ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜 作:くろひつじ
次の客室に到着、したは良いものの。
中では二人の子どもが何やら言い争いをしていた。
片方は犬系亜人の少年。もう片方は猫系亜人の少女だ。
二人でお揃いの簡素な服装をしているが、顔を突き合わせて唸っている。
うわあ。厄介事は勘弁して欲しいんだけどな。
ドアをコンコンとノック。二人がこっちを振り向いたのを確認してから中に入る。
「おいどうした? ケンカはやめてくれよ?」
「ケンカじゃない! 議論だ!」
「わからず屋に言い聞かせてるだけよ!」
再度睨み合いながら大声で告げる様にため息を吐き、とりあえず事情を聞いてみることにした。
これだけ博熱してるんだし、二人にとっては大事な話なんだろう。
「で、何の議論なんだ?」
「犬と猫のどっちが可愛いかだ!」
「……そうか」
思いのほか、どうでも良い内容だった。
ちなみに俺は猫派だが、犬も可愛いと思う。
「あー……でもヒートアップしすぎじゃないか?」
「こいつが譲らないからだ!」
「あんたが頑固すぎんのよ!」
「だから落ち着けって。他に乗客もいるんだからな」
あの三つ子は気にしないと思うけども。
まーそれでも他の乗客もいるしな。
俺の言葉にはっとした様子になり、とすんと椅子に腰をかけた。
「あ……うん、ごめん」
「そうね。煩くしてごめんなさい」
お互いに頭を下げ合うと、二人してはにかみ笑った。
「でもよ、やっぱり俺は猫の方が可愛いと思うんだ」
「私は犬の方が好きなのよね」
おっと。逆かと思ってたんだが。自分の種族じゃないんだな。
……て言う事は、これはアレか。
いわゆる痴話喧嘩ってやつか。
「猫の方がフワフワだし仕草が可愛いし気まぐれな所も良いだろ?」
「犬の方が一途で頼りがいがあっていつも傍に居てくれるわ」
「……話が平行線だな」
「……確かに終わらないわね」
二人の討論が再開したと思うや否や。
「ボクはウサギが一番かな!」
横から普段着になったクレアが割り込んできた。
だからお前、いつの間に着替えたんだよ。
「ああ、ウサギも可愛いな」
「確かにウサギも可愛いわね」
「犬も猫もウサギも可愛いって事だね!」
「そうだな。一つに決める必要も無いか」
「そうね。みんな可愛いもの」
おお、綺麗に収まった。さすがクレア。
うちのパーティの常識担当は伊達じゃないな。
「でも俺の一番はお前だからな」
「私の一番もあんただからね」
「おい。いきなりイチャつくな」
なんだコイツら。人前なんだが。
いや、いきなり指を絡め合うな。
あ、ダメだ。これ聞こえてないわ。
「あー……とりあえず問題なさそうだし、行くか」
「あはは……そうだね。二人ともごゆっくりー」
クレアとサウレを連れて客室を後にする。
何か妙に疲れたな。いや、仲が良いのはいい事なんだが。
まあ、邪魔するつもりは無いから好きにやって欲しい。
「ところでライはウサギ好きかな!」
「まあ、なんて言うか……非常に言いにくいんだが」
「だが!?」
うーん。これ、言っちゃっても良いんだろうか。
でも嘘を吐く訳にもいかないしなあ。
「その、すまん。ウサギは食肉扱いだ」
「食べるの!?」
いや、非常に申し訳ないんだけどな。
俺としてはウサギって言ったら魔物の一角ウサギが頭に浮かぶ訳で。
あのデカいウサギ、美味いんだよ。食える部位も多いし。
色んなところに居るからオークと並んで旅路の食肉として有名だし。
「て言う事はボクも美味しく頂かれちゃうんだね!」
「なるほど、そう持ってくるのか」
隙あればアピールしてくるよな、こいつ。
恥じらいとかないんだろうか。
……無いんだろうなあ。クレアだし。
けどまあ、やられっぱなしは面白くないし。
たまには反撃してみるか。
「そうだな。今夜辺り頂くか」
そう言いながら、クレアの頬に手を当ててとびっきりの笑顔を見せてやった。
「……ふぇ!?」
「大丈夫だ。痛くしないから」
「え、ちょ……ライ、本気?」
ウサギ耳を伏せて内股をモジモジさせながら、泣きそうな眼でこちらを見上げてくる。
その顔は真っ赤に染まっていて、普段の活発さとは大違いのしおらしさだ。
うわ。ちょっと可愛い……じゃなくて。
「冗談だ」
「弄ばれた!?」
良い反応を見せるクレアの額をぺちりと叩き、気を取り直して次の客室に向かって歩き出す。
トテトテと着いてきたサウレが構ってほしそうに裾を引っ張って来たので、いつものように頭を撫でてやった。
満足げに息を吐く彼女に癒されていると。
「くそう! ボクも撫でろーい!」
後ろからクレアがいきなり飛び付いて来た。
「うおっと!?」
油断していた俺はそのまま押し倒され、床とクレアに挟まれて身動きが取れなくなる。
いやまあ、軽いんだけどな。
でも何か柔らかいし良い匂いするし……本当に男かこいつ。
「ねえ、ライ」
俺の背中に抱きつきながら、クレアが耳元に口を寄せて甘い声で
「いつでも、食べちゃっていいからね?」
そんな言葉と共にペロリと耳を舐められた。
ぞわりと体中に鳥肌が浮かび、反射的に背中から振り落とす。
「あいたっ!? 何すんだよー!」
「うっせぇわ。ちょっと大人しくしてろ」
普段の調子で非難の声を上げるクレアに吐き捨てるように返事をしながらも。
俺は自分の鼓動が早くなっていることを自覚していた。
うーん。女性恐怖症が治りつつあるのは良いんだが、それはそれでこういう時の反応に困るんだよな。
サウレの時も思ったけど、自分の気持ちがまだ分からない。
恋愛事とは縁が無かったからなあ。
何にせよ、この旅が終わるまでには。
しっかり答えを出さなきゃならんな。