ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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76話:「あっちはあっちでケリつけないとな」

 

 ドアをノックされる音でようやく正気に返ると、何やら気恥しさを覚えながら部屋を出た。

 そこでは、クレアがニヤニヤしていて、サウレとジュレは聖母のように優しく微笑んでいた。

 

「あらあら。仲が進展したみたいですね」

「やっぱり最初はアルだったね!」

「……おめでとう。二人が幸せなのは私も嬉しい」

 

 うわ、アルの顔が夕焼けより赤くなってる。

 て言うか何で知ってるんだこいつら。

 

「えぇと、その……ありがとうございます」

 

 うつむき気味に小声で言うアルに対して、更に追撃が入った。

 

「それで、どこまでいきましたの? やることはやりましたか?」

「それはさすがに時間が足りないかな! ボクは触り合いくらいだと予想してみる!」

「うぁ……そのぅ、キス、しました」

「……それは大きな前進。偉大なる一歩」

 

 偉大て。そんな大袈裟な話……なのか。

 俺のヘタレ具合を考えると、確かにそうだな。

 我ながら恥ずかしい話だが。

 

「あー……とりあえず、飯でも食いに行くか。今日はただ飯だからな」

 

 話題を逸らすためにこの後の予定を口にすると、みんな揃って温かい目で見てきた。

 お前ら、その目をやめろ。落ち着かないだろうが。

 

「ビストールの極楽亭は世界中でも有名な名店ですものね」

「ボクは行ったことないけど、そんなに凄いの?」

「あぁ、『オウカ特選! 美味しいお店たち!』にも載ってるからな」

「え、なにそれ」

「知らないのか? 現女王陛下が世界中を巡って調べ上げた名店が載ってる本だ」

「……女王陛下が世界中を食べ歩いたの?」

 

 歩くというか、飛んで回ったって言い方が正しいような気はするが。

 あいつはユークリア王国の端から端まで一日で行けるからな。

 冒険者時代に行った店を含めると数百件は軽く超えているだろうし。

 その中のから抜粋された二十店が紹介されているのがその本で、中でも極楽亭は最上位に分類されている。

 ちなみにこの本の効果で客足が三倍になったとか。あいつの影響力は半端ないな。

 

「それは楽しみですね! たくさん食べて大きくなります!」

「まだ伸びるのかお前」

「育ち盛りですからね!」

 

 言われてみればそんな気もするが……そうか、まだ大きくなるのか。

 どこがとは言わないが凄いことになりそうだな。

 

「……安心して。私はこれ以上成長しない。その日の気分で選べるから」

「何をだよ。あ、いや、答えなくて良いわ」

夜伽(えっちなこと)の相手を毎日選び放題」

「わざわざ答えるな」

 

 想像したら鳥肌が……あれ?

 

「……ライ? どうしたの?」

「あ、いや。何でもない」

 

 こういう話をした時、今まではルミィの病んだ笑顔が思い浮かんでいたんだけど。

 今は、アルの輝くような笑顔が思い出される。

 幸せそうに笑うアルの姿。それは安心するような、どこか落ち着かないような表情で。

 しかし悪い気はしない。ずっと見ていたくなるような、そんな笑顔だ。

 

 これはもしや、女性恐怖症が完治した、のか?

 

 うーん。まだ分からないけど……でもまぁ、しばらくは黙っていよう。

 今より積極的になられても困るしな。

 さすがにまだ心の準備ができていないし、申し訳ないがもうしばらく待ってもらおう。

 ……今更だけど、我ながら思春期の乙女みたいなことを思ってるな。

 まぁ経験もないんだから許してほしい。

 旅が終わる頃までには覚悟を決めるつもりだし。

 

「んじゃ行くぞー。食べたいもの考えておけよ」

「デザートはあるのかな!」

「オウカ由来のアイスクリームが定番だな」

「それは期待が高まるね! 早く行こう!」

 

 俺の手を引いて元気に笑うクレア。

 

「クレアさん、急がなくても逃げませんよ。私は久しぶりに魚料理でも食べたいところです」

「あぁ、旅先だとなかなか食べられないからなぁ」

「新鮮な魚があると嬉しいのですけれど……久しぶりなのでメニューを覚えていませんね」

「着いてからのお楽しみだな」

 

 相変わらず穏やかに笑うジュレ。

 

「……私はライと同じものが良い」

「そうか。俺は雷鳥の蒸し焼きと雪牛のステーキとで悩んでる」

「……両方頼んで二人で分けたら良い」

「なるほど。じゃあそうするか」

 

 無表情ながら嬉しそうに傍らにいてくれるサウレ。

 そして。

 

「たくさん食べたらその分成長するはずです!」

「明日も早朝から移動だから食いすぎるなよ?」

「大丈夫です! ちゃんとぶっ殺せるように加減します!」

「やっぱり方向性はそっちなんだな」

 

 キラキラした目で物騒なことを宣言するアル。

 

 そんな少し変わっている仲間たちに囲まれて、何気ない会話で楽しめる。

 きっと、こういう瞬間を幸せというのだろう。

 

 初めて手に入れた安らぎ。

 誰と一緒にいても得ることのできなかった場所。

 そんな夢物語のような光景が、今目の前にある。

 

 今ならどんな敵とだって戦える気がする。

 どんな困難でも立ち向かえる。

 相変わらず戦いは嫌いだ。痛いし怖いし、そして何よりも。

 昔の俺に戻ってしまうような、そんな気がしていたから。

 それでも今の俺なら大丈夫だ。

 みんなが俺を守ってくれるし、俺もみんなを守ると決めた。

 この大事な場所を守れるように、頑張って日々を生きていこう。

 

 だがまぁ、問題としては。

 ルミィ達、だよなぁ。

 あっちはあっちでケリつけないとな。

 

 

 

 

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