ぐりむ・りーぱー〜剣と魔法のファンタジー世界で一流冒険者パーティーを脱退した俺は、最弱の身体強化しか使えないけど何とかなると信じてスローライフを送りたい。無双?最強?そんなものに興味はないですよ?〜   作:くろひつじ

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90話「舞台劇の終わりは、もうすぐそこだ」

 

 女神教の司祭服。白地に金糸で刺繍を施された清楚な服の背にあるのは、その身を覆い尽くすほどの漆黒の翼。

 さらりとした銀髪。その頭から伸びるのは、悪魔のような二本のねじれた角。

 その表情は、嗤い。(あざけ)るような、全てを見下すような笑みを浮かべて。

 両手で握りしめている巨大な大鎌。まるで死神のような佇まいに、思わず苦笑が漏れた。

 無論、笑っている場合ではないのだけれど。

 

「強制暗示の次はこれか。随分と趣味の悪いことだな」

 

 顔も知らない真犯人に軽口を叩きながら打開策を考える。

 魔力光の色が違う。つまり、外的要因でルミィの中に魔力を発生させる何かがある。

 それを取り外してしまえばこの状況も収まるだろう。

 自動的に衝撃を削減する魔法障壁を身に纏っているようだし、攻撃を当て続ければいずれ魔力は尽きるはずだ。

 問題は、どのくらい攻撃を続けなければ良いか分からない点と。

 

「――――ッ!」

 

 声にならない笑い声。胸を張り、天を仰ぐ咆哮。

 その異質な音を発するこいつが大人しくしているはずもない。

 つまりは無理やり抑え込む必要がある訳なんだけど。

 

「……さて。どうしたもんか」

 

 背筋を冷や汗が伝う。

 ドラゴンや上位魔族をはるかに超える、正に英雄達のようなバカでかい魔力量。

 こいつを取り押さえるとなると、戦力が足りない。

 俺は元より、サウレ達でも時間を稼ぐのがやっとだろう。

 どうあがいても現戦力では勝利への最低条件を満たせない。

 となれば、逃げるしか手が無いんだが。

 

「そういう訳にもいかないからなぁ」

 

 大きなため息をつく。

 俺たちがこの場を去れば、こいつは何をしでかすか分からない。

 これだけの戦力ともなればフリドールが半日経たずに壊滅するだろう。

 であれば、誰かの介入を期待しながら時間を稼ぐしかない訳だが。

 

「……さてさて。どの程度時間を稼げるかだ、な!」

 

 開戦の合図。鋼鉄玉を巻き散らし、粘着玉を打ち込み。そして全員に指示を出す。

 

「クレア! 可能な限り引きつけろ! サウレとジュレはあの翼を削れ! 魔力放出が減るかもしれない!」

「私はライさんを守りますね!」

「頼んだ! 一撃喰らったら死ぬからな、俺!」

 

 情けないことを叫びながら、次々と罠を仕掛けていく。

 だが。敵は数々の罠を意に介さず、避ける気配すらない。

 割けた三日月のような笑みを浮かべて、ゆっくりと俺に向かって歩いてくる。

 その姿は、正に悪魔だ。

 

「こんの……ヤンデレストーカーめぇっ!」

 

 気合一閃。アルが大上段から両手剣を振り下ろす。

 しかしそれも、大鎌で容易く受け止められた。

 背後からサウレとジュレが魔法を撃ち続けているが効果は見られない。

 ただジワジワと距離が詰まっていくだけだ。

 

「くそ、かなりまずいなこれ……」

 

 一点特化の性能であれば戦略を練れば勝てる可能性があるのだが、こいつは違う。

 ただ単純に強い。シンプルに戦闘能力の桁が違う。

 小細工しようにも通用せず、こちらの最大戦力をぶつけてもびくともしない。

 膠着した戦況。アルの両手剣とルミィの大鎌が激しくぶつかり合う、そんな中で。

 

 一条の赤い光が空間を薙いだ。

 

灰燼(かいじん)と成り果てろ! 紅蓮の太刀、弐式!」

 

 サウレと同じくらい小さな体躯。しかし、彼女の攻撃力は誰よりも知っている。

 赤い髪を炎のように揺らし、残像すら残さぬ勢いで両手剣が振るわれる。

 刹那、爆発。

 その威力は敵の大鎌を弾き、余波で地面を大きく抉りながらルミィを後退させた。

 

「ミルハ! 起きたのか!」

「よく分かんないけど、私は何したら良いっ!?」

「そのまま攻撃して魔力を削ってくれ!」

「りょーかいっ! いつも通りだねっ!」

 

 獰猛に笑う、獣の王女。軽々と振りまわされる両手剣は敵に触れるたびに爆発を起こし、徐々に後退させていく。

 しかし敵も黙って攻撃を受け続けるはずがない。

 強引に振るわれた鋭い大鎌の一撃が迫る、その最中で。

 ミルハはニヤリと笑みを浮かべた。

 

「カイトォッ!」

「せぇい!」

 

 信頼の念を込めて名前を呼ばれた「竜の牙」のリーダーが二人の間に割り込んだ。

 辺り一面に響き渡る轟音。金属同士がぶつかり合い火花を散らす。

 巨大な大盾で受けたにも関わらず、彼の両足は地面にめり込んでいた。

 それ程の攻撃を受けておきながら、しかし当の本人は平然と足を引き抜き、再度盾を構えて突進する。

 

「良くは分からんが! ルミィを返してもらうぞ!」

 

 視認が困難なほど速い大鎌の攻撃を全て受け切りながら、カイトが雄々しく叫ぶ。

 その姿は頼もしく、さすがは一流パーティ「竜の牙」とリーダーだと思えた。

 

 最強の剣、最強の盾。その二人が揃い、戦況は打開されていく。

 ミルハの作り出した隙にアルが重い一撃を叩き込み、敵の致命の一撃をカイトが受け止め、背後からサウレとジュレが魔法を撃ちこんでいく。

 激しい乱戦。激音が鳴りやまない。しかし、戦いになっている。

 このまま引き延ばせばいずれルミィの魔力が尽きるだろう。

 

 だが、足りない。

 魔力の消費量から見て、こちらが先に底を着く。

 持って数分。その間に打開策を考える必要があるが、最強格の二人が揃っていても尚、手が足りない。

 それはみんなも理解しているようで、苦しそうな表情を浮かべながらも全力で立ち回っている。

 

「くそっ! まだか!」

 

 俺も精一杯の援護を行うが焼け石に水。

 優勢に見えた戦況もじわじわと押し返されていく。

 

「――――ッ!!」

「こんのぉっ! たおれろっ!」

「ぬおおぉっ!」

 

 ルミィが嗤う。ミルハが叫ぶ。カイトが吠える。

 死力を尽くした戦闘はしかし、次の瞬間に不意に終わりを迎えた。

 カイトが受けた大鎌の一撃。しかし込められた威力は今までよりも強く、盾ごと弾き飛ばされてしまう。

 その隙に振り回された凶刃がミルハとアルを襲い、揃って吹き飛ばされた。

 俺の目の前には、狂笑。

 そこに味方の姿はなく、そして。

 灰色の曇天に紛れるように振り上げられた大鎌。

 闇色で作られたそれは光を反射する事も無く。

 

 何故かゆっくりと見える景色の中で、大鎌は俺の腹を深々と切り裂いた。

 

「――カハッ!」

 

 衝撃。痛みより熱さを感じる。血が飛び散り、その向こうで笑っているルミィの姿がやけに鮮明に見えた。

 身体から力が抜け、その場に崩れるように座り込む。

 

「……ライっ!」

「ライさん!」

 

 サウレとジュレが駆け寄ろうとしているが、ルミィの攻撃に邪魔されこちらに辿り着くことはできない。

 

 あー……これ、まずいかもな。ギリギリ骨は大丈夫だけど、動いたら中身出るわ。

 痛みは我慢できるけど、どうにも動けそうにない。

 万事休す。絶体絶命。チェックメイト。

 死ぬ前に何か反撃してやりたいところだけど、有効打を与えられる手札が無い。

 

 しかしまぁ、代わりに希望が見えた。

 これなら勝てるであろう、最強の切り札が。

 意識ははっきりしているのに、腹に空いた穴のせいでロクに喋ることすら出来ない。指示を出す何で論外だ。

 だから、最後の力を振り絞って、右手を上げた。

 

「……すまん。後は任せた」

「お疲れ様」

 

 ハイタッチ。

 数秒前に転移魔法で現れた彼女には強気に笑い、そして敵を見据える。

 さぁ、これで終わりだ。俺の役目は達成された。

 ネーヴェさんがいる以上、こいつに連絡がいかない訳が無い。

 だからこそ、時間を稼ぐ必要があったのだが……どうやら間に合ってくれたようだ。

 

「キョウスケさんも来ているから。治療はそっちに任せるとして」

 

 黒髪をなびかせ、桜色を纏う小柄な少女。

 腰のホルダーから二丁の拳銃を引き抜くと、鋭い動きでルミィに突き付ける。

 

「化け物狩りは久しぶりだ。派手に踊ろうか」

 

 救国の英雄オウカ・サカード。

 かつて魔王を打倒した史上最強の町娘は、取り乱す事なく不敵に笑っていた。

 

 舞台劇の終わりは、もうすぐそこだ。

 

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