ゾイドワイルドクロス アナザーZERO   作:オーガスト・ギャラガー

5 / 86
 ゾイド、それは銀河の彼方の惑星に生息し、金属の肉体と動物の本能、自ら戦う意思を持つ金属生命体である。
 ゾイドが生息する惑星Ziが滅亡の危機を迎え、そこに住む人類は第二の故郷として地球を目指すが、あるトラブルにより、ゾイド因子が暴走し、それによって不慮のタイムワープを起こし、21世紀の地球に不時着し、地球にゾイドが現れ、ゾイドによる破壊と度重なる地殻変動で地球は一度滅びた。
 ペンダントの力によって突如復活した伝説のビーストライガーを相棒にした少年レオはビーストライガーを復活させた不思議な力を持つペンダントを持ち、地球の未来を左右する謎の少女サリーと共に地球再生のための冒険の旅に出掛けた。


第5話「さらば帝国、裏切りの幻狐」

 レオがセードの操るファングタイガー改と戦った場所から数十キロ離れた帝国軍基地、そこはノックス大尉が指揮する基地で、司令室でハンターウルフ改とファングタイガー改の映像を見ていた。

 

 「ううむ、流石はランド博士の開発した帝国軍最強の機体、頼もしい限りだが、このままでは、我が部隊の面目が丸潰れだ。

 ハンターウルフ改やファングタイガー改に比毛を取らない優秀な機体の完成を急がねば!」

 

 そこに作業員が部屋に入り、

 

 「ノックス大尉、例のゾイドが完成しました。」

 

 「おお、そうか!」

 

 

 

 ノックス大尉が作業員についていって、倉庫に入ると、そこには背中にガトリングを搭載したキツネ種のゾイドがいた。

 

 「これが例の新型ゾイドか?」

 

 「はい、実験に実験を重ね、遂に完成した帝国軍の新型ゾイド、名付けて、ガトリングフォックスです。」

 

 「ガトリングフォックス…」

 

 「発掘当初、このゾイドには武器らしい武器は装備していない無防備状態でしたので、A-Zインフィニティガトリングにダブルバスターライフル、マルチプルランチャー、2連ソードオフ・ショットガンを新たに装備させ、加えてこのゾイドには光学迷彩機能も搭載していますので、隠密行動に優れたステルス性能も持っています。」

 

 「そんな機能まで搭載させたのか!」

 

 「はい、ハンターウルフ改やファングタイガー改に比毛を取らない優秀な機体の開発という大尉の御期待に沿えた私の終生の傑作です。

 シミュレーションは既に終わっていますので、後は実戦投入でどこまで発揮出来るかのテストだけですが、問題はこれに相応しいライダーがいるかどうか…」

 

 「それは心配ない。 ブラッド軍曹!」

 

 そこに1人の若い将校が現れた。

 

 「大尉、一体俺に何の用ですか?」

 

 「実はお前に新しいゾイドを与えようと思ってな。」

 

 「俺の…新しいゾイド?」

 

 「そうだ。 見ろ!」

 

 ガトリングフォックスを見たバーンは驚愕した。

 

 「これは…!」

 

 「つい最近完成した新型のガトリングフォックスだ。 お前の今までの功績を称え、このゾイドのライダーに任命しようと思っている。」

 

 「俺を…このゾイドの…ライダーですか?」

 

 「そうだ。お前にとってはこれ程にない名誉ではないか。 それとももしかして不服か?」

 

 「いえ、ありがとうございます! 大尉。 それで、大尉、こいつに乗って俺にどうしろと?」

 

 「実は先程、帝国との国境近くに共和国軍の基地が発見されたとスパイからの報告があってな。

 このガトリングフォックスの最終テストも兼ねて、その基地を叩いて貰いたい。」

 

 「わかりました。必ず落として見せます!」

 

 「頼りにしてるぞ!」

 

 

 

 バーンはガトリングフォックスのコクピットに乗り、同時にガトリングフォックスのバイザーの色が赤から青に変わり、鳴き声に似たような声がした。

 

 「今のは? まあ、いい。これから俺のゾイドとしてよろしく頼むぜ。ガトリングフォックス!」

 

 ガトリングフォックスは基地から出て、光学迷彩機能を発動して姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 ディアス中佐とツガミ大尉の指揮する共和国軍基地、ファングタイガー改とアルドリッジ率いる帝国軍によって破壊されたところの復興とビーストライガー、トリケラドゴス改ら傷付いたゾイドたちの修復を行っていた。

 

 「君に仮が出来てしまったな。」

 

 「ディアス中佐、」

 

 「何だね?」

 

 「あの… あのファングタイガーは一体何ですか?」

 

 「君が以前戦ったっていうハンターウルフ改と並ぶ帝国軍最強のゾイドだ。 ハンターウルフのライダーのザナドゥリアス少尉と同様に、耐Bスーツ無しでもゾイドを操縦でき、しかもワイルドブラストまでしてしまう並外れたライダーが乗っている。

 最もザナドゥリアス少尉とファングタイガー改に乗るライダーの素性は我々にもわからない。」

 

 「俺みたいに耐Bスーツ無しでゾイドに乗れるなんて…一体どんな奴なんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 帝国と共和国の国境近くにある共和国軍基地、警戒をしているラプトリア部隊が突然ガトリングに撃ち込まれ、次々と倒れていった。

 

 ビー、ビー、ビー!

 

 「どうした? 何が起こった!」

 

 「敵の攻撃です!」

 

 「戦力はどれぐらいだ?」

 

 「それが…」

 

 

 基地の内部ではラプトリアとスコーピア部隊が戦闘配備しているが、敵の姿が見えず、次々と倒されてしまう。

 

 「敵は一体何処から攻撃している?」

 

 「レーダーにも反応なし、敵の居場所も突き止められません! 何!? ウワァー!!」

 「第一部隊全滅! 第二部隊も全滅です!」

 

 「くそ、帝国軍は一体どんなゾイドを送ったんだ!?」

 

 次々と倒れる共和国軍ゾイドを見たバーンは、

 

 「こいつはスゲェ! 共和国軍がまるで歯が立たない程だぜ。こいつがいれば最早無敵だ!!」

 

 

 

 共和国軍ゾイドを殲滅したガトリングフォックスは更に基地まで破壊し、そのまま立ち去った。

 

 「こちら、ブラッド軍曹。 大尉、やりました!」

 

 「そうか、よくやった。 やはり、お前を指名して正解だったようだ。」

 

 「実験は成功ですね! これで我が部隊はファングタイガー改やハンターウルフ改と並ぶ最強のゾイドを手に入れたのです。」

 

 ガトリングフォックスに乗るバーンはご機嫌よく、

 

 「大尉は太っ腹だぜ! こんなスゲェゾイドを俺にくれるなんて、きつい訓練に耐えた甲斐があったぜ!」

 

 そう言い放った矢先、フォックスの赤いバイザーが明滅し、青い光を放つ。 バイザーを青く光らせたフォックスはバーンの意思に反し、その場で走るのをやめてしまう。

 

 「お、おい、どうした? さっさと進めろ!」

 

 暫くは動かなかったが、バーンの言葉に従うかのようにガトリングフォックスはバイザーを赤く光らせ、そのまま帝国軍基地に向かって走って行った。

 

 「一体なんだったんだ? とりあえず、あいつに聞いてみるか…」

 

 

 

 

 

 

 帝国軍基地に戻ったガトリングフォックスから降りたバーンはノックス大尉と作業員の元に立ち寄った。

 

 「よくやったぞ。ブラッド軍曹! これで我が軍は博士直属の軍に遅れを取ることはなくなった。」

 

 「全ては私の研究の成果です!」

 

 「おい!」

 

 「なんでしょう?」

 

 「さっき、フォックスが突然動かなかったが、一体どういうことだ?」

 

 「それはおかしいですね… ちゃんと実戦投入前にテストは行いましたから、ミスがあるはずがございませんが…」

 

 「てめえ、俺をなめてんのか!」

 

 「いえいえ、決してそのようなことは… まあ、機械にバグが起こるのは当たり前です! おそらくバイザーへの順応が不十分だったのでしょう。 性能は高くともこいつは所詮機械ですからね。」

 

 「機械…」

  

 「それはそうと、ブラッド軍曹。疲れを癒すためにも君は少し休みたまえ。」

 

 「はい!」

 

 ノックス大尉と作業員が立ち去り、ガトリングフォックスを見て、フォックスが突然動きを止め、自分の言葉に従うかのように動いたのを思い出したバーンは、

 

 「俺の見過ごしかな? さっきはただのバグと思っていたが、あれは確かに俺の言葉に応えて動いていたような気がしていたが… 

 ゾイドはただの機械… 確かに入隊時ではそのように教わっていたが、共和国や他の地域ではゾイドは生命体だとか言われている… まあ、俺の知ったこっちゃないか。」

 

 作業員の言葉とフォックスの異変に疑問を持ちながらもその場を立ち去るバーン、しかし、バーンが立ち去った後、ガトリングフォックスのバイザーが再び青く発光した。

 

 同時にフォックスは操縦無しに突然動きだし、尻尾のマルチプルランチャーから照明弾を発射し、基地の天井を破壊、

 

 「お、おい! 一体どうしたんだ!?」

 

 自分よりも二回りも大きいナックルコングにタックルをお見舞いしたフォックスは暴走を停止した。騒ぎを聞き付けたノックス大尉と作業員が再び駆け寄った。 バーンは作業員に詰め寄り、

 

 「おい! これはどういうことだ!?」

 

 「申し訳ありません。これは予想外のことです!」

 

 「予想外だと!? 開発したお前が言える口か!」

 

 「止せ、ブラッド二等軍曹。」

 

 「ちっ、とにかく明朝までにフォックスを完璧に整備しろよ! こいつに何かあったら、俺の首がすっ飛ぶからな!」

 

 バーンは不満ながらもその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明朝、ディアス中佐とツガミ大尉の指揮する共和国軍基地では、レオたちが再び旅立ちの準備をしていた。サリーはツガミ大尉に頭を下げ、

 

 「本当にありがとうございます。」

 

 「礼はいらない。君たちを保護することも我々軍人の役目でもある。 それにここは帝国との国境沿いにあるから、帝国軍が巡回していることも多い。

 帝国軍の届かない安全なルートまでは私も同行する。」

 

 「ありがとうございます。」

 

 「それにディアス中佐からの命令で、万が一のことも踏まえてボディーガードもつけといた。」

 

 「ボディーガード?」

 

 それを聞いて首を傾げるレオの元にアイセルが現れた。

 

 「おまたせ!」

 

 「アイセル!?」

 

 「彼女は軍人だが、我々と違って、考古学者で、どちらかというと、そちらの専門だ。

 端末探しに役立てくれるだろう。それに彼女は我が共和国軍の中でも中々の実力者だ。ボディーガードにはうっつけだ。」

 

 「え、じゃあ、ツガミさんはどうするんですか?」

 

 「私はディアス中佐と共にこの基地と共和国領を守る義務がある。それにボディーガードは私の専門ではないのでね。」

 

 「ということで、よろしく、レオ! あなたのお父さんの行方に私も協力してあげる!」

 

 「あ…ああ、こちらこそ、よろしく。」

 

 「サリーもお願いね。 あ、後、端末やあのライガーはもちろん、レオと上手くいっているのかも聞かせてね。」

 

 「はい、よろしくお願いいたします。」

 

 「あ、アイセル! 余計なこと言わないでくれよ。」

 

 「おや、レオ。 顔が真っ赤だぞ~。もしかして、お前…」

 

 「もう! バズまでからかうなよ!!」

 

 「さ、そろそろ出発するぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ノックス大尉の指揮する帝国軍基地、ノックス大尉のいる司令室に兵士が入り、

 

 「ノックス大尉、偵察部隊から報告がありました! 手配中の娘を連れた例のライガーが共和国軍と共に我が部隊の基地の近くを通っているとのことです。

 しかも、共和国軍を指揮しているのはステゴゼーゲ改のようです。」

 

 「何! それは本当か!? どうやら、好機が来たようだ。直ぐに出撃する! ブラッド軍曹にも出撃の要請を!」

 

 「はっ!」

 

 「待っていろ、ツガミ。あの時の借りを返してやる。」

 

 

 個室で休息しているバーンの元にも兵士が現れ、

 

 「ブラッド二等軍曹、例のライガーがこの基地の近くを巡回していて、直ちに滷獲するよう、ノックス大尉から命令が来た。 直ちにガトリングフォックスで出撃を!」

 

 「了解! へ、どうやら、更に運が回ってきたようだ。しかもライガーとありゃ、相手にとって不足なし!」

 

 バーンはフォックスに乗る準備をする中、フォックスの近くにあの作業員がいた。

 

 「よし、これで完璧だ。」

 

 「今度は大丈夫なんだろうな?」

 

 「大丈夫です! 何せこいつは私の終生の傑作ですから。」

 

 「今は俺のゾイドだ!」

 

 「確かにライダーはあなたですが、こいつを開発したのは私です。それをお忘れなく。」

 

 「ちっ!」

 

 バーンはしぶしぶフォックスに乗り、出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオたちはツガミ大尉率いる共和国軍と共に道を進んでいった。

 

 「この方向で合ってる?誰も住んでなさそうだよ?」

 

 「こんなところで迷子になりたくないんですけど!」

 

 「心配するな。あと一時間もすれば着くはずだ。悪いがお嬢さん、現在地を割り出してもらえるかな?」

 

 「フフ。やっぱり迷ってるんですね♪」

 

 「違う!念のための確認だ!」

 

 レーダーを見たツガミ大尉は、

 

 「この道を通れば、帝国軍の手の届かない安全地帯に繋がっている。間違いはない。」

 

 「やっぱり、ツガミさんに任せた方がいいみたいですね。」

 

 「おい、サリー。まさか、俺が方向音痴だと言いたいのか?」

 

 ほのぼのした会話を繰り広げるレオたちに銃弾の雨が降り注ぐ。 岩陰から姿を現したのは2機のナックルコング。そして、そのナックルコング部隊を率いていたのはスティレイザーだった。スティレイザーを見たツガミ大尉は、

 

 「スティレイザーだと!? まさか、アルドリッジの奴、懲りずに来やがったのか!」

 

 「久しぶりだな。ツガミ大尉。」

 

 「その声は、ノックス大尉か!」

 

 「そうだ! 以前の戦闘で私のナックルコングの左腕をお前のステゴゼーゲに破壊された屈辱忘れはせんぞ。」

 

 「なるほど、乗り換えたのがそのスティレイザーということか…」

 

 「貴様のステゴゼーゲによって私のナックルコングが修復困難になったため、このスティレイザーに乗り換えたのだ。

 今度はあの時のようにはいかせん! 借りを返して貰うぞ。」

 

 「残念だが、スティレイザーには先程の戦闘で一度倒している。しかもアルドリッジが乗った奴をな!」

 

 「何!? アルドリッジ少佐をだと! だが、いくらアルドリッジ少佐を倒したとはいえ、私まで倒せると思うな-!!」

 

 互いにぶつかり合うスティレイザーとステゴゼーゲ改、

 

 「ナックルコング部隊はサリー・ランドを乗せていると思われる車を捕らえろ! 私はステゴゼーゲの相手をする。」

 

 最初は互角かと思われたが、徐々に押していくスティレイザー、

 

 「う、くっ… 思ったよりやるな。」

 

 「ツガミさん、今行きます!」

 

 レオとビーストライガーはステゴゼーゲ改を助けにいこうとするが、

 

 ズドン、ズドン!

 

 突然、ビーストライガーの歩みを止めるべく放たれた砲撃があった。

 

 「砲撃? まだ敵がいるのか! う、グワァ!」

 

 更にビーストライガーはガトリングに撃ち込まれ、ライガーは直ぐ様、攻撃の体勢に入るが、相手の姿が全く見えず、反撃出来ぬまま攻撃を喰らってしまう。

 

 「くそ、一体何処から攻撃してきたんだ!?」

 

 その時、光学迷彩を解除して、ガトリングフォックスがライガーの目の前に現れた。

 

 「お前が噂のライガーか! このガトリングフォックスの肩慣らしに丁度いい相手だぜ!」

 

 「ハンターウルフ? いや、違う! 新しいゾイド!?」

 

 ガトリングフォックスを見たツガミ大尉も驚愕し、

 

 「何だ、あれは? 帝国の新型ゾイドか!?」

 

 「そうだ! 光学迷彩を搭載した我が部隊の最終兵器ガトリングフォックスだ!!」

 

 「ガトリングフォックスだと!? 帝国軍はそんな新型ゾイドの開発まで着手していたのか!」

 

 「俺とフォックスの速さについてこられるかな?」

 

 フォックスは再び姿を隠した。

 

 「また消えた。今度はどっから?」

 

 その時、フォックスは左からライガーに突進し、その次は右、斜め右、斜め左と左右からライガーに攻撃してきた。

 

 「くそ、これじゃ、反撃せずにやられてしまう。ん?

待てよ。」 

 

 足元を見たレオは何かに気付き、

 

 「そうだ。 足音だ! ライガー、足音を聞き分けられるか?」

 

 ライガーはゆっくり頷いた。

 

 「よし、あいつが攻撃してきた時がチャンスだ!」

 

 ライガーは動きを止め、レオは耳を済ました。その時、フォックスの足音が聞こえ、

 

 「そこだ! いくぞ、ライガー。 ビーストライガー、進化 解放! エヴォブラスト-!! ビーストオブクローブレイク!」

 

 ライガーは姿を隠したフォックスに攻撃するが、フォックスは攻撃を呼んでいたかのようにライガーの攻撃をさっと避けた。

 

 「攻撃を避けた!?」

 

 「残念だったな! 罠にかかったのはお前の方だ。 いくぞ、フォックス! 今こそ、お前の力を見せてやれ!!

 制御トリガー解除! ガトリングフォックス、兵器 解放! マシンブラスト-!! スラストスプレッドファイヤーーー!!!」

 

 「ウワァ-!!」

 

 マシンブラストし、火器を前方に展開したフォックスの一斉砲撃の雨がライガーに襲い、ライガーにかなりのダメージを与える。

 

 「へへ、勝負あったな。じゃ、そろそろ止めといくか…」

 

 その時、フォックスのバイザーが再び青く発光し、突然動きを止め、悶え苦しんだ。

 

 「お、おい! どうした?」

 

 それを見たレオとライガーはすかさず、

 

 「今だ! ビーストオブクローブレイク!」

 

 「くっ!」

 

 フォックスはそれを何とか避け、再び姿を隠すが、フォックスの身体から電流が迸り、悶え苦しみながら姿を隠したり、消したりした。

 

 「この、この、言うこと聞けってんだよ!」

 

 動きのおかしいフォックスを見たレオは、

 

 「あのゾイド、苦しんでる… まるで何かを訴えるように…」

 

 「ええい、攻撃だ! フォックス。」

 

 しかし、フォックスは錯乱したのか、帝国軍部隊に向けて走り出し、スティレイザーに砲撃を浴びせてしまう。

 

 「グワァ! おい、ブラッド二等軍曹! 何をやっている!?」

 

 「すいません。大尉! こいつが言うことを聞きません!」

 

 そのままスティレイザーを爪の一撃で一時行動不能に陥れたフォックスは帝国軍部隊の遥か後方に走り去ってしまうのでった。

 

 スティレイザーを振り切ったツガミ大尉とステゴゼーゲ改は、

 

 「今だ! 今のうちに逃げるぞ!」

 

 「は、はい!」

 

 「くそ、待て! おのれ、ブラッド二等軍曹め! しくじり追って!」

 

 逃げながらもレオは走り去ったフォックスのことが気掛かりだった。

 

 「あのゾイド、大丈夫かな? 苦しんでいたようだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜になるまで走り続けたフォックスが迷い込んだのはとある森。 そこで停止し、バーンはフォックスのコクピットから降りた。

 

 「たく、どうしてくれるんだよ! このポンコツが!! お前のせいで帝国軍に戻れなくなってしまったじゃねぇか。」

 

 「君、ゾイドに何しているのかね?」

 

 フォックスの足を蹴るバーンの元に現れたのはマスクをしていたボーマン博士だった。

 

 「あんた、誰だ? 何もんだ!」

 

 「帝国軍の君には言えないよ。」

 

 「何だと! 貴様、俺を嘗めているのか!?」

 

 「まあまあ、落ち着きなさい。 それより、さっき君の相棒に八つ当たりして何してたのかね?」

 

 「決まっているだろ! どういうわけか。こいつが勝手に動き出して味方の軍や大尉のゾイドにまで手を掛けて逃げられる羽目になっちまっまんだ。

 せっかくあのライガーを奪って更に出世できるチャンスだったのに!」

 

 「君のゾイドの暴走はこれが原因かね?」

 

 ボーマン博士はフォックスのバイザーに指差し、

 

 「ゾイドオペレートバイザーのことか?」

 

 「君はこれが何なのか知っているかね?」

 

 「そりゃ、知ってるさ。ゾイドの意思と行動を制御し、乗り手の思うがままに操れるように開発された装置、帝国軍ゾイドとしての証さ!」

 

 「証ね… 果たしてこれが証と呼べるものかね…?」

 

 「何が言いたいんだ?」

 

 「私からしたら、これはゾイドの自由を奪い、奴隷のように使う枷のようにしか見えない。 そう、かつての私の弟子が正にそうであったように。」

 

 「枷? 弟子?」

 

 「君たち帝国軍はゾイドの自由を奪って楽しいのかね?」

 

 「楽しんでいるだ~? ふざけるな! 俺たちはゾイドを使って戦争をやっている。

 そのときに好き勝手動かれちゃ、戦争が出来ないだろ!」

 

 「確かにゾイドには闘争本能を持っている。その闘争本能を持つゾイドは戦争をしている帝国や共和国にとって必要不可欠な存在だ。

 だが、それはゾイド自身のものだ。人間の小競り合いのために備わっているものではない。」

 

 「さっきから何なんだよ! 一体何が言いたいんだ?」

 

 「私が知りたいのは君にとってフォックスは何なのかということだよ?」

 

 「俺にとってのフォックスだと?」

 

 「どうなんだね?」

 

 「いや…俺は…」

 

 「君がフォックスを救いたいなら方法はある」

 

 「本当か?!」

 

 「今すぐこのバイザーを外して、彼を自由にしてやることだ。」

 

 「帝国軍ゾイドの証であるゾイドオペレートバイザーを外すってことは、即ち帝国軍を裏切れってことじゃないか! 

 そんなことすれば、俺は帝国の反逆者になって今まで厳しい訓練に耐えてきてここまで来た俺の人生は何もかも終わりになっちまう。」

 

 「では、自分の人生のためにフォックスを犠牲にするのかね?」

 

 「そ、それは…」

 

「帝国だの共和国だのと言っているが、そもそもこの地球をこんな姿にしたのは、我々惑星Ziの人間だ。そして、ゾイドがこの地に来たのも我々のしたことだ。」

 

 「そんなの俺には関係ねぇ!」

 

 「まぁ、そう言うな。今となっては、人もゾイドもここで生きていくしかない。我々がすべきは地球とゾイド を共存させることだ。ゾイド の自由な魂を、この場で解放することだ。

 フォックスにとって、自由を奪われることは何よりも辛いようだ。二元の都合で苦しめてはいかん」

 

 「苦しめる……苦しんでるっていうのか、フォックスが……俺はそんなつもりじゃ……」

 

 「では君はフォックスを何だと思っている?闘いの道具か?出世の手段か?」

 

「そんなこと!……俺は……」

 

(ノックスの言葉がバーン軍曹の脳裏に蘇る。

 「その暁には、お前は部隊長に昇格だ」)

 

 「とはいえ、もう時間はない。 フォックスはバイザーの支配に抗い過ぎて、体力が落ちている。このままいけば…」

 

 「どうなるんだ?」

 

 「フォックスはこの場で絶命してしまうだろう。」

 

 「今すぐ助けてやりたいとこだが、君がそんな状態では助けることは出来ない。」

 

 「爺さん、今まで、ゾイドのことは考えたことなかったが、俺が初めて軍に入隊した時、ゾイドはいつも俺の側にいてくれた。

 そりゃ、最初は兵器か機械みたいな扱いだっただろうけど、だが、ゾイドは戦争の時、俺の力になり、俺を守り、共に戦ってきた。

 難しいことは言えねぇが、これだけはわかる。俺が初めてフォックスを見た時、ただの機械とは思えなかった。

 俺にとって、ゾイドは、フォックスは共に戦ってくれた同士、相棒だ。」

 

 「相棒… 私の聞きたかった言葉だ。」

 

 「え?」

 

 「よかろう。今すぐフォックスのバイザーを外し、彼を助けよう。」

 

 「本当か!? でも、いくらなんでもあんた1人の力じゃあ…」

 

 「なあに、こんな作業、私にとってはどうってことない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオたちがノックス大尉率いる帝国軍から逃れ、道を進んでいく中、

 その時、スティレイザー率いるナックルコング部隊が再び現れた。

 

 「見つけたぞ! 手配中のサリー・ランドと例のライガー。! 大人しく我々に引き渡して貰おうか。」

 

 ナックルコング部隊を率いるスティレイザーを見たレオは、

 

 「またさっきのゾイドだ。」

 

 スティレイザーを見たツガミ大尉は、

 

 「残念だが、サリー・ランド及び彼のライガーは我々共和国軍によって保護された。お引き取り願おうか。」

 

 「そういう訳にはいかん。帝国上層部からの命令でね!」

 

 「やっぱり、そうなるか。 アイセル少佐! 彼女を乗せた車を安全なところに誘導しろ!」

 

 「大尉、階級は私の方が上よ!」

 

 「だが、軍の経験は私の方が上だ!」

 

 「はいはい、わかったわよ。」

 

 「レオ! 君は私の後方に回り、私が帝国軍の注意を引き付けている間に逃げろ。」

 

 「そんな、俺も戦えます。」

 

 「駄目だ! そもそも君は軍人ではないだろ!」

 

 「わかっていますけど、ただこのまま守ってもらうだけなのは嫌なんです。」

 

 グルル…

 

 「ほら、ライガーだって、そう言っています。」

 

 「全く、なら、出来るだけ、私の足手まといになるな。」

 

 「ウォー!!」

 

 ノックス大尉のスティレイザーは真っ直ぐ突っ込み、ステゴゼーゲ改とぶつかった。

 バズの車はアイセルのラプトリアの誘導で逃げるが、車の進んだ先には2体のナックルコングが待ち構えていた。

 

 「げ、ナックルコングだ!」

 

 「私に任せて!」

 

 ラプトリアは勇猛果敢にナックルコングに立ち向かうが、体格さやパワーの差もあるため、ナックルコングに片手で掴められ、叩きつけられてしまう。

 

 「う、きゃあっ!」

 

 「お、おい、アイセル!」

 

 バズとサリーは車ごと捉えられてしまう。

 

 ナックルコングに捕らえられた車を見たノックス大尉は、

 

 「大人しく我々に従え。こいつらを握りつぶされたくなければな。」

 

 「レオ!」

 

 「サリー! くっ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 深い森林の中、ボーマン博士は作業を終え、フォックスのバイザーを取り外した。

 

 「よし、これでフォックスは自由だ。」

 

 「ありがとう、爺さん。 ところで、あんたの名前は?」

 

 「名乗る程の者ではない。 只の通りすがりの科学者だ。」

 

 

 「通りすがりの科学者?」

 

 「さて、わしはこれで失礼するよ。」

 

 「何処に行くんだよ?」

 

 「離れ離れになった孫娘と誤った道を進んだ私の弟子と端末を探しに行かないと行けないのでな。」

 

 「孫娘? 弟子? 端末?」

 

 「それに、あの時、船で反乱を起こした者たちの正体と野望を突き止めないと、奴らはこの地球すら破壊しかねないかもしれん。 奴らの言う神とは何なのか?

 一刻も早く教授に会い、奴らの野望を阻止せねば!」

 

 「お、おい、あんた一体何言ってるんだ? 船の反乱? 地球を破壊する? 神? そいつは一体なんなんだよ!?」

 

 ボーマン博士はそのまま立ち去った。

 

 「なんだったんだ?」

 

 グルル…

 

 フォックスはバーンを見詰めた。

 

 「ああ、自由になったんだな。良かった。」

 

 その時、通信機が反応し、

 

 「近くに大尉の率いる帝国軍が戦っている? 相手は… さっきの例のライガーを連れた連中か!

 ここで、大尉の部隊と合流してライガーを滷獲すれば、さっきの汚名は返上出来るが…」

 

 バーンはフォックスを見詰め、フォックスもバーンを見詰めた。フォックスを見たバーンはしばらく考え、

 

 「そうだな。相棒! 俺たちの進むべき道はこれしかない!」

 

 

 

 

 

 

 

 2体のナックルコングに押さえられ、ノックス大尉のスティレイザーに苦戦するステゴゼーゲ改、

 

 「くそ、これじゃ、サリーをたすけられない!」

 

 「こいつ、思ったよりやるようだ!」

 

 「いい加減、降参しろ! ん?」

 

 その時、バズの車を掴むコングとビーストライガーを押さえるコングとノックス大尉のスティレイザーに向けて放たれた砲撃があった。

 

 現れたのはガトリングフォックスだった。

 

 「ブラッド二等軍曹、戻ってきたか! 命令だ!こいつらを倒せ!お前の能力なら造作もなかろう!」

 

 「確かに、俺とこのガトリングフォックスならどんな強い相手だろうと倒すのは簡単…… だが、誰を倒すか、決めるのは俺たちだ!」

 

 

 

 その時、外されたバイザーの中の本来の目が青く発光し、咆哮を上げたガトリングフォックスはビーストライガーを取り押さえるナックルコングにガトリングを撃ち込み、ナックルコングに突進して蹴散らした。それを見たノックス大尉は、

 

 「何!? 貴様、どういうことだ! 帝国を裏切るつもりか!!」

 

 「すみませんね大尉。こいつのやりたいようにさせることにしたんでねぇ。」

 

 「おのれ、ならば、貴様も同様に始末してやる!」

 

 ノックス大尉のスティレイザーはステゴゼーゲ改を振り切って真っ直ぐガトリングフォックスの元に向かった。それを見たバーンは落ち着いたように、

 

 「上司が相手だが、どうする? フォックス!」

 

 フォックスは何か言いたいように頷き、

 

 「ま、そうなるな。行くぞ! 相棒。 ガトリングフォックス、進化 解放! エヴォブラストー!!」

 

 「制御トリガー解除! スティレイザー、兵器 解放! マシンブラストー!! プラズマウォール!」

 

 しかし、ガトリングフォックスはスティレイザーの攻撃を難なく避け、後方に回った。

 

 「大尉、俺のフォックスの機動性を忘れたんですか?」

 

 「しまった!」

 

 「今だ、ファントムガトリング!!」

 

 ガトリングフォックスは後方からガトリングの銃弾をスティレイザーに浴びせた。身動きの取れなくなるスティレイザー、

 

 「くそ、いい気になりおって!」

 

 その時、目の前にステゴゼーゲ改が現れ、

 

 「ステゴゼーゲ、進化 解放! エヴォブラストー!! ナイフオブフィフティーン!」

 

 ステゴゼーゲ改の攻撃を食らって倒れるスティレイザー。 ビーストライガーの方を向いたバーンは、

 

 「おい、ライガーの少年、早く逃げた方がいいぜ!」

 

 「え、でもあなたは?」

 

 「人の心配より、自分の心配をした方が身のためだぜ!」

 

 「彼の言う通りだ。 早くここから離れよう!」

 

 ツガミ大尉の言葉を聞いたレオはバズたちと共にその場を去った。

 

 「俺たちも逃げようぜ。フォックス!」

 

 スティレイザーは立ち上がり、逃げるフォックスを見たノックス大尉は、

 

 「おのれ、バーン・ブラッドめ! 裏切った上に我が軍最高のガトリングフォックスを反乱の道具にするとは! この仮は必ず返してやる!!」

 

 

 

 

 逃げながら走り去るフォックスを見たレオは、

 

 「あの人、大丈夫かな?」

  

 「大丈夫よ! だってあのスティレイザーやナックルコングだって苦戦させた相手よ。」

 

 「出来れば、我が共和国軍に入って欲しかったが、惜しいな。」

 

 「せめて、お礼くらい言いたかったな…」

 

 「また会えるわ。そんな気がするんです。きっと!」

 

 「何はともあれ、助かったぜ。俺の車が無事で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 走るガトリングフォックスにバーンは、

 

 「これから何処に行く? 相棒。」

 

 グルル…

 

 フォックスは何か言いたいように頷き、

 

 「そうだな。俺とお前だけでこの広い世界を走り抜こうぜ! ゾイドを苦しめる奴らとはおさらばだ。」

 

 バーンの言葉でフォックスは目一杯高く跳んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レオとバズの家から少し離れた研究所のような住宅にバズの知り合いが自身が発見したゲートのようなものの一部を調べていた。

 

 「こいつは凄い! 惑星Ziはもちろんゾイドクライシス以前の地球にもこれ程の技術を持った物質は存在しない。

 こいつを帝国か共和国に売り飛ばせば、一生遊んで暮らせる程の金を手に入れることが出来るぞ!

 こいつを知ったら、バズの奴、羨ましくなるだろうな。」

 

 バズの知り合いがゲートを一心不乱に調べている中、、ゲートのようなものに埋め込まれている溝が突然紫色に発光した。

 

 To be continued




 次回予告

 ディアス中佐とツガミ大尉の助言により、安全なルートを通ってボーマン博士と端末捜しに向かうレオたち、そこでレオたちはゾイドクライシスで荒廃した街に辿り着く。そこには不可解な壊され方をされた街だった。
 だが、そこにユウトの操るハンターウルフ改と赤き死神と呼ばれる帝国軍の新たな戦力が襲いかかってきた。レオとライガーは再びユウトとハンターウルフ改にリベンジしようとするが…

 次回「空ト陸ノ、スナイパー」

 走り抜け、ライガー!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。