ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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65話:「次からは気を付けないとな」

 先頭車両には、魔導師風の少年と一匹の黒猫が居た。

 少年は背は低いものの利発そうな顔立ちをしていて、何処と無く大人びて見える。

 真っ黒なローブには複雑な模様の銀の刺繍(ししゅう)が施されていて、何らかの魔法が付与されているのが見て取れる。

 手には大きな杖。その先端には彼の髪と同じ緑色の宝石が埋め込まれていた。

 

「護衛依頼を受けたライだ。君が責任者か?」

「初めまして、ヘクターです。ですが責任者は僕ではありません」

 

 オウカ食堂関連だから子どもが責任者でも何の違和感も無いのだが、どうやら人違いのようだ。

 ヘクターは爽やかな笑みと共に、黒猫に視線を落とした。

 

「この列車の責任者は我だ」

 

 低く重い美声で、黒猫が喋りかけてきた。

 言葉を話す猫。使い魔だ。

 凛とした美猫はこちらを観察するように、じっと目を見つめてきた。

 

「我はラインハルトという。貴様がオウカ殿の身内とやらか」

「そうだ。無理を通してくれて感謝している」

「ほう。少しは礼儀を知っているようだな。冒険者にしては珍しい」

 

 ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向くが、目線は外さない。

 やはりこちらの事は警戒しているようだ。

 そりゃそうだろうな。無理を言って乗せて貰ってんだし。

 彼からしたら怪しさ大爆発だろう。

 

「さて、この列車に乗った理由でも聞かせてもらおうか」

「探し人がビストールに居るという情報を掴んでな。急がないと会えないかもしれないんだ」

 

 嘘ではないが、真実でもない。

 実は今回に関してはそれほど急いで向かわなくても問題は無い。

 貴族ともなればビストールに家を持っているだろうし、そうそう移動はしないだろう。

 だが俺としてはアルの用事を早く済ませて、どっかの村でさっさと隠居したい訳で。

 その為の時間を短縮したいから魔導列車に乗り込んだ訳だ。

 

「ふむ……理由は分かった。だが気に入らぬ」

「おっと。何でだ?」

「貴様は我に隠し事をしたな? そのような相手は信用できない」

「なんだ、バレてたのか。なら話は早い。()()の復讐の為に利用させてもらったまでだ」

「復讐とは愚かな。新たな怨恨を生むだけだぞ」

 

 ふん、と鼻で笑い、黒猫は俺を見下してきた。

 そんな態度を取られても可愛いだけなんだが。

 

「それでもだ。前に進むのに必要だから仕方がないだろ」

「なるほどな。貴様とは気が合わぬ。そも、オウカ殿の身内などと、良くも語れた物よ」

「事実だからな」

「ほざきよる。血縁でも無かろうに」

「それもそうだな」

 

 何やら敵意を向けてくる黒猫に苦笑を返す。

 オウカとは同じ場所で育っただけ。お互い孤児で血の繋がりなんてありはしない。

 確たる証拠なんてありはしないのだ。

 しかし。

 

「お前さん、それをオウカの前で言うなよ?」

「痴れ者が。我がそんな失態を見せるとでも?」

「ならいい。あいつが暴れだしたら手に負えないからな」

 

 多分、と言うか確実に。

 そんな事言ったらキレるからな、あいつ。

 それだけは勘弁願いたい。

 怒られるのも、泣かれるのも御免だ。

 

「とにかく顔見せは終わった訳だが、何か用はあるか?」

「無い。さっさと消えろ」

「了解だ。ヘクターもわざわざ悪かったな」

「気にしないでください。僕も気にしませんから」

 

 にこりと笑うが、その目には敵意。

 なるほど、こいつも黒猫と同意見な訳だ。

 まあ、気持ちは分かるけどな。

 

「一応客室を見て回った後で部屋に戻る。用事があれば伝えてくれ」

「貴様の手を借りる事など無い。大人しくしていろ」

「へいへい。それじゃあな」

 

 適当に手を振ると、不機嫌そうに鼻を鳴らされた。

 これ以上ここに居ても仕方ないし、さっさと退散するか。

 

「……待て。ライを、愚弄したな?」

 

 不意に。チリ、と空気の焼ける匂い。

 あ、ヤバい。サウレがキレた。

 

「なんだ小娘。言いたい事でもあるのか」

「……ライは私達の大事な人だ。今の言葉を取り消せ」

 

 帯電した魔力が火花を散らす。

 紅い眼には怒り。既に臨戦態勢で手には短剣を握っている。

 正に一触即発だ。やべぇ。

 

「サウレ、やめろ。ラインハルトの言ってることは事実だよ」

「……違う。ライは私達の為にやっている。その猫の言うような人じゃない」

「それでも俺がやりたくてやってるだけだ。いちいち気にするな」

 

 笑いかけながら様子を伺うが、怒りが収まる気配は無い。

 クレアも普段とは違い、少し苛ついているように見える。

 うっわあ。こんな所でやり合うとするなって。

 どう声をかけたら良いかと考えていると、何故かラインハルトが低い声で笑いだした。

 

「なるほどな。貴様は仲間のために泥を被るのか。ご苦労な事だ」

「お互い様だろ。嫌われ役は損ばかりだ」

「何だ、気が付いていたのか。ならば取り繕う必要もないな」

 

 黒猫はひょいと立ち上がり、サウレの前に出てきた。

 そのまま頭を下げると、じっとサウレを見上げる。

 

「娘、済まなかったな。言葉を取り消そう。済まなかったな」

「サウレ、あのな。実はその……」

「……なに?」

「えーと。知り合いなんだわ、こいつ」

「左様。我々は旧知の仲である」

 

 言ってしまえば挨拶がわりの軽口の叩き合いだ。

 今回は仕事中だったから芝居じみたやり取りになっただけで、ラインハルトとはそこそこ仲が良い。

 今回の無茶を通してくれたのも、この黒猫だったりするし。

 

「ラインハルト、僕は聞いてないよ?」

「ヘクターには言ってなかったか? 安心せよ、こやつは馬鹿が着くほど善人だ」

 

 くつくつと笑い、ひょいと俺の肩に飛び乗る。

 額を撫でてやると軽く猫パンチされた。

 

「だからほら、落ち着けって」

「……納得がいかない」

「まあ、怒ってくれたのはありがとな。嬉しかった」

 

 わしわしとサウレの頭を撫で。

 

「クレアも分かっただろ? 武器を納めろって」

 

 いつの間にか普段着に戻り完全武装していたクレアに苦笑いし、そして少しばかり戦慄した。

 目を離した覚えはないんだが、いつの間に着替えたんだ?

 いやまあ、今更だけど。

 

「そだね! 取り消したくれたから良しとしようかな!」

「ほら、分かったなら、仕事だ仕事。さっさと巡回するぞー」

「……分かった。後でもっと撫でて」

「あ! ボクも撫でてほしいな!」

「はいよ、後でな。ラインハルト、またな」

「うむ。早く行け、色男」

 

 ひょいと地面に降りると、ラインハルトはニヤニヤした目付きでからかってきた。

 その姿に再び苦笑を返し、俺たちは先頭車両を後にした。

 

 あっぶねー。いつも通りのおふざけのつもりだったんだが、まさかこいつらがキレるとは思わなかった。

 次からは気を付けないとな。

 

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