ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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28話「あのうっかり癖は治して欲しいもんだな」

 

 宿でびしょ濡れになった服を着替え、そのままオウカ食堂の裏手に向かったところ。

 残されていた三人とサフィーネは、人懐こい英雄と談笑していた。

 あの人コミュ力お化けだからなー。すぐに誰とでも仲良くなるし。

 てかサウレと普通に話してるのすげぇな。かなりの人見知りなのに。

 

「おーい。戻ったぞー」

「……おかえり。冒険者ギルドへの案内は終わらせてきた」

「ありがとな。んで、自己紹介は終わってるのか?」

「先程済ませました。それより、聞きたいことがあるのですけれど」

「あー、うん。ちゃんと説明すっから」

 

 頬をぽりぽり掻き、さてと言い訳を考えてみたものの。

 特にうまい言い訳も考えつかず、正直に話すことにした。

 

「まぁ、知ってるだろうけど改めて紹介するわ。この人は救国の英雄、『夜桜幻想(トリガーハッピー)』のオウカ・サカード。ユークリア王国現国王。俺を拾ってくれた恩人で、身内みたいなもんだ」

 

 目の前のちっこい彼女の頭に手をぽふりと置く。

 おぉ、相変わらず撫で心地いい髪だな。

 

「みたい、じゃなくて身内だけどね。アンタもそれ、いい加減認めなさいよ」

 

 ぺしりと頭の手を払い除けながら、ムッとした顔で睨まれた。

 

「うっせぇわ自称町娘め。だいたい今更誰も信じねぇからな、その自称」

「ふぐっ……おかしいな、私はただの町娘なのに。どこで何を間違えたんだろう」

「最初からじゃね? 王都のギルマスも言ってたし」

 

 この人色々とやらかしてっからなぁ。

 戦闘功績だけでも騎士団が総出で取り掛かるオークの軍団(レギオン)とかオーガを単独で倒したりしてるし。

 武術大会で優勝するわ、魔王を倒した最強の英雄に勝つわで、かなりとんでもねぇ人だからなぁ。

 よく色んな人から自称詐欺って言われてたもんだ。

 

「つーか女王様よ。城に居なくていいのか?」

「実質的に私何もしてないからいいのよ。今日もアスーラ支店の手伝いに来たんだし」

「……王国の女王がやる事じゃねぇよな、それ」

「てかその女王ってのやめれ。私は納得してないんだから」

「いい加減諦めろよ。こないだやった国民投票でも支持率九十九パーセントだったんだろ」

 

 ちなみに残りは本人が入れた他薦と無効票である。

 他の立候補者も完全に他薦のみだったから、全員この人に票入れてたらしいからなー。

 

 実際、彼女が王になってから国はさらに発展した。

 魔道列車という馬鹿みたいに速い馬車みたいなもんを国中に作って流通を便利にしたり、国中の孤児を片っ端からオウカ食堂で雇い入れたり。

 しかも全員に読み書きや計算を教えるもんだから、そこから各分野で活躍しだした子が大量に出てきたりして、国の発展が百年単位で進んだと言われている。

 ちなみに国中のお偉さん方と親交が深いのもあって、何か問題があれば自ら現地に向かうという困った王様だ。

 

 これが俺の身内、オウカ・サカードである。

 基本的に関係してる事は誰にも言わねぇけど。てか、言えねないって。

 地味で平穏な暮らしが送れなくなる未来しか見えないし。

 

「……んで、まぁ。こっちが今の仲間だ。アルとサウレとジュレな」

「あぁうん、自己紹介してもらった。面白い人達だね」

「面白いで済ませんな」

「いやほら。他の英雄に比べたらねー」

「……あぁ、まぁ。そうだな」

 

 何度か会ったことあるけど、癖が強すぎるんだよな、あの人達。

 

「でさ。あんたこんな所で何してんの? 『竜の牙』のみんなは?」

「あー……脱退してきた。絶賛逃亡中なんだわ」

「はぁ? なんで? 凄く仲良かったじゃん」

「ライさんは魔物と戦うのが怖くて逃げてきたらしいですよ」

 

 あ、こらアル、余計な事を言うなって!

 

「……怖い? 二つ名持ちのあんたが?」

 

「……え?」

「二つ名っ!?」

「あら、ライさんがですか?」

 

 あーもー……だから知り合いに会うの嫌だったんだよ。

 バレちまったじゃねぇか。どうすっかなー、これ。

 

「あれ、なに、言ってなかったの?」

「言えんわ。俺は平穏な日々が送りたいんだよ」

「あー……なんかごめん」

「マジで勘弁してくれって……」

 

 あーあ。せっかく隠してたのに。

 

「ライさん! どういう事ですか!?」

「……『竜の牙』に二つ名持ちはいなかったはず」

「説明をお願いします」

 

 ずいずいと詰め寄る三人に手のひらを向けて後ずさりする。

 

「分かった。分かったから落ち着け。それ以上寄るな」

 

 鳥肌やべぇから。もう少し離れろ。

 

「えーとな、うん。まぁ、俺は確かに英雄から二つ名もらってるんだよ。自分から名乗ったことは無いけど」

 

 あんな恥ずかしいもん名乗りたくないし。ついでにまぁ、あまり知られたくない内容でもあるし。

 

「なんて二つ名なんですか!?」

「えぇと、言わなきゃダメか?」

「私は是非聞きたいですね。興味があります」

「……ライ。教えて」

 

 ほら。やっぱりこうなるじゃん。

 オウカ食堂に来なきゃ良かったなぁ……いや、あの子ら放っておく選択は俺には選べなかったけどさ。

 

「あー……『死神(グリムリーパー)』だよ」

「え? それって……」

「……本物?」

「本物だよ、一応。マジで不名誉な事にな」

「でもそれって確か……()()()()()()()()()ですよね?」

 

死神(グリムリーパー)

 魔族との戦争時、異世界から召喚された英雄たちが表舞台で活躍する中、裏で動いていた影の英雄。

 敵の拠点に侵入し、重要人物を暗殺、その後は何の痕跡も残さず姿を消すという、史上最悪の暗殺者。

 その正体は戦後数年経っても謎に包まれている。らしい。

 

 実際はそんな大層な事した訳でも無いんだけどな。

 いつの間にか話に尾びれに背びれも付けて独り歩きしてて、それを英雄達が面白がって二つ名付けた、と言うのが真実である。

 マジで迷惑な話だ。

 

 だから自分から名乗ったことは無いし、そもそも名乗ろうとも思わない。

 無駄に注目されるだけだしなー。

 もちろん『竜の牙』の連中には話したことがある。皆驚いてたけど、ちゃんと内緒にしてくれた。

 この人とは違って。

 

「……オウカさー。そのうっかり癖、治してくんねーと周りが困るんだけど」

「いやぁ、あはは……マジごめん」

「そんな……アルさんがあの『死神(グリムリーパー)』だったなんて」

 

 俯き、拳を握りしめるアル。

 あぁ、そりゃショックだよなー。

 だって世間の評価じゃ最悪の暗殺者だもんなぁ。

 

「なんて素晴らしいんですか! まさか私が一番尊敬してる人に弟子入りしていたなんて!」

 

 そっちかよ。

 あぁそっか、こいつおかしな奴(サイコパス)だったな。

 うん、まぁ、引かれないで済んだから良し、なのかね?

 

「……私としても何でもいい。ライはライだから。ただ生涯尽くすだけ」

 

 そしてこいつはこいつでおかしい奴(狂信者)だもんなぁ。

 そろそろ慣れてきた自分が嫌だわ。

 

 で、ラスト。ジュレはと言うと。

 

「……はぁはぁ……という事は、人知れずあんなこと(拷問)こんなこと(尋問)をしてもらえるのでは?」

 

 身震いしながら恍惚な表情を浮かべていた。

 ぶれねぇな、ジュレ(この変態)

 

「うわぁ。変わった人達だね」

「否定できんしする気も無いな。でもオウカも人のこと言えねぇだろ」

「私はここまで変わってないと思うけど?」

 

 黙れ英雄(歩く規格外)

 

「とりあえずお前ら、内緒にしとけよ? 面倒事が増えるのはゴメンだ」

「わっかりました! 師匠!」

「……墓まで持っていく」

「このネタでアルさんを脅せば良いと言うことですよね?」

「頼むから黙ってろハイブリッド型ど変態」

「はあぁんっ! ありがとうございますぅっ!」

 

 見悶えるな。潤んだ目で俺を見るな。

 

 そんな中、懐から取り出した懐中時計を見て、オウカが慌てだした。

 

「あ、やば! レンジュさんと待ち合わせしてんだった! 私そろそろ行くね!」

 

 レンジュさんか。あの女騎士団長、せっかちだからなー。

 てか相変わらず仲良いな。いつ結婚式あげるんかね。

 

「おーう。二度と会いたくねぇって伝えといてくれ」

「それ聞いたらレンジュさん、秒で会いに来ると思う」

「……よろしく言っておいてくれ」

「あいあい。あ、王都に来たらまた顔出しなさいよ? ばっくれたらドロップキックするからね」

「へいよ。気をつけてな」

「んじゃ、またね!」

 

 腰のホルダーから拳銃を引き抜き、筒先から魔力を噴出。

 そのまま空に舞い上がり、オウカはあっという間に飛び去って行った。

 ……いやぁ、変わんねぇな、あの人。

 

「おし。とりあえず飯買っていくか。サフィーネ、まだ残ってるか?」

「一通りね。あと特製弁当もあるわよ」

 

 おぉ、店の一番人気がまだ残ってんのか。ラッキー。

 

「んじゃ四つ頼むわ」

「はいはい。取っておくから列に並んでね」

「はいよ。んじゃ、行くぞー」

 

 ぞろぞろと皆で、オウカ食堂の行列に参加したのであった。

 

 いやしかし、アレだなぁ。

 あのうっかり癖は治して欲しいもんだな。

 

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