ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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19話「今日は厄日か何かか?」

 

 残念な事に宿屋の個室は空いておらず、四人部屋を一つ借りる事になった。

 うーむ。船賃が貯まるまではこの部屋に住むことになるのか。

 広くもなく、狭くも泣く。元々大した荷物も持ってないし、寝るところがあればそれで良いんだが……コイツらと同室なのがなぁ。

 

「ライさん! 美味しいもの食べに行きましょう!」

 

 こっそり溜息をついていると、アルがそんな事を言い出した。

 

「はぁ? いや、飯食ったばかりだぞ?」

 

 あれからまだ一時間も経ってないんだが。

 

「腹が立ったらお腹すきました!」

「そうかよ……まぁ露店でも見て回るか。サウレはどうする?」

「……もちろん一緒に行く」

「あいよ。んじゃ、ぶらっと行きますかねー」

 

 という訳で、町を散策する事になった。

 

 

 さすが港町と言うべきか、煉瓦造りの大通りには物珍しい露天がたくさん並んでいた。

 遠い街の食い物や魔導都市製の品物、中には救国の英雄の似顔絵なんかもある。

 

 確か七年前だっけか。女神によって異世界から召喚された十人の英雄が魔王を倒し、世界に平和が訪れた。

 詳しいことは情報が入ってこなかったけど、戦争が終わって国が明るくなったのはよく覚えている。

 更には復活した魔王を倒したり、英雄の偽物が出回ったり。この救国の英雄達については流れの吟遊詩人達が面白おかしく唄ってるせいで色々耳に入ってくる訳だ。

 実際はなんかすごい人達なんだなー、くらいの認識だけど。

 

 でまぁ、世界的に有名な英雄の似顔絵や人形なんかはよく売れるらしく、大きな町なんかではよく見かける土産物だ。

 俺的にはよく分からんが、好きな人は好きなんだろうな、そういうの。

 

「ライさん! ワイバーンの串焼きがありますよ!」

「え、お前あのサイズ食うのか?」

「食べます! 二本ください!」

 

 串焼きの屋台に向かってアルが突撃して行った。

 マジかあいつ。あの串焼きかなりデカいんだが……飯の後にあれ食うってすげぇな。

 あのちっこい体のどこに入るんだか。

 

「はぁ。サウレはどうする?」

「……ライの似顔絵を描けないか聞いてくる」

「お、おう。まぁ、好きにしろ。俺はこの辺りに居るからさ」

「……分かった」

 

 俺の似顔絵をどうするつもりなんだろうか。

 あ、つーかそれ、俺行かなくて良かったんかね?

 けどもう行っちまったしなぁ……まーいっか。

 んでアルは……うわ、次の屋台行ってるし。マジでどんだけ食うんだよ。

 

 んー。まぁ、俺も適当に時間潰すかなー。

 それなりに面白いもんもあるし。

 ……お? 目の前の露店、革物屋か。一点物の品物の中に革製のナイフホルダーがある。

 腰に装着できる形だし、何より物が良い。買っていくのもいいかもな、これ。

 

「店主さん。こいつはいくらだ?」

「はいよ。銀貨一枚でどうだ?」

「お、安いな。貰っていくよ」

 

 お代を渡してさっそく腰に取り付ける。

 うん。やっぱり良い感じだな。後で手持ちの作業用ナイフを入れておくか。

 

 そう思った時、さっきの串焼き屋で何か揉めてるのが聞こえてきた。

 

 見ると、貴族風の白いドレスを着た、水色の髪の美女が困り顔をしていた。

 歳は俺より少し上くらいだろうか。胸がすげぇデカイ。

 ふわりと風に乗って届いた香水の香りはあの女性のものだろうか。

 

 てか凄く豪華な格好してんなあの人。貴族が買い物しに来るような場所じゃないと思うんだけど、ここ。

 

「ごめんなさい、手持ちがこれしかなくて」

「お客さん、困るよ。さすがに釣りがねぇわ」

「どうしましょう。もう食べてしまいましたし……」

 

 なんだ? 金が足りなかったのか?

 ……いや、違うな。手元のあれ、金貨だわ。

 屋台で金貨出すとか何考えてんだ、あの人。

 一般人が四年かけて稼ぐ額だぞあれ。

 

「困りました。どうしたらいいんでしょう……」

 

 頬に手を当てて小首を傾げる女性。

 なんかこう……天然なんだろうなーあれ。

 うーん。貴族とかあまり関わり合いになりたくはないんだけどなー。目立つし。

 でも周りの奴ら、明らかに見て見ぬふりしてっしなぁ。

 ……まぁ、仕方ないか。

 

「おっちゃん、俺がお代払うわ。いくらだ?」

「大銅貨一枚だが……いいのかい?」

「よくねぇよ。でも仕方ないだろ。はいよ」

「あんたお人好しだなぁ……そんじゃ少しまけといてやるよ。ほら、お釣りだ」

「お、ありがとさん」

 

 釣りを受け取り、財布に仕舞う。

 

「あの、ありがとうございます」

 

 隣に立って狼狽(うろた)えていた女性から礼を言われた。

 ぺこりのお辞儀をされた際、大きな胸の谷間が見えてつい視線が向かう。

 

「あー……別に大したことじゃないんで。それより次から気を付けてくださいね」

「何かお礼をしたいのですけれど」

 

 言いながら、胸の真ん中を両手で抑える。

 おぉ、ぐにゃって潰れた。なんか凄いな。

 

「んじゃまぁ、いつか誰かに優しくしてやってください」

「誰かに、ですか? 貴方にでは無く?」

「うちの家訓です。誰かが困っていたら、自分にできる範囲で手助けする。助けられたら他の人に手を貸す。そうやって世界は回ってるらしいです」

 

 まぁ、いつもの綺麗事だ。

 けどまぁ、今回は都合が良い。あんまし深く関わりたくないしな。

 そう思っていると。

 

「あら、その言葉。もしかして貴方は『龍の牙』のセイさんですか?」

 

 …………は? え、なんで俺の名を知ってるんだ?

 

「お初にお目にかかります。私は『雪姫騎士団』のジュレ・ブランシュと申します……あぁ、元、ですねぇ」

 

 ……おいおい。『雪姫騎士団』って超一流冒険者パーティーじゃねぇか。

 それに、ジュレって名前。思い出した、こいつ、アレだ。

 

「あんた、『氷の歌姫(アブソリュート)』か!?」

 

 白いドレスに水色の髪。その美しい外見とは裏腹に単独でドラゴンを撃破した偉業を持つ、冒険者界隈でも最強と名高い女性。

 救国の英雄程ではないにせよ、もはや生きた伝説だ。

 ……そんな奴が、何でこんなとこに居るんだよ。

 

「おい……今、ジュレって聞こえなかったか?」

「それに、『龍の牙』って言ってたような……」

 

 あ。やっべ、周りに気付かれる。

 

「あぁくそ、ジュレさん、ちょっと場所変えようか」

「え? あ、はい。どちらへ?」

「とりあえずギルド……はダメだな。くそ、とりあえず宿に行こう」

「あら。分かりました」

 

 周囲に騒がれる前に、ジュレさんの手を引いて全力で逃げ出した。

 いやもうマジで、何なんだよ。ギルドでも問題起こされたし。

 

 今日は厄日か何かか?

 

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