツリー急行で会ったのは偽者で、赤井さんに変装することによって周囲の反応を窺ってたみたいだぜ」

「…! ──そうか、だからあのとき…」

「もう確認作業は終わったみたいだし、これからはそこまで警戒しなくても大丈夫だと思う。それより重要なのは、命を懸けたその作戦に乗るくらい、赤井さんがコナンくんを信用してるって部分です。まだ信用には足りませんか?」

 

 安堵と喜びを噛みしめている様子の世良ちゃんに、無言ではあるが嬉しそうな雰囲気を醸し出しているメアリーママ。まあ死んだと聞かされていた家族が実は生きていたとなれば、その喜びも一入(ひとしお)だろう。

 

「なるほど、それが事実ならば能力に関して疑う余地はない……そのような秘密をペラペラと喋るお前の信用は下がったが」

「所詮は外様ですからね。致命的な秘密を喋ったりする気はありませんが、メリットが勝つなら多少の情報公開はしますよ。まさか、この情報が致命的になるようなミスなんかしませんよね?」

「…! ほう、中々言うじゃないか」

 

 少しばかり挑発染みた皮肉を投げかけると、少し嬉しそうにするメアリーママ。そういえば赤井さんとかも結構な皮肉屋だし、不敵で皮肉屋っぽいのが好みなのかもしれん。最初からそんな感じでいくべきだったかな?

 

「では事態も動き出しましたし、そちらも情報の共有は必要でしょう。また連絡しますので、出せる人員や戦力を計算しておいてもらえますか」

「ああ、了解した」

「世良ちゃん、あんまり無理しないようにね。いままで君が相手してきた組織や人間の中でも、群を抜いて人の命をなんとも思わないような奴らだろうから」

「うん、久住君も気をつけてね」

 

 扉まで見送りに来てくれた二人に挨拶をして、ホテルを後にする。一応周囲を見渡し、尾行などがついていないか確認。もちろん本職の諜報員の監視に気付けるような能力は持っていないので、人気(ひとけ)がない住宅地まで移動したあとは全力ダッシュだ。車が追いかけてくるなら音でわかるし、徒歩なら余裕で振り切れるだろう。

 

 ふー……疲れたぁ。過去一で気を遣った交渉だったぜ、まったく。というかあの攻撃避けられたから良かったけど、初撃でノックアウトされたらどうなってたんだろう。世良ちゃんがいるから拷問とかはさすがにないと思いたいが、絶対ではないのが怖いところだ。

 

 おでんで白飯を食えとか、シチューで白飯を食えなんて非道な拷問を課されていた可能性もある。くわばらくわばら。いやでも、足を舐めろとか椅子になれとかだったらやってみたいかもしれないな。

 

 …おっと、それはともかくコナンくんに電話しないとだ。スマホを取り出し、彼の連絡先をタップする。色々とありすぎて、もはや五年ぶりくらいに会話するような気さえするな。もちろん気のせいだろうが。

 

「──あ、コナンくん? 僕だけどいま大丈夫?」

『なんだよ?』

「キュラソーの件、ちょっと厄介なことになっててね。急で悪いんだけど、公安とFBIとMI6の指揮をお願いしたいんだ」

『いやなんでだよ!?』

 

 『何があったらそうなんだよ!?』と突っ込んでくるコナンくんに、今日の昼頃に安室さんと話してからの諸々を説明する。ついでにメアリーママと世良ちゃんの正体やらなんやらもぶちまけると、彼も十年前に彼女たちと出会っていたことを思い出したようだ。

 

『にしても、急すぎんだろ…』

「それぞれの連絡先も送っとくから、大変だろうけど頑張ってね」

『なんで他人事なんだよ。つーかお前はどうすんだ?』

「もう声かけるべき人にはかけたから、ここからは家に引きこもっとくよ。荒事なんてごめんだし」

『あのなぁ…』

「元から約束は情報提供だけだった筈だろ? ここまで動いただけでも追加報酬請求したいとこだぜ、ほんと」

『そりゃそうだけどよ…』

「あと哀ちゃんが無茶しないか見張っときたいのもあるし。他人のために無茶するのは、君も彼女も同じだしね……あんまり無理しちゃダメだよ、コナンくん」

『…おう』

 

 赤井さんと安室さんの関係、赤井ファミリーの関係、その他諸々、関係を円滑に進めるための情報。それぞれの逆鱗、譲れない部分や譲歩してくれそうな部分も推測交じりでコナンくんに話して、通話を終える。

 

 よしよし、これで僕にできることはほとんど終わった。あとはほっとけば良い感じに終わってくれるだろう。きっとどっかの施設が爆発したり、コナンくんが空に花火咲かせたり、赤井さんが狙撃したり、安室さんが車で空を飛んだりして大団円に違いない。

 

 …しかしキュラソーの行方は、僕としても気になるところだ。カーチェイスした場所はさすがに前回とは別のところみたいだし、となると彼女の場所なんて見当もつかない。というか東都水族館からも離れてるし、今度ばかりは記憶喪失になってるってこともないだろう。

 

 となると、勝敗は逃走者(キュラソー)と追跡者の読みあいに委ねられるわけだ。一度目にキュラソーが確保されてから八時間ほど。組織の幹部勢が仮に海外にいたとしても、そろそろ日本には到着してる頃だ。

 

 キュラソーも場合によっては組織を警戒する必要があり、それは彼女も理解しているだろう。状況によっては仲間すら容易に抹殺するのが組織なのだから。

 

 つまり『キュラソー』VS『組織』VS『公安組』VS『ダークライ』の形になることも充分にありえるのだ。まあダークライは冗談として、やはりその三つ巴の鍵を握るのはコナンくんになるだろう……ふふふ、我らが主人公に負けはない。

 

 これだけの手駒が揃った状態のコナンくんだぜ? 鬼に金棒、虎に翼ってなもんよ。ちゃ-んと準備を整えていた僕ってなんて偉いのかしら。ガハハ、勝ったな! ここはかっこよくキメゼリフでも言ってみるか!

 

「ふっ……チェックメイトだ、キュラソー」

「…──キュラ、ソー…?」

「…ん?」

 

 何やら不穏な気配を感じて振り返ると、そこには薄汚れた姿の美女がいた。銀髪オッドアイ、女性にしては長身でスラリとした脚が艶めかしい。こめかみに手を添えて何かを思い出そうとしているが、上手くいってない様子だ。

 

 というかキュラソーだ。また記憶喪失になってて草。いや草じゃなくて。え、なにそれ怖い。なに? もしかして原作キャラとかち合いやすいアレ発動してる? 君は映画のゲストキャラで原作キャラじゃないでしょ! いやでも、これは好都合だ。すぐに安室さんに連絡を──

 

「…! そう、だ、私は、キュラソー…」

「あわわ」

 

 やめていま思い出さないであと十分だけ待って! いやでも、思い出したのは名前だけっぽい。これ以上思い出される前に、さっさと──

 

「あなた……私のことを知ってるのね? 教えなさい!」

「あやや」

 

 マズい。中途半端な記憶喪失のせいで、映画のような無色透明キュラソーではなく、ちょっとグレー寄りのキュラソーになってる気がする。少なくとも映画では、記憶を失ってる状態で命令口調なんてしてなかったよね?

 

 いや待てよ──いま気付いたが、なによりもマズいのは顔を見られたことだ。彼女は記憶術に五色のカードを利用しているが、通常状態でもその記憶力は半端ない。指している途中のオセロの盤面が崩れても、すぐに元通りにできるくらいには。

 

 そんな彼女に、『キュラソー』と口にした僕の顔を覚えられた。非常にマズい。だって、このまま安室さんに連絡して公安に確保してもらうとするでしょ? ワンチャンまた逃げられるでしょ? 組織に戻られたら、僕のこと間違いなく抹殺リストに入れるよね?

 

 公安やらFBIやらMI6は、一大組織として個人レベルでも対策をしっかり打てる。しかし僕はあくまで一般人、日常で暗殺を警戒し続けるなんて無理な話だ。公安に新しい身分を作ってもらおうが、FBIに証人保護プログラムを適用してもらおうが、顔を知られている時点で一定のリスクは付きまとう。

 

 元の世界に戻れない場合、僕はここで生きていかなければならない。当然、天才ゲームクリエイターとして有名になるわけだ。顔を知られる機会も増えるとなれば、余計にリスクはでかくなる。整形? 絶対無理。耳たぶに穴を空けることすら怖いのに、顔面切り刻まれるとか怖すぎる。

 

 …いや待て、もっと公安を信じるんだ久住直哉。いくらなんでも、三回に渡って重要人物を捕り逃がすなんてことある筈が……──くそっ! 風見裕也め!*4

 

 どうする? もちろんそのまま安室さんに連絡するのが、こちら側の勢力にとって大正義だ。考えるまでもない。しかし僕の平穏な生活を考えると……いや、そもそも連絡しないとして、じゃあどうするかって話だよ。

 

 …そうだ! ここでキュラソーの口を封じれば解決するのでは? いや、馬鹿か僕は。新たな問題発生どころじゃない、殺人犯になってどうするんだ。くそっ、何かいい考えはないものか。しかしグズグズしていると組織に見つかる可能性もある。

 

 …そうだ! ここでキュラソーと友達になれば解決するのでは? 記憶喪失中のキュラソーといえば、実質数時間で少年探偵団色に染まったチョロインだ。多少ブラック寄りとはいえ、いまなら刷り込み可能なヒヨコちゃんかもしれない*5

 

「ねえ、聞いてるの? 貴方は誰? それに私は…」

「キューちゃん!」

「キューちゃん!?」

「とりあえず僕と君は初対面だ、それは間違いない」

「その呼び方で?」

「ただし知ってることもあるし、知らないこともある。その辺の事情も説明したいから、少し休めるところに移動しよう」

「え、ええ……わかった。説明してくれるなら、従うわ」

 

 とにかく彼女の容貌は目立ちすぎる。そして買っててよかった変装セット。鼻眼鏡はさすがにアレだが、女装の用意もしていた僕に隙はない。ウィッグもあるし、なんなら快斗くんにちょっと分けてもらった速乾性の変装クリームもある。

 

 流行りのメイクと称してピカソ顔にすれば、キュラソーとバレることも……いや、さすがにそれは目立つか。とにかく、今は身を隠さなければ。彼女の手を引いて足早に歩き出す。身体的接触は、仲良くなるための基本だ。

 

 いきなり手を取るなんて、普通の女性なら不快に思われるだけだが……しかし右も左もわからない今の彼女にとって、人の体温はさぞ暖かかろう。あ、罪悪感で胸がちょっと痛い。どうしよう。

 

 組織の追手、公安、FBI、MI6の追跡、コナンくんの推理、それぞれ加味して──二時間。その間に彼女が僕を『殺したくない』と考える程度に仲良くなる。難しいがやるしかない。伊達でコミュ強を名乗ってるわけじゃないんだ、僕ってやつは。

 

 各方面には申し訳ないが、僕には僕の事情がある。安室さんへの義理、コナンくんとの約束と僕の平穏を天秤にかけて、二時間が最大限の譲歩。それを過ぎたら、たとえ仲良くなれなかったとしても連絡を入れるとしよう。

 

 ──先が思いやられるなぁ、ちくしょうめ。

 

 

*1
五年ぶり三回目の説明

*2
決めつけ

*3
ナレ詐欺率百%

*4
推定有罪の法。

*5
行為のゲスさは考えないものとする




ダンブルドア「二年半じゃった」


推しの子の方も同時更新してます。

https://syosetu.org/novel/361831/
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