空はいつも通りの綺麗な茜色に染まり
人々は異形へと変わる
家は煙に包まれ
車はそこらかしこに転がっている
少年は目を輝かせていた
高校生にもなり
新しい友達も増えて
賑やかな家族と日々を過ごす。
実に恵まれた理想的な日常だ。
一般的な学生を悩ませる勉強だったり人付き合いだったりも何も苦になることはない。
所謂完璧な人間の自分と死んだ目をしてる彼女はなぜかよく似ていた。
暇だな。
現在絶賛現実逃避中の自分は何をする訳でもなくほっつき回っている。
初めて学校をサボったのだから何かないかと思っていたのだが、
まあつまらない。
そんな風にブラブラしていたら
いつの間にか街の小さい丘の上まで来ていた。
オイオイまさかの先客だよ。
年季の入ったベンチの上で一人の女の子がただぼうっと座っている
特攻だな。
「ヘイ」
「…」
「やあ」
「…」
「おー「なんなんですか殺しますよ。」
「oh…」
思ってた以上にツンツンしてるよこの子
もうこの時点でコミュニケーションに失敗してるんだからこっから巻き返すことはたぶん無理だな。諦観だ諦観
でも自分今めちゃくちゃワクワクしてる。
「なんだと思う?」
立ち上がったよこの子
めっちゃ険しい顔だよブルドッグみたいだよ。
あーでも良いなー好みのタイプだなー。でもそれだと頭痛が痛いってことになるなー。
「──」
瞬く間に距離を詰められ
恐ろしい速度で手刀が繰り出される
満身の力を込めたその一撃は間違いなく少年の意識を刈り取るだろう
「ッ──ふぅーやべえやべえ」
「……」
咄嗟に躱したけどやべぇわこの子すげぇ強いわ。
小学生みたいな感想しか出ないぐらいに強えわ。
いやでもウザイからって殴りに来るのは───
「あっぶねぇってマジで!謝るからタンマ!謝るからタンマ!」
「あなたは…」
マジで殺しに来てるんじゃないかこの女の子
ものすごい綺麗な蹴りだったわ10点満点だよ
自分でもクソみたいな絡み方したのは分かってるけどここまでするか普通。お兄ちゃん怒っちゃうぞ!
「あなたは…何者ですか」
「なんだと思う?」
殺されかけた。
女子って怖い。
ずっと探していた
俺達は同じだ
「─よっ」
「…あなたですか」
もう顔覚えられてるよ。
そんなキモかったか俺。
キモかった。ごめんなさい。
「答えてください
なんなんですかあなたは」
「真面目に質問の意味が分からないんだけども」
「答えてください」
「俺は…人間。普通の」
あーそうだなそうゆうことね理解理解。
たぶん俺達は運命の相手だな。
「そう…ですか…」
「…」
「…」
「んー…その…ごめんな昨日はいくらなんでも失礼だった」
「そういうことではありません」
知ってる。
君が考えていることは大体当てられる筈だ。
「なあ」
「…」
「また来るよ」
「…」
「来たぞー」
「…少し話をしましょう」
まじ?大歓迎大歓迎。
「あなたは人間をどう思っていますか」
唐突になんなん。
厨二病かなにか。
「俺は生粋の人間大好き野郎だよ」
「何故」
「何故ってそりゃあ好きだからな」
「それがどんな屑でもですか」
中々重症のようで。
「─おう。愛してるよ人間」
「…誰かを殺したいとは思いませんでしたか」
「名前は?」
「は?」
「あんたの名前」
ぼくはおかあさんがだいすきだ。
ぼくはおとうさんがだいすきだ。
ふたりともぼくがだいすきだ。
ふたりがぼくのそばにいるとき
ぼくはずっとくるしかった。
「私は人間が嫌い」
「もし全人類が殺しに来たとして、あなたは勝てますか」
「まあそれなりに足掻く」
「分かりました」
「人類を滅ぼそうと思います」
クソ笑った。
殴られた。避けて煽ってたら
ぶん殴られた。解せぬ。
「悪かった、悪かったよ」
「それでなんでそんなことになったんだ」
「─いいでしょう」
「あなたになら話してもいい」
曰く人間は屑ばかり。
曰く少しの善人も大勢の屑に潰される。
曰く人間に生きる価値はない。
そんなくだらない厨二話を身の上話を織り交ぜて聞かされた。
「一緒に来る気はありませんか」
「あなたと私なら出来るはずです」
「やだ」
「どうして」
「俺はみんなが好きだからな」
「どうしてそんなに──あなたは…!」
「あなたも分かるでしょう!」
「私と同じあなたなら!」
「うん」
「…分かりました」
俺の大好きな女の子はとても寂しそうにしていた。
次の日、世界はひっくり返った。
人をあの有名なゾンビゲームのクリーチャーみたいに変えるウイルスだとか
人間絶対殺すロボットとか
結構カオスなことになった。
家族が死んだ。友達が死んだ。
今までずっと叶えられないと思っていた夢が、
すぐそこまできている。
俺は寂しがりだから誰かが居ないと死んでしまう。
小さな頃から俺は人が大好きで、殺したくてしかたなかった。
衝動的に湧き上がるその感情は、
俺をずっと苦しめた。
殺したくはない。ずっと一緒にいたい。
想像したくもない光景が頭の中で何度も繰り返しされては何かを求めている。
勘違いされてしまいそうだが、俺は殺人を楽しいとは思わない。
ただその欲求を絶えず抑え続けることに、
疲れていた。
彼女と話す時間も、こらえ続けては勝手に辛くなっていた。
でも、今は、今なら、彼女なら、
俺は
「よう」
「来ましたか」
「本当に、本当にいいんですね」
「もし俺がお前に勝ったら」
「は?」
「俺の言うこと聞いてくれる?」
「…始めましょう」
やっぱり親玉だけあって凄いことになってるな
ウイルスを完全に操ってるし
なんか性能やばそうなアーマー着てるし
対する俺はさっき機械人形からパクった刀一本と適当に拾ったナイフ一本。
乗ってやるよ。その厨二病患者のくだらない夢に。
ナイフを逆手持ちに、腕を伸ばして刀を持つ。
カッコつけの極地だ。
正直これは感情を乗せたもん勝ちだ。
俺が俺を全部ぶつけりゃあ俺の勝ちだ。
嵐のように降りかかる銃撃
絶え間なく襲い来る斬撃
トンデモウイルスの触手
それら全てを斬り伏せる。
まだまだだ。
彼女も俺もまだ全て出し切っていない。
激化する剣戟
人智を超えた命のやりとり…
「クハッ」
吐息混じりの笑み
恍惚に口元が歪んでいく。
雑念も思い出も全て忘れて、
今はただ曝け出せ。
累積した本能を、剥き出しの魂を!
あぁ、最高だ。
これが俺か。
間違いなく人生最高の日だ。
けど分かる。
お前が積み上げてきたその力を持ってしてもなお、俺は強い。
分かってしまう。
俺は勝てる。
彼女を殺せる。
彼女が死んでしまう。
もはや彼女の手は尽きた。
次の攻撃で彼女は死ぬ。
その一閃を弾いてしまえばおしまい。
俺は彼女を殺したくない。
俺はお前が好きだ。
ほんのちょっとだけなんだ。
それだけでいい。
止まる。
その苦し紛れの一撃が俺に迫る────
私はずっと他人が嫌いだった。
私よりもずっと劣る猿共に、私は苦しめられた。
どんな善人もその屑がいる限り虐げられると悟った時、私は人間という存在そのものを憎んだ。
人間に生きる価値はない。
膨れ上がった感情は、たやすく私を動かし企業も組織も利用して私は何もかも壊そうとした。
そして彼に出会った。
人を愛してるとほざく彼は、私と同じだった。
けど私とは違う。
決して相容れない筈の相手に私は自分を曝け出した。
何故私は彼に来て欲しかったのだろう。
何故私は今こんなにも楽しいのだろう。
彼が刀を振るうごとに、打ち合うごとに、
私は昂っている。
簡単なことだ。
私は自分を受け入れてくれる人が欲しかった。
憎まずにいたかった。
誰かを好きになりたかった。
誰かと対等でありたかった。
その答えが、相手が、好きな人が、
目の前にいる。
体制を崩された中放った一撃。
次の瞬間には私は死ぬだろう。
全てを出し切って負けることが出来た。
私はもう満たされた。
けど、彼にはもう会えない。
やっと出逢えた運命の人。
死にたくない。
あなたと生きたい。
あなたを愛している。
動きが止まる。
嗚呼、愛しい人よ。
その一撃が俺に突き刺さることは無かった。
彼女が何を思ったのか知らないが、一つハッキリしたことは俺達は結局こうなるってことだ。
「なあ」
「はい」
「好きだ」
「はい」
「─私はあなたが好き」
「うん」
「んで俺のお願いなんだけど」
「はい」
「ヤラせて」
「えっ」
こんな茶番の為に消えてった命も
人類史上最悪の犯罪者の俺達も
ぶっ壊されまくったこの星も
愛してる。