ゾイドワイルドクロス アナザーZERO   作:オーガスト・ギャラガー

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 ゾイド、それは銀河の彼方の惑星に生息し、金属の肉体と動物の本能、自ら戦う意思を持つ金属生命体である。
 ゾイドが生息する惑星Ziが滅亡の危機を迎え、そこに住む人類は第二の故郷として地球を目指すが、あるトラブルにより、ゾイド因子が暴走し、それによって不慮のタイムワープを起こし、21世紀の地球に不時着し、地球にゾイドが現れ、ゾイドによる破壊と度重なる地殻変動で地球は一度滅びた。
 サリーという謎の少女が持つペンダントの力によって復活した伝説のビーストライガーを相棒にした少年レオはビーストライガーが新たな姿を得て進化したライジングライガーの力によって強敵セードとジェノスピノを打ち破り、新たな仲間を加え、再び地球再生のための冒険の旅に出掛けた。 


第25話「新ノ皇帝」

 オメガレックスの荷電粒子砲が放たれた後、火山に変化が起きた。反乱軍と合同軍の戦闘、そしてオメガレックスの凄まじい荷電粒子砲を引き金になって基地にある火山が噴火の兆しを見せていたのだ。

 

 

 「オメガレックスの荷電粒子砲の影響で、火山にも及んだということか。」

 

 その時、少しノイズが入りながらもランド博士とシーガルの元に通信が入った。映像に現れたのはプライド摂政だった。

 

 「ランド、シーガル、その基地はもう終わりだ。直ぐにユウトとオメガレックスを回収してこちらに戻れ。」

 

 「プライド摂政閣下! まさか、ネオゼネバスシティを襲撃していたのはあなただったのですか!?」

 

 「事情は後で話す。直ぐにそこから脱出しろ。 後、次いでにサリー・ランドも一緒に連れていけ!」

 

 「サリー・ランドを……ですか? 既にペンダントは手に入れた。もう人質の価値はないが……」

 

 「お前の事情は関係ない。貴様には必要なくとも私には必要なのだよ。それとも私の命令が不服か?」

 

 「いえ……」

 

 「よろしい。待っているぞ。」

 

 プライド摂政の通信が切れた後、ランド博士はユウトと通信を開き、

 

 「ザナドゥリアス少尉、オメガレックスの荷電粒子砲発射の影響で、火山が噴火活動を始めた。直ぐに基地を捨て、ネオゼネバスシティに向かうぞ。」

 

 「わかりました。」

 

 ランド博士の指示を聞いたユウトは直ちにその場から去ろうとした。オメガレックスがその場を去ろうとしたのを見たレオは、

 

 「待て! サリーを返せ!!」

 

 ライガーがその後を追うとした時、火口からマグマが噴き上がり、降ってきた溶岩がその道を阻んだ。

  

 「うっ、ぐっ……」

 

 気が付いたディアス中佐とツガミ大尉は溶岩に道を阻まれたライガーを見つけ、トリケラドゴス改が前に出ようとするが、

 

 「レオ!」

 

 「待ってください! 中佐、今いったら、中佐もトリケラドゴスも粉々になります!」

 

 「じゃあ、どうしたらいいんだ!?」

 

 「心配ありません。奴が来るはずです!」

 

 「奴?」

 

 

 

 ライガーは何とか前に進もうとするが、溶岩の雨で、思うように進むことが出来ない。

 

 「くっ、こんなところで、諦めるわけにはいかないんだ! 俺は誓ったんだ。 サリーを助けるって! だから、待っててくれ、サリー!!」

 

 その時、突然目の前にライガーより巨大な溶岩が降ってき、

 

 「くっ、ライガー、進化 解放! エヴォブラストー!! ライジングバーストブレイク!」

 

 しかし、溶岩を破壊したのも束の間、今度は更に倍以上の溶岩が迫ってきた。

 

 「くっ、」

 

 巨大な溶岩がライガーに直撃しそうになったその時、影から始祖鳥のような形をした飛行ゾイドがライガーを掴み、間一髪で回避した。

 

 「え?」

 

 「ギリギリ間に合ったようだな。 レオ。」

 

 「その声、もしかしてジェイクなのか?」

 

 「よう、レオ! 久し振りだな。」

 

 ジェイクの乗る始祖鳥型ゾイドはライガーを掴んだまま、ネオヘリックシティに向かい、トリケラドゴス改やステゴゼーゲ改を初めとする生き残った合同軍も撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオゼネバスシティの移民船の謁見の間で、オメガレックスの荷電粒子砲が合同軍のゾイドのほとんどを壊滅させた様子を見たプライド摂政とセードは、

 

 「素晴らしい、やはり荷電粒子砲は予想以上の性能だ。正に悪魔の雷に相応しい物だ。そしてユウトもよくやってくれた。少し迷いはあったものの、やはり私の期待を裏切らず、テストを成功してくれた。」

 

 「けっ、あんなもん、所詮遠距離戦ぐらいしか役に立たん! 接近戦ではジェノスピノより明らかに劣る。」

 

 「そう言うな、いずれユウトは更に強くなる。そして我々の計画を実行させるためにな!」

 

 「プライド、お前は何故そこまであいつにこだわる? 貴様もあの博士のようなことを考えているのか?」

 

 「おや、まさか、あそこでジェノスピノと共にパワーアップした際に吹き込まれたのか?」

 

 「やはり、あいつはお前の計画に……」

 

 「おっと、それ以上はタブーだ。それ以上のことはお前の知るべきことではない。それよりもお前には今のお前を誕生させ、復讐したい人間がいるんじゃないのか? 彼処に……」

 

 「ふん、そのことはお前の口出しすることではない。」

 

 「そうか……まあ、いい。だが、これだけは覚えておけ。くれぐれもユウトには手は出すな。 もし、少しでも変な真似をすれば、貴様の命はない。覚えておけ。」

 

 「ふん!」

 

 「さて、そろそろ反乱軍の連中が戻るころだな。ユウトを丁重に迎え入れねばな。」

 

 その様子を見たセードは少し面白くない表情をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共和国首都ネオヘリックシティに巨大スナイプテラが舞い降り、クレストウッド大統領は皇帝フィオナとジーン、ハワード宰相を官邸で迎え入れた。

 

 「以前の停戦協定に続き、わざわざの歓迎、恐れ入ります。」

 

 「私としては、帝国との今後の関係こそがこれからの世界のあり方だと思っている。だから、我々は貴公を見棄てません。もちろん、帝国の復興も。」

 

 「ありがとうございます。クレストウッド大統領閣下。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオヘリックシティの駐屯地では撤退した合同軍のゾイドの修理が行われ、レオたちもそこで休息を取り、会議室ではコリンズ中将、ギレル少佐、ギャレット大将、ディアス中佐、ツガミ大尉、ハント大佐を初めとした帝国、共和国の軍上層部が集まり、オメガレックスの荷電粒子砲発射の映像を見、オメガレックス及びシーガルら反乱軍に対する対策を練っていた。

 

 「荷電粒子砲……かつて惑星Ziでは最大最強の兵器としてこれまでの戦争においてその戦況を大きく変えました。

 そして、その武器を搭載したゾイドは惑星Ziでは数種類の存在が確認され、 先ず、ジェノザウラー、ジェノブレイカー、バーサークフューラー、そして惑星Ziの歴史の中で最も最悪にして最強のゾイドと伝えられるデススティンガー、デスザウラー等です。」

 

 「それがまさか、この地球にもその武器を持つゾイドが存在することになるとはな。」

 

 「そういえば、荷電粒子砲を持つゾイドがどれもティラノサウルス型であるように、そのオメガレックスもティラノサウルス種なのだな?」

 

 「ええ、そこにいるツガミ大尉の調査によりますと、オメガレックスはデスレックスの突然変異種として独自の進化を遂げたゾイドとされています。

 しかし、ゾイドクライシス時の地球の環境には荷電粒子は存在せず、またそのパワーに耐えられず、早々に機能停止したため、ジェノスピノ程の伝説は残らなかったそうです。」

 

 「だが、それが今、帝国の反乱軍の手で復活したということだ。」

 

 「この映像によりますと、オメガレックスの周りを包む謎のシールドはEシールドのように見えますが、それとは異なり、反乱軍は何かしらの方法で地球環境でも自由に荷電粒子砲を発射可能にした処置を取っていると思われます。」

 

 「とすると、オメガレックスは我が共和国、帝国両国にとって脅威の存在になったというわけか。ところで、コリンズ中将。」

 

 「何でしょう? ギャレット大将。」

 

 「ネオゼネバスシティからの脱出に使ったあの巨大スナイプテラは一体何なんですか?」

 

 「あれは万が一、帝国の移民船が破壊または地球を脱出して再び他の星に移住することを想定して先帝のイヴィル陛下から命じられて開発したビッグウィングです。」

 

 「ビッグウィング、そんなものを帝国は開発していたのか!?」

 

 「ですが、あれは機密事項のため、上層部でも知っているものは私とハワード宰相を含め僅かです。」

 

 「それほどのゾイドということはオメガレックスにも対抗できる程のゾイドなのか?」

 

 「いえ、あれは惑星Ziにいたホエールキングと同様の役割を持つゾイドとして開発されているため、そもそも戦闘用ではありません。」

 

 「そうか……オメガレックス攻略の鍵になると思ったのだが……」

 

 「ですが、ギャレット大将、我々にとっての脅威はオメガレックスだけではありません。あのジェノスピノもいるのですよ! いくら両国の軍を結集してもあの2体を同時に相手にしたら……」

 

 「だが、気になるのはあのジェノスピノが何故復活したかだ。ジェノスピノといえば、以前の共和国侵攻の時、スチールエリアでレオのライガーとロックバーグ中尉のパキケドスBRに敗れ、かなりのダメージを受けているはずだ。

 いくら、ゾイドに自己再生能力があるからといって、あの短期間で彼処まで修復できるとは思えない。それに何故貴国の摂政が突然掌を反し、クーデターを起こしたのだ?」

 

 「もしや、最初からシーガルの反乱に加わることが目的だったのではないでしょうか?」 

 

 「ギレル少佐、それに関して、何か思い当たる節はあるのかね?」

 

 「以前、ジェノスピノ侵攻による反乱の時に摂政は私に反乱を阻止するために力を貸していましたが、そもそもジェノスピノのライダーは摂政の私兵であるセードです。

 バーサーカーと呼ばれるあの男でも、摂政ならその暴走は事前に防げるのではないかと少し疑問がありました。

 そして、シーガルの脱走と反乱、ランド博士のオメガレックスの復元に対しては、それを黙認し、議会に出席しなかったのもそのためだとすれば、話は通ります。」

 

 「しかし、何故そこまでする必要がある? それにいくらクーデターを起こしたといって、誰を皇帝にするのだ? それもシーガルは国家反逆罪に問われた男だぞ!」

 

 「まさか、プライド自身か!?」

 

 「確かにこれまでのプライドの業績から考えて、そのカリスマ性に惹かれ、奴を時期皇帝にするという国民もそう少なくはありません。

 しかし、そもそも奴は皇族ではないため、いくら国民の同意があっても、惑星Ziから続く我が帝国の伝統を破ることになります!」

 

 「ということは、反乱軍の中に皇族がいると?」

 

 「しかし、いくらなんでも陛下以外に皇帝の血を引く者がいるのですか? 第一現皇帝陛下に御兄弟はおられないのですよ!」

 

 その時、ギレル少佐はめるびると初めて会った時を思いだし、その容姿がフィオナと重なりあった。

 

 「まさか、彼女が……」

 

 「どうした? ギレル少佐。」

 

 「いえ、何でも……(まさかな。)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオヘリックシティの軍事基地の部屋でレオたちはジェイクと再会した。

 

 「お、お前……」

 

 「はい、この度共和国軍に所属するようになったジェイク・ラモン二等兵でございます!」

 

 「ええ~! あの飛行機野郎がホントに軍人になったのか!?」

 

 「初めてクワガノスに乗ったとはいえ、こんな短期間で二等兵とは、俺でもフォックスに乗るのにかなり掛かったというのに!

 ところで、あの飛行ゾイドはなんだ? スナイプテラとも違うが……」

 

 「あれはソニックバード、以前ツガミさんが復元したギルラプターって突然変異種にして、アーケオプテリクス種の新型ゾイドです!

 ギルラプターの突然変異種ともあって中々適合率の高い軍人がいない中、俺が一番適合率が高くてライダーに指名されたんです!」

 

 「マジかよ!」

 

 「テストの際には何度もツガミさんに怒られてばっかりだったため、今回の出撃にも大分手間取ってかなり遅くなりましたが……」

 

 「おいおい、それは軍人として致命的だぜ!」

 

 「ところで、レオは?」

 

 「あ~、彼処に、といっても今は色々あって余り話しかけない方がいいけど……」

 

 ジェイクはレオの元に行き、

 

 「レオ、どうした? 随分だらしないな! あの時の威勢はどうした?」

 

 「ジェイク、俺……」

 

 「サリーのことは俺もディアスさんから聞いている。」

 

 「え? まさか、サリーのこと……」

 

 「ああ、もちろん、あの時、俺に進む道を与えてくれた借りだ。いくらあのオメガレックスでも、俺とソニックバードでケチョンケチョンにしてぶっ倒し、サリーを必ず救ってみせる! だから、お前が悲しむ必要はない!!」

 

 「ジェイク……」

 

 「デカいこといって、あいつ、あのオメガレックスの怖さわかってんのか?」

 

 「まあ、それでも、初乗りでいきなりクワガノスを操れた程だ。もしかしたら、俺より資質は高いかもしれないし、それにこれで更に戦力は増強したからな。」

 

 「たく、いい加減、俺とキャタルガの見せ場はいつになったら、来るんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 火山地帯から脱出したシーガルら反乱軍がネオゼネバスシティに到着し、シーガルやランド博士たちが移民船の謁見の間に入ると、そこにはフィオナが座っていた王座に座るプライド摂政とその横に立つセードの姿があった。

 

 「おお~、プライド摂政閣下、まさか、あなたがクーデターを起こしてくださるなんて我々の考えに同調してくれたのですね! これで我々の革命は達成されます。」

 

 「それより、ユウトは何処だ?」

 

 「はい、こちらに……」

 

 ランド博士が指差すと、その横にユウトが現れた。

 

 「ユウト、よくオメガレックスのテストを成功してくれた。流石は私の直属の兵士だ。 オメガレックスのライダーになった君に少尉は勿体ない。 オメガレックスのライダーとして君を大尉にする。」

 

 それを聞いたアルドリッジは納得いかない表情をし、

 

 「何故です!! 閣下! 何故そのような小僧を昇進するのです。 昇進にはこの私が……」

 

 「貴様は帝国軍と共和国軍の足止めくらいしか出来なかっただろう? それに脱走兵のガトリングフォックス相手に惨敗だったとも聞くが……」

 

 「ぐっ……」

 

 「ユウトはこれまでハンターウルフ改のライダーとして、これまで何度も実績を上げ、更に今回のオメガレックスの初テストにおいて、帝国軍と共和国軍の大半を壊滅させた。

 それで昇進させない理由が何処にある? ま、それほど昇進を望みたいなら、それぐらいの実績またはそれ以上の働きをしてくれなくてはな。」

 

 「うっ、ぐっ……」

 

 それを聞いたアルドリッジは言葉を返せなかった。

 

 「ユウト、いや、ザナドゥリアス大尉。今後も君の活躍に期待しているぞ。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 「それより、シーガル。 新皇帝の戴冠式はいつするのだ?」

 

 「もうしばらくお待ちください。少々準備が必要ですので……」

 

 「そうか……なら、後は貴様らに任せる。もうこの王座に私が座る必要はない。こいつをどうするかは貴様らの好きにしろ。」

 

 「ありがとうございます!」

 

 それを聞いたシーガルは王座を見て興奮したような表情をした。

 

 「遂に、遂に、この私が……帝国のトップに!!」

 

 「それと、ランド。サリーは何処にいる?」

 

 「移民船の牢屋にいますが……」

 

 「ペンダントも持っているのか?」

 

 「いえ、ペンダントはオメガレックス強化のために取り付けました。」

 

 「そうか。では引き続きオメガレックスの最終調整に当たれ!」

 

 「わかりました。」

 

 そう言うと、プライド摂政はセードと共に謁見の場から去った。

 

 「博士、少し休ませてくれませんか?」

 

 「ああ、構わないよ。あの荷電粒子砲を撃ったから、君にかなりの負担がかかっているだろう。ゆっくり休むがいい。」

 

 「はい、ありがとうございます!」

 

 そう言ってユウトは喜んで謁見の場から去った。ユウトが去ったのを見たシーガルは、

 

 「しかし、博士。荷電粒子砲の威力は確かに見させましたが、あの小僧、少し照準をずらしていたような気がするが、ホントに奴をライダーにしていいのか?」

 

 「なあに、そのために私を彼をここまで育て上げたのだ。だが、もし万が一妙な真似をすることがあれば、調教してオメガレックスを上手く扱えるようにすればいいだけの話だ。」

 

 それを聞いたメルビルは信じられないような表情をした。

 

 「調教? お義父様からそんな言葉が出るなんて……」

 

 「さて、大事な戴冠式の準備をしないとか。メルビル! 直ちに準備にかかれ。」

 

 「はっ、はい!」

 

 ランド博士の言葉に疑念を持ちながらもメルビルはシーガルの指示に従って準備に掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「プライド、何処に行くつもりだ?」

 

 「サリー・ランドのところだ。彼女には私にとっては必要だからな。お前も行くか? お前にとっては感動の再会だろ?」

 

 「興味ない。」

 

 そう言って、セードはプライド摂政から離れた。

 

 「ふっ、そうだ。それでいい。お前はただ戦えばいいのだからな。」

 

 牢屋に入ったプライド摂政はサリーが入れられている部屋に向かい、鍵を開け、入っていき、そこに完全に気力を失ったサリーの姿があった。

 

 「フフフ、その気持ちは実の父親に裏切られたショックか? それとも一緒にいた男と離れた疎外感か?」

 

 「あなたには関係ありません。」

 

 「これは失礼。だが、しかしとんだ酷い父親だ。こんな健気な娘がいるにも関わらず、何の役にも立たないからといって簡単に見捨て、更には実の息子も只の道具として扱い、散々利用した上でゴミのように捨て、挙げ句孤児院で強大な力を持つ少年と政治利用出来そうな娘を養子にして鞍替えする等、正に身勝手な人間そのものだ。

 人間は知性を持って進化した生き物にも関わらず、どうしてその力を有効活用できないのか……」

 

 「何が言いたいんですか?」

 

 「私は君を救いたいんだよ。」

 

 「救う?」

 

 「そうだ。君は地球を再生させるZiホーミングを実行させるほどの力を持つリジェネレーションキューブを開発したボーマン博士の血を引く娘。

 上手くいけば、この世界いや宇宙そのものを変える程の力を持つものを作ることができる。」

 

 「私が?」

 

 「そうだ。以前君が帝国にいた時、Z-Oバイザーの量産、効率よく共和国より多くゾイドを見つけ、発掘する方法、私はあの時、確信した。

 ユウトに命じて君を帝国に起用したのは間違いではなかったと。」

 

 「え、それじゃ、私を帝国に迎え入れたのは……」

 

 「そうだ。表向きはランドが君を起用したことになっているが、あれは奴が君のペンダントを奪うための詭弁に過ぎない。 ホントは私の命令だ。君を迎え入れるためにな。」

 

 「でもどうして……」

 

 「君は選ばれた人間なのだ。私と共に行動すれば、その忌まわしい記憶を葬り去り、この世界を正しい方向に導くことができる。」

 

 「この世界を正しい方向に?」

 

 「そうだ。君も知っているだろう? この地球の歴史はもちろん、惑星Ziにもいつ果てるともしれない無意味な権力争いを起こし、その結果、我々の故郷は滅び去った。

 そして、その新天地として、人間は本来の故郷であるこの地球に舞い降り、新たな故郷として移住した。

 しかし、人間は過去を学ばず、尚も無意味な争いを続け、只でさえ、汚染しているこの地球を更に汚している。

 いずれこのままいけば、この地球も惑星Ziのように滅びる。それを防ぐためには神の使徒に等しい人間が支配し、この世界を統一し、正しい方向に導かなければならない。そして、それを達成するために君が必要だ。君にはその資質がある。」 

 

 「そんな、私にそんな力が……」

 

 「フフフ、その証拠にあのペンダントの本来の力は君が持たないと意味がない。」

 

 「え!?」

 

 「ボーマン博士は万が一ペンダントが奪われ、端末の力を悪用されないために、あのペンダントには君にしか扱えないように設計されていた。

 そのため、もちろんこのことを誰にも知られぬよう、娘にしか話さず、ランドには絶対に知られないようにした。

 そのため、君から奪われたペンダントに装備されたオメガレックスは地球環境でも荷電粒子砲を撃てるまたはシールドを張れるといった芸当しか出来ないが、本来の力を使えば、そんな程度には留まらない。この地球そのものと一体化するほどの力も得られる。

 だが、その方法は君自身にもボーマン博士本人からも聞かれていない。そのペンダントの本来の力を引き出すために私は君が必要なのだ。」

 

 「私が……」

 

 「もちろん、只とは言わない。私に協力してくれるなら、君の望みは叶えてやろう。」

 

 「では、レオに会わせてくれるのですか!?」

 

 「それは、彼の判断によるが……それより、君にはもう一人会いたい人がいるんじゃないのか?」

 

 「会いたい人?」

 

 「そうだ。君の大事な母親クリスタはあの科学船の事故以来、行方不明となっていて、生死は不明とされているが、彼女は生きている。」

 

 「お母さんが!」

 

 「そうだ! 私は君の母親の居場所を知っている。協力すれば、会わせてやろう。我が計画のために。」

 

 「それで、あなたは誰ですか?」

 

 「私は帝国摂政コークス・プライド。だが、その地位は所詮仮にすぎない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーガルが革命のための新たな皇帝を立てる戴冠式の準備を整える中、ユウトは移民船の倉庫に保管されているオメガレックスを眺めていた。

 

 「荷電粒子砲を備えた真の破壊龍にして、暗黒の破壊要塞オメガレックス、」

 

 「随分、 全くお人好しとは正にこのことだ。」

 

 そこに現れたのはセードだった。

 

 「どういうことだ?」

 

 「お前、まさか、あの博士が自分のことを息子だと思っているのか?」

 

 「当たり前だ! 博士は孤児だった僕をメルビルと一緒に救い、ハンターウルフを与えてくれ、これまで何度も僕を助手として働かせてくれ、そして更にはお前のジェノスピノより強いこのオメガレックスを僕にくれた。

 これで、博士が僕を息子と思わない訳がないじゃないか!」

 

 「けっ、全く何も知らないとは本当に恐ろしいことだ。」

 

 「だから、どういう意味だ?」

 

 「知らなかったのか? あいつには実の息子と娘がいることを!」

 

 「うっ、それは……」

 

 それを聞いたユウトはランド博士の部屋から若いランド博士らしき人物と若い女性、そしてボーマン博士と幼い少年、少女が写っていた写真を思い出した。」 

 

 「その面を見ると、どうやら知っているみたいだな。じゃあ、聞こうか! 何故あのサリー・ランドの性があいつと同じランドかを!」

 

 「そ、それって……」

 

 そこに戴冠式の準備をしていたメルビルが通り掛かり、

 

 「そうだよ。サリー・ランドはあいつの実の娘なんだよ!」

 

 「え!?」

 

 「!?」

 

 それを聞いたユウトとメルビルは驚いた。

 

 「サリーが博士の娘なんて、そんなこと……」

 

 「それじゃ、あいつがサリーとやらに似ていないところがあるのか?」

 

 「そ、それは……」

 

 「まあ、知らないのも無理はない。奴はお前らにはその事は話さなかったからな。しかも何の役にも立たないからといって簡単に見捨て、挙げ句には息子を最強のゾイドを作るための実験台にして、耐えられなくなったといって、ゴミのように捨てたのだからな! そりゃ、そんなこと話したら、お前らはあいつについていくことなど出来やしない!」

 

 「う、嘘だ! そんなこと信じない!」

 

 「なら、直接本人に話すんだな。 本当に奴がお前を息子だと思っているかを!」

 

 「……」

 

 「だが、覚えておけ、奴にとって家族とは支配するものでしかない。愛などというものは存在しない。

 孤児だった貴様を拾ったのは貴様を利用価値のある人間だと思って拾っただけだ。

 貴様も使えなくなったら、その内捨てられる。実の息子のようにな!!」

 

 「っ……」

 

 「だが、お前はまだ運がいいかもしれんな。何せ、奴に捨てられた息子が復讐のために力をつけ、ここにいるのだからな!」

 

 「!? それはどういうことだ?」

 

 「さあな、それも自分で確かめるんだな。」

 

 

 

 

 2人の会話を聞いたメルビルは静かになり、倉庫にいるスナイプテラインペリアルガードを見詰めた。

 

 「御父様が実の子を捨てたですって……そんな、そんなこと……」

 

 メルビルは14歳の時のことを思い出した。14歳のメルビルとランド博士の目の前には破壊されたクワーガがいた。

 

 「これは?」

 

 「以前のシミュレーションで破壊されたクワーガだ。今は必要ないが、メルビル、こいつを修理しろ。」

 

 「私が…ですか?」

 

 「そうだ。お前は私の受けた英才教育で、ゾイドの修理は出来るはずだ。お前はザナドゥリアスと違い、戦いに向いていないが、ゾイドに対する知識は豊富だ。やれるな?」

 

 「はい、御父様!」

 

 「なら、これをやろう。」

 

 ランド博士は手袋をメルビルに渡した。

 

 「これは?」

 

 「それは、私がゾイド修復の際に使ったものだ。これからはその役目をお前に与えよう。私の娘として。」

 

 「御父様……」

 

 「あんなに優しい御父様が実の子供を捨てるなんて、絶対にあり得ない! きっと何か訳があるのはずだわ。

 今回の帝国への反乱だって、博士は世界を平和に導くために仕方のないこと、例え、それが困難な道でも私は御父様のために尽くす。だって私はフランク・ランドの娘なんだから! でも、それでも、ゾイドを人を傷付ける道具にするやり方だけはやっぱり嫌なの。」

 

 そこに1人の兵士が現れ、

 

 「メルビル少尉、ランド博士が及びです。」

 

 「御父様が?」

 

 その時、メルビルが走っていくのを見たユウトも後に付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオゼネバスシティの移民船では戴冠式の準備と共にシーガルが演説場に立っていた。

 

 「さあ、いよいよ我が革命によって誕生する真の帝国を全世界に知らしめるのだ。」

 

 「シーガル!」

 

 その時、演説を行おうとしたシーガルに待ったをかけた男がいた。プライド摂政だった。

 

 「閣下、一体なんです?」

 

 「お前らが立てる皇帝が真の皇位継承者だと判明するには、それ相応の証拠が必要だろ?」

 

 「しかし、それなら、ランド博士が……」

 

 その時、プライド摂政はある写真をシーガルに渡した。

 

 「こ、これは……!」

 

 「それがお前らが立てる皇帝が真の皇位継承者だという、決定的な証拠だ。まあ、後のことはランドから粗方聞いているだろうが、それをどう使うかは貴様の自由だ。 精々頑張るがいい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人の兵士の報告を受けたメルビルはランド博士の元を訪れ、

 

 「御父様、一体何ですか?」

 

 「メルビルよ! いよいよ戴冠式の準備が整った。我々の帝国がこの世界に君臨する帝国だと言うことを世界中に知らしめる時が来たのだ。 そのためにはお前が必要なのだ。」

 

 「? どういうことですか?」

 

 「メルビルよ。お前が孤児院にいた時、何故、あの時、ジャミンガを従えることが出来たか、知っているのか?」

 

 「いえ……」

 

 「その力は只の人間が使えるものではない。あれは代々古代ゾイド人の血を引く皇帝のみが使えるもの、そう、お前は先代皇帝イヴィルの娘なのだ!」

 

 「!?!?」

 

 「クーデターで逃亡した現皇帝フィオナとは腹違いの姉であるが、お前はフィオナと違い、皇帝の血を完全に受け継いで生まれた。だから、お前には只の人間だったサリーと違い、ゾイドを従える力を持っている。即ち、この帝国の皇帝になるのはお前だ!」

 

 「そして、ザナドゥリアスもまた、私の生み出した最高傑作だった。ジャミンガを従えるどころか、膝まずかせる程の凄まじい力を持ったあの少年にもまごうことなき、皇帝の血を引く者の気配を感じた。

 そして、それは確信に変わった。ザナドゥリアスはハンターウルフ改をいとも簡単に操り、遂にはジェノスピノを凌駕する真の破壊龍オメガレックスのテストにも成功した。

 かつては強大な力を持ちながらも私に刃向かい、失敗作として宇宙に捨てた息子ピーターと違い、ザナドゥリアスは私に従順な息子として育ってくれた。

 そして、今日この日、お前たちは私の野望のために存分に働いてくれた。感謝するぞ!」

 

 それを聞いたメルビルは涙を流し、持っていた荷物を落とし、それに14歳の時にランド博士から渡された手袋もあった。

 影でそれを聞いていたユウトはさっき、セードから聞かされたことを思い出し、

 

 「(奴にとって家族とは支配するものでしかない。愛などというものは存在しない。) 

 そんな、じゃあ、博士が僕を選んだのはそのため……嘘だ、嘘だ、嘘だー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオヘリックシティの大統領官邸、そこに大統領秘書がバタバタとクレストウッド大統領の部屋に入り、

 

 「大統領閣下!」

 

 「何事だ!?」

 

 「ネオゼネバスシティからシーガルの通信が入りました。」

 

 「要求か?」

 

 「いえ……」

 

 同時にそれは軍事基地にも知れ渡り、

 

 「ディアス中佐、ツガミ大尉! 帝国のシーガルが!」

 

 「何!? 一体何だ?」

 

 シーガルの演説は帝国のTV中継にも流れていた。

 

 「我が帝国国民、そして、憎き共和国よ。私は帝国軍のはジョナサン・シーガルだ。我々は帝国に反旗を翻したが、これは反乱ではない。革命だ!

 憎き共和国と手を組み、かつての栄光を失った我が帝国を本来あるべき姿にするために我々は立ち上がり、この帝国を生まれ変わらせる!

 そして、その皇帝となられるのはハンナ・メルビルである! ハンナ様は先代皇帝イヴィル陛下の長女として生まれ、正当な皇位継承者であられた。にも関わらず、フィオナが生まれ、その皇位継承権を剥奪し、先帝陛下との写真を処分し、捨てられた。そしてその写真がこれだ!」

 

 映像に流れたのは帝国の先帝と幼いメルビルらしき少女が一緒に映っていた。

 

 「これがハンナ様が先帝陛下の娘である動かぬ証拠だ!ハンナ様こそがこの帝国の皇位を継ぐに相応しいお方だ!   

 我々はこのお方を真の皇帝とし、ここに真帝国の建国を宣言する!

 諸君!今こそ、ハンナ様を称え、憎き共和国を倒し、帝国の栄光を取り戻すのだ! 我々こそが真帝国なのである!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオヘリックシティのシーガルの演説の先帝イヴィルと幼いメルビル写真の映像を見たハワード宰相は信じられないような表情をした。

 

 「そんな……まさか……あの将校がハンナ殿下だったなんて……」

 

 横でその様子を見ていたフィオナは何かに気付いた。

 

 シーガルの演説はネオヘリックシティの軍事基地にいるレオたちにも知れ渡り、それを見たレオも驚いていた。

 

 「真帝国……」

 

 To be continued




 次回予告

 メルビルを皇帝とする真帝国の建国を宣言したシーガルはジェノスピノ侵攻作戦の雪辱を晴らすべく、真帝国の最大戦力であるオメガレックスによる共和国侵攻作戦を開始した。
 ユウトはシーガルの命令を受け、準備に取りかかるもメルビルを政治利用するシーガルに加担したランド博士に疑問を持ち始め、今までランド博士を信用したメルビルも動揺する。
 一方、共和国はオメガレックスに対抗するためにある伝説の兵器の使用を決定した。果たして、その兵器とは!?
 
 次回「ソレゾレノ 進ム道」走り抜け、ライガー!!

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