ゾイドワイルドクロス アナザーZERO   作:オーガスト・ギャラガー

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 ゾイド、それは銀河の彼方の惑星に生息し、金属の肉体と動物の本能、自ら戦う意思を持つ金属生命体である。
 ゾイドが生息する惑星Ziが滅亡の危機を迎え、そこに住む人類は第二の故郷として地球を目指すが、あるトラブルにより、ゾイド因子が暴走し、それによって不慮のタイムワープを起こし、21世紀の地球に不時着し、地球にゾイドが現れ、ゾイドによる破壊と度重なる地殻変動で地球は一度滅びた。
 ペンダントの力によって突如復活した伝説のビーストライガーを相棒にした少年レオはビーストライガーを復活させた不思議な力を持つペンダントを持ち、地球の未来を左右する謎の少女サリーと共に地球再生のための冒険の旅に出掛けた。


第14話「平和ナ ヒト時」

 ライガーとジェノスピノが激しい死闘を繰り広げたスチールエリアの戦場の跡に共和国大統領と帝国皇帝が訪れていた。見つめ合う両陣営の代表。

 

 「わざわざのご来訪、痛み入ります。フィオナ皇帝陛下。」

 

 「この度のこと、大変申し訳なく思っております。クレストウッド大統領閣下。」

 

 その様子をネオヘリックの街で中継がされていた。

 

 「正に歴史的瞬間です。多大な被害をもたらした伝説のゾイド、ジェノスピノの無差別攻撃は共和国軍の活躍によって回避されました。

 そして本日、帝国のフィオナ皇帝が自ら戦場跡を訪れ、ジェノスピノによる攻撃は侵略ではなく、一将校による反乱行為だったとして、出迎えたクレストウッド共和国大統領に謝罪しました。

 その後、両首脳による会議が行われ、帝国は今回の被害に関する全面的な保証を約束し、共同声明として、愚かな争いを繰り返すことがないよう、現在捜索されているジェノスピノを回収した後、このまま残し、両国管理の元、その象徴とすることが発表されました。」

 

 そのTV中継を歓迎されたレオたちは見ていて、身支度を整えたバーンはフォックスに乗り、

 

 「よし、行こうか。フォックス! レオたちと違って追われる身で、金もないし、職もないが、何処へでも行ける自由ってやつを楽しむとしようぜ。なあ、相棒?」

 

 そう言って、フォックスはネオヘリックの街を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おぉぉ〜!」

 

 巨大なエレベーターから街お見下ろし、声を上げるレオたち。

 

 「第二の都市、“ニューホープ”。第一世代の夢が現実となった街だ。」

 

 「ネオヘリックも初めてかい?」

 

 「はい。ネオヘリックも賑やかなんでしょうね。」

 

 「なんせ共和国の首都だもんな!」

 

 「楽しみー!」

 

 「初めてきたけど、こんなに人が一杯で賑やかだとは思わなかった!」 

 

 「まさに都会って感じ!」

 

 「金持ちが住む街って感じだよ!」

 

 昇降機で上までついた一行を待っていたのは首都という響き空は想像もつかないほど人気のない街だった。

 

 「これが首都?」

 

 想像していたより、違うことにレオの口から疑問が思わずこぼれる。

 

 「人が全然いない……」

 

 「おいおい、どうなってんだよ!」

 

 「それは……」

 

 「ネオヘリックは第一世代の街で、ニューホープは第二世代以降の街だからだよ。」

 

 そこに現れたのはギャレット大将とハント大佐にロックバーグ中尉だった。

 

 「ギャレット大将、いつ頃からいらしたんですか?」

 

 「ついさっきだよ。実は君が我が共和国を救ったという英雄の少年に会いに来たくてね。 私は共和国クレストウッド大統領代理、ギャレット大将だ。君がレオ・コンラッド君かい?」

 

 「はい、そうです!」

 

 「まさか、君のような少年が共和国を救ってくれるとは、大統領代理として、君に感謝する。」

 

 「そんな……俺は俺なりのことをやっただけです。」

 

 「そこで、君に渡したいものがあるんだ。」

 

 ギャレット大将が手元に出したのは勲章が光る。それを見たレオは驚いた。

 

 「これは!」

 

 「大統領が共和国を救ってくれた君への心ばかりのお礼だ。」

 

 「マジか! スゲェじゃないか、レオ!」

 

 「綺麗。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「それと、実は君に一つ頼みがある。」

 

 「何ですか?」

 

 「ジェノスピノを倒した進化したライガーの戦闘力を見せて欲しいのだが……」

 

 「それは構いませんが、でもどうやってですか?」

 

 「それは私の2人の部下の協力してくれる。」

 

 ハント大佐の横にいるロックバーグ中尉を見たレオは驚いた。

 

 「あ、あなたはあの時のパキケドスの!」

 

 「自己紹介がまだだったわね。 私はリズ・ロックバーグ中尉。」

 

 「そして、私は中尉の上司のシェリー・ハント大佐。よろしくね。レオ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝国法廷では反乱の罪を問われたシーガル元准将に対する裁判が行われていた。

 

 「これより、軍法会議を開廷する! さて、シーガル元准将、君は軍の所有物であるジェノスピノを独断で使用し、共和国領内にて破壊活動を行い、多大な被害を与えた。加えてコリンズ准将に自らの汚職の罪を着せ、強制的に左遷させるという、卑劣極まりない謀略により、コリンズ准将の名誉を著しく傷つけた。

 以上のこと、帝国軍士官としてあるまじき行為である。共和国との間に緊張を生み、それによって帝国全国民に不安を与え、軍の信用を失墜させたことは、極刑に値する!

 したがって、ジョナサン・シーガル准将を、階級剥奪の上禁固500年の刑とする!

 そして、今回の反乱に加わったアルドリッジ元少佐にも同様の処罰となった。」

 

 「ふん!」

 

 「以上だ!」

 

 「一つ伺いたい。ランド博士もジェノスピノプロジェクトの責任者の一人だ。なぜ博士は罪を問われない?

 それにコリンズ准将の汚職の件はラスト大佐が私に報告したものだ。罪を問われて当然だと思うが……」

 

 「博士は軍を裏切ってはいない。それにラスト大佐が報告したという件は何も残っていない! それも君の言い訳に過ぎない!」

 

 「何!?(まさか、あの女、あの報告書を予め破棄したというのか!)」

 

 「閉廷!」

 

 裁判長と思しき人物の平定の言葉を待ってシーガル元准将に歩み寄る廷吏。

 

 「今ひとつ……」

 

 「ん?」

 

 「もしも……もしもジェノスピノの進撃によって、共和国の首都が陥落していたら、その時私は反逆罪ではなく、英雄だったのではないか?

 それに今回の作戦はプライド閣下の命令によるもので、閣下は私に出世の約束をしてくれたのだぞ! そんな私が軍事裁判にかけられるとは断じて認めん!」

 

 「君の下らん言い訳を聞く必要はない。夢を見るのは自由だが、その夢は貴様だけのものしろ! 牢獄の中で好きなだけ妄想するがいい。連れて行け!」

 

 「今に見ていろ! 私は必ず地の底から這い上がってやる!!」

 

 悪足掻きのような言い訳を言いながら、シーガルはそのまま連行されていった。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギレル中尉とバスキア兄妹は収監施設を訪れ、解放されたコリンズ准将を迎え入れた。

 

 「コリンズ准将、解放おめでとうございます!」

 

 「聞いていたよ。まさか、君たちが彼処までやってくれたとはね。」

 

 「我々はコリンズ准将の元で師事さるたもの、これぐらいのことは当然です!」

 

 「やはり、君たちのような優秀な軍人を育ててよかったよ。」

 

 「ありがとうございます! 我々は今後も准将の元で、帝国軍のために全力を尽くします。」

 

 「うん……」

 

 「どうかなさいました?」

 

 「いや、何でもない。これからもよろしく頼むよ。ギレル中尉、バスキア少尉、バスキア准尉。」

 

 「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プライド摂政の別荘、ラスト大佐の報告を受けたプライド摂政は個室でリジェネレーションキューブの端末の映像を見ていた。

 

 「ライダーとゾイドの意思が1つになったことで、待機していたリジェネレーションキューブの端末を呼び起こし、そして、その端末とゾイド因子による相乗効果によって生まれたライオン種ゾイド の想像以上の自然治癒と更なる進化か……

 過去の惑星Ziにも再生能力を持ち、パイロットの意思に応じて2段階の進化が可能なライオン型ゾイドの前例が残っているが、それは元から備わっていた突然変異種で、あの小僧のライオン種も突然変異種ではあるが、元から備わっていた能力ではない。

 しかし、そのライオン種に過去のライオン型ゾイドと同等の能力を端末は与えた。 

 ランドと同行したユウトからの情報によると、強力なエネルギーを内包する端末が正しく能力を発動せぬまま待機状態にあったことで、端末のあった場所を外の世界と隔絶し、時間の流れまでも変化させるボルテックス現象まで起こした例もある。

 たった1個の端末でそれだけの力を有するということは、全ての端末の力を手に入れることが出来れば、この地球の生態系そのものを自在に作り替えるだけでなく、全宇宙の創造すらも可能になるという正に神の領域とも言える力を得られるということか……ふっ。」

 

 その時、1人の警備員がドアをノックし、

 

 コンコン、

 

 「何だ?」

 

 「プライド閣下。ハワード宰相が面会したいと申しておりますが……」

 

 「わかった。直ぐに出る。」

 

 プライド摂政が部屋を出、接待室に入り、そこには帝国の宰相ドライト・ハワードだった。

 

 「これはこれは宰相殿、わざわざのお越し恐れ入ります。」

 

 「汚職の罪を被せられたコリンズ准将が釈放されたのと同時に大将から元帥に昇格したプライド卿へのお祝いと思って……」

 

 「これはこれは、ありがたいことです。」

 

 「これも貴様の計画か?」

 

 「はて、何のことでしょうか?」

 

 「今回のジェノスピノによる騒動はシーガルの暴走とあったが、第一あの無能な男の暴走等、貴公の権力で簡単に抑えられたはずだ! その上、ジェノスピノに乗っていたのは貴公の私兵であるセードだと聞いた。

 となると、敢えてあの無能な男を反乱の首謀者に立てて、騒動を起こさせたと考えるのが妥当でしょう。」

 

 「これはこれは、いくら宰相殿といえど、それは聞き捨てなりません。私は先帝陛下からお仕えし、この帝国に生涯をかけた男です! そのような疑いをかけるとは、宰相殿は随分お人が悪い。」

 

 「では、何故、放っておいた?」

 

 「宰相殿も御存知の通り、あの男はホントに融通の利かない男で、私の忠告も無しに勝手に動いたというだけです。」

 

 「しかし!」

 

 「今回の騒動の阻止に活躍したギレル中尉に指示し、シーガルらの反乱を帝国議会に報告したのは私です。そんな私が今回の反乱の首謀者とするのは余りに理不尽ではありませんか?」

 

 「う、ぐっ……」

 

 「我々は帝国のために忠誠を誓ったものです! いたずらに対立すると、帝国のためになりません。そうなれば、帝国の分裂は必至。それでよろしいと?」

 

 「わかった。だが、これだけは言っておく。くれぐれも我が帝国と皇帝陛下に変な真似はなさらないように……」

 

 「無論です。」

 

 そう言って、ハワード宰相は渋々部屋から退出した。プライド摂政はゆっくり紅茶を飲み、

 

 「ふっ、この帝国の連中と相手をするのはやはり骨が折れる。 だが、それもいずれ終わる。真に帝国と呼べるのはこんなものではない!」

 

 

 

 

 プライド摂政の別荘の庭でユウトはハンターウルフ改の横に佇み、1人考え事をし、ライガーとジェノスピノの激しい戦闘のことを思い出していた。

 

 「ジェノスピノを倒せる程に進化したライガー……僕のハンターウルフ改は博士が僕のために特別な改造を施した特別なゾイドだ。

 でも、あのライガーに勝つには今のハンターウルフでは勝ち目がない。もっともっと強くならないと!」

 

 そんなユウトの元にランド博士が立ち寄り、

 

 「どうしたのだね? ザナドゥリアス少尉。浮かない顔をして。」

 

 「博士! 博士はジェノスピノが完成したときは僕をライダーにするつもりだったのですか?」

 

 「確かに最初はそのつもりだった。ライダーとしての資質はセードよりもお前の方が遥かに上回っている。

 私はそのことを摂政閣下に伝え、何度も志願した。だが、あのライガーがジェノスピノを倒した時に確信した。

 お前はあのライガーに負けるはずがない。お前はジェノスピノよりもっと相応しいゾイドに乗るべきだと!」

 

 「ジェノスピノよりもっと相応しいゾイド?」

 

 「そうだ! 今はジェノスピノ以上のゾイドはいないが、いずれ、ジェノスピノをも凌駕する真の破壊龍が現れる。それが見付かれば、そのゾイドにお前が乗るのだ!」

 

 「僕が……」

 

 「心配するな。お前は誰よりも優秀な子だ。セードと違ってメルビルのように従順な君なら、例え、どんなゾイドでも乗りこなせる。お前はこの世でただ1人の完璧な人間だからな。

 お前のこれまでの活躍、私の研究に十分に役立ってくれた。感謝する。」

 

 「博士はそんなに僕のことを……」

 

 「お前は私の大事な息子だ。いずれお前は私を必要とする。」

 

 そう言い残し、博士はその場を後にした。そこにメルビル少尉が立ち寄り、

 

 「ユウト……」

 

 「ハンナか……」

 

 「御父様ったら、あそこまであなたのことを信頼しているのね。嬉しい。」

 

 「ハンナ、僕は君が羨ましいよ。僕は君のように素直になれず、ただ、戦いに明け暮れるはばかりだから。」

 

 「そんなことないわ。あなたはホントは優しい子だもの。」

 

 「そんなんじゃない。僕は博士に期待され、養子として、ここまできたけど、僕の本当の両親や僕が何処から来たのかすらわからず、そのルーツを知りたがる故に僕は育て親である博士のことを父親と呼べない自分が心の中にいて、中々素直に呼べない。

 でも、今の博士の言葉を聞いて、僕ははっきりした!

博士があれだけ僕に期待しているなら、僕はその思いに応えたい! そして、僕はもっともっと強くなる。

 例え、ゾイドをそのための道具になってもやり遂げる。そのためにはあのライガーを倒す! それが僕に与えられた任務なのだから!」

 

 「ユウト……」

 

 ユウトの言葉を聞いたメルビル少尉は寂しげな表情をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共和国軍のある施設、ライガーの実力が見たいというギャレット大将の言葉を承諾したレオは軍事施設に来ていた。

 

 「本当にいいんだね? コンラッド君。」

 

 モニター越しに尋ねるギャレット大将、

 

 「バトルフィールド、展開!」

 

 シェリー大佐の言葉と同時にライガーのいるドーム状の空間にたくさんのキューブが出現。出現したキューブはドーム内を埋め尽くし、市街地を形成していく。実在感のある街の様子に驚くレオ。

 

 「す、凄い……」

 

 「レオ、もう一度確認する。 その世界はバーチャルだが、映像ではなく、特殊な微粒子を物質化させたものだ。たまに当たれば傷つく。それにシミュレーションの相手は私の部下のロックバーグ中尉が乗るパキケドスBRだ。決して手は抜かないで欲しい。」

 

 「はい!」

 

 シェリーの最後の確認にレオは答える。

 

 その時、ビルの影から対空速射砲がライガーに向けて放たれた。以前の戦いの経験を生かし、ライガーは直ぐ様、それを回避するが、続けてマニューバミサイルポッドが放たれ、それを避けられず、爆炎に飲まれてしまう。

 その様子を見守るサリーたち、サリーたちが心配そうな表情をする中、ディアス中佐とツガミ大尉の表情には余裕が伺える。 爆煙が晴れた時、爆心地から現れたのは無傷のライジングライガーだった。

 

 「何ともない……」

 

 シェリー大佐とギャレット大将は驚きを隠せなかった。ビルの影からパキケドスBRが現れ、頭部のパンプヘッドでライガーに頭突きを喰らわせようとする。

 ライガーは真正面から受け止め、すぐに体を反転させ、ヘビーテイルによる一撃を喰らわせる。しかし、パキケドスBRはそれに怯まず、態勢を変え、同様に体を反転させ、尻尾で凪ぎ払うかと思いきや、そうに見せ掛けて、尻尾先端に装備されているメガランスを加工した小型火器を超至近距離でライガーに撃ち込んだ。

 その攻撃でライガーは後退するが、それを耐え、体勢を整えた。

 

 「スチールエリアで、ジェノスピノに一撃を与えたゾイドということだけあって、かなり強い!」

 

 ロックバーグ中尉はレオに通信を入れ、

 

 「レオ! シミュレーションだからって、私は手加減する気は一切ないわよ。全力でかかってきて!」

 

 「全力で来いって言っても、本当の戦場じゃないのに……」

 

 グルル……

 

 その時、ライガーが何か言いたそうに低く唸り出した。それを聞いたレオは、

 

 「ライガー……そうだな。よし、お前の力をもう一度見せてみろ! ライガー、進化 解放! エヴォブラストー!!」

 

 エヴォブラストしたライガーを見たハント大佐は、

 

 「ワイルドブラストした。いよいよ本気を出してくるというの。」

 

 「シェリー、もう一度見ててくれ、彼の力を!」

 

 「ライジングガンスラッシュ!」

 

 「ようやくその気になってきたようね。いくわよ、パキケドス! パキケドス、進化 解放! エヴォブラストー!! 弾丸鈍破!」

 

 同時にエヴォブラストしたライガーとパキケドスBRの攻撃が互いにぶつかる。ライガーはパキケドスのパンプヘッドにA-Zタテガミショットを撃ち込む。しかし、パキケドスBRは怯まない。

 

 「よし、行くぞ! ライジングバーストブレイク!!」

 

 「シュトゥルムボック!!」

 

 ライガーとパキケドスBRの必殺技がぶつかりあった。その激しい衝撃によって、2体はそれぞれ後退した。威力はほぼ五分と五分だった。それを見たギャレット大将は驚きを隠せなかった。

 

 「まさか、これ程とは……」

 

 

 

 

 軍事施設の作戦室、シミュレーションを終え、その性能に改めて関心を示すギャレット大将はテストを終えたレオを労う。

 

 「見事だった! 全く素晴らしい力だよ! 君のライガーは。」

 

 「いえ、大したことありませんよ。」

 

 「そこでコンラッド君、どうだろうか。我々に力を貸してくれないか?」

 

 「え?」

 

 「階級も高等クラスを約束しよう。とりあえずは少佐でいかがだろうか?」

 

 「え? ちょっと、何の話ですか?!」

 

 「是非とも我が軍に参加し、ゾイドに乗る兵士達の手本となってほしい。ライジングライガーと君の力が必要なんだ。頼む! できる限りの待遇を約束する。望むなら君の友達も迎えよう。どうだ? コンラッド君!」

 

 破格の條件を提示してきたギャレット大将に対し、レオは答える。

 

 「お断りします。」

 

 さらには本来軍人にならなければ貰えないはずのもの、と言うことで勲章の返還も申し出るレオ。それにギャレット大将は驚きを隠せないでいた。

 

 「な、何故だね?」

 

 「俺には軍人なんて務まらないです。」

 

 「今日は協力できて嬉しかったです。じゃあ、失礼します。」

 

 一礼してその場を後にするレオにギャレット大将は少し残念そうな表情をした。そんなギャレット大将にディアス中佐は、

 

 「残念ですが、大将。 彼は軍に入らせるべきではありません。成り行きとはいえ、彼は国の戦争に巻き込まれた一般人ですから。」

 

 「そうか、非常に残念だ。彼が軍に入ってくれれば共和国は安全なのだが……」

 

 「彼には、成し遂げられない重要な目的もありますから。」

 

 「それにしても、あんな真っ直ぐな目をした少年は初めて会った。それも軍人でもないのに……」

 

 「それが彼のいいところです。」

 

 「だが、ここで引くわけにはいかない。」

 

 「え?」

 

 「もしコンラッド君がいなくても、ライジングライガーは軍の管理下に置く。」

 

 「それって、レオと引き離すってことですか?」

 

 ギャレット大将の思わぬ言葉にアイセルは疑問を投げ掛けた。

 

 「帝国軍に渡らなければそれでいい。」

 

 「もし帝国にライガーを奪われても大丈夫です。レオじゃなきゃライガーは……」

 

 「ゾイドオペレートバイザー。」

 

 「あ……」

 

 「あれを装着されたら、たとえライジングライガーでもどんな兵士の言うことも言うことになる。私個人としてもコンラッド君とライジングライガーを引き離したくはない。

 だが軍としては不安要素は出来るだけ取り除かなければならないのだ。ライジングライガーには、軍の倉庫で眠ってもらう。」

 

 「確かにギャレット大将の言う通りだ。ライガーを放置するのは危険だ。」

 

 「中佐!」

 

 「だが、今ここでレオとライガーを引き離しても共和国軍にとって利益はない。ライガーはまだ進化の途中だ。これからさらに成長するだろう。ならばどうだろうか。軍の監視のもと、ライガーをレオと同行させた方が、後々軍の利益につながるのではないでしょうか?」

 

 「監視?」

 

 「飼い殺しになどしたら、さらなる進化を見逃すことになるぞ?」

 

 「では、アイセル少佐に引き続き彼らの監視を任せてはいかがでしょうか?」

 

 「そうか、では、任せよう。」

 

 「え? ホントですか!?」

 

 「ああ、引き続き頼む。」

 

 「やった!」

 

 レオとライガーの監視任務延長の指示を受け喜ぶアイセル、

 

 「ちょっといいかしら?」

 

 その時、ハント大佐が口を開く。

 

 「何だね? ハント大佐。」

 

 「アイセル少佐だけでは不安です。ここは強力な護衛もつけるべきです!」

 

 「大佐! ひどいです! 私が足手まといとでも言うのですか!?」

 

 「聞くところによると、彼らは帝国軍に追われているお尋ね者です。いくら停戦協定を結んでいるとはいえ、帝国軍に追われないとは限りません。」

 

 「では、誰をつけるのかね?」

 

 「先程のシミュレーションでレオのライガーと互角に渡り合ったパキケドスBRのライダーにして、私の部下のロックバーグ中尉です。」

 

 「よろしいかしら? アイセル少佐。」

 

 「え?」

 

 それを聞いたツガミ大尉は少し驚き、

 

 「ま、待ってください! 大佐。 その護衛には私が……」

 

 「大尉、あなたには別の任務があるはずでしょう。あなたはその任務に専念しなさい!」

 

 「わ、わかりました。」

 

 「では、アイセル少佐、ロックバーグ中尉、彼らの護衛と監視を頼む。」

 

 「はっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 レオたちは基地の外でディアスの両親と地球ゼロ年の記念碑の前にいた。惑星Ziから宇宙船が地球に到着した日、全ての始まりの日を記念して作られたことを記されていた。

 

 「この碑は?」

 

 「それは、新地球歴0年に地球に移住した入植第一世代の人間が第一世代として役目を果たした象徴として建てられたものよ。」

 

 疑問に答えたのはハント大佐で、その横にはロックバーグ中尉とアイセル少佐、そして、ディアス中佐とツガミ大尉だった。

 

 「ハント大佐!」

 

 「私の両親から聞いた話では、移民船到着時の地球はゾイドクライシスで荒廃し、草木も生えられない状況だった。

 しかし惑星Ziを飛び出してきた第一世代の人間に、戻れる場所はない。荒れ果てた地球で暮らすことになった彼らはジャミンガや自然災害に晒されながらも「大地に根を下ろし、地球の民となったの。

 私たちの先祖は生きた証を残すことができた。だけど、まだまだ叶えるべき夢は沢山ある。

 レオ、あなたたちにも生きた証を残してほしい。地球に住む地球人として。誇りある生き方をしてほしい。

 今の時代を背負うのは私たち大人だけど、これからの未来を背負うのはあなたたち子供なのだから。」

 

 ハント大佐のメッセージを聞いたレオとサリーは、

 

 「はい!」

 

 「レオ、これからの端末探しには危険を伴うことが多い。そこで、ハント大佐からアイセル少佐に加え、ロックバーグ中尉も護衛につけるとのことだが。」

 

 「え! ロックバーグさんも来てくれるのですか?」

 

 「よろしくね。レオ。」

 

 「マジかよ! あのレオのライガーと互角に戦ったあの強力な共和国の姉さんがついてくれれば、百人力だぜ!

正直、アイセルだけでは不安だったからな。」

 

 「何よ! それって、私が弱いってわけ!?」

 

 和気あいあいとするレオたちを見てディアス中佐とハント大佐は、

 

 「シェリー、ロックバーグ中尉を護衛につけたってことは、やはり君もレオを信頼しているのか?」

 

 「スチールエリアでの戦闘で、確信したわ。彼こそがこれからの未来を背負える若者ってことにね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディアス中佐とツガミ大尉、ハント大佐に別れを告げ、出掛ける準備をするレオたちの元にネオヘリックを後にしたはずのバーンとフォックスが駆け寄った。

 

 「おや、バーンの旦那じゃないか! 旅に出たんじゃないのか?」

 

 「気が変わった! お前たちが探すその端末とやらを正常に作動しないと地球は正常にならんっていうじゃないか! そんな不安定な地球じゃあ、旅はしずらいし、俺たちの自由な旅には居心地が悪いからな。 その端末探しの旅に俺も付き合ってやるよ!」

 

 「ホント? バーン!」

 

 「ああ、それにお前への借はちゃんと返して無かったからな。借りを借りっぱなしにするのは俺のプライドが許さねぇからな。」

 

 「でも、帝国の脱走犯が一緒になると、益々帝国軍に狙われそうね!」

 

 「げっ! その声は、まさか、あの時のパキケドスの!」

 

 「共和国軍のリズ・ロックバーグ中尉よ。」

 

 「これまた、おっかねえ人まで入ったものだな。でも、レオたちは俺同様、既に帝国軍に追われている身だ。それに俺のフォックスは帝国軍にいたときとは違う。

 何せ、俺流に改造した最強のゾイド、ブルーシャドーフォックスだからな! いくら帝国軍がどれだけ来ようと敵じゃない!」

 

 「そっ……じゃあ、元帝国軍の実力試させてもらおうかしら……」

 

 「勘弁してくれ。俺はもう軍人じゃないんだよ!」

 

 「そう言えば、レオ! 新しい姿になったライガーの名前どうすんだ? そのままビーストライガーって呼ぶわけにもいかないだろ?」

 

 夕陽の光で黄金に輝くライガーを見たレオは、

 

 「身体が光輝いてる……そうだ、オマエはオレたち皆んなの希望の光になる。

 そうだ! ライジング……ライジングライガーだよ!」

 

 その名前を聞いたサリーは、

 

 「同意します。素敵!」

 

 「ゴールドライガーじゃないのかよ?」

 

 「ライジングだからライちゃんね!」

 

 「おいおい…」

 

 「ライジングでも、ライガーはライガーさ! 行くぞ、ライガー!!」

 

 レオの言葉に応えるようにライジングライガーは力一杯跳んだ。

 

 ガオォ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕日の中、プライド摂政は外の様子を見ていた。そこにラスト大佐が現れ、

 

 「ラストか……」

 

 「ネオヘリックに潜入したところ、あの小僧はギャレットの要請を断って、端末探しに出掛けたそうよ。」

 

 「そうか……それなら、奴らを狙いやすくなったそうだな。」

 

 「ただ、例の新型のパキケドスの女と脱走犯の奴まで加わったらしいけど……」

 

 「そこはランドを利用すればいい。あの小僧が共和国に入らず、端末の捜索に出たとなれば、直ぐに動くだろうからな。 ところで、例の進化したライオン種の情報は?」

 

 「ゾイド因子やDNAまでは回収出来なかったけど、新型のパキケドスとやり合ったシミュレーションの情報をハッキングで手に入れたから、幾つか足しになると思うわ。」

 

 プライド摂政はラスト大佐から受け取ったIDを受け取り、

 

 「よくやった。後はゾイド因子と端末の情報、そしてあの小娘のペンダントも手に入れば、万全になる。」

 

 「セードが敗れたのは計算外だったけど、意外と計画通りに事が進んだわね。」

 

 「いずれ、全ての者は恐怖に膝まずき、この世界は変わる。」

 

 第一部ジェノスピノ編終了/第二部オメガレックス編に続く。




 次回予告

 バーンとロックバーグ中尉という新た仲間が加わり、再び端末探しの旅に出掛けるレオたち、そんな中、共和国軍は再び起こる帝国軍との戦争に備え、スナイプテラに対抗する新たな飛行ゾイドの開発と復元に着手していた。
 そして、レオたちは共和国空軍に入隊希望する青年に出会うが、スピーゲル中佐のドライパンサーが襲いかかってきた。

 次回「強襲、ドライパンサー」

 走り抜け、ライガー!!

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