ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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68話:「厄介な事にならなきゃいいんだけどな」

 

 他の客室に顔を見せた後、何事も無く自室へと帰り着いた。

 アル達は相変わらず窓から外の景色を眺めていて、二人揃って楽しそうにはしゃいでいた。

 

「戻ったぞ。何か変わりは無かったか?」

「お帰りなさい。何もありませんでしたよ」

「さっきワイバーンを追い越しました!」

「そうか。到着までしばらくあるからゆっくり見てろ」

 

 苦笑しながら席に着く。クレアは正面に、サウレは俺の膝の上に。

 アイテムボックスから菓子と紅茶を出して備え付けのテーブルに並べると、そこでようやく一息着いた。

 たった数時間の割に何か疲れたな。

 

「……ライ。大丈夫?」

「おう。ありがとな」

 

 胸元に擦り寄って来たサウレを撫でてやるが、それでもじっとこちらの眼を見詰めてくる。

 ああ、なるほど。心配されてるのか、これ。

 三つ子との話で少し嫌なことを思い出したのは確かだし、態度に出ていたのかもしれない。

 

「俺は大丈夫だよ。過去は過去だ」

「……ん。私はライが好き。何があっても変わらない」

「そうか」

 

 そう言うサウレの表情は、慈愛に満ちた笑顔だった。

 心が安らぐのを感じ、自分で思っていたより気にしていた事に気が付いた。

 なるほど。俺より俺の事を見てるんだな、こいつ。

 本当にありがたい話だ。

 

「何かあったらボクを頼ってもいいからね!」

「おう。クレアもありがとな」

 

 元気いっぱいに見せかけて、俺を気遣っているのが分かる。

 クレアは周りのフォローが上手いやつだからな。

 パーティの常識担当はこういう時にとても頼りになる。

 

「あら。よく分かりませんが、私も傍にいますからね?」

 

 優雅に紅茶を飲みながらジュレが微笑む。

 のんびりマイペースな奴だが、それが場を和ませてくれる。

 どんな時でも焦らない姿は安心感を与えてくれる。

 実際の能力も高いし頼れるやつだ。

 これで性癖さえマトモならなあ。

 

「私も! ライさんの敵はぶっ殺してやりますからね!」

 

 そして満面の笑みで物騒な事を叫ぶアル。

 こいつは出会った頃から変わらないな。

 かなり危ない思考の持ち主ではあるが、いつでも真っ直ぐな奴だ。

 

 うん。やっぱり俺の周りは良い奴ばかりだな。

 揃いも揃って残念な奴らでもあるけど。

 それでもやはり、嬉しいと感じる。

 

「ありがとな。元気出たわ」

 

 和やかな空気。何だか照れくさいが、こういうのも悪くない。

 ……ああ、そうか。悩む必要何て何も無かった訳か。

 俺は、こいつらが好きで、同時に好意をもってくれているのを知っている。

 すとんと心の空白が埋まった気がした。

 自分がどうしたいのか、馬鹿な俺はようやく理解出来た。

 一緒に居たい。それだけで良かったんだな。

 

「なあ、アルとサウレの件が終わったら、一度故郷に戻ろうと思うんだが」

 

 全員の顔を見渡して、思いを告げる。

 

「みんな一緒に来てくれないか? どうも俺はお前らと一緒に居たいみたいだ」

 

 俺のその言葉に。

 

「もちろんです!」

「……わたしは一生隣にいる」

「私もご一緒しますよ」

「ボクは言うまでもないね!」

 

 迷わずにそう返してくれた。

 それが嬉しくて、思わず笑みが溢れる。

 らしくない。でも、たまには良いだろう。

 感情のままに笑う、そんな時があっても。

 

 しかしそんな俺に対して、全員揃って妙な反応をされた。

 アルは両手で口元を抑えながら顔を赤くして。

 サウレは珍しくぽかんとした表情で俺を見上げ。

 ジュレは空になっていたティーカップを落とし。

 クレアはウサギ耳を立ててぷるぷるしている。

 

 なんだこの反応。

 

「……ライが笑った」

「は? いや、いつも笑ってんだろ」

「……いつもは作り笑いばかりだから」

「そんな事は……」

 

 無い、とは言いきれなかった。

 感情を殺す訓練を受け、周りに溶け込む術を学び、警戒されない振る舞いを身に付けた。

 だから自然と、普段から俺という人間を演じていたのかもしれない。

 そうなると、先程の笑顔は本心から漏れた感情と言う訳で。

 そう認識すると、何か無性に恥ずかしくなってきた。

 何気ないふりをして通路に目を向ける。

 するとそこには。

 

「なんだ、出直した方が良いか?」

 

 俺を見てニヤリと笑う黒猫の姿があった。

 ラインハルトのからかうような物言いに、思わず右手で口元を隠す。

 

「時間が出来たので改めて挨拶に来たのだが……邪魔をしたようだな」

「うるせえ。あの子は大丈夫なのか?」

「ヘクターは優秀なのでな。我がおらずとも職務を(まっと)うするだろう」

「そうか。相変わらずオウカの関係者は優秀なのが多いな」

 

 もちろん元の才能もあるだろうが、教育体制が半端ないからな。

 何せ国でもトップクラスの教師、と言うか英雄が直々に教えてるし。

 改めてあいつの人脈は尋常じゃないと思う。

 

「ところでセイ。向こうに着いたらどうするつもりだ?」

「探し人の居場所は分かってるし、まずは宿の確保だろうな」

「そうか。我らは荷を降ろしたら極楽亭で一夜を過ごす予定だ。時間があれば食事でもどうだ?」

「高級宿じゃねぇか。金持ちめ」

 

 一部屋で銀貨一枚の宿とは贅沢だな。

 俺も何度か利用した事はあるけど、あそこの飯はかなり美味いんだよな。

 

「……オウカ殿の計らいでな」

「ああ、なるほどな」

 

 あいつの事だ。どうせ知り合いに頼んだら本人が知らない間に話が回ったんだろうな。

 相変わらずチートな人脈だわ。

 

「んじゃ、晩飯は一緒に食うか。割引くらいしてくれりかも知れんし」

「いや、我と一緒に居れば無料だ」

「絶対行くわ」

 

 マジで美味いからな、極楽亭。

 何せオウカが絶賛する程だし。

 

「心得た。後一時間ほどでビストールに到着する故、準備をしておけ」

「分かった。て言うか荷降ろしは手伝わなくて良いのか?」

「必要ない。専任の冒険者達が居るのでな」

「そうか、分かった。じゃあまた後でな」

「うむ。また後でな」

 

 しっぽを振りながら去っていくラインハルトを見送り、窓の外を眺める。

 凄まじい勢いで流れていく景色に懐かしいものを感じながら、到着までの時間をのんびりと過ごす事にした。

 

 しかし、やはり疑念は消えない。

 アルの元婚約者、グレイ・シェフィールド。

 民に愛される名君らしいが、そんな奴がアルとの婚約を破棄した理由が未だに分からない。

 厄介な事にならなきゃいいんだけどな。

 

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