私たちは、歩く。
その正体か何であろうと、歩くしかない。


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【没】ドーナツの穴で埋まった世界

♦︎♦︎♦︎ 001 ♦︎♦︎♦︎

昔ビルがあった場所、いわば都会というのは入り組んだ地形になりやすい。

入り組んだ地形は、轟々と風が吹き音を立てるには完璧であった。

 

「なあ姉貴、死ぬってどんな感じなの」

「知らん。」

「教えてくれよ〜。痛ぇのは嫌だろ」

「うるせえ」

「空腹で野垂れ死ぬのも嫌だな。もう丸二日なんも食ってねえんだぜ。」

 

軽く突きを与えてヨロけると、立ち止まって一点を見つめる。

「お?」

「どうした。」

「姉貴〜こっちに面白そうなもんあるぜ」

チョロチョロと近づくと黄色く目立った瓦礫に埋もれた機械があった。

いや、機械というよりはもう瓦礫そのものな気がした。

大昔にビルが倒壊したままなのだろう。

 

「私たちは『観測者』...。人を導く者...。」

 

瓦礫は突如として喋り出した。

いや、ギリギリまだ機械であった。

「お?喋れんのか?」

「喋るタイプの機械か。初めて見たな。」

「周辺にいる。だけど、今は連絡が取れません...。」

「なあ、この近くに食糧とかねえか?私たちは旅の者なんだ。案内してくれ」

「ずっとここにいる...。動けてない...。」

「なんだ。拍子抜けだな。姉貴、さっさと行こうぜ。」

 

 

『頼む...。待って...。』

 

 

私たちが歩を進めようとすると引き留められる。

「できる...。導ける...。」

「だから...。待って...。」

「できるのか?足、ないけど」

「ただ...。頼みがある...。」

自らを観測者と名乗る機械は後ろにあるスイッチを押して欲しいと乞うた。

「貸してみろ...複雑だな。」

「赤い...ヤツ...。押す...。」

「姉貴、まだ?腹減った。」

「るっさい」

 

これか。

 

赤いボタンであった。

複雑な漢字が用いられており、字は読めない。

ポチッと押すと剽悍に警報のような音が鳴り響く。

 

『ありがとう...。』

 

元々全てがあったであろう場所に。

食糧など腐るほどあったであろう場所に。

先ほども述べたようにここは絶好な場所なのだ。

鳴り響くには。

 

ここまで鳴り響くと、まるで空っぽの缶詰を叩いているみたいで「ここに食糧なんてないぞ」と、そういう知らせにさえ聴こえてくる。

 

場は一気に緊張感へと苛まれる。

 

「これでいいのか、観測者とやら。」

「姉貴、スイッチ押してないんじゃないのか?」

「んなわけあるか。」

 

だが、その観測者が声を上げることはなかった。

 

「俺たち騙されたんじゃねえの?」

「死ぬってのはさ」

「?」

「結構苦しいのかもな。」

「あ?」

「お前はみんなに囲まれて死ねるようちゃんと優しくするんだぞ。」

「...姉ちゃんがいるからいいって。」

「あの状態で何年生きたんだろうな。あの機械は。」

 

 

あー...

 

『ありがとう』

 

か。

 

♦︎♦︎♦︎ 002 ♦︎♦︎♦︎

 午前の昼下がり。

 あの観測者の出来事。

 このことから予測をするに、自分を観測者と名乗るロボットは、他にもいるらしい。というか、いてもらわないと困ってしまう。

 あのロボットは、何か知っている。

 

 『なぜ、栄華を誇った人類は衰退したのか。』

 

 この何もないビルを突っ切るだけという退屈感から、もう一週間ずっと歩いている気がする。

 もっと自然があれば楽しめるんだけど、一面が灰色なせいでこの世界には元々黒と白以外の色なんて無かったんじゃないかとか、そういう発想にまで至ってしまう。

 

 有り体に言って、暇すぎる。

 もしこの世に暇を生み出した人間がいるなら殺してやりたい。いや、殺してやりたいは言いすぎたかな...。

 

 まあそれで、弟のミノルはどうかというと、コイツは意外と能天気なやつで岩を蹴って遊んだり、紙をビリビリ破いたり、今なんかは道端で拾ったであろう球をじーっと眺めている。

 

「それはなんだ。」

「見れば分かるだろ。綺麗な球だよ。」

 ミノルは不思議な球を持っていた。

 

 外はガラスなんだけど中に青くて少し黒みがかかってるモヤモヤが入っている。

 いや、浮いているという方が正しい。

 たしかに珍しいとは思うが、何に使うかはわからない。

 多分、人類が遺した何か。

 

「にしてもよー、あの太陽ってなかなか不気味じゃねえか?」

「そうか?見守ってる感じが良いんだろ。」

「いやぁ...気味悪いじゃん。だってあれ、目だよ?」

 

———太陽。

 それは人類が昔遺したモノ。

 空という一枚の絵に、目を塗られたような、そして常に私たちを見ているような気がする。

 

 これも、人類が遺した何か。

 

「というかその球、捨てろよ。いつまで持ってんだ。」

「やだ!」

「捨てろ!」

 

 ミノルは球をリュックの中に入れ、突然何をしましたと思えば、俺はリュックの中に捨てたとなんて主張しだす。

 

「お前を捨ててやろうか。」

 

 そんな茶番の中、一歩先に「異変」へと矛先を向けたのは弟のミノルだった。

 

「...揺れてね。」

「嘘」

「...いや、たしかに揺れてる。」

「地震かな...何か物陰は...」

 

 周りをキョロキョロと見渡し、半ばミノルにリュックを引っ張られるように瓦礫に隠れるように私たちは屈んだ。

 膝を地面につけると、冷たいというのは表現が過ぎているかもしれないがコンクリート独特の感触が皿を通して伝わるのが分かった。

 揺れは、ミノルより遥かに鈍感な私でも分かるぐらいに、どんどん強さを増している。

 それに呼応するように、私の心臓も鼓動を早めている。

 「この揺れ方、地震じゃない。」

 明らかに、この強さの増し方は地震ではない。

 地震はもっと、揺れるというよりかは、この地球自体が大きい生物によって揺らされているような感じがする。

 だけど、今回は違う。

 つまるところ、何かがいることは時間と共に明らかに、確認へと変わっていく。

 「姉貴、逃げるぜ。さっき倒壊してない建物があったんだよ。」

 蜘蛛の子を散らすように、私たちは一目散に来た道を引き返す。

 「このリュック重ぇ!」

 「余計なもんつっこむからでしょ!」

 そんなこと言ってる場合か。

 ちょっと走ると、たしかにヒビが目立ち心配ではあるが、天井や壁が崩れた跡はない建物が見受けられた。建物というか、廃墟?

 ついでに、ミノルが破ったままと思われる紙もあった。こんなところで暇が恋しくなるなんて、思いもしなかった。

 リュックを廃墟の中へと投げ込み、走っていて気づくはずもないのだが揺れが私たちを蝕むことはなくなっていた。

 だけど、心臓の鼓動は先ほどよりも強くなっているのは確かだった。

 

 後ろを振り返ると、大きな生物がビルの隙間から覗いていた。覗いていたのは太陽だった。

 前を見ると、すっかり空はカラスのように暗く、私はちょうど夕方と夜の境目を生きているのだと悟った。

 星が見える。

 太陽にも私たちは覗かれているが、そういう考え方をすると、星達にも覗かれているような気がしてきた。

 星から目線を感じるというのも可笑しな話だな。苦笑。

 

♦︎♦︎

 廃墟の正体は、図書館だった。

 

 不幸中の幸いなのだろうか、この廃墟は最近まで使われていたことが分かった。つまり、この近くに人間がいる可能性が高い。

 

 そもそも、本というのは今のご時世とても珍しく、というのもある時代に大抵の本は燃やされてしまったのだ。

 なので、今ある本というのはそれ以降に刷新されたものとなる。

 「やべ〜なんも分からん。姉貴本当にこんなの読めるの?」

 そんな中、私は実に興味深い本を見つけた。

 

 『歴史 著: ユキノ』

 

 この歴史という二文字は、私が求めていたものそのものだった。

 なぜ人類は衰退したのか。

 たまに生きている人と出会うが、これは誰もが疑問に思っていることだった。

 これを知るためだけに一生を費やす人さえいる。

 というよりそれ以外にすることが無いというのもあるが。

 まあ、ミノルはあまり興味が無さそうだけど。

 この本の薄さを見るに、そして本という存在そのものから、最近作られ、自分の知識を実体として残して起きたかったのだろうということが想像できる。

 

 いざ、胸をドキドキさせながら最初の一ページを開く。だが、私の目には白しか映らなかった。

 

 次のページを開く。開く。開く。開く。開く。開く。開く。開く。開く。開く。開く。

 全て白紙。

 最後のページを開く。

 

 

 

—————『人類は衰退などしていない。』


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