ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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1話「いや、勘弁してください、マジで」

 喧騒(けんそう)に溢れかえる古びた冒険者ギルド。

 そこに併設(へいせつ)された酒場で、俺たち――冒険者パーティー『龍の牙』は祝杯を上げていた。

 

 俺が飲んでいるのは安いエール(麦酒)だけど、これくらいがちょうど良い。

 高い酒なんか俺には合わないからな。

 それに、仲間のみんなも俺に合わせてエールを飲んでくれてるし。いい奴らだわー、マジで。

 良い奴ら、なんだけどなぁ。あぁ、エールが染みて胃がキリキリ痛む。

 

「いやしかし、今日もみんなありがとうな!」

 

 パーティーのリーダー、カイトがジョッキをテーブルに叩きつけながら笑う。

 短い金髪に青い眼。大柄で筋肉質、自分の身長程もある巨大な盾を使う一流の前衛職(タンク)だ。

 こいつが防げない攻撃なんてこの世に存在しないと思うし、実際今日も強靭なミノタウロスの戦斧の一撃を見事に受けきって見せた時なんか、ビックリしすぎて腰抜かすかと思ったわ。

 正義感が強くて誰にでも優しい、正に漢って奴だ。

 

「今日も大変でしたね……改めて、お疲れ様でした」

 

 優しい物言いで皆を(ねぎら)っているのが、パーティーの回復職(ヒーラー)であるルミィ。

 長い白銀の髪に、銀色の瞳が特徴的な美少女。

 視野が広くて献身的な彼女は回復魔法だけじゃなく、常に味方に強化魔法をかけ続け、パーティーを徹底的にサポートくれてる凄い子だ。

 彼女のおかげでこのパーティーの負傷率は異常な程低い訳で。

 怪我をしても秒で回復してくれるもんなぁ。いやぁ、マジでよく見てるわ。

 

「ぷはぁっ! みんなが居てくれるおかげで私は好き勝手暴れられるんだ! ほんと助かるよ!」

 

 豪快にエールを飲み干して、満面の笑みで見た目最年少のミルハが叫んだ。相変わらず元気なことで。

 彼女はこのパーティーの攻撃職(アタッカー)

 猫系の亜人で、赤い髪に赤い眼、頭に生えた猫耳と尻尾が特徴的な奴だけども、凄まじい速度と威力を誇る両手剣で敵を薙ぎ払い、離れた相手にも攻撃魔法を浴びせるという、火力で言えば世界でも正に最高峰の冒険者。いやぁ、人は見た目に寄らないね。

 何せ単独でレッドドラゴンの尻尾を一刀両断できる、超実力派だし。

 

 

「あー……うん。みんな疲れ様さんですよっと」

 

 で、俺。名前はセイ。役割は罠師(トラッパー)してます。

 茶髪に茶色い眼、体型は標準。顔もそれなり。片目が隠れる程伸ばした前髪が特徴っちゃ特徴かね。

 なお現在、ストレスで胃潰瘍(デバフ)中。いや、それでもエールは飲むけども。

 

 俺の仕事はパーティーの荷物を運んだり、魔物の剥ぎ取りや素材を剥ぎ取ったりと、言わば雑用ってやつだ。

 ロクに武器も使えねぇし、魔法も最弱の身体強化のみ。仕方ないから罠を設置したり石を投げたりしてみんなをサポートする程度。いたって普通なただの凡人(ぼんじん)、ここに極まれりってな。

 それがなんでこんな一流パーティーにいるかと言うと、なんか酒場で一人酒してたらカイトと気があって、そこで誘われたのが始まりで。

 それから今までずっと、俺たちは一緒に旅をしてきたって訳だ。

 未踏の迷宮(ダンジョン)を探索し、強大な魔物を倒し、攫われた村人を助けに行き。

 そしていつの間にか『龍の牙』は、世界でも有数の超一流パーティーになっていた次第である。

 はは、すげぇだろ。俺の仲間たち。

 

 

 だけど、俺はもう限界なんだ。

 ずっと堪えてきたけど、流石にもう無理。ストレスマッハで俺の胃がマジでヤバい。

 てな訳で、今日こそははっきり言ってやろうと思う。

 

「なぁみんな。ちょっと良いか?」

「お、珍しいな。どうした!」

「セイさん、何かありましたか?」

「なんか食いたいモンでもあるのか!?」

 

 胸に手を当てて、我ながら珍しくキリッとした表情で、堂々と言ってやった。

 

 

「俺さ、このパーティーを抜けようと思う」

 

 

 ――静寂。喝采に湧いていたギルド内から、音が消えた。

 

 え、なんだこれ。ちよっと過剰反応すぎないか?

 

 

「はぁっ!? セイ、お前何を言ってるんだ!?」

「そうですよ! 私の知らないところで何かトラブルでもあったんですか!?」

「いやいや! セイが居ないと困るからっ!!」

 

 三人がテーブルに身を乗り出して叫ぶ。

 いや、でもなぁ。

 

「前々から思ってたんだけどさー。俺って必要なくねぇか?」

 

 最強の前衛職(タンク)であるカイト、最強の回復職(ヒーラー)であるルミィ、最強の攻撃職(アタッカー)であるミルハ。

 ぶっちゃけ、この三人だけで良くねぇですかと。

 

 荷物なんて何でも収納出来るアイテムボックスに入れときゃいいし、剥ぎ取りや素材回収も魔物そのままアイテムボックス突っ込んでギルドで解体すりゃいいし。

 このメンツで俺が必要な場面とか、まぁあるはずも無いでしょうと。

 

 そして何より。

 

「それに、魔物と戦うとか俺には向いてないと思うんだよね」

 

 俺の言葉に、三人とも呆れ果てた顔をした。

 何を今更ってかい? うん、まあ、俺もそう思うけどさ。

 

 常に命がけの仕事なんて、ビビりな俺にはやっぱり向いてないと思う。

 皆が良くしてくれるからずっと頑張って来たけど、もういい加減胃が限界なんだって。

 怖くて仕方ねぇし、どっかの田舎とかでのんびり暮らしてる方が俺には似合ってると思う。

 今日も軽く死にかけたしなぁ。あ、胃がキリキリする。

 

 とにかく、自分の頼んだエールの代金をテーブルに置き、立ち上がる。

 

「もー嫌だ、もー戦いたくない。俺は痛いのも怖いのもゴメンだ! じゃ、そーゆーことで、よろしく!」

 

 それだけを言い残して、俺は酒場を後にした。

 心残りが無いわけでもない。けど、俺はまだ死にたくねぇし。

 このまま冒険者続けてたら胃が溶けて無くなるっての。

 それに、明らかにこのパーティーに居るには身分不相応だしなー、俺さん。

 むしろよく今まで生き残ったなと自分でも不思議に思うくらいだし。

 さてさて。とっとと荷物をまとめますかね。

 

 

 

 宿屋に戻り、取り出し至るはアイテムボックス。

 持ち主の魔力量によって内容量が変わる代物なんだけど、ダンジョンで手に入れた俺のアイテムボックスはかなり容量は大きいらしく、数人分の旅荷物くらいまでなら余裕で持ち運べるって代物だ。

 いやぁマジ便利だよなー、これ。作ったやつは神か何かかな?

 

 さーてさて。俺は特に装備も持ってないし、食料品や水も詰め込んだ。

 準備は万端だ。さて、行きますかねー。

 

 宿の自室のドアを開けて外に出ようとした時、外に人の気配を感じた。おっと、こいつは……

 ゆっくりドアを引き開けると、そこには見慣れた美少女の顔。

 ルミィだ。少し呼吸が乱れてるって事は、走って来たのか。

 ……その割には来るの遅かった気がするけど。はてさて?

 

「セイ! ねぇ、待って! 話をさせて欲しいの!」

「あーうん、分かったから落ち着け。ちゃんと話を聞くからさ」

 

 ……ふむ。まぁこうなってしまっては仕方ない。

 一旦部屋に戻り、ルミィを椅子に座らせて、事前に煮出して置いた麦茶を差し出した。

 それを一気に飲んで呼吸を整えると、ルミィは俺の手を握りしめ、涙目で見つめて来る。

 

「セイ……どうしても、行っちゃうの……?」

「あー、うん、そのつもりだよ。ぶっちゃけマジで怖いし。俺に冒険者は向いてないんだって」

「そんな! でも! 私たちはいつだってセイに助けられて来たわ!」

「そんな事は無いだろ。誰でも出来ることをやってただけだしな」

 

 前もって考えていた言い訳をしてみる。

 いやまぁ、ルミィは止めに来るかなーって思ってたよ。

 こいつ、マジで良い奴だもんな。きっと俺が遠慮してるとか、何か事情があるとか、そっち方面に取っちゃっうんだろうなーと。

 でもね、違うんだって。

 俺、マジ、冒険者向いてねーから。

 あと胃がね。悲鳴を上げてるんだよね、キリキリと。

 

 だってさー。自分よりデカい魔物とか、火を吹く魔物とか、鉄製の剣を弾く魔物とか。

 そんなんいっぱいいるんだよ? 無理無理。俺みたいな凡人が何とか出来る世界じゃないんだって。ほんと、ストレスで死んじゃう。

 

「……考え直してくれないかな?」

「ごめん、ちょっと無理だね。色々優しくしてくれたのに、ごめんなー」

 

 ポロリと、涙が彼女の頬を伝う。

 ルミィは文句の付けようの無いほどの美少女だ。

 雪のような白銀の長髪に、同じ色の眼。整った顔立ちをしているし、スタイルも抜群に良い。

 その上性格も穏やかで優しい来た。正に女神的な存在だ。

 

 そんな子を泣かせてしまった事には申し訳無さを感じてしまう。

 けどまぁ、考えを変えるつもりは無いんだけどさ。

 俺はもう決めたんだ。後戻りをする気にはなれない。

 胃がね。かなり限界なんですよ、はい。

 

「そっか……じゃあ一つだけ、お願い、聞いてくれない?」

「んー……まぁ俺に出来ることなら」

 

 ルミィはそっと俺の胸に両手を当て、涙目の上目使いで、小さく(ささ)いた。

 

 

「私、セイの赤ちゃんがほしい」

 

 

 ……やばい。どうも胃だけじゃなくて耳までイカれてるらしい。

 今なんか有り得ない言葉が聞こえた気がするんですが。

 

「……は? ごめん、聞き間違えたっぽいから、もっかい頼むわ」

「セイの子どもを産みたいの!」

 

 よーし、待とうか。どうやら聞き間違えじゃないらしい。

 

 いや、てか何をとち狂ってんだ、お前。

 て言うかてっきりカイトとデキてるんだと思い込んでたんだけど。

 その上で俺なんかにも優しくしてくれる良い奴って思ってた訳で。

 はてさて。こりゃどうしたもんかね。

 

 困惑する俺の両手を握りしめ、ルミィが続けて言う。

 

「本当ならね。セイの傍にいたい。ずっと、ずうっと、傍にいたい」

 

 優しく、指を絡ませ……て?

 

「セイの手になりたい。セイの足になりたい。セイの目になりたい。セイの耳になりたい。セイの全てを私が(にな)いたい!」

 

 ちょい待ち、手が抜けねぇんですが。

 てかルミィの眼から光が消えてねぇか?

 

「あぁ、セイ、愛してるわ。誰よりも、何よりも! セイの四肢を切り落として眼を抉って耳を削いで、その全てを私が担ってあげたい……! 貴方の全てが欲しいの……!」

 

 いや、ちょ、力つよっ……あ、こいつ、自分に強化魔法かけてやがる!

 

「でもその前に、ね? 動ける内に、セイの赤ちゃん、ほしいな。私達の愛の結晶をちょうだい?」

 

 怖い怖い怖い! いや、マジで魔物よりこえぇんだけど!?

 なんでいきなりヤンデレスイッチ入ってんのお前!?

 てか色々と無理がありすぎんだろこの展開は!!

 

「うふふ……さぁ、私に任せて。大丈夫、私も初めてだけど、上手くヤるから!」

 

 うおおお!? マジか、押し倒される!

 

 ベッドに倒れ込んだ俺に馬乗りになって、自分の頬に手を当てて、ルミィが微笑む。

 上気した顔。いつもの女神みたいな微笑みが、今ばかりは恐怖の化身に見える。

 

 あーもー……()()()()()()()()()()()

 

 

「セイ、愛しいセイ! あはは、は……あれ? 何か、体が……」

 

 

 力を失って崩れ落ちたルミィの下から這い出る。

 いやー。誰かが引き止めに来た時の事を考えて、念の為に麦茶に痺れ薬入れといて良かったわー。

 トラッパーとして基本的な仕込みだけど、やっぱ基本は大事だな、うん。

 さってと。ちゃっちゃと逃げるとしますかね。

 

「待って、セイ、待って! 貴方が何処に行っても、必ず見つけ出してあげるからね!」

 

 完全に光の消えた眼で俺を見つめながら叫ぶルミィを部屋に残して、俺は早急に宿を後にした。

 

 いや、勘弁してください、マジで。  

 

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